何も考えず支配されることの安寧を求めて(山田孝之)
気付きは精神の重要な要素である。
ほとんどの人間は記憶のない混沌とした意識のまどろみの中で・・・幼児期を過ごす。
脳神経のすさまじい成長の過程で・・・環境から言語化された情報が流入し・・・模倣による発生から道具としての言語の使用期に至る。
そして・・・ある日、突然・・・言語化された自分という存在に気がつくのである。
その日から・・・それぞれの人生が始ることになる。
自分と・・・それ以外の世界の境界線は・・・曖昧なままに幼年期は終了する。
自分と世界の衝突と融和の中で人々は性格を育成する。
世界を認識することで・・・自分が再認識され・・・再認識された自分によって世界が再構築されていく。
家から街へ・・・街から国へ・・・国から地球へ・・・地球から・・・宇宙へ・・・宇宙から時空間へ・・・拡大する世界に目くるめきながら・・・自分の・・・はかなさに気がつく。
人は何かに気が付く度に・・・何かを得て・・・何かを失う存在と言えるだろう。
目の前に素晴らしいものがあると気がついた人間は・・・それを手に入れるために・・・何か大切なものを失うのがバランスというものである。
それは・・・お金だったり・・・時には生命そのものだったりする。
自分を失った時・・・人がそれに気がつくことはない。
で、『闇金ウシジマくん Season3・第5回』(TBSテレビ201608240128~)原作・真鍋昌平、脚本・福間正浩(他)、演出・山口雅俊を見た。共同体の勝利が共同体に属する個体の優位性を深めることは自明の理である。しかし、共同体内部の階級闘争において共同体の勝利による不利益を被るものは共同体の勝利を必ずしも望まない。共同体と共同体の抗争が必ずしも勝利を得られるものでない以上、抗争を回避するのは重要な戦略の一つである。「素晴らしい世界」を目指す者は・・・愚か者であってはならない。目の前にある「平和」にとびつけば必ず何者かに支配されるのが・・・鉄則なのだから。
釣り針を口にした魚は釣りあげられるのが宿命・・・ということだ。
★「自他共栄」は闇金融「カウカウファイナンス」を営むウシジマくんこと・・・丑嶋馨(山田孝之)のデスクサイドに貼られたスローガンである。
☆ファッション雑誌「ノマド」の編集者である上原まゆみ(光宗薫)は人間の皮を着た悪魔である神堂大道(中村倫也)と婚約し・・・ついに婚約する。しかし、ある夜・・・ついに悪魔は仮面の裏の素顔を見せる。突然の神堂の暴力に驚愕するまゆみ。しかし・・・神堂は「すべて愛するゆえの行動」と自己正当化の言葉をまゆみに囁く。
婚約指輪をはめた指を瓶で殴打し・・・腫れあがった指を掴み痛みでまゆみを脅しながら・・・性行為におよんだ神堂は・・・ショックで我を失うまゆみの心に支配者としての楔を打ち込む。
「私はあなただけを愛しているのです・・・私に二度とこのような真似をさせないように・・・あなたも私を愛して下さい」
「・・・」
朝の光の中・・・下着姿のまゆみの負傷した指に包帯を巻く神堂。
「痛いですか・・・」
「鎮痛剤を飲んだので・・・大丈夫です」
まゆみの中で・・・神堂への恐怖・・・神堂への猜疑が渦巻く。
しかし・・・同時に神堂を選んでしまった自分自身への動揺も起こっている。
それは・・・逃走するべき時に・・・自らにそうさせない思考停止の状態へとまゆみを追い込んでいくのだった。
★・・・カウカウファイナンス営業中・・・
悪魔に見染められたまゆみとウシジマくんはゆっくりと邂逅の時を待つ。
ウシジマくんとは無関係だったまゆみの人生が・・・運命の糸で・・・底辺へと導かれていくからである。
小銭をつみあげて利息の返済をする顧客(松下いずみ)に柄崎(やべきょうすけ)が怒鳴る。
「足りねえじゃねえか」
「すいません」
「コサカイさん・・・あんた・・・来月の誕生日に年金支給が始るよな」とウシジマくん。
「はい」
「年金手帳をウチに預けたら追加融資してやるよ」
いろいろな意味で犯罪である。
十日で五割の利子で融資することがすでに犯罪なのである。
今日、一万円を借りれば・・・十日後には五千円の利子が発生する。
利子の返済が滞れば借金は雪だるま式に増えていくのだ。
三十日後には元金と利子をあわせて三万三千七百五十円。
四十日後には五万六百二十五円。
五十日後には七万五千九百三十七円五十銭。
六十日後には十一万三千九百六円二十五銭。
一万円のために二ヶ月後には十万円払う計算である。
十万円は百万円になり・・・百万円は一千万円となる。
一千万円は一億円である。
恐ろしいことです。
「ありがとうございます」
「じゃ、今回はジャンプ(利息支払いの先送り)してやるよ」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました」と受付嬢・エリカ(久松郁実)は珍しく後ろめたさを匂わせる。
「完全に社長のこと信じてますね」と高田(崎本大海)・・・。
「自分で考えるのが面倒なだけだろう・・・だがそうなったら御終いだ」
ウシジマくんは時々、いいことをいうが・・・悪人である。
☆男日照りの編集長(小嶋理恵)はまゆみのチェックミスを咎める。
そして・・・まゆみの指を見て・・・怪我の心配をするのではなく婚約指輪に目を留めるのだった。
「あなた・・・結婚するの」
用心深いまゆみは挙式の日程が決まるまでは職場で結婚のことを秘匿していたのだった。
まゆみの警戒心は・・・どこか方向がずれている。
同僚が「暴力男」の話をする。
暴力男は嫌だ・・・とまゆみは思う。
しかし・・・婚約破棄というのも自分の評価を下げる。
まゆみは身に迫る危険から・・・目をそらそうとする。
たとえ・・・瞑目しても・・・危険からは免れないと知っていても。
まゆみは・・・そうやって・・・なんとか生きてきた女だった。
★★結城恵美子(倖田李梨)は妻子持ちの情夫である亀井(仲俣雅章)に三万円を貢ぐ。自分が萎れた花であることを認めない女。
「もっと稼いで綺麗にならなくちゃ・・・」
恵美子の娘の美奈(佐々木心音)は母親との抱き合わせ売春に心を荒ませている。
「だから・・・もう・・・ママと一緒に売りはやらないよ」
母親の電話を一般とは別の意味で煩わしく感じる美奈だった。
街中で名前を呼ばれる美奈・・・。
「ミナ」
美奈を呼んだのは奇妙なファッションセンスの男だった。
「あんた誰・・・なんで私の名前を知ってんの?」
「俺は街にいるのが好き・・・お前が街でそう呼ばれたのを聞いた」
「・・・私・・・あんたなんか知らない」
「昔・・・俺はハケンだった・・・今は無職・・・今の俺には金がある・・・」
「どうして・・・」
「一発逆転したのさ」
「そんなの・・・興味ないわ」
おいしい話を警戒する美奈・・・。
「気が変わったら・・・連絡してくれ」
男は「K」と書かれたカードを美奈に手渡した。
★★★地域ボランティアの学びの場であるNPO法人「峠のやまびこ」に参加した生活保護受給者の小瀬(本多力)は代表(西洋亮)の指導で・・・学ぶために老人たちへの「無料靴磨き」という声かけを行う。
老人たちから詐偽者あつかいをうける中・・・千代(恩田恵美子)の家の雨どいを直したことがきっかけで・・・ゴミの整理などを手伝うようになる小瀬。
「あんた・・・よく働くから・・・」と千円を千代がくれた。
「この人だれ・・・」と胡散臭い目で小瀬を見る千代の娘(滝本ゆに)だったが・・・千代さんは小瀬を庇う。
「この人はいい人だよ」
小瀬は感激するのだった。
「あんた・・・行きたくなったらトイレに行っていいんだよ」
極度の過敏性腸症候群に悩んでいた小瀬の涙腺は崩壊する。
「こ・・・子供の頃から・・・両親は・・・ずっと厳しかった・・・勉強しろ・・・働け・・・我慢しろ・・・死んだ祖母ちゃんだけが・・・俺を庇ってくれた・・・千代さん・・・あなたは・・・俺の祖母ちゃんにそっくりだ」
それは・・・褒め言葉ではない可能性があります。
☆神堂はまゆみに「頼み」を切りだす。
神堂が経営するIT企業の株主になってもらいたい・・・それに先立って五百万円の融資を受けたいと言うのである。
つまり・・・五百万円を貸せと言うのだ。
本能的に危険を察知したまゆみは・・・母親の広子(武藤令子)に「相談」する。
「私・・・結婚を考え直そうと思って・・・」
「今さら・・・式場の手付もうったし・・・お父さんの面目丸つぶれよ」
「でも・・・私・・・神堂さんとは合わないと思うの」
「何言ってるの・・・あなたが神堂さんを支えなくてどうするの・・・」
母親の広子はすでに・・・神堂に誘惑されて性的関係を結んでいた。
神堂と娘の結婚が成立しない場合に・・・自分の身に降りかかる災厄の予感に震える広子だった。
自分が一番かわいい人間は・・・悪魔の大好物なのだ。
まゆみの父親・上原重則(名倉右喬)は上原家が悪魔に蝕まれていることには気がつかず・・・神堂から贈られたゴルフクラブを振るう。
★下総屋食堂の二代目(久保勝史)は今風のふわとろオムライスにデミグラスソースをかけようしてウシジマくんの逆鱗に触れる。
「ケチャップ持ってこい・・・これはちゃんとしたのにして」
「え・・・でも・・・」
「・・・」
「わ・・・わかりました」
「昔ながらのオムライスにケチャップ」は譲れないウシジマくんだった。
母親が「カウカウファイナンス」のライバル企業である闇金融「ライノー・ローン」の顧客である美奈はそうとは知らずに・・・同じ店で友人の沙希(寺田御子)と食事中だった。
元カレのJP(福山翔太)が少年院を出て街に舞い戻ったという噂に戦慄する美奈。
JPは中学生を使った管理売春中に・・・美人局におよび・・・顧客を暴行して確保された狂犬(DQN)だった。
「美奈のこと捜しまくってるって・・・」
「・・・」
☆まゆみの誕生祝いに店を予約したという神堂のメールが着信する。
暴力の後の謝罪。
典型的なDV男の言動と・・・「参考書」にも記されている。
しかし・・・そんなことを確認するまでもなく・・・神堂は・・・まともな人間ではないことが明白だった。
しかし・・・まゆみは迷うのである。
「まともな人間」がどういうものなのか・・・知らないからである。
差別を忌み嫌う社会は「悪魔」の温床でもあるのだ。
帰宅したまゆみを神堂が襲う。
甘い言葉で囁き・・・まゆみを性的快楽に導き・・・まゆみの排泄行為にまで関与しようとする神堂に・・・迷わされるまゆみの幼い精神・・・。
そこに・・・元カレのハシくんこと橋本(ジェントル)から着信がある。
豹変する神堂だった。
「どういうことです」
「貸していたお金を返してくれるというので・・・」
「いくらですか・・・」
「五万円です・・・」
「あの男に今までいくら貢いだのですか」
「・・・百万くらい」
「あなたには・・・男友達が多過ぎる・・・」
「・・・」
「関係性をこれからチェックしましょう・・・朝まで寝かせませんよ・・・最初の男」
「高校の同級生です」
「彼とセックスしましたか」
「してません」
「それじゃ・・・削除しましょうね」
「・・・」
「こっちを見るな」
まゆみは恐ろしさに身が竦む・・・。
★「一致協力」もまたカウカウファイナンスのスローガンである。幼馴染の情報屋・戌亥(綾野剛)が来店中だ。
高級腕時計を持ちこんだ後妻業の女は「百万円」の融資を申し込むがウシジマくんは「五十万円」という限度額を提示。
「後妻業ってなんですか」と受付嬢・エリカは素朴な疑問。
「金持ちの老人の遺産狙いの女だよ」と高田。
「保険金かけてあの世に送りだしたりして」と柄崎。
「公正証書で・・・遺言を書かせることが大事だね・・・」と戌亥。
「下手に手を出したら・・・一番疑われるのは自分だしな」と柄崎。
「一番性質(タチ)が悪いのは・・・自分では手を汚さない奴さ」とウシジマくん。
ウシジマくんは時々、いいことをいうが・・・悪人である。
☆悪魔である神堂は・・・大麻の常習者であり・・・まゆみの妹のみゆき(今野鮎莉)の夫であるカズヤ(板橋駿谷)も支配下に置いている。
神堂は・・・カズヤを唆し・・・ハシくんに暴行させる。
「お義兄さんというものがあるというのに・・・お義姉さんに手をだすなんて・・・とんでもねえやつだ」
「彼には資産家の両親がいます・・・まゆみさんから彼が騙し取った二百万円は・・・親に返済してもらいましょう」
「しかし・・・あいつ・・・警察に密告したりしないでしょうね」
「さあ・・・いずれにしろ・・・私は指一本触れていませんし・・・」
「またまた・・・兄貴ったらあ・・・冗談ばかり・・・」
しかし・・・神堂の目は最初から最後まで笑わない。
そこには地獄の炎が燃えているだけだ。
★★★カウカウファイナンスの常連客の川崎(ムートン伊藤)は「上司のセクハラ」の相談に来た部下の真帆(木乃江祐希)を酔わせて暴行しようとして逮捕された。
「まったく・・・ああいう女の人権を認めず性的な対象としかみない男は許せん」と柄崎。
「また・・・変な言動を・・・」と高田。
「私に気があるんですか」とエリカ。
「えええ」
「客が何をしようが・・・俺たちには関係ねえ」と嘯くウシジマくんである。
★★美奈はJPがホストの大賀を襲う夢を見る。
★まゆみは・・・最後の頼みの綱である・・・占い師の勅使川原(三田真央)に電話をする。
「先生・・・私・・・」
「大丈夫よ・・・彼はあなたの運命の人・・・彼の暴力は愛の証よ・・・あなたは彼によって最高の幸福を与えられるでしょう・・・」
「・・・ありがとう・・・先生」
そもそも・・・魔女は・・・悪魔の僕と相場が決まっているのである。
人間の粗暴な振る舞いを悪しき情報の氾濫に帰する者たちは・・・この世に紛れ込む魔性の存在をまず疑うべきである。
その者たちには・・・魔性に囁かれ魔女狩りを始める危険性があるのだ。
五輪は終わり金は金でも闇金の季節である。
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