キッドナップ・ツアー(豊嶋花)ろくでもない大人になっても人のせいにはしないこと(妻夫木聡)お前が言うな(木南晴夏)
ドラマ「時をかける少女」が全5話で駆け抜けていったので・・・土曜日の谷間である。
貴重な谷間なんだな。
男女雇用機会均等法が産んだらしい「ノンママ白書」がちょうど始ったのだが・・・「最後から二番目の恋」の水野祥子(渡辺真起子)が葉山佳代子という役名で出ているようなドラマだったという印象しか残らないのだった。
男女雇用機会均等法と少子化問題の関連についてはもう語り尽くした気がするんだなあ。
まあ・・・ママになるのもならないのも・・・自己責任だよねえ。
人類百万年の歴史はもうしばらくは続いて行くし・・・子を生さずに死んだ女なんて掃いて捨てるほどいただろうしねえ。
運命・・・と言ってもいいけどね。
親はなくても子は育つしね。
で、『夏休みドラマ・キッドナップ・ツアー』(NHK総合201608020730~)原作・角田光代、脚本・演出・岸善幸を見た。小学5年生のクールな女の子・ハルを演じるのは「梅ちゃん先生」「あまちゃん」「ごちそうさん」などの連続テレビ小説の子役でおなじみの豊嶋花(9)である。心の声としてナレーションも務め・・・実質的な主役である。父親・タカシを演じるのが妻夫木聡(35)で・・・何も言わなくてもわかるダメ人間ぶりが微笑ましい。なんだろう・・・このイケメンなのに必ずダメ人間役的な流れは・・・ある意味・・・男たちの願望の表出なのか。妻夫木聡にはダメ人間であってほしいみたいな・・・。
まあ・・・イケメンとして甘やかされたらダメ人間になるだろう・・・みたいな。
明らかに偏見である。
小学校の終業式が終わり・・・下校するハルとクラスメートのさゆり(遠藤璃菜)とさや(渋谷そら)・・・。
ハルは「ごちそうさん」のめ以子(杏)の幼少期・・・。
さゆりは「探偵の探偵」の玲奈(北川景子)の幼少期・・・。
さやは「サマーレスキュー〜天空の診療所〜」の遥(尾野真千子)の幼少期・・・。
つまり・・・杏と北川景子と尾野真千子のスリーショットである・・・ちがうぞ。
ハルにとっては「憂鬱な夏休み」の始りなのだが・・・。
さゆりは・・・「ハワイよりパリに行きたいのだが・・・今年の家族旅行はハワイ」なのである。
さやは「塾の合宿が二つもきまっている」というハードスケジュールだ。
ハルは「夏休みのはっきりした予定はまだない」と言葉を濁すのだった。
ハルの心の拠り所は・・・母親のキョウコ(木南晴夏)の妹で近所で一人暮らしをしているゆうこ叔母さん(夏帆)である。
ハルはいつも「ゆうこちゃん」とコンシューマ・ゲームをプレイして心の憂さを晴らしいるのだ。
しかし・・・「ゆうこちゃんの家」には見知らぬ男がいた・・・。
バイト先の「ピザ屋」で知り合った男と今日から同棲を始めるのだという。
「お姉ちゃんには秘密よ・・・ややこしいことになるから・・・」
「・・・ハリネズミみたいな人がタイプなの」
「出会いは奇跡なのよ」
「お姉ちゃんの彼氏っていつもダサめだよね・・・これもスタッフの願望なのかしら」
「かもね」
これから・・・夏休みだというのに・・・「ゆうこちゃんの家」で「お邪魔虫」になってしまうことを予感するハルだった・・・。
母親のキョウコはハルを残し買い物に出かける。
ハルは母親の選ぶ地味な子供服よりも・・・「ゆうこちゃんのパイナップル柄のシャツ」に憧れる年頃だった・・・。
仕方なく・・・近所の公園に出かけるハルに・・・黒い車が忍びよる。
「家まで送るよ・・・乗っていかないか」
今時・・・恐ろしい描写だが・・・ハルは誘われるまま・・・車に乗り込むのだった。
「この車どうしたの・・・」
「・・・もらった」
「どこへいくの」
「ミルピスのスマートアイスでも食べる」
「安上がりね・・・お父さん」
「誘拐されたくせに・・・生意気だぞ」
タカシとキョウコは別居して二ヶ月である。
ハルは思い出す・・・キッチンで食器の割れる音がして・・・「やってられないわ」というキョウコの罵声・・・母親が不貞寝したので・・・ハルが様子を見に行くと・・・父親のタカシはキッチンの片隅でシクシクと泣いているのだった。
男女雇用機会均等法の成果かっ。
ハルが憂鬱なのは・・・夏休みに・・・家族旅行の思い出が作れないことが決定しているからなのである。
だが・・・呑気なタカシは・・・ファミリーレストランでハンバーグを注文するのだった。
「じゃあ・・・あんたのお母さんと・・・取引の話をしなくちゃな・・・」
誘拐犯気どりで・・・キョウコに電話をするタカシである。
ハルは呆れながら巨大な海老フライを頬張るのだ。
「身代金とれそうなの」
「お金は・・・さすがになあ・・・」
「これから・・・どうするの」
「車を返しに行く」
「もらったんじゃなかったの・・・」
「・・・」
具体的には・・・全く描写がないのに・・・すごくダメ人間であることが明らかなタカシだった。
なにしろ・・・子供と一緒に夏休みなのである。
車は物騒な夏の森の中を抜けていく。
今時、恐ろしい描写の連続だが・・・二人を出迎えるのは丹沢で釣り堀を経営している男・神林(新井浩文)なのだった。
いきなり・・・ハルを連写する神林・・・。
父親が娘を変態に売却の構図である。
しかし・・・神林はタカシの古い友人らしかった。
「お父さんは言わないだろうけど・・・僕はお父さんに助けられたことがあるんだ」
「・・・」
「僕は・・・赤ちゃんだった頃のハルさんに会ったことがあるんだよ・・・覚えていないだろうけど・・・」
「・・・」
「お土産にクッキーを買って行ったら・・・離乳食もまだだって笑われたんだ」
「ああ・・・クッキー事件な」
しかし・・・ハルにはぼんやりと記憶があった。
子供にもなつかしい記憶はある。
しかし・・・それは・・・言葉にはならないし・・・イメージにもならない・・・。
ぼんやりとした感覚としての記憶。
ハルにはそれが「暖かいムード」として感じられる。
ハルには・・・タカシよりも神林の方がずっとマシな大人に感じられる。
二人は丹沢の最寄り駅まで・・・神林に送ってもらう。
「ハル・・・背が伸びたか」
「別居して二ヶ月だもの・・・そんなに伸びてないよ」
「どこか・・・行きたいところはないか」
「じゃ・・・デパート」
「デパート・・・は苦手だな・・・」
タカシには経済力がないのである・・・まあ、最初からわかっていたことだがな。
鉄道に乗って丹沢から伊豆下田方面に移動したタカシとハルの父娘。
タカシは・・・駅前で・・・ハルのために水着を買うのだった。
子供にとって特別な思い出・・・それは親にとっても特別な思い出だ。
どちらの思い出もなければ・・・それはとても寂しいことのようにも思える。
だが・・・そういうことはよくあることなのだ。
子供を作らない大人もいるし・・・子供を捨てる大人もいるからである。
どんなにクールな子供も・・・可愛い水着を買ってもらうことは嬉しいことだ・・・だが・・・そういうことがつかの間の幸せにすぎないということを察することもできる。
同じ旅館にはハルと同じ年頃の娘がいる親子連れがいる。
羨ましげに親子連れを見つめるハル。
何故か・・・ハルを睨む娘・・・。
こにタカシがやってくる。
「どうした・・・」
「いいよねえ・・・みんなで海水浴だよ・・・私なんか・・・誘拐されてるんだもん・・・大違いだよ」
「・・・」
しかし・・・海にやってくると・・・子供らしいときめきに胸躍るハルだった。
「海だ~・・・海だ~!」
タカシはビールを飲んで寝そべるが・・・水際で波と戯れテンションのあがるハル・・・。
砂浜で休憩していると・・・家族連れの娘がやってくる。
「私・・・ちず・・・変な名前でしょう」」
「私・・・ハル」
「あの人・・・お父さん・・・?」
「ううん・・・親戚のおじさんだよ・・・私の両親・・・忙しくて」
「お父さんとお母さんの仲はいいの?」
「・・・うん」
「うちの両親は喧嘩ばかり・・・離婚届って見たことある?」
「え・・・」
「私は見たことある・・・ゴミ箱に捨ててあった・・・」
「・・・」
「ハルちゃんて勉強できるの?」
「あんまり・・・」
「よかった・・・私できるんだ・・・」
「え」
「私にもいいところないとね・・・」
「・・・」
「明日もいるんでしょう・・・住所教えあって・・・友達になろうよ」
「うん」
プリント柄のスカート付水着を着たもの同志の奇妙な友情が芽生えたらしい。
ちずを演じるのは原涼子で「レッドクロス〜女たちの赤紙〜」の天野希代(松嶋菜々子)の幼少期を演じた子役である。
・・・集めてきたな。
夕飯を終えてくつろぐハルとタカシ。
「泳ぎに行こうか」
「え・・・夜だよ」
「夜の海は楽しいぜ」
危険である。遊泳は禁止である。
タカシは芯からダメ人間なのだ。
暗い海に足がすくむハルだが・・・タカシはどんどん沖へ進む。
遊泳というよりは入水である。
「冷たいよ・・・これじゃ・・・児童虐待だよ」
タカシはハルを仰向けに浮かせる。
「ほら・・・あったかいだろう」
「うん」
父娘は星空を見上げた。
しかし・・・翌朝・・・急に出発すると言い出すタカシ。
「もう一日・・・海で泳ごうよ」
「行きたいところがあるんだ」
ハルはちずの部屋を訪ねるが・・・すでに家族は海に出たらしい。
嘘をついたままちずと別れることに鬱屈するハル。
その苛立ちは駅前で爆発する。
「誰か助けてください」
「え・・・」
たちまちかけつける優秀な静岡県警である。
小学生誘拐の容疑で逮捕されるタカシだった。
警察署で婦人警官にジュースを勧められるハル。
「あの人に何かされたのかな・・・?」
優しく問いつめられて・・・思わず泣きだすハルだった。
タカシは解放された。
「残念だった・・・」
「え」
「カツ丼も親子丼も出なかった・・・」
「私はジュースをもらったよ」
「そっちは被害者だもの・・・俺なんか犯人だぜ」
一杯の冷やし中華を分け合って食べ・・・美しい虹も見る二人。
タカシの行きたい場所は・・・キャンプ場だった。
バーベキューがしたかったらしい。
しかし・・・満足に火を起こせないタカシである。
「ハルが着火剤ケチるから・・・」
「私のせい・・・」
「ちょっと・・・電話してくる」
といいながら・・・ビールを買ってくるタカシだった。
火はハルが火吹き竹で見事に起こす。
「こんなところでビール買ったら高いのに・・・」
「俺は・・・何をやらせてもダメな男だな」
「しょうがないよ・・・ところでテントはどうするの」
「テントは俺にまかせろ」
しかし・・・山林に捨ててあるテントを拾ってくるタカシだった。
テントは屋根に穴があいていた。
ハルは流れ星を見た。
まあ・・・ものすごく蚊に刺されるよね。
二人は雨に降られた・・・。
たどり着いたのはお寺である。
「お寺に泊まるの?」
「宿坊って言ってな・・・リーズナブルなんだ」
しかし・・・現れた寺の内儀の清江(八千草薫)は・・・「二年前から宿坊をやめている」と言う。
「えええええ」
二人の窮状を見てとった清江は一泊千二百円で二人を泊めると言い・・・握り飯もサービスしてくれるのだった。
「どうして・・・宿坊をやめてしまったのですか」
「ちょっと・・・変な噂が立ってしまって・・・」
「・・・」
「五年ほど前のことでしょうか・・・その頃は・・・たくさんのお客さんで賑わっていたのです。ところが・・・ある夜・・・一人の女の人が夜中にやってきて・・・知り合いが泊まっているので泊めてほしいと言うのです・・・それで・・・部屋に招きいれると・・・寺内で眠っているお客さんの顔を順番に覗きはじめて・・・ふと気がつくと消えてしまったのです・・・こわいなこわいな」
「イナジュンですかっ」
思わずおもらししそうになるハルだった。
子供のようなタカシは「肝試ししよう」と言い出すのだった。
真夜中の墓場に連れ出されるハル。
「おい・・・あれ・・・」
思わず目を閉じるハル。
「大丈夫だから・・・目を開けてごらん」
そこには燐光を放ち・・・螢が乱舞しているのだった。
「これが・・・本当のホタルの墓だ」
「だじゃれかよっ」
ついに・・・キョウコとの取引が終了したと告げるタカシ。
「だから・・・家まで送って行くよ・・・」
「・・・」
「ただ一つ問題なのは・・・もう・・・交通費がなくなっちゃった」
「えええええ」
徒歩で帰還の旅に出る父娘だった。
ハルは靴擦れで歩行困難になる。
タカシはハルをおんぶした。
「重くなったじゃないか・・・」
「失礼ね・・・」
夜通し歩いたタカシは・・・早朝・・・一軒の家に到着する。
「この家に住んでいる佐々木からお金を借りる」
「まだ・・・朝早いよ」
「大丈夫・・・佐々木は早起き人間だ」
猫を三匹飼っている佐々木(ムロツヨシ)はのりちゃん(満島ひかり)と暮らしている。
疲れきったタカシはソファで爆睡である。
「相変わらずね・・・」というのりちゃん。
「すみません・・・」
「ちがうわ・・・悪い意味じゃないのよ・・・タカシは相変わらず素敵だなって思って」
「え」
「私・・・タカシの元カノだから・・・」
「えええええ」
「あなたも・・・タカシに似ているわね・・・素敵よ」
「ちょっと嫌な感じです」
ハルは思う。
もしも・・・タカシがのりちゃんと結婚していたら・・・。
自分は生まれてこなかったのだということを。
それはなんだか・・・不思議なことだった。
ホームタウンに向う電車の中で・・・タカシとの別れがつらくなってくるハル。
「逃げようよ・・・私・・・貯金あるし・・・」
「もう誘拐ごっこは終わりだよ」
「私きっと・・・ろくでもない人間になるよ・・・人に期待させといて裏切ってばかりのあんたのせいで・・・」
「俺は確かにろくでもない人間だ・・・でもそれを誰かのせいにしたことは一度もない・・・ハルもろくでもない人間になるかもしれないが・・・それを人のせいにするのはカッコ悪いぜ」
「・・・」
お茶の間では・・・それが父親の言う言葉かと怒号が飛び交うが・・・まあ、ダメ人間なんで許容範囲なんだな。
タカシの血を引くハルは納得したようである。
改札口で二人は別れた。
「また・・・誘拐しにきてね」
タカシはサングラスをかけた。
きっと涙があふれてきたのだろう。
そして・・・ハルに向って大きく手をふるのだった。
ハルは・・・ダメな父親を愛しく思うのだった。
そして・・・その姿を胸にしまった。
すべての出来事は誰のせいでもない・・・なるべくしてそうなるにすぎないのだ。
それが宇宙の真理なのである。
8月28日(日)に再放送されるらしい・・・。
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