盲目のヨシノリ先生(加藤シゲアキ)この屍!(沢尻エリカ)光を失って心が見えた(小山慶一郎)
土曜日の谷間である。
以前も書いたが、二十年くらい前に中華料理屋で相席になった見知らぬ中年女性から話しかけられたことがある。
「息子が目が不自由なので・・・将来が心配だ」と言うのだ。
それは神からの創作のためのヒントであったろうが・・・悪魔なので無視するしかないわけである。
もちろん・・・それを面白おかしく描く自信はあったが・・・世の中が受け入れないだろう。
笑うことを許されない場合・・・悪魔は微笑むしかないのだった。
それから・・・二十年以上たってこのドラマを視聴したわけである。
「死んだ方がマシだ」と言う人を沢尻エリカが「この屍」と罵倒するわけである。
バカリズムの一人小芝居で「リア充であることを非リア充に告白する男」といった内容のものをお笑い番組で見たばかりだったので・・・「沢尻エリカに罵られるだけでリア充じゃねえか」と思ったわけである。
絶望することを許さない社会は優しい社会なのだろう・・・。
健康な身体障碍者の皆さんが競争するパラリンピックに栄光あれ!
で、『盲目のヨシノリ先生〜光を失って心が見えた〜』(日本テレビと20160827PM9~)原作・新井淑則、脚本・水橋文美江、演出・中島悟を見た。実話のドラマ化で・・・24時間テレビ39「愛は地球を救う」内に放映されたものである。不祥事を起こして逮捕された高畑裕太の出演シーンは代役の小山慶一郎が撮り直してオンエアに間に合わせたという。絶望の淵から・・・立ち直り・・・それでも生きていく人間は強く美しい生き物である。
秩父鉄道皆野駅に近い埼玉県武甲町(フィクション)に住む中学校の国語教師・新井淑則(加藤シゲアキ)は音楽教師の妻・真弓(沢尻エリカ)と小学生の美希など三人の子供に恵まれ・・・充実した日々を送っていた。
しかし・・・網膜剥離が発症し・・・全盲となり・・・教師の職を失ってしまう。
「希望は愛でできている」とヨシノリ先生に教えられた元教え子の緒ノ崎快(小瀧望)は「会いたくなったらいつでも来い」と言っていたヨシノリ先生に・・・生まれたばかりの子供を見せようと妻の優奈(田中美麗)とともに故郷の町に帰ってきた。
だが・・・希望を失い精神を失調したヨシノリは「すまない・・・オレはもう教師ではない」と弱音を吐く。
元の教え子が傷心して去った後で・・・優奈は・・・不甲斐ない夫に激怒するのだった。
「結婚おめでとう・・・とか・・・出産おめでとう・・・とか・・・言うべきでしょう」
「俺は・・・もう死にたいんだよう・・・お前にオレの気持ちがわかるもんか・・・世界が真っ暗なんだぞ」
「このシカバネ・・・私をものにしようとしたときの・・・あの情熱はどこにいったの」
「だから死にたいんだってばあ」
「じゃあ・・・一緒に死にましょう・・・子供たちも道連れにして・・・みんなで死にましょう」
「え・・・」
そこへ・・・ヨシノリの父親である則安(橋爪功)が・・・妻の洋子(高林由紀子)が作った煮物をもってやってくる。
「お恥ずかしいところをお見せして・・・」
「いや・・・息子のために・・・苦労をかけてすみません」
「私・・・うれしかったんです・・・無反応だったヨシノリさんに言い返されて」
「夫婦喧嘩は犬も食わないっていいますからねえ」
妻の罵声で気力を回復したヨシノリだったが・・・盲目の夫婦に経験談を聞きに出かけて・・・またふさぎ込む。
「整体師とか・・・鍼灸師とか・・・オレの天職は教師なのに」
「・・・」
「君だって・・・オレが熱血教師だから・・・好きって言ったじゃないか」
「・・・」
「オレはもう一度・・・あの日に帰りたいんだよ」
夫の教師への偏執をもてあました優奈は二人の結婚式で一人でモーニング娘。を歌い踊ったヨシノリの大学時代の先輩で埼玉県庁の福祉課に勤務する青井修平(小泉孝太郎)に相談する。
修平は知り合いで「弱視の高校教師」である宮城道雄(若林正恭)を新井家に送り込むのだった。
「お邪魔します・・・」
「あなたは・・・」
「私はほとんど目が見えませんが・・・高校で教壇に立ってます」
「本当ですか」
目の見えない二人は・・・急速に接近しうっかりキスをしてしまうのだった。
「キスしてしまいました」
「してしまいましたな」
「でも・・・先生は弱視で全盲ではないのでしょう」
「しかし・・・あきらめないという気持ちは同じです」
こうして・・・ヨシノリは・・・教壇に立つ日を夢見てリハリビを開始するのだった。
盲導犬のクロードとお見合いし・・・点字をマスターし・・・自力で通学できるようになることが第一関門だった。
リハリビの支援員が榊京太(小山慶一郎)である。
「命にかかわることなので・・・厳しく指導します」
京太は・・・ヨシノリをしごきあげる。
一方で・・・修平は・・・ヨシノリの復職を・・・教育委員会の益田(山中崇)にアピールする。
しかし・・・前例のないことに難色を示す益田である。
「生徒を助けるための先生が・・・人の手を借りるというのはどんなものでしょう」
「そういう先生がいてこその・・・バリアフリーじゃないですか」
一か月の合宿を経て盲導犬の使用許可証を得るヨシノリ。
「おめでとうございます・・・」
京太はヨシノリを激しく抱擁するのだった。
久しぶりに帰宅したヨシノリは長女の顔をなでる。
「美希・・・遠き山に日が落ちて・・・弾いてくれ」
難曲を弾く美希に励まされたヨシノリなのである。
小学四年生の美希はまだ「おやじうざい」とは言わないのだ。
真弓の母親の弓子(風吹ジュン)を案じる。
「大丈夫かい」
「私・・・うれしいの・・・ヨシノリさんがやる気だしてくれて」
「でも・・・教師に戻るのは無理なんじゃ・・・」
「いいのよ・・・希望があれば」
全盲の教師というシステムを確立するために県立の養護学校で試行錯誤を行うことになるヨシノリ。
往復で五時間の道程を家族が同行するのが条件だった。
「私がやる」
ヨシノリの老父が名乗りを上げた。
溺愛する息子と肩を並べる老いた父・・・。
「お前・・・大きくなったなあ」
「父さんが小さくなったんじゃないか・・・見えないけど」
二人は美しい父と子になったのだった。
だが・・・教育委員会は動かない。
ヨシノリを支援する人々は・・・講演会を企画する。
ヨシノリが・・・身体障害者でありながら・・・教師を目指す・・・その意義を訴えるためである。
たまたま・・・講演を聴いた大澤慶子(神保美喜)が心を動かされた。
慶子は武甲町の大澤町長(中村梅雀)の妻だった。
大澤町長に召喚されるヨシノリ・・・。
「君はなぜ・・・そんなにしてまで・・・教師になりたいのかね」
「金八先生になりたかったのです」
「・・・」
ついに・・・道は開けたのだった。
補助教員と協力して・・・中学生たちの前に立つヨシノリ。
「ヨシノリ先生と呼んでくれ・・・イエ~イ」
中学生たちが暴力的でないことを祈るばかりである。
長若中学校の登校路・・・。
桜は咲き・・・鶯は鳴く。
ヨシノリはついに意地を貫いたのだった。
善意に満ちた世界・・・それは不可能を可能にする世界なのかもしれない。
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