趣味は不動産売買の仲介です(北川景子)おやすみのキス(仲村トオル)愛犬は見た(工藤阿須加)
「先生はサイコパスです」の名言を残したドラマ「悪夢ちゃん」から・・・心を見せない女の演技には定評のある北川景子である。
基本にあるのはクール・ビューティーだが・・・「モップガール」のように最高のドジッ子もできる演技力の幅が独特の魅力を醸しだすわけである。
つまり・・・クール・ビューティーの「意外な一面」がいつ出るのかというギャップ萌えへの期待感が隠し味になるのだ。
そういう・・・北川景子の「特性」を見事に捉えきった脚本の魅力が遺憾なく発揮されているわけである。
ダメ人間があふれるお茶の間では・・・相当にできる女は反感を買いやすい・・・しかし・・・それにもまして素晴らしいものへの「憧憬」もある。
「スター」というものは「ファン」とそういう駆け引きをしているものなのである。
他人をけなしてスッキリする気持ちより・・・ファイン・プレーにうっとりする方がストレートに心が和むのだ。
素晴らしいインターネットの世界に生い茂る罵詈雑言のジャングルを我らがヒロインは切り開いて雄姿を見せる。
かっこいいのである。
冷静から冷淡へ・・・冷淡から冷酷へ・・・そして極寒の女王へ・・・冷たさにも様々な段階があるが・・・どんな低温も演じられそうだよなあ。触れただけで凍てついてしまうような・・・フリージング・ビューティーも見てみたいものだ。
で、『家売るオンナ・第4回』(日本テレビ20160803PM10~)脚本・大石静、演出・佐久間紀佳を見た。営業不振でありながら現状に満足するテーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課を襲う・・・ゴジラのような営業チーフ・三軒家万智(北川景子)・・・その真意は誰も知らないとナレーター(中村啓子)は物語るのだが・・・さすがにゴジラと一緒に過ごすと心穏やかではいられない屋代課長(仲村トオル)以下の営業課一同である。何しろ、商売に従事するものにとって「売って売って売りまくる」ことほどの「正義」は他にないのだから。
本社の会議に出席中の屋代課長と三軒家・・・。三軒家は五期連続の売上ナンバーワンを記録し、「テーコー不動産の至宝」として表彰される。思わず・・・屋代課長も誇らしく想ってしまうのだが・・・本人はいつものポーカーフェイスなのだ。
一方・・・二人の留守を預かる最年長の布施誠(梶原善)は「今日も一日、交通事故には気をつけるように」と気の抜けた朝礼の挨拶中。
デスク・ワーカーの室田まどか(新木優子)は屋代課長からの一報を受ける。
「二位だ・・・営業成績第二位になっちゃった」
前期十三位からの大躍進だった。
「・・・といっても・・・三軒家チーフ一人のおかげだけどな・・・」とぼやく宅間剛太(本多力)・・・。
「この課の成績トップの座を奪われて穏やかじゃないでしょう」と嫌味を言う帰国子女の八戸大輔(鈴木裕樹)・・・。
「いえ・・・これでみんながやる気になったらいいことだと思います」と悪魔の笑顔を見せるマダムキラーの足立聡(千葉雄大)・・・。
「おやおや・・・上から目線ですか」
「いやねえ・・・ひがんじゃって」と戦力外の白州美加(イモトアヤコ)・・・。
「お前が言うか・・・このごくつぶしが」
「すみません」とシラスに代わって謝る・・・先月の売上がゼロの庭野聖司(工藤阿須加)である。
「まあなんだ・・・俺たちには関係ないよ・・・この課の成績が向上して・・・屋代課長が本社に栄転したら・・・新課長は・・・三軒家チーフなんだぜ・・・」と布施。
「・・・」蒼ざめる課員一同だった。
「十三位万歳じゃないか」・・・自分の怠惰を課内に蔓延させる布施だった。
本社からの帰路・・・高揚している課長である。
「社長から・・・南青山の七億円のマンション売るように言われちゃったよ」
「そのマンションは私が売ります」
「おいおい・・・簡単に言うなよ・・・七億円だぞ・・・俺もがんばるからさ」
「課長・・・私に売れない家はありません」
Olé!・・・である。
屋代課長には・・・切り札があった。
十七年前から親交のある・・・カリスマ料理研究家・沢木峰乃(かとうかず子)へ「七億円のマンションへの住み替え」を提案するのだ。
クッキングスクールの経営者でもある沢木に・・・十七年前、三億円の豪邸を売った実績のある屋代課長は・・・その後も投資用のマンションなどを沢木に買ってもらっていたのである。
「七億円のマンションね・・・」
「沢木様に相応しい物件です」
「考えてもいいけど・・・こちらからもお願いがあるの」
「?」
「今夜の婚活クッキングスクールに参加してちょうだい・・・急な欠員が出て・・・男女一名ずつ・・・員数合わせが必要なの」
「婚活・・・」
「あなた・・・まだ独身でしょう。女性は二十代から三十代まで・・・美人で上品な方をお願いね」
「はい・・・」
共に調理した料理で会食することで親睦を深める趣旨の婚活料理教室である。
屋代課長はまず・・・室田まどかに参加を打診するが「彼氏あり」なので拒絶されてしまう。
話を聞きつけたシラスが立候補するが・・・美人でも上品でもないので問題外なのだった。
そして・・・何故か・・・名乗りをあげる三軒家である。
「え・・・」
「私が婚活に参加します」
「君・・・結婚する気あるの・・・」
「あります・・・愛するパートナーをみつけて家族を持ちたいと思います」
「・・・」
三軒家は美人で上品なので承諾する屋代課長だった。
現地へ向かう交差点で・・・。
「何度か・・・婚活パーティーにも参加しています・・・私は・・・何故ダメなのでしょうか」
「いや・・・君は美人だし・・・でも近寄りがたいところがあるし・・・仕事はできるし・・・少し出来過ぎるし・・・」
「どうすればいいのでしょうか・・・」
「少し・・・人に優しくすれば・・・」
「優しくとは・・・」
一歩進みでる三軒家の積極性にたじろぐ屋代課長。
「とにかく・・・婚活パーティーに参加しても・・・家は売れないぞ・・・」
「承知しています」
屋代課長は・・・はじめて部下である三軒家からアドバイスを求められ・・・途方にくれたのであった。
婚活料理教室での三軒家の自己紹介。
「年齢は三十歳です・・・趣味は家を売ることです」
早くも三軒家の婚活の前途多難を感じる屋代課長だった。
フランス料理を見事に仕上げていく三軒家・・・。
美人で・・・料理上手で・・・無表情・・・。
参加者は三軒家の迫力に圧倒され・・・後退していくのである。
「もっとフレンドリーにしないと・・・」と気を揉む屋代課長である。
しかし・・・沢木先生は・・・三軒家を高く評価する。
「素晴らしい人を連れてきたわね・・・彼女は誰にも媚びない・・・料理も上手だし・・・自立している・・・気品があって・・・しかも美人だわ」
「自立というか・・・孤立していますが・・・」
フリータイムになっても・・・三軒家にアプローチする男性はゼロなのである。
三軒家は無表情に自分の手料理を食するのだった。
その頃・・・営業課一同は・・・行きつけのBAR「ちちんぷいぷい」へ・・・。
「三軒家チーフは・・・病院で待機する葬儀屋みたいですね」と毒を吐く足立王子だった。
「でも・・・三軒家チーフは・・・凄い人だと思います」と庭野。
「犬・・・三軒家チーフの犬」と毒づくシラス・・・。
「僕は・・・犬じゃありません」
今夜は・・・誰もが・・・酔いたいらしい・・・。
八方美人すぎてシラスにも優しくしてしまう足立黒王子・・・。
泥酔したシラスを持て余し・・・公園のベンチに遺棄するのだった。
そこで・・・シラスは・・・ホームレス風の男(渡辺哲)と意気投合するのである。
一方・・・「ちちんぷいぷい」のママ・珠城こころ(臼田あさ美)を相手に飲み続ける庭野。
「三軒家チーフに・・・大切なことを教わりました」
「へえ」
「僕の仕事は家を売ることなのです」
「そこからかよっ」
「三軒家チーフの家は豪邸なんですよ」
「どうして知ってるの」
「後をつけたんです」
「庭野ちゃん・・・恋をしているのね」
「恋?」
「ようし・・・おまじないをかけちゃうぞ」
「おまじない?」
ここから・・・S.E.(効果音)は庭野を弄び始める。
ちちーんぷいぷいちちんぷい・・・謎のBGM挿入である。
「庭野ちゃんは・・・三軒家チーフに会いにいきたくな~る」
「そんなあああああ」
一方・・・三軒家の婚活は完全な不首尾に終わる。
「今回は・・・優良物件がなかっただけだよ」
思わず・・・慰める屋代課長だった。
三軒家はいつもの無表情だが・・・どこか哀愁を感じさせる。
見事な演技だな・・・。
「・・・」
「飲み直そうか・・・なんちゃって」
「行きます」
「え」
酒場に向って前進を開始する三軒家だった。
ストレートを一息に飲み干す三軒家。
「同じものを・・・」
「酒も強いのか・・・」
仕方なく対抗する屋代課長だった。
泥酔する課長と・・・お酒を飲んでも無表情の三軒家・・・。
二人はタクシーに乗り込んだ。
「君は凄いよ・・・誰にも媚びない・・・そこへ行くと僕はダメだ・・・上にへつらい・・・下にへつらい・・・中途半端だ・・・」
「そんなことはありません・・・私は七年前・・・小さな不動産屋にいたときに・・・屋代課長に負けたことがあります。私が売りそこなったのは後にも先にもその時だけです」
「え・・・そんな話・・・初めて聞いた」
屋代課長の中で何かが蠢動したらしい。
「先に一人おります」
タクシーを降りようとした三軒家を呼びとめる屋代課長。
「三軒家くん・・・」
「はい・・・」
屋代課長は三軒家の唇を奪うと沈没するのだった。
唖然とする三軒家・・・。
二人のキスを庭野が見ていた。
タクシーの中で息を吹き返す屋代課長。
唇から漂う口紅の香りに我に帰るのだった。
「・・・え・・・・うそおおおおおお」
翌朝・・・エレベーター前で出会う屋代課長と庭野・・・。
庭野は思わず・・・屋代課長を睨むのだった。
「どうした・・・?」
「いえ・・・」
そこへいつもの扉こじ開け技で乗り込んでくる三軒家・・・。
気まずさ最高潮だが・・・三軒家は何事もなかったように無表情だった。
これほどまでに先の読めない三角関係も珍しい。
そもそも・・・これは三角関係なのかとどよめくお茶の間である。
いつになく緊張感の漂う職場・・・。
そこに乱入するジャージ姿の男・・・。
「あ・・・おじいちゃん」とシラス。
「家を売ってもらおうと思ってね」
「だから・・・アパートなら駅前の不動産屋に行かないと」
しかし・・・男の顔を見て無表情のまま顔色を変える三軒家だった。
本当に見事な演技だな。
足立の存在に気がついた男は説教を始める。
「君が足立か・・・酔っ払った女性を公園に放置するのは人として問題があるぞ」
「え・・・」
愛する足立のピンチにシラスは男を追いかえすのだった。
三軒家チーフは立ち上がりセールスに参入する。
「足立・・・」
「・・・」
「返事」
「はい」
「どういうことですか」
「わかりません」
「シラスミカ」
「はい」
「なぜ・・・お客様を追いかえしたのです」
「だって・・・ホームレスに家なんか売れませんよ」
「売れるかどうか・・・外見で判断できますか」
「そりゃ・・・」
「私たちの仕事は家を売ることです」
微かだが・・・婚活に失敗した怒りが・・・滲んでいる感じもする絶妙の激昂である。
「シラスミカ・・・私をお客様のところへ案内しなさい」
「え」
「庭野・・・ついてきなさい」
「はい」
公園に向う三人。
何故か・・・犬が吠えているのだった。
男を発見するシラス・・・。
「あそこに・・・」
ホームレスたちに混じって歓談する男・・・。
「待て」
おすわりする庭野だった。
「わん」と犬が吠えるのだった。
男に接近する三軒家・・・。
「先程は・・・部下が失礼しました」
「ほう・・・」
「富田様の御用命を伺いたいと参上しました」
「・・・」
「庭野」
あわててご主人様の元へ駆けつける愛犬・庭野である。
たちまち・・・始る接待の嵐。
「それにしても・・・あんた・・・場馴れしてるな」
「私・・・ホームレスだったことがありますので」
度肝を抜かれる庭野だった。
たちまち泥酔するシラス・・・。
「富士の高嶺にふる雪も・・・」
「あ、それ」
合いの手もロボットな三軒家だった。
「人生の最後に何を食べたい」と問う男。
「ロールケーキ」と答えるシラス。
「ミソラーメン」と答える庭野。
「炊きたての白米です」と答える三軒家。
「気に入った・・・家を探してもらおうか」
「おまかせください」
三軒家の態度にピンと来た足立は・・・検索していた。
「これは・・・」
男は・・・大手炊飯器メーカー「金太郎電機」の富田会長だった。
一方・・・屋代課長は・・・沢木先生に呼び出されていた。
「実はね・・・私、破産寸前なの」
「え」
「七億円のマンションなんて・・・買えないわ・・・財産をすべて処分しても・・・まだ三億円の負債があるの」
「では・・・この屋敷を売るおつもりですか」
「いくらになるかしら・・・」
「一億五千万円ほど・・・でしょうか」
「お願いするわ・・・」
「なんとか・・・一円でも高く売るように心がけます」
お得意様の没落に・・・心が痛む屋代課長である。
しかし・・・屋代課長の持ち帰った資料に注目する三軒家・・・。
「この家・・・私が売ります」
「え」
三軒家は・・・富田会長を・・・沢木先生の屋敷に案内するのだった。
「これが・・・君が売りたい家か・・・」
富士山が遠望できる高台の屋敷。
「セールスポイントは厨房にあります」
そこには・・・料理研究家として沢木先生が古民家から移設した昔ながらの竃(かまど)があった。
「おお・・・炊飯器を作り続けて半世紀・・・しかし・・・母ちゃんが竃で炊いてくれたごはんに勝るものはなかった・・・わしのソウル・フード(魂の食物)・・・」
(落・ち・た・・・)
確信する三軒家だった。
「三億円でいかがでしょう」
「買った」
契約成立である。
富田会長は迎えに来たリムジンに乗って去っていくのだった。
「最初から・・・知っていたのですか」
「資産家のリストおよびその立志伝を頭に叩き込んでおくのは不動産屋の常識です」
飼い犬は主人の雄姿を尻尾をふって仰ぎ見るのだった。
鳴り響くスパニッシュな喝采・・・。
かっこいいよ・・・三軒家チーフ・・・かっこいいよ・・・なのである。
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