夫を殺して妻が自殺した家(北川景子)僕が課長で課長が僕で(仲村トオル)愛人の手切れ金を狙え(千葉雄大)
一夫一婦制度のもとで経済力がある人間が配偶者以外の人間と性行為を行うことは・・・公序良俗に反する行為である。
経済力のない人間がそれを行うと犯罪の香りがする。
もちろん・・・すべての制度は・・・虚構であり・・・その善し悪しを決めるのは人間の主観に過ぎない。
精力の許す限り複数の人間と性的関係を結んで関係者一同が満足ならそれでいいのである。
「愛」についての脚本家の考え方は・・・基本的に・・・いろいろあって面白しなのであろう。
今回は・・・愛人女子が二人登場するし、本妻も登場し、男鰥夫や浮気な夫、そして母と娘が登場する。
どんな人間も性的結合の結果だし・・・誰がいいとか悪いとかでもない。
ただただ面白いのである。
このドラマが伝えるのは・・・人間はみんな面白いものだ・・・ということだ。
そういうドラマが面白くないわけがないのである。
で、『家売るオンナ・第6回』(日本テレビ20160817PM10~)脚本・大石静、演出・山田信義を見た。バブル時代を知るものは栄華のはかなさを氷河時代しか知らないものは底辺のはかなさを身に沁みつかせている・・・崩壊寸前の男社会である。男たちは男と生まれた特権の中で温く生きたいと願うのだが・・・彼女はそれを許さないのだ。彼女は家を売る獣、虎で狼でゴジラだ。登坂で伊調で土性だ。猛獣で怪獣で金メダルの三連打なのである。彼女の去った後には売却済みの札が残るばかりなのだった。
テーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課の営業チーフ・三軒家万智(北川景子)はまたしても家を売る。
しかし・・・顧客の顔を見たマダムキラーの足立聡(千葉雄大)はついに微笑みを消す。
「僕のお得意さんじゃないですか」
「足立が三ヶ月も放置していた茂野様が私のチラシを見て私から家を買ったのです」
「それにしたって・・・一言あっても」
だが・・・サンチーこと三軒家チーフにはそれ以上、足立にかける言葉はなかった。時間の無駄だからである。
「そうまでして・・・売上一位をとりたいのですか」
ついに負け惜しみを叫ぶ足立だった。
「どうした・・・何があった」と屋代課長(仲村トオル)・・・。
「足立が私の客をとったってそりゃもう大騒ぎ」とは言わない三軒家である。
険悪なムードの課内に・・・事務員の室田まどか(新木優子)が足立への来客を告げる。
「今日は・・・アポはないはずなのに・・・」
現れたのは顧客を装ったヘッドハンティングの営業マンだった。
「ファンクラブまであるというマダムキラーなあなたの営業手腕を高く評価しています・・・顧客名簿をもって・・・大手生命保険会社に転職なさいませんか・・・あなたの実力なら・・・年収の150~200パーセントアップが可能です」
「しばらく・・・考えさせて下さい」
揺れる黒王子・・・。
例によって本社からの特別命令として「物件」を受ける屋代課長。
「お買い得すぎる一千万円の物件だ」
「私が売ります」と珍しく名乗りをあげる白州美加(イモトアヤコ)・・・。
今回は・・・心理的瑕疵(キズもの)の事故物件である。
豪邸だが・・・寝室で浮気な夫を妻が刺殺、その後自殺したということで・・・遺族が一千万円で売りに出したのである。
「そんな家・・・売れませんよ」といつものシラスミカだった。
「そんな家に住む人間の気が知れないよな」と陰で反サンチー同盟を主導する腐臭の漂う布施誠(梶原善)・・・。
「人それぞれではないですか」と事故物件に住んでいる三軒家を気遣う庭野聖司(工藤阿須加)である。すでにサンチー信者なのである。
「その物件は・・・私が売ります」と三軒家が宣言するのだった。
布施に教唆された八戸(鈴木裕樹)は足立を反サンチー同盟に参画させようと目論む。
「さすがに・・・サンチーのアレはないよな」
「僕は・・・派閥は嫌いなので・・・」
「ちっ」
足立には足立のプライドがあるのだった。
その拠り所の一つが・・・社内報にも掲載された・・・老舗和菓子屋「みやざわ」の宮澤社長(東根作寿英)への三年前の本宅販売だった。社長夫人(田中美奈子)と幼い娘の幸せそうな三人家族に「素晴らしい家」を売ったことが足立の心に喜びをもたらしたらしい。
幼い頃に・・・父親に捨てられ母子家庭となった足立は・・・父親への怨みを・・・幸せな夫婦に家を売ったことで昇華していたらしい。これは・・・父親への怨みを朝ドラマにまで持ち込むあの脚本家へのアンチテーゼ的暗喩なのか。・・・おいおいっ。
しかし・・・久しぶりに来訪した宮澤社長は・・・息子の誕生を祝って作られた新作水ようかんのパッケージデザインを担当した奥平礼央奈(小野ゆり子)と愛人関係となり・・・店と自宅を結ぶ中間点に・・・愛人を住まわせるための三千万円の物件をオーダーするのだった。
家族を裏切って愛の途中下車を目指す宮沢社長は・・・足立の心の聖域を土足で踏みにじるのである。
来客にお茶を出したまどかは・・・スキャンダルを課内に報告する。
「宮澤社長と愛人がテーブルの下で手を握ってました」
「汚らわしい」と愛の夢を見るシラスミカは吐き捨てる。
「結婚相手より愛人の方が魅力的だっただけでしょう」とまどか。
「何故・・・愛人の味方を・・・」
「私の彼にも奥さんがいるからです」
「ええええええええええええ」
騒然となる課内。
「でも・・・彼はもうすぐ奥さんと別れるのです」
「男は・・・みんなそう言うんだ」と布施誠は遠い目をするのだった。
売上がゼロの続く庭野聖司(工藤阿須加)は一戸建てを半田さとみ(片岡富枝)とかおり(西慶子)の母娘に売ろうとしていた。
すでに内見が三回目だが・・・なかなか決断しない母子。
隣の家に誰が住んでいるかが気になると言い出すのである。
「どんな人なら・・・よろしいのでしょうか」
「それはもちろん・・・普通の人よ・・・」
普通の人なら大丈夫だろうと思う庭野だった。
「チーフ、家が売れそうです・・・隣の人が普通なら買ってくれるそうです」
「普通とはなんだ」
「え」
「私は普通か」
「チーフは少し・・・変わってますけど」
「私が隣人ならその家は売れないのか」
「・・・」
「だから庭野には家が売れないのだ」
だが・・・屋代課長が気になるのは・・・庭野が報告を課長にではなくチーフにするようになったことである。
上司としての存在意義が問われているのだった。
隣人の調査を開始した庭野は・・・隣の家の布川氏(小林隆)が花柄のワンピースを着用した男性であることに・・・驚愕するのだった。庭野的には女装する男性は普通ではないらしい。
事故物件の下見をした三軒家は・・・「現地販売」を提案する。
「しかし・・・台風が関東直撃コースに入ってるぞ」
タイムリーだったな。
「シラスミカ・・・来なさい」
「えええ・・・課長~」と屋代に救いを求めるシラスミカ。
「勉強になるよ~」とすでに三軒家の軍門に下っている屋代課長だった。
葛藤しながら・・・愛人のための物件を用意する足立王子。
しかし・・・愛人は物件の立地に抵抗を示す。
「店と自宅の中間点に・・・愛人を住まわせるなんて・・・それでは私は都合のいい女になってしまうじゃない」
「しかし・・・愛人という時点で・・・男に都合のいい女なのではありませんか」
「いいえ・・・不便でも私との愛のために遠回りをする・・・彼はそういう男よ」
「・・・」
愛という幻想は人それぞれにいろいろなのである。
現地販売の二人のもとへ・・・ひやかしの客が現れる。
「いやあ・・・こわいものみたさというか・・・幽霊屋敷探訪ですよね」
伊佐洋(村松利史)と信子(ふせえり)という明らかに変態的な夫婦だった。
「それに安さは魅力よねえ・・・」
だが・・・「状況」を克明に説明する三軒家の言葉に背筋が震えあがる伊佐夫妻とシラスミカだった。
シラスミカは・・・愛する足立への思いで恐怖を克服しようとする。
「実は私・・・足立さんとお付き合いしてるんです」
本人は・・・そう信じているらしい。
「庭野くんは・・・チーフのことを愛していますよ」
恋愛についての勘に自信があるシラスミカだった。
もちろん・・・どんな直感も自分自身については別なのである。
買い出し要員として陣中見舞に現れる宅間(本多力)だった。
「私は・・・仕事だけの女ってさびしいと思うんですよ」と語るシラスミカ。
「仕事ができないだけなのもさびしいけどな」と応じる宅間。
人の意見は聞き流すシラスミカである。
台風が上陸し・・・雷鳴響く嵐の夜・・・。
寝袋ツタンカーメン状態の三軒家を残しトイレに向うシラスミカ・・・。
ふりかえれば三軒家である。
「ひえええええええええ」
「私が先です」
もはや・・・名コンビの域に達しているサンチー&シラスミカなのだった。
翌日・・・都内の病院や葬儀社に三軒家が散布したチラシによって・・・まっしろな世界から看護師のみどり(小林きな子)がやってくる。
事故物件の由来を聞いても動じないみどり・・・。
「私はERのオペ看なので・・・死体なんて日常茶飯事です・・・一人や二人死んでいたってどうということはありません」
「しかし・・・怨念が・・・」とシラスミカ。
「怨念なんて生きていたって死んでいたってどこにでもあるものじゃないですか」
「では・・・一千万円でお買い上げいただけますか」
「はい」
即決である。
お盆ネタなんだな・・・死後の世界を信じなければ幽霊はこわくはないが・・・死後の世界を信じたとしても毎年、祖先の霊を迎えることに敬虔な思いを抱くのが人間というものだ。
「一千万円の物件は私が売りました」
チーフが課長に報告していると・・・宮澤夫人が足立を急襲する。
「あなた・・・私たち一家の幸せを祈っているなんて言っておきながら・・・愛人に家を売るなんてどういうつもり・・・私たちの幸せを壊して平気なの」
言葉を失う足立。
しかし・・・三軒家が足立に代わって応じるのだった。
「足立が家を売るのは宮澤様です・・・その家が何に使われるのかについては私たちの関与することではございません。まして・・・宮澤様の家庭については・・・宮澤様ご夫婦のプライベートな問題でございます」
「なんですって・・・きいいいいいいいいい」
浮気発覚によって愛人との別離を選択する宮澤氏。
件のマンションは愛人との手切れ金にするという。
しかし・・・愛人はそんなマンションに住む気はないと言い出すのである。
傷心の足立を庭野が誘うのだった。
行き先は・・・件の中華料理屋である。
「なぜ・・・こんな汚い店に・・・」
「餃子とビールがおいしいのです」
庭野にビールを注がれて思わず微笑む足立。
「ここは三軒家チーフの行きつけなんですよ」
「え」
水洗の音も高らかにトイレから三軒家が現れる。
「何しに来た?」
「餃子とビールと上司の説教をお願いします」
三軒家に餃子を勧める庭野だった。
「足立・・・家を売って家族を幸せにしたとうぬぼれ・・・愛人に家を売ったら家庭を壊すとウジウジする・・・庭野は庭野で・・・普通などというわけのわからない価値感について・・・ウジウジする」
「・・・」
「私たちの仕事は家を売ることだ」
「はいっ」
足立も陥落したらしい・・・。
庭野は隣の家を訪問した。
布川氏は・・・妻に先立たれた寡夫だった。
「生前は浮気三昧だったんですが・・・妻に死なれてみると・・・誰よりも彼女が愛おしくなって・・・彼女の遺品を身につけ・・・妻の愛したローズティーを愛飲するようになったのです」
「・・・」
庭野は・・・布川氏に・・・「好ましい普通さ」を感じるのだった。
庭野は半田母娘に・・・ローズティーを勧め・・・隣の家の住人の物語をする。
「優しい方なのね」
「優しい方です」
「この家に決めましょうか」と母。
「ローズティーも美味しいものね」と娘。
庭野はついに家を売った。
愛人ではなくなった奥平礼央奈に物件を紹介する足立。
「愛には値段はつけられませんが・・・不動産には資産価値があります」
「・・・」
「もらうものはもらっておくべきではないでしょうか」
「価値ある物件なのね」
「値上がりが期待できますよ」
「いただくわ」
足立も家を売った。
足立はヘッドハンティングの件を断った。
家を売る深みにはまったらしい。
夫を殺した妻が自殺した家。
妻を亡くした夫が一人暮らす家。
浮気が発覚して愛人を捨てる夫と妻と子供たちの家。
捨てられた女の得た家。
愛人が妻と別れると夢見る女の家。
どんな家にも罪はないのである。
まあ・・・家相とか風水とか言い出すと別だがな。
そういう回も見たいよね。
屋代課長は・・・取り壊される家を見守っていた。
偶然、通りかかる足立。
「課長・・・」
「この家は・・・俺が売ったんだ・・・経済的に苦しくなった顧客が・・・ローン返済に行き詰まり・・・結局、売却・・・更地になっちゃうのさ・・・」
「・・・」
自分が売った「物件」に勝手にロマンを感じる男たちだった。
そうでもしないと生きていけないタイプは存在する。
関連するキッドのブログ→第5話のレビュー
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コメント
今週も堪能いたしました。
・こころの焼きそばづくり(最初は足立の話を聞きつつ…ソースのあたりではもう聞いてない)
・三軒家が出てくる伏線として「→トイレ」の貼り紙
・カウンターに三軒家のギョーザの皿あり
・「女性誌も買ってきました」というのも占いへの伏線
・誰がメインゲストかサブゲストかわからない、今回もゲスト豪華篇(笑)。
・10年早い「ぷいぷい」をさらに10年早くやってもらった庭野のことを課長は知らない…しかも本当に暗示(魔法?)にかかって…
・ドアは取り替えないのか(~_~;とちょっと思った。
投稿: 幻灯機 | 2016年8月20日 (土) 11時50分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
今回、ちちんぷいぷい忘れてました。
焼きそばはすぐに食べました。
中華料理店では
「一年中冷やし中華やってます」
「お酢の使い過ぎ注意」
特に後者は二か所にあって・・・
三軒家の説教でクローズアップされるところが
一同爆笑ポイントでございます。
シラスとタクマはお似合いの二人ですよね。
月9に続くふせえり登場でパンサークロー頑張ってるなと
思いました。
ぷいぷいソングに続いてガツンの歌もほしかった・・・。
そういう意味で今回はヤキソバか・・・。
ふふふ・・・死後の世界を信じない人間は
お化け屋敷がちっともこわくなくて残念なのですな。
投稿: キッド | 2016年8月20日 (土) 12時53分