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2016年8月13日 (土)

あらゆる望みがみんな浄められている場所(向井理)転んだら必ず死ぬ呪い(木村文乃)丹沢大山ツェラ高原に死す(佐藤二朗)

宮澤賢治は西方浄土に並々ならぬ憧れを持っていた。

科学と仏教的信仰の境界線で・・・「西域」は賢治のロマンをかきたてたのである。

「インドラの網」では「華厳経」に深い関与がある幻想のツェラ高原で賢治の分身的な架空の考古学者・青木晃が「天空の子供たち」と交感する。

この世とあの世の狭間であるツェラ高原で大日如来(太陽神)の降臨に接した青木は・・・同時に天空にインドラ(雷神)の綱(ネットワーク)を見る。

雷に打たれ絶命する瞬間・・・この世の真の姿を見たと信じる青木。

それはこの世とあの世が断絶しておらず・・・すべての生命が繋がっているという信仰の輝きである。

「銀河鉄道の夜」に結晶する賢治の「透明な死への憧憬」が・・・「インドラの網」にも仄かに匂い立つのである。

で、『神の舌を持つ男・第6回』(TBSテレビ20160812PM10~)原案・堤幸彦、脚本・櫻井武晴、演出・伊藤雄介を見た。毛増村温泉郷という虚構空間を脱出した伝説の三助・朝永平助(火野正平)の孫である人間成分分析器・朝永蘭丸(向井理)、古物の行商人・甕棺墓光(木村文乃)、そして宮沢賢治の心象スケッチを諳んじる宮沢寛治(佐藤二朗)のトリオは現実空間に隣接する丹沢大山国定公園の丹沢大山温泉(フィクション)に到着する。例によってガス欠だが・・・温泉芸者ミヤビ(広末涼子)に逢いたい一心の蘭丸は甕棺墓くんの愛車から飛び降り温泉旅館へとダッシュする。

しかし・・・旅館に滞在しているはずのミヤビはすでに立ち去っていた。

「そんな・・・」

「男性のお迎えがあって・・・お急ぎの御様子でした」

女将(猫田直)の言葉に落胆する蘭丸。

すぐにでも・・・ミヤビを追いかけたいのだが・・・ガス欠である。

「そもそも・・・ミヤビの行き先が不明である」と寛治。

「大山こんにゃく美味しいよ」と甕棺墓くん。

「なぜ・・・一人で食べてお~る」

「だって一串税込216円もするのよ」

「ガソリン代に600円ほど残しておいたはずだが」

「何故か216円少なくなってるのよ」

「殴ってやりた~い」

仕方なく温泉街で聞き込みを始める蘭丸。

「この人知りませんか」と蘭丸描き下ろしイラストで訊ねるが・・・ミヤビとはあまり似ていないのだった。

主な町の住人は三人である。

土産物屋のマスノ(平田敦子)・・・。

「怪しげな男が写真を持ってミヤビという女性を捜していたわ」

怪しげな男(宅間孝行)を発見するが・・・男は共同浴場に入り中から鍵をかけてしまう。

マスノは「モラルが低下して・・・共同浴場は施錠された・・・入浴は無料だが・・・鍵は街の二か所にある鍵の管理人に借りなければならない」と教える。

東の鍵を管理するのは・・・名物大山コマのコマ屋・・・女主人は早苗(平栗あつみ)。

「鍵は貸し出し中で・・・鍵を借りた入浴者が戻るまでは順番待ちになる」と話す。

西の鍵を管理するのは・・・煙草屋・・・主人は磯吉(利重剛)。

「コマ屋の女将から・・・貸し出し中の鍵の返却されたと連絡がないと貸せない」と話す。

土産物屋、コマ屋、煙草屋・・・このうちの一人が犯人だな。

「ものすごく・・・面倒くさいシステムなんですけど」

「まさに・・・密室トリックを成立させるためだけの無理矢理な設定であ~る」

しかし・・・別行動をしていた甕棺墓くんが鍵を入手したと言う。

すでに・・・怪しい男は風呂を出ており・・・甕棺墓くんは金子という男から鍵を借りたのである。

「それで・・・その人は・・・」

「ホテルをつきとめてあるからあわてなくても大丈夫」

「じゃあ・・・すぐにそのホテルに・・・」

「それよりも・・・せっかくだから・・・お風呂に入っていきましょうよ」

「確かに・・・風呂には入るべきた」

「そんな・・・どう考えても・・・ホテルに行くべきでしょう・・・ここでお風呂に入ったら・・・湯船に死体が浮いていて事件に巻き込まれてしまう気がします」

「そうしないと・・・話が進まないのであ~る」

甕棺墓くんが入浴準備をしている間に・・・蘭丸と寛治が・・・着衣のまま湯船に浮かぶ女性の変死体を発見し・・・甕棺墓くんの入浴サービスもないのだった。

サービス悪いぞ!

所持品から・・・死んでいたのは加茂陽子(神楽坂恵)だと判明する。

「携帯電話もありましたが・・・お湯につかっていたので」と今週の若手刑事・二若(岡山天音)・・・。

「それは防水機能付だから・・・乾燥させれば・・・復活するわ」と甕棺墓くん。

「で・・・あなた方は・・・」と今週のベテラン刑事・徳沢(加藤虎ノ介)・・・。

「第一発見者です」

「ちょっと署までご足労願います」

「嫌よ」

「いや・・・ここは無料で宿泊するチャンスであ~る・・・朝食も出るかもしれな~い」

「夕食も出しますよ」

サービスのいい伊勢原警察(フィクション)だった。

日本科学技術大学などでお馴染みのその他大勢のコント。

署員一同が・・・伊勢原市公式イメージキャラクター「クルリン」と親しむ光景があって・・・。

翌朝である。

容疑者として浴場の鍵を借りていた金子が確保され・・・取調を受ける。

被害者の携帯電話から・・・金子の携帯電話からの着信が確認されたのである。

「あんた・・・蘭丸だろう・・・」

「どうして・・・僕の名を・・・」

「藪先生から聞いたのさ・・・俺の無実を証明してくれたら・・・ミヤビの携帯電話の番号を教えてやるぜ」

「・・・一体あんたは・・・」

「俺はしがない借金とりさ・・・」

実はウシジマくんの同業者であった金子である。

ミヤビを追跡していたのは・・・借金回収のためだった。

ミヤビの借金回収に成功したところで・・・やはり金を貸している加茂陽子に遭遇。

金をとりたてただけだという。

二件の取り立てを終えたので・・・風呂に入ってのんびりしただけだと言うのだ。

「しかし・・・このままでは・・・借金返済をめぐるトラブルで犯人にされかねない」

ミヤビの電話番号と聞いただけで・・・早速捜査を開始する蘭丸だった。

ミヤビに嫉妬する甕棺墓くんは妨害しようとするが・・・蘭丸の三助アピールで若女将(棚橋唯)の宿を確保した寛治はのんびり休憩したいのである。

「たっぷり眠ったでしょう」

「だれもが留置場でぐっすり眠れると思うなよ~」

「このままじゃ・・・蘭丸がミヤビと再会しちゃうじゃないの・・・」

「それのどこがいけないのか~」

「一人で旅をするよりもみんなで旅をした方が楽しいに決まってるでしょう」

「・・・」

甕棺墓くんは寛治の説得に成功したらしい。

全国に五百万人程度しかいないと思われるお茶の間の皆さんもそろそろ・・・トリオに愛着が沸いてきた頃合いなのだった。

これまでの県警に問い合わせ・・・トリオの活躍を知った刑事たちは・・・名探偵待遇でトリオに協力するのだった。

これは・・・まあ・・・警察の偉い人が兄というあのルポライター的なアレだな・・・。

そして・・・脱衣場のロッカー、死体、共同浴場の鍵・・・あらゆるものをなめまくり・・・成分を褌にメモする蘭丸だった。

事件の経過をまとめてみよう。

ミヤビが金子に借金を返済し宿を出る。

金子が被害者の加茂陽子から借金を回収。

加茂陽子が死亡。

金子がコマ屋の鍵で共同浴場に入室。

トリオがコマ屋に鍵を借りに行く。

蘭丸と寛治が煙草屋に鍵を借りに行く。

甕棺墓くんが金子から鍵を強奪。

トリオが・・・共同浴場で遺体を発見。

「つまり・・・第三の人物が・・・犯人です」

例によって・・・関係者が共同浴場の脱衣室に集められる。

「コマ屋の鍵がなくても・・・共同浴場の鍵をあけられる人がいます」

「え・・・私」と煙草屋の主人・・・。

「このロッカーの中から・・・私の舌は次の成分を感知しました」

脱衣し、ふんどしを披露する蘭丸。

スクロース・・・砂糖の主成分。

ベンゾピレン・・・発癌性物質

ニトロソアミン・・・発癌性物質

「これらは煙草の成分ですが・・・普通の紙巻きたばこには香料など雑多な成分が含まれる・・・煙草屋の御主人の愛用しているキセル煙草にはそれがありません・・・つまり・・・ロッカーの中にいたのは・・・煙草屋の御主人です」

「・・・キセル煙草を愛用しているのは私だけではないだろう」

「この鍵をみてください」

「・・・」

鍵には・・・マニキュアの着色があった。

「被害者のマニキュアと成分が一致しています・・・そして血の味がしたので・・・おそらく被害者のものと一致するでしょう」

「鑑識で調べればすぐにわかることよ」

「あなたは・・・鍵をあけて・・・彼女を共同浴場に連れこみ・・・暴行目的で殺害した・・・ところが・・・金子さんがやってきたので・・・とりあえず死体を浴槽に沈め・・・ロッカーに隠れた・・・そして・・・何食わぬ顔で店に戻った・・・金子さんは死体に気がつかないまま・・・浴場を出たが・・・私たちが続けて入浴して・・・ついに・・・死体が浮き上がった」

「違う・・・」

「この期に及んで・・・シラをきる気?」とニサス的に追及する甕棺墓くん。

「あの女が・・・鍵を盗んだんだ・・・私は鍵がないことに気がつき・・・浴場に行った・・・入浴者のモラルが低下したために・・・誰もが入れた共同浴場に鍵が必要となった・・・その鍵を無断で持ち出した女に私は注意しただけだ・・・それなのにあの女は私を突き飛ばして痴漢呼ばわりだ・・・思わず私は女から鍵を奪い返そうと揉み合いになり・・・女が転んで・・・頭を打った・・・」

「揉み合いになって転んだら死ぬ・・・ニサスの鉄則よ・・・」

「蘭丸の舌から・・・逃れられる犯罪はないのであ~る」

寛治は宮沢賢治の童話「インドラの網」の一説を引用する。

・・・いちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互いに交錯し光って顫えて燃えました。・・・

「風だよ・・・草の穂だよ・・・ごうごうごうごう・・・すべての人間は仏になれる・・・なぜなら・・・ひとの心はネットワークでつながっているからです・・・しかし・・・それは誰もが罪人にも成り得ることを示しています。老子曰く・・・天網恢恢疎にして漏らさず・・・雷神インドラの張る綱は・・・緩やかに見えてけして悪人を逃さない・・・天罰は必ず下るのです」

究極の勧善懲悪理論である。

「さすがは・・・神の舌だ・・・」

金子は蘭丸を賞賛する。

「男と男の約束だ」

蘭丸はミヤビの電話番号を入手した!

カミノシタ・・・は上の下という意味を持つ。

上下が定かではないのである。

はたして・・・神の舌は・・・ふたたびミヤビを味わうことができるのか・・・。

それは上なのか・・・下なのか・・・。

刑事たちは・・・甕棺墓くんの愛車のガソリンを満タンにしてくれた。

そして・・・蘭丸は・・・愛しいミヤビに電話をかけるのだった。

リオ五輪の嵐の中を折り返す物語である。

関連するキッドのブログ→第5話のレビュー

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