恐ろしい災いの倍返しだ・・・薪が燃えれば釜戸が滾るの道理ゆえ(長澤まさみ)
フリとオチというのは物語を構成する基本である。
この物語は・・・「真田丸」という「オチ」に向っていくのだが・・・その途中に「関ヶ原の合戦」という「フリとしてのオチ」があり・・・そのための「フリ」も同時進行する。
「歴史劇」はある意味で「オチ」のわかっているドラマである。
もちろん・・・お茶の間には歴史に疎い人間もいるのだが・・・幼い視聴者には「みつなり」や「いえやす」の運命を知らないものもいるわけである・・・それはまた別の話だ。
一般的には慶長四年(1599年)になれば「来年、関ヶ原で合戦がありまーす」なのである。
わかっている「オチ」を面白おかしく見せる「フリ」こそが腕の見せ所なのだ。
慶長四年正月の緊張というのは・・・実は「大坂城の前田利家」陣営と・・・「伏見城の徳川家康」陣営の緊張である。
五大老の名目的重鎮である前田利家と・・・五大老の実力筆頭である徳川家康の権力闘争なのである。
しかし・・・このドラマでは・・・主人公・真田信繁が「真田丸」に至るドラマであり・・・その途中経過に「関ヶ原の合戦」がある以上・・・信繫と石田三成について描くわけである。
そのために・・・「大坂城」と「伏見城」の対峙は・・・「伏見城石田屋敷」と「伏見城徳川屋敷」の対峙に変換されている。
本来、大坂城にいるはずの上杉景勝や宇喜多秀家・・・あるいは加藤清正や細川忠興は微妙なポジショニングを行う。
加藤清正は・・・徳川屋敷と石田屋敷を往復したり、細川忠興は石田三成に訪問されたり、宇喜多秀家は石田三成と一蓮托生だったり、上杉景勝は大坂から伏見に駆け付けたりするわけである。
このドラマの石田三成は・・・飼い主を失った忠犬ハチ公属性なので・・・その「義」に偉大すぎる先代を持つ上杉景勝が感応する・・・というのが・・・「関ヶ原の合戦」への今回の最大の「フリ」になっている。
もちろん・・・「敵役」である徳川主従にも様々なフリが施されているし・・・未亡人の高台院の「裏切り」も仄かに香り立つ。真田兄弟の運命の分かれ道も暗示されている。秀頼母娘の「世情への疎さ」も描かれる。
濃厚である。
その上で・・・大谷吉継の忠臣であり・・・ドラマ「世界一難しい恋」のヒロインが好きな武将・湯浅五助がさりげなく登場していたりする。
そして・・・真田兄弟が離別する場面で・・・酷い目に遭うであろう真田信幸の家臣・河原綱家が・・・徳川屋敷でちょっとした「痛い目」に遭うという「くすぐり」も展開しているのである。
憐れな仔犬にお茶の間の同情を誘いながら小ネタも挿入なのだ。
伏線はフリの別名である。
伏線につぐ伏線にうっとりなのである。
で、『真田丸・第33回』(NHK総合20160821PM8~) 脚本・三谷幸喜、演出・土井祥平を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は空気が読めない男・石田治部少輔三成の第二弾描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。毎回、何が描き下ろされるのか・・・ガチャポンみたいな楽しさがあります・・・「ニュー三成」キターッ!という歓喜がございますねえ。徳川VS豊臣は家康の仕掛ける間諜合戦の趣きがあるわけですが・・・小田原合戦で・・・あれほど濃厚に描いた板部岡江雪斎を史実ベースで再登場させ・・・重要な密偵の役割を背負わせる・・・実に渋い展開ですよねえ・・・。練りに練った感じが漂います。三成と明智光秀は敗者として似ているところがありますが・・・「大義名分」に拘りすぎるところはそっくりですよね。「戦」に大義名分は必要ですが・・・なにより「臨機応変」も求められる。奇襲をかけるっていうのに・・・伏見と大坂を往還していちゃだめですよねえ。いざと言う時の決断力の弱さにも光秀的な三成。もちろん・・・結果論で・・・そう見えてしまうという部分もあつでしょうが・・・二人の「みっちゃん」はこうすれば負けるのお手本みたいなところがございます。そういう部分を容赦なくえぐり出す脚本は本当に素晴らしいと考えます。関ヶ原の前哨戦のような虚構の極みとなってますよね。やることなすこと裏目に出て・・・追い込まれていく三成ですが・・・そんな三成だからこそ・・・放置できない周囲の優しい人々。主人公・信繫も・・・盟友の大谷刑部も・・・お屋形様こと景勝も・・・情にあふれた清正も・・・高台院の苛立ちも・・・丁寧に描かれていて素晴らしいですな。あそこで特攻して三成が死んでいれば歴史は変わっていたかもしれないと思わせるものがありましたものね。三成を真似たらダメ!・・・そういう教訓が明らかです。次回は徳川家康奇襲失敗を受けて・・・武断派七将の石田三成襲撃事件でございましょうか・・・。「関ヶ原」はすぐそこまで来ていますな・・・。まあ・・・この大河は第二次上田合戦がメインでしょうけれども~。
慶長四年(1599年)一月、豊臣秀頼は伏見城で諸大名の祝賀を受ける。秀頼の後見人である前田利家は関白の遺言に従い、秀頼を未亡人となった高台院、秀頼生母の淀の方とともに大坂城に入城させる。朝鮮から凱旋した加藤清正らは石田三成に軍監だった福原長堯らの不正を訴え処罰を求める。三成はこれを拒絶。大坂の利家と伏見城の三成が諮り、徳川家康の無許可婚姻策を問責。家康はこれを無視。大坂城に利家派の諸将が兵を集結。伏見城では家康派が兵を集結する。大坂城には大老である毛利輝元が二万、利家の娘婿である宇喜多秀家が一万の兵を動員、上杉景勝、加藤清正、加藤嘉明、浅野幸長、長束正家、増田長盛、小西行長、長宗我部盛親、細川忠興が参加する。伏見城には黒田孝高・黒田長政父子、福島正則、池田輝政、蜂須賀家政、京極高次、藤堂高虎、山内一豊、伊達政宗、森忠政、大谷吉継などが参加する。二月、利家は伏見城を攻略する覚悟であったが・・・長男の忠隆に利家の七女・千世を娶らせた細川忠興の説得により家康と和解。秀次事件の際に徳川の恩を受けた忠興は最初から家康の意を受けていたとされる。利家を中心とした四大老と三成を中心とする五奉行の連携は閏三月の利家の死で瓦解する。利家派だった武将たちは続々と家康派に鞍替えする。
高台院は・・・秀吉の死後・・・たちまち高まった政治的緊張に虚しさを感じていた。
大坂城には・・・夫・秀吉の血を継ぐ秀頼がいるが・・・所詮は自分の子ではない。
形式的に落飾した大広院こと淀の方は・・・「御袋様」と呼ばれている。
つまり・・・豊臣家当主の母は・・・高台院ではなく・・・淀の方なのである。
何度も暗殺者を送り殺しそこなった母子に・・・高台院は敗北感を覚えるのだった。
しかし・・・それを表に出すわけにはいかない。
加藤清正や・・・福島正則は手懐けているが・・・その忠誠心が向う先はあくまで秀頼なのである。
同じように秀頼に忠誠を誓う近江出身の石田三成にはどこか馴染めないものを感じる。
秀吉の妻として・・・夫に天下を取らせたと自負する高台院は・・・天知通を使うくのいちである。
石女である高台院にとって・・・身内と言えるのは養家である浅野家の長政・幸長父子・・・そして養子とした小早川隆景などの兄・木下家定の子息たちぐらいのものだった。
「佐吉は油断できぬ」と高台院が感じるのは・・・小早川隆景に対する仕打ちにあった。
隆景は筑前国三十万石の領主であったが・・・朝鮮出陣後に越前北ノ庄十五万石に転封されてしまった。
筑前国は太閤蔵入地という豊臣家の直轄地となったのだが・・・その代官は石田三成であった。
つまり・・・隆景は財産の半分を石田三成に奪われたようなものなのだ。
減封によって隆景の家臣は離散し・・・そのうちの何人かは三成の家臣となっている。
それは秀吉が存命中の処置であったが・・・高台院は腑に落ちぬものを感じるのだった。
これは・・・何とかしなければならぬ・・・と戦国を生き抜いた太閤秀吉の未亡人は思う。
高台院は武将たちの顔を思い浮かべる。
古い馴染みのものたちは・・・すでに・・・去っていた。
前田利家も・・・長くはあるまいと高台院は思う。
利家に死相が浮かんでいることは天知通を使わずともわかっていた。
「結局・・・江戸の内府殿か・・・」
高台院は正二位内大臣・徳川家康に頼ることを決意した。
「寄らば大樹の陰じゃものなあ・・・」
高台院は大坂城の奥の間で・・・微笑んだ。
関連するキッドのブログ→第32話のレビュー
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