どうでもいいことは忘れる女(北川景子)合従連衡合縦連横遠交近攻敵の敵は味方だ(MEGUMI)ドロドロのシチューをあなたに(臼田あさ美)
難敵に対しては孫子の兵法でも各個撃破が推奨される。
そのために・・・相手の分裂を画策する。
分裂した相手に対して同盟を持ちかければ合従連衡ということになり・・・もはや奇策とは言えない。
戦略の基本は情報収集にある。
敵の利害と味方の利害が一致すれば・・・敵を味方として誘導することが可能になる。
その「機」を伺うのが戦略であるとも言える。
まとまらない縁談を強引にまとめあげるのも仲人の腕次第なのである。
しかし・・・本来の目的を忘れてはいけない。
彼女は家が売れさえすれば・・・いいのである。
たとえ・・・そのことで誰かが幸福を得ても・・・知ったことではないのである。
もちろん・・・不幸になってもだが・・・その場合は・・・長期戦略的に不利になるので・・・アフターサービスをしないわけではないらしい。
強固な日米同盟を崩さんと中国はあの手この手を仕掛けてくるのだが・・・日本としては米国を敵に回したら酷い目に遭うのでこれからも耐えがたきを耐え忍びがたきを忍ぶ必要があります。
で、『家売るオンナ・第9回』(日本テレビ20160907PM10~)脚本・大石静、演出・山田信義を見た。妄想的には・・・やはり・・・BAR「ちちんぷいぷい」でのテーコー不動産株式会社・・・新宿営業所売買営業課に屋代課長(仲村トオル)の営業チーフ・三軒家万智(北川景子)に対する「男とか女とかを超越した存在」発言以来・・・サンチーの課長に対する表情が硬くなっている気がする。サンチーは「傷ついて怒ってるんじゃないお?」と思うわけである。庭野(工藤阿須加)は「好きに違いがあった」と思っているようだが・・・ベクトルは間違っている気がする。とにかく・・・国際結婚を目指すビクトル・ムサ(星野ルネ)と雨宮波瑠(八木優子)のカップルを見るサンチーの瞳には羨望の眼差しが宿っていた気がします。
そういう部分も脚本家は描きたい・・・むしろ・・・重点的に描きたいのだが・・・プロとして・・・そこが本筋でないのはわかっている。面白おかしく家を売ってナンボの物語である。その葛藤がなんともいえない味わいを醸し出している気がします。
そういう気がするドラマなんだな。
さりげなく残暑厳しいシーズンに併せて熱中症に対する注意を喚起する朝礼での課長の訓示。
「シラスミカ・・・」と水分補給中の白州美加(イモトアヤコ)を呼び出すサンチー。
「チラシ千枚のポスティング行ってきます」
「シラスミカ・・・家を売らなければ意味はありません・・・チラシのポスティングだけで大きな顔をしないように」
「顔が大きいのは生まれつきです・・・なんちゃって・・・シラスミカ、ゴー!」
「アレ以来・・・おかしくなったよな」
「あの時・・・何があったんだ」
課長と最古参の布施(梶原善)は問い質す。
アレとはシラスミカ実家解体の件である。
「どうでもいいことなので・・・忘れました」
必要ないことにはたとえ上司の質問でも多くを語らないサンチーだった。
しかし・・・シラスミカはシラスミカだった。
一歩外に出れば怠惰の虫が騒ぎだし・・・アルコール依存症の人間が酒を求めるようにさぼりだすのである。
そんな・・・シラスミカに「凄腕不動産屋の取材」と称して接近する週刊新代(新潮プラス現代か・・・新潮プラス文春だと新春になっておめでたい雑誌になってしまうからな・・・)の記者・今泉亮太(大西武志)が接近する。
前回・・・日本一かわいいお天気お姉さんの夫との不倫騒動にサンチーが巻き込まれ週刊誌沙汰になったばかりだと言うのに・・・カフェオレに誘われて・・・サンチーについての情報を無分別に流出させるシラスミカだった。
「一億五千万円の家を三億円で売ったりして凄いんです」なのである。
スキャンダルの時に・・・「関係者」とか「知人」とかで登場する人々の実態である。
カフェオレの後で趣味の映画鑑賞をしたシラスミカ。
同じ映画の話題を・・・足立(千葉雄大)がしたことで犯行が発覚。
さらに・・・週刊誌の取材を受けたことも明らかになる。
「好意的な記事を書く気なら・・・正式に申し込んでくるだろう」と課長は常識論で叱責である。
「でも・・・全然悪い人には見えませんでした」
「悪い人は・・・全然悪い人に見えないもんなんだよ」
「どのような記事を書かれても構いません」と動じないサンチー。
「いや・・・会社としての信用問題だ」
前回の・・・スキャンダル記事で本社から・・・叱責されている課長なのである。
週刊新代に怒鳴りこむ課長。
しかし・・・今泉は・・・「美人悪徳不動産屋の悪行三昧という記事を書きたかったんだけど・・・顧客の皆さんが絶賛するばかりなので・・・ボツになりました」と応じるのだった。
「天才ですからねえ」とまんざらでもない課長である。
今泉は・・・「実は二世帯住宅を売りたいんですが・・・買い手がつかなくて困ってるんです・・・天才に売ってもらえませんかね」
「おっと・・・」
クレームをつけにいって営業してきた課長を賞賛する一同である。
「というわけで・・・売ってくれますか」
「売ります」
漸く・・・課長に対する怒りを納めて・・・いつものサンチーになるのだった・・・あくまで妄想です。
物件は限りなく左右対称な二世帯住宅である。
おそらく・・・その世代間差別のなさが売れない理由なのかもしれなかった。
親子同居の場合・・・世代によって求めるものが異なるものである。
しかし・・・魔性であるサンチーには・・・獲物が向こうから吸い寄せられてくるのだ。・・・あくまで妄想です。
一方・・・庭野と足立は・・・内見を繰り返し・・・買う気配を見せない顧客をそれぞれに抱えていた。
しかも・・・顧客の名は・・・ともに雨宮である。
庭野の顧客は・・・雨宮憲一(竹森千人)と礼(MEGUMI)の夫婦。幼い娘のもも(須田理央)がいる。
憲一は「祖父は南向きの八畳間は縁起が悪いと言っていた」などと難癖をつける。
花柄のワンピースを着た礼は「また・・・そんなこと言って・・・いい家なのに」と不満気である。
お・・・風水来たか・・・と思わせておいて真相は別である。
足立の客は・・・雨宮嘉一(ト字たかお)と智代(鷲尾真知子)の熟年夫婦である。
嘉一は「親父が南向きの八畳間は縁起が悪いと言っていた」などと難癖をつける。
花柄のワンピースを着た智代は娘の波瑠(八木優子)が「色白のアイドル系が好きなので」と足立に交際申し込みを促す始末である。
サンチーは・・・即座に・・・「二つの雨宮家が親子関係にあること」を看破するのだった。
「庭野と足立にまかせていたら・・・家は一件も売れません・・・その顧客には私が家を売ります」
しかし・・・足立は叛旗を翻すのだった。
「僕にも譲れない一線があります」
そして・・・庭野は・・・ただちにサンチーに降った。
BAR「ちちんぷいぷい」で珠城こころ(臼田あさ美)はクリーム・シチューを煮る。
「忠犬ニワノくんはサンチーには逆らえないものね」
「だよな」
「でも・・・僕は・・・この間・・・チーフに好きだって言われました」
「え」
「でも・・・もでしょう・・・課長は好きで・・・庭野もでしょう」
「じゃ・・・僕のこともチーフはきっと好きだよな」と足立。
「そうだよ・・・サンチーはみんなのことが好き・・・こころと一緒だよ」
「だけど・・・僕に対する好きは特別だったと思う」
おっと・・・庭野・・・そんなことを考えていたのか・・・である。
「うふふ・・・ドロドロしてきたね・・・おいしそう」とシチューをかき混ぜるこころママだった。
一方・・・食事をしながら物件を吟味するサンチーは・・・行きつけの汚い中華料理屋でアルバイトのナイジェリア人から声をかけられる。
「餃子のお姉さん・・・家を探してますか」
「私の仕事は家を売ることです」
「私も家を探しています」
「賃貸ですか」
「チンチンパイバイ」
「私は売買専門です」
「バイバイ・・・サヨナラ」
仕方なく賃貸部門を紹介するサンチーだった。
ナイジェリア・・・アフリカの貧しい国と侮った日本は・・・ワールドカップで痛い目にあったばかりである。
人口は一億八千万超・・・世界第七位であり、石油輸出量世界第八位、経済規模は世界第二十位でアフリカ最大の経済大国なのである。
イスラム教徒人口とキリスト教徒人口がほぼ均衡するアフリカの巨人である。
もちろん・・・ナイジェリアからの留学生であるビクトル・ムサ(星野ルネ)もまたサンチーの魔性に引き寄せられているのだった・・・あくまで妄想です。
翌日・・・雨宮家の長女である波瑠とともに・・・新宿営業所売買営業課に現れるビクトル・ムサ・・・。
足立に対して・・・母親の非礼を詫びる波瑠だった。
「どうしても・・・彼が・・・三軒家さんにお願いしたいと言うので・・・」
波瑠の彼は色白のアイドル系ではなかった。
「彼の国では・・・ぽっちゃり系が・・・美人の条件なのだそうです・・・あのこのことは両親には内密に願います」
事情を察したサンチーは・・・掟を破り賃貸物件の仲介に乗り出すのだった。
ビクトルは建築を学ぶ大学院生だが・・・ナイジェリア人に対する偏見でまともな家を借りられないらしい。
サンチーはそこそこの「愛の巣」を二人に紹介する。
「私は・・・波瑠さんを愛してます」と吠えるビクトルである。
「大学院卒業後・・・ビクトルさんは帰国することと思いますが・・・波瑠さんはどうなされるのですか」
「彼についていくつもりです」
サンチーの表情に浮かぶのは・・・憧憬なのか・・・危惧なのか・・・いつもとは違う表情なのだった。
一方で・・・徐々に高まる勝算。
庭野とともに・・・息子夫婦の内見に参入するサンチー。
「二世帯同居というのはお考えになられないのでしょうか」
「彼の両親と暮らすなんてとんでもない・・・姑からは・・・私が産んだので孫が可愛くないとまで言われているんですから」
激怒する妻の礼である。
しかし・・・夫の憲一は困惑気味なのだった。
「それに・・・彼にはお姉さんがいて・・・両親の面倒は彼女が見てくれますから」
礼の言葉に・・・ついに・・・勝機を見出したサンチーだった。
礼にとっての義理の姉・・・波瑠こそが・・・雨宮家攻略の要なのである。
一方・・・足立は・・・顧客に対する心理的サービスによって勝利を見出そうとする。
内見のために来社する雨宮嘉一のためにサプライズでバースデー・ケーキを準備する足立だった。
しかし・・・ケーキを持って現れたのは・・・不倫相手から両親との同居を提案されてエッチができないことを危惧する事務員の室田まどか(新木優子)ではなく・・・サンチーだった。
そして・・・サプライズ中に・・・庭野に呼び出された息子夫婦が現れるという衝撃的サプライズ。そして、波瑠とビクトルのカップルが現れる電撃的サプライズ。サプライズに次ぐサプライズである。
足立の準備したサプライズは花と散った・・・。
波瑠に元校長でリベラルを装っているが保守的な石頭と看破されている嘉一はもちろんのこと・・・実の娘に依存する母親・・・義姉に義両親の面倒を押しつけたい嫁・・・とほぼ一同が波瑠とビクトルの交際に反対するのだった。
「どんなに・・・反対されても・・・私の意志は変わりません」
愛を貫く波瑠だった。
「私は波瑠さんを愛してます」と吠えるビクトル。
「チーフこれは・・・」と庭野はサンチーの真意を問う。
「共通の敵がいれば・・・人は団結するものです」
「・・・」
「サプライズどうだった・・・」と呑気な課長。
「すべて・・・想定通りです」とサンチー。
悄然として戻ってくる足立。
「上手くいったんだってな」と課長。
「果敢に戦いに挑み・・・玉砕しました」と足立・・・。
「え・・・」と驚く課長。
庭野は戦友を痛ましげに見守るのだった。
足立と庭野のコンビも素晴らしいな。
ちょっと線は細いが・・・二人の相棒ものでも成立しそうな勢いだ。
雨宮家の家族会議に・・・波瑠の付き添いとして登場するサンチー。
「波瑠さんの意志は尊重するべきです。家事をまかせている娘さんに頼るのも・・・両親と同居するのが嫌で義理のお姉さんに頼るのも・・・自分勝手と言うものです」
「あなたに家族の何がわかるの」
「わかりません・・・しかし・・・お二人が似たもの同志であることはわかります。服装の好みもそっくりですし・・・男性の好みもそっくりです」
父子なので当然・・・似ている二人の夫である。
優柔不断は遺伝するらしいので・・・。
「一番わかりあえるはずの二人が・・・一緒に暮らすというハードルの前で立ちすくんでいるにすぎません」
「・・・」
「今から・・・皆さんに相応しい物件をご案内いたします」
もちろん・・・それはシンメトリーの過ぎたあの物件だった。
瓜二つの夫婦のために宛がわられる左右そっくりの家。
「近くて遠い・・・遠くて近い・・・二つの家族のために最適の二世帯住宅でございます」
「そんなら・・・別居したって」
「生きているのか死んでいるのかは・・・わかる距離でございます。別居と同様でありなからいざと言う時に瞬時に駆けつけられる距離感は・・・安心感を生みだします」
「・・・」
「この家を一億円でお買い上げいただけますか」
「買おう」と決断を下す嘉一だった。
六千万円程度の予算を考えていた二組の夫婦は・・・二千万円浮くことに気がついたのだ。
(落ちた・・・)
勝利の高揚感がサンチーの魂を浮揚させるのだった。
サンチーの孤独な魂・・・その虚無に一瞬・・・幻の炎が灯るのだ。
幼いももは左の扉から入り右の扉から出る。
「新しいお家だ・・・」
無邪気に喜ぶ幼子に・・・憩う雨宮家の人々・・・。
しかし・・・ドリトルではなくビクトルは・・・不満だった。
「家族は一緒に暮らさなければいけません・・・ナイジェリアでは第一夫人から第七夫人まで十五人の兄弟・・・みんな一緒に暮らしています」
イスラム教でもコーランでは妻は四人までしか許されていないがイスラム教師(ウラマー)が裁断すれば追加の許し(ファトワー)を得ることは可能である。イスラム教師が許せば何人でも妻帯できるのだが・・・そのためには夫の経済力が要求されることは言うまでもない。つまり、ビクトルの実家は富豪なのである。
相談に訪れたビクトルをサンチーは無視するが・・・課長が乗り出す。
「手紙がいいだろう」とお手本を書き出す課長。
しかし・・・その出来栄えはもう一つなのである。
愛する課長のために・・・あくまで妄想です・・・仕方なく救いの手を差し伸べるサンチー。
「書くなら六文字です」
なんでもけん
ビクトルから「郷愁を誘う何でも券」を送られた老夫婦は・・・波瑠とビクトルを餃子パーティーに招待する。
何故か・・・同行するサンチーだった。
二世帯住宅の壁に不満を抱くビクトル。
少し・・・狂信者の傾向があります。
「この壁を壊さなければいけません・・・家族は一緒に暮らすべきです」
ビクトルの剣幕に恐怖する智代・・・。
「壁は・・・日本人の奥ゆかしさを示します・・・壁があるから・・・見えない相手を思いやる心が育つのです・・・あなたも日本人の妻を迎えるならば・・・そういう文化について思いやる必要があります・・・壁は家を支える重要な要素です・・・建築学を学ぶあなたならわかるでしょう」
「ああ・・・壁の大切さを・・・忘れていました・・・餃子のお姉さん・・・ありがとう」
サンチーはアフターサービスをしないわけではない。
なぜなら・・・家を買った客が二度と家を買わないわけではないからだ。
生かさず殺さずは支配者のセオリーである。
ああ・・・最終回が来るのが嫌だなあ。
いつまでも毎週サンチーに会いたいよ。
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