人生は間違えた人が怪物になるテスト(波瑠)片づけられた女(佐々木希)狼を殺す羊(芦名星)
普通の殺人鬼VS青い目の殺人鬼VS心ない刑事・・・である。
やはり・・・普通の殺人鬼はうかつだったな。
いじめを見過ごす人も同罪の論理から言えば見殺しにしたら人殺しである。
死刑制度がある国家では・・・国民は全員、人殺しなのだ。
人間というものはいい加減なもので・・・そういう論理は極論としてスルーできる能力を持っている。
一人殺したくらいでは死刑にならない国家では・・・死んだ人間よりも生きている人間が優先される。
生きていれば納税できる可能性があるからである。
人間がそのような論理の破綻に耐えられるのは・・・少し馬鹿だからなのだろう。
最近はあまり・・・使われないがファジー(曖昧さ)という言葉こそが・・・人間の発展の原動力なのだ。
臨機応変で殺人を否定したり肯定したりしながら・・・自分の正しさをそれなりに信じることができる。
あなたは・・・そういう立派な人間なのでしょうね。
で、『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子・最終回(全9話)』(フジテレビ20160906PM10~)原作・内藤了、脚本・古家和尚、演出・白木啓一郎を見た。小説「羊たちの沈黙/トマス・ハリス」(1988年)から間もなく三十年が過ぎようとしいる。様々なヴァリエーションが生み出されたわけだが・・・これは・・・女刑事クラリスが・・・もしも羊に同情しなかったら・・・という新機軸である。なにしろ・・・主人公である警視庁刑事部捜査第一課の藤堂比奈子刑事(波瑠)には「感情」がないのである。ただし・・・この場合の「感情」とは主に「喜怒哀楽」に限定され・・・特にそうした限定的な感情において・・・共感性が低いために・・・感情表現に問題があるといった曖昧な描写になっている。お茶の間の理解力にも限度があるために無難な設定と言っていいだろう。脚本家はまた一つレベルアップしたな。
比奈子の高校時代の親友で連続殺人犯である真壁永久(芦名星)の瞳が青いことの理由については言及されないが・・・カラーコンタクトを使用しているからではなく生まれつき青いのだろう。
それが・・・真壁永久の問題なのである。
おそらく・・・遺伝子的な先祖がえりの一種であるのだろうが・・・青い目の娘が真壁聖司・浩子夫妻に亀裂を生じさせた可能性は大である。
二人はおそらく黒い目をしていたのだ。
夫は妻が青い目の男と不貞を働いた疑いに揺れる。
妻は・・・青い目の男と不貞を働いたかどうかは不明だが・・・困惑するしかないのである。
そのために・・・夫は・・・奇形児として青い目の娘を虐待し、妻はそれを見過ごした。
比奈子と比較すると永久の感情表現は豊かである。
永久は素晴らしい人間になる可能性を両親に奪われた犠牲者であることは間違いない。
虐待の事実が明るみとなり・・・児童養護施設の「永遠の翼」に保護された永久であったが・・・そこに待っていたのは施設長と運営者たちによる性的凌辱だった。
幼児から思春期に至るまで性的凌辱の限りを受けた永久は・・・自らを怪物に変貌させたのである。
世界が彼らを罰しないのであれば自らが罰するしかない。
永久にとって人間を殺すことは・・・最高の正義となった。
そこで・・・心を持たないもう一人の怪物・・・比奈子が登場する。
二人の美少女は出会い・・・お互いに影響しあう。
永久は・・・動物を殺すことを批判しない比奈子に出会う。
比奈子は人間を殺す道具を永久から受け取る。
成人した永久は2009年十月に長野県小山田町で暮らす両親を殺害して解体する。
続いて2010年三月に「永遠の翼」の施設長夫婦や運営幹部を殺害して解体する。
永久は死体を残さなければ殺人事件が発生しにくいことを利用していた。
日本では・・・殺された人間よりも行方不明になる人間の方が統計的に多いのである。
やがて・・・殺人行為は永久の中で合理化され・・・生きるための手段となる。
生きている人間を殺せば・・・所持品には持ち主がいなくなるからである。
永久の職業は・・・人間猟師である。趣味と実益を兼ねているのだ。
秘密の隠れ家で脱走した佐藤都夜(佐々木希)と合流した永久は・・・殺した情報屋・藤川(不破万作)の携帯電話によるトリックで無防備になった東海林刑事(横山裕)を拉致し・・・警視庁刑事部捜査第一課片岡班の片岡班長(高橋努)に瀕死の重傷を負わせると・・・比奈子に選択肢を提示する。
①一人で東海林を助けに来る
②チームで東海林を助けに来る
「わかるわね・・・一人で来ないと人質は死ぬのよ」
「なぜ・・・こんなことを」
「あなたが・・・なかなかこっちにこないから・・・迎えにきたのよ」
片岡班長の救命に追われる比奈子を残し・・・永久は去った。
片岡班長は意識不明のまま入院するが・・・一命はとりとめた。
厚田巌夫班長(渡部篤郎)は比奈子から事情を聴取する。
「あの女は・・・佐藤都夜と・・・連携していた・・・お前さんが知っている女なのか」
「高校時代の知り合いで・・・真壁永久という女性です」
「何者なのだ・・・」
「私が知っているのは・・・廃墟で・・・彼女が動物を殺傷していたことだけです」
永久からナイフを譲渡されたことは秘匿する比奈子だった。
おそらくプライベートな事柄と判断したのだろう。
聞き込みから戻った倉島刑事(要潤)と清水刑事(百瀬朔)は佐藤都夜に送られた手紙の中に不審な点があることを報告する。
送り主は住所も氏名も異なるのに筆跡が同じ五通の手紙があった。
「住所は・・・東京都が一人、千葉県が一人、そして栃木県が三人・・・いずれも一人暮らしの男性で・・・所在が確認できず・・・家族から捜索願いが届けられているケースもあります」
「五人・・・連続動物殺傷人体詰め込み事件の・・・使用されたパーツも・・・成人男性五人を含んでいます」
「連続動物殺傷人体詰め込み事件・・・すごいネーミングだな」
「何か・・・問題があるでしょうか・・・」
「いや・・・」
「もしも・・・都夜が・・・事件後に永久と知りあったのなら・・・合流のための情報が・・・この手紙に秘匿されている可能性があります」
「暗号か・・・」
「私が解読に着手しています」
三木鑑識官(斉藤慎二)が名乗りをあげた。
「藤堂・・・お前さん・・・帝都大学医学部に行ってくれ・・・石上教授が頼みたいことがあるそうだ」
帝都大学医学部の法医学教授・石上妙子(原田美枝子)は元の夫である厚田班長と情報を共有している。
比奈子の特異な心理的問題についてもある程度・・・洞察している様子である。
「精神・神経研究センターにサンプルを届けて欲しいの」
「・・・」
「というのは口実で・・・彼に面会してもらいたいのよ」
「あの人とは・・・もう会わないつもりです」
「まあまあ・・・そう固いことをいわないで」
石上は比奈子を抱きしめる。
「彼はあなたに逢いたがっている・・・わかるでしょう・・・生きている人間にはぬくもりがあるの・・・死んだら・・・冷たくなるだけよ」
石上教授の体温は・・・比奈子に亡き母の体温を連想させる。
比奈子は反社会的傾向を理由に隔離されている心療内科医師で電子工学の天才・中島保(林遣都)と面会した。
「私は・・・あなたに潜入しました」
「何か・・・わかりましたか」
「一部の感情が欠落しているあなたは・・・父親に怪物と呼ばれたことで・・・自分が怪物であるという認識を獲得した・・・そして・・・真壁永久という虐待によって変質した精神の持ち主から・・・ナイフという自分らしく殺せる道具を入手した・・・しかし・・・それだけではないはずです。それならば・・・あなたは怪物として父親という人間を殺すことで自己完結できる・・・何かが不足しているのです・・・重要なキーワードが・・・」
「それは・・・母の言葉でしょうか」
「お母様は何とおっしゃったのですか」
「比奈子・・・あなたは・・・大丈夫・・・間違わないで正しい選択をして生きていける・・・と」
「なるほど・・・だから・・・あなたは・・・迷ったんだ・・・自分が人間を殺せる怪物なのか・・・そしてそうすることが正しい選択なのか・・・」
「たぶん・・・そう考えるべきなのでしょう」
「その時・・・お母さんは他に何かしませんでしたか」
「私を抱きしめました」
「あなたは何かを感じましたか」
「母の体温を・・・」
「そうですか・・・あなたは・・・体温のあるお母様と・・・体温のないお母様のどちらを正しいと感じますか」
「・・・」
「わかりますね・・・人間の正しさには・・・答えなどないのです」
「・・・」
「あなたは・・・怪物ではない・・・ただの人間です・・・そして・・・人間は自分が正しいと思った選択をすればいいのです・・・人間にはそれしかできないからです」
「私が・・・正しいと思ったことをするべきだ・・・ということですか」
「そうするべきです」
比奈子は無表情に中島を見つめる。
比奈子の脳内では人智を越えた超高度な情報処理が行われていた。
秘密の隠れ家で東海林は囚われの身となっている。
「この男・・・殺さないの」
都夜は永久に問う。
「これは・・・比奈子を釣る餌だからね」
「生きていることにすればいいじゃないの」
「生き餌じゃないと食いつかない魚もいるのよ」
「・・・」
一瞬の隙をついて反撃する東海林・・・。
しかし、不自由な身では・・・都夜の激昂を引きだすのが精一杯だった。
「やはり殺すしかないわ」
「やめなってば・・・」
「あんたの指図は受けないよ」
東海林に馬乗りになり鋏を取り出した都夜に電撃を食らわす永久。
「あんた・・・比奈子の関係者だから・・・生かしておいたけど・・・つまらない女だな」
「なんだって・・・」
淡々と都夜に灯油をかける永久。
「やめて・・・」
「おい・・・何をする」
「やめてよ」
「おい・・・やめろ」
「あんたの無駄な抵抗が・・・この女を死に導いた・・・つまり・・・あんたが殺したとも言えるのよ」
「ふざけるな・・・」
「ふざけてなんかいないわよ」
永久はマッチを擦った。
「あなた・・・背中の火傷を気にしていたんでしょう・・・これで目立たなくなるわよ」
「やめて・・・あああああああああああああああああ・・・」
都夜の麻痺した身体から炎が燃えあがる。
「そんな・・・嘘だろう」
東海林は永久の底知れぬ残虐さに戦慄した。
「人間が燃えるのって綺麗よね」
「お前なんなんだ・・・」
「私は真壁永久・・・職業は人殺し・・・趣味も人殺し」
「・・・藤川もお前が殺ったのか」
「あんたの代わりにね」
「俺の代わり・・・」
「あんた・・・藤川が死んでちょっとホッとしたでしょう」
「何を言ってる・・・」
「藤川の脅迫がエスカレートしたら・・・自己保身のために・・・あんただって藤川を殺しただろうって言ってるの」
「お前と一緒にするな」
「妹殺されて・・・殺人犯と見れば見境なく暴行していたあんたにはこっち側にくる素質があるんじゃないの」
「・・・」
「比奈子がこっち側に来れば・・・あんたにもそうなる可能性があるんだと思わない?」
「なぜ・・・比奈子にこだわる・・・」
「そうねえ・・・私・・・あの子にときめいているの・・・ずっとね」
「・・・」
「私を何度も殺そうとした父親・・・それを見て見ぬフリをした母親・・・保護施設の運営者は親に捨てられた私を欲望のはけ口として利用して穴という穴に突っ込んできた。そうして私はこんな怪物に仕上がった。でも・・・あの子は違った・・・あの子は何も感じない・・・無色透明で・・・とっても綺麗だった」
永久はトランクの中から人体のパーツを収納したフィルムケースを取り出す。
「紹介するわ・・・これがクソ親父・・・の親指」
「これがクソママの薬指」
「これがクソ園長の人差し指」
永久は都夜の焼死体から燃え残った歯を取り出す。
「これが・・・クソ殺人鬼の奥歯」
都夜の歯をフィルムケースに入れてカラコロと鳴らす永久。
「いい音でしょう」
「・・・」
屈託のない永久の笑顔に・・・魅了される東海林・・・。
「もうすぐ・・・比奈子がやってくるよ」
「・・・あいつをどうするつもりだ」
「私ね・・・飽きてきたのよ・・・」
「飽きた?」
「この世界を憎み続けることに・・・だって・・・ものすごく退屈なんだもの」
「比奈子に殺させて・・・退屈さに終止符を打たせるのか」
「そうよ・・・あんた・・・やはり・・・クソ刑事ね」
比奈子は・・・永久の指示に従って・・・自宅ポストに投函された藤川の携帯電話を回収していた。
発信された囮の携帯電話を負う刑事たち。
第三者の車による昔ながらのフェイクである。
秘密の隠れ家に比奈子が現れた。
「やはり・・・一人で来たわね」
「バカ野郎・・・なんで一人で来た」
「東海林先輩を死なせることはできないので」
「・・・」
「約束通り・・・東海林刑事を解放してください」
「もちろん・・・だけど・・・もう一回選択してもらうわよ」
永久はライターを取り出した。
「このクソ廃墟には灯油を散布してあるの・・・クソ刑事の手錠の鍵は私のお腹の中・・・さっき・・・小腹がすいたので食べちゃったから・・・さあ・・・どうする・・・クソ刑事でバーベキューにするか・・・私のお腹からナイフで鍵を取り出すか・・・タイムリミットは三分ね」
「・・・」
比奈子はナイフを取り出した。
「どうしても・・・私に人を殺させたいのですね」
「そうよ・・・とっくに殺していると思ったのに・・・モタモタしているから・・・まあ・・・最初は慎重になるものだけど・・・一度やってしまえば・・・案外、簡単よ・・・習うより慣れろよ」
「やめろ・・・」
「しかし・・・東海林先輩を・・・」
「つべこべいうな・・・どんな理由をつけたって・・・人殺しは人殺しなんだよ」
「ふふふ・・・大丈夫よ・・・比奈子・・・これはどう見たって殺人じゃなくて・・・正当防衛あるいは人命救助なんだから」
「そんな奴の言うなりになるな・・・ナイフなんか捨てろ・・・お前が人殺しになったら・・・俺は絶対許さないぞ・・・ぶっ殺してやる」
「東海林先輩・・・意味不明ですよ」
「意味なんか知ったことか・・・俺は信じてるんだ・・・お前に人が殺せるわけないってな」
「私には殺せない」
「お前は怪物なんかじゃない・・・ただの人間だ」
「私はただの人間・・・」
「そうだ・・・それにお前はまだ刑事なんだから」
比奈子は永久に対峙する。
「ライターを捨ててください」
「残念・・・時間切れよ」
たちまち炎に包まれる廃墟。
比奈子は廃材を握り、東海林を繋ぎとめる鉄の柱に挑む。
「無理だ・・・逃げろ」
「決めてください・・・左手と右手・・・どっちにしますか・・・一分後にどちらかを切り落とします」
「無表情でこわいこと言うなよ」
「命は助かります」
「結局・・・あんたもそっち側の人間か・・・だったら殺すしかないね」
襲いかかる永久にタックルする倉島刑事・・・。
「真壁永久・・・殺人容疑で逮捕する」
「え・・・」
刑事たちは消火器を持って乱入する。
東海林は比奈子を見上げる。
「よく・・・踏みとどまったな・・・」
「・・・」
「認めてやるよ・・・お前はまだ刑事だ」
「・・・」
「忘れるな・・・俺やみんなが・・・お前を信じていることを・・・」
比奈子の心の中で・・・何かが蠢く。
見えない・・・聞こえない・・・だから言葉も知らないヘレン・ケラーが水に・・・水に名前があることに・・・気がつく奇跡の一瞬のようなものが通りすぎる。
いつもそこにあるのに・・・比奈子が気がつかなかったもの。
それは愛だった。
比奈子は無表情のまま・・・涙を流した。
「おい・・・こんなところで泣くなよ」
「ただの生理現象です・・・たぶん」
「・・・」
東海林刑事は厚田班長に囁く。
「どうして・・・ここが」
「俺が何年刑事をやっていると思ってんだ」
新人鑑識官の月岡真紀(佐藤玲)が暴露する。
「真壁永久が佐藤都夜に送ったまつり縫い方式の暗号を三木鑑識官が解読したのです」
「班長・・・人の手柄を・・・横取りか」
連行される永久。
「お別れだね・・・比奈子」
比奈子は永久を抱きしめた。
「あなたも・・・こうやって誰かに抱きしめてもらえていたなら・・・」
「ああああああああああああああ」
永久は地獄の底で咆哮した。
比奈子の退職願は・・・厚田班長の元妻である石上教授がポケットを確認しないで洗濯したために判読不能となった。
仕事を終えて帰宅した比奈子は・・・表情筋に休息を命じる。
夢の中で比奈子は永久に手錠をかけた。
「・・・」
「私は・・・刑事なので・・・」
母親の香織(奥貫薫)は微笑んだ。
心のない比奈子は・・・光のあふれる世界に突入していく。
心などなくても・・・人間は生きていけるのだから。
何かを間違えて怪物になってしまうまでは。
サイコサスペンスとしては21世紀の最高傑作と言えるドラマだが・・・ただのお茶の間には受け入れ難いのかもしれない。
それが世界というものだからな。
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