色仕掛けの香典泥棒(向井理)文学的なそこそこ文学的な(木村文乃)しっぽりと索状痕(佐藤二朗)
教養を身につけるのは難しい。
最低でも・・・義務教育中の教科書の内容は全部暗記しておく必要があるだろう。
そういう意味で・・・日本には教養のある人はほとんどいないと思われる。
小説「伊豆の踊子」(1927年)と言えばノーベル文学賞受賞者の川端康成の代表作の一つである。
基本的には読んでおくことが教養を高めるわけだが、かっては映画化される文芸作品の定番であり・・・内容は映像化された作品で知っていると言う人も多かった。
田中絹代、美空ひばり、鰐淵晴子、吉永小百合、内藤洋子、山口百恵などが銀幕のヒロインとなっていた。
しかし・・・山口百恵版が1974年、テレビドラマの後藤真希(モーニング娘。)版が2002年である。
アイドル全盛期において・・・誰も伊豆の踊子を演じない時代である。
一方、小説「天城越え」(1959年)は松本清張によるミステリ作品である。
「伊豆の踊子」の舞台が・・・作品の背景にあり・・・およそ三十年の歳月が交錯する形になっている。つまり・・・「伊豆の踊子」時代に起きた事件を振り返るスタイルである。
小説「天城越え」には「私」として登場する主要人物は映画「天城越え」(1983年)で小野寺建造とネーミングされている。
今回、舞台となる旅館「仇母巣亭」の支配人の名前が小野寺建造である。
そして・・・「天城越え」の事件を捜査するのは静岡県警察の刑事部嘱託・田島松之丞である。
今回、静岡県警の警部補は田島梅之丞だ。
そういう些細なお遊びも・・・教養のない人にはほとんど無意味なのである。
まあ・・・それがテレビというものならば・・・何もかも虚しいとMr.Childrenはまだ歌っていない。
で、『神の舌を持つ男・第9回』(TBSテレビ20160826PM10~)原案・演出・堤幸彦、脚本・櫻井武晴を見た。「ニサス」の定番の一つに「子を捨てた母の恩讐劇」というものがある。今回、死体発見の舞台となる旅館が「仇母巣亭」であり・・・「オレたちひょうきん族」に登場するキャラクター・マネー島崎(島崎俊郎)の決め文句「アダモステ~・・・ペイ」へのパロディーであると同時に・・・仇なす母の巣窟という暗示があると思われる。
「天城越え」では・・・少年が年上の女に仄かな思いを抱くのだが・・・その背景には・・・実母への屈折した愛情が存在する。
思わせぶりに登場する「仇母巣亭」の一人息子である駿(中澤準)が流浪の温泉芸者・ミヤビこと平良カマドメガ(広末涼子)に示す思慕の情が・・・母親である女将の華子(烏丸せつこ)と絡んで・・・「天城越え」的世界観を醸しだすのだろう。
ちなみに・・・「天城越え」での容疑者の名はハナである。
ヘアピンカーブ(九十九折)を抜けて天城峠にさしかかる伝説の三助・朝永平助(火野正平)の孫である人間成分分析器・朝永蘭丸(向井理)、ニサスマニア(二時間サスペンスドラマ愛好家)の古物の行商人・甕棺墓光(木村文乃)、そして宮沢賢治の心象スケッチを諳んじる宮沢寛治(佐藤二朗)の温泉探偵トリオ・・・例によって、車はガス欠である。
「テンジョー越えとか・・・イマメのオケ子とかで有名なんだって」と甕棺墓くん。
「天城越えで伊豆の踊子だ」と寛治。
「教養あるな・・・理系の僕にはわかりません」と蘭丸。
「一般常識である」と寛治。
「あなたと越えたい~」と歌い出す甕棺墓くん。
「石川さゆり・・・1986年である」と寛治。
ちなみに・・・木村文乃は1987年生まれだ。
時は流れていくよねえ・・・。
ところで・・・無垢な少年的青年を演じる向井理は1982年生まれの34歳である。もう・・・いい加減、おっさんなのだが・・・イケメンなのでイケてるわけなんだな。
おっさんなのに・・・思春期の少年のような振る舞い・・・ある意味、凄いぞ。
六歳も年下の文乃が年上のお姉さんに見えてくるところがな。広末涼子だってもう36才なんだぜ。
二十歳で出産していると子供が高校生の年頃だよな。
とにかく・・・作中の年齢設定による物語が読みにくい時代だ・・・。
意外性の作り方が難しいんだよな・・・なんでもありだからなあ。
烏丸せつこも61才なのである。
徒歩で伊豆の九十九温泉郷(フィクション)を目指すトリオは旧天城トンネルこと天城山隧道を抜けたところでミヤビが謎の男から三万円を受け取っているところを目撃する。
「ミヤビ・・・」と呟く謎の少年に気がつく蘭丸。
少年からは温泉の成分が検出される。
ミヤビを追うトリオは九十九町の公民館で稽古中の芸者たちを訪ねる。
「ミヤビ・・・そんな芸者は聞いたことがないズラ」
一癖も二癖もありそうな芸者たちは・・・。
五十代のキチ(久世星佳)、四十代の貞奴(猫背椿)、三十代の豆羽(肘井美佳)、小太郎(信川清順)と年増ばかりだった・・・。一部お馴染みの顔ぶれだな。元宝塚月組トップスターも混じっているがな。
「そういえば・・・着物コンパニオンが・・・仇母巣亭に呼ばれズラ」と魔界騎士を生みそうな肘井美佳が情報提供である。
トリオは「仇母巣亭」で例の売り込みである。
「泊まりたいが金がない・・・ハッハッハ」
「お話がよくわかりません・・・」と女将の華子。
「すると・・・あなたたちは・・・噂の三助トリオ」と話の早い支配人・建造(不破万作)だった。
「三助営業」で「宿泊料ペイ」である。
英語を話す女性やロシア語を話す女性の外人観光客サービスの後・・・男性観光客の予約も受ける蘭丸だった。
生まれ故郷に錦を飾った高木社長(岩尾万太郎)がヅラこと鬘をつけると謎の男だった。
「風呂上りのヅラは暑いズラ」
「あなたは・・・ミヤビさんのなんなんですか」
「フィアンセです」
「そんな・・・これは夢だ」
頬をつねった蘭丸は激痛に叫ぶのだった。
「いたああああああい」
アホである。
旅館のロビーでミヤビを待ち伏せる蘭丸。
やってきたミヤビは「なぜ・・・私につきまとうのか」と問う。
「だって・・・僕の口にあう人は・・・ミヤビさんだけなのです」
「そんな・・・セクハラみたいなことを言われても」
「でも・・・あの時ミヤビさんは僕にキスを・・・」
「挙動不審の女の心変わりを責めても空しいと言うでしょう」
七時に予約の入っているミヤビは高木の部屋に向う。
追いすがる蘭丸を女将が押しとどめる。
「人の商売の邪魔したらだめズラ」
そんな悲惨な光景を少年は見ていた!
高木の部屋に入ったミヤビを追いかけて・・・ドアの前で一時間粘る蘭丸。
しかし・・・ついにトリオの部屋へ戻ってくる。
「あきらめなさい・・・今頃二人はしっぽり・・・」
「いろいろ・・・具ののったうどんを・・・」
「それはしっぽく」
しっぽりの見本を見せようと甕棺墓くんに背後から迫った寛治は・・・銭形平次の十手で撃退される。
「お値打ちものよ」
「銭形平次は野村胡堂による小説の登場人物である。実在の人ではない」
「えええええ・・・小銭を投げるなんて変だと思った」
スマホで・・・「しっぽり」を検索する蘭丸。
いろいろなことが想像され・・・色情を枕に叫ぶのだった。
「眠れん・・・」とぼやく寛治。
そこで・・・年輪を感じさせる女将の長い絶叫が響き渡る。
天下無双の寝相の悪さから一転、貞子か伽椰子か判別不能の長髪幽霊女モードで現場に出動する甕棺墓くんだった。
深夜・・・ドアから灯りが漏れているのを不審に思った女将が・・・高木の変死体を発見したのである。
早速・・・検死を開始する甕棺墓くん。
「すでにこときれている・・・」
「なぜ・・・こめかみで脈を・・・」
「ハゲだから」
「おいっ」
「女物の帯締めで・・・首を吊ったように見えるけど・・・自殺する時にヅラを外すものかどうか・・・微妙なところね」
「脱いだ鬘が乱れているのも気になります」
「それに・・・」
そこへ・・・支配人に呼ばれた静岡県警の刑事が到着する。
田島梅之丞警部補(六平直政)と若葉悟巡査(矢野聖人)のベテラン&若手コンビである。
「お前たち誰だ」のいつものコントがあって・・・。
「索状痕の位置がずれているので・・・他殺の疑いがあります」
「自殺に見せかけるための地蔵背負いが失敗したのね」
「だからあんたは誰なんだ」
「しかし・・・吉川線がないのはおかしいわ」
吉川線とは・・・大正時代の警視庁鑑識課長・吉川澄一氏が提唱したという説のある殺人事件の被害者の首に見られるひっかき傷の跡である。
絞殺・扼殺の手際が悪く脳虚血ではなく窒息状態となると苦悶する被害者が残すことになる抵抗の痕跡である。
きっかわではなくよしかわと読みます。
そして・・・被害者の指先には・・・白粉が付着していた。
重要参考人として呼び出されるミヤビ。
ミヤビは午後七時から九時まで部屋にいたことは認めるが・・・高木は不在だったと言う。
しかし・・・高木の死亡時間は・・・午後七時から九時までの間・・・その時間の高木の不在が証明されなければミヤビのアリバイは成立しないのだった。
やがて・・・高木が・・・芸者のキチ(久世星佳)とも親密だったことがわかる。
被害者の手に残された白粉と照合するために・・・芸者たちに白粉の任意提出を求める刑事コンビだった。
そして・・・高木とミヤビの関係が明らかとなるのだった。
ミヤビが由緒正しい芸者だった頃・・・高木は結婚を前提に・・・ミヤビを身請して芸妓業界から落籍させた。
その頃すでに・・・キチの旦那だった高木は・・・キチとは疎遠になったらしい。
この過程で女将もまた芸者だったことがあり・・・妊娠により結婚の道を選んだことが明らかになる。
また・・・亭主の建造は遊び人で豆羽と親密な関係にあるらしいことが判明する。
高木との新生活を始めるつもりだったミヤビ。
しかし・・・直後に高木の経営する会社は倒産。
「さげまんなのね」と甕棺墓くん。
生活に貧したミヤビは温泉コンパニオンとして働き始めるのだった。
しかし・・・「芸者とボルダリング」や「芸者とバイキング」などの色ものツアーに参加中・・・重病を発する。
食細胞機能低下症候群(グラン・ギニョール氏病)・・・フィクションだが症状は一般にエイズ(AIDS)で知られる後天性免疫不全症候群と類似している。
グラン・ギニョールはフランスの劇場名に由来する荒唐無稽の代名詞である。
治療には高価な薬の投与が必要であり・・・保険未加入のミヤビは困窮する。
朝永平助の葬儀で香典泥棒をして・・・色仕掛けで・・・蘭丸から逃れたというのがキスの真相らしい・・・。
ミヤビが・・・追いつめられた原因をターさんこと高木社長に求め・・・殺意を抱いてもおかしくない状況だった。
高木社長の指先に付着していた白粉はミヤビの白粉と成分が一致する。
そして・・・「ミヤビと高木社長が部屋にいるところを見た」という少年の証言が・・・ミヤビを追いつめるのだった。
なぜか・・・少年の証言によって・・・心を決めた様子のミヤビである。
「私が・・・高木さんを殺しました」
犯行を認める供述を開始するミヤビ・・・。
その結果に激しく動揺する少年・・・と少年のような蘭丸。
だが・・・それは・・・まだ・・・事件の真相ではないらしい。
何しろ・・・前後篇である。
これはまだ前編の終わりなのである。
ニサスだからである。
事件を聞きつけ・・・蘭丸を迎えにやってきた京大薬学部教授の朝永竜助(宅麻伸)・・・。
「結局・・・蘭丸は凡人だった・・・大木凡人だ」とお約束のギャグを述べる竜助に甕棺墓くんと寛治は反発する。
「蘭丸は天才です」
舌の分析能力を父親の前で披露するように求める二人。
「さあ・・・いつものように口にだして」
変なセリフを言わされる甕棺墓くんだった。
しかし・・・蘭丸の舌に・・・支障が生じていた。
何も感じなくなってしまた・・・神の舌である。
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