好きな人に背中を押されること(桐谷美玲)黙ってニューヨークに行ってこい(山崎賢人)
夏ドラマのレビューもフィニッシュ直前である。
「月9」のテイストに「恋」はかかせないわけだが・・・そこに「青春」を重ねるかどうかは別問題である。
「恋と青春」はある程度・・・年齢制限がかかるわけだ。
もちろん・・・中高年にも・・・ノスタルジーという味わい方はある。
しかし・・・現代においては・・・「いつまでも若くいつまでも愚かものでありたい」病が蔓延して・・・懐かしい「恋と青春」が通用しにくくなっているのではないかと考える。
そこで「夢と冒険」を持ちこむ手があるわけだ・・・「夢」や「冒険」は年齢を問わないからである。
久しぶりに長い歌番組で「強く儚い者たち/Cocco」(1997年)を聞いた。
甘く優しい冒険の果てに待っている「腰を振ってる」というフレーズを毒々しく感じなければこの歌はそれほど面白くはない。
若者たちは強欲だ。
「恋と夢と冒険に満ちた青春」を求めている。
それが儚いものであることを知っている大人が減ったような気がするのは幻想なのだろうか。
で、『好きな人がいること・最終回(全10話)』(フジテレビ20160912PM9~)脚本・桑村さや香、演出・金井紘を見た。パティシエの櫻井美咲(桐谷美玲)は突然、竜宮城に招待される。職を失い途方に暮れていたところで・・・憧れの先輩である千秋(三浦翔平)に食べさせたケーキが効いたのである。和菓子屋の娘に生れて洋菓子職人になった美咲の「夢の残滓」が魔法のような「ひと夏の恋」の扉の鍵を開く。
もちろん・・・美咲は処女なのである。
海辺の町のレストラン「Sea Sons」にはシェフ・夏向(山崎賢人)がいて美咲と夏向は最悪の出会いをするが・・・いつしか美咲は夏向の虜になっていく。
奥手の・・・二十七歳で処女なので・・・美咲はようやく・・・夏向に告白したのだが・・・先に告白した夏向は豹変して・・・美咲に対して腰をふらないと言い出すのだ。
今回は・・・夏向の真意を明らかにしつつ・・・結局・・・腰を振らなければ恋は結末を迎えられないという話である。
三男の柴崎冬真(野村周平)は美咲が告白して「恋」が成就したと思いこみ祝福するが・・・千秋は・・・美咲の元気のなさを気にかける。
「僕でよかったら相談にのるけど・・・」
「私・・・ふられちゃいました」
「え」
先週、美咲にふられたばかりの千秋としては幸いとしか思えない流れだが・・・聖人君子と獣の間を右往左往する千秋は・・・もう最終回なので野獣化できないわけである。
「好きだと言われたから告白したのに・・・もう嫌いになったってどういうこっちゃ」と美咲も夏向を問いつめるが・・・口を閉ざす「不器用な男」なのである。
お茶の間は・・・一本の電話が・・・夏向の心変わりの原因であることを知っていて・・・あれこれ妄想するわけである。
やがて・・・有名なレストラン・プロデューサー大橋尚美(池端レイナ)が美咲にコンタクトして・・・ニューヨークの有名店で・・・パティシエ修行の話を持ってくる。
大橋が・・・恋仇なら・・・陰謀であるが・・・最終回なのであくまで善意なのである。
ここが恋の竜宮城である以上・・・すべては予定調和なのだ。
美咲の「叶わなかった夢」は・・・海外での修行生活だった。
お茶の間は・・・たちまち・・・夏向の意図を了解する。
彼は愛する人の夢を叶えてあげようとしているのだった。
だったら・・・「せっかくのチャンスだから行って来い」で済む話じゃないかと言ってはいけない。
夏向は不器用な男で・・・美咲は決断に時間のかかる女なのである。
愛する男を残して・・・夢を追いかけることなんてできるはずがないと・・・夏向は先読みしているわけなんだな。
とにかく・・・最終回なのである。
「私って・・・あなたにとって必要な女じゃなかったの」という美咲の問いかけに心を鬼にして「パートナーとして実力不足だ」と告げる夏向。
もちろん・・・大橋プロデューサーのお誘いがあった時点で・・・美咲が夏向の真意に気付くだろうとも思うが・・・美咲は鈍い女という設定なのである。
美咲はせっかくの話をお断りするのだった。
そこで・・・大橋プロデューサーは千秋にも話を通す。
「夏向さんも賛成してくれたんですけど」
「なるほど」
察しのいい千秋はたちまち・・・全体像を把握するのだった。
しかし・・・そのことを美咲には言わない千秋。
やはり・・・ワンチャナンスを狙っているのか。
店を辞めようとしない美咲に・・・さらに圧力をかける夏向。
新しいパティシエ(JY)の採用である。
追い込まれた美咲は・・・ついにニューヨーク行きを決意するのだった。
まあ・・・タイムリーにニューヨークで爆弾事件が起きたりして・・・言葉も不自由そうな美咲を嵐の海へ送りだし・・・宝島を目指せと追い込んでいく夏向に一種の性的倒錯を感じないわけでもないけどな。
明らかに・・・いろいろと気付かないフリを要求されるドラマ的展開で・・・もう少し勉強してもらいたいよね。
そういう馬鹿馬鹿しさを狙っているというわけでもないんだろうから・・・。
空気を読めない人たちの話か。
だからNYでKYでJYなのか。
自分で追い出しておきながら・・・歯をくいしばって・・・愛する人を失う可能性に耐える夏向なのである。
結局・・・意味深な態度だけしかなかった外食チェーン店経営者の東村了(吉田鋼太郎)か来店し・・・「シェフの夏向とパティシエの美咲は名コンビだ・・・離れ離れになってはいかん」と言い出す始末である。
まさか・・・笑うところじゃないだろうな。
そして・・・あっという間に・・・美咲の旅立ちの日がやってくる。
どうしても・・・夏向を諦めきれない美咲は・・・レストランから海へと・・・彼の姿を追い求める。
しかし・・・サーフボードを小脇に抱えた夏向はあくまで素っ気ない。
「ああ」とか「まあ」とかしかいわないのである。
「夏向・・・あんたって・・・本当にむかつく・・・でも・・・楽しい夏だったよ」
美咲は海辺の街を出て行った。
その日は・・・有名な評論家の食レポの予定が入っている。
しかし・・・「ありがとう」という言葉ともに返却された合鍵を見た夏向は我慢の限界に達するのだった。
「兄貴・・・俺・・・」
「まだ・・・遅くないさ」
千秋は美咲の利用する航空便をメモしていたのだった。
たちまち・・・評論家をスルーして羽田空港国際線ロビーを目指す夏向。
近場で処理かよっ。
そして・・・二人の運命を支配する浜辺の天使たちは・・・季節外れの海外旅行の途中で・・・美咲のシャツにソフトクリームで着色し・・・足止めをするのだった。
「美咲・・・」
「なんで・・・ここに・・・」
「ずっと一緒にいろよ」
「え・・・私はこれから・・・ニューヨークに」
「お前がどこにいようと・・・いつも一緒だと言っている」
「はい」
お約束の空港ロビーで熱い抱擁である。
もちろん・・・周囲の人々に見せつけるためにキスをする二人だった。
そして・・・遠距離恋愛に突入である。
とにかく・・・人が強かったり儚かったり他の誰かと腰をふったりしない夢物語なのである。
いつもにぎやかな石川若葉(阿部純子)がサンタスタイルで街をパレードする。
サーフショップ「LEG END」の経営者・日村信之(浜野謙太)と奥田実果子(佐野ひなこ)のカップルはダイレクトなキスはNGらしい。
美少女風だが美少女とは言い難い愛海(大原櫻子)は母の容体が安定していることを近況報告。
クリスマス・パーティーの準備に忙しい冬真は・・・二宮風花(飯豊まりえ)にちょっと甘える。
別れた恋人を想いながら高月楓(菜々緒)は孤高のピアニストを目指す。
そして・・・ホワイト・クリスマスを迎えたニューヨークで・・・邂逅した恋人たちは手を繋ぐ。
「なんか・・・食べよう」
「いいお店知ってるの」
「黙って俺についてこい」
雑踏の中に消える夏向と美咲・・・。
そして通りに閃光が満ちる。
君に言いたいことがある
私に誠実でいてください
つらい気持ちを味わうのは
もうこりごりしているから
丸太のように眠りたい夜も
いい感じに腰をふってもらいたい
・・・それが恋の定番というものだから。
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