天下人の子であって愛の結晶ではない(竹内結子)
久しぶりのヒロイン・高梨内記の娘きり(長澤まさみ)の未登場回である。
歴史上の主役と言える淀殿こと茶々(竹内結子)が前面に出て、主人公の真田信繁(幸村)への「死の呪い」を深める展開である。
浅野家滅亡における小谷城落城と、柴田家滅亡における北ノ庄城落城によって父と母を失いながら脱出して生存してきた茶々にとって・・・籠城は・・・それほど恐ろしいことではなかったとも推測できる。
いざとなったら・・・迎えが来ると考えたのかもしれない。
何故なら・・・攻め手の将軍秀忠の正室は妹の江であり・・・城内には豊臣秀頼の正室として・・・将軍と江の娘である千姫もいる。
ドラマでは・・・「滅亡」に萌える茶々の姿が描かれるが・・・史実としては楽観があったのかもしれない。
浅井三姉妹の一人、常高院(はいだしょうこ)の嫡男・京極忠高は幕府陣営にいるが・・・その正室は千姫の妹の初姫である。
豊臣家と将軍家は・・・血縁で結ばれているのである。
それゆえに・・・淀殿・秀頼母子の「死」は徳川幕府の作る太平の世に・・・暗い影を落すとも言える。
ドラマでは・・・淀殿こと大広院の乳母・大蔵卿局とその子・大野治長や・・・大広院の叔父で織田信長の弟・織田有楽斎が・・・城方として牢人衆と対立するわけだが・・・そもそも・・・大蔵卿局は末子・治純を家康の人質としているのである。
大蔵卿局にも「楽観」はあっただろう。
織田有楽斎に至っては五男の尚長が大和柳本藩一万石の大名として家系を明治まで繋ぐ。
つまり・・・大坂城での有楽斎は幕府の間者だったのである。
一方、大坂城には牢人衆の他に秀吉時代からの七手組(ななてぐみ)という親衛隊があった。
筆頭は速水守久で浅井家の旧臣であり最後は秀頼に殉じる。青木一重は夏の陣には参加せず、摂津麻田藩一万石の大名として存続する。つまり間者である。伊東長実は戦後、備中国岡田藩一万石の大名となる。つまり間者である。中島氏種は夏の陣で落城前に自刃。野々村幸成は落城中に自刃。木村重成の妻となった青柳の父である真野頼包は消息不明。堀田盛重(正高)は自害もしくは討ち死にである。
淀殿の叔父が間者、七人の親衛隊の内・・・二人が間者である。
徳川家康の忍びとして腕が冴えわたっている。
で、『真田丸・第43回(NHK総合20161030M8~) 脚本・三谷幸喜、演出・小林大児を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は豊臣秀頼の母にして大坂城のお上様・・・淀殿の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。妖艶かつ哀愁の淀殿の魅力全開でございますねえ。秀吉の武具庫には埃が積もり・・・武具は散乱していた。戦を忘れて十余年・・・城の支配者は・・・武士ではなく・・・姫である。しかも・・その姫は少し精神を病んでいる。真田幸村の前途に暗雲が立つという感じでごさいました。しかし・・・幸村にとって・・・大坂城は青春そのものでございます。そこに帰ってきてしまったのだから・・・もう仕方ないのでございますよねえ。しかし・・・歴史というのは不思議なものでございます。敗者に過ぎない真田幸村の栄光が物語られるわけですからねえ。すべてが幸村を輝かせるための舞台であったとも考えられる・・・そして・・・ついに幸村は役割を演じ始めるわけでございます。いつもは・・・敵役の大野治長さえ・・・少し男前になり・・・籠城は・・・戦略ではなく・・・政治だったという流れでしたね。そもそも・・・京都攻略は最初の一手とも言うべき基本であり・・・それが実行されなかったのは・・・出陣準備が間に合わなかったか・・・やはり・・・攻略部隊の寝返りを懼れたかのどちらかなのでしょうね。とにかく・・・五人衆が戦隊ヒーロー的で華やいでまいりました~。ああ・・・もう十一月ですなあ。
米一石は人間が一年に消費する米の量である。豊臣秀頼はおよそ六十万石ほどの大名であったから単純計算では六十万人を養えることになる。しかし、実際には兵力を維持するためには一族郎党の糊口をしのぐ必要があり、豊臣政権時代の軍役は一万石あたり二百五十人とされた。四万石で千人、四十万石で一万人の計算である。つまり、豊臣秀頼の常備軍はおよそ一万五千人ということになる。もちろん・・・これには兵種の問題がある。槍兵よりも騎兵や銃兵の方が予算がかかるわけである。大坂の陣において将軍秀忠の定めた軍法では一万石の大名は鉄砲20丁、弓10張、槍50本、馬上14騎となっている。およそ百名であり、兵種によって補助兵としての従者や輸送部隊員が加わり倍以上の人数になっていく。このことから・・・牢人衆が十万人も集まればたちまち兵糧は尽きることが予想される。大坂や堺は米の集積場であったために城方は周辺の米蔵を収奪し、城内に蓄えた金銀により米商人から高値で購入もした。そのために周辺の物価は鰻登りとなったという。家康が偵察部隊として大和に派遣した藤堂高虎は伊賀・伊勢(一部)二十万石の大名であり動員兵力は五千人だったが・・・その配下には大和・伊賀・甲賀の忍びのものが多数属していた。
大坂城内にある真田幸村は・・・摂津、大和、山城、近江に進出する積極策を否定される前から籠城における前衛要塞としての真田丸の築城を進めるとともに・・・真田忍軍を京方面と奈良方面に放っている。
京周辺には真田昌幸の娘である桔梗の血を引く真田幸経、真田幸朝の兄弟が、奈良周辺には真田佐助と霧隠才蔵が潜んでいた。
下忍たちは裏街道を渡り、刻々と変化する情勢を幸村に伝える。
幸村の義兄弟である堀田興重、吾妻忍び衆の棟梁である横谷重氏、上田城を抜けだしてきた家老の真田勘解由信昌、真田権太夫輝幸、高木内記・主膳父子などが・・・幸村を補佐していた。
幸村の家臣と言えるものは五十人ほどである。この他に幸村配下に入った真田忍軍は数百人を数える。
大坂城に集まった牢人衆のうち五千人ほどが幸村に割り当てられていた。
「大御所が二条城で公家衆と面談したようでごいす」
「京周辺は加賀の前田や越前の松平の軍勢であふれているところに・・・東軍諸勢が続々と到着し、ごった返しておりまする」
「真田丸の南にある篠山に鉄砲衆を忍ばせました」
「真田丸と篠山の地下道は開通しておりやす」
「紀伊の一揆は鎮圧されて浅野勢が出陣しましたぞ」
「将軍は近江に到着とのこと」
「山陽道には池田の軍勢が出てまいりました」
「茨木攻めをした大野勢が引き上げて参るとのこと」
「淀川堤の破壊は・・・不首尾にて」
幸村は情報を吟味しながら嫡男・大助を振り返る。
「大和路はどうした」
「才蔵と佐助から便りが途絶えております」
「・・・」
奈良周辺には藤堂配下の犬神衆が結界を張っていた。
佐助の配下の軒猿たちが・・・犬神衆との暗闘を繰り広げている。
忍びの技では真田忍軍が犬神衆を凌駕していたが・・・狼に変化する犬神衆の嗅覚は・・・軒猿たちの穏行を許さないのである。
嗅ぎつけられた軒猿は・・・大和の鉄砲忍びの包囲によって射殺されていく。
才蔵とはぐれた佐助は・・・包囲の輪が閉じられていくことを察知していた。
「わしとしたことが・・・」
佐助は術の衰えを感じる。
その耳元で・・・忍びが囁いた。
「佐助殿・・・」
「む・・・」
「それがしは・・・石田様に恩を受けた身でございます」
「石田様に・・・」
「関ヶ原の一戦の後・・・犬神衆は・・・藤堂様の配下となりましたが・・・それがしは・・・秀頼様にお味方つかまつる・・・」
「しかし・・・おいそれと信じるわけにはいかぬ・・・」
「心配ご無用・・・命を持って証まする」
「なに・・・」
「南にそれがしの持ち場がございます」
「お主・・・名は・・・」
「忍びに名など無用でござろう」
森の中を佐助が飛んだ瞬間・・・背後で爆発が起きる。
「微塵隠れか・・・」
佐助は無心の境地で破れた結界の裂け目を抜けていく。
名もなき忍びの報恩のわけもまた秘された。
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