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2016年10月18日 (火)

口で言うより手の方が早い男とその妻(壇蜜)

「忠臣蔵の恋 四十八人目の忠臣」の主人公はきよである。

「夏目漱石の妻」の主人公は鏡子だが実名はきよである。

「真田丸」のヒロインはきりだが・・・高梨氏には高梨清秀や高梨頼清などがおり・・・高梨内記の娘の名がきよでもおかしくはないのである。

そうなれば・・・三夜連続きよのレビューである。

・・・だからなんだよ。

何でもありません。

三夜連続が好きなんだな。

とにかく・・・コレのおかげで(月)のレビューが来週からどうなるか未定になってしまった。

それでなくても・・・秋ドラマは・・・微妙な作品の連打なんだよな。

ここまで一番楽しめたのは「警視庁 ナシゴレン課」(テレビ朝日)だからな。

それは単にぱるる(島崎遥香)が可愛かっただけだろうが。

かわいいと思うな思えば負けだ・・・そういう話か・・・。

カ、カニチャーハンが食べたい。

で、『夏目漱石の妻・最終回(全4話)』(NHK総合20161015PM9~)原案・夏目鏡子・松岡譲、脚本・池端俊策、演出・柴田岳志を見た。フィクションなので史実の夏目漱石とはいろいろと行動が前後するわけだが・・・史実だってフィクションなので別に構わないわけである。幕府が崩壊して・・・四十年・・・明治という時代も終盤にさしかかる。慶応三年(1867年)に生れた漱石こと夏目金之助(長谷川博己)も四十代になっている。夢を叶えて小説家となった金之助・・・その夢を支える妻の鏡子(尾野真千子)は明治四十三年(1910年)までに長女・筆子(五戸みう)、次女・恒子(根本真陽)、三女・栄子(南郷蘭奏)、四女・愛子(長谷川愛鈴)、長男・純一、次男・伸六を生んでいて・・・三月には五女・雛子を出産する。明治十年生れの鏡子は数えで三十四歳になる。

愛しあってるかい?・・・と問われればある意味愛しあっているわけである。

「坑夫/夏目漱石」が朝日新聞に掲載されるのは明治四十一年(1908年)一月である。

「文鳥/夏目漱石」が大坂朝日新聞に掲載されるのは六月である。

十月早稲田に移る。伽藍のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖で支えていると、三重吉が来て、鳥を御飼いなさいと云う。

漱石が早稲田に転居したのは明治四十年(1907年)である・・・ここは虚実の入り混じる幻想空間なのである。

三重吉が間もなく小説家としてデビューする鈴木三重吉(黒木真二)なのかどうかも不明なのである。

ドラマの世界では小説「坑夫」のモデルとなった荒井伴男(満島真之介)が・・・花嫁修業のための家事手伝いとして夏目家に住み込んでいる鏡子の従妹である山田房子(黒島結菜)をうっとりさせるわけである。

女性問題で家出をした放蕩息子の気配に・・・「危険」を察知する鏡子だった。

お嬢様育ちの鏡子は・・・自分以外の「甘えている人間」に厳しいのである。

「平家物語」を熱唱する金之助の「いい気分」を害しても「心配事」を解決しなければならないのだ。

繊細な金之助にとって・・・そういうガサツさは・・・不愉快なことであったが・・・我慢できないことではなかったらしい。

「房子が・・・戻らないのです・・・あなた・・・何か用事を頼みましたか」

「いや・・・」

房子は・・・社会主義者と関わっているらしい伴男とちょっとしたアヴァンチュール(冒険)を楽しんでいた。

幸徳秋水らが結成した社会主義結社「平民社」の週刊新聞「平民新聞」は明治三十六年(1903年)から刊行されていた。明治三十七年には「共産党宣言」の日本語訳を掲載している。しかし、日露戦争非戦の主張を唱えたために明治三十八年には廃刊に追い込まれている。

官憲に弾圧されるうちに・・・非戦論者たちは・・・暴力革命的になっていくのだった。

人間の辿る道筋は時代を越えるらせん階段のようなものである。

伴男を連れて戻って来た房子に釘を刺す鏡子。

「面白い人なんですよ・・・筆子ちゃんも勉強教えてもらって喜んでいるし」

「面白がったり・・・喜んだりするのはいいけれど・・・好きになってはいけない人よ」

鏡子は・・・伴男の心の闇を見透かしていた。

文鳥はまもなく死んだ。

漱石は家族が死んだように悲しみ・・・「たかが文鳥」と侮った鏡子を殴打する。

しばらくすると裏庭で、子供が文鳥を埋るんだ埋るんだと騒いでいる。庭掃除に頼んだ植木屋が、御嬢さん、ここいらが好いでしょうと云っている。

自分は机の方へ向き直った。そうして三重吉へはがきをかいた。「家人が餌をやらないものだから、文鳥はとうとう死んでしまった。たのみもせぬものを籠へ入れて、しかも餌をやる義務さえ尽くさないのは残酷の至りだ」と云う文句であった。

三重吉から返事が来た。文鳥は可愛想な事を致しましたとあるばかりで家人が悪いとも残酷だともいっこう書いてなかった。

ある日・・・漱石の留守中に・・・後に「閑さや岩にしみ入蝉の声」に出てくる蝉がアブラゼミかニイニイゼミかという問題で齋藤茂吉と論争したり、東京音楽学校校長となって邦楽科を廃止しようとする・・・少し軽薄な傾向のある小宮豊隆(柄本時生)が・・・金之助の理想の女と・・・鏡子が思いこんでいる・・・小説家の大塚楠緒子(壇蜜)を伴って現れる。

「夏目の家内でございます」

精いっぱいの猫なで声で対抗する鏡子だった。

自分が蔑まれていることを察した伴男は・・・鏡子に・・・漱石の書きかけの小説を使って意地悪をする。

「ここには・・・先生の理想の女が描かれているんですよ」

昔、美しい女を知っていた。この女が机にもたれて何か考えているところを、うしろから、そっと行って、紫の帯上の房になった先を、長く垂らして、頸筋の細いあたりを、上から撫で廻したら、女はものうげに後を向いた。その時女の眉は心持八の字に寄っていた。それで眼尻と口元には笑が萌ざしていた。同時に恰好の好い頸を肩まですくめていた。文鳥が自分を見た時、自分はふとこの女の事を思い出した。

誰よりも金之助を愛する鏡子にとって・・・大塚楠緒子は永遠のライバルなのである。

漱石の研究家によれば・・・この「美しい女」のモデルは大塚楠緒子ではないとされている。

伴男は・・・「おでん屋」の開業資金と偽って・・・房子や書生たちから金を集め・・・あげくの果てに社会主義者の騒動に巻き込まれ・・・警察に留置されて・・・身元引受人に金之助を指名するのだった。

伴男は・・・漱石の悪口も言いふらしている。

「言いたいことがあったら私に直接いいたまえ」

「私は冷たい家を捨て・・・先生の小説を読んで・・・暖かい家を求めて・・・この家にやってきたのです」

「・・・」

「ところが・・・先生は暴君だし・・・子供たちは父親を恐れている」

「余計な御世話だ」

「父も同じことを言いましたよ・・・父の冷たさを私が詰った時に・・・先生は・・・奥様を愛していると言えますか」

「・・・」

「この人にそんなことを訊ねても無駄ですよ・・・この人の頭には小説のことしかないのですから」

鏡子が夫に代わって答えたのだった。

筋金入りのお嬢様は・・・甘ったれた青年の主張には興味がないのである。

しかし・・・鏡子の嫉妬心は納まらない。

「文鳥を読みたいのです」

「そんなものは読む必要がなない」

「あなたの理想の女のことが書かれているんでしょう」

「・・・」

「文鳥より価値のない妻として・・・読む権利があります」

「さっきのお前の答えな・・・」

「はい?」

「なかなかいいと思ったよ」

夫婦には・・・夫婦にしかわからない・・・あれやこれやがあるのである。

大塚楠緒子は大阪朝日新聞に「雲影」を連載していた。

明治四十三年一月、幸徳秋水らは千駄ヶ谷の平民社で「明治天皇暗殺計画」を練っていた。

二月、伊藤博文暗殺犯(安重根)に死刑判決が下る。

三月、五女・雛子誕生。映画監督となる黒澤明も生れている。

四月、武者小路実篤・志賀直哉らによって文芸誌「白樺」が創刊される。

五月、永井荷風らによって文芸誌「三田文学」が創刊される。

六月、幸徳秋水・管野スガらが「大逆事件」の容疑で検挙される。

金之助は胃潰瘍のため内幸町長与胃腸病院に入院する。

食事制限にも関わらず見舞いのクッキーなどを貪り食う。

見舞いに来た娘たちに「手が汚い」と言われる。

「娘たちがみんな無愛想だ」と鏡子に呟く金之助である。

八月・・・主治医である松根東洋城(西地修哉)の勧めで伊豆の修善寺に転地療養に出かける金之助。

しかし・・・そこで大吐血を起こし・・・電報を受けた鏡子は東京から修善寺に駆けつける。

再び吐血した金之助は・・・生死の間を彷徨う危篤状態に陥る・・・。

「あなた・・・」

「一句できた・・・ふとゆるる 蚊帳の吊り手や 今朝の秋」

「あなた・・・」

「妻・・・妻はどこですか」

「あなた・・・」

「大丈夫だ・・・私は・・・」

「あなた・・・」

「家に帰ろう」

金之助は一度は死線を越えて・・・カンフル剤で戻って来た。

九月、御船千鶴子が千里眼の公開実験を行う。

十月、 江ノ島電鉄線藤沢駅・鎌倉駅間全線が開通する。

十一月、大塚楠緒子は流行性感冒に肋膜炎を併発し、娘三人と息子を残し、大磯の別荘で死去した。

金之助は「あるほどの菊投げ入れよ棺の中」という句を詠んだ。

十二月、秋水ほか26人に関する大逆事件の大審院第1回公判が開廷される。鈴木梅太郎が世界初のビタミンであるアベリ酸の発見を発表した。

房子は名古屋に嫁いで行った。

結婚十五年目の明治四十四年・・・。

一月に幸徳秋水ら11人の死刑が執行された。

八月・・・金之助と鏡子は旅に出る。

「坊ちゃんのばあやのきよって私のことですよね」

「まあ・・・そういうことにしておこう」

「坊ちゃん」は漱石が妻のきよに書いたラブレターだったらしい。

朝日新聞社主催の講演旅行中・・・大坂で胃潰瘍が再発し・・・金之助はまた入院した。

十一月、五女・雛子は早世した。

夫婦には夫婦にしかわからない喜びと悲しみがあるものだ。

それが人生の伴侶というシステムなのである。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

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