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2016年10月26日 (水)

いただきますとごちそうさまの間に(新垣結衣)

食事の時の挨拶である。

二つの言葉には違うニュアンスがある。

最初の「いただきます」には省略がある。

何をいただくのかをあえて省いて言うのである。

省かれているのは「いのち」である。

植物にしろ動物にしろ・・・「食べ物」は命のあったものである。

他の命を殺して食べることに謝するのが「いただく」ということである。

殺していることを一々思い出していると食欲が進まない人がいるので省略されているわけである。

これに対して「ごちそうさま」は「ご馳走様」なのである。

馳せ走ること・・・これは食材を調達し、調理することを意味する。

つまり・・・料理人に対するねぎらいの言葉なのである。

だから・・・奢ってくれた人にも「ご馳走様」を言うわけだ。

つまり・・・いただきますは・・・生き物全体に・・・あるいは神に・・・ごちそうさまは・・・人間に言っている言葉なのである。

いただきますとごちそうさまの間に・・・調理者が「おねだり」をするのは理にかなっている。

相手に感謝される前に・・・とりひきをすましてしまうことは・・・大切なのである。

で、『逃げるは恥だが役に立つ・第3回』(TBSテレビ20161025PM10~)原作・海野つなみ、脚本・野木亜紀子、演出・土井裕泰を見た。就職活動の果てにいろいろとこじらせた無職の二十五歳・・・森山みくり(新垣結衣)は独身男の津崎平匡(星野源)の専業主婦として雇用され・・・性生活なしの同居生活を入籍しない結婚生活としてスタートする。みくりにとってヒラマサは理想の雇用者・・・ヒラマサにとってみくりは理想の従業員だったのだが・・・独身のプロを称するヒラマサの中で・・・みくりから発するフェロモンによる化学変化が起こっていることを・・・みくりはまだ知らないのだった。

表面上は穏やかな朝食風景。

しかし・・・みくりの香りが残った寝具で眠った夜を境に・・・ヒラマサの中で・・・みくりを異性として意識する側面が膨張しているのだった。

「たかが残り香、されど残り香」なのである。

朝食中にみくりは従業員として「炊飯器の購入」を提案する。

みくりと会話することが「異性との交流」になった瞬間から・・・心穏やかではいられないヒラマサは緊張に耐えきれず・・・会話にも消極的なのである。

「おまかせします」

素っ気なく言って食卓からヒラマサは撤退するのだった。

プロの独身は・・・恋愛のど素人だったのである。

雇用主の鑑だったヒラマサの「変化」に戸惑う従業員のみくりである。

テレビ番組に激しく感化されているみくりはたちまち「大改造!!劇的ビフォーアフター」的妄想で状況を検討するのだった。

劇的なアフターの理由・・・それは・・・。

同性愛者的傾向のある沼田(古田新太)と一夫一婦制度の消極的否定者である風見涼太(大谷亮平)によりお宅訪問されてしまった夜・・・ベッドの中で・・・みくりがヒラマサを異性として意識したことを悟られてしまったから・・・。

しかし・・・ヒラマサが超能力者である可能性は低いのでそんなわけはない。

次なる劇的なアフターの理由・・・それは・・・。

洗濯物に混じっていたヒラマサのパンツを洗ってしまったこと。

従業員としてみくりは「信頼の証」を得たと喜び勇んで選択したのだが・・・。

ヒラマサは動揺し・・・「つい、うっかり」とパンツを回収したのだった。

「ヒラマサさんにとってパンツは自意識の壁として・・・防衛すべきものだったのかも」と心理学的に分析するみくりだったが・・・。

早い話が「女性に自分の下着を見られることに不慣れな」ヒラマサだったのである。

みくりは・・・そのことから・・・ヒラマサが・・・女性との性的交渉の未経験者である可能性を類推するが・・・雇用者のプライバシーに関わることなのでそれ以上は踏み込まない。

っていうか・・・みくり・・・自分が女である自覚に乏しい傾向があるぞ。

伯母の百合ちゃんと同じで・・・「処女」なのか。

少なくとも男性のパンツには命の残滓がこびりついているという意識はないようだ。

津崎家にいるのは童貞と処女なのか・・・そういう偽夫婦なのかとお茶の間はニヤニヤするしかないのだった。

家からもってきたレンジでチンする炊飯器ではなくて・・・まぜご飯や五穀米が炊ける炊飯器を求めて開店35周年の家電店に出張する従業員みくりだった。

そこそこハイスペックな炊飯器を購入である。

その帰り道「専業主婦を夢見る女性の敵ナンバーワン」のセックスハンター風見がみくりをキャッチするのだった。

百合にとっては「悪いイケメン」だが・・・あらゆる男を異性として意識しないらしいみくりにとっては合理的で思いやりのある人間に映る風見らしい。

重い炊飯器を家まで運んでくれた風見に素直に感謝するみくりなのである。

もちろん・・・風見にも悪意はない・・・ただもてるだけなのである。

ヒラマサの勤務先「3Iシステムソリューション」では家庭訪問に参加できなかった妻子持ちの日野(藤井隆)が家族ぐるみのお付き合いのための「ぶどう狩り」をヒラマサに提案する。

頼まれると断れないタイプのヒラマサはまたしても同意してしまう。

そして・・・みくりを異性として意識してから一方的に自分が気まずい状況から逃避するためにあえて残業も引き受けるヒラマサだった。

(このままでは・・・いけない・・・いっそのこと疑似恋愛モードでのりきろう)

二次元相手の恋愛経験さえ不足しているのではないかと推測されるヒラマサ・・・三十五歳・・・彼女いない歴三十五年・・・独身のプロである。

「おかえりなさい・・・」

「ただいま・・・もどりました」

混ぜご飯を炊いたみくりは・・・屈託なく・・・風見との出会いについて話す。

疑似夫モードだったヒラマサは・・・たちまち嫉妬の虜になって自分を見失う。

そして・・・自分の部屋へ撤退するのだった。

ヒラマサの心理を読み切れないみくり。

まさか・・・ヒラマサが自分と風見の仲を勘ぐるなどということは想定外らしい。

ヒラマサは自分の心の闇に向きあい絶望するのだった。

ヒラマサは「恋愛」についての経験とそこに発生した感情の深くて苦い複合体を精神に秘めている・・・つまり・・・恋愛行為に関して劣等性のあるコンプレックスを持っていた。

風見は・・・恋愛において優越した憧れの存在であり・・・その存在と自分を比較することは嫌悪を伴って激しく自分を苛む劣等感を顕在化させるのだ。

ヒラマサは理性で劣等感をねじ伏せ・・・契約結婚に新たなる一項を付加する。

「恋愛は自由」

「契約については秘匿」

「雇用中は世間体を憚る」

「雇用関係を恋愛相手に伝える場合は互いの許可を得ること」

「恋愛の結果、結婚する場合は契約を解除する」

ヒラマサは雇用者として暗澹たる思いで・・・従業員に向きあうのだった。

みくりは・・・従業員として解雇される可能性に・・・不安を感じるのである。

つまり・・・二人の心は・・・すれちがっています。

身体が結ばれてもいないのにか・・・。

一同大爆笑である。

そして・・・ついに辛抱しきれなくなったヒラマサは2LDKに転居してみくりを家政婦部屋に隔離することを決意するのだった。

転居大作戦である。

従業員として物件めぐりに参加するみくり。

結局・・・新居探しというデートをする二人だった。

就職した社会人として親友の田中安恵(真野恵里菜)はみくりの遥か先を暴走中の元ヤンキーである。

結婚して一児の母だが・・・夫の浮気を疑って・・・壁ドン威圧説教をアイドリングしている。

「積極的な男は・・・浮気にも積極的だかんね」

「消極的な男は・・・墓場まで消極的かもね」

雇用者が「死ぬまで童貞であること」に言及するみくりだった。

そして・・・「ぶどう狩り」当日・・・子供が風邪をひいてまたしても日野がキャンセルを申し出・・・沼田と風見がやってくる。

そして・・・足として召喚される百合だった。

休日出勤で・・・勝沼ぶどう郷あたりの楽しい一時を体験するみくり。

みくりにその気はないのだが・・・風見と親しげに話しているのを見るだけで・・・目の前が暗くなるヒラマサだった。

大学時代の同期生のイケメン田島(岡田浩暉)から手軽な浮気相手として求められ憤慨中の百合は風見に手厳しい対応をするが・・・みくりは雇用者の職場の後輩でもある風見をそれとなくフォローするのである。

たちまち・・・ドス黒い劣等感に苛まれるヒラマサ。

和気藹々で会話する男女に・・・慣れないヒラマサは・・・蒙古襲来の頃からの寺院である甲州・大善寺の国宝・薬師堂に逃避する。

雇用主の不在を察知し・・・追いかけるみくり。

二人は平安初期の作と考えられている薬師三尊像の前で厳粛な気持ちになる。

「こういうところでは・・・嘘がつけない気がします」

「ですね」

「僕は・・・風見くんのようにはなれないので・・・地味なので」

つい・・・引け目を口にするヒラマサ。

「でも・・・私はヒラマサさんが一番好きです」

「え」

「つまり・・・雇用者として・・・」

「・・・」

しかし・・・ヒラマサの心に・・・沁み込みまくる「好き」の一言だった。

「もしも・・・みくりさんが誰かと結婚したとしても時々・・・うちの家事をしてもらいたいと考えます」

「はあ・・・」

その言葉に何故か「淋しさ」を感じるみくりだった。

それはね・・・二人がもう恋をしているからだよと叫びたいお茶の間だったが・・・お茶の間の声は登場人物には届かないのが前提である。

疑似夫婦に置き去りされたイケメンとこじらせた処女と津崎夫妻を同性愛者同志の擬装夫婦と疑う沼田はそれなりに余暇を楽しむのだった。

もやもやした二人に・・・見晴らしのいい舞台が用意される。

「なぜなの・・・教えておじいさーん」

ハイジとなるみくりだった。

「浸透力・・・・半端な~い」

ヒラマサの心はすでにみくりの「好き」で満ちていたのだった。

急いで引っ越す必要はないと考えるヒラマサ。

「好き」が浸透して空気が清浄化されたらしい。

みくりの炊きこみご飯は美味しいのだ。

雇用者は従業員にリクエストできるのだ。

それでいいじゃないか。

高望みなんて・・・もっての他である。

諦念かよっ。

後日・・・外資系の化粧品会社「ゴタールジャパン」の同僚たちと風見に遭遇する百合。

風見に芽生えた好意は「交際相手をゴミのように捨てた男」の記憶によって粉砕されるのだった。

百合に蘇る「イケメンは悪の鉄則」である。

まあ・・・悪意のない悪ほど始末の悪いものはないからな。

「大麻が悪だなんていう世間の方が愚かなんだ」なんて言って・・・愚かな人を悪の道に引きずり込むタイプである。

「世間が悪だと言えば悪なんだからねえ」

「悪ってそういうものだよねえ」

「喫煙の方がマリファナより健康に悪いよねえ」

おいおいおい。

マリファナの成分は確実に脳細胞を破壊する毒物です。

日常を取り戻したかのように見える雇用者と従業員によって構成される津崎家。

しかし・・・悪の権化である風見は・・・二人に目をつけていたのである。

「契約結婚なんでしょう」

ヒラマサは・・・苦手な相手につけこまれたらしい。

道端で・・・風見に声をかけられるみくり。

そもそも・・・待ち伏せしているわけだよな。

恐ろしいな悪いイケメンは・・・。

「シェアの話・・・どうですか」

「え」

どうやら・・・みくりはヒラマサと風見によってシェアされるらしい。

ゲシュタルト(人格)崩壊を発症したみくりはサザエさんと化すのだった。

人妻をシェアするって・・・つまり3Pじゃないか。

おいおいおいおい。

何をみくりに咥えさせるつもりだ。

いや・・・みくりはサザエさんになったのであってどら猫になったわけではないぞ。

ヒラマサはどうしてみくりが風見にいただきますされてごちそうさまされることに同意しちゃったんだよう。

関連するキッドのブログ→第2話のレビュー

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