愛の破片を集めて都合よくまとめるなんて無理(成海璃子)
糧を得るために働くのが人生だが・・・そうでない人もいるのが世界というものだ。
交配相手を求めて忙しないのが人間だが・・・そうでない人もいるのが個性というものだ。
職を求めて愛を捜して人々は今日も地上を彷徨う。
よりよき未来を求めて・・・代表者たちは会議をする。
たとえば停戦交渉。
優位に立つ相手は戦闘継続を希望する。
不利な状況の打開のために時間を稼ぎたいものがいる。
幼い子供たちの危機に心をいためる第三者がいる。
戦後の利益配分に興味のあるものがいる。
背後から銃口を突き付けられているもの。
既得権益の維持を目指す者。
幻想の名声を夢見るもの。
怪しい正義が手を挙げることを・・・この物語は醸しだす。
で、『黒い十人の女・第4回』(日本テレビ201610202359~)原作・和田夏十、脚本・バカリズム、演出・瑠東東一郎を見た。原作の映画「黒い十人の女」(1961年)にはいくつかのどんでん返しが用意されている。女たちによる風殺害計画。風の死んだフリ。ロミオとジュリエット的後追い自殺。離婚。ある愛人の勝利。そういう流れを知らずに見ても充分に楽しいが知っていても大丈夫である。「いっそ死んでくれればいいのに」・・・というフレーズは・・・やがて「風殺害計画」が立案されそうな暗示である。しかし・・・そういうものがなくても充分に面白いとも思える。すでに充分ブラック。コメディーである。
一番の悪役風になっている第三の女である弥上美羽(佐藤仁美)は映画では自殺してしまうポジションなのである。
そう思うと・・・すでに・・・憐れで泣ける配役なのだが・・・ドラマではこのまま狂気を秘めて怖くて嫌な女のままなのかもしれない。
たとえば・・・弥上美羽は・・・自分が一番愛されていることを前提で・・・風松吉(船越英一郎)とアイドル女優の相葉志乃(トリンドル玲奈)との仲を裂くために・・・東西テレビバラエティ班プロデューサーの浦上紀章(水上剣星)を利用しようとする。
そのために・・・松吉と志乃の不倫関係を浦上に打ち明けるのである。
自分が不倫中であるために・・・そういう関係が・・・「汚れ」であることを忘れてしまっているのである。
浦上が・・・不倫で汚れている志乃を忌避するとは思わないのである。
さらに言えば・・・それを知りつつ・・・志乃をより不幸にすることができればいいという本末転倒状態に陥っている。
つまり・・・美羽はすでに発狂しているのだ。
それを示す不気味に歪んだ表情・・・見事だな。
松吉の一番古い愛人である劇団「絞り汁」の所属女優・如野佳代(水野美紀)の芝居「孤独の牢獄」観劇のために・・・ヒロインである九番目の愛人・東西テレビの受付嬢・神田久未(成海璃子)と小劇場にやってきた美羽。
「きっとものすごい自己満足を見せられることになるわよ」
「三時間以上もですか」
「ものすごくつまらないけどあの人たちにとってそれが芸術なのよ」
「芸術・・・」
「とにかく・・・独特だったと言う他ないわ」
「独特・・・」
「それが・・・あの人たちにとって最高の褒め言葉だから」
プロフェッショナルとアマチュアの隙間に存在するアーティストたちを嘲笑する話である。
まあ・・・そんなものにもファンが存在するのがこの世の不思議というものなんだな。
松吉と同伴するのでは楽屋で佳代と気まずくなるという美羽だったが・・・。
松吉は五番目の女である脚本家の皐山夏希(MEGUMI)と同伴でやってくるのだった。
松吉は気まずさとは無縁の男なのである。
愛人の松吉と三人の恋仇が見守る中・・・佳代の熱演が始るのだった。
「崩壊よ・・・崩壊・・・崩壊・・・何もかもが崩壊するの・・・あはははははははは」
地獄の責め苦のような舞台の後で差し入れの菓子折りを持って楽屋を訪ねる久未と美羽。
「どうだった」
「独特でした」
久未と美羽の次に松吉と夏希が楽屋を訪問する。
「どうだった」
「わけがわからなかったよ」
松吉の正直さに・・・久未はニヤニヤするのだった。
久未は流されやすい性格だが・・・「お笑い」を解する女だった。
夏希は松吉と食事をするつもりだったが・・・松吉には「用事」があるのだった。
松吉に電話をした佳代は・・・ある計画を秘めて夏希を食事に誘う。
久未と美羽はいつものカフェ「white」に先着している。
自分以外の女を松吉から排除する野望に燃える美羽は・・・志乃を呼び出し引導を渡す腹心算である。
その頃・・・志乃は新月10ドラマ「淡い三人の男」でヘアメイク担当する水川夢(平山あや)から美羽もまた松吉の愛人であることを告げられていた。
夢が松吉の愛人と知った志乃は・・・何故か・・・浦上ではなく松吉を選んでいるのだった。
夢に対しては友情を感じる志乃だったが・・・腹黒い美羽には敵愾心を燃やしている。
美羽に呼び出された志乃は・・・夢とタッグを組んで敵地に乗り込むのだった。
そして・・・カフェ「white」の入り口で・・・志乃と夢は・・・佳代と夏希に遭遇する。
ワンペアとツーペアでスリーペアである。
その頃・・・松吉は・・・新登場の愛人・卯野真衣(白羽ゆり)とデート中だった。
一月(睦月)は本妻の風睦(若村麻由美)・・・。
二月(如月)は舞台女優の如野佳代。
三月(弥生)はアシスタント・プロデューサーの弥上美羽。愛人歴五年。
四月(卯月)は卯野真衣・・・新登場!
五月(皐月)は脚本家の皐山夏希。
六月(水無月)はメイキャップ・アーチストの水川夢。愛人歴三年。
七月(文月)は未確定だが・・・久未の友人に文坂彩乃(佐野ひなこ)がいる。
八月(葉月)はアイドル女優の相葉志乃。愛人歴一年。
九月(長月)は未確定。
十月(神無月)は神田久未・・・愛人歴半年である。
カフェ「white」の店員である夏美(森田涼花)は愛人たちの相関関係をノートにまとめて同僚の春江(寺田御子)や秋子(松本穂香)に解説するのだった。
愛人が九人いることを知っているものから自分だけが愛人だと思っているものまで六人の愛人たちの晩餐会がスタートする。
なんていうか・・・公開なのか。
公開愛人の宴なのか。
「・・・というわけで・・・私たちは・・・淡い三人の男・・・略してアワオトコ仲間なのよ」
(ダサッ)と毒づく久未だった。
「そして・・・みんな風さんの愛人なの」
(ええええええええええ)
驚く久未を尻目に美羽は志乃に踊りかかる。
「でも・・・志乃さんは私たちと立場が違うから・・・この間言ったのは・・・親切心からなのよ」
(おお・・・この期に及んで)
「だけど・・・風さんだってプロデューサーという立場があるじゃないですか」
(そうきたか)
「あなたは・・・商品でしょう・・・スキャンダルで商品価値が下がるのよ」
「私もだけどね」
思わず口をはさむ女優の佳代だった。
「中古品は黙ってて」
ついに本音が炸裂する美羽。
思わずコップに手がかかる佳代を押しとどめる久未。
テーブルには危険な焼きたて餃子が乗っていた。
思いとどまる佳代。
「嘘ですよね・・・私、聞いてましたよ」
水川夢は・・・自分以外の愛人を排除しようとする美羽の言葉を盗み聞きしていた。
「まあまあ・・・そんなに喧嘩腰にならないで・・・悪いのは風・・・そしてそんな風を好きになってしまった私たちなんだから・・・仲良くしましょうよ」
佳代は・・・愛人仲良しクラブ路線を維持するのだった。
「ふざけんな・・・みんな・・・気持ち悪い・・・何ほざいてんだよ」
沈黙を破り・・・自分以外に愛人が八人の衝撃から抜けだそうとする夏希である。
「風さんは私のことが好きにきまってるだろう・・・みんな消えろ・・・みんな死ね」
「まあまあ・・・」
「だまれ・・・くそばばあ・・・こんなところで油売ってないでセリフの一つも覚えてろ」
ついにコップの水を夏希にぶっかける佳代。
しかし・・・明らかに元ヤンキーの夏希はあんかけヤキソバを佳代にぶっかけるのだった。
「・・・あんかけは・・・反則だろう」
「・・・」
「セリフなんて・・・とっくに覚えたよ・・・セリフみっつだもの・・・いらっしゃいませ・・・御注文は・・・あありがとうございました・・・読むなり覚えたよ・・・口惜しかったら・・・もっとセリフよこせよ・・・」
あまりにも悲しい佳代の言葉に・・・沈黙する一同。
思わず・・・同情する久未・・・。
そこへ・・・サプライスのバースデー・ケーキが登場する。
「夏希様・・・夏希様・・・お誕生日おめでとうございます」
思わずろうそくを吹き消す夏希。
「佳代さんの・・・セッティングですか」
「フェイス・ブックで・・・」
その頃・・・松吉は卯野真衣を送りだしていた。
真衣の帰った家には・・・二十代の若い愛人と不倫中だと松吉に打ち明けた・・・東西テレビのドラマ班キャスティング担当プロデューサーの火山(山田純大)だった。
「遅かったね」
「学生時代の友達と会ってたの・・・」
真衣の言葉を聞き流す火山は・・・愛人とメール中だったらしい。
久未はと彩乃と池上穂花(新田祐里子)に修羅場の件を報告する。
「あんかけはひどいよね」
「前はカフェラテだったし」
「私・・・絶望の螺旋から抜け出す気になった」
「二度目だけどね」
「螺旋だからね」
その頃・・・松吉の前に浦上が思い詰めた表情で立ちはだかる。
愛はますますもつれていくのである。
それが愛と呼ばれるのに相応しいのかどうかは別として。
じゃ・・・愛人の愛は愛じゃないのかよ。
不倫と知ってやめられない人は自己正当化の代わりに愛に縋るのだった。
関連するキッドのブログ→第3話のレビュー
| 固定リンク
コメント