月給二百円の男の妻と義理の舅(尾野真千子)月給四円の男と名前のない猫(黒島結菜)
ついに家を守る女として正しい妻の在り方を示し始めた今回である。
芸術家の妻としては・・・色々と理想的ではないわけであるが・・・漱石の妻として・・・漱石の家庭を守ったことは間違いないわけである。
その証拠に・・・漱石の一族は繁栄しているのだった。
人間の生きる意味が「繁殖」にあるのなら・・・ポンポン子供を産むことは正義なのだった。
そして・・・「有名人」となった漱石を・・・恐ろしい世間から守ることも・・・妻としての素晴らしい業績と言えるだろう。
浮世離れした男と・・・浮世の間に・・・「家」があり・・・漱石の妻は・・・見事にそれを守護したのである。
今回は・・・小説「坑夫/夏目漱石」(1908年)のモデルとなった荒井伴男が登場する。
たちまち「足尾から来た女」が匂い立つのは脚本家が一緒だからだ。
で、『夏目漱石の妻・第3回』(NHK総合20161008PM9~)原案・夏目鏡子・松岡譲、脚本・池端俊策、演出・榎戸崇泰を見た。明治三十八年(1905年)の雑誌「ホトトギス」一月号に発表された連載小説「吾輩は猫である」は人気を博し、夏目金之助(長谷川博己)は突如として小説家「漱石」という著名人となった。すでに長女・筆子(数え七歳)、次女・恒子(数え五歳)、三女・栄子(数え三歳)の母親となっている金之助の妻・鏡子(尾野真千子)は年末に四女・愛子を出産する。
明治三十九年(1906年)の暮れ・・・漱石は千駄木から西片町に転居する。
この頃から鏡子の従妹である山田房子(黒島結菜)が花嫁修業のための家事手伝いとして同居を始めたらしい。
雑誌「ホトトギス」に小説「坊ちゃん」、小説「野分」を続けて発表した漱石は教職を辞し、職業作家になる希望があった。
朝日新聞社から・・・社員として小説を執筆するという話が舞い込む。
「反対です」
鏡子は・・・教職による安定収入を第一に考えていた。
「今だって・・・質屋の世話になっているのですよ」
「・・・」
夫の胃の薬の購入を忘れても・・・占い師の言うことは聞く鏡子だった。
「人形を立たせておくと不吉だ」と言われれば横に寝かせる女である。
迷信深いのである。
そして・・・金之助の周囲には不気味な人影が現れる。
「新聞は素晴らしいではありませんか」
夏目家に来て初めて新聞を読んだ房子は・・・女学校を卒業している。
学校嫌いの鏡子とは少し違う教養を積んでいたらしい。
「あんなもの・・・瓦版みたいなものじゃない・・・賤しい職業よ」
「でも・・・お給料は・・・二百円だそうですよ」
「え」
明治四十年(1907年)四月・・・金之助は一切の教職を辞し・・・朝日新聞社に入社した。
鏡子は第五子を妊娠していた。
貧乏人の子沢山である。
その上・・・金之助の弟子たちが多数出入りし、菓子代も馬鹿にならないのである。
この頃、夏目家には小説「三四郎」のモデルと言われる小宮豊隆、まもなく平塚らいてうと心中未遂事件を起こす森田草平、児童文芸誌「赤い鳥」でおなじみ鈴木三重吉などが群がっていた。
そこへ・・・塩原昌之助(竹中直人)が現れる。
金之助にとって二度目の養父である。
昌之助は夏目家の奉公人・やすと結婚し、金之助を養子としたのである。
しかし、金之助が九歳の時に昌之助とやすは離婚し、金之助は夏目家に戻る。
だが・・・実父の直克の厳しい態度と・・・養父の昌之助の甘い態度の間で・・・金之助は揺れたのだった。
明治二十年(1887年)、金之助の長兄・大助、次兄・栄之助が相次いで逝去し、跡継ぎが三兄の和三郎だけとなった夏目家では・・・「金」で金之助の籍を取り戻したのだった。
優しかった養父が・・・金で自分を売ったことが・・・またまた金之助の虚弱な精神を揺らしたわけである。
その昌之助は「縁切りの後も不実・不人情なくつきあう」という証文を手に「金」の無心に現れたのだった。
胃病に苦しむ金之助の病弱な消化器への負担が高まるのである。
「雨漏りが激しいんだ・・・二百円・・・都合してくれないか」
「そんな金はない」
「お前が馬になれと言えば馬になり・・・食べたいと言ったものは食べさせたじゃないか・・・」
苦悶する金之助。
元養父と元養子の間に割り込む鏡子である。
「今日のところはお帰りください」
「仮病じゃないのか」
「これが仮病にみえますか」
「よしなさい・・・その人は優しいお父さんだったんだ」
金之助の言葉に怯む昌之助だった。
雨の中を立ち去る昌之助を・・・天井裏から取り出したへそくり「百円」を持って追いかける鏡子。
「お金が入用なんでしょう」
「俺だって・・・昔は新宿の名主として・・・羽振りがよかったこともあったんだぜ・・・偉い先生の奥様にはわからないかもしれないが・・・落ちぶれるのは惨めなものさ」
「わかりますよ・・・私の父もそうでしたから」
「そうかい」
「ここに百円あります・・・爪に火を灯して貯めたお金です・・・家だって質屋のお世話になってるんですよ・・・証文と交換です」
「え」
「お金が入用なんでしょう」
濡れそぼり・・・鏡子は夏目家に戻る。
「あの人はもう・・・来ないと思います」
「・・・」
「おさびしいですか」
「私は・・・君ほど強くないからな・・・」
「・・・」
金之助は濡れた証文を破り捨てた。
甘い感傷の名残を・・・。
六月に・・・長男・純一が誕生し、金之助は小説「虞美人草」を連載開始する。
「運命は神の考えるものだ。人間は人間らしく働けばそれで結構だ。日露戦争を見ろ・・・たまたま風邪が癒れば長命だと思ってる」
「日本が短命だと云うのかね」
「日本と露西亜ロシアの戦争じゃない。人種と人種の戦争だよ」
「・・・」
「すべてが喜劇である。最後に一つの問題が残る。――生か死か。これが悲劇である」
「ここでは喜劇ばかり流行る」
九月、夏目家は早稲田に転居する。
近所で迷った猫を連れて・・・荒井伴男(満島真之介)が現れる。
女性問題で・・・出奔した過去を持つ伴男の溢れ出る色気に・・・胸がときめくお年頃らしい房子だった。
しかし・・・薄汚い身なりの伴男に・・・危険な匂いを察知する鏡子である。
「足尾銅山からきた男」は・・・自分の「人生の物語」を金之助に売りに来たのだった。
「家を出た私は・・・地の果てまで潜ってやろうと思ったのです」
金之助は男の「話」に夢中になるのだった。
「あんな汚い男・・・」
「でも・・・算術は得意みたいですよ」
鏡子の警戒警報が耳に入らない房子だった。
やがて・・・小説「坑夫」のモデルとなる荒井伴男は月に四円の給金で飯場の帳附をやっていた男なのである。
夜も更けて鏡子は金之助を手招きする。
「あなた・・・いい加減にして」
「今・・・いいところなんだ」
「あなたの身体が心配なんです」
「君は・・・芸術を解さない女だな」
「あなたを守るのが私の仕事ですから」
泥だらけの足の男は・・・金之助から礼金を受け取ると夜の街へと去って行った。
房子は・・・「運命」を感じたらしい。
そして・・・街で政府転覆を企てる反逆者たちの取り締まりの現場に遭遇した房子は・・・伴男と再会するのである。
房子の心は躍ったらしい・・・。
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