未亡人の耳となった女(武井咲)
人間の暮らしには「衣食住」が必要だと言う。
ドラマでも「衣食住」はテーマと成り得るポイントである。
最近では安易に「食」にスポットがあてられて・・・今季も「給食のおばさん」とか「コック警部」とかが主人公になったりしている。
夏ドラマで「家売るオンナ」がヒットした関係で「住」へのシフトもあり月9の主人公はデベロッパーだし、深夜ドラマに不動産屋がいたりもする。
そして・・・朝ドラ「ぺっぴんさん」は・・・今は戦後まもなくで食う寝るところが重要だが・・・これからは「衣」が重要な要素となっていくのである。「校閲ガール」のヒロインはファッションバカだしな。
江戸時代という・・・徳川家が作り上げた閉鎖空間では・・・「お家」が重要になる。
戦乱を避けるための・・・平和至上主義社会は・・・完全な牢獄社会でもあった。
揺るぎない階級制度を前提に・・・武家が民を統率する社会である。
農民から年貢を収奪し・・・武家は米を流通させる。
藩主は幕府から・・・領地の管理を委任されているが・・・それを取り上げられれば・・・一族郎党は路頭に迷うのである。
「忠臣蔵」はまた・・・「お家断絶」によって「衣食住」を取り上げられた人々の物語でもある。
で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第5回』(NHK総合201610221810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・黛りんたろうを見た。全二十話予定なので起承転結の四分割でいえば「起」の部分の最終話ということになる。赤穂事件の発端となる浅野内匠頭の切腹と播州赤穂浅野家の改易が幕府によって命じられ・・・赤穂藩士は赤穂浪士となったのだった。
浅野内匠頭長矩(今井翼)の正室・阿久里(田中麗奈)は落飾して瑤泉院(ようぜんいん)となった。
そして・・・実家である備後国三次(みよし)藩の江戸屋敷(赤坂)に隠遁する。
浅野家は・・・豊臣秀吉の正室・高台院の親戚筋である。
本家は浅野長政の子・長晟を初代藩主とする安芸国広島藩四十二万石である。
長晟の後は光晟 - 綱晟 - 綱長と続いている。
四代藩主の綱長は延宝元年(1673年)に家督を相続している。
長晟の弟である長重の子・長直は播磨国赤穂藩五万石の初代藩主となる。
赤穂浅野家は長友 - 長矩と相続した。
本家二代目の光晟の庶兄である長治は備後国三次藩五万石の初代藩主となる。
瑤泉院は長治の娘なのである。
長治には男子がなく三次浅野家は・・・本家から光晟の子、長照を養子として家督を継がせる。
後継となった長照にも男子がなく・・・本家から綱晟の子で綱長の弟の長澄を養子に迎えて隠居する。
瑤泉院の実父・長治は延宝三年(1675年)に死去しているが・・・瑤泉院は長照の養女となっており・・・隠居中の養父の元に出戻ったことになる。
娘婿の浅野内匠頭長矩の刃傷事件により連座制度に基づき、長照は江戸城登城禁止処分を受けている。
三次浅野家の当主である長澄は国許にあったという。
長澄の兄である浅野本家の浅野綱長は連座の恐怖に慄いた。
親戚筋においても浅野内匠頭長矩の凶行は明らかなのである。
まして・・・浅野内匠頭長矩の家臣一同の困惑は・・・凄まじいものであったと思われる。
罪人として・・・藩主としての葬儀も許されず泉岳寺に葬られた長矩の墓前で・・・側用人の片岡源五右衛門高房(新納慎也)や物頭の礒貝十郎左衛門正久(福士誠治)は殉死寸前に住職に説得され、髻を切るに留める。殉死もまた幕府の禁じるところ・・・すなわち御法度に触れる行為だった。
生前の長矩の勘気を受けて浪人となっていた不破数右衛門(本田大輔)も泉岳寺にやってくる。
家臣たちは不破数右衛門を制止するが・・・。
「お家断絶となれば・・・誰もが浪人・・・かっての恩に報いようとする心を止められぬはず」と泣く数右衛門だった。
それほどに重い主従の「情」なのである。
つまり・・・捨て犬も飼い主を慕うわけである。
先代・長友、先々代・長直と三代に渡って浅野家に仕えた前江戸留守居である隠居した堀部弥兵衛金丸(笹野高史)も片岡源五右衛門や礒貝十郎左衛門に詰め寄る。
「せめて・・・一目お会いしたかった」
「殿の亡骸は・・・お見せすることも惨い有様でござった」
「しかし・・・」
「揉めても詮無きことでしょう」
堀部弥兵衛の娘・ほり(陽月華)を妻として養子となった堀部安兵衛(佐藤隆太)は義父を宥。
しかし・・・古参の藩士たちからは「新参者に何がわかる」と声があがる。
「お家断絶」の前に動揺する元・赤穂藩士たち・・・。
墓前で瞑目する安兵衛に・・・堀内道場の四天王の一人で浪人の佐藤條右衛門(皆川猿時)は言葉をかける。
「主を失うのは哀しいものだ・・・もっとも俺には失うべき主もいないがな」
飼い犬を羨ましく感じる野良犬である。
その頃・・・浅野屋敷では・・・屋敷を引き渡す準備が整っていた。
侍女たちは暇を出されるのである。
しかし、老女の滝岡(増子倭文江)はきよ(武井咲)とつま(宮崎香蓮)を瑤泉院の部屋へ誘う。
「妾は・・・これより・・・実家に戻る・・・つまにはついてきてもらいたい・・・そして・・・きよには妾の耳となることを頼みたい」
「お引き受けいたします」
「耳」とは・・・密偵になるということである。
墓前に参ることも憚られる瑤泉院に代わり・・・成瀬(押元奈緒子)とともに泉岳寺に参るきよだった・・・。
男たちは殺気だっていた。
十郎左衛門さえも・・・「女には無関係のこと」と冷たく言い放つ。
しかし・・・きよも言わずにはいられない。
「私は・・・瑤泉院様の耳になるのです」
絶句する十郎左衛門だった。
その言葉を聞いた仙桂尼(三田佳子)はきよの覚悟を確かめるのだった。
「耳になるとは・・・生涯を忠義に尽くすということですよ」
「そのつもりでございます」
きよは・・・十郎左衛門への愛のために・・・用いられた瑤泉院への義を誠にする他はないのだった。
瑤泉院の心には・・・吉良上野介義央(伊武雅刀)の始末があった。
夫の犯した刃傷沙汰とはいえども・・・そこに夫の遺恨があったことは明らかである。
喧嘩両成敗という御法度がある以上・・・吉良上野介に咎めがないことは看過できないのである。
武士の本懐を遂げること・・・つまり吉良上野介の殺害は・・・瑤泉院にとって避けられぬ道であった。
きよはそのための「耳」となったのだが・・・まだ実感はないのだろう。
とりあえず父・勝田玄哲(平田満)のいる浅草唯念寺に戻るきよであった。
そこに兄の勝田善左衛門(大東駿介)が現れる。
「磯貝十郎左衛門は・・・国許に戻るそうだ」
兄はきよの心を知ってか知らずか幼馴染の噂をする。
きよは急ぎ・・・十郎左衛門を訊ねるのだった。
「国許で・・・御家老に・・・殿の御最後を伝えねばならぬ」
「江戸にお戻りなされますね」
「それは・・・わからぬ・・・しかし・・・きよ殿が江戸におることは忘れぬ」
きよと十郎左衛門の恋は・・・風前の灯のように・・・揺れている。
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