バベルの塔で抱きしめて(山田涼介)
兄弟に確執があり、兄が弟を殺す話は定番である。
たとえば本年度の大河ドラマ「真田丸」は兄の真田信之が弟の真田信繁を殺す話である。
戦国時代にはありふれた話で織田信長は弟の織田信行を殺しているし、信長の子の信雄は弟の信孝を殺している。
江戸時代になって間もなく徳川家光は弟の徳川忠長を殺す。
そういう意味では兄弟というものは殺し合うものなのである。
聖書におけるカインとアベルの場合・・・世界にはたった四人しか人間がいない。
両親であるアダムとイヴと・・・その子であるカインとアベルの兄弟である。
イヴが人類史上、初めて生んだのがカインで・・・次に生んだのがアベルなのだ。
その兄が弟を殺したのだから・・・人類は三人になってしまったのである。
そしてこの時点では兄が弟を殺す確率は百パーセントなのだ。
もちろん・・・あくまでユダヤの教典の世界の話である。
ドラマでは現代社会という人類が繁殖しまくった社会の話になっているので・・・その点の処理がなかなかに難しい。
特に・・・「兄の伴侶を弟が慕う話」に傾斜しているわけである。
この手の話も定番である。
古代オリエントの神話には「二人兄弟の話」がある。
兄のアヌプが畑で働き、弟のバタが羊飼いであることはカインとアベルと同じ。
しかし、アヌプには妻がいて・・・この妻が夫の留守中に夫の弟であるバタを誘惑する。
バタは義理の姉の誘惑を拒絶する。
するとアヌプの妻は夫に・・・弟に乱暴されたし虚偽の申告をする。
アヌプは弟を殺そうとし・・・バタは仕方なく逃亡するのである。
今の処・・・「カインとアベル」よりは「アヌプとバタ」よりの展開ですな。
で、『カインとアベル・第2回』(フジテレビ20161024PM9~)脚本・阿相クミコ、演出・葉山浩樹を見た。「聖書」においてアベルを殺したカインは神によってエデンの東から追放されてノドの地に住む。兄弟を失ったアダムとイヴは三番目の子供セツを生む。一方でカインはノドで妻を得る。もちろん・・・女がイヴしかいないのでカインの妻は同母妹なのである。カインの妻は懐妊しエノクを生む。時は流れてアダムの子孫、カインの子孫、セツの子孫によって世界に人が満ちて行く。
地に満ちた人は奢り高ぶり・・・神に対して挑戦的になる。
シンアルの地の人々は天に届くほどの塔を作りはじめる。
神を畏れぬ振る舞いに神は人々の言葉に混乱を与えた。
人々はお互いの意志疎通が困難になり・・・離散した。
そして塔作りは放棄された。
その地はバベル(ちんぷんかんぷん)と名付けられ・・・バベルの塔は・・・人間の傲慢の象徴となった。
高田総合地所株式会社の経営者一族の子供として自由奔放に育った高田優(山田涼介)は敬語もろくにつかえない社会人だが・・・後継者の一人として優遇されているダメ人間である。
しかし・・・バカな子ほど可愛いので父親で社長の高田貴行(高嶋政伸)や祖父で会長の高田宗一郎(平幹二朗)は優を甘やかす。
弟の優と違い、後継者候補として厳しく育てられた長男で副社長の高田隆一(桐谷健太)は兄として弟を可愛いと思う気持ちもあったが・・・それだけではすまない複雑な感情も心に忍ばせていた。
後継者教育の一環として・・・営業部・第5課から営業部長・団衛(木下ほうか)が率いるプロジェクトチームに派遣される優。
アウトレットモール開発のために・・・名店確保の任務についた優は周囲のアドバイスを無視する独断により一度は失敗する。
しかし・・・同僚の矢作梓(倉科カナ)のアシストにより逆転勝利を治めるのだった。
梓は隆一の恋人であるが二人の交際は秘匿されている。
隆一には橋本衆議院議員の娘である綾乃(宮地真緒)との縁談があった。
父・貴行の勧める縁談を無碍に断ることができず・・・隆一は梓との交際を公表する機会を窺っていた。
折悪く・・・高田総合地所がタイ国で勧める合併事業にトラブルが発生する。
合併相手であるバンコクのデペロッパー「BDC」に巨大な負債があり計画の見直しを迫られたのである。
「場合によっては撤退してもいい」と言う貴行に「危機を回避してみせます」と応ずる隆一。
隆一は新たなる融資先を開拓し・・・十億円以上の資金を獲得することで・・・父親に梓との交際を承認させる覚悟なのである。
そういう父や兄の苦労は知らず・・・梓に仄かな恋心を抱いた優は仕事になんとなく前向きになるのだった。
社長の息子である優に配慮した団部長は・・・優と梓にコンビを組ませ・・・アウトレットモールの設計に関与させる。
そのために設計部から長谷川守(小林隆)というお目付役も添えるのだった。
長谷川はアウトレットモールのラフ・デザインを描いた設計士である。
団部長はアウトレットモールの本設計を・・・大御所建築家の神谷仁(竜雷太)に依頼することを三人に命ずる。
実は神谷仁は宗一郎会長の学友だった。
原案的には「神」にあたる存在である宗一郎は・・・孫に対する慈愛に基づき・・・神谷仁に根回しを行う。
「孫が担当になったんだよ」
「私はビジネスに私情は持ち込まないぞ」
「もちろんさ・・・ただ・・・孫について君の意見を聞きたいのだ」
「酒の肴ということだ」
「そうだ・・・孫は可愛いからなあ」
ちなみに宗一郎を演じる平幹二朗はオンエア当日、故人となった。
まさに・・・神なる存在となってしまったのである。
ご冥福を祈ります。
神谷仁はアウトレットモールのイタリア広場に「バベルの塔」のようなものを設置した素晴らしい設計図を仕上げる。
このドラマの美術スタッフの腕前は明らかに微妙だった。
しかし・・・「本場トスカーナの石材を使用しろ」などと・・・大御所は予算を度外視した発言で優たちを困惑させるのだった。
設計段階で躓き・・・行程表に遅滞が生じる事態である。
責任をとって長谷川はプロジェクトチームから外されるのだった。
父親の貴行から・・・「相手は大御所・・・素人が下手に説得しようとするな・・・妥協点を探るんだ」とアドバイスされる優。
アドバイスに従い本物とイミテーションの混合という案を提示する優だったが・・・大御所の反応は鈍い。
あせった優は「どうしても先生のお名前が必要なんです」と失言をしてしまうのだった。
「あれはまずかったわね・・・」と梓。
「必要だから必要だと言っただけなのに・・・」と何が悪かったのかよくわからない優だった。
そういう空気の読み方は知らない男なのである。
「弟はどうかな」
寝物語に恋人に問う兄だった。
「なかなかユニークね」
恋人の好意的な答えに戸惑う兄なのである。
「父に紹介する話だが・・・もう少し待ってくれないか」
「ええ」
優から悪気がないとはいえ・・・兄の見合い話について聞かされた梓の心は微かに揺れていた。
宮地真緒(32)は「まんてん」(2002年)、倉科カナ(28)は「ウェルかめ」(2009年)で共に連続テレビ小説の主人公を演じている・・・いわゆる朝ドラヒロイン対決である。
半年で一人、毎年、二人(場合によっては三、四人)ずつ誕生するからサバイバルも大変だよな。
難航する大御所との交渉。
「あまり定石にこだわらず・・・自由にやっていいのじゃないかしら」
「そうかな」
お姉さん的立場の梓におだてられてその気になる優だった。
チームから外れた長谷川は・・・秘策を優に授けるのだった。
大御所の作品歴を分析して・・・建材の変更を目指す優。
そのために・・・即席で・・・建築学を学ぶ姿をお茶の間にアピールするのだった。
もう少し・・・「何を学ぼうとしているのか」・・・示すべきだよね。
とにかく・・・実は「違いのわかる天才性」を備えているらしい優は・・・大御所の作品の前で待ち伏せをするのだった。
「そんなに建築が好きだったのか?」
「僕は素人ですが・・・素晴らしいものとそうでないものはわかります・・・これは素晴らしい」
「・・・」
「一つ、提案があります」
「私を説得するつもりか」
「はい」
大御所はガラスを素材として愛していた。
「ガラスで・・・設計してください・・・予算の範囲内で」
「よかろう」
こうして・・・バベルの塔はガラスの塔になったのだった。
神々の夕べ。
「どうだった・・・」
「さすがはお前の孫だ・・・抜群に可愛かったぞ」
「そうか」
「若い頃のお前にそっくりだった」
「おいおい・・・よせよ」
「まんざらでもないだろう」
ニヤニヤする会長と大御所である。
計画遅延の責任をとらされ群馬県に飛ばされることになった長谷川。
「ひどいじゃないですか」
「人事のしたことだ・・・」
「でも・・・」
「仕方がない・・・お前が手柄をたててしまったからな」
「・・・」
小料理屋「HIROSE」の女将・広瀬早希(大塚寧々)と呼び出した梓に甘える優。
「理不尽じゃないですか」
「仕方ないわ・・・会社ですもの」
「そんなあ」
「誰かにとって正しいことが・・・誰かにとって理不尽なことなんて・・・よくあることよ」
「・・・」
「よつ葉銀行」の頭取・田島文彦(須永慶)などと交渉を重ねた隆一は・・・ついに資金調達に成功する。
「バンコクの件は・・・なんとかなりそうです・・・実は・・・結婚したい女性がいるのです」
「なんだって」
手柄を盾に・・・おねだりをする長男に折れる父親だった。
何故か・・・梓に呼び出されウキウキ気分の優。
しかし・・・レストランには梓とともに優の父親と兄が待っていた。
「優・・・実は彼女とは結婚を前提に交際している」
「え」
兄に告げられて戸惑いを隠せない優だった。
優は衝撃を感じたのかもしれないが・・・よくわからないのだった。
まあ・・・もうすぐ殺されてしまう可哀想な子だと思えばたいていのことは許せるよね。
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