今宵だけはと一心同体に(武井咲)
月9は「カインとアベル」なのだが・・・物語というものは常に何処かが似てくるものである。
「忠臣蔵の恋」で最も虚構色が強いのは主人公の存在である。
七代将軍徳川家継の生母である月光院が宝永元年(1704年)に桜田御殿に出仕する前の歴史の闇につけこんでいるからである。
月光院の父である勝田玄哲が不義密通により加賀藩を追われた過去は・・・まさに「失楽園」そのものであり、勝田善左衛門ときよの兄妹は・・・ある意味、カインとアベルなのである。
父と母が罪を犯したことで「エデンの園」を追放されたことは・・・勝田善左衛門にとって武士身分の剥奪を意味している。
父と母が犯した罪によって武士の子として生れることのできなかった怨みである。
この怨みは・・・主君の暴走によって藩士でなくなった赤穂浪士のすべてに通じて行く。
しかし・・・彼らは奪われた「名誉」を自力で回復する。
後世に語り継がれる物語の主役に躍り出るのである。
きよに至っては・・・死を否定しすべての権威のひとつの頂点である将軍の母になってしまうのである。
凄い「話」なのである
この馬鹿も休み休み言えという物語の面白さがお茶の間に伝わっているのかどうかは別として。
で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第7回』(NHK総合201611051810~)原作・諸田玲子、脚本・塩田千種、演出・伊勢田雅也を見た。浅野内匠頭長矩(今井翼)の勅使饗応役が果たされた後に側用人・礒貝十郎左衛門正久(福士誠治)との婚礼を夢見ていた侍女・きよ(武井咲)だったが・・・長矩が刃傷沙汰の末に切腹し、お家断絶の憂き目となり・・・すべての約束は潰えたかに見えた。しかし・・・吉良上野介義央(伊武雅刀)が生存しているという情報に接し「仇討ち」を覚悟した十郎左衛門に落飾して瑤泉院となった長矩の正室・阿久里(田中麗奈)の「耳」となったきよは・・・「明日をも知れぬ命ならば最後まで一緒に・・・妻としてお側に」と覚悟を明かすのだった。
元禄十四年(1701年)四月十九日、大石内蔵助(石丸幹二)は龍野藩主・脇坂安照と備中足守藩主・木下公定に対して赤穂城を明け渡した。
残務処理には二ヶ月ほどを費やしたと言う。
内蔵助は幕府に対して・・・長矩の弟・大学長広(中村倫也)によるお家再興を嘆願し・・・赤穂浪士の軽挙妄動を戒めたのである。
六月、江戸・芝の源助町に内藤と名を変えた十郎左衛門は町人を装い酒屋を開店する。
木屋孫三郎(藤木孝)が後ろ盾となり・・・きよは十郎左衛門の妹として店に住み込んだのであった。
しかし・・・奉公人がうっかり「お内義さん」と呼んでしまうほどに・・・初々しい新妻のようなきよだった。
床を並べることも遠慮するきよだったが・・・十郎左衛門は真意を明かす。
「きよ殿・・・そなたを妻にしたいという気持ちに偽りはない・・・しかし・・・何れは死を賜る身・・・そなたと夫婦の契りは結ばぬと・・・心を決しておる」
「十郎左衛門様・・・」
共に・・・冥途に参りますとは言えないきよだった。
きよは・・・生れついての武士の娘ではないのである。
きよの父は「お家」を捨てて浅草唯念寺の住職として林昌軒に住まう世捨て人・勝田玄哲(平田満)なのだ。
きよはただ・・・十郎左衛門と仲睦まじい夫婦になりたいと願っていた。
その心はきよに夫婦茶碗を購入させる。
しかし・・・十郎左衛門の決意を想えば・・・それを使うことが許されぬ分別も持っていた。
酒屋には十郎左衛門とともに開城に反対して赤穂城から出奔した側用人の片岡源五右衛門高房(新納慎也)、生前の長矩の勘気を受けて浪人となっていた不破数右衛門(本田大輔)やきよの兄である勝田善左衛門(大東駿介)が集まり・・・仇討ちの密議をする。
側用人の二人はともかく・・・不破数右衛門や勝田善左衛門はある意味、部外者で・・・お調子者なのである。
「殿の無念を晴らす」という十郎左衛門の心情にシンパシーを感じる野次馬代表である。
赤穂事件はこのような・・・民意が・・・当事者たちの心に反映していく物語でもある。
十郎左衛門たちにとって・・・開城に同意したものたちは・・・すべて裏切り者なのである。
一方・・・両国米沢町の堀部家には堀部安兵衛(佐藤隆太)が国許から戻っていた。
安兵衛の妻・ほり(陽月華)に招かれて挨拶に出向くきよ。
「赤穂の城を失うとは・・・」と隠居した堀部弥兵衛(笹野高史)は遠い目をする。
「しかし・・・大石様は・・・含むところがあるとおっしゃいました」
安兵衛は・・・開城後に事を為すという期待を持っていた。
「それにしても許せぬのは・・・側用人の磯貝殿じゃ・・・出奔した後は町人となって酒屋などを営んでいるという噂です」
「それは・・・」
違いますと言いかけて口を噤むきよ・・・探索のために世を忍んでいることは秘密だったからである。
こうして・・・江戸で吉良暗殺を企む赤穂浪士は二派に別れてしまったのだ。
部外者であるきよの縁者で堀内道場の四天王の一人・・・浪人の佐藤條右衛門(皆川猿時)は気を揉むのである。
「我らだけで必ず仇討ちを・・・」
安兵衛の元へは元二百石馬廻役の高田郡兵衛(竹井亮介)・元百五十石武具奉行の奥田孫太夫(鈴木隆仁)などが集い暗殺計画を練る。
しかし・・・夏を過ぎた頃になっても決め手を欠く両派だった。
雷鳴が轟く酒屋の奥座敷。
「殿の御霊がお怒りじゃ・・・」
「・・・」
雷光に竦み・・・十郎左衛門に身を寄せるきよ。
「殿の御霊をお鎮めしなければならぬ」
「しかし・・・どのように・・・行列に斬り込むのですか」
「・・・」
吉良上野介は八月に五千石の旗本・松平信望の本所の屋敷に屋敷替えを拝命し、九月に受領した。
本所は大川(隅田川)の対岸の地で・・・場末の地だった。
しかし・・・屋敷変えの機会を・・・十郎左衛門一派も・・・安兵衛一派も活かすことができなかった。
吉良家も・・・赤穂浪士の動向には注目し・・・警護を固めていたのである。
赤穂での残務処理を終えた大石は京都山科に隠棲していたが・・・江戸での赤穂浪士の動向を知り、自重を促すために元三百石の足軽頭・原惣右衛門元辰(徳井優)と元二十石の大納戸役・毛利小平太(泉澤祐希)を派遣する。
原惣右衛門は安兵衛を説得するが・・・ついには仇討ちに同意する。
その条件として・・・江戸の赤穂浪士の心を一つにすることが打ちだされる。
ほりは佐藤條右衛門を通じてきよに接し・・・泉岳寺にて十郎左衛門と安兵衛の「手打ち」の席を設けるのだった。
原惣右衛門を仲介者として・・・殺気をはらんだ十郎左衛門と安兵衛が対峙する。
夕暮れ・・・酒屋に戻って来た十郎左衛門は・・・きよを奥の座敷に呼ぶ・・・。
「私は・・・思いあがっていた・・・我ら側用人だけが殿への忠義を持っていると・・・しかし・・・藩士たちの思いは同じだった」
「・・・」
「我らは・・・吉良を討つことで・・・一心同体を誓った・・・」
「ようございました」
「きよ・・・そなた・・・夫婦茶碗を・・・買ったな」
「ほんの戯れでございます・・・」
「苦しい思いをさせてすまぬ・・・しかし・・・私も苦しいのだ」
「十郎左衛門様・・・」
「今夜だけは・・・そなたと・・・身も心も一つになりたい・・・」
十郎左衛門は・・・きよを抱きよせ・・・押し倒した。
辛抱たまらなかったのである。
こうして・・・きよは・・・清い身体ではなくなったのだった。
十一月・・・実家である備後国三次(みよし)藩の江戸屋敷(赤坂)に隠遁する瑤泉院に「江戸の赤穂浪士合従」の報告に参上した「耳」のきよ。
しかし・・・奥の間には大石内蔵助が控えていた。
俗に言う第一次大石東下りである。
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