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2016年11月18日 (金)

飲みすぎると死ぬクスリ(成海璃子)

お茶の間の知的水準というものは悩ましい問題だ。

ソクラテスは「人間は基本的に愚かなのだ」という前提から哲学の基本姿勢を示すが・・・お茶の間は基本的に自分を愚かだと思ってはいない愚か者で構成されているわけである。

そもそも・・・賢い人間はお茶の間でテレビなど見ないという・・・意見を持つテレビのスタッフは多い。

特に正社員の縁故入社以外の人はそれなりの高学歴である。

彼らは・・・「視聴率」という「目標」のために手段を選ばない。

その基本は「馬鹿にもわかる番組制作」である。

テレビでは基本的に・・・難しいことをやらないものである。

そして・・・スポーツなどで「勝者」を賞賛すると同時に・・・「人気者」が「落ち目」になれば袋叩きにする。

お茶の間の愚か者たちは「勝者」に自分を投影すると同時に・・・他人の不幸を常に求めているからである。

・・・と多くのテレビのスタッフは思っているのだ。

「馬鹿に受ける発言をするもの」を面白がってお茶の間に届け・・・その凋落を舌舐めずりして待つわけである。

そして・・・ある日、突然、自分たちがそれほど賢くなかったことに気がついて衝撃を受けるのである。

で、『黒い十人の女・第8回』(日本テレビ201611172359~)原作・和田夏十、脚本・バカリズム、演出・豊島圭介を見た。東西テレビの受付嬢である神田久未(成海璃子)はプロデューサー・風松吉(船越英一郎)に口説かれて交際を始めるが風には妻・風睦(若村麻由美)があり、さらに自分の他に愛人が八人いると知って茫然とする。そのうちの一人は・・・親友の文坂彩乃(佐野ひなこ)だったのである。久未は彩乃と死闘の後に和解し、同病相哀れむ仲となった。もう一人の親友・池上穂花(新田祐里子)は彼氏が出来て最近付き合いが悪くなったのだった・・・。

愛人筆頭の・・・如野佳代(水野美紀)から招待状が届いたことをカフェ「white」で報告し合う久未と彩乃だった。

実際に招待しているのは本妻の風睦なので・・・招待状からは典雅な香りが漂う。

「停車場に落ち葉の舞い散る季節となりました。皆さま、いかがお過ごしですか。この度・・・風の会・・・ではささやかなお茶会を催す運びとなりました。つきましては万障お繰り合わせの上、ご出席を賜りたく、お願い申し上げます」

会場のご案内・・・11月24日(木)レストラン「カチューシャ」にて

典雅な香りにうっとりする久未と彩乃だった。

睦の醸しだす貴族的な空気が庶民を包みこむのである。

出番の少ない店員トリオの春江(寺田御子)、夏美(森田涼花)、秋子(松本穂香)までがまったりする強力な波及効果である。

「場の空気」に支配される人間の生態をそれとなく示しているのである。

我に返った彩乃は呟く。

「私たちって・・・風の会なんだ」

「なんか・・・公民館で俳句を読む集いみたいな」

「どうする」

「そうねえ」

こわいものみたさで・・・参加する二人だった。

睦は経営するレストラン「カチューシャ」を貸し切りにして愛人たちを迎え入れる。

かくて・・・ついに一同に会する十人の女たち・・・。

最後の晩餐風に横並びに座った女たちを前に・・・坂本龍馬風の佳代は挨拶をする。

「今日は・・・風のために不幸になった女たちの集いです・・・奥様と九人の愛人たちの集いです」

「え・・・奥様もいらしているのですか」

驚く・・・相葉志乃(トリンドル玲奈)・・・。

「ああ・・・知らない人もいるのね・・・この方が・・・奥様の睦さんよ」

「風と結婚して二十年になります・・・主人がお世話になっております」

ある意味、愛人に対して殺し文句である。

怯えた表情を見せる愛人たち。

全員、正妻に慰謝料を請求されてもおかしくない立場である。

「大丈夫よ・・・睦さんは愛人が九人いることを承知しているから」

「本日は・・・フリードリンクをご用意しましたので・・・」

「修羅場になるような人はこの場には呼ばないから」

「あんた・・・呼ぶでしょう」と弥上美羽(佐藤仁美)・・・。

「確かに・・・」と数々の修羅場を体験した久未も同感である。

「まあ・・・些少はね・・・でも・・・そういうことを乗り越えて・・・今日という日があるのです」

正妻に対して愛人を紹介し始める佳代だった。

「まず・・・私から・・・劇団絞り汁で女優をしている如野佳代です。来年の一月には公演を予定してます」

「遥かなるサンフランシスコ」のポスターを取り出す佳代である。

話が長くなりそうなのでドリンクを一同は飲み物を調達するのだった。

「高知銘菓の土佐日誌もあるから」

「実家に帰ったのですか」

「昨日ね」

しかし・・・あまり人気のない「土佐日誌」である。

「今回は劇団小銭入れの銭屋ゲバ太郎が客演してくださるのです」

小劇団ファンらしい美羽以外は知ったこっちゃないのだった。しかし・・・あくまで芝居の宣伝を続ける佳代だった。

「今度のお芝居の舞台はサンフランシスコなのよ」

「それっておかしくないですか」と脚本家の皐山夏希(MEGUMI)は拘りを見せる。

「サンフランシスコにいるのなら・・・遥かなるって変でしょう」

「それはね・・・サンフランシスコにいるけれどまだサンフランシスコにはたどり着いていないという」

「弥上美羽です・・・」

割って入り自己紹介をする美羽だった。

恒例のメンバー紹介。

妻・レストラン経営者の風睦・・・結婚二十年。

最初の愛人・売れない女優・如野佳代・・・愛人歴八年。

二番目の愛人・弥上美羽・・・職場の部下・・・愛人歴五年。

三番目の愛人・アロママッサージ店経営者・卯野真衣(白羽ゆり)・・・愛人歴四年。

四番目の愛人・皐山夏希・・・愛人歴三年半。

五番目の愛人・水川夢(平山あや)・・・ヘアメイク・スタッフ・・・愛人歴三年。

六番目の愛人・文坂彩乃・・・愛人歴一年半。

七番目の愛人・相葉志乃・・・アイドル女優・・・愛人歴一年。

八番目の愛人・長谷川冴英・・・マネージャー・・・愛人歴九ヶ月。

九番目の愛人・神田久未・・・愛人歴七ヶ月。

美羽の画策により・・・離婚に追い込まれた真衣や・・・恋人に不倫を暴露された志乃にはまだ復讐の炎が燻っている。

しかし、BBAパワー全開でふてぶてしく応じる美羽である。

視聴率対策のために・・・ロールケーキやプリン、どら焼きなどを優雅に用意した睦によって一同は時々、異様に和む。

途中のぶっかけ寸前の修羅場に備えてホットドリンクを退避させる小心者の久未だった。

自己紹介が終わったところで本題に入る佳代である。

「今日皆さんに集まってもらったのは・・・諸悪の根源である・・・風を始末してはどうか・・・ということについて話し合うためです」

「始末って・・・」

「殺すのです」

「ええええええええええ」

どよめく一同である。

「そんな・・・」

「皆さんは・・・いつも言ってるでしょう・・・風が死んでくれればいいのにって」

「でも・・・死ぬのと殺すのとは・・・違うでしょう」

「しかし・・・死ぬのを待っていたら・・・私たちの地獄の日々は終わりません」

久未は恐ろしいことに気がつくのだった。

「まさか・・・佳代さんは・・・そのために・・・私たちに・・・」

「当たり前でしょう・・・何だと思っていたの」

「ただ仲良くなりたいのかと」

「そんなわけないでしょう。わざわざ・・・愛人と仲良くする愛人がどこにるの・・・そんな馬鹿いないでしょう」

「馬鹿なんじゃないかと思ってた」と毒を吐く美羽。

「あんたね・・・とにかく・・・私は風を殺したいと思うのです」

「思うのと実際に殺すのとは違うわよ」

「そうですね・・・殺したら殺人罪です・・・しかし・・・完全犯罪ならどうでしょう」

「完全犯罪・・・」

「私の実家は病院です」

「そうなんだ」

「私は今も仕送りもらっています」

「だから・・・貧乏劇団の女優なのにあんなに贅沢なマンションに」

「クズじゃないか」

アラフォーのすねかじりに殺到するブーイング。

「とにかく・・・私は病院から証拠の残らないように・・・特別な薬を持ちだしてきました」

「特別な薬?」

「はい・・・医師の指示通りに・・・服用すれば薬ですが・・・致死量を摂取すれば毒です」

「・・・」

「ここに十等分してあります・・・これを十二時間の間に全量摂取すれば死に至ります」

「・・・」

「しかも・・・遺体を解剖しても死因は特定できません」

「・・・」

「つまり・・・殺しても罪には問われないのです」

「・・・」

「それに・・・一人でも投与を躊躇えば・・・死は訪れない・・・逆に言えば・・・一人一人は彼を殺すわけではない・・・」

陸、美羽、真衣、夏希の年長者たちの心は・・・「風の始末」に傾くのだった。

「罪に問われないとしても・・・人を殺すなんてできません」

「そうね・・・罪そのものを恐れる気持ちは・・・人として当然よね。でもね・・・このままでは・・・私たちに未来はない。私たちの未来を奪っているのは誰でしょう。つまり・・・あの男は私たちの人生を奪っているのよ。私たちはあの男に殺されているようなもの。これは正当防衛なの。あの男は一人で十人の女を殺している。それに対して私たちはたった十分の一のささやかな抵抗をするだけ・・・」

久未を除いた四人もついに・・・薬を取るのだった。

「久未ちゃん・・・」

「ごめんなさい・・・私にはできません・・・風さんは・・・優しいこともあったし・・・」

「しょうがないわね・・・でも・・・あなたを責めることはできない・・・逆に私たちの罪を止めてくれたわけだし」

「佳代さん・・・」

「みんなが・・・その気になったら・・・やりましょう」と睦が結論する。

緊張から解放される女たち・・・。

そこへ・・・「みんなに優しいのは誰にも優しくないってことですよね」と不倫相手の元夫から月並な指摘を受けて・・・思うところがあったらしい松吉が入店するのだった。

妻と九人の愛人が全員集合していることに驚愕する松吉だったが・・・たちまち平静さを取り戻す。

「せっかくだから・・・みんなが集まっているところで・・・話したいことがある」

「・・・」

「私は・・・君たちをみんな愛している・・・しかし・・・不倫はよくないことだ・・・だから別れよう・・・睦・・・今まですまなかった・・・これからは二度と不倫はしないと誓うよ・・・ということで・・・みなさんごゆっくり」

にこやかに別れの挨拶を終えて退場する松吉だった。

「あの人が何を言ったか・・・わかった・・・?」

「私たち・・・ふられたってことじゃない」

久未の心は噴火していた。

久未はクスリを手にとった。

「ぶっ殺しましょう」

「ちょっと待って・・・私たち・・・地獄から解放されたのだから・・・もう殺す必要はないんじゃないの」

「ゲス野郎だからぶっ殺すんです」

「ちょっと待って・・・奥さんは私たちとは・・・立場が違うから」

睦は微笑んだ。

「もちろん・・・ぶっ殺します・・・今さら何を言ってるのか・・・ですよ」

「では・・・ぶっ殺すということでいいですね」

「ぶっ殺しましょう」

「イエーイ」

こうして・・・致死量の十分の一のクスリをそれぞれが持つ十人の女たちの心は一つになったのだった。

もちろん・・・その心は・・・ドス黒く染められていたのである。

関連するキッドのブログ→第7話のレビュー

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