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2016年11月13日 (日)

愛の暮らしが冥途の土産(武井咲)

昭和元禄と呼ばれた時代があった。

元禄年間(1688~1707年)は・・・戦国時代の記憶は完全に薄れ・・・豊かな時代だったのである。

そこに文化が花開いた。

昭和も1960年代の高度成長期に・・・焼土と化した戦後の空気は薄れ・・・元禄時代のような文化が花開いたわけである。

平成のオタク文化は・・・昭和元禄の文化とは無縁ではない。

「平和ボケ」と言う言葉が・・・「幸福」の代名詞であることは言うまでもない。

「戦争がない」ということは・・・「殺し合わなくても生きていける」ということである。

だが・・・そういう時代がいつまでも続くとは限らないのである。

むしろ・・・いつまでも続かないのが普通なのだ。

「となりの芝生はいつも緑」である。

貧富の差が拡大するのは・・・グローバリゼーションによって・・・他国の貧困が流入してくるからだ・・・と考える人がいる。

もちろん・・・それは間違っていないわけだが・・・同時に・・・富も流入してくるわけである。

その分配を平等にするのが正しいのか・・・自由にするのが正しいのか。

それとも・・・そういうことに拘らずに「浮世」を楽しむことが正しいのか。

元禄忠臣蔵は・・・常に問いかけてくる歴史の物語である。

「仇討ち」に気をとられていれば・・・「物語」の本質を見失うのである。

で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第8回』(NHK総合201611121810~)原作・諸田玲子、脚本・塩田千種、演出・伊勢田雅也を見た。元禄十四年(1701年)十一月・・・実家である備後国三次(みよし)藩の江戸屋敷(赤坂)に隠遁する瑤泉院(田中麗奈)の耳となった侍女・きよ(武井咲)は・・・大石内蔵助(石丸幹二)と遭遇する。浅野大学によるお家再興運動をしつつ・・・吉良上野介義央(伊武雅刀)に対する報復を計画する赤穂浪士を統率する・・・大石内蔵助は・・・危うい綱渡りをしている。

「これからも瑤泉院様を支えてくれ」

「承りましてございます」

きよは・・・深々と頭を下げた。

きよは・・・ただ側用人・礒貝十郎左衛門正久(福士誠治)と愛の暮らしを営みたかったのである。

だが・・・それはもはや・・・「夢」となったのだ。

十郎左衛門は「死を覚悟」した赤穂浪士だった。

親の決めた許嫁を断るために・・・瑤泉院への奉公を続け・・・漸く手に入れた十郎左衛門とのかりそめの新婚生活も・・・「時」が来れば終わる定めである。

十二月十三日・・・吉良上野介が願い出ていた隠居の願いが幕府に受け入れられたのである。

吉良家の当主は・・・養子である吉良義周となってしまった。

吉良上野介の正室は出羽国米沢藩の第三代藩主・上杉綱勝の妹・富子である。

綱勝と富子は初代藩主・景勝の孫にあたる。

寛文四年(1664年)に上杉綱勝が嗣子がないまま死去したために・・・吉良上野介と富子の嫡男・綱憲が米沢藩の第四代藩主となる。

つまり・・・吉良家から上杉家に養子を出したのである。

吉良義周は上杉綱憲の子で・・・上野介の孫にあたる。

今度は吉良家に嗣子がなく上杉家から養子をもらった形になる。

義周は貞享三年(1686年)生れなので数えで十六歳で家督を継いだことになる。

赤穂浪士が惧れたのは・・・引退した上野介が・・・実子が藩主である米沢藩に身を置いてしまうことであった。

そうなれば・・・仇討ちは困難なものになってしまう。

木屋孫三郎(藤木孝)が後ろ盾となり江戸・芝の源助町にきよと兄妹で酒屋を営む内藤と名を変えた十郎左衛門・・・。

そこに・・・堀部安兵衛(佐藤隆太)がやってくる。

「何・・・吉良が隠居だと・・・」

十郎左衛門も顔色を変える。

そこに・・・安兵衛の妻・ほり(陽月華)が高田郡兵衛(竹井亮介)からの文を携えてやってくる。

高田郡兵衛は伯父にあたる旗本・内田元知から養子になるようにとの申し出を受け・・・断り切れずに「仇討ちの義盟」から脱したのである。

「おそらく・・・仇討ちの一件を・・・表沙汰にしないためであろう」

安兵衛は・・・槍の達人である郡兵衛の心情を推量した。

小石川無量院の仙桂尼(三田佳子)を訪ねたきよは・・・村松三太夫(中尾明慶)が仇討ちに参加する意向であることを話す。

「そなた・・・面変わりしましたね・・・大人びたようじゃ」

貞享ニ年(1685年)生れのきよは数えで十七才になっている。

十郎左衛門という男を知ったことを見抜かれたようでうろたえるきよだった。

「孫三郎殿は・・・吉良のお屋敷の奉公の口をそなたに世話をしてもよいと申すが」

「吉良様のお屋敷に・・・」

「できれば・・・そなたには仇討ちとは無縁でいてもらいたい」

「しかし・・・仇討ちをしなければ・・・殿様の無念が晴れませぬ・・・」

仙桂尼はきよの言葉を吟味するような面持ちであった。

無量院からの帰り・・・きよは・・・編み笠を深くかぶった小柄な武士に尾行される。

きよは恐怖を感じ・・・堀内道場の四天王の一人・・・浪人の佐藤條右衛門(皆川猿時)に助けを求める。

「吉良の養子の実家は・・・上杉家・・・赤穂浪士の様子を探る軒猿か・・・あるいは公儀の隠密同心かもしれぬな・・・案外・・・きよ殿の美貌に懸想した若侍かもしれんが・・・」

明らかに・・・村松三太夫だったな。

「それにしても・・・赤穂の方々は・・・主君の仇討ちという目的があってうらやましい・・・わしは・・・仕官も叶わず・・・腹をすかしているばかりだ・・・」

「おじさま・・・」

主家を持たぬ男の身は憐れだった。

きよの・・・かりそめの夫も・・・同じ身の上なのである。

その頃・・・源助町の長屋には・・・村松三太夫が訪れていた。

「こちらに・・・きよ殿が・・・おられるとか」

「探索の手伝いをしてもらっておる」

「それがし・・・きよ殿の許嫁でござった」

「・・・」

「もはや・・・それもかなわぬこと・・・こちらに居候させてもらえないでしょうか」

「なんと」

「私も・・・討ち入りのお手伝いをしたいのです」

「・・・」

十郎左衛門の後ろめたさはマックスに達した。

戻って来たきよに・・・三太夫の申し出を伝える十郎左衛門。

「受け入れようと思う」

「そんな・・・私は・・・」

「時が来たのだ」

「いやでございます」

「ならぬ」

「・・・」

「・・・初めて・・・喧嘩をしたのう・・・」

「・・・」

「今宵が最期じゃ」

「夕餉は・・・御馳走を整えます」

「明日は・・・行ってもらいたいところがある」

「・・・」

激しい一夜の描写はなかった。

きよは・・・十郎左衛門の母親・貞柳尼(風祭ゆき)が身を寄せる・・・松平家御長屋を訪ねた。

十郎左衛門の兄は萬右衛門正輝は旗本・松平与右衛門の家中である内藤家の養子となっており・・・貞柳尼はそこに身を寄せていたのである。

貞柳尼は息子の妻であるみえ(三輪ひとみ)の世話を受けている。

病床にあったのだった。

「このこと・・・十郎左衛門には内緒にしておくれ」

「・・・」

「そなたのことは・・・十郎左衛門から聞いておる・・・きよ殿・・・そなたの行く末が憂きことばかりでないことを祈っておりますぞ」

「ありがとうございます」

「この品々は・・・亡き殿様から・・・息子がいただいたもの・・・どうか・・・費えの足しにしてくだされ」

「母上様・・・」

十郎左衛門は・・・亡き藩主・浅野長矩に寵愛され・・・恩義を受けていた。

それを・・・返さなければならない・・・武士の一分があるのだった。

一方・・・本所の吉良屋敷の様子を窺う十郎左衛門は・・・安兵衛に声をかけられる。

安兵衛は・・・吉良屋敷の近所に道場を構え・・・事に備えていた。

「これなら・・・吉良屋敷が一目瞭然ですね」

「しかし・・・こちらのことを知られてはまずい・・・きよ殿のこともあるしな」

「きよ殿が・・・いかがしたのです」

「知らぬのか・・・尾行の件」

話を聞いた十郎左衛門は・・・酒屋に走る。

きよは・・・すでに戻り・・・帳簿をつけていた。

「尾行の一件・・・何故隠した」

「・・・」

「知れば・・・私が案じて・・・そなたを実家に帰すと思ったか・・・」

「・・・」

「ああ・・・すべては・・・わかりきったこと・・・許せ」

「・・・」

きよは・・・十郎左衛門が自分の身を案じてくれたことがうれしかった。

しかし・・・十郎左衛門には・・・武士の忠義があるのだった。

「そなたとの・・・くらし・・・楽しかったぞ・・・よき冥途の土産話となるであろう」

「十郎左衛門様・・・」

戯れに買った夫婦茶碗を抱え・・・きよは・・・十郎左衛門を見つめた。

店の戸を閉じれば・・・別れである。

店を出たきよは・・・つかの間の愛の暮らしを振り返る。

平成なら・・・音楽教師と吹奏楽部の女子高校生との危険な恋である。

横恋慕して二人の恋すの邪魔をするのはきっと体育教師なんだな。

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