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2016年11月 8日 (火)

百億円を貸してくださいと言いました(山田涼介)

「カインとアベル」は旧約聖書・創世記・第四章の物語である。

「カインとアベル」は人類史上最初の殺人についての物語だが・・・アベルを殺したカインは殺人罪で裁かれたわけではない。

そもそも・・・殺人罪というものがまだないのである。

兄弟の両親であるアダムとイヴが・・・事件についてどのように感じたかの記述もない。

神はアベルの血が大地を汚したことをカインに告げ・・・呪いが収穫を妨げるのでカインにエデンの東から去るべきことを告げる。

カインは「私がアデルを殺したように私は誰かに殺されるでしょう」と神に不安をもらす。

すると神は「誰もカインを殺さない」という加護をカインに与えるのである。

いたれりつくせりである。

なにしろ・・・著者であるモーセ自身が殺人者なので・・・殺人者には甘いと考えることもできる。

「カインとアベル」を考察するためには・・・当然、「第三章」に遡る必要がある。

第三章は楽園で暮らしていたアダムとイヴが狡猾なへびに唆され・・・禁断の果実を食べることによって楽園を追放される話である。

このことにより・・・二人は飢え、女は子を孕み、そして人は死すべき運命となる。

つまり・・・アダムとイヴが「あやまち」を犯さなければ・・・カインがアベルを殺すこともなかったし・・・そもそもカインもアベルもこの世に生れなかったのである。

「最初のあやまち」が「新たなるあやまち」を生み出すことは人生の基本である。

たとえば・・・戦後の人々は・・・「あんな戦争さえなければ」と「失楽園」を感じるのだ。

不倫騒動で炎上すれば・・・「愛」さえも後悔の対象となる。

それでも人は生きて行くと聖なる書は物語るのである。

で、『カインとアベル・第4回』(フジテレビ20161107PM9~)脚本・阿相クミコ、演出・武内英樹を見た。原案を「旧約聖書 創世記 カインとアベル」とするには現代はいささか人口が増えすぎているのだが・・・高田一族に限定すればそれぞれの役割はそこそこ理解できる。高田総合地所株式会社の経営者一族の子供として自由奔放に育った高田優(山田涼介)がアベルであり、長男で副社長の高田隆一(桐谷健太)がカインである。兄弟の父親である社長の高田貴行(高嶋政伸)がアダムである。貴行の妻は未登場だが・・・貴行の姉である自由奔放な女・桃子(南果歩)がイヴのポジションを匂わせる。そして・・・神の代役として兄弟の祖父である高田宗一郎(平幹二朗)が配置されていたわけだが・・・平幹二朗が他界したために寺尾聰が代役となった。滅多にないことである。

聖書の中では・・・アダムは息子が息子を殺害するとは夢にも思わなかった。

そもそも・・・人が人を殺すという可能性さえ思いもおよばなかったのである。

その思いも及ばなかったことが・・・アダムの罪であると言うこともできる。

この物語では・・・隆一は内に屈折を秘めたキャラクターとして明瞭に描かれる。

隆一をそういう人間に育てたのが父親の貴行であることも明示されている。

宗一郎から高田総合地所株式会社を受け継いだ貴行は・・・後継者として隆一を「論理的で計画的な責任感に満ちた指導者」として育てたわけである。

しかし・・・宗一郎は苦言を呈する。

「論理的な人間が必ずしも成功するとは限らない・・・時には直感が重要となる」

だが・・・貴行は父の訓令を否定する。

「時代が違うのです・・・直感に頼っていては巨大な組織を運営できません」

いつの時代にもある・・・論理的な人間と非論理的な人間の確執だ。

もちろん・・・どちらが正しいかを問うことは虚しい。

どちらも正しいしどちらも間違っているというのが論理的であり非論理的だからだ。

そもそも・・・世界には是非などないのである。

そういう哲学的な話はさておき・・・「アウトレットモール建設」のプロジェクトチームに抜擢されたダメ人間の優は年上の同僚・矢作梓(倉科カナ)のアドバイスによって・・・仕事に身が入るようになった。

一方で・・・橋本衆議院議員の娘である綾乃(宮地真緒)との縁談を断り、梓との交際を父に認めてもらうために実績の欲しかった隆一は・・・タイ国でデペロッパー「BDC」との合併事業に奔走するが事業継続のために百億円の資金が必要となり・・・調達が暗礁に乗り上げる。

追い込まれた隆一は・・・失踪するのだった。

「あの・・・息子に限って・・・失敗することなどない」

想像力の欠除した父親は・・・会議を無断欠席した長男の身を案じず・・・「特別な任務」を与えていると役員たちに虚偽を述べる。

そもそも・・・原案が「聖書」なので脚本が幼稚なのではなくて・・・ある程度ファンタジーなのである。

まあ・・・社内で・・・優に思いを寄せる柴田ひかり(山崎紘菜)が登場するとそこが会社ではなく中学校のように見えることもあるが気のせいです。

そもそも・・・アベルが死ぬ前には女はイヴしかいないのである。

矢作梓も橋本綾乃も柴田ひかりも幻なのだ。

団営業部長(木下ほうか)から隆一が出社していない情報を知らされた優は兄の交際相手である梓と情報を交換する。

この時、優は心に梓への恋情を潜ませていると推測できるがそれを表情には表さない。

梓は昨夜、部屋を訪れた隆一の様子が変だったことを伝える。

二人の肉体関係を連想した優は嫌な気持ちになるが表情には表さない。

「聖書」においてはアベルの心情は描かれない。

アベルはただ嫉妬した兄に殺されるだけの存在である。

しかし・・・同じくアダムの息子として生まれながら兄は父の仕事を手伝っているのに対し・・・牧畜という家業以外の仕事をしている自分になんらかの屈折した感情を持ったことは想像できる。

ある意味で・・・アベルはすでに牧草地という荒れ地に追われているのである。

ドラマでは・・・このありえたかもしれないアベルの屈折は・・・自分の愛した女である梓が兄を愛しているということで表現されているわけである。

優も弟として兄を案じるが・・・同時に梓が兄を大切に思っていることに嫉妬するのである。

ただし・・・優はあくまでも・・・梓の身を案じる形で偽善的にそれを表現する。

主人公だからである。

「隆一さんはもう帰ってこないかもしれない」

「どうして」

「隆一さんは経営者一族に生れ後継者として育てられた・・・失敗が許されないと思いこんでいる」

「失敗しない人間なんていないでしょう」

「それは・・・あなたがスペア(予備部品)だからよ」

「・・・」

二番手として緩やかな環境で育てられた優は兄の苦しみが理解できないのである。

優は幼い頃に家出をした記憶が蘇る。

優を発見したのは兄だった。

「どうして家出なんかしたんだい」

「だってこの家は窮屈だもの」

「お前は貧困というものを知っているか」

「貧乏ってこと」

「そうさ・・・貧しいものには苦しみがある・・・その苦しみを免除されている人間には・・・別の苦しみがあるものさ」

「なんだかつまらないな」

「・・・」

戦後の焼土からテベロッパーに成りあがった神としての会長。

神が築いた楽園の外の世界で事業を拡大した社長。

神の孫である兄弟の心は二つの核心を持つ。

保守と革新である。

兄は平和の維持のために管理社会を追及し、弟は自由と平等の個人主義を追求するのである。

「隆一さんは・・・指導者として誰にも頼らず大いなる責任を負っているの」

「でも・・・大切なことを相談されないなんて・・・パートナーとして・・・梓さんはそれでいいの」

「仕方ないじゃない・・・そういう人を好きになってしまったのだもの」

ズタズタに切り刻まれる優の恋心である。

しかし・・・優は兄から贈られた万年筆から・・・「心当たり」を見出す。

「兄は・・・海辺の別荘にいるかもしれません」

「え」

二人は連れ立って高田家の別荘に向う。

「父が万年筆を失くしたのはこの別荘に滞在中でした」

隆一の姿はなかったが・・・隆一の衣服や持ち物が発見される。

「やはり・・・ここに来ている・・・帰りを待ちましょう」

「いいえ・・・帰りましょう」

「え」

「隆一さんは・・・何かを克服しようとしている・・・お父様の期待に応えるために・・・ここで私たちが手を貸せば・・・隆一さんの自尊心が傷つくかもしれないから」

「・・・」

梓が兄を思いやる心の深さに打ちのめされて別荘を後にする優だった。

小料理屋「HIROSE」で女将の広瀬早希(大塚寧々)に背中を押されたひかりはドジッ子女子のように転倒しながら優にアタックする。

「梓さんが好きなんでしょう」

「あ・・・これはまだ秘密なんだけど・・・梓さんは兄の恋人なんだ」

「え」

小中学生のようにスキップするひかりだった。

女はみんなイヴの娘なのである。

宗一郎会長は貴行社長に神の声を伝える。

「隆一は危ういところがあるのではないか」

「あなたが私を完璧な後継者に育てたように私も息子を完璧な後継者に育てました」

「お前は・・・まだ肝心なことがわかっていない」

「肝心なこと?」

「神である私以外に完璧な人間などいないということだ」

一神教において神は完全無欠絶対無比の存在である。

「聖書」の重要な主題は・・・人が「神に等しい存在」となることの否定である。

指導者が支配者となることを「神の子」は戒める。

七つの大罪でもっとも重要なのは「傲慢」という神に対する反逆なのである。

その「教え」が「教会権力」を発生させるというところが西洋史の醍醐味なのである。

兄の身を案ずる優は兄の直属の部下を経由して「よつ葉銀行」の頭取・田島文彦(須永慶)に面会し、兄が「百億円の融資」を断られたことを知る。

「兄さん・・・百億円が借りられなくて困っているのか」

ここで・・・「カインとアベル」の前段となる「失楽園」の主題が挿入される。

四度の結婚離婚を繰り返す「愚かな女」としての桃子(南果歩)の新たなる婚約問題である。

婚約相手は海外在住の投資家・黒沢幸助(竹中直人)であった。

危険を感じた桃子の弟である貴行は興信所に調査を命ずるが黒沢の正体は杳として知れない。

桃子は家族に対して婚約者を紹介する機会を求め、貴行は渋々応じる。

「姉さんが誰と結婚しようと自由ですが・・・資金面での協力はできません」

貴行は防衛線を構築する。

「失礼ね」

貴行が座を去り、同席した優と梓が残される。

「あなたに百億円の投資をお願いします」

いきなり切り出す優だった。

唖然とする桃子と梓。

しかし・・・投資家を称する黒沢は即答するのだった。

「よかろう」

「いいのですか」

「もしも・・・断ったらどうするつもりだったのだ」

「伯母さんとの結婚に反対すると駄々をこねるつもりでした」

「ふ・・・君は面白い・・・気に入った」

神の恩寵もまた「聖書」の重要な要素である。

アベルがカインに殺されるのも・・・アベルが理不尽なほどに神に愛されたことによる。

やることなすことうまくいく優に対してお茶の間は唖然とするだろうが・・・それこそがカインがアベルに抱いた邪な気持ちなのである。

さて・・・素直に考えれば・・・イヴである桃子の心を掴んだ黒沢の存在は「失楽園」における「蛇」ということになる。

「創世記」では蛇は単に狡猾なだけの神の創造物に過ぎない。

しかし・・・「聖書」の愛読者たちは・・・その正体に思いをめぐらし・・・「イザヤ書」の「輝く者が天より墜ちた」や「ヨハネの黙示録」の「天で戦いが起こりサタンが地に投げ落とされる」から堕天使ルシファー=魔王サタンの存在に帰着する。神に反逆し地獄へと墜落する堕天使こそがジョン・ミルトンの「失楽園」の中ではイヴを誘惑する蛇なのである。

「失楽園」の前段には「神に反逆した天使の墜落」が隠されているのだった。

「百億円」というある意味、大金を無造作に融資する黒沢の正体が悪魔であることはそれほど意外なことではないだろう。

絶対神が作った世界に苦渋が満ちているのは・・・悪魔の反逆が続いているから・・・というのは「教会」の常套句なのである。

絶望の淵に立つ別荘の隆一の前に・・・黒沢が現れる。

黒沢は優からの依頼であることを秘匿し隆一に百億円を融資するのだった。

起死回生の出来事に高揚する隆一。

合併事業への撤退が開始される前に・・・存続を決め・・・何事もなかったように会社に復帰する。

父親は完全無欠に育て上げた息子の「完璧さ」に満足する。

意気揚々と婚約指輪を持って梓に求婚する隆一。

「正式に婚約したい」

「うれしいわ」

涙して婚約指輪を受け取る梓だった。

「でも・・・困ったことがあったら・・・今度は相談して欲しい」

「相談しても仕方ないだろう。私は選ばれた人間だ・・・たった一人で危機を乗り切った。奇跡が私を祝福している」

梓は隆一の傲慢な態度に危惧を感じる。

「あなたは・・・誰かに助けられているのよ」

「え」

「人間は助け合って生きるものでしょう」

「ええっ」

「融資を可能にしたのは優くんよ」

「えええ」

もちろん・・・タイミングとしては最悪であるが・・・すべては悪魔の計画のなせることだと思えば仕方がない。

梓の隆一に対する期待は裏切られ・・・隆一の精神は崩壊する。

帰宅し・・・いきなり・・・優を殴り倒す隆一だった。

「俺を助けて・・・神にでもなったつもりか」

「兄貴・・・」

弟の心を兄は知らない。

そして兄の心を弟は知らない。

兄弟の無知に・・・悪魔はつけこみ・・・慈愛に満ちた神は人の愚かさに激怒する。

これが「聖書」のお決まりのパターンなのである。

神が怒れば洪水や火の雨が降るのだった。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

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