2041年から来た男の人と冬の寄せ鍋を食べました(成海璃子)
今から25年後は2041年である。
25年後のことなんか想像もできないのが一般的である。
今から25年前は1991年である。
現在22才以上ならばなんらかの記憶があるのが一般的である。
多国籍軍がイラクを空爆して湾岸戦争が勃発した年だ。
ソ連のゴルバチョフ大統領が訪日した年である。
携帯情報端末「Newton」をアップルが発売したのが1993年であり、スマートフォンはまだない。
25年前、誰もが携帯コンピューターを持つ時代がすぐそこまで来ていると予見している一般人はそれほど多くはなかっただろう。
医療技術は確実に進歩し・・・二十五年前には確実に死亡していた人間が充分に回復可能になっている。
2041年には・・・とんでもないことになっていることは間違いないだろう。
しかし・・・このドラマの未来人は・・・そういう未来とは無縁なのである。
つまり・・・二十五年前と同じようにスマートフォンを持っていない人の話である。
そういう一種の時代遅れの物悲しさがこの「オトナの土ドラ」からは漂ってくる。
で、『リテイク 時をかける想い・第2回』(フジテレビ201612102340~)脚本・秋山竜平、演出・小野浩二を見た。2022年にタイムマシンが開発され、未来から未来人が飛翔してくる世界である。ただし、時間旅行は未来から過去への一方通行であり、未来人が過去に出現した時点で・・・未来人の遡上してきた未来は失われ、別の時間軸に路線変更されたと思われる。現代人にとって・・・未来が変更されたかどうかの判断が不能であることは言うまでもない。ただ・・・未来人だけが・・・自分の知る「歴史」が変わったという認識を持つことはできる。たとえば・・・未来人が過去の自分を殺しても未来人は消失しない。未来人の存在した時間軸と・・・遡上した時間軸は別世界なのだ。この世界にはタイムパラドックスは存在しないのである。
「歴史の変更を阻止せよ」という任務を帯びた法務省戸籍監理課の業務がお粗末なのは・・・それが単なる気休めに過ぎないからなのだ。
「未来のことなんか・・・わからないけど・・・現状の変更を勝手にされるのは気分が悪い」という話です。
法務大臣政務官秘書の大西史子(おのののか)さえも本来の業務を知らされていない法務省戸籍監理課に法務大臣政務官の国東修三(木下ほうか)は「未来人の確保」を厳命するのだった。
戸籍監理課課長・新谷真治(筒井道隆)、正規職員・那須野薫(成海璃子)、パートタイマー・パウエルまさ子(浅野温子)の三人は今日もタイムトラベルによってリテイク(撮り直し)しようとする未来人の確保に挑むのだった。
どう考えても人手不足です。
ギャンブルで一攫千金を達成し、現代で優雅に暮らすことを目論むオバケ(未来人・・・時間旅行に伴い衣服が何故か漂泊されるための戸籍監理課用語)の坪井信彦(笠原秀幸)の現住所を特定するパウエル。
「オバケは出ますかね」と張り込みのために出動した薫である。
「オバケには戸籍がない・・・過去の自分自身と接触する可能性は高い。場合によっては現代人なりすます可能性だってある」と新谷課長。
「あ・・・私の肉まん」
「あ」
新谷課長は・・・薫の肉まんを食べてしまった!
そこへ・・・オバケの坪井が現れる。
「坪井さん・・・」
「また・・・お前らか」
オバケの坪井はいかにも成り金の様相を呈している。
「一緒に来てください」
「断る」
坪井は逃走を開始する。
新谷課長は鈍足だが・・・薫はなんとかオバケの坪井を追いつめるのだった。
「もう・・・逃げられませんよ」
「未来の出来事を知る俺様をなめるなよ」
突然、周辺の樹木に落雷が発生する。
動揺する薫・・・その隙をついてまんまと逃げるオバケの坪井だった。
そこでようやく姿を見せる新谷課長。
「くそ・・・過去の気象データも持っているのか・・・」
「課長・・・トレーニングしてくださいよ」
翌日、都内で・・・オバケの出現を意味する「天気雨」が観測される。
「何故・・・天気雨が降るのでしょうか」
「そんなこと・・・わからないわ・・・でも・・・一種のマーキングかもしれない」
「マーキング」
「たとえば・・・この場所から昨日に向ってタイムトラベルするとしましょうか」
「はい」
「すると・・・地球は太陽の周囲を公転しているから・・・時間だけを遡上したら私たちは何もない宇宙空間に出現することになるわ」
「窒息しちゃうじゃないですか」
「だから・・・最初になんらかの方法によって・・・時空間を固定するのかもしれない。天気雨の降った過去の地球上に到着できるように・・・」
「よくわかりません」
「とにかく・・・タイムトラベルなんてそういうとんでもないことなのよ」
二日目・・・張り込み場所に向う新谷課長は青年の落した十円硬貨を拾い驚く。
「昭和二十九年」製造の刻印がある。
「これ・・・どうしたの」
「ああ・・・それ予言者にもらいました」
「予言者・・・ちょっと話を聞かせてもらえないか」
「ちょっとって・・・一分ですか・・・十分ですか・・・何故、あなたに話さなければならないのですか」
青年は・・・新谷課長にある種の面倒くささを感じさせた。
「コーヒーを一杯奢らせてくれ」
「・・・いいですよ」
喫茶店に入る新谷課長と青年。
新谷が名刺を渡すと、青年は免許証を提示した。
「漆畑彬さん・・・お話を聞かせてください」
漆畑彬(タモト清嵐)は主張した。
「まだ・・・コーヒーが来ていません」
「ああ・・・」
そこで・・・新谷課長の携帯端末に薫からの着信がある。
(何してるんですか)
「今、喫茶店に・・・」
(何、一人で温まってんですか)
「いや・・・新規オバケの手掛かりを得て・・・そっちは君にまかせる」
(・・・)
「肉まんの件はすまなかった」
コーヒーを飲んだ漆畑青年は話を始めた。
「十円玉を落して・・・自販機の下から取ろうとしていたんです・・・そしたら・・・あの人がやってきて・・・十円くれて・・・自販機から離れろと・・・自販機から離れると・・・子供の蹴ったサッカーボールが自販機を直撃しました・・・」
「だから・・・予言者だと」
「まあ・・・そうです」
「どうもありがとう・・・参考になった」
「あの人が・・・どうかしたんですか」
「いや・・・特にそういうことではないが・・・偽造貨幣かもしれないから」
「こんな精密な十円玉の偽硬貨なんて・・・どんだけハイリスクローリターンな犯罪ですか」
「だね・・・」
新谷課長は漆畑青年の尾行を開始した。
同時にパウエルに周辺の監視カメラの画像解析を依頼する新谷課長・・・。
(特定できたわよ・・・白い服を着用した中年男性が・・・漆畑彬と接触している)
「新規のオバケですね」
(画像を送る・・・)
送られてきた画像の男(マギー)が・・・漆畑青年と接触中だった。
そこへ・・・ふたたび新谷課長の携帯端末に薫からの着信がある。
(逃げられちゃいましたよ・・・課長が遅いから)
「こっちに合流しろ・・・目の前に新規のオバケがいる」
(今、どこですか)
新谷課長は・・・漆畑青年とオバケを挟んで・・・薫が近付いてくる姿を捉えた。
「目の前だ・・・やりすごせ」
漆畑青年とオバケは何やら・・・話し込んでいた。
薫は二人の傍らを通りすぎる・・・。
「二人は何を話していた」
「こっちの道を通るなとかなんとか」
その時、薫は走って来た男に突き飛ばされて転倒する。
「痛い」
「大丈夫か」
「今の男・・・どう見ても覆面強盗ですよ」
「だな・・・警察に通報しろ・・・俺は二人を追い掛ける」
「はい」
現場に駆け付けたのは新谷課長の義理の弟で警視庁捜査一課の柳井研二刑事(敦士)だった。
・・・どういう立場だよ。
「まったく・・・義理の兄貴はひどいな・・・怪我人を放置して・・・」
「課長の悪口は言わないでください」
「え・・・まさか」
「そのまさかではない・・・部下として上司の悪口を許せないだけです」
「縦割りかっ」
課長は二人を見失っていた。
「漆畑彬の住所がわかりますか」
(送信したわ)
パウエルの仕事は早い。
漆畑青年のアパートに到着した課長は男を発見した。
「あなた・・・未来から来ましたね」
「君は・・・」
「未来人を保護する仕事をしているものです」
「保護は必要ではない」
「あまり・・・現代に関与されては困るのです」
「私はただ・・・彼と話したいだけだ」
「あなたが彼を助けたために・・・別の人間が怪我してるんですよ」
「・・・」
「さあ・・・一緒に来てください」
しかし・・・男は・・・漆畑青年の部屋のドアを叩く。
「いるのは・・・わかってる」
「どなたですか」
「今夜・・・あの店に行け・・・君が行きたいのはわかってる」
「余計なお世話です」
「行かなければ・・・ずっと一人だぞ」
「それに・・・何か問題でも・・・」
「今はそう思うかもしれないが・・・二十五年後には・・・後悔するんだよ」
「二十五年後って・・・あんた・・・頭おかしいのか」
扉は閉められた。
課長は立ちすくんだ。
「まさか・・・あなたは・・・彼なのですか・・・」
「そうだよ・・・う・・・」
男は身体の不調を訴える。
「救急車を呼びましょう」
「必要はない・・・私は2041年から来たんだから・・・」
「どういう意味です」
「未来の病院で治療困難な病気が・・・この時代になんとかなると思うかな」
「私の病気は・・・この時代にはまだ発見されていない」
「難病なのですか」
「全身縮小病だ・・・全細胞が縮んでいく奇病だよ・・・私が彼だとは思えないだろう」
「まあ・・・加齢で身長は縮むものですが・・・あなたの場合はかなり縮んでますね」
「そうだ・・・二十五年前には・・・中肉中背だった私が・・・もはやチビになってしまった・・・そして縮みきると死亡する・・・治療法は2041年にも確立しておらず・・・私は余命三ヶ月を宣告されている」
「・・・だから過去に来たのですか」
「そうだ・・・今夜が運命の分かれ道だから・・・」
「運命の・・・」
「行きたい店がある・・・付き合ってくれないか」
「・・・」
居酒屋「へのへのもへじ」に入店する二人。
カウンターにはアラサーの女性客(辻元舞)がいる。
「ねえ・・・店長・・・昨日の男の子・・・今日は来てへんの?」
「ああ・・・まだお見えではないですね」
「なんか・・・なんかなあ」
店長(渡辺火山)の答えに不満気な関西弁の女だった。
「美人でしょう・・・彼女」
「はあ・・・」
「大阪から出張で来ているんですよ・・・昨日・・・たまたま・・・私・・・つまり二十五年前の私は隣り合わせて・・・彼女に話しかけられたんです・・・あんな美人で・・・年上の女から話しかけられて・・・私は戸惑った・・・そして少し恐ろしさを感じました・・・でもね・・・あんな美人と話したのは・・・生れて初めてだったし・・・楽しくもあったんですよ・・・そして・・・私がそういう機会に恵まれるのは・・・これが最後なんです」
「え」
「まさか・・・そんなことになるとは思わず・・・私は今夜・・・ここに来なかった・・・まあ・・・だからと言って私は自分が不幸だとは思いませんでした・・・昨夜のことは・・・二十五年後の今もいい思い出です。病気になって・・・余命宣告されるまではね・・・死ぬとわかった時・・・私はわかったんです・・・自分が愚かだったことが・・・だって私の走馬灯には・・・たった一夜・・・彼女と話したことしか・・・映らないんですよ・・・寂しいでしょう」
「二十一世紀半ば近くになっても走馬灯なんて信じている人がいるんですか」
「そこかよっ」
「わかりますよ・・・私は最近・・・離婚して・・・一人になりました・・・別れた妻は・・・娘に会わせてもくれません・・・一人は・・・寂しいです」
「いや・・・なんか・・・私よりかなり恵まれている気がします」
「・・・」
「やはり・・・もう一度だけ・・・彼に話させてください」
「仕方ないなあ・・・」
未来人に甘い課長なのだった。
しかし・・・漆畑青年はアパートにはいなかった。
「もしかしたら・・・」
「すれちがったのかもしれませんね」
居酒屋に戻ると・・・漆畑青年がカウンターに座っていた。
「彼女は・・・」
「いませんよ・・・」
「店長・・・彼女はどうしたんですか」
「その人と入れ違いでお帰りになりましたが・・・」
「行け・・・追いかければ間に合う」
「何を言ってるんです・・・何故・・・僕が」
「話したいんだろう・・・彼女と・・・もっと話したいんだろう」
「・・・」
「チャンスを掴めよ・・・」
漆畑青年は店を飛び出した。
「困りますね・・・勝手に未来を変えられては・・・」
「ありがとうございました」
「いや・・・私は・・・別に」
「私・・・ずっと気になっていたメニューがあるんです」
「メニュー?」
「あれです」
そこには「冬の寄せ鍋・・・お二人様より」という張り紙があった。
「鍋の季節ですね」
「注文してもいいですか・・・二人前」
「いや・・・四人前にしましょう・・・二人が帰ってくるかもしれないから・・・」
しかし・・・帰って来たのは・・・傷だらけになった漆畑青年と・・・薫だった。
「え・・・」
「なんで・・・」
「予算とスケジュールの関係で割愛された場面を説明します。私は・・・柳井刑事に一杯奢らせて帰宅する途中で・・・覆面強盗を発見して追跡しました・・・すると強盗が通りかかったファッションモデル風の女性を人質にとったんです。そこへ彼がいきなり飛び込んできて強盗と格闘の末・・・女性を救助しました・・・強盗は柳井刑事が逮捕して連行していきました」
「お手柄じゃないか」
「その後・・・彼が彼女に告白して」
「やったな」
「ごめんなさいされちゃいまして」
「ええええええええええ」
「課長がここにいると聞いて同行して来たのです」
「・・・まあ・・・とにかく鍋でもどうだ」
「あんたが・・・上手くいくようなこと言うから・・・」
「・・・とにかく鍋でも・・・」
「僕は食べません・・・こんな時間ですよ・・・とっくに夕飯食べたとは思いませんか」
「・・・」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「僕は食べません・・・」
「失恋の傷を癒すために鍋を囲む・・・それも貴重な体験だと思わないか」
「そんなの・・・なんだか・・・帰りの会みたいだ」
「武藤くんの話か・・・」
「え」
「君が小学生の時・・・武藤君と喧嘩して・・・帰りの会で和解を強要されて・・・武藤くんは謝ったのに・・・君は非は武藤くんにあると思って・・・許す気持ちになれなかった」
「なんでそんなことを・・・」
「これ以上は・・・国家機密なので」
「国家機密?」
「だけど・・・結局、あの時、君は謝っただろう」
「そうじゃないと・・・帰りの会が終わらなかったから・・・だけど・・・僕は二度と・・・自分を曲げたくないと・・・今日まで生きて来たんだ」
「そうさ・・・そうやって後二十五年な・・・」
「また二十五年ですか」
「とにかく国家機密なので・・・」
「食べても食べなくても・・・明日はやってくる・・・だったら・・・試しに食べてみるという生き方もあるよな」
「・・・いただきます」
「どうだい」
「思ったより・・・美味いですね」
「そうさ・・・君は今・・・歴史を変えたんだ」
「歴史を・・・」
「国家機密!」
未来人を収容する別荘へ向かう途中で・・・新谷課長は薫のために肉まんを買った。
「温かいお茶もお願いします」
「・・・」
「また・・・少し縮みましたね」
「ええ・・・でも・・・今はすごく気分がいい」
「そうですか」
「私は・・・いや・・・彼は変わりましたかね」
「そうですね・・・美女と一夜お酒を飲んだだけの彼と・・・好きになった女を守るために泥棒と格闘してあげくの果てに振られた彼ではだいぶ違うでしょう」
「いい人生になるといいなあ・・・」
「まあ・・・そうなると歴史が変わっちゃって困るんですけどね」
「すみません」
「あ・・・また・・・縮んだ・・・」
「この人、別荘まで持ちますかね」
「さあ・・・未来のことなんか誰にもわからんさ」
余命三ヶ月のオバケをのせて・・・課長は公用車を走らせた。
「デスペラード/イーグルス」(1973年)よりも「うわさの男/ニルソン」(1969年)を聞きたい気分だ。
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