討ち入り前夜の女(武井咲)
師走である。
「歴史秘話ヒストリア」では「第268回・マイベスト内蔵助 忠臣蔵ラバーズ」(NHK総合20161209)と題して「忠臣蔵」を扱っていた。
「江戸城刃傷沙汰」の後で赤穂藩の家老・大石内蔵助がいかに「討ち入り」の同志を募っていったかを示し、嫡男・主税に裏門の大将という重責を与え、「口上書」で正当な仇討ちを主張し、火の用心に務めたという「武士の忠義」の「お手本ぶり」を語っている。
内蔵助の切腹の場がイタリア大使館になっているなど・・・なかなかに情報の取捨選択がおしゃれである。
一方、「古舘トーキングヒストリー~忠臣蔵、吉良邸討ち入り完全実況~」(テレビ朝日20161210)というスペシャル番組もあり・・・大石内蔵助(緒形直人)、吉良上野介(西村雅彦)、原惣右衛門(笹野高史)といった豪華な顔ぶれで「再現ドラマ」を展開、実況中継とスタジオ解説を織り交ぜて「忠臣蔵の真相」を紹介した。
「殺人」を否定する法治国家にとって・・・「仇討ち」という行為は・・・テロリズムを連想させるわけだが・・・「命」よりも大切なものが・・・ないわけではないという「考え方」を示す意味では「忠臣蔵」が素晴らしいテキストであることは間違いない。
時に社会は「弱者」に冷たいことを正当化する。
対岸の火事は美しいスペクタクルである。
それではすまないことを人間は主張できる生き物なのである。
で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第11回』(NHK総合201612101810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・黛りんたろうを見た。全20回予定なので折り返し地点である。このドラマでは・・・主人公のきよ(武井咲)の存在はここまでがフィクションで・・・討ち入り以後には歴史的登場人物になっていくわけである。そういう意味では奇想天外な「忠臣蔵」の物語なのである。
元禄十五年(1702~3年)十二月二日、大石内蔵助(石丸幹二)は深川八幡の茶屋で同志を集結し、討ち入り時の綱領「人々心覚」を明らかにする。
ここに至るまでに磯貝十郎左衛門(福士誠治)や片岡源五右衛門(新納慎也)などの浅野内匠頭長矩(今井翼)側近グループ、堀部弥兵衛(笹野高史)・安兵衛(佐藤隆太)父子を中心とした江戸急進派グループの統合など・・・内蔵助の配慮はよどみなく展開する。
本所松阪の吉良家拝領屋敷の向いに位置する本所相生町の米屋こそが討ち入りの最終拠点となっていた。
米屋の主人・米屋五兵衛は赤穂浪士の一人・前原伊助(山本浩司)の仮の姿だったのである。
吉田忠左衛門(辻萬長)の指図に従って白金にある上杉家下屋敷に在住の吉良上野介義央(伊武雅刀)の正室・富子(風吹ジュン)の侍女となり・・・亡き母の名さえを名乗るきよは・・・ついに上杉綱憲(柿沢勇人)の見舞いに訪れた上野介の顔を見る機会を得た。
上野介の額には・・・刃傷沙汰の傷痕がまざまざと残っていたのである。
綱憲の看病に貢献したさえ(きよ)は富子に深く信頼されていた。
「さえは綱憲殿の命の恩人です」
「さようか・・・」
仇である上野介と富子夫人の感謝の言葉に複雑な想いを抱くさえ(きよ)だった。
仇討ちは・・・五日と知らされるさえ(きよ)・・・。
その日は吉良屋敷で茶会が催される予定であった。
しかし・・・侍女たちの話を聞いたさえ(きよ)は顔色を失う。
侍女頭(松浦佐知子)の話で五日の茶会は中止になったと言う。
「では吉良のお殿様は屋敷にお戻りにならないのですね」
年長の侍女であるしの(高田衿奈)が確認する。
(このままでは・・・吉良様不在のお屋敷に討ち入り・・・)
与えられた部屋に戻ったさえ(きよ)は葛籠に隠した「父危篤」の文を取り出す。
討ち入り前に屋敷から脱出するために用意された偽書である。
これを使えば・・・一度は屋敷から離れなければならない。
逡巡するさえ(きよ)を侍女のちさ(二宮郁)が呼びに来る。
「愛しいお方がお見えですよ」
連絡役として商家の手代を装う毛利小平太(泉澤祐希)とさえ(きよ)の仲を誤解しているちさだった。
「旦那様が・・・お変わりないかと案じられておりました」
「明神様のご加護のおかげで息災でございます・・・」
符牒を交わした小平太ときよは上杉下屋敷裏の氷川宮で落ち合う。
「五日に・・・上野介は吉良屋敷に不在でございます」
「なんと・・・」
「急ぎお知らせください」
「それで・・・上野介の顔は・・・」
「額に刀傷がございます」
「すると・・・殿の・・・」
「はい・・・」
「とにかく・・・日を改めなければならんな」
「討ち入りの日が決まりましたら・・・前日にこの木に十文字の印を願います」
「心得た・・・しかし・・・なぜ」
「せめて・・・お見送りがしとうございます」
「さようか・・・磯貝十郎左衛門様は・・・御健在だ」
「・・・」
数日が過ぎた。
さえ(きよ)は富子に所望されて琴を爪弾く。
そこへ・・・上野介が現れた。
「上杉は冷たいのう・・・大川(隅田川)を渡れと催促しよる・・・儂がこの屋敷におったら迷惑のようじゃ・・・」
「お殿様・・・さようなことを申されますな」
「いっそのこと・・・あの時、赤穂の阿呆と一緒に腹を切っておればよかったわ」
「・・・」
「お前は・・・儂の後を追う覚悟であろうが・・・もしやの時は菩提を弔ってくれ・・・後追いは許さん」
「もしやの時など・・・不吉な」
「おさえ・・・と申したな・・・富子のこと頼んだぞ・・・儂はまもなく・・・吉良の屋敷に戻るでな」
「かしこまりました」
仲陸まじい吉良の老夫婦の前で・・・心が斬り裂かれるような想いを感じるさえ(きよ)だった。
さえは吉良の女・・・しかし・・・きよは浅野の女なのである。
(これが・・・くのいちに求められる・・・非情の心か)
上野介は吉良屋敷に戻った。
赤穂浪士たちは吉良屋敷で十四日に茶会が催される情報を入手していた。
十二月十三日・・・氷川の宮の樹木に十文字の刻印が刻まれた。
(いよいよ・・・明日)
さえ(きよ)は「父危篤」の偽手紙を取り出し・・・お暇を願い出る。
「それは心配であろう・・・」
富子は見舞い金を包み、さえ(きよ)を送り出した。
「おさえちゃん・・・」
しのが呼びとめる。
「これ・・・傘・・・奥方様が・・・雪になりそうだからって・・・」
きよとなったさえは・・・富子の心使いに火で炙られるような心持がする。
そして・・・雪が降り出した。
小平太と落ち合う約束の神社で・・・きよは怪しい網笠の武士の姿を発見する。
危険を感じたきよはその場を離れ・・・市中に出た。
(密偵を連れてはどこにもいけない)
磯貝十郎左衛門に一目会いたい想いと・・・仇討ちという大事への決心がきよを迷わせる。
しかし・・・彷徨うきよの目前に小平太が近付いてくるのだった。
最後の脱盟者と呼ばれる小平太の運命の分かれ道らしい・・・。
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