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2016年12月 6日 (火)

滅びに通じる道はなだらかで少し下っている(山田涼介)

カインとアベルは「聖書」の冒頭に近い。

そこでは「神の支配」の絶対性が語られている。

カインは弟の方が自分よりも神に愛されていることに絶望し、絶望から抜け出すために弟を殺害する。

つまり・・・神を愛するあまりに弟の存在を認めることができなかったのだ。

しかし・・・アベルの血は大地に呪いをかける。

カインは作物を育てることができなくなる。

神はアベルの死をそれほど悲しまない。

ただ・・・カインをエデンの東から追い・・・変わらぬ加護を授ける。

アダムは親として・・・カインを「神の心にそぐわぬもの」として導いてしまった。

その結果としてカインもアベルも失う。

けれど・・・神はアダムを見放さない。

神はアダムに第三の子セツを授ける。

つまり・・・無実のアベルは・・・死に損なのである。

アベルの叫びは今も荒野に響くのだった。

アベルの死になにか意味があったのだろうか。

もちろん・・・そんなものはないのである。

神の愛は広大無辺であり正義と同じように悪もまたその手の内にあるからである。

で、『カインとアベル・第8回』(フジテレビ20161205PM9~)脚本・山崎宇子、演出・武内英樹を見た。原案は「旧約聖書 創世記 カインとアベル」である。その前段として「失楽園」がある。アダムの妻イヴが「邪悪で賢き蛇」に唆されたことにより神を裏切った夫婦はエデンの園から追放されてしまうのである。エデンの東でイヴはカインとアベルの兄弟を生む。一つの土地に後継者が二人いれば争いが避けられないことが主題である。兄が弟を殺すことで・・・聖書における人類最初の子育ては失敗するのだった。何事も最初から上手くはいかないものである。

人類がアダムとイヴとカインとアベルの四人しかいないわけである。

聖書において男尊女卑は空気のようなもので・・・女は基本的に「愚かな人」である。

蛇に唆されて禁断の果実を食べ・・・アダムを唆し禁断の果実を食べさせるイヴ。

善良なアダムに対して邪悪なイヴなのである。

この物語では高田総合地所株式会社の高田貴行社長(高嶋政伸)がアダム。

副社長の高田隆一(桐谷健太)がカイン。

取締役に抜擢された高田優(山田涼介)がアベルである。

隆一と優の母親は未登場だが・・・その他の女性登場人物はすべてイヴの化身ということになる。

隆一の婚約者で優の仕事のパートナーである矢作梓(倉科カナ)がいかにも「危うい女」で「愚か」なのは・・・イヴの化身だから仕方がないのだな。

ストレートに言えば会長の高田宗一郎(寺尾聰)が神のポジションということになるが・・・男性登場人物すべてが「世界」を構成する「神の一部」と考えることが出来る。

唯一の例外は投資家・黒沢幸助(竹中直人)でおそらく「蛇」のポジションである。

貴行の姉で宗一郎の長女である桃子(南果歩)もまたイヴの化身である。

自由奔放な桃子にとりついた蛇は・・・神の計画を邪魔するのが生きがいなのである。

詩人ミルトンは「蛇」こそが「人間」に嫉妬して神に反逆した天使長ルシフェル・・・つまり堕天使サタンであると推定している。

桃子は無邪気に蛇を高田家に潜り込ませたわけである。

当然のことだが・・・一途な愛を優に注ぐ柴田ひかり(山崎紘菜)もイヴなのだし、ひかりを案じる小料理屋「HIROSE」の女将・広瀬早希(大塚寧々)もイヴなのである。

なにしろ・・・「カインとアベル」の世界にはアベルが殺されるまで女はイヴしかいないのだから仕方がない。

あくまで原案に忠実だとそうなるという話です。

唯一の後継者として重圧に耐えてきた隆一の精神は・・・競争相手の出現で破綻寸前に追いつめられる。

一方・・・優は兄の婚約者である梓の性的魅力に幻惑され・・・仕事と家庭の選択に迷う「彼女」のパートナーとして相応しいのが自分であるという誘惑に靡く。

兄弟の間に生じた亀裂を見抜くことができない父親は・・・ビジネスマンとしての才能を開花させた次男に遅ればせながら夢中になる。

父と弟の交流が・・・隆一の精神をますます追いつめていくのだった。

梓は自分の性的魅力が優の心に生じさせた邪心を知ってか知らずか・・・隆一との結婚を決断し、家庭に入ることを決意するのだった・・・。

父と兄・・・そして兄の婚約者が高田家で結婚式の席次について相談しているところに帰宅する優。

優は梓が隆一の夫になってしまうことに苛立ちを抱えている。

「梓さんは仕事を辞めて家庭に入ってくれるそうだ」

息子の邪心を知らずに無邪気な父親は優の心に油を注ぐのだった。

鬱屈した心の大義名分を得た優は異議を申し立てる。

「梓さん・・・本当にそれでいいの」

「もちろん・・・私からお願いしたのよ」

「嘘だ・・・俺に言っていたことと違う」

「何を言ってるんだ優・・・これは隆一と梓さんの問題だろう・・・」

「・・・そうですか」

三人に咎められ・・・優は言葉を飲みこんだ。

兄と本人の目の前で・・・結婚相手として相応しいのは自分だと言い出せば頭がおかしいことになるからである。

弟を否定した梓の言葉に少しだけ正気を取り戻す隆一である。

高田総合地所株式会社に「新空港建設」の入札に参加するかどうかの課題が持ち上がっていた。

「今はあまりにも事業を拡大しすぎています・・・これ以上新規事業に参加するべきではない」

保守的な意見の隆一。

「それじゃ・・・株主や融資先が・・・会社に希望が持てなくなる・・・どんどん事業を拡大するべきです」

革新的な意見の優。

二人の息子が口論するのを頼もしく感じる貴行だった。

窮地に気がつかぬ父親にお茶の間が手に汗握る展開らしい。

梓に裏切られた気持ちの優は・・・仕事に熱中する。

責任ある立場に置かれたことで仕事に対する態度が変わったように見える優。

優のビジネスライクな姿勢に腰巾着の分際で「偉くなったもんだな」「付き合いづらいわ」などと陰口を叩く安藤(西村元貴)や三沢(戸塚純貴)・・・。

団衛営業本部長(木下ほうか)は優に露骨な追従を示すのだった。

営業部 5課の佐々木課長(日野陽)は部下たちの至らなさをカバーする。

「高田取締役・・・私はもはやあなたの部下です・・・酷使してください。お前たちも甘えるな」

優の心は一瞬、安らぐのだった。

危機を孕みながらも・・・優は仕事に燃え・・・隆一は梓と家庭を持つことによって新しい時代を迎える。

しかし・・・悪魔である投資家・黒沢幸助は・・・そのような現状を見過ごすことはできないのである。

黒沢は隆一を蛇の巣に招く。

「優は・・・才能を開花させたようだな」

「・・・」

「父親と弟が二人三脚を始めて・・・どんな気分だ」

「私が後継者レースに敗北したとおっしゃりたいのですか」

「その通り・・・」

「・・・」

「しかし・・・そうなるとお前に興味が出てきたよ」

「興味が」

「そう・・・父と弟の仲を引き裂いて・・・返り咲く・・・そういう物語があるからね」

「私にどうしろと・・・」

「ビジネスの基本は何だと思う」

「情報収集ですか」

「その通り・・・」

隆一の耳に悪魔の誘惑が届いた。

隆一は自問自答する。

「誰が悪いのか・・・お前じゃない・・・俺じゃないとしたら・・・優さ・・・そして父親だ・・・そうだな・・・俺は悪くない」

隆一は盗聴器を購入した。

社長室・・・役員室・・・会議室・・・次々と盗聴器をセットする隆一。

正気を失った隆一は監視カメラの存在も意に介さない。

高田取締役の個室で・・・隆一は転倒させる・・・観葉植物の鉢に盗聴器を埋め込んだ隆一は自転車を原状復帰する。

優は・・・自分の個室で自転車の部品を発見する。自転車の周囲に土を発見する。観葉植物の鉢から盗聴器を発見する。防犯カメラの映像に隆一の姿を発見する。

結婚式の席次について伺いをたてるという口実で会長宅を訪問する梓。

「本題は何か・・・」

「優くんが・・・取締役になってから・・・無理をしているように感じて」

「花婿の弟のことにまで気が回るとは・・・高田家はいい嫁を迎えたようだ」

「・・・」

「仕事には魔力があるからね」

「魔力が?」

「そうだ・・・仕事に夢中になると友人や家族よりも・・・仕事が一番大切だと思うようになる」

「それは悪いことでしょうか」

「すべてはバランスだ・・・何が一番大切か・・・常に心がけることだ」

「一番大切なものとは・・・何でしょうか」

「家族に決まっているじゃないか」

そうだろうか・・・と梓は思う。

一番大切なのは・・・自分なのではと。

隆一との幸福な家庭生活のためには・・・優の横恋慕は厄介である。

優の気持ちを鎮めるために・・・「過去の成功」を思い出させる旅に誘う梓。

「ピッツェリア マッシモッタヴィオ」の店主・後藤(今井朋彦)は二人を笑顔で迎える。

「やあ・・・まるで豊臣秀頼様のように立派になられて」

「彼はもう取締役なんですよ」

「さすがは・・・御曹司だ・・・私が大野治長なら一生ついていきたいところです」

「弟に殴られますよ」

「店長、喜んでたわね」

「そうかな・・・」

「あの頃の優くんは情熱的だった」

「未熟でしたよ・・・今ならもっとスマートにやれた」

「・・・」

婚約者の弟を懐柔しているというより・・・アバンチュールを楽しんでいるとしか見えないのは梓の正体がイヴだからである。

梓という獲物を目の前に出されてますます邪悪な気持ちを育てる優だったが・・・あくまで正気を失った兄を排除することが・・・会社のためであると自分に言い聞かせる。

そのために・・・父親に例え話で了解を求めるのだった。

「会社のためにならない人間はたとえ家族でも・・・告発するべきでしょうか」

「もちろんだ・・・」

もちろん・・・家族のことを考えれば・・・父親に事情を打ち明けて対処するべきなのである。

しかし・・・優は・・・兄を公開処刑したいのだった。

そうでなければ・・・隆一と梓の結婚を阻止できないのである。

役員会で・・・「副社長の解任」を要求する優。

「何を言ってる」

「兄は社内で盗聴をしています」

「何を証拠に」

「監視カメラの存在を忘れるほど・・・おかしくなっているんだよ・・・兄さん」

「・・・」

隆一は解任された。

貴行は社長室に隆一を呼び出す。

「とにかく・・・会社のために・・・結婚式だけは無事にすませないと」

「父さん・・・僕にガッカリしましたか」

「お前の育て方を・・・私は間違えたようだ」

悪いのはお前ではなく・・・私だと貴行は言っているのだが・・・隆一の壊れた心には届かない。

最悪の事態を知った梓は優に詰め寄る。

「なんてことを・・・」

「正気を失った人間が会社の指導部にいては・・・会社の存続が危ぶまれます」

「でも・・・家族なんだから・・・もっと穏便にできたでしょう」

「それは・・・身贔屓というものではないのでしょうか」

「コンプライアンス的な問題のことじゃないわよ・・・大切な家族でしょう」

「大切な人を不幸にしたくないだけです」

「え」

梓を背後から抱きしめる優。

「あなたを幸せにできるのは・・・俺ですよ」

「最低!」

「え」

最低なのは梓のようにも見えるがイヴなので仕方がないのである。

結婚式当日・・・大事なビジネス相手のアポイントメントがとれた優は結婚式の出席をキャンセルするのだった。

すべてを捨てて後継者としての自分を演じてきた隆一は・・・最後の最後で父親の信頼を自らの意志で裏切りたかった。

多くの来賓を招いた結婚式に・・・花婿として欠席するのだった。

花嫁衣装の梓は・・・イヴである以上自分が引き寄せた結果と思うはずもなく・・・教会で涙にくれる。

無人の披露宴会場に現れた隆一は・・・自ら掘った墓穴に深い喪失感を覚えるのだった。

梓の幸せを粉砕し・・・兄の自尊心を崩壊させたことを知ってか知らずか・・・優はビジネスの席で微笑むのだった。

・・・主はアベルとその供え物とを顧みられた。

しかしカインとその供え物とは顧みられなかったので、カインは大いに憤って、顔を伏せた。

つまり・・・アベルにも殺される理由があったと言いたいのかな?

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