仇の屋敷に仕える女(武井咲)
内政と外交は個別の集団を形成する社会の基本である。
集団と集団を俯瞰する一つの見識が「地政学」であるが・・・あまりにも複雑な要素を含むために共通認識を得ることが難しい情報領域にあると言えるだろう。
それは「論理」というよりは「直感」の世界である。
たとえば・・・「ロシア」がクリミア半島で起こした問題が・・・北方四島で再現される可能性の有無を断定的に答えることは難しいのである。
だが・・・領土拡張を「国家」の基本的主題と考えるならば・・・「日清戦争」「日露戦争」「第一次世界大戦」「第二次世界大戦」「東西冷戦」と続く日本とロシアの関係が国境線の前進後退であることは疑いようのないことである。
「ロシア」は常に南下したいのである。
「日本」としてはそれは困るのである。
ウラジオストック、サハリン(樺太)、北方四島を結ぶ直線に北海道がある。
ロシアによる北海道の領土化は・・・幻想であろうか。
戦国時代が終わり・・・幕府によって支配された日本列島で・・・赤穂藩と吉良家は突如、戦闘状態に突入した。
法に従えば「喧嘩両成敗」とするべきところを・・・「被害者」と「加害者」として裁いたことにより・・・吉良家にはお咎めなしで赤穂藩はおとりつぶしとされた・・・赤穂浪士に「遺恨」が残る。
法による支配が・・・実力行使の前に無力であることを為政者は忘れてはならないという話なのである。
で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第10回』(NHK総合201612031810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・黛りんたろうを見た。ただでさえ、視聴習慣のない時間帯でのオンエアである・・・一週飛んだら・・・忘れてしまう可能性もあるわけである。録画システムがトラブルを起こさないとは限らないのだ。そういう意味でドキドキするドラマである。特に時代劇ファンにはいつまでやってんだ鬼平最終回スペシャルもある週末なのである。季節(カレンダーネタ」として「忠臣蔵」が年末の風物詩なのは・・・赤穂浪士の討ち入りが12月14日だからである。次回放送と次々回放送の谷間なのでいろいろと悩ましいところである。で・・・このドラマは全20回なので・・・そこからが長いのである。そういう点も含んで楽しみたい。
元禄十五年(1702年)の秋・・・きよ(武井咲)は赤坂今井にある三次浅野家下屋敷に隠棲する瑤泉院(田中麗奈)を訪ねた。「討ち入り」を決めた大石内蔵助(石丸幹二)が近く江戸へ下向することを伝えるためである。
「秋から冬のうちに・・・本懐を遂げられるそうです」
「さようか・・・」
「私は・・・上杉弾正大弼様のお屋敷に奉公にあがります」
「なんと・・・」
瑤泉院や侍女のつま(宮崎香蓮)が顔色を変える。
「しかとお役目を務める覚悟でございます」
「よう申した・・・頼んだぞ」
「心得ましてございます」
一同が浅野内匠頭長矩(今井翼)の仇と思い定める吉良上野介義央(伊武雅刀)の正室・富子(風吹ジュン)は出羽国米沢藩の先代藩主・上杉綱勝の妹であった。
綱勝に嫡子がなかったために富子の産んだ長男・三之助が上杉家に養子に入り、現藩主の上杉綱憲(柿沢勇人)となったのである。
江戸城刃傷沙汰の後に綱憲は実母である富子を白金にある上杉家下屋敷に引きとっていた。
一方、吉良家では後継者の次男・吉良三郎が夭折したために・・・綱憲の次男・義周を養子として迎えていた。
上野介は孫にあたる義周に家督を譲り、本所松阪の拝領屋敷で隠居となっていた。
きよの使命は・・・富子に侍女として奉公し、吉良家と上杉家の同行を探ること。そして・・・現在の上野介の容姿を確かめることであった。
高家である上野介の「顔」を討ち入るものたちは知らなかったのである。
元禄十五年(1702年)十月、大石内蔵助は川崎平間村に潜む。
きよは木屋孫三郎(藤木孝)の手引きで母親の名である「さえ」を名乗り、上杉家下屋敷で富子に仕える侍女となった。
つなぎ(連絡役)は出入りの商人・橘屋の手代を装う毛利小平太(泉澤祐希)である。
差し入れと称した「菓子折り」の中に「密書」が封じられている。
さえ(きよ)から連絡したいことがあれば屋敷に隣接した氷川神社で密会する手筈である。
小平太は吉田忠左衛門(辻萬長)の指図に従っていた。
「何故・・・奥方様は・・・こちらに・・・お一人で」
「赤穂のものが・・・逆恨みをして・・・何かしでかすのではないかと・・・上杉のお殿様は富子様を案じておられるのです」
「討ち入りの噂ですか・・・」
「そうそう・・・おかげで女中衆も怯えてお暇を頂くものが多くて・・・手が足りなくて困っていたのよ」
「そうなのですか・・・」
琴の腕前が口添えられていたために・・・さえは富子に演奏を所望される。
さえは・・・富子の前で琴を爪弾く。
その音色は・・・懐かしい情景を呼び起こす。
(あの日・・・亡き殿と・・阿久里様に・・・あの方の鼓に合わせて・・・)
磯貝十郎左衛門(福士誠治)と恋に落ち・・・夫婦となる日を夢見ていたころは・・・もう帰らないのだった。
(この方の夫が・・・主君の仇)
しかし・・・夫と仲陸まじいという噂の富子の柔和な笑顔に・・・戸惑うさえだった。
「あの件以来・・・上杉の者どもは・・・すっかり迷惑顔じゃ・・・わが腹を痛めた子を養子として差し出して・・・家督を継がせ・・・上杉家の危機を救ったことなど忘れたようじゃ・・・」
富子はそんな愚痴までさえに聞かせるのだった。
さえは・・・上杉藩士の会話などから・・・吉良家の緊急事態に上杉家が出動しない感触を得る。
しかし・・・本所に住む上野介と富子が会う気配はなかった。
二人が会わなければ・・・さえは上野介を盗み見ることができないのである。
十一月五日、大石内蔵助は江戸日本橋界隈の石町小山屋に入った。
あせりを覚えるさえは・・・上杉藩主の綱憲が熱病に冒され、実母・富子の看病を受けるために下屋敷に移送されることを知る。
綱憲は高熱が続く状態で・・・さえは・・・十郎左衛門の病状を思い出す。
「熱が下がらぬのじゃ・・・」
富子は嘆く。
「わが身内が熱を出した時・・・夜通しおつむり(頭)を水手ぬぐいで冷やしたところ・・・効がありました」
「さようか・・・」
さえと富子は夜を徹して看病を続ける。
わが子の憐れさに富子は苦悶するのだった。
「養子となって藩主となりしというものの・・・私はこの子が不憫でならぬ・・・」
「奥方様・・・」
「吉良家を継いでおれば苦労も少なかったろうにのう・・・」
「少しお休みくださいませ・・・お体に触りまする」
「そうか・・・」
上杉家藩主と二人きりになったさえは・・・手拭を絞り・・・恐ろしい誘惑に駆られる。
(もし・・・この手で・・・藩主の命を奪えば・・・葬儀の席で必ずや・・・上野介を見ることができる)
あの口と鼻を・・・塞いでしまえば・・・。
だが・・・富子が戻ってきてさえの殺意は封じられた。
「やはり・・・休むことはできませぬ・・・」
「かならず・・・御本復されましょう」
明け方・・・綱憲の熱は下がった。
討ち入りの日は十二月十四日と決まった。
それをきよに伝える前に芝の源助町に立ち寄った小平太は村松三太夫(中尾明慶)に声をかける。
「さぞかし・・・御心配でございましょう」
「勘違いなさるな・・・確かにきよ殿とは・・・許嫁という話もあったが・・・今は別に心を交わしたお方がいるのだ」
「え・・・」
「磯貝様だ・・・」
三太夫にとってそれはどうしても誰かに伝えたいことだったらしい・・・。
「討ち入りの日が決まった・・・」
密書によって・・・それを知ったさえは・・・役目が果たせないでいることに唇を噛む。
その時・・・朗報がもたらされた。
嫡男の回復を祝い・・・上野介が下屋敷を訪問すると言うのである。
(このことをお知らせしなければ・・・)
さえは・・・屋敷を抜け出し氷川神社に走る。
果たして・・・さえは小平太とつなぎをつけることができるのか。
それとも・・・さえの周囲を窺う不審者が正体を見せるのか・・・。
もちろん・・・上野介には一目でわかる目印がある。
浅野内匠頭長矩の残した傷痕が・・・。
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