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2016年12月 2日 (金)

絶望螺旋にさようなら(成海璃子)

悪魔なので基本的に善悪の区別はない。

そもそも倫理というものはフィクションに過ぎないのである。

それぞれが自分にとって都合のいい正義を唱えるのが文化というものなので、そういう意味では不倫は文化なのである。

一夫一婦制度の下で肯定的な「愛」とされるオンリーユーオンリーミーな関係も独善的なひとつの思いこみに過ぎない。

自分が嫌なことを他人にはしないというのは偽善に過ぎない。

自己中心的に考えれば・・・自由に愛を求め、自由に裏切って、自由に生を楽しむことこそ善である。

愛したい時に愛し、殺したい時に殺す・・・そんなことでは人類は滅ぶと言うのなら滅べばいいのである。

この世に善も悪もない。

ただただ虚しく時が過ぎていく・・・それだけの話である。

「わが国は・・・けして戦争しない国なのです・・・話せばわかります」

それで平和が維持できるなら・・・世話はないのである。

で、『黒い十人の女・最終回(全10話)』(日本テレビ201612020009~)原作・和田夏十、脚本・バカリズム、演出・山本大輔を見た。十二時間の間に全量摂取すれば死に至る薬剤を十等分して風松吉(船越英一郎)に処方した神田久未(成海璃子)を含む十人の女たち。完全犯罪として松吉を殺害し・・・女たちは「不倫の泥沼」からついに解放された・・・ように見えたが不倫が肯定されないように殺人も肯定されないお茶の間向けドラマの宿命がそれを許さないのだった。

「私は・・・あのまま・・・普通の生活に戻ったのです」

「週末の合コンで繁殖相手を探すのです」

いつものカフェで・・・お茶をする・・・久未と文坂彩乃(佐野ひなこ)、そして最近、実業家の恋人ができた池上穂花(新田祐里子)だった。

「あの後、どうしたの」

「お持ち帰りしてやっちゃった」

「マジ?」

「酔っ払って記憶は定かではないけれど」

「なんだか・・・懐かしいわ」

「・・・」

「そういう話」

「それは彼氏がいるので上から目線で下々のあれやこれやを蔑む姿勢」

「そんなことないわよ」

「やはり・・・あばら一本いっとくしかないね」

「だね」

「あ・・・こんな時間・・・私、もう行かなくちゃ・・・」

「ちっ」

そんな穏やかな日常を砕く・・・一本のメール。

《風が生きている》

脚本家の皐山夏希(MEGUMI)の高層マンションに集う「風の会」の会員たち。

ただし・・・そこに妻・風睦(若村麻由美)の姿はない。

「プロデューサーが死んでいるのに・・・脚本家の私に連絡がないのは・・・あまりにも不自然なのよ」

仕事が雑なことで定評のあるアシスタント・プロデューサーの弥上美羽(佐藤仁美)は「オンエアが残っているので・・・奥様が気を使って体調不良のための休養と連絡してきたものだとばかり」と雑なことを言うのだった。

「私・・・睦さんに連絡してみたら・・・番号変わってたので・・・仕方なく・・・お店に行ってみたの」

夏希は・・・睦の経営するレストラン「カチューシャ」から外出する松吉の姿を撮影することに成功したのだった。

「どういうことですか」

「睦さんが・・・裏切ったということね・・・」

「最後の一服を盛らなかった」

「そして・・・」

睦は・・・トマトジュースを血痕として・・・松吉の死亡を擬装したのだった。

「あなた・・・殺されるところだったのよ」

「え」

「みんなで・・・あなたに死に至るクスリを処方していたの」

「どうして・・・殺すなんて」

「好きだからでしょう」

「君はどうして・・・助けてくれたの」

「好きだからよ」

好きだから殺し、好きだから助ける・・・愛というものは一筋縄ではいかないものなのだ。

「僕はどうすれば・・・」

「一ヶ月・・・ほとぼりをさますの」

「そんな無理だよ・・・」

「一ヶ月すれば・・・みんなあなたのことなんか忘れるわ」

「会社にも忘れられちゃうよ」

「その時は・・・私が養ってあげる」

こうして・・・睦は飼い猫のように松吉を独占した。

しかし・・・堪え性のない松吉はのこのこ外出し・・・夏希に発見されてしまったのだった。

「裏切り者・・・許すまじ」

九人の愛人たちは・・・睦に殴りこみをかけるのだった。

愛人筆頭・劇団「絞り汁」所属女優・如野佳代(水野美紀)・・・。

アイドル女優の相葉志乃(トリンドル玲奈)とそのマネージャー・長谷川冴英(ちすん)・・・。

ヘアメイク・スタッフの水川夢(平山あや)・・・。

アロママッサージ店経営者・卯野真衣(白羽ゆり)・・・。

不倫のあげく殺人未遂をした女たちである。

彼女たちは・・・松吉を許した正妻の裏切りに怒り・・・我を忘れていたのだった。

殺気立った愛人たちを穏やかに迎える妻。

「毒を盛らなかったんですか」

「はい」

「私たちを裏切ったんですか」

「はい」

「ひどい・・・」

睦を囲む九人の喪服モードの女たち。

女生徒による集団いじめのよくみる情景である。

「何かお飲みになりますか」

「アイスカフェラテを・・・」

ぶっかけられるための九杯のアイスカフェラテがスタンバイされる。

使用後にスタッフが美味しくいただけないキエモノである。

「私たちがどれほど傷ついたか・・・わかってるんですか」

「傷ついた?」

「せっかく・・・すべてを忘れてやり直せると思ったのに・・・」

「それで・・・私にどうしろと・・・」

「とりあえず土下座してください」

「なんなら・・・手伝いますよ」

「何を?」

「土下座を」

「あなたが土下座なさるの」

「え」

「人のものに手を出した泥棒猫が何を言ってやがるんだい」

極道の妻モードに切り替わった正妻の正論に正気に返る愛人たちである。

(た・し・か・に)

(裁判沙汰になったら)

(100%負ける)

(慰謝料とられる)

(お金ない)

(これはまずいことですよこれは)

(私たちは愛人だった・・・悪いのは最初からこっち・・・反論の余地などない)

「睦さん・・・落ちついて」

「このどブスがっ」

何故か・・・アイスカフェラテは・・・佳代にだけ浴びせられるのだった。

まあ・・・最初の愛人こそが・・・睦にとって夫の不倫の発端である。

不倫される地獄の始りは・・・睦にとって佳代なのだな。

一杯・・・二杯・・・三杯・・・九杯のアイスカフェラテ。

「もう・・・やめてあげて・・・」

「かわいい・・・お嬢ちゃん・・・」

ついにフリッツ・フォン・エリック(1929~1997)の必殺技・アイアン・クロー(鉄の爪)を志乃に仕掛ける睦。

「お嬢ちゃんのかわいい顔を握りつぶしてやろうか・・・ねえ・・・マネージャーさん」

「ひ」と喉を鳴らす冴英である。

「土下座するのはあんたらだろうが」

「すみませんでした」

「声が小さいんだよ」

「すみませんでした」

「聞こえないね」

「すみませんでした~」

「一つだけ教えてあげるよ・・・あの男とは離婚した・・・あんなつまらない男・・・どうして好きになったのか・・・結局、独り占めがしたかっただけなのかもしれないねえ・・・後は・・・煮るなり焼くなりあんたらの好きにしな!」

「えええええ」

正妻の制裁から解放されて娑婆の空気を吸う九人の愛人たち。

「佳代さん・・・大丈夫ですか」

「あたしゃ・・・アイスカフェラテで溺死するところだったよ」

そこへ・・・通りかかる・・・十一月(霜月)の愛人・霜山奈美(田口千晶)と十二月(師走)の愛人・師田真央(谷澤恵里香)とイチャイチャしている松吉・・・。

正妻に受けた屈辱に萎えた愛人たちの心に激しい復讐の炎が燃えあがるのだった。

「ちょっと・・・」

本能的な恐怖を感じた松吉は新愛人の背後に隠れる。

「何よ・・・あんたたち・・・」

「この人たちに・・・逆らわない方がいいですよ」

九人の旧愛人たちの殺気に・・・生命の危機を感じる新愛人たちだった。

「静かなところに行きましょうか・・・」

廃墟に連れこまれる松吉だった。

「君たち・・・一体・・・何を」

「おだまり」

「この女好きが」

「だって」

「勝手にしゃべるな」

「本当に懲りない男だな」

「人の人生・・・めちゃくちゃにしておいて」

「そんな」

「うるさいんだよ」

口封じされるて無力化する松吉だった。

「土下座しな」

「すみませんでした」

正座して頭を下げる松吉。

「他の人はどうだかわからないけど」と微笑む佳代。「私は風さんのこと・・・許さない」

「え」

「今度は私一人で殺って・・・一人で警察に出頭する」

「そんな・・・」

「リーダーとしてけじめをつけたいんだよ」

「姉さん・・・」

「みんな・・・手伝っておくれ・・・動けないように抑えて」

「や・・・やめて・・・」

飲めば死ぬクスリを松吉の口に流し込もうとする佳代を久未が制止する。

「ダメだよ・・・佳代さん」

「止めないで・・・久未ちゃん」

「こんな男・・・死んでも構わないけど・・・それじゃ・・・佳代さんが幸せになれないよ」

「だけど・・・私たちは殺されたのよ」

「生きてるじゃないですか・・・でも殺したら本当に・・・佳代さんが不幸になってしまう」

「それは・・・久未ちゃんは若いから・・・まだやり直せるかもしれないけど」

「佳代さん・・・殺したら・・・お芝居できなくなってしまいますよ」

「え」

「佳代さんのお芝居・・・そりゃつまんないし、素人の私から見ても才能ないし・・・二度と見に行きたいと思わないけど・・・舞台の佳代さんは幸せそうでした」

「・・・」

「そうね・・・佳代さんには・・・劇団我慢汁があるじゃない」と夏希。

「絞り汁!」

「とにかく・・・この男に復讐するためには・・・私たちが幸せになることが肝心なんです」

「そうね・・・女優として成功していつかアカデミー賞をとって・・・この男を見返してやるわ」

「・・・」

女たちは松吉を残して退場する。

苦悶する松吉・・・。

「う・・・足が・・・痺れた」

土下座はつらいよ・・・か。

その後・・・松吉は・・・「低視聴率」や「長期休養」のペナルティーとして子会社に飛ばされたのだった。

そこで松吉は・・・実年齢(51)の経理のおばちゃん・美佐(真下有紀)を食事に誘うのだった。

松吉の辞書に「反省」という言葉はないのだった。

睦は・・・若い妻帯者の男と不倫に走る。

お相手は・・・志乃を「仕事部屋」に連れこんで独身を詐称していた浦上紀章(水上剣星)だった!

カフェで浦上の愛人(阿井莉沙)に呼び出された睦は衝撃の事実を告げられる。

「浦上には・・・私とあなたを含めて九人の愛人がいるのよ」

「あらまあ・・・」

劇団絞り汁「遥かなるサンフランシスコ」が開演する。

久未たちは・・・みんなで・・・観客席についた。

「つまらないんでしょうねえ」

「でも・・・佳代さん、彼氏が出来たみたいですよ」

「え」

「同じ劇団の人だとか」

「我慢汁の」

「絞り汁ですよ」

「変な意味になっちゃうし」

「最後の最後で下ネタか」

久未は・・・舞台の上で幸せそうな佳代を見た。

「もう・・・手遅れなのよ」

「何故です」

「心のパスポートが期限切れだから」

終演後・・・狭い楽屋に満載となる九人の女たち。

佳代は問いかける。

「どうだった?」

その答えは・・・秘すが花なのだ・・・おあとがよろしいようで・・・。

知ってるかい?

恋はフィクション

すべては夢物語

傷ついたり傷つけられたり

裏切ったり裏切られたり

それはみんな

本当のことじゃないんだよ

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