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2016年12月21日 (水)

今日という日のために五円玉は生まれたのです(新垣結衣)

世界は希望に満ちている。

誰もがおいしい生活を求めて町を彷徨う。

もちろん・・・諸事情で家から出られない人もいるし、家が瓦礫になってしまった人もいる。

結局、人間はそれぞれがそれぞれで生きていくしかない。

それでも・・・人間は時に寄り添いたいと願うものだ。

視聴率がどんどんあがっていくドラマには・・・そういう人間のせつない気持ちが仄かに浮かび上がるのだ。

師走の忙しい時に・・・今日はあれがあるからと走って帰る人。

こっそりと仕事部屋を抜け出す人。

とにかく片づけなければいけないことを急いで片づける人。

お茶の間で・・・ひととき孤独を忘れて夢中になろうとする人。

そういう様々な人々がテレビの前に集う。

それもまた「呪い」である。

しかし・・・その呪いは・・・美しい。

で、『逃げるは恥だが役に立つ・最終回(全11話)』(TBSテレビ20161220PM10~)原作・海野つなみ、脚本・野木亜紀子、演出・金子文紀を見た。暮れも押し迫ってまいりました。津崎平匡(星野源)が森山みくり(新垣結衣)にプロポーズしておかしな空気になったレストランにはクリスマスの飾りがあったのでドラマの中も年の瀬である。クライマックスの「千木通り商店街青空市」は12月23日(金)に開催されるので最後は現実を追いこしていくのである。あまりにもかわいいので誰もが幸せを願わずにはいられない呪いのかかった二人はどうなってしまうのか・・・お茶の間は手に汗握るのだった・・・。

「大好きな人からのプロポーズ、嬉しかった。なぜ私は、モヤモヤしてしまうのか」

「同じ事務所で搾取に耐えた仲間がいじめにあっても為す術もなくベストを尽くすしかないのだろうとお茶の間が感じるモヤモヤのようなもの」

「最終回だけ見た知識人が流れを知らず退屈と断じるやるせなさ」

「それでもあさイチではに丸くんとバルスと叫ぶのんのようにスッキリしたいものだ」

「もやもやしてもやもやしてやりきれないのは二律背反の袋小路に置かれた時」

「芸能事務所だってそこそこ搾取しなければやっとられんのだ」

「戦争と平和の狭間・・・」

プロポーズの返答が「好きの搾取」という意味不明な言動で閉じられたことによって・・・「どうしていいのかわからなくなってしまった」・・・みくりとヒラマサだった。

それでも「おやすみなさい」の挨拶を交わす二人である。

(火曜日なのにハグもできない・・・それもこれもせっかくのプロポーズを台無しにした・・・私という小賢しい女の帰結・・・だけど・・・結婚して・・・専業主婦になることには・・・とてもとても抵抗がある・・・とてもとてもモヤモヤする・・・一体、私は何が気に入らないのだろう)

その答えはみくりではなくヒラマサが出していた。

(好きの・・・愛情の搾取・・・その通りだ・・・愛情は万能ではない・・・それなのに愛があればどんな提案も受容してもらえると思っていた・・・なんという論理の飛躍・・・なんという思いあがり・・・自分の魅力をこれほどまでに自己過信したことがあったろうか・・・いやない)

最高の女と性的交渉をしたら男はみんな思いあがります。

あるいは・・・死ぬなら今しかないと。

それはもう・・・繁殖のための男性の原理のようなものだから。

みくりにとって理想の男性であるヒラマサ・・・しかし、彼は自分が最低の男性だと思っている。

ヒラマサ以外にも最高の女性であるみくり・・・しかし、彼女は自分のことを・・・。

第4世代移動通信システム対応のスマートロボット「RoBoHoN」は愚かな男女を神のように・・・つまり何も考えずに・・・見つめるのだった。

バー「山」でマスターの山さん(古舘寛治)はうんざりしていた。

「左遷かと思ったら・・・昇進だったのよ・・・私、首都圏で初めての女性部長になっちゃった」

予想外の昇進に土屋百合(石田ゆり子)は舞い上がっていた。

「その話・・・百回聞きました」

「え・・・まだ七十五回くらいじゃないの」

山さんは風見(大谷亮平)を召喚した。

「おめでとうございます」

「おめでたいのかどうか」

「認められたことは祝うべきです」

「今度の日曜日・・・空いてる?」

風見の胸とときめいた。

「千木通り商店街青空市」の有償サポーターとして商店主たちに連絡事項を伝えるみくり。

「よくわからないなあ・・・ちゃんと説明してよ」

「こちらも時間が限られているので」

「仕事だろう・・・勝手なこと言うなよ」

またもモヤモヤするみくりだった。

「仕事量に見合った報酬」について考えてしまうみくりなのである。

もちろん・・・雇用関係においては・・・常にグレーゾーンがある。

たとえば・・・放送作家は「もっといいアイディアを出して」と演出家に言われ・・・「いいアイディア」を際限なく出さなければならない。

その「アイディア」がその場で「採用」されてもされなくても「ギャラ」はあまり変わらない。

あげくの果てに番組を契約解除になった後で・・・自分の「アイディア」が番組に使われていることを知っても文句も言えないのである。

それはそれはモヤモヤします。

つまり・・・みくりは・・・「相場」というものが自分に適用されないことに・・・ネグレクトされた子供のような気分になっているのである。

それは・・・自分自身の価値・・・自己評価と密接に関係している。

「他人にとって都合のいい存在」であることの「不安」が生じているのだった。

だって・・・それは・・・「食物連鎖」における「食べられちゃう側」のポジションだからである。

「モヤモヤだ・・・モヤモヤ師走・・・もやもやビジネス・・・もやもや結婚だ」

みくりは・・・モヤモヤの原因に共通点を見出した。

みくりはヒラマサに「自分の心の理論」を伝えた。

「主婦の労働の対価について・・・わかったことがあります」

「伺います」

「私は今・・・青空市の手伝いをして報酬を得ています。ヒラマサさんにお話しなかったのは・・・雇用主に男性か複数いるので・・・嫉妬されたら困るからです」

「僕も・・・リストラのことを黙っていたので隠しごととして相殺されますね」

「青空市の報酬は最低賃金ベースです」

「なるほど」

「そして・・・私が達した結論は・・・時給二千円なら耐えられることが・・・神奈川県の最低賃金時給930円では耐えられないということです」

「全国平均より百円以上高いのに・・・」

「同様に・・・専業主婦の賃金について百円均一で買ったフリップを使って説明しましょう」

「・・・」

主婦の生活費=最低賃金

「なのです」

「・・・」

「そして・・・主婦の労働は・・・夫のみが評価します・・・つまり・・・」

+雇用主の評価(愛情)

「しかし・・・愛情は数値化が困難ですね」

「そうです・・・プロポーズは嬉しかったのです・・・結婚したくないということでもありません・・・ただただ・・・従業員として不当な搾取に対する不安が大きかったのです」

「そもそも専業主婦は従業員なのでしょうか」

「え」

「夫も妻も共同経営責任者・・・この視点で僕たちの関係を再構築してみませんか」

みくりは・・・自分が・・・従業員ではなくなったことに驚く。

夢にまで見た経営者という立場。

搾取される側から搾取する側になるという立ち位置の変更である。

幻想の食物連鎖は崩壊した。

「やります・・・やらせてください」

「やりましょう・・・共同経営者」

「なりましょう・・・CEO」

ま・・・ものはいいようである。

さて・・・ここでみくりの「妄想」と言う名のパロディーが展開される。

ここまで・・・「なんでも鑑定団」だの「ベストテン」だの・・・様々なテレビ番組が「共通認識」として使用されてきたわけである。そもそも・・・テレビを視聴しない人間にとっては無価値な情報が・・・ある程度、価値を持つのは・・・記憶と感情のコンプレックス的な作用によるものである。

「なつかしさ」や「知っているつもり」は人々の心に快感をもたらす。

それを「愛」と呼んでもいいだろう。

作り手は自らがお茶の間の一員であることをあえて強調することでお茶の間との一体感を作り出す。

つまり「愛しあってるかい」「イエーイ」ということである。

「選挙演説」や「ヒーローインタビュー」もあくまで「お茶の間の出来事」なのである。

真田丸」を愛した人々は五円玉の六文銭模様に激しく認知のドーパミンを分泌し・・・一時の快楽に身を委ねるのだった。

みくりとヒラマサが「理想の夫婦」を目指す第一次経営者会議(三○三合室の合戦)の火蓋はきっておとされたのだ!

「まず・・・リストラ後の再就職先についてなのですが」

「すでに二社も・・・」

「A社は3Iシステムソリューションズに類似した会社で・・・業務内容はほぼ同じ、収入は10%前後の減収となります・・・B社は収入は半減する可能性がありますが・・・高い将来性があると考えます」

「ヒラマサさんはB社に心が傾いているのですね」

「チャレンジしたい気持ちはあります」

「私が外で働いて不足分を補填するのはどうでしょうか」

「みくりさんは就職できるのですか」

「タウン誌ワクワクのライターの仕事があります」

「・・・」

「ただ・・・フルタイム労働になるので家事の時間に制約が生じます」

「みくりさんのビジネスは303カンパニーの貴重な収入源です・・・僕が一定の家事の支援をすることにしたらどうでしょう。つまり、家事の分担制度の導入です」

こうして・・・みくりとヒラマサは家事の分担を開始するのだった。

ものすごくよくある話であるが・・・ものすごくよく失敗する話でもある。

家事が趣味の人でも仕事となると本領発揮できない場合があります。

男鰥夫に蛆が湧くって言うだろうが!

個人的能力の問題もあるよな。

一方・・・十七歳年上の百合に恋をしてしまった風見は奮闘努力を続けていた。

「これ・・・私の健康診断の結果・・・」

「・・・」

「ほら・・・骨密度の低下が著しいでしょう・・・日本人女性の閉経の平均年齢は五十歳なのよ・・・つまり・・・私は女としてもうすぐ終わるの」

「女性は出産のための機械ではないというでしょう」

「でも・・・あなたの私の子孫を残せないことは・・・どこか歪ではないかしら」

「愛なんてそもそも・・・歪なものなのではないでしょうか」

「あなたが四十三歳になった頃、私は還暦なの」

「シングルファーザーと付き合うのですか」

「彼はただ・・・子供の母親が欲しいだけ・・・最初からパートナーとして選択できないの」

「つまり・・・他に男がいるからということではなく・・・僕には抱かれたくないということですね」

「また・・・山さんのバーで飲みましょうよ」

「僕は・・・百合さんを友達とは思えないので・・・これで終わりにします」

「・・・」

結局、男と女はお互いの変態性を認め合うしかないのである。

百合は十七歳も年上の女を愛する男を受け入れ難いのである。

案ずるより産むが易しと言うが百合はもはや産めない可能性が高いのである。

第二次経営者会議である。

およそ二週間が経過したらしい。

「率直なところ・・・どうですか」

「ヒラマサさんが・・・やってないと・・・なんでやってないんだと思ってしまいます」

「みくりさんの掃除のクオリティーが低下している気がします・・・」

「私・・・几帳面じゃないんです・・・今までは仕事として完璧を目指していましたが・・・本当は四角い部屋を丸く掃き、呼吸可能であれば粉塵も気にならないタイプなのです・・・気になるようなら重点目標を設定して・・・改善を・・・」

「いえ・・・僕の担当を増やしましょう」

303カンパニーの城である303号室の陣割はヒラマサの負担増加に陣変えされた。

リストラ前の残務処理をしているらしいヒラマサは愛妻家の日野(藤井隆)に「千木通り商店街青空市」へのお誘いをする。

「みくりさんは専業主婦じゃなかったんだ」

「今は・・・商店街の広報とタウン誌のライター・・・そして主婦の三本立てです」

「三足のわらじじゃ火星人になってしまうものね」

ここで・・・「真田丸」視聴者は・・・佐助と徳川秀忠のフレンドリーな会話に「認知の枠組み」をくすぐられる。

沼田(古田新太)は・・・ヒラマサとみくりが擬装夫婦だったことをリストラの決め手にしたのだが・・・ヒラマサから醸しだされるパッションに反応するのだった。

「まさか・・・君たちは・・・パッションなのかい」

「パッションかどうかは定かではないですが・・・好きです・・・もちろん・・・好きだけではやっていけないと覚悟しています・・・今は共稼ぎシミュレーションとして家事分担にチャレンジしています・・・結構、面倒くさいです」

つまり・・・みくりは・・・ヒラマサの愛に甘えて面倒くさい搾取をしているのだった。

みくりからヒラマサへ業務連絡。

《ご飯を炊いておいてもらえますか》

《了解しました》

303号室風呂の砦の清掃業務はヒラマサの担当である。

帰宅したヒラマサはバスルームに集中しすぎて「炊飯ジャーのスイッチを入れる」を忘れた。

タイマーがあるだろうがっ!

いや・・・この場合、ヒラマサに与えられたの指図は米を研ぐところからだな。

ヒラマサは「おかずを商店街で無料調達した」みくりが帰宅するまで落ち度に気がつかない。

なんとか・・・ごまかそうとするが・・・十四松を使った誘導作戦により・・・ジャーが空であることが判明する。

ちなみに・・・ベランダの十四松を捕獲した経緯は割愛されたらしい。

面白場面(ロマンス)がありあまったのだな。

その頃・・・通称・ポジティブ・モンスターの五十嵐杏奈(内田理央)は風見攻略戦に挑んでいた。

「僕は君を好きにならない・・・なにしろ・・・僕と君は同じすぎる」

「同種こそが配偶者として相応しいのでは」

「僕は異種と交配したいタイプなんだ・・・僕は今・・・思春期以来の恋をしている・・・その人のことで頭がいっぱいになるほどの・・・」

「少年か!」

その頃、百合は昇進祝いのために「ゴタールジャパン」の部下である堀内柚(山賀琴子)と梅原ナツキ(成田凌)と行動を共にしている。

柚は泥酔してタクシーに放り込まれた。

「イケメンのおヒゲさんをふっちゃったんですか」

「だって・・・どう考えても無理だもの」

「贅沢だなあ・・・そういう人に出会えたことが奇跡なのに・・・」

「・・・」

「僕なんか・・・会うこともできないのに」

「どんな意味深なのよ・・・」

オチなので深くは問わない百合だった。

血まみれの五十嵐杏奈は百合に噛みつくのだった。

「お姉さんと風見さんてどういう関係なんですか・・・息子のような年齢の男に色目をつかうなんて」

「十七歳で産むようなヤンママじゃないわよ」

「むなしくならないのですか」

「あなたは・・・自分の若さに価値を見出しているのよね」

「お姉さんの半分しか人生を生きていないので」

「私がむなしいと思うのは・・・若いことだけに価値があるという呪いよ・・・あなたが無価値と思う老いに・・・あなたが向っていくことはどれだけやってられな気分をあなたにもたらすことか・・・将来の自分を貶めるようなことをして気分がいいはずはない・・・そんな呪いは忘れなさい。恐ろしい呪いからは逃げるのが一番よ」

「・・・だけど・・・お姉さん・・・愛から逃げたらダメなんじゃないの?」

「ぐふっ」

親友の田中安恵(真野恵里菜)のジャムはそこそこ売れている。

「通信販売の件・・・どうだった」

「いろいろと面倒なのよねえ・・・」

「だよねえ・・・それはそれとしてやっさんのカレーは美味いよねえ」

「現物支給でごめんな」

「ううん・・・お腹も心も癒されるよ」

長く緩い戦いが・・・みくりから何かを奪おうとしていた。

第三次経営者会議である。

「分担って結構・・・厄介ですよね」とヒラマサ。

「・・・」

・・・みくりはすでに・・・恋愛感情と職務遂行の板鋏で鬱を発する寸前である。

「分担した業務ができていてもできていなくても相手を積極的に評価するシステムが必要なのかもしれません」

「食事・・・満足に作れていなくて・・・ごめんなさい」

「いや・・・責めているわけでは」

「役割分担はやめましょうか・・・シェアハウスみたいに各自の責任で」

「共有スペースをどちらも掃除しない可能性が生じます」

「じゃあ・・・家事は全部・・・私がやります・・・あくまでボランティアで・・・ボランティアなので部屋が汚れているって言わないでほしい・・・だってボランティアだから」

ヒラマサはみくりの脳内回路の不調を感じ取る。

「みくりさん・・・論点が・・・」

「・・・やめるなら・・・今です・・・ヒラマサさんだって面倒でしょう・・・こんな共同生活・・・外部の家事代行サービスを週一回頼んでもいいし・・・主婦の労働の対価がああだこうだ言い出さすにプロポーズを喜んで受け入れられる女性はきっと星の数ほどいるでしょう・・・それがまともだし・・・ヒラマサさんが面倒を背負う必要はありません・・・」

壊れて精神失調を起こしたみくりは・・・風呂場に設営されたみくりの砦に籠城するのだった。

長く緩い家事分担の戦による倦怠感に苛まれるみくりだった。

男女が同権であるという呪い。

男女雇用機会均等法という呪い。

夫婦は家事を分担するべきだという呪い。

女性が社会で活躍するのがよりよいことだという呪い。

男性が女性を搾取しているという呪い。

男尊女卑という呪い。

呪いに満ちた世界がみくりをバスルームのバスタブとお風呂の蓋の間に縛りつけるのだった。

(結局・・・私は自分に自信がない・・・私には賢さが欠けている・・・私にあるのは愚かさよりも始末が悪い小賢しさだけ・・・)

ヒラマサはバスルームに消えたみくりを振り返る。

(みくりさんが閉じた心のシャッターは・・・いつか・・・僕が閉じたものと同じなのかもしれない・・・だとすれば・・・ぼくはシャッターの開け方を知っている・・・僕の閉じた心を何度もノックして・・・僕を連れ出してくれた人を・・・僕はよく知っているから)

ヒラマサは立ちあがった。

「お仕事中・・・すみません・・・話をさせてください・・・面倒を避けて・・・避けて・・・どこまでも避け続けたら・・・息をするのも面倒になります・・・それは・・・限りなく死に近づいていくということじゃないですか・・・」

「・・・」

「生きていくのって・・・面倒くさいものです・・・それは一人でも二人でも同じです・・・どっちにしても面倒くさいなら・・・一緒にいるのもありなんじゃないでしょうか・・・面倒をかけたりかけられたり・・・面倒を見たり見られたり・・・だましだましやっていくことはできませんか。みくりさんは・・・まともじゃないって言うけれど・・・そんなの最初から知ってましたよ・・・僕たちはずっとまともじゃないし・・・これからもまともじゃない・・・だってこの世にまともな人間なんて一人もいないんじゃないかな・・・だから・・・大したことではないと思います・・・青空市・・・楽しみにしています・・・おやすみなさい」

みくりは涙がとまらなかった。

(上手にできなくても・・・見守ってくれる人がいる・・・その人を見失ってはおしまいだ・・・終わらせたくない思うなら・・・その人を信じるしかないのだ・・・さしのべられた手をとるしかないのだ・・・そして立ち上がるのだ・・・ゆっくりと)

青空市の日がやってきた。

クリスマス・イヴ直前の祝日である。

津崎がやってくる。百合がやってくる。沼田もやってくる。

長澤まさみに告白して失恋の呪いにより・・・日野はやってこれないらしい。

どんな呪いだよ。

商店街を宣伝するためのチラシは風に吹かれて・・・飛散する。

「チラシが行方不明だ」

「一枚あります・・・これをコピーしてきます」

みくりは走った。

「みくりが走ってるわ」

「結構早いですね」

梅原と堀内が飛散したチラシを拾い集めていた。

百合と沼田は・・・売れ残ったお互いを見つめ合う。

「なんだかんだ・・・ずっと逃げてきたのよね・・・一番呪われているのは自分だった」

「俺だって・・・臆病ものさ・・・結末から目をそらし続けて」

「お互い・・・ダメ人間ね」

「自分だけを守り続けて・・・」

「私・・・メールしてみる」

「じゃ・・・俺も」

「死して屍拾うものなし」

「だね」

みくりはチラシを回収した「百合ちゃんの部下の方たち」に感謝した。

「ありがとうございます」

「お役に立ててうれしいわ」

「え」

「カミングアウトするけどゲイでした」

「ああ」

梅原は・・・ゲイアプリで・・・沼田とコンタクトしている「お相手」だった。

二人は相思相愛だったが・・・沼田は会う勇気を持てなかったのである。

梅原の携帯端末に「パッション・メール」が着信する。

同性愛者の出会う確率は低いという呪い。

日野は日野夫人(乙葉)を伴ってやってくる。

「藤井隆の奥様に瓜二つですね」

「出オチですみません」

芸能情報もまたお茶の間の共有知識なのである。

よくもわるくも人々はお茶の間を共有するのだ。

騙し騙され浮世を生きていくのだ。

視聴率17.1%から20.8%へ・・・人の和は広がっていく。

風見がやってくる。

「ポジティブ・モンスターが・・・」

「・・・」

「幸せな五十代を見せて見ろと」

「喧嘩売ってんのか」

「そして・・・あなたが僕のことを愛していると」

「救ったわね・・・最後の最後でおシャレ小鉢を救ったわね」

「なんのことですか・・・」

「いいのよ・・・先のことなんかわからない・・・だけど」

「僕はあなたのことを愛しています」

「来年くらいまでは幸せでいられそうだから・・・彼女に幸せな五十歳を見せることができる」

ゴールである。

「青空市」は盛況だった。

「みくりさん・・・人気者ですね」

「ここまで来るのに長い道のりがありました」

「また・・・やりたいですか」

「発見はありました・・・派遣社員だった時・・・あれこれ提案して・・・でも誰も私の提案など求めていなかった・・・私の小賢しさは・・・嫌われる要因なのだと思っていました・・・でもここでは・・・それなりに受け入れてもらえて・・・小賢しさが役に立つこともあるのかと・・・」

「小賢しいって・・・何ですか・・・小賢しいなんて・・・相手を下に見て言う言葉でしょう。僕はみくりさんを見下したことはありません・・・小賢しいなんて思ったことありませんよ」

みくりはヒラマサに仰がれている自分を感じた。

(なんてことだ・・・自尊感情が低いのが・・・自分自身だったとは)

面倒くさい女は面倒くさい男に抱きついた。

ヒラマサはうろたえる。

「ありがとう」

「みなさんがこちらをみています」

「大好き」

昼間からイチャイチャする二人を一同は生温かい目で見守るのだった。

ここは・・・呪いから解き放たれた楽市楽座なのだった。

その夜・・・二人は恋人繋ぎをしてソファーにもたれる。

「これからどうしましょう」

「なんでもいい気がしてきました・・・」

「私がもう一度就職活動にチャレンジしたら」

「それにあわせてライフスタイルを変えましょう」

「模索を続けましょう」

「ハグの日を復活させませんか・・・忙しい時や・・・喧嘩した時のために・・・」

「毎晩とは言いませんが寝る前にハグしてもらえたら・・・いい夢がみれそうです」

「引越しを検討しませんか・・・ダブルベッドが置ける寝室とか」

「寝室は別の方が・・・熟睡できるかも」

「そこは・・・応相談で」

「毎日・・・起こしに行きます」

「おはようのチューはおねだりありですか」

「日曜日はヒラマサさんが起こしに来てくださいね」

「そのあとのムフフは・・・」

「応相談で・・・」

二人はキスをして・・・それからムフフをするらしい。

夢の中でみくりとヒラマサは「関口宏の東京フレンドパークII」の最終コーナー「ビッグチャレンジ」に出演する。獲得した金貨1枚に付き1本の矢と交換しダーツに挑戦できるのだ。

「この先どうなる」「たわし」「パジェロはありません」「別離」「逃亡」「専業主婦」「専業主夫」「挙式」「子だくさん」「DINKS」「入籍」「たわし」など様々な「未来」を獲得する二人。

何を獲得しても・・・視聴者にプレゼントしなければならないのがドラマというものである。

とある水曜日の早朝。

二人は徹夜で引越しの準備を整えていた。

「あ・・・もう六時間も過ぎています」

「いえ・・・今はテッペン回った火曜日の30時ということで業界的にはよろしいでしょう」

「やー」

「はい」

火曜日はハグの日である。

そして・・・何があったとしても火曜日は毎週やってくるのだった。

二人の一週間は火曜日から始るのです。

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