剣を取るものは剣で滅び姦淫を行うものは裁かれ愛が金を呼びよせる(山田涼介)
あああああああああああ・・・と思わず叫びたくなるドラマである。
見てはいけないものを見てしまった感じだ。
「ラーメン大好き小泉さん」をやっていればよかったのになあ・・・。
なんで「カインとアベル」をやろうと思ったんだろう。
「カインとアベル」から「弟殺し」を抜いたら・・・それはもうコーヒーからカフェインを抜いたり、カレーからカレー粉を抜いたり、「ガンダム」からモビルスーツを抜いちゃうレベルの話なのである。
なんじゃあこりゃああああああああ・・・と言う他はない。
だが・・・まあ・・・そういうこけおどしの「手」が昔からないわけではない。
有名な説話をモチーフにして主人公の内面的成長を描いたというなら・・・帝国スターを使ったひとつのチャレンジとしては成立しているわけである。
だけど・・・こんなことしていたら・・・この枠は死ぬぞ・・・。
いや・・・もうゾンビなのかもしれないが・・・。
で、『カインとアベル・最終回(全10話)』(フジテレビ20161219PM9~)脚本・阿相クミコ、演出・武内英樹を見た。エンターティメントの原点の一つに「憧憬」がある。「美しさ」を求める人々はいつもうっとりしたいものだ。「美男美女」による「絵空事」は「甘いお菓子」として一定の需要が見込める。しかし・・・そういう「フィクションの充実」が忌避される側面もあり・・・送り手は匙加減を求められる。「美女と野獣」は一つのバリエーションである。「等身大のヒロイン」と「イケメン」のマッチングもまた同様である。しかし、それはそれでどこか「嘘」が感じられる場合もあり・・・按配は難しい。
基本的に女性向けの恋愛ドラマからは・・・美女や美少女が駆逐されていくのである。
ただし・・・うっとりできれば話は違うのだ。
格差社会が問題化している現代において・・・「華麗なる一族」の話はなかなかに挑戦的である。
庶民には雲の上の世界・・・。
貧富の貧から・・・貧富の富へ・・・飛躍することに恋愛を絡めれば・・・それは幼女たちが好む「シンデレラストーリー」に他ならない。
兄の隆一(桐谷健太)の婚約者である矢作梓(倉科カナ)と・・・危険な恋愛をする高田優(山田涼介)という主人公によって生じる「カインとアベル」的状況は見せかけで・・・実は密かに片思いを続ける柴田ひかり(山崎紘菜)の「シンデレラストーリー」だったというオチは・・・まあ馬鹿馬鹿しいが古典ではある。
もちろん・・・幼女以外には恥ずかしいことこの上なしです。
世界にキリストの信仰者は二十億人いると言われるが日本には200~300万人程度しかいない。
そもそも日本には一億人の神道者、九千万人の仏教徒がいるといわれており・・・一種の信仰過多である。周知の通り、信者ではないがクリスマス・イベントには参加するのだ。子供はとにかくクリスマスプレゼントが欲しいし、教会で結婚式をあげるのはなんとなく素敵な感じなのだった・・・。
そういう現代において・・・「カインとアベル」が途中から「シンデレラ」に転調しても何の問題もない・・・という考え方もあるわけである。
つまり・・・このドラマはそういう「お笑い」である。
「カインとアベル」はナザレのイエスが生誕する以前の・・・愛を知らない人類の話であり・・・現在のカインとアベルは・・・殺しあわず握手する・・・そして教会で結婚式を挙げ、聖夜を恋人と過ごすのである。愛に満ちた現代万歳!
・・・・現世には様々な悪魔が出現しているが・・・「金」もまた「原子力爆弾」と同じように悪魔の発明した道具である。
ビジネスには「富の集積」の局面があり、「金」はその象徴である。
ビジネスの魔力とは金の魔力に他ならない。
魔に魅入られてしまった高田優(山田涼介)は経済界の頂点を目指し・・・魔の紛争地帯である新宿第二地区の開発に手を出す。
怖いもの知らずの幼子は魔の森でたちまち獣の餌食となるのだった。
反政府勢力を含む複雑な利権の整理のために・・・黒い噂の絶えない大田原議員に協力を依頼する優。
大田原議員は賄賂を要求し、優は応じる。
しかし・・・大田原議員は・・・自分の安全を守りつつ、贈収賄疑惑で・・・優を東京地検特捜部への生贄として捧げるのである。
優は東京拘置所に拘留され・・・取締役の犯罪行為に「高田総合地所株式会社」の株価は暴落する。
大田原議員は投資家と連携し・・・「高田総合地所」を安く買いたたく「乗っ取り屋」だった。
そして・・・大田原議員と連携するのは・・・高田貴行社長(高嶋政伸)の姉・桃子(南果歩)の夫で投資家・黒沢幸助(竹中直人)だった。
金を発明した悪魔は・・・金を無尽蔵に生み出すことができるのである。
そして・・・イスカリオテのユダがナザレのイエスを金と交換したことが金の悪名を高める。
親が子供にクリスマスプレゼントを買うのが愛の行為であれば・・・黒沢が優に百億円を融資するのは愛の疑似行為である。
優は黒沢に愛されていると感じ・・・たちまち魂を売り渡したのである。
もちろん・・・それは神と悪魔の関係においては神への背信に他ならない。
有罪にならなくても優が罪を犯したのは事実なのである。
有罪になれば大田原議員にも害が及ぶため・・・優は不起訴になるが「高田」を経営危機に陥れた責任を問われ、取締役を解任される。
本来、法的には「無実」となったので問題はないはずだが・・・最終回なので風評被害的に不人気を誘導されたということにしたらしい。
そもそも・・・悪魔は使徒としての優をそんなに簡単には手放さないわけだが・・・ここで「悪魔の使徒」として目覚めた貴行は優を鉄拳制裁して抱擁するのだった。
「馬鹿・・・悪い子だ・・・親に心配かけおって・・・とにかくゆっくり休みなさい」
親馬鹿である。
高田総合地所株式会社を起業し、蓄財した宗一郎会長(寺尾聰)はそもそも神の使徒ではなく悪魔である。
その子である貴行は悪魔の子・・・隆一と優は悪魔の孫なのだ。
つまり・・・これは悪魔のカインと悪魔のアベルの物語なのである。
彼らは悪魔の高田一族として・・・蓄積した富を収奪されることを好まず・・・ここから一致団結する。
では・・・梓は一体何だったのだろう・・・。
もちろん・・・魔女なのだった。
悪魔・隆一は・・・牢獄で過ごした悪魔・優のために魔女・梓を送る。
「そなたがなぐさめてやるがよい」
「仰せのままに」
しかし・・・傷ついた優は兄からの贈り物を喜ばない。
「お前にたぶらかされて酷い目にあった」
「あらあら・・・お若いのねえ」
けれど・・・思い出は甘く・・・優の心を揺さぶるのである。
「まあ・・・同じ景色を見れば・・・同じベッドにいるような気分になるもの」
「お兄様のいないところでは・・・いくらでもなさいませ」
「兄とともに同じベッドにのるのも興ではないか」
「あらまあ・・・いいご趣味だこと」
「いずれにしろ・・・もはや兄のお下がりに甘んじる気はない」
「ひでぶ」
優は桃子に甘える。
「桃子伯母さん・・・義理の伯父さんには騙されたよ」
「それはどうかしら・・・だましだまされ・・・あやつりつられは・・・男と女のラブ・ゲームよ・・・伯母さんの性的魅力を侮らないで」
「え・・・伯父さんを虜にしているの」
「もちのろんよ」
梓は兄弟のために素晴らしいが悪魔の支配するインターネットの世界で「黒沢幸助」を検索する。
魔法のかかった検索エンジンは鍵つきの言葉を検索することができない。
梓はそこに「神」の意図を感じる。
梓は検索ワードを追加した。
「天使・黒沢幸助」
一件のヒットがあった。
しかし・・・神の光のために魔女がそれを目視することはできない。
優は黒沢を訪ねる。
「あなたは・・・桃子伯母さんを愛しているのですか」
「悪魔同士の愛を神は認めない・・・悪魔は争い・・・自滅するのが相応しいとおっしゃるものだ」
「ですよね」
「しかし・・・地獄で魔王が君臨し、魔族たちが忠誠を誓うように・・・悪魔と悪魔が信頼し、心を奪いあうことはままあること・・・神は悪魔が悔い改めればこれを赦す」
「心を分かち合うのではなく」
「同じことではないか」
「確かに」
「お前たちを裏切ったように別のものもたやすく裏切ることができる・・・ただそれだけのこと」
「敵の敵は味方ですものね」
「そういうことである」
悪魔で天使の黒沢は悪魔の高田一族に多額の金を融資した。
なにしろ・・・黒沢家には金など掃いて捨てるほどあるのである。
優は大田原議員に面会した。
「私を罠にかけましたね」
「ものを買う時に値切るのは商売人としては当然のこと」
「残念ながら・・・高田は身売りしませんよ・・・」
「株価が四百円になったら俺が買うよ」
「マネジメント・バイアウトで・・・高田は上場廃止します・・・思いきって社名もタカソーに」
「ホリプロかっ」
「タカソーは高田一族のものです・・・誰にも渡しませんよ」
「資金はどうするつもりだ」
「黒沢のオジキがこっちについてくれました」
「色魔にたぶらかされおったか・・・」
「せめて色情狂くらいにしておいてくださいよお」
「用がすんだら・・・帰れ・・・塩まくぞ」
「和風ですねえ」
こうして・・・高田一族は・・・悪魔の城を守った。
従業員一同は喜んで悪魔に身を捧げ奉仕に励むのだった。
梓は再び悪魔・隆一の花嫁となった。
優はひかりを魔女として認定することにした。
「私などでよろしいのですが」
「お前は汚い言葉が得意だそうだな」
「くそったれな聖夜にふさわしい罵詈雑言をお届けします」
「それはまあ後で聞くとして・・・とりあえず悪魔のキッスを」
「あの・・・私・・・魔女ですが・・・処女です」
「別に構わん・・・流血は悪魔の望むところだ」
ナザレのイエスは・・・人類の罪を購ったという。
しかし・・・天国へ続く階段は急で門は閉ざされている。
子羊たちは空を見上げる。
遥かななる虚空から・・・死の灰が静かに降り注ぐ。
優は汚名の記憶を拭うために海を渡る。
悪魔の一族はお互いを庇いあう・・・それを悪と呼ぶべきか愛と呼ぶべきか。
時代は曲がり角に差し掛かっているらしい。
関連するキッドのブログ→第9話のレビュー
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コメント
今期もおつかれさまでございます、ペコ
私はこのドラマは殺す殺さない以前に舐めたビジネス描写がとっても嫌でした(笑)
20%とか30とか言ってれば仕事してるように見えるだろ、的な…結局YOUは何しに会社へ…みたいなボンヤリしたドラマでしたわね…。
「仕事」をキッチリ描き、リストラの背景も解りやすく描写されたTBS火10と比べたらもう…あ、比べちゃ駄目かしら^^;
実はお願いがありましてツイッターのDMの方に長い長いメッセージを送らせていただいております。
もちろん、お断り下さっても全く当たり前だと思って出しているので、できましたら、よろしくお願い致します~!
年賀状は今年も全く進んでおりませんがクリスマスパーティには行くのでよろしく❤
よいクリスマスを^^
投稿: くう | 2016年12月23日 (金) 18時33分
❀❀❀☥❀❀❀~くう様、いらっしゃいませ~❀❀❀☥❀❀❀
こちらは残りヨシヒコを残すのみですが
朝ドラはほぼ年中無休なので
お疲れ様でございます。
あ・・・忠臣蔵もございましたあああああっ。
リテイクも年をまたぐのか・・・。
ちっとも年内で終わらなかった・・・のでございました。
脚本家の過去作をふりかえっても
学校周辺にしかリアリティーを
生み出せない実力なのに
思いっきり背伸びした感じになっているのは
プロデュース側の要求だったと推測いたします。
そうでない場合は脳が蕩けているのでしょう。
ジャンルとしては「逃げ恥」も原作ありドラマですが
その翻案力に恐ろしい実力差があるとしか
申せませんねえ。
まあ・・・カインとアベルとシンデレラという
一発ギャグとしてはそこそこだったのでしょう。
ベスト10楽しみにしております。
順位付けは少し恥ずかしいのですが
オリジナル脚本に敬意を払いました。
第3位は・・・世界の残酷さを謳いあげた傑作なので落とせませんでした・・・。
第5位 いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう
第4位 ちかえもん
第3位 わたしを離さないで
第2位 家売るオンナ
第1位 ゆとりですがなにか
ただいま、クリパ会場では
家康コスプレで鷹狩大会中でございます。
一等は特製フライドチキン(一年分)ですぞ~。
投稿: キッド | 2016年12月23日 (金) 20時00分