富士ファミリー 2017(薬師丸ひろ子)日本生れろ!(小泉今日子)
「生」と「死」は同じものだ。それはどこからかやってくる。
家の中に入るためのドアと家から外に出るドアが同じなのと一緒である。
ドアノブの表と裏のようなものだ。
人間はこの世にこだわり・・・この世の中にいることが大切だと思う。
しかし・・・それは単なる思い込みにすぎない。
もちろん・・・それを言ったらおしまいなのだが・・・お正月気分で言っておきたい。
テレビジョンという夢を見させる機械がお茶の間にある時代が終焉しつつあるという人もいる。
けれど・・・私の家にはまだある。
そういう人は多いと考える。
テレビジョンの中とテレビジョンの外は同じだ。
すべてはうたかたの夢なのだから。
で、『富士ファミリー 2017』(NHK総合20170103PM9~)脚本・木皿泉、演出・吉田照幸を見た。荘厳な富士山が見下ろすコンビニエンスストア「富士ファミリー」は2016年の師走を迎えていた。店を支えてきた長女の小国鷹子(蒔田彩珠→薬師丸ひろ子)は春田雅男(高橋克実)と結婚し新居を構えたので春田鷹子になったのかもしれない。八年前に逝去した次女のナスミの夫だった木下日出男(吉岡秀隆)は樋口愛子(仲里依紗)とできちゃった結婚をして長女・光が誕生している。鷹子の叔母の笑子(片桐はいり)と三人で店を切り盛りしているのである。三女の月美(ミムラ)は夫の栗林和己(深水元基)と幼稚園に通う長男の大地(鴇田蒼太郎)と滞りなく生活をしている。
住み込み店員の果澄(中村ゆりか)は去り、新たにぷりおこと黒松平蔵(東出昌大)が雇用されている。
笑子はぷりおに懸想していて・・・レオナルド・ディカプリオより「ぷりお」と命名していた。
「新春TV放談2017」に登場した地味な作曲家の娘で作詞家の湯川れい子と名前が紛らわしい湯山玲子のような下世話さはないが「イケメンのハダカ」には心躍る笑子なのだった。
いかがわしさとは紙一重なんだよな。
二次元世界のコスプレをする愛子が中学生男子にモテモテなことに嫉妬する笑子は「あんなこといつまでやらせとくんだい」と難癖をつける。
「いいんじゃないの」と受け流す日出男。
「私の友達はみんなそう言ってる」
「婆ちゃん・・・友達いたの?」
失礼な話である。
しかし・・・笑子の友達は近所の神社の宮司である百合稙道(小倉一郎)と宮司見習い・行田万助(マキタスポーツ)しかいないのだった。
百合は愛子のコスプレ仲間である。
最近、見合いをした京子(筒井真理子)について愛子に相談をもちかける百合・・・。
「趣味のことは話したの?」
「それはまだ・・・」
「大丈夫じゃないかな」
「どうして?」
「お見合い写真で眼鏡をかけているというのは・・・個性的で自分をしっかり持っている人だと思うから・・・認めてくれると思う」
独身三羽烏の結束に亀裂が入ることを恐れる笑子と万助である。
忘年会のシーズン・・・新婚一年目の終わり・・・鷹子にぞっこんの雅男はいろいろと気を使う。
大学時代のサークル仲間の忘年会に女子も出席することを・・・鷹子が快く思わないのではないかと額に汗を浮かべるのである。
男友達と飲むと嘘をつく雅男だが・・・鷹子に嘘をついていることの呵責に耐えきれず・・・結局、告白してしまう。
人の心の・・・煩わしさである。
しかし・・・そういう些細なことが心に棘を刺すこともある。
雅男を会社に送り出した鷹子は・・・雑誌「Bestbiz」の表紙に目を留める。
「世界を変える100人・・・日本で唯一選ばれた・・・予言者・キティ・トーヤマ」
キティ・トーヤマは鷹子の幼馴染で霊能力に優れた遠山霧子(秋田汐梨→YOU)だった。
実家でもある「富士ファミリー」にやってきた鷹子は古い日記を捜す。
霧子について記述した遠い記憶があったのだ。
しかし・・・中学生時代の鷹子の日記に記されていたのは・・・「鷹子が2016年の大晦日に人生が終わる」という霧子の予言だった。
世界的な予言者による死の告知に・・・心が揺れる鷹子なのである。
未来を予測するのは簡単なことだ。
予測が必ずしも実現しないことが明らかだからである。
未来には思いがけないことが起きるに決まっているのである。
歴史家は歴史は繰り返すと言いながら未来を占う。
経済学者は好景気の後には不景気が来ると言う。
そして占い師は確率でものを言う。
だが・・・この世界では霊的な力が強く働いている。
なにしろ・・・笑子には・・・ナスミの幽霊が見えるのだ。
「ひええ」
「幽霊を見たような顔しないでよ」
「幽霊なんだよ」
「わかってるわ」
「こんなに春子とか鈴鹿さんとか安部ちゃんとか若大吉までいるのにアキちゃんはいないんだねえ」
「しがらみよ・・・だから・・・私、そろそろ生まれ変わろうと思う」
「こっちに戻ってくるのかい」
「だって・・・みんな私のことなんか忘れてるみたいだし」
「じゃ・・・合言葉を決めよう」
「合言葉?」
「ナスミだってわかるように」
「じゃ・・・おはぎちょうだい・・・で」
自分が死ぬ・・・不吉な予言のショックで吐き気を感じた鷹子だったが・・・平静を取り戻すと目に映るすべてのものがたまらなく愛しく思えてくる。
思わず撫でてしまいたくなるほど・・・世界が可愛いのである。
撫でまわされて雅男は照れ臭くなるのだった。
「でも・・・上司に妻が予言者に死を宣告されましたから出張に行けないとは言えない」
「だよね」
雅男は年末年始に海外出張があるのだった。
「ドアって呼吸しているみたいだね」
「?」
「いってきます・・・で・・・ただいま」
雅男は一度出かけてすぐ戻ってくる。
「これは深呼吸・・・」
「どっちかというと過呼吸じゃないの」
福袋の準備に忙しい「富士ファミリー」である。
笑子は自分のいらないものを紙袋に詰め込んで顰蹙を買う。
ぷりおは・・・不用品を問われて・・・過去のすべてと答える。
大学で「新規な重合触媒で合成したポリマーの分子量解析」を研究していたぷりおは・・・師事していた片山教授(萩原聖人)のデータ改竄により・・・すべてを失ったのである。
しかし・・・教授を愛しているぷりおは・・・不祥事を受け止めきれずにいた。
だが・・・「不吉な予言」に科学者として立ち向かうことで人間性を回復するのだった。
お詫びにやってきた片山元教授に・・・福袋を渡すぷりお・・・。
「当たり・・・おはぎ百年分?」
「あ・・・それ・・・書き間違いです・・・本当は一年分です」
「だよな」
「間違いは誰もがしますものね」
「だな」
見つめ合う解雇された教授と弟子だった。
ナスミは荷物をたくさん持った新人幽霊のテッシン(羽田圭介)と駅のホームで出会う。
「捨てきれないのね」
「あなたは・・・身軽ですね」
「ベテランだから」
ナスミはテッシンの荷物をどんどん捨てるのだった。
「自分は何事もなしとげていないような気がして」
「何かを成し遂げた人なんて・・・一人もいないわよ」
「そうですかね」
「逆に言えば・・・誰だって何かを成し遂げているのよ」
「そうですか」
「そうよ・・・あなただって生れて死ぬという人生を成し遂げたでしょう」
「そうか・・・」
「とっとと生れ変われば~」
「それって死ねば~と同じニュアンスですね」
ナスミの遺品の処理を巡って夫婦喧嘩をする日出夫と愛子。
「捨てるなんてひどい」
「だってしょうがないじゃないか」
「私のこともいつか捨てるの」
「君に嫌われたくなくて・・・捨てる決心をしたんだ」
「日出夫さん・・・」
「愛子ちゃん・・・」
新婚さん、いらっしゃいである。
月美は息子の大地の嫌われ者の友達のことで頭を悩ませる。
「嫌われ者と付き合っていたら・・・嫌われてしまう」
月美は・・・大地に・・・友達を選ぶように告げる。
そして・・・月美自身が大地に嫌われてしまうのだった。
月美は鷹子に悩みを相談する。
「仕方ないよ・・・大地は母親より友達を選ぶ・・・お年頃なんだよ」
「ひでぶ」
しかし・・・鷹子は一つの記憶を蘇らせる。
霊能力者の霧子は・・・周囲から忌み嫌われていた。
鷹子も・・・母親に霧子との交際を禁じられていた。
あの日・・・公園で・・・霧子から遊びに誘われた日・・・。
幼い月美が言ったのだ。
「霧子ちゃんとは遊んじゃダメってお母さん言ってたよ」
霧子は笑顔で去って行った。
鷹子は・・・自分が嫌な言葉を吐かずに済んで安堵したのだった。
中学生の鷹子は思う・・・よかった・・・霧子ちゃんは・・・怒っていない。
しかし・・・大人になった鷹子には分かった。
どれだけ・・・自分が霧子を傷つけたかを・・・。
だから・・・私は呪われたのだ。
大晦日・・・霧子がやってくる。
「あのね・・・」
「うん」
「あれね・・・」
「うん」
「嘘だから・・・」
「うん」
二人は和解するのだった。
「ごめんね」
「私こそごめん」
「いいの・・・だって私たちは・・・もう大人だもの」
大晦日・・・予定をくりあげて雅男は戻って来た。
「どうしたの」
「だって・・・ずっと後悔するのは嫌だから」
「おかえりなさい」
「ただいま」
鷹子はカラオケで松任谷由実の「A HAPPY NEW YEAR」(1981年)を歌うのだった。
笑子にはコンビニお握りを分けあう老いた仲間・・・徳三(鹿賀丈史)ができた。
テッシンはナスミに無理矢理荷物を捨てられて生まれ変わった。
名札を捨てられないナスミは生まれ変わるのをやめた。
来年こそは住み込み店員ゲストにのん(本名・能年玲奈)が迎えられるといいなあと思う一部お茶の間である。
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