目の前の患者ファーストの医師(木村拓哉)
優先順位についていろいろと騒がしい世論である。
いろいろと順番をつけるのが楽しい・・・という人は多いものだ。
最近ではファーストが流行している。
都知事が「都民ファーストで政治を行う」と言えば・・・県民たちはなんとなく複雑な思いになる。
米国大統領が「米国ファースト」を唱えれば世界の人々どころか米国民さえ憂慮したりする。
優先順位は選択肢の問題と言ってもいい。
複雑な世の中を整理するための作業手順のようなものである。
相互扶助という考え方では・・・自分ファーストと他人ファーストは同じという論理の飛躍が求められる。
理想の社会では自由ファーストと平等ファーストは矛盾しなかったりするものだ。
しかし・・・現実は不条理に満ちており、自国民ファーストを続ければ他国民との戦争に突入するし、国民の一部ファーストをやり抜けば革命も発生する。
恐ろしいことである。
だが・・・泳ぐためには水に飛び込むことがファーストである。
医者は目の前の患者を救うことがファーストであってもらいたい。
だから・・・主人公の言動には・・・正しさが匂い立つ。
けれど・・・時には妻ファーストの夫や・・・娘ファーストの父が微笑ましいこともある。
人間が何を一番大切に思うか・・・それは・・・一番の謎なので。
で、『A LIFE~愛しき人~・第3回』(TBSテレビ20170129PM9~)脚本・橋部敦子、演出・加藤新を見た。壇上記念病院では小児科の存続をめぐり、院長の壇上虎之助(柄本明)と娘婿で副院長の鈴木壮大(浅野忠信)の間に確執があった。経営優先の壮大は赤字部門である小児科の縮小あるいは廃止を提案し・・・小児科医である院長はそれをよしとしないのだった。院長の娘で壮大の妻である小児外科医・壇上深冬(竹内結子)は父と夫の間で困惑する。シアトルで名をあげた深冬のかっての恋人・外科医・沖田一光(木村拓哉)は院長の手術のために召還され無事に使命を果たすが・・・幼馴染の壮大から・・・深冬が深刻な脳腫瘍患者であることを明かされ担当医に指名される。告知をすることも躊躇われる状況で・・・人々は今日を生きていくのだった。
「それにしても・・・よく日本に残る決心をしてくれたなあ」
快気祝いの席で院長は一光に礼を述べる。
深冬に告知が終わっていない一光は返答に困るのだった。
「沖田先生は・・・切り札ですからね」
「それは・・・沖田くんがダメだったら・・・小児科は終わりということか」
「お義父さん・・・考え過ぎですよ」
火花を散らす院長と副院長である。
帰宅した深冬は壮大に娘として詫びる。
「ごめんなさいね・・・まさか・・・沖田先生が呼ばれるとは・・・」
「まあ・・・院長にとっては命の恩人だからな・・・沖田先生を院長にというのもまんざら冗談ではないのかもしれん」
しかし・・・言葉とは裏腹に夫に不満が燻っていることを感じる深冬だった。
院長の一人娘であり、副院長の妻であり、五歳になる長女・莉菜(竹野谷咲)の母であり・・・そして小児外科医でもある深冬は守るべきものの多さに疲弊していた。
しかも・・・その運命は死に向って激しく傾斜しているのだ。
そろそろ・・・告知しないと・・・いろいろと問題あるよな。
脳腫瘍と聞いただけで・・・そんな病人が・・・医者として手術していいのかと言う人もいるだろうしな。
まあ・・・脳腫瘍だって・・・人間は生きていけるし仕事もできるのである。
脳腫瘍でなくても人間はミスを犯すという意味では。
今季の日曜日は「おんな城主直虎」の森下佳子とコレの橋部敦子という二人のベテランが脚本家として凄腕を競っている。
森下佳子は「白夜行」に代表されるように過酷な運命に晒された人間が過ちを犯すことの不条理を描くことが多いが・・・橋部敦子はそうしたどん底からの再生を描くことが多い。そういう両輪で回っている日曜日はなんとなく芳醇である。
医療ものにおける定番と言える医療行為と病院経営の相克や、登場人物の発病、ライバルの裏切り、権威主義の横行などを盛り込みながら・・・主人公がゆっくりとどん底に向って進行中である。
そもそも・・・彼は医者として日本では名医にはなれなかった。
そのために・・・幼馴染に画策されて恋人を奪われた。
それなのに・・・他人の都合で日本に呼び戻された。
最初からそういう「どん底」にいるのである。
ここからさらに奈落があるのかと思うと恐ろしい・・・。
深冬は小児科医として指導医の認定を受けるために論文を執筆中だった。
小児科の指導医は二千人の中の三百人という難関である。
小児科の存続のために・・・指導医となることで発言力を高めたいと願う深冬なのだ。
満天橋病院の後継者として修行中の井川颯太(松山ケンイチ)は一匹狼的な一光に複雑な関心を抱く。
組織に背を向ける一光に反発すると同時にその技量に魅了されるのである。
「沖田先生の手術に呼んでください」
「・・・いいよ」
そんな颯太を第一外科部長の羽村(及川光博)は揶揄するのだった。
「君は・・・沖田派なのかな」
「そんな・・・僕はただ見習うべきは見習いたいと」
「まあ・・・とにかく私は副院長派だからね」
颯太は火照りを感じてオペナースの柴田由紀(木村文乃)に愚痴をもらす。
「みんな・・・僕を満天橋の後継者としてしかみない・・・僕の努力を認めてくれない」
「しかし・・・親の金で受験勉強して・・・親の金でお高い学費を払ったんでしょう・・・お坊ちゃんだからさ」
ガードが固い上に辛辣なナース柴田だった。
ナース柴田には経済的な問題で医師の道を断たれた気配がある。
・・・小児科にセカンドオピニオンを求める患者とその母親が来院する。
患者は成田友梨佳(石井心咲)という七歳女児で母親の成田美保(紺野まひる)によれば「腹痛を訴えることが続いている」というのである。
前の病院では検査で異常が見つからず「心因性」という診断が下っていた。
母親はパートタイムで働いており、週に二回、娘を実家に預けており、その時は必ず夜中に腹痛を訴えるという。
そのために・・・環境の変化による緊張によるものと診断されたらしい。
しかし・・・母親の不安は拭えなかったらしい。
深冬も検査をしてみるが異常は発見できない。
「やはり・・・心因性なのかしら」
深冬は同じ娘を持つ母親として・・・患者の母親の不安を解消したいと感じている。
相談を受けた一光は母親の付き添いの元・・・患者を入院させて経過を観察することを提案する。
「でも・・・私・・・夜勤は・・・」
子育て中の深冬は時短で勤務していた。
「俺が引き受けるよ・・・」
一光は深冬の立場を尊重していた。
「私はここでは0.5人前なのよ」
母として生きるために医師として半分しか生きられていないことが深冬には負い目なのである。
深冬の自嘲には応答しない一光だった。
人妻に優しい言葉をかけることを自重しているのかもしれない。
何かに縛られていない人間はいないものだ。
深冬が友莉香の母親に「検査入院」について話すと彼女は喜びを示す。
「まだ・・・調べていただけるんですか」
娘が原因不明の苦痛を抱えていることを望む母親もまずいないのだ。
一方、院長と壮大は壇上記念病院のメインバンクであるあおい銀行の担当行員(谷田歩)らと経営方針について面談中だった。
「院長は僕以外の人間を次期院長とお考えのようですよ」
「それは・・・困りますな・・・私どもは・・・副院長の経営手段を評価して融資しているわけですから」
冗談めいたやりとりに院長が口をはさむ。
「当院には・・・沖田先生という名医がおりますからね」
「しかし・・・その方の経営手腕は未知数ですからねえ」
「・・・」
「私どもはあくまで・・・副院長の経営戦略を支持いたします」
院長は怒りを真田事務長(小林隆)にぶつける。
「私がもはやこの病院の経営者ではないとでもいうのか」
「とんでもありません・・・院長あっての豊臣家・・・いえ・・・壇上記念病院でございます」
院長にとって小児科ファーストは譲れない一線なのだった。
しかし・・・統率者としてその判断に狂いが生じていないとは言い切れない。
仮眠をとっていた一光は看護師から呼び出される。
検査入院中の成田友梨佳が腹痛を訴えたのである。
「おねしょをしちゃって・・・」
「おねしょは・・・頻繁にありますか」
「実家に泊まった時は寝る前に・・・用を足させますので」
「ご自宅では」
「私と一緒の時は・・・時々・・・そういえばおねしょの後で腹痛を訴えたことがありました」
「お母さんと一緒の時に腹痛を訴えたということは・・・心因性以外に原因があると考えられます」
一光は深冬と可能性について話し合う。
「膀胱が空になると・・・腹痛が起きる・・・考えられることは何かな」
「腸軸捻転症・・・いわゆる腸捻転?」
「だな」
「膀胱の圧によって・・・捻じれが隠れている可能性がある・・・排尿によって減圧すると腸捻転症が発症するわけだ」
「それだと・・・検査では見つかりにくいわね」
「患者には以前の開腹手術で・・・癒着がある可能性があり・・・再開腹してみなければ実状の把握は困難だ」
「それでも・・・腸捻転なら・・・このまま放置しておけないわ」
「ということだ」
開腹手術の準備に入る二人の小児外科医だった。
壮大の脳外科手術の助手を務める一光。
「やってみるか・・・」
「うん」
「・・・さすがだな」
壮大は一光の専門分野を越えた技量を賞賛する。
颯太は術衣の一光にクレームをつける。
「どうして・・・僕を呼んでくれなかったんですか」
「今回は副院長の助手を務めただけだ」
「副院長の・・・脳外科までやるんですか」
「そういうことだ」
「そんな・・・小児外科なのに・・・心臓血管外科から・・・脳外科までって・・・ありえません」
「・・・君が30件の手術をしている間に100件こなせば可能だろう」
「・・・そういう問題なんですか」
「俺は六千件やっているわけだし」
「・・・ずるいですよ・・・論文もかかずに人の論文を参考に手術をしまくるなんて」
「・・・」
誰かが誰かに何かを伝えるのが社会というものである。
はっきりとは明示されないがキャストとしては小児科医に茶沢達彦(谷口翔太)が存在しているわけである。
成田友梨佳の腹痛に心因性という診断を下した担当医は慶安大学病院の小児外科教授・蒲生(越村公一)である。
蒲生教授は小児科のドンであるらしかった。
深冬の診療について注進に及んだのは茶沢であろう。
蒲生は院長を上回る権威を持っているのだった。
「君は・・・娘さんのやっていることをご存じなのかな」
「はあ・・・」
「私の診断に手抜かりがあったとおっしゃっているらしいが」
「そんな・・・」
蒲生教授が「心因性」と言えば「心因性」でなければならない。
ドンがこの場所がいいねと言ったから市場も移転するのが習わしというようなものだ。
蒲生教授に逆らえば・・・深冬の指導医認定にも障害が生じるわけである。
院長の中で・・・小児科ファーストが娘ファーストに切り替わる。
院長は娘を呼び出した。
「蒲生教授のところから来た心因性による腹痛の患者を・・・手術するそうじゃないか」
「検査の結果・・・腸捻転の可能性が濃厚なので」
「ただちに・・・転院の手続きをしなさい・・・栄和総合病院なら派閥外だ・・・話は私が裏で通しておく」
「え」
「蒲生教授に逆らえないことくらい・・・論文を出しても認められなければ・・・指導医にもなれない・・・お前にもわかるだろう」
「・・・わかりました」
深冬は一光に事情を伝えた。
「蒲生教授の対抗馬に・・・おまかせすることになったわ・・・お母さんには・・・より手術に適した病院を紹介すると説明する」
「だったら・・・僕がこの病院を辞めて・・・別の病院で友莉佳ちゃんを手術するよ」
「何を言ってるの・・・この病院で・・・小児外科を立て直してくれるんでしょう・・・そのために残ってくれたんでしょう」
「小児外科を立て直すためでも・・・患者を見捨てるためでもない」
「見捨てるって・・・」
「目の前の患者を救う・・・それだけだ」
「何を・・・目の前の敵を倒す・・・それだけだってケリィ・レズナーみたいなことを」
「ガンプラマニアだから・・・」
しかし・・・日本での地盤がない一光は・・・患者を受け入れて手術をさせてくれる病院を見つけることが出来ないのだった。
ナース柴田が救援にかけつける。
「ドクター沖田・・・辞めるんですか」
「手術ができない病院にいても仕方ない」
「私も連れてってください」
「いいよ・・・ナース柴田」
「一緒に転院先を探しましょう」
嫉妬の青い炎に燃える颯太である。
「君のところは・・・無理かな」
「僕が満天橋病院の跡取りだからですか・・・同じ跡取りである深冬先生の苦しい立場は顧みず・・・利用できるものは利用するというわけですか・・・どちらにしろ・・・無理ですけどね・・・満天橋の小児科も蒲生教授の傘下ですから」
「ヤクザと同じなのか・・・完全親分子分制か・・・」
「この国は太古の昔からそういうシステムですから」
事情を知った壮大は決断するのだった。
「お前にこの病院を辞められたら・・・深冬はどうなる・・・誰が深冬を手術するんだ」
「それとは話が別だ」
「そういうだろうと思ったよ・・・だから・・・手術を許可するよ・・・」
「・・・」
「だが・・・深冬には手を出させるな・・・この手術は沖田一光の独断ということにしてくれ」
「わかった」
いろいろともやもやする二人である。
テレビで「タラレバ」もしくは「スーパーサラリーマン」を見た壮大はバッティングセンターに向う。
「バッティングセンター流行中ですか」
顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)は問う。
「空振り女やバント男と一緒にするな・・・元野球部設定だぞ・・・必然性がある」
「どうしてかっとばさないんです」
「空振りの方が絵になる男なんだよ・・・俺は・・・これぞ空振りの手本なんだよ」
「どうして・・・沖田先生をひきとめるんですか・・・辞めてもらった方が都合がいいのに」
「都合だけじゃ・・・やってられないんだよお」
深冬はわが娘の描いた絵を見せられた。
「私・・・お花屋さんになるの」
「あらまあ・・・」
両親が医者なのにお花屋さんになりたいとういう娘。
娘の未来をどうして否定できるだろう。
手術室に向う一光の前にヒロインが立ちはだかる。
「私もお供します」
「自分がするべきことがわからない医者に患者が切られたいと思うか」
「あの子は・・・私の患者です」
「そうか」
患者の所有権についてはすぐに認める傾向のある一光だった。
院長室のモニターに手術が映し出される。
「君が許可したのか・・・」
副院長室でモニターを見ながら壮大が答える。
「そうです・・・しかし・・・深冬先生はノータッチですから」
「ノータッチどころじゃない・・・深冬が切ってるじゃないか」
「え」
「もういい」
院長は手術室にどなりこんだ。
「すぐにやめろ・・・」
「院長・・・」
「見てください」
一光は院長を手術台に招いた。
「腸捻転です」
「・・・腸捻転だな」
「次、捻じれたら・・・危なかったかもしれない」
院長は・・・退出した。
一光と深冬は・・・お互いに何かを感じていた。
ナース柴田は・・・ドクター沖田の火照りを観測するのだった。
一光は術後の野菜ジュースを飲んだ。
「父が・・・蒲生教授に・・・腸捻転の見落としは伏せると連絡したようよ・・・ついでに私の論文のことも頼んだみたい」
「恐喝かっ・・・」
「私・・・間違ってたわ・・・優先順位をつけている場合じゃなかった・・・医師としても・・・母としてもやり抜く覚悟をするべきだったのよ・・・今・・・私・・・なんだか世界が輝いて見えるの」
(それは・・・まさか・・・脳腫瘍による幻覚ではないだろうな)
不安を感じる一光だった。
もたもたしてはいられないのだ。
ナース柴田は深冬の背後から囁きかける。
「愛されてますね」
「何言ってるのよ・・・もう結婚六年目よ・・・」
「別の人のことですよ」
「え」
エスカレーターで下りながら振り返る深冬。
しかし・・・柴田の姿はない。
くのいちナースなのか・・・。
颯太は自己弁温存大動脈基部置換術のために論文を検索した。
思わず一光に報告する颯太なのである。
「凄い論文がありまして・・・デービッド手術の応用なんですけど」
「それって・・・低形成の弁尖を切りこむか縫いこむかして・・・三尖の大動脈を二尖弁化してそのままディビッド手術を行う術式かい」
「同じ論文を読んだんですか・・・」
「やったの俺だ」
「でも・・・論文に沖田先生の名前は・・・」
「誰が書いたのかは・・・術式を使うものには関係ないでしょう」
「・・・」
一光はあくまで患者ファーストなのである。
優秀な外科医であり・・・優秀な病院経営者である壮大は一光を呼び出した。
「深冬を巻き込むなと頼んだはずだ」
「彼女の意志だ・・・」
「・・・そうか・・・深冬のことが・・・よくわかるんだな」
「マサオ・・・何を言ってるんだ・・・そんなことを言うなら俺は帰るぞ」
「カズ・・・今でも深冬が好きなのか」
何もかも忘れ・・・嫉妬に狂った深冬ファーストの壮大なのである。
あの日も・・・そうやって・・・幼馴染の親友を裏切ったのだ。
その痛みは十年間・・・壮大自身を苛んでいる。
だからこそ・・・深冬を失う恐怖に慄くのである。
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