地図にない町の駐在所から警視庁特命係への帰還(水谷豊)炬燵が似合わない私たち(仲間由紀恵)
奥多摩町の西にある黒水(くろうず)町・・・もはや東京都のチベット・・・いや、何でもありません。
そこへ行けば前科者のどんな夢も叶うと言う・・・いや、何でもありません。
悔い改めたものの罪は許され、悔い改めないものは地獄行きなのである。
そこは言いきるのか。
とにかく・・・架空の田舎町で・・・事件はどんどん起きるのだった。
素晴らしいインターネットの世界を支配する恐ろしい獣の出現に・・・プログラマー以外の人々は戦々恐々としている。
だが・・・道行く人々が突然、恐ろしいものに変わることは日常茶飯事なのである。
だから・・・心穏やかに過ごすのが一番だ。
すべての終焉を迎えるまでは・・・。
で、『相棒 元日スペシャル season15・第10回』(テレビ朝日20170101PM9~)脚本・真野勝成、演出・兼﨑涼介を見た。善と悪の境界線の番人であり、自分以外の正義を認めない男・杉下右京(水谷豊)は相棒の冠城亘(反町隆史)は東京都の秘境・黒水町に派遣されるのだった・・・。
警視庁黒水署の黒水南駐在所に欠員が生じる。
警察官たちはホッキョクグマの仮面をかぶった何者かに拉致監禁されていた。
しかし・・・それはまだ事件ではなかった。
警察官の無断欠勤によって生じた欠員を・・・警視庁刑事部の参事官・中園照生警視正(小野了)は「特命係」の厄介払いに利用したのである。
「花の里」の女将・月本幸子(鈴木杏樹)に別れの挨拶をする二人・・・。
「黒水町は前科者に優しい町なんですって・・・」
自らが前科者である幸子は遠い目をするのだった。
現在の黒水町の町長である和合(八嶋智人)は素晴らしいインターネットの世界で財を成し、政治家に転身した男だった。
彼は前科者を積極的に町に受け入れ・・・「更生」させることを「町おこし」の「手段」としているのである。
一方・・・警視庁黒水署は・・・「問題ある警察官」の左遷先として機能しているのだった。
前科者と・・・札付き警官の住む町・・・恐ろしい設定である。
現地に到着した杉下右京は早速・・・警察官たちの無断欠勤に注目する。
しかし、黒水署の署長(小宮孝泰)は釘をさす。
「お前たち・・・何をやらかした」
「存在そのものがやらかしているようです」
「これ以上、やらかすなよ」
もちろん・・・やらかすに決まっているのである。
行方不明の警察官の一人、有本警部(森岡豊)について・・・消息不明となる直前まで行動を共にしていた地域課の警察官・半田(内野謙太)に事情を訊く二人・・・。
「団地から通報があって・・・パトカーで有本警部を送り届けたんです」
「君は何をやらかしたの」
「地元なんです・・・親の介護のために希望したんですよ・・・とにかく・・・通報のあった部屋に行くと・・・何も起こっていなくて・・・ふと気がつくと・・・有本警部は消えていたのです」
「人間消失ですか・・・興味深い・・・」
捜査を開始した二人は・・・有本警部の自宅で・・・未指定の幻覚剤を発見する。
「どうやら・・・失踪した五人の警察官たちはドラッグで小遣い稼ぎをしていて・・・なんらかのトラブルに巻き込まれたようですねえ」
「やらかすにも程がありますね」
そこへ・・・黒水ケーブルテレビのニュース・キャスターである若月詠子(伊藤歩)が現れた。
「ようやく・・・警察も捜査を始めたのね」
「あなたは・・・」
「真実を求めるジャーナリストよ」
「取材は広報を通して下さい」
「そうさせてもらうわ」
「しかし・・・どこで警察官が失踪していることをお知りになったのですか」
「ネタ元は言えません」
「なるほど・・・」
若月は警視庁総務部広報課課長の社美彌子(仲間由紀恵)を訪ねる。
「ノーコメントです」
社は警視庁の内部情報が漏洩している可能性に気付き、 警視庁生活安全部サイバーセキュリティ本部専門捜査官の青木年男(浅利陽介)に調査を依頼する。
一方、杉下と冠城は黒水署で警視庁警務部人事第一課首席監察官の大河内春樹(神保悟志)に遭遇する。
「おやおや・・・」
何か・・・よからぬことが起きていると直感する杉下右京だった。
署長を追及する杉下右京。
「警察官の連続失踪をなぜ放置しているのですか」
「上からの指示だ」
「上と言いますと・・・」
「警視総監だよ」
「日本の安全を守る会」を主催する四方田警視総監(永島敏行)・・・。
会場には警察庁長官官房付の甲斐峯秋(石坂浩二)も姿を見せる。
そして・・・和合町長も現れる。
「息子さんの件では大変でしたね」
「よくご存じで・・・」
「何かあったら・・・相談にのりますよ」
「なかなか面白いプロジェクトをなさっているようですな」
「再生は私の終生の主題なのです」
そこへ・・・警視庁副総監の衣笠藤治(大杉漣)が割り込む。
「和合さん・・・警視総監がお呼びですよ」
衣笠は甲斐の元に留まる。
「和合町長は・・・警視庁の情報システムのアドバイサーだとか」
「ええ・・・優秀な男です・・・落ち目のあなたとは違う」
「・・・」
兇悪な犯罪者を息子に持った甲斐は悲哀を感じる・・・。
次々と繰り出される・・・人間模様である。
美味しいお茶を求めて町へ出た右京は・・・喫茶「森のあしあと」を経営する藤井利佳子(仁村紗和)と槙野真理男(平岡拓真)という元受刑者カップルと知り合うのだった。
彼らに店の経営を推奨したのは和合町長だった。
右京は・・・喫茶「森のあしあと」を監視する不審人物に気がつく。
「そこで何をしているのです」
「同業者か・・・上からの命令だ」
そこへ・・・和合町長が現れ・・・不審人物の写真を撮影する。
「大胆なことをしますね」
「なんだか偉そうな態度だったので・・・」
不審人物を追い払った和合町長は言葉巧みに右京に近付くのだった。
油断ならない微笑みの応酬である。
「僕のやり方が気に入らない人が警察にはいるらしい」
「・・・」
「犯罪者を優遇するのかってね」
「再生は・・・あなたの終生のテーマでしたね」
「私のことをご存じですか」
「もちろん・・・」
そして・・・和合町長は不審人物の調査を右京に依頼する。
右京は簡単に引き受けるのだった。
当然のことながら・・・右京は自分以外の何者も信じないので・・・和合町長を疑っているのである。
和合町長はホワイト・テディベアに問いかける。
「面白そうなやつだよな」
「細かいことが気になるタイプだね」
「どんなプランが想定できるかな」
「誰かを生かすために誰かを殺さなければならないケース?」
「いや・・・殺したい相手を殺してしまうケースで」
「それはなかなか困難だよ」
「へえ?」
弁護士が判例をA.I.に尋ね弁護プランを作成してもらうように・・・。
犯罪者も犯罪計画をA.I.に作成してもらう時代である。
右京が元受刑者の若者たちや怪しい町長と親睦を深めている頃・・・冠城は若月キャスターと食事をとっていた。
「この町にこんなレストランがあるとはね」
「大人の隠れ家的辺境なのよ・・・」
「つまり・・・隠匿された貧富の差か・・・」
「前科者を元受刑者と言ったり、不平等を格差と言ったりして隠蔽するのが世の倣いよ。真実が科学的な事実でなくても構わない愚民は絶えることはないわ」
「それがジャーナリストのセリフかよ」
「アクセス数を稼がなければやってられないわ」
「人間は・・・情報によって支配されるからね」
「・・・」
署長に呼び出される二人・・・。
「本庁の人間と揉めたそうだな」
「おや」
「とにかく・・・上から手を出すなと言ってきた」
「おやおや」
「右京さん・・・何をやらかしたんですか」
「おやおやおや」
右京は喫茶「森のあしあと」を監視していた警察官について話す。
「いないじゃありませんか」
「おそらく・・・監視ポイントを変更したのでしょう」
「それにしても・・・町長の方針を・・・町民たちはよく受け入れたものですね」
「なんでも・・・この町にはかって新興宗教の拠点があったそうですよ」
「閉鎖空間で・・・うさんくさいものが流行るのは常套手段ですね」
「そうですねえ・・・村社会というものは一種の宗教組織のようなものですからね・・・相互扶助的な意味で・・・」
「そういえば・・・十年くらい前に・・・何か事件があったような気がします」
「九年前です・・・信者が犯罪を冒し・・・教団が匿った・・・」
「確か・・・教祖は・・・責任を取って自殺したんですよね・・・なんていったかな」
「通称タカハシですよ」
「ところで・・・なぜ、団地の屋上に」
「監視ポイントとしては・・・最適な条件を整えています」
「なるほど・・・」
しかし・・・「右京が歩けば死体にあたる」のシステムが発動するのだった。
「おや」
「事件になっちゃいましたね」
「ですねえ」
警視総監直属の見崎刑事(中山研)の死体が発見され・・・警視庁捜査一課から伊丹刑事(川原和久)や芹沢刑事(山中崇史)が現地入りする。
冠城刑事は甲斐に依頼して・・・黒水南駐在所に大河内監察官と社課長を召喚するのだった。
「情報を共有すべきだと思いまして」
「それでは奥へどうぞ」
「事件の発端は・・・九年前の犯人隠匿事件のようです・・・その時、宗教団体の捜査の指揮をとったのが・・・当時、方面部長だった四方田警視総監でした」
「一年後・・・当時、十四才だった槙野真理男が・・・四方田を半殺しにしています」
「マッチョが売りだった四方田は事件の詳細を伏せ、怪我の療養のために有休をとっています」
「子供にボコボコにされたのが恥ずかしかったんだろうな」
「槙野は少年院出所後・・・都内を転々としていましたが・・・町長の元犯罪者支援策で・・・この町に帰還したそうです」
「つまり・・・見崎刑事は・・・槙野を監視していたわけか」
「刑事たちの失踪事件とどうつながるんだ」
「あの団地では・・・品種改良した薬草を栽培してました・・・」
「つまり・・・ドラッグ・サークルか・・・それがタカハシの正体・・・」
「ええ・・・一種の・・・大麻は無害妄想の発露ですね」
「それ以上はおっしゃる必要はありません」
「悪徳刑事たちは・・・指定外ドラッグに目をつけて・・・商売をしていたようです」
「ラテン語でもっともらしい落書きがありましたね」
「獣が帰還する・・・ですか」
「槙野は・・・タカハシに養育されたアサシン・・・暗殺者だったようです」
「警察は敵・・・という一部テレビ朝日的な妄想が爆発するのですね」
団地の主である下地房江(山本道子)は教団幹部だった。
「獣が・・・還ってくる・・・警察に最後の戦いを仕掛けるために・・・タカハシの怨みを晴らすために・・・」
「極めて文学座的な芝居ですね」
「すると・・・容疑者は・・・槙野真理男・・・ということでしょうか」
「彼は今・・・山に入って山菜を採っています」
若月キャスターの元に・・・情報提供がある。
黒水ケーブルテレビのイブニングニュースのクルーたちは・・・警察官五人の撲殺死体を発見するのだった。
現場に残された指紋などから・・・槙野真理男が容疑者として指名手配される。
「森のあしあと」を訪ねる右京と冠城。
店では不安げな表情の利佳子が待っていた。
「彼はまだ帰っていませんか」
「彼のこと・・・嫌いにならないでください」
「信じてくださいではなく・・・」
「前科のある人間は・・・そんなこと・・・言えません」
「これだけは・・・約束しましょう・・・私は彼が何故・・・この町に帰還したのか・・・その理由を明らかにします」
山から真理男が降りてきた張り込んでいた四人の刑事は包囲する。
しかし・・・アサシンである真理男は包囲を突破して山に逃げ戻るのだった。
その頃、四方田警視総監と和合町長は・・・都内の料亭で密会中だった。
突然、現れた外国人武装勢力が二人を拉致するのだった。
「警視総監が誘拐されただと」
驚愕する衣笠副総監。
「警備システムがシステムエラーで機能しません」
「警視総監は体内にGPS発信器を挿入している・・・追跡は可能だ」
しかし・・・黒水村の野原で重傷の和合町長とともに・・・四方田警視総監は死体となって発見される。
入院した和合町長を右京と冠城が見舞うのだった。
「四方田警視総監は・・・頭蓋骨を踏み抜かれていました」
「・・・」
「あなたは足を骨折したとか・・・」
「・・・」
「これまでの死体は撲殺死体だったのに・・・何故でしょう」
「さあ・・・」
「警備システムを納品したのは・・・あなたの関連する会社ですよね・・・あらかじめウイルスを仕込んでおくのは・・・あなたにとって容易なことでしょう」
「うふっ・・・そうだねえ・・・でも・・・今さら捜査方針は変わらないでしょう」
「世論を操作することは可能ですよ・・・あなたがしたように」
「うふっ・・・やはり・・・あなたは面白い人だ・・・わかりますか・・・無敵状態でゲームをしても・・・退屈になる時がある」
「それで・・・私を黒水村にご招待いただいたのですか」
「そうだよ・・・情報を制すれば・・・人事なんて簡単に操作できる。武装を解除すれば警察官だって簡単に拉致できる。金があれば外人部隊を雇用できる・・・村落ごと買い占めることができるし、人の心も簡単に操れる。人間は情報が欲しくて欲しくてたまらない生き物だからね」
「あなたは・・・時々・・・殺人衝動を抑えられなくなるのではないですか」
「そうだよ・・・人間にとって人間が死んじゃうのは最高に面白いことだからね・・・このドラマだってそういう意味で成立しているわけだから」
「・・・何故。警視総監を踏み殺したのですか」
「そりゃもう・・・踏みつけてやりたくてたまらなかったからさ」
右京と冠城は・・・録音した和合町長の証言を黒水ケーブルテレビにリークした。
「皆さん、新たな情報を入手し・・・」
黒水町にあるすべての施設は・・・和合町長の支配下にあった。
黒水ケーブルテレビはあらかじめ仕掛けられた爆発物により・・・消滅した。
「私としたことが・・・」
右京の携帯電話がなる。
「次は・・・利佳子ちゃんをやっちゃうよ」
「やめなさい」
「止めたかったら一人でおいで・・・」
待ち合わせ場所に現れたのは利佳子だった。
「またしても・・・私としたことが・・・」
惚れた女を殺された冠城は・・・拳銃に装弾して・・・呼び出しに応じていた。
民家を改造した個人的監獄で・・・冠城を待つ和合町長。
先着したの槙野真理男だった。
「あれれ・・・君のこと忘れてた・・・」
「・・・」
「獣と獣の対決か・・・面白い」
無言で和合を殴りはじめる真理男。
「うわあ・・・面白いなあ・・・計算外の出来事は・・・まさに痛快だ」
そこへ・・・冠城が登場する。
「遅いよ・・・ほら・・・どうするの・・・撃つの・・・それとも・・・憎い相手が殴り殺されるのを高みの見物するのかい」
一瞬、躊躇する冠城。
そこへ・・・右京が登場する。
冠城は発砲し・・・真理男の脚部に銃弾を撃ち込み・・・檻の鍵を撃ち抜く。
「確保」
警官隊が到着した。
「真理男くん・・・君には君の正義があるのでしょう・・・しかし・・・どんな正義も暴力を伴っては無価値です・・・あなたは罪を償って・・・利佳子さんのところへ・・・帰りなさい・・・愛はどんな正義よりも価値があるのです」
「・・・ありがとうございました」
「右京さん・・・俺は警察官失格です」
「僕を呼んだでしょう・・・つまり・・・君は境界線に踏みとどまった・・・僕にはそれで充分です」
あくまで・・・愛の話である。
「ふはっ・・・月並な幕切れだねえ・・・これがテレビの限界ってやつ・・・まあ・・・いいか・・・私は充分に楽しめたから・・・」
「あなたは・・・何もかも知っているつもりかもしれませんが・・・本当に大切なことは何一つ知らない愚か者ですよ・・・人間そのものの姿をあなたは知らない。永遠に理解できない。あなたは人生の本当の楽しみを知ることはないでしょう。今までもこれからも・・・憐れな人だ」
「ぷぴゃひゃおう・・・・受ける~!」
どれだけ蔑まれても和合には感情は生れない。
神にとって人間的感情など無用だからである。
人智を越えるシステムを次々と生み出すこの世界で・・・杉下右京は孤独な戦いを続けるのだった。
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