東京タラレバ娘(吉高由里子)あるいはタラレバ女(榮倉奈々)なんちゃって三十路だよ(大島優子)
女性に年令を問うのは失礼であるという伝説がある。
あるいは女性の年齢は分かりにくいという物語がある。
そして・・・女房と畳は新しいほど良いという諺がある。
「若さ」については様々な考え方があるが・・・科学的には二十歳を過ぎたら老化が開始されるわけである。
しかし・・・それは性差に関係なく、人類全体に起きる。
何も恥じることではない。
にもかかわらず・・・「若さ」を失うことは・・・何か・・・とんでもないことのような御時勢なのである。
このドラマの原作に登場する同級生女性トリオの設定年齢は三十三歳である。
それが・・・ドラマ化にあたって全員、三十歳の設定に引き下げられている。
演じる女優たちは・・・吉高由里子・・・1988年7月22日生れ(28歳)・・・。
榮倉奈々・・・1988年2月12日生れ(28歳)・・・。
大島優子・・・1988年10月17日生れ(28歳)・・・。
なぜ・・・こういうことが起きるのかは・・様々な事情があります。
で、『東京タラレバ娘・第1回』(日本テレビ20170118PM10~)原作・東村アキコ、脚本・松田裕子、演出・南雲聖一を見た。そもそも・・・親に対しては娘は何歳になっても娘だ。かしまし娘もいくつになってもかしまし娘である。だが・・・娘さんと呼びかける時、そこにはガラスの天井があるような気がする。女子もまた・・・女の子供という意味では・・・親に対してはいくつになっても女の子供である。しかし・・・女子大生のニュアンスで・・・いつまでも女子でいられるかというと・・・意見の分かれるところである。中卒や・・・高卒の女子社会人はありえるが・・・短大卒、大学卒の女子社会人は・・・微妙なんじゃないか。すくなくとも・・・おじさんたちは・・・おばさんたちの女子会には・・・わだかまるものがあると考えられます。
そういうわだかまりをスカッとさせるセリフが・・・この物語の核心にあり・・・一部お茶の間を騒然とさせることが妄想できるのである。
原作では相手が三十三歳なので・・・「酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳までだろ・・・30代は自分で立ち上がれ・・・もう女の子じゃないんだよ?・・・おたくら」とストレートなのだが・・・ドラマでは・・・相手が実年齢二十八歳なので・・・「「いい年した大人は自分で立ち上がれ・・・もう女の子じゃないんだから・・・おたくら」とややカーブになっている。
それが・・・成功しているのか・・・失敗しているのか・・・よくわからないところが・・・このドラマの最大の謎なんだな。
高校時代から・・・仲良しの女性トリオ・・・脚本家の鎌田倫子(吉高由里子)、ネイリストの山川香(榮倉奈々)、居酒屋「呑んべぇ」の看板娘である鳥居小雪(大島優子)は揃って独身で恋人もいないのだった。
2020年夏季オリンピックが東京で開催されることが決まったのは2013年である。
その頃・・・二十代だった倫子たちは・・・東京五輪は・・・おそらく・・・夫と子供たちと一緒に楽しむことになるだろうとなんとなく思っていた。
何しろ・・・七年後の話なのである。
しかし・・・リオ五輪が終わり・・・新年となって残り三年・・・。
三十歳になった彼女たちは・・・漠然とした不安を感じていた。
このままでは・・・「ひとり東京オリンピック」になってしまうのではないか。
後・・・三年で・・・夫と子供のいる家庭の持ち主になれるのか・・・。
恐ろしい気がするのだった。
だが・・・仲間が三人いる以上・・・「お一人様」にはならないという慰めもある。
まあ・・・考え方によっては・・・「お一人様」が三人いるということなのである。
しかし・・・刻一刻と時は過ぎていく。
倫子は脚本家だが・・・まだ駆け出しである。
今回・・・深夜ながら・・・初めて地上波のドラマを書くことになった。
仕事も絶対に成功させなければならない瀬戸際にあるのだった。
ドラマのプロデューサーは倫子より五歳年上の早坂哲朗(鈴木亮平)で二人はかってアシスタント・ディレクターとして同僚だった過去がある。
倫子が脚本家としてやっていくための重要なコネクションの相手である。
しかも・・・倫子は八年前に・・・早坂に告白されたが・・・お断りした間柄である。
二十二歳だった倫子はピチピチで・・・早坂はダサダサだったらしい。
とにかく・・・そんな2017年の初詣・・・。
倫子は・・・香と小雪とともに神社に詣で・・・その帰りに・・・イケメンと衝突する。
相手は二十代半ばの金髪の美青年(坂口健太郎)である。
うっとりとする三人だった。
だが・・・いくらうっとりしても・・・恋は始らないのである。
そして・・・新年早々・・・倫子は「大切な話がある」と早坂から食事に誘われるのである。
「早坂さん・・・鎌田さんに気があるんじゃないですか」
八年前の自分と同じようにピチピチのアシスタント・ディレクター・芝田マミ(石川恋)に冷やかされて悪い気はしない倫子だった。
八年の歳月は・・・早坂をそれなりに洗練された男性に仕上げていたのである。
なにしろ・・・早坂はドラマプロデューサーなのだ。
溜まり場である居酒屋「呑んべぇ」で香と小雪に相談すると・・・「これはチャンス」と言われて・・・おつまみのタラやらレバーやらにも発破をかけられる倫子・・・。
タラちゃん(声・加藤諒)「このままではダメだっタラ~」
レバちゃん(声・Perfumeのあ~ちゃん)「チャンスを逃さずなレバー」
・・・あくまで倫子の妄想の産物である。
さて・・・「地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子」でもそういう感じがしたのだが・・・恋はともかくおしゃれはしておけというニュアンスがそこはかとなく匂うファッション・カタログ的なスタイルである。興味のあるなしに関わらず押しつけがましさを感じる。
感じながらデートのためにおしゃれをする人々は可愛いものと思うしかないわけである。
なんだかんだ理屈をこねながら・・・結局おしゃれかよと思うのは悪魔だからである。
倫子もまた胸の谷間を強調しつつ・・・早坂と料理の美味しいレストランで飲食するのである。
八年前はワインさえまともに注文できなかった男が「この店のムール貝は絶品なんだ」レベルまで成長し・・・倫子は胸のときめきを感じるのだった。
しかし・・・気をもたせてから・・・早坂が言うことにゃ・・・。
「芝田マミに告白しようと思う・・・どうだろうか」なのであった。
「なんですおおおおおおお」なのである。
またしても・・・居酒屋「呑んべぇ」に緊急出動する香と小雪だった。
「そうと知っていレバ・・・胸の谷間なんて強調しなかったのに」
「八年前に受け入れていタラ・・・今頃は素敵な家庭を築いていたかも」
「やってられんわあああああ」
大声で愚痴りまくるかしまし娘たち・・・。
どういう店なのかは知らないが・・・静かに飲みたかった男の気分を害したらしい。
「いい加減に静かにしてくれませんか・・・何の根拠もないタラレバ話で・・・よくそれだけ盛り上がれますね」
それは・・・金髪のイケメンという設定のKEYなのである。
「タラレバ話?」
「あの時ああしていたらとかこうしていればとか・・・仮定の話で実現しなかった現在を語っても虚しいだけでしょう」
「盗み聞きしていたの」
「イヤでも聞こえてくるんですよ・・・そういう話は個室のある店ですればいいのに」
「居酒屋が騒がしいのは当たり前でしょう」
「限度があると思うよ・・・まあ・・・うんざりしたから俺が帰るけどね」
「・・・」
「お勘定お願いします」
「すまなかったな・・・千円でいいよ」
看板娘の父親・鳥居安男(金田明夫)は「気持ち」で料金をサービスするのだった。
「あ・・・どうも」
倫子は気がつくのだった。
「あれは・・・初詣の時のイケメン」
「失礼なやつね」
「偉そうに・・・どう見ても年下よね」
しかし・・・一理あると思う倫子である。
だからといって・・・見ず知らずの若者に意見されたことは腹立たしいのである。
とにかくおしゃれをしなければならないので香のネイルサロンで爪に磨きをかける倫子。
「まるで・・・私たちが男に縁がないみたいな口ぶりだったわよね」
「私たちがその気になれば男なんて」
「だよねえ」
挙句の果てに三人が出かけていったのは・・・知らない男女が相席になることができる・・・相席フレンチである。
いつの時代も客寄せのために女性を優遇するのは水商売の基本である。
「同年代がいいかな」
「若い子でもいいよ」
「年上でも構わない」
相席する男性の条件を広めに設定する三人。
しかし・・・店内は結構、賑わっているのに・・・誰も来ないのである。
「どうなってんの・・・」
「すみません・・・現在、入店中の男性の御客様は・・・皆さん、二十代の女性をご指定でして」
「・・・」
おあずけを食らった仔犬のように意気消沈して店を出る三人。
「今日は運が悪かった」と香。
「だよね」と倫子。
「ウチで飲み直そう」と小雪。
居酒屋「呑んべぇ」から出てきたKEYと鉢合わせである。
「あんたのせいで・・・酷い目にあったわよ」
「?」
一方的に文句を言った倫子は勢い余って転倒し店頭の鉢植えをひっくり返す。
「女の子が目の前で転んだんだから・・・手ぐらい貸しなさいよ」
KEYは転倒した鉢植えを起こすのだった。
「せっかく・・・綺麗に咲いていたのに・・・」
花弁は散っていた。
「なんだってえ」
「いい年した大人は自分で立ち上がれ・・・もう・・・女の子じゃないんだから・・・おたくらは」
絶句する三人である。
(えええええええ)
(私たちって)
(もう女の子じゃないのかい)
・・・是非もないのだった。
信長が明智光秀に謀反されるが如く・・・二十代の男性にとって三十歳の女性は「女の子」ではないのだ。三十代の男性なら・・・社交辞令で・・・それ以上なら苦笑して「女の子」を許容する場合があります。
その時・・・倫子は大切なことに気がついた。
「あ・・・そういえば・・・マミちゃん・・・彼氏がいるんだった」
「え・・・」
「聞いたことのない大学の学生と付き合っているって言ってた」
「それじゃ・・・早坂さん・・・撃沈じゃない」
「だね」
「チャンスじゃないの」
「え」
「傷心につけこむのよ」
「そんな・・・」
「綺麗事言ってる場合じゃないでしょう」
「・・・」
「告白したら~」
「告白すれば~」
妄想上のタラちゃんとレバちゃんも囁くのだった。
意を決した倫子は・・・早坂に告白を試みる。
「あの・・・その・・・・・・」
その時、マミが現れる。
「早坂さん」
「マミちゃん・・・ちょうど良かった」
「話したんですか」
「いや・・・まだ・・・今、御礼を言おうと」
「御礼?」
「君のアドバイスの御蔭で・・・マミちゃんと付き合うことになったんだ」
倫子の背中に空想上の矢が突き刺さる。
(無念じゃ・・・本能寺を炎上させよ)
早坂は打合せのために妄想上の修羅場を去って行った。
「早坂さんは倫子さんが好きなのかと思ってました」
「マミちゃん・・・大学生の彼氏は・・・いいの」
「あ・・・彼とは別れちゃいました」
「え」
「だって話はつまらないし・・・貧乏だし」
「早坂さんのことは好きなんだよね」
「とりあえず・・・キープですね・・・そこそこ優良物件ですから」
「ああああああああああああ」
スクランブルで集合する三人。
「何と慰めていいか」
「まあ・・・しょうがないよねえ」
「金髪男が言っていたこと・・・当たってる・・・私たち・・・ベンチからヤジを飛ばしているようなものだった。自分では選手のつもりで・・・でもやっていることは観客と同じ。いつでもいけるつもりでいても・・・いざ・・・バッターボックスに立ったら・・・空振り三振がオチなのよ」
「なぜ・・・野球にたとえるの」
「日本テレビだから」
「行こう・・・とにかく・・・バッターボックスに立たなくては・・・」
「行くって・・・どこに?」
バッティングセンターである。
とにかく振って振って振りまくる左打席の倫子。
仕方なく・・・香と小雪もバットを持つのだった。
そんな・・・三人を金髪男が見ていた。
そして・・・缶ビールをそっとプレゼントするのだった。
誰かが置いて行ったビールを無頓着に飲み干す三人。
命知らずかっ。
「とにかく・・・恋を始めなくては・・・」
コンビニに入った倫子は・・・「大人の恋のはじめ方」という特集の組まれた雑誌を購入する。
雑誌を開くと・・・そこには・・・「一番人気の男性モデル」としてKEYが倫子を見つめている。
「えええええええええええええええ」
さて・・・またしても・・・当落線上のドラマだった・・・。
キャストは豪華なんだけどねえ・・・。
なんか・・・なんかな・・・。
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コメント
なんか、なんかなって朝ドラですかキッドさん!そういえば朝ドラもなんか最近はちょっと迷走してきちゃって....(^_^;)
女性主人公だとどうしても活発なタイプにしないと話が動きにくいのかしら。
タラレバ娘も活発なタイプではあるし。
ただこれはこれでワンパターンなのよね。
話も結婚できない三十路の女性って月並みだし(^^ゞ
投稿: 出雲 | 2017年1月24日 (火) 11時22分
~~☀~~出雲様、いらっしゃいませ~~☀~~
「ぺっぴんさん」の「なんか・・・なんかな」は
素晴らしい閃きの前触れである
魔法の呪文なのですが
ここでは単なる危惧を示しています。
少なくとも「東京タラレバ娘」には
「校閲ガール」と同じく
ものたりなさを感じるのですな。
もちろん・・・好みの問題ですが
ドラマ・スタッフの魂を
あまり感じない・・・。
もっと本気でぶつかってこいやあ~的な
気持ちが生じるのでございます。
もちろん・・・それなりに面白おかしく仕上がっているのですけどね。
一方・・・「ぺっぴんさん」は
最初から今まで
ずっと魂の叫びを感じます。
「我を忘れてばかりでごめんね」という主人公と
それを優しく見守りつつ
頼りにするしかない普通の人々・・・。
今もまた
甘えん坊の悪魔に翻弄される主人公の
心情がせつなすぎる・・・。
まあ・・・あくまで好みの問題なのかもしれません。
投稿: キッド | 2017年1月24日 (火) 13時31分