正月時代劇 陽炎の辻 完結編~居眠り磐音 江戸双紙~(山本耕史)田沼意知暗殺事件(中越典子)
「真田丸」は大坂夏の陣で幕を閉じた。
慶長二十年(1615年)で徳川将軍は二代秀忠である。
歳月は過ぎて・・・「忠臣蔵の恋」では赤穂事件が起きる。
赤穂浪士の討ち入りは元禄十五年(1703年)で徳川将軍は五代綱吉となっていた。
そしてまた歳月は過ぎる。
老中の田沼意次の嫡男で若年寄の田沼意知が暗殺されるのは天明四年(1784年)のことである。
徳川将軍は十代家治となっている。
徳川幕府がゆっくりと衰退していく時代・・・。
明治維新まで百年を切っているのだ。
そして・・・歴史は刻まれていく。
で、『正月時代劇 陽炎の辻 完結編~居眠り磐音 江戸双紙~』(NHK総合20170102PM9~)原作・佐伯泰英、脚本・尾西兼一、演出・西谷真一を見た。第一シリーズが開始されたのが2007年である。つまり、十年の歳月を経て完結したわけである。2010年に正月スペシャル「海の母」が放送されてからかなり・・・間があいているので・・・なぜ・・・今頃という気もしないではないが・・・とにかく・・・完結できたのはめでたいと言えるだろう。
田沼意次の時代を借りたフィクションは色々とあるが・・・田沼意次の「政治」をどのように解釈するかで・・・色合いは変わってくる。「自由の風」を感じるか・・・「腐敗の極み」を感じるか・・・それは人それぞれと言えるだろう。
このドラマでは・・・田沼意次は・・・主人公の仇役である。
主人公は一種の剣客なので・・・権力者とヒーローの対決の構図となる。
しかし・・・最終的な着地点は・・・「人情」なのだった。
いつの時代にも変わることのない「人情」があるものなのか・・・どうなのか・・・そういうコンセプトも時代劇の楽しみの一つと言えるだろう。
八代将軍・徳川吉宗の側近として登用され、足軽の身分から旗本へと出世し、九代将軍・家重の代では大名となった田沼意次(長塚京三)・・・。十代将軍・家治の代には老中として比類ない権力者となっている。
この物語では権力に溺れ・・・田沼の政治を批判する将軍後継者の家基の暗殺に手を染める。
豊後関前藩(フィクション)出身の坂崎磐音(山本耕史)は藩内の陰謀に巻き込まれ、許嫁の奈緒(笛木優子)の兄を討ち・・・出奔して牢人となる。江戸に出た磐音は神田三崎町の直心影流佐々木道場の主・佐々木玲圓(榎木孝明)と共に家基を警護するが・・・安永八年(1779年)、家基は鷹狩りの帰りに毒殺されてしまう。
そして・・・佐々木道場はつぶされてしまう。
田沼意次は坂崎磐音の命を狙い・・・次々と刺客を送り込むのであった。
長屋の大家・金兵衛(小松政夫)の娘・おこん(中越典子) と昵懇の仲となった磐音は・・・おこんを養女とした御側御用取次・速水左近の婿となる。
おこんが女中頭をしていた江戸で一、二を争う両替商「今津屋」の元締め番頭・由蔵(近藤正臣)、公儀御庭番の弥助(小林隆)などが磐音をバックアップするのだった。
おこんとの間に嫡男・空也(大西利空)を儲けた磐音は小さな町道場の主として穏やかな日々を送っていたが・・・八代将軍・吉宗の孫であり、次期将軍の有力候補であったが、田沼意次によって、白河藩へと養子に出された松平定信(工藤阿須加)が弟子入りすることによって・・・再び命を狙われることになるのだった。
ちなみに・・・剣客仲間の竹村武左衛門(宇梶剛士)の娘・早苗(木村茜→優希美青)も成長している。
定信の父の田安宗武(山本學)は九代将軍家重の弟であり・・・将軍職に執着した男である。
明和八年(1771年)に死去するまで・・・定信は田安家から将軍を出すことを父親から命じられていた。
「私は強くならなければならないのです」
「急いてはなりませぬ」
定信にかけられた父親の呪いを案ずる磐音だった。
安永三年(1774年)に陸奥白川藩の養子となった定信である。
天明三年(1783年)に浅間山が噴火し、日射量低下による冷害は農作物に壊滅的な被害をもたらした。
天明の大飢饉の始りである。
国難に際し・・・田沼意次は嫡男の意知(滝藤賢一)とともに対策にあたった。
そんな田沼家に旗本の佐野善左衛門(山崎銀之丞)がまとわりつく。
立身出世した田沼意次に・・・三河以来の譜代である佐野家の系図を持ちこんだのである。
佐野自身の立身出世を目論んだことだったが・・・田沼は取り合わず・・・善左衛門は妄執を育てていく。
一方で・・・意次は磐音に次々と刺客を送り込むが・・・演出がエスカレートしてついに四刀流使い(塩野瑛久・・・獣電戦隊キョウリュウグリーン)まで登場する。
もう少しオーソドックスな殺陣も見たいものである。
松平定信から脇差を借り受けた佐野善左衛門は・・・城内で刃傷沙汰を起こす覚悟である。
狙うのは田沼意次父子・・・。
「出世欲に目が眩んで頭に血が昇ったようです」
「定信様の脇差で事が起きれば大事じゃ・・・」
磐音は・・・佐野を止めるために登城を決意するが・・・意次の放った刺客に妨害される。
「弥助・・・先に行け」
しかし・・・時すでに遅し・・・善左衛門は意次に斬りつけ・・・父親をかばった意知は深手を追う。
混乱にまぎれて弥助は脇差をすり替えた。
八日後・・・意知は死亡する。
善左衛門は乱心による刃傷沙汰として切腹を命じられた。
一部の反田沼勢力は善左衛門の行為を快挙として「世直し大明神」として崇めたという。
いつの時代も同じである。
「すべて磐音のせいじゃ・・・」
田沼意知の母・おすな(神野三鈴)は逆恨みにも程がある感じで主人公を呪うのだった。
磐音は妻子を人質に取られ・・・刺客の集団に襲われる。
主人公による暗殺集団皆殺しである。
息子の墓参りをする意次の前に姿を見せる磐音。
「儂を笑いに来たのか」
「同じ子を持つ父として・・・心中お察しする」
「わかるものか・・・ならば・・・お前も我が子を失ってみよ」
磐音に斬りかかる意次だが・・・無論、敵ではない。
「これで終わりにいたしとうござる」
「殺せ・・・」
しかし・・・おすなは夫の前に身を投げるのだった。
「御免・・・」
磐音は去っていくのだった。
「殺せーっ」
意次の絶叫がこだまする。
天明六年(1786年)・・・十代将軍家治死去。
天明七年(1787年)・・・田沼意次は失脚し、松平定信は十一代将軍・家斉の老中首座となる。
松平定信は寛政の改革を行うが・・・幕府の衰退を食い止めることはできなかった。
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