餃子談義や行間案件で仰天告白だから胸の奥に何か刺さる夜(吉岡里帆)
「寒い朝ベランダでインスタントラーメン食べたら美味しかった・・・それが君と私のクライマックス」(菊池亜希子)でも良かったけどな。
まんまじゃねえか。
商品名は置換したよ!
「時の流れに身をまかせた愛人はつぐなうことになります」(テレサ・テン)は・・・。
(松たか子)だろう・・・。
「カーリングだってカルテット」・・・もう、いいよ。
「コルセットとカルテットは違う!」・・・いいってば!
「X!X!X!」
・・・本題に入ります。
で、『カルテット・第2回』(TBSテレビ20170124PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。カルテット・ドーナツホールは夫が失踪中の第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)、世界的指揮者を祖父に持つ第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)、美容院でバイトリーダーを勤めるヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、巻氏の失踪の謎を探るチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)からなる弦楽四重奏団である。
軽井沢にある別府家の別荘で合宿生活を送る四人・・・。
家森はおしゃれな夕食のためにマルセイユ名物ブイヤベースを仕上げたのだが・・・。
「まきさん、旧軽井沢に餃子の専門店できたんですよ」とすずめ。
「まきさん、餃子お好きなんですか」と別府。
「昼下がりの餃子とビールは世界遺産ですね」とまきまき。
「せっかくブイヤベース作ったのに餃子の話はやめてください!」
家森は今夜も快調である。
ニヤニヤするすずめだった。
「何入れるのが好きですか」
「シソとか」
「シソ餃子いいですね」
「ブイヤベースが餃子の味になっちゃうでしょうが」
「ごめんなさい」
「ブイヤベースですよね」
「餃子は嫌いだ・・・嫌いだ・・・嫌いだ餃子」
「嫌いと言えば言うほど好きになるんでしょう」
「これに餃子を入れたら」
「餃子ブイヤベース」
「ブイヤベース餃子」
「・・・もういいです」
楽しい夕餉である。
とにかく・・・お茶の間もブイヤベースもしくは餃子を食べる必要が生じるのだった。
真紀が巻氏を殺したのではないかと疑っている義母の巻鏡子(もたいまさこ)に雇われているすずめは会話を録音して報告する。
「仲良くしてくださって結構ですよ」
「はい」
「奇術師は・・・右手で注意をひきつけて左手で騙す・・・掛け替えのない友達になって・・・最後の最後で裏切って下さればよいのです」
「・・・」
すずめは探偵奏者なのである。
鏡子はカルテットの結成提案者である別府も疑うのだった。
「この男は・・・息子を殺した共犯者かもしれない」
「でも・・・出会ったのは偶然で・・・」
「それはどうかしら・・・」
猜疑心にとりつかれたような老婆は囁く。
スーパーマーケット「マイショップ」に買い出しにやってきたまきまきとすずめ。
すずめは携帯端末で気になる別府の画像を見る。
背後からまきまきに声をかけられのけぞるすずめ。
「ごめん」
「猫が胡坐かいてたんで」
「え」
「逃げちゃいました」
「手前で声をかけようと思ったんだけど・・・路上で知り合いに話しかけて十分くらい話した後で全然知らない人だったってことあるでしょう」
「・・・ありません」
加速していくなあ・・・置き去りにされていくお茶の間の皆さんもきっと多いことだろう。
駐車場で放置されたカーリングのストーンを発見するまきまき。
「何でしょう」
「わからないものを拾わない方がいいですよ」
「これ・・・あれですよ・・・投げてイエップって言ってブラシでスウィーピングする奴」
持ち主が戻ってきて・・・カーリング愛好家と知り合ったまきまきはカルテットとともに競技場に向う。
「イエップ・・・イエップ・・・イエップ~」
お約束で氷上で転倒する家森、すずめ、別府である。
相手のストーンをはじき出してハウスに留まるストーン。
・・・てなことがあったのか・・・まきまきの妄想なのかも謎のまま・・・ライブレストラン「ノクターン」の楽屋。
「予約を何度もキャンセルしたら美容院出禁になっちゃったんです」
「じゃ・・・僕が切ってあげようか」
家森は元地下アイドルのアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)に火照っていた。
「有朱ちゃん・・・今日も目が笑っていないわよ」
「まきまきさんひ~ど~い・・・ちゃんと笑ってますよお」
なぜか・・・来杉有朱の笑顔にごたわるまきまきだった。
「三分前で~す」
「みぞみぞしてきた」とすずめ。
「失敗するような気がする」とまきまき。
「大丈夫ですよ・・・練習したじゃないですか」と別府。
「練習したので失敗するのがこわいの」
「キッチン掃除したので料理を作りたくないみたいな」と家森。
「家森さん」
「別府くんはまきさんのことになるとムキになるよね」
「そんなことはありません!」
「失敗しそう・・・」
しかし・・・本番では「Music For Found Harmonium(拾ったハウモニウムのための音楽)/Simon Jeffes(PENGUIN CAFE ORCHESTRA)」をノリノリで演奏するまきまきなのである。
チョコボのテーマでもよかったのにな・・・。
アイリッシュダンス的なノリが欲しかったんだろう。
「カリブの海賊」とか「タイタニック」とかな。
愛の後悔の話だからか。
別府はまきまきを見守り、すずめはニヤニヤして、家森は立ち上がって浮かれるのだった。
タイトルまでおよそ五分である。
濃いよねえ・・・ほどほどにしておけよ。
脚本家は詩人である。
詩人の魂が今回は全編で爆発している。
詩というものは万民の魂を揺さぶるものだが・・・揺さぶられるのが嫌いな人もいれば揺さぶられているのに気付かない人もいる。
たとえばトランプ大統領も詩人なのだと思う。
しかし・・・その詩は攻撃的すぎて一部の人々を逆上させるのである。
詩は本来境界線をぶち破る。
境界線の守護者たちは・・・あるものは惧れ慄き、あるものは戦闘態勢になる。
そして・・・時には聖戦が始る。
詩人の歌う魂に役者たちが感応して表現力を爆発させれば観衆は陶酔するしかないのである。
言葉に込められた魔力を繊細なしぐさや表情が増幅する。
お茶の間にいるあるものは圧倒され・・・あるものはチャンネルを替えるしかないのである。
だって理解できないものは恐ろしいものな。
世界の別府の孫である別府はそういう自分を受け入れているように見える。
「別府ファミリー」の一員でありながら「ふくろうドーナツ」の広報課で「ドーナツ」の広告の仕事に携わっている。
つまり・・・音楽の神からは見放されているのだ。
そういう別府は・・・本当の自分を受け入れていないのではないかと同僚の九條結衣(菊池亜希子)は感じている。
自分を否定した世界を肯定できない男。
そういう別府を九條は可愛いと思う。
だから九条は別府に恋をした。
実年齢的には・・・。
菊池亜希子(34)1982年8月26日生れ
松田龍平(33)1983年5月9日生れ
・・・である。
一つ年下の彼と彼女はドーナツ売りの一員だったが・・・天上の調べの下流域であるカラオケの館で交流する。
彼女は彼を求めていたが・・・彼はただ友情を育んでいるのだった。
彼には自分を見放した音楽の神に愛されている・・・プロの演奏家である・・・ずっと年上の恋する相手がいたのである。
音楽に恋する彼は・・・音楽の女神に献身したいのだ。
彼女はそれに気がついてしまった。
自分は彼にとってただのドーナツ売りにすぎないことを。
彼と彼女はいつものようにカラオケ館で合流する。
歌って時が流れることを忘却するために。
「White Love/SPEED」(1997年)がヒットした頃、彼女は中学生だった。
「果てしないあの雲の彼方へ」と二人は声を合わせる。
だが・・・彼には「私をつれていって・・・」という彼女の願いは届かない。
「その手を離さない」どころか「彼ったら手も握らない」のである。
「これ・・・面白いよ・・・人魚対半魚人」
「人魚はともかく半魚人は版権煩いよ」
「すごいんだ・・・上下逆で見てよ」
「私はいいや」
「なんで・・・忙しいの」
音楽以外のことには鈍感な別府には彼女の心がわからない。
彼にとって映画「人魚VS半魚人」(フィクション)はドーナツを忘れさせてくれる現実逃避の娯楽なのである。
映画は音楽に近い何かなのだ。
だが・・・しがないドーナツ売りである彼女には現実に向き合う必要があった。
彼女の「恋の時間」は終わったのである。
「っていうか・・・別府くんさ・・・私・・・多分結婚する」
「え」
「私・・・三十四歳になった日に婚活始めて・・・上海の会社に勤めている人と結婚することになった・・・退社して私も向こうに行くことにしたの・・・で・・・別府くんの・・・弦楽・・・」
「四重奏」
「そう・・・結婚式で・・・演奏してくれないかな」
「・・・」
彼の中で・・・彼女は・・・永遠にカラオケの館で合流できる都合のいい女だったので・・・彼は裏切られたような気持ちになるのだった。
もちろん・・・最初から別府は九條の期待を裏切り続けていたわけだが。
個人的な問題と個人的な問題の相克である。
誰が悪いわけでもないのだ。
しかし・・・別府は乱れた心を抱えたまま・・・別荘へとやってくる。
別荘は火災寸前だった。
「なにしてるんです」
「チャーシュー丼を作るって・・・豚肉を焼き豚にしています」
「火災報知機は」
「切った」
煙幕の中でまきまきとすずめは・・・素晴らしいインターネットの世界でのアリスとヤモリの文通を冷やかす。
「全然相手にされていない・・・」
「すごい相手にされてますけど」と家森。
まきまきとすずめはアリスとヤモリのやりとりを再現する。
「来週・・・食事行きませんか?」
「仕事があります」
「来月の頭はどうですか?」
「バタバタしていて」
「脈ありでしょう」と自信をのぞかせる家森・・・。
「どこに脈が?・・・アリスちゃん・・・これを打っている時もきっと目が笑っていない」
「行間ですよ・・・好きな人には好きと言わずに会いたいって言うでしょう・・・やりたい時にセックスしようっていうのは行間を一周してるんですよ。やりたいって言うかわりにチケット一枚余ってるんだけどって・・・別府くんも言ったことあるでしょう」
「え」
別府はそれどころか童貞の可能性すらあるのだった。
「行けたら行くってどういう意味なの?」
「・・・」
家森はすずめを手招きする。
「行けたら行くって言った人を演じてみせて」
すずめはたちまち「モテキ」の中柴いつかになるのだった。
「来ちゃった!」
「え・・・行けたら行くって言ってたよね」
「?」
「なんで来たの?」
「来れたから・・・」
「え・・・席ないよ・・・行けたら行くって言ったら行かないってことでしょう・・・」
「・・・」
「でしょう?」
「ごめんなさい」
「こうなりますよ・・・悲劇ですよ・・・言葉と気持ちは違うでしょ・・・コレはデートじゃないからねって言ったらデートでしょう・・・絶対に怒らないからって言われて白状したら半殺しでしょう・・・こちらから連絡しますねって連絡しないでねってことでしょう・・・これが行間を読むということです」
その時・・・家森の端末形態に元地下アイドルからの着信がある。
《こちらから連絡しますね》
文面を覗き見て恐ろしいものを見た顔になるまきまきだった。
チャーシュー丼は完成した。
「結婚式で演奏してほしいという話があります」
「教会で演奏できるんですか」
「素敵」
「え・・・皆さん・・・やる気なんですか」
「え・・・同僚の方がご結婚されるんですよね」
「たぶん・・・」
「え・・・どういうこと」
「彼女が多分結婚するって・・・」
蒼ざめる三人だった。
「それって・・・」
「行間じゃないですか」
「司令・・・シト襲来です」
「問題ある・・・行間案件だな」
家森は立ち上がり「彼女」となった。
「別府くん・・・ワタシ・・・たぶん・・・結婚する」
まきまきは立ち上がり「彼女のキモチ」を翻訳する。
「別府くん・・・私の・・・結婚を止めて!」
「ですよね」
「ただの飲み友達ですよ・・・一緒だと楽なんで」
「楽って・・・心を許してるってことだよな」
「彼女の家に泊まったって何もなかったし」
「泊まってるの!」
「終電がなくなっただけですよ」
「終電がなくなるってことは帰らないための口実じゃないか」
「最終電車の発車ベルは恋のスタートの合図ですよね」
「その時・・・彼女・・・どんな顔してたの」
「見てません・・・DVDのパッケージを見てたから」
「富士山に登ってスマホを触ってるのと同じですね」
「人生のクライマックス見逃して・・・半人半魚の上下ヴァージョン違いに心を奪われているとは情けない」
「人生には後から気づいて間に合わなかったってことがあるんですよ」
まきまきの言葉は別府を果てしない回想へと誘うのだった。
大学生の別府は・・・学園祭のプログラムのためにホールでリハーサルをしていたヴァイオリン奏者のまきまきに魅了されていた。
二度目に立ち食いそば屋でまきまきを見かけた。
三度目に家電量販店でまきまきを見かけた。
四度目・・・今度、まきまきに遇ったら告白しようと決意していた別府・・・。
それはまきまきの結婚式の日だった。
別府は当時・・・結婚式場で働いていたのである。
アプローチが遅すぎるというとりかえしのつかない失敗をした別府は・・・まきまきのストーカーになったのである。
「・・・ですよね」と頷く別府である。
その心に渦巻く「後悔後悔後悔後悔後悔」の重みに耐えかねてコンビニエンスストアに脱出する別府だった。
「明日の朝のパンを買いに行きます」
「私もアイスクリームを買いに行きます」
すずめは別府を追いかけるのだった・・・。
別府を探るのもすずめの使命なのである。
「別府くん・・・他に好きな人がいるのかな」
「ガールズバーじゃないですか」
「ガールズバーって」
「彼女のいない三十二歳ですよ・・・火照ってるに決まってるじゃないですか」
にやつくまきまきに畏怖を抱く家森だった。
別府とすずめの凍てつく夜の道行・・・。
「猫が好きですか」
「はりねずみカワウソネコの順に好きです」
「ありくいシロクマネコの順ですね」
「同じ三位ですね」
「三位三位ですね~♪」
サンイサンイですね~にお茶の間では悶死者続出である。
みんな萌えてしまうがいい・・・。
恐ろしい歌い手だなあ・・・。
「・・・」
「別府さんて・・・真紀さんのことが好きですよね」
「え・・・何がですか」
「質問を質問で返す時は正解らしいですよ」
「そんなこと言ったら・・・すずめちゃんだって家森さんのこと好きだよね」
「え・・・どうしてですか」
「質問を質問で返す時は正解なんですよね」
「・・・白状します・・・家森さんのことが好きです・・・絶対に言わないでくださいね」
行間的には「家森さんのことが嫌いではないけれど本当に好きなのは別府さん」と言うことである。
「・・・」
「で・・・真紀さんが好きなの?」
「好きです」
「二人の片思いは・・・私と・・・別府さんだけの秘密ですね」
「うん」
すずめは鏡子に「別府が真紀に好意を抱いていること」を送信する。
別府はすずめにアイスクリームを選ばせる。
「ラブラブストロベリー」と「ロックンロールナッツ」・・・。
すずめは別府の左手にあった「ロックンロールナッツ」を選ぶ。
「ナッツがすきなんですか」
「別府さんがラブラブストロベリーを食べたら面白いと思ったので」
冬の軽井沢のコンビニ前のベンチでアイスクリームを食べる二人。
凍死する気か!
別府の中で・・・逃げていく魚がどんどん膨らんでいくのだった。
九條が花束を胸に職場を退職する日。
「彼とどんな話をするの」
「タイヤの話とか・・・」
黄色い帽子をかぶった女の子に火照る男なのか・・・と別府は見下すのだった。
タイヤを愛する男たちに対する偏見が炸裂する別府なのである。
タイヤ売りもドーナツ売りも似たようなものなのだが。
だが・・・ドーナツは食べることができる。
タイヤなんて食えないじゃないか。
火照りを抱えたまま「ノクターンの楽屋」に入る別府。
ホール担当の谷村多可美(八木亜希子)とセットリストと段取りの打合せを行う別府。
「お酒を出すタイミングなんだけど・・・ここでいいかしら」
上から目線の別府は谷村夫人の胸の谷間に目を奪われる。
「そうですね・・・タニマさんのおっしゃる通りでいいと思います」
「え」
「タニマさんの案のように・・・僕がタニマさんの合図で・・・その時、タニマさんが」
「ちょっといいかな」
多可美の夫である大二郎(富澤たけし)が割って入るのだった。
二人は別室に退場である。
「みんなもタニマさんの言う通りでいいですよね」
「タニマさんじゃなくて・・・タニムラさんな」
「あ」
「別府くん・・・火照りすぎ」
「いや・・・そこに谷間があったから」
谷間夫人は対エロ視線防御ダウンベストを装着して再入場した。
演奏終了・・・家森のインターバル。
待ち伏せする怪しい男(Mummy-D)に追いつめられる家森。
「軽井沢は寒すぎる」
「仕事があったんで」
「こっちだって仕事だ」
借金か・・・借金取り立てられてんのか・・・家森。
消息不明の家森を案ずる者もなく・・・ポテトを使ったジェンガに興ずる二人。
すずめは狸寝入りをする。
「彼女の結婚を止めないの」
「九條さんには・・・片思いの人について相談したりしてたもんで」
「利用していたの」
「そうかもしれません」
「この人には私がいないとダメなんだと思わせるタイプって罪ですよね」
「そうなんですか」
「つまり私にはこの人が必要だって思わせてるってことだから」
「・・・」
「で・・・片思いの人には告白するの」
「その人・・・結婚してるんです」
「不倫は誰かを不幸にしますよ」
「出会うのが遅すぎたわけじゃないんです」
「その人が・・・結婚する前から知っていたってこと?」
「僕が真紀さんと初めてあったのは十年前・・・天響祭で・・・八号館大ホールのステージで・・・リハしている真紀さんに一目惚れしたんです・・・僕は宇宙人のコスプレしていたので・・・わからなかったと思います」
「天響祭・・・」
「それから・・・二度目は立ち食い蕎麦屋で肉そば食べている真紀さんに遭遇しました・・・三度目は家電量販店の電動マッサージイスを試している真紀さんを・・・僕は運命を感じました・・・四度目があったら・・・告白すると決めたんです・・・四度目は・・・三年前・・・目黒の結婚式場で・・・」
「・・・じゃ・・・カラオケボックスであったのは」
「あれは偶然じゃありません・・・人妻になってしまった運命の人をあきらめきれずに・・・ストーカーしていました」
「・・・」
「真紀さん・・・あなたのことが好きです・・・あなたを捨てていなくなった男より」
「私・・・結婚するまで花火大会に行ったことがなかったんです」
「え」
「だって・・・火ですよ・・・火事になったらどうするんですか・・・こわいでしょう・・・でも・・・夫が私を連れ出してくれました。必ず君を守るからって・・・手をつないでくれて・・・初めて見た花火は綺麗だった・・・火事にならないこともわかりました」
「・・・」
「綺麗だなって思った時にはもう火は消えています・・・哀しいより哀しいことはぬかよろこび・・・おかしいとは思ってました・・・カルテットが偶然そろうなんて・・・でも神様が哀しい思いをしている私に奇跡を起こしてくれたのかもと・・・それが嘘だったなんて」
「いえ・・・嘘じゃ」
「別府さん・・・いなくなるって消えることじゃないんです。いなくなるっていうことがずっと続いて・・・いなくなる前よりずっと夫が側にいるんです・・・今なら落ちると思ったんですか・・・捨てられた女をなめんな!」
まきまきはテーブルに暴力を行使した。
テーブルはまきまきに痛みをサービスした。
火照りを拒絶され立ちすくむ別府・・・。
二人のやりとりを録音したすずめは鏡子に報告する。
「旦那さんのことを・・・本当に愛してたみたいですけど」
「愛してるから殺すことだってあるでしょう・・・」
「それに・・・あの女は・・・夫がいなくなった翌日にパーティーに出席しているんです」
鏡子は数珠や線香などをばらまきながらバックから一枚の写真を取り出す。
「夫を案じる妻がこんな顔して記念写真を撮影しますか」
「バカみたいに大口開いてますね」
「開いているでしょう」
もちろん・・・夫に失踪された女は何かを叫びたいものかもしれないのだが・・・。
火照りをもてあました別府は「本命がダメなら穴でも狙うさ」作戦を決行する。
カラオケの館で酔いつぶれ・・・終電が終わるまで粘り・・・九條の家にお世話になるのである。
「どうして・・・タイヤの話なんかするつまらない男と結婚するの」
「三十四歳だからね」
「僕は絶対に結婚式で演奏なんかしない」
「おやすみ」
「嫌だ~・・・」
愛の言葉抜きで九條の肉体を求める別府である。
押し倒された九條の背中は別府の眼鏡を割る。
仕方ないので別府の火照ったものを受け入れる九條だった。
男と女の愛の交歓の時はたちまち過ぎ去る。
別府はそれなりに満ち足りて浅い眠りに誘われる。
夜明け前・・・別府が目覚めると九條は起きて携帯端末で作業をしていた。
「ごめん・・・起こした?」
「結婚しましょう・・・僕と結婚しましょう」
別府は行間なしでプロポーズをした。
しかし・・・九條には行間があった。
「お腹がすいたわ・・・何か食べましょう」
九條はチャルメラでも出前一丁でもないインスタントラーメンの袋を開けた。
夜明け前のベランダで二人はラーメンをお椀で食べた。
「美味い」
「美味いね」
「結婚・・・俺・・・真面目に」
「あっちに可愛いカフェがあるんだけど・・・遠くて・・・毎回、近くのチェーン店に入っちゃう。そこはそこで美味しいのよ。こういうタイミングでこっちだったかなって思われるのも・・・嫌な気持ちはしないのよ・・・だけど・・・結婚とかはないんだなって・・・思った時はもうずっと昔のこと・・・別府くんのことは好きだった・・・だから寝たし・・・それぐらいのことなら私だってずるくなれる・・・でも・・・結婚とかはないよ」
「・・・」
「ずるい男とずるい女が・・・寒い朝ベランダでサッポロ一番食べたら美味しかった・・・それが君と私のクライマックスでいいんじゃない」
「・・・」
「お返事は?」
「はい」
もちろん・・・そんなことでストーカーに殺されちゃう人がいないことはないけれど・・・それもまた運命なのである。
ああ・・・沁みる・・・そして何かが突き刺さるのだった。
「大切な人が結婚します・・・その人のために演奏したいです」
「みぞみぞしてきた・・・」
「無理です・・・私うまく弾けません」
「やるってさ・・・」
カルテットは練習した。
結婚式の教会で・・・カルテットは「「エレンの歌 第3番/フランツ・シューベルト」(シューベルトのアヴェ・マリア)で花嫁を迎える。
新郎新婦は誓いのキスをする。
そして退場曲。
まきまきは・・・第一ヴァイオリンの楽譜を別府に託す。
すずめも家森も弓を置く。
ソリストとして別府は音楽を奏でる。
「アベ・マリア・・・果てしない星の光のように・・・胸いっぱいの愛であなたを包みたい」
花嫁は立ち止り・・・しばし・・・実らなかった恋の余韻に浸るのだった。
カラオケ館で首にコルセットを装着したカルテットは別府の歌う「紅/X JAPAN」堪能する。
「閉ざされた愛に向かい・・・叫びつづける」
紅に染まった別府を三人は生温かく励ますのだった。
すずめは別府に「二人で食べるアイス」をおねだりするが・・・別府は四人分のアイスクリームを冷蔵庫に用意していた。
人間は簡単には成長しないものだ。
まきまきがやってくる。
「この間は・・・すみませんでした」
「私・・・思い出したんです・・・宇宙人・・・」
「・・・」
「こわかった」
「・・・」
別荘にすずめが一人の昼下がり・・・。
すずめはテーブルの上に放置されたまきまきの携帯端末を発見する。
暗証番号はまきまきの結婚記念日と判明するが・・・まきまきが買い物から帰宅するのだった。
「これ・・・いつもの」
まきまきは・・・テトラパックのコーヒー牛乳をすずめに渡した。
「真紀さんて・・・パーティーとかにいくんですか」
「すずめちゃんて・・・謎ですよね・・・たまにお線香の匂いがする」
「よくバスで他人に寄っかかって寝ちゃうから・・・移り香が・・・」
「もしかして御墓参りにでも行ってるのかと思ってました」
「それは・・・ミステリですね」
「この間・・・起きてましたか」
「・・・はい」
「すずめちゃん・・・別府さんのこと好きでしょう」
「どうしてですか」
「私・・・そういうことにすぐに気付いてしまうところがあって・・・」
「それは・・・きっと・・・勘違いですよ」
目に見える世界・・・耳に届く言葉。
しかし・・・すべては幻なのである。
「絶対スキーに誘ってくださいね」
アリスはそう言うが・・・それはスキー場ロケーションのためのスケジュールがあるかどうかなのだ。
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