梅の香りと月の光そして女の祈り(武井咲)生まれてこなければよかったという自虐(成海璃子)
さて・・・冬ドラマもほぼ出そろって・・・残りは数本である。
「東京タラレバ娘」はまだトリオの一角の話だが・・・ここからドタバタになるのかドロドロになるのか・・・スタッフの匙加減が気になるところだが・・・原作の33歳設定に対してドラマの実年齢28歳キャスティングは明らかに切実感が違い・・・失敗の可能性が大きいと思う。
この他に・・・ファンタジー大河も始るので・・・レビュー枠はかなり苦しいことになってくる。
「忠臣蔵の恋」と「リテイク」は分けてレビューしたいのだが・・・そうするとどちらかを打ち切る必要がある。
仕方ないので・・・。
(木)は二本立て体制となったのだった。
(月)「A LIFE~愛しき人~」
(火)「カルテット」
(水)未定
(木)「忠臣蔵の恋」&「リテイク」
(金)「下剋上受験」
(土)「スーパーサラリーマン左江内氏」
(日)「おんな城主直虎」
もう・・・結構、ハードである。
で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第14回』(NHK総合201701141810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・清水一彦を見た。元禄十五年十二月十四日(1703年1月30日)・・・きよ(武井咲)が操を捧げた磯貝十郎左衛門(福士誠治)は赤穂義士として吉良上野介義央(伊武雅刀)を討ち取り、主君であった浅野内匠頭長矩(今井翼)の無念を晴らした。密偵として白金の上杉家下屋敷に潜入し・・・仇討ちの夜も吉良邸前に控えたきよは・・・十郎左衛門が本懐を遂げるのを見届けた後で・・・高熱を発する。張り詰めていた糸が切れて寝正月なのである。
きよが寝こんでている間に・・・吉田兼亮らの自首を受けた大目付仙石久尚により赤穂浪士討ち入りの報告を受けた幕府は対応を協議する。
江戸城に登城していた肥後熊本藩の藩主・細川綱利は老中稲葉正通より大石内蔵助良雄(石丸幹二)はじめ赤穂浪士十七人のお預かりを命じられた。
十五日の深夜、泉岳寺から仙石久尚の屋敷に収容された十郎左衛門は内蔵助と共に白金の細川家下屋敷に移送される。左股に深手を負った近松行重らのために駕籠が手配され、白金到着は十六日未明のことになったという。
慶長四年(1599年)の石田三成襲撃以来、浅野家と細川家は昵懇の間柄である。
当主の綱利は「討ち入り」を「義挙」として感銘を受け・・・内蔵助らに対面・・・篤くもてなしたという。
江戸市中でもすでに「赤穂義士の快挙」は人気になっており・・・幕府は対応に苦慮する。
赦免か断罪か・・・断罪なら罪人としての斬首か・・・武士として名誉の切腹か・・・世論への配慮が求められ幕府閣僚の意見は割れたのである。
綱利は幕府に助命を嘆願した。
元禄十六年(1703年)正月・・・父親の勝田元哲(平田満)の居住する浅草稲荷町にある浄土真宗の寺・唯念寺林昌軒で養生を続けるきよの元へ兄の勝田善左衛門(大東駿介)と親類筋の佐藤條右衛門(皆川猿時)が見舞いにやってきた。
「兄上・・・おじさま・・・」
「きよ・・・もう良いのか」
「はい」
「江戸では・・・赤穂義士の討ち入りは大した評判じゃ」
「ご赦免の可能性もあるかもしれない」
「ご赦免・・・」
十郎左衛門の「死」を覚悟していたきよの頬が朱に染まる。
「まあ・・・夢のようなものだがな・・・」
(夢)ときよは心を引き締めるのだった。
「身体が癒えたら・・・瑤泉院様を訪ねるがよかろう」
「つま殿の話では・・・瑤泉院様はきよの容体を気にかけてくださっているそうじゃ」
つま(宮崎香蓮)は浅野家未亡人の瑤泉院(田中麗奈)の侍女であった。
「瑤泉院様が・・・」
きよは・・・赤坂の三次浅野家下屋敷に向った。
「本日は・・・仙桂尼様もお見えですよ」
きよを奥の間に案内しながらつまが微笑む。
「仙桂尼様が・・・」
十郎左衛門と別れてから・・・すべてが夢のように感じられているきよなのである。
仙桂尼(三田佳子)は瑤泉院に「赤穂浪士の助命嘆願」を申し出いた。
「助命とな・・・」
「世間では討ち入ったものたちの快挙を讃え・・・ご赦免を願うものも多いと聞きます。今こそ・・・助命を願い出る機会かと・・・」
「しかし・・・そのような伝手があるものか・・・吉良家は将軍家と繋がりの深い御家・・・」
「今・・・幕府を動かせるものといえば・・・桂昌院様」
桂昌院は将軍・綱吉の生母である。
「本所五ツ目の五百羅漢寺の松雲元慶様は桂昌院様の信望が篤いお方でございます」
「五百羅漢寺の・・・」
「しかし・・・大石たちが命を永らえても・・・赤穂藩はもうないのじゃ・・・俸禄を与えることもできぬ」
「瑤泉院様・・・」
きよには桂昌院の言う「命大事」の気持ちも・・・瑤泉院が案ずる「大義」の理もわかる。
命は大切だが・・・命を捨てて主に殉じたからこその義挙なのである。
浪士たちは・・・死を賜ってこそ・・・義士として完成するのである。
だが・・・瑤泉院とて情がないわけではない。
「わかった・・・家臣たちの命も大切じゃ・・・妾も助命嘆願に賭けよう・・・仙桂尼の配慮も許す」
「ありがたきことでございます」
「きよ・・・」
「はい・・・」
「帰りは気をつけるのじゃぞ・・・病み上がりの身じゃ・・・充分に養生いたせ」
「もったいない御言葉・・・」
きよは・・・深く頭を下げた。
十郎左衛門は存命だが・・・内匠頭はもうこの世にはいないのである。
内匠頭と十郎左衛門が主従であったように・・・瑤泉院ときよも主従の絆で結ばれているのだった。
仙桂尼はそんなきよの心を見とって言葉を続ける。
「幕府を今動かせるものと言えば・・・あとは・・・御側御用人の柳沢吉保様・・・」
「柳沢様・・・」
時は移り・・・梅がつぼみをつける。
唯念寺の寺内の梅を手折るきよであった。
細川家家臣で内蔵助らの預かりを担当している堀内伝右衛門(北見敏之)がきよを訪ねてやってくる。
「芝金杉町の貞柳尼様にお会いしてまいりました」
「貞柳尼様に・・・」
貞柳尼(風祭ゆき)は十郎左衛門の母である。
「私は勝手ながら・・・赤穂の皆さまの・・・御言葉を・・・御身内の方に伝えておるのです」
「それは・・・ありがたきこと・・・」
「皆さま・・・御元気になさっておいでですよ・・・我が殿は大の浅野贔屓でしてな・・・風呂は一人一人で湯を入れ替えよ、酒やたばこも振舞って毎日の料理も二汁五菜にせよ、菓子、茶なども馳走せよと・・・家臣がうらやむほどの大盤振る舞いでございます」
「まあ・・・」
伝右衛門の語り口に思わず笑いを誘われるきよだった。
「十郎左衛門殿は・・・琴の爪の入ったお守り袋を肌身離さず御持ちでございます」
「・・・」
「これが我が命と申しておりました」
「・・・」
「何か・・・お伝えすることはございますか」
「・・・ありません」
きよは・・・涙をこらえて微笑んだ。
伝右衛門はきよが飾った梅の枝を見る。
「これは・・・きよ殿が」
「はい・・・」
伝右衛門は細川下屋敷に梅の枝を持ちかえった。
「十郎左衛門殿・・・これなるは・・・唯念寺の梅でございます」
「唯念寺の・・・」
「手折ってくださったのは・・・誠に御美しい方でございました・・・」
「・・・良き香じゃ・・・お心使い・・・かたじけのうござる」
十郎左衛門は微笑んだ。
きよは堀部安兵衛(佐藤隆太)の妻・ほり(陽月華)と細井広沢(吉田栄作)の屋敷を訪ねていた。
「柳沢様に・・・ご赦免願いを・・・とな」
「細井様は・・・柳沢様の・・・儒学の師とお聞きしました・・・」
「ほり殿はどう思われる・・・武家の娘として・・・武士の妻として・・・」
「私は・・・父にも・・・夫にも・・・潔く・・・旅立たせてやりとうございます」
「ほり様・・・」
「さすがは・・・武家の女・・・天晴な覚悟でござる・・・儒学者としてはそう申す他はござらぬ・・・しかし・・・友として・・・拙者は安兵衛に生きていてもらいたい・・・命を助けたいとも思ってしまう・・・」
「細井様・・・」
「柳沢様がどのような決断をなさるかはわからぬが・・・拙者は・・・微力なれどお力添えいたす・・・」
人々は・・・それぞれの立場で・・・赤穂浪士の処分を待った・・・。
そして・・・元禄十六年二月四日(1703年3月20日)・・・。
きよは父に呼ばれた。
「そなたの母上を見送って・・・十一年になるのう・・・」
「父上・・・」
父は娘に・・・自分も連れ合いの死に耐えたことを前置きしているのだときよは悟る。
「細井様から・・・報せが参った・・・本日、切腹と決まったそうだ・・・」
「何処で・・・」
「お預かりのお屋敷にて・・・」
「参ります」
「行って・・・どうなるものではない」
「せめて・・・最後の時を・・・お側で・・・」
きよは走り出た。
足は白金村を目指す・・・しかし・・・十郎左衛門の遺した言葉がきよを縛る。
「きよは・・・生きよ・・・生きて・・・母上を看取ってくれ・・・我が妻として・・・」
きよは・・・足を芝金杉町へと向けた。
「きよ殿・・・」
「母上様・・・」
「報せが参ったのですね」
「本日・・・ご切腹とのこと・・・」
「武士の誉れじゃ・・・」
「まことに・・・」
「きよ殿・・・あの子は・・・十郎左衛門は・・・磯貝家の誇りでしたよ」
「・・・」
義理の母と娘は・・・お互いを慰めた。
「大石内蔵助殿・・・」
「各々方・・・御先に参る」
あら楽し 思ひは晴るる 身は捨つる 浮世の月に かかる雲なし
赤穂義士たちは旅立った。
細川家では切腹の場所に最高の格式である畳三枚を敷いたと言われる。
きよが泉岳寺に到着すると・・・すでに十郎左衛門の埋葬は終わっていた。
十郎左衛門の戒名は刃周求劔信士と記されていた。
「せめて・・・御亡骸を一目・・・見とうございました」
「見なくて良かったのですよ・・・見なければ・・・夢枕に立つ旦那様は・・・きっと」
「ほり様・・・」
「きよ・・・人の死は綺麗事では済まぬのじゃ・・・」
「仙桂尼様・・・」
「吉良家を継いだ吉良左兵衛義周は信濃高島藩主諏訪安芸守忠虎にお預けとなった・・・浅野家と同じく両成敗となったのです・・・義挙は報われた・・・しかし・・・仏と成ったものたちと喜びを分かち合うことはもはやできませぬ」
「・・・」
「きよ・・・残された遺児らは・・・伊豆大島に遠島となりましたぞ」
「では・・・村松政右衛門殿も・・・」
村松政右衛門(井之脇海)はきよが後事を託された村松三太夫(中尾明慶)の弟だった。
「残された私たちは・・・遺児たちのお命を御救い申し上げなければならぬ」
「・・・」
「きよ・・・これは終わりではない・・・これははじまりなのです」
しかし・・・女の身で・・・何ができるだろう・・・。
きよの心は亡き人の面影を求めて彷徨っている。
しかし・・・運命は・・・きよを思ってもいない場所へと導くのだった。
儚くも華麗な残り六話である。
関連するキッドのブログ→第13話のレビュー
で、『リテイク 時をかける想い・第6回』(フジテレビ201701142340~)脚本・千駄木宗介(他)、演出・植田尚を見た。2022年にタイムマシンが発明される時空の2017年である。もちろん・・・2022年が未来である以上・・・それが実現されるのかどうかは未定である。しかし・・・政府の一部はそれを信じ・・・法務大臣政務官の国東修三(木下ほうか)の指揮下で未来人を保護するのが任務の戸籍監理課を運営している。別荘と呼ばれる施設のスタッフは相当数必要と推定できるが描写は一切ない。日本国以外の未来人対策も描かれない。それどころか・・・未来人が飛来するのは東京周辺に限定されている。それについての説明も一切ない。本当は・・・そういう「謎」の解明もタイムトラベルものの醍醐味なのだが・・・課長・新谷真治(筒井道隆)、正規職員・那須野薫(成海璃子)、パートタイマーのパウエルまさ子(浅野温子)の三人で・・・全未来から飛来する未来人のすべてに対処しているわけである・・・絶対におかしいだろう・・・。
新谷課長の運転で・・・未来人を別荘に送り届けた二人。ちなみに・・・薫は無免許である。未来人の特徴の一つが戸籍がないために免許を取得できないということなので・・・薫が未来人である可能性は大きいのである。
別荘の出口で政務官秘書の大西史子(おのののか)が立ちはだかるのである。
「ここに未来人が収監されているのですね」
「未来人・・・何の話ですか」
「とぼける気・・・」
「とぼけるも何も・・・ここは改修中の保養施設ですよ」
「保養施設・・・?・・・そこに何故・・・戸籍監理課が」
「お役所仕事的な雑用ですよ」
「説明になってないわよ」
「とにかく・・・お話することはありませんよ」
「私は機密文書を握っているの・・・すべてをマスメディアにリークするわよ」
「なぜ・・・そんなことを?」
「政府が国民に隠しごとをしてるなんて・・・許せないもの」
「おっしゃっている意味がわかりません」
「政治家の秘書が言うセリフとも思えませんね」
「私は・・・正義の政治家を目指しているのよ」
「えええええええええ」
「とにかく・・・帰りましょう・・・時間の無駄です」
「だな」
「待ちなさいよ」
しかし、戸籍監理課の二人はそそくさと立ち去るのだった。
「放置しておいていいんですか」
「未来から未来人が来ているって言われて・・・君は信じるかい」
「いいえ」
部署に戻った課長はパウエルまさ子に尋ねる。
「機密文書が紛失していますか」
「未来人のファイルが何点かなくなっているけど・・・」
「大西さんが盗み出したみたいなんですけど」
「あんなもの何にするの」
「リークするそうです」
「何のために・・・」
「純粋な正義感です」
「そりゃ厄介ね・・・純粋な正義感って悪意の蔑称だもの」
「ですね・・・」
「だけど・・・問題ないでしょう」
「だよね・・・」
「政務官に報告しましょうか」
「放置しておきましょう・・・面倒くさい」
「だね」
正義の炎に焼かれる大西は親友の雑誌記者・北見野絵(小島藤子)に相談するのだった。
「ののののの・・・」
「落ちついて」
「とにかく・・・これは大変なことなのよ」
「だけど・・・資料だけで・・・この人たちが未来人だと言われても・・・記事にはできないわ」
「ののののの・・・」
「落ちついて」
「どうしてよ・・・」
「せめて・・・責任ある立場の人の証言でもないと・・・」
「証言・・・」
「その秘密の部署の・・・課長さんとか・・・」
「新谷課長の・・・証言・・・」
考え込むののののの・・・大西だった。
ののののので遊んで楽しいのか・・・うん。
オバケ(未来人)が現時点に到着する天気雨(局地的低気圧)が観測される。
現場地点に向う課長・・・。
封鎖された事件現場に遭遇する。
「何かあったんですか・・・」
「婦女暴行事件だってよ」
「何でも犯人は全員白尽くめだったらしいぜ」
「白尽くめ・・・」
オバケは現時点に着地すると衣装が漂白されるのだった。
ののののの大西と別れた北見野絵は会社に戻るところだった。
北見を尾行する白尽くめの男(葉山奨之)は野絵と同じように二十歳前後だった。
課長は・・・尾行する男を発見する。
「もしもし・・・」
「何ですか」
「ちょっと話を聞かせてもらいえますか」
「急いでいるんです」
「彼女とあなたは・・・どんな関係ですか」
「・・・」
「私・・・未来から来た方を保護する仕事をしています」
「え」
「未来から来た人に現在に介入されると困るのです・・・まさか・・・あの女性に危害を加えるつもりですか」
「まさか・・・あの人は・・・僕の母親です」
「お母さん・・・すると・・・子供の時に何か問題が?」
「保護するって・・・どういうことですか」
「特別な施設にお連れして・・・2022年にタイムマシンが開発されるまでそこで過ごしてもらいます」
「五年後じゃ・・・ダメだ・・・僕が生まれてしまう」
「はあ・・・」
「僕は生れて来ない方がよかったんです」
「あ・・・待って」
二十代の若者が本気で走って逃げたら絶対に追いつけない課長なのである。
そこに警官がやってくる。
「今・・・女性から男に尾行されていると通報がありまして」
「え」
「ちょっとお話聞かせてもらえますか」
「僕は怪しいものではありません」
「それが・・・怪しいのでは・・・」
逃げ出そうとして逮捕されてしまう課長だった。
課長の元義理の弟・柳井研二(淳士)に薫が連絡することで解放される課長。
研二は刑事なのである。
「逮捕した警官が知りあいでよかったですよ」
「所轄の警官にも顔が広いのか」
「彼は・・・父親が・・・お偉いさんなんです」
「へえ・・・」
「知り合っておいて損はないんですよ」
「君らしいね」
薫は課長に文句を言う。
「おかげでデートすることになっちゃいましたよ」
「すまん」
「未来人には会えたんですか」
「どうやら・・・母親に自分を生ませないつもりらしい・・・」
「そんなことをしても時空が変遷するだけで・・・本人が消えるわけでもないのに」
「まあ・・・自殺したいだけとは限らんぞ・・・それに・・・彼は婦女暴行犯として警察にもマークされているらしい」
「え」
「しかし・・・時系列的に考えて・・・彼に犯行は無理だ・・・犯行後に到着してたまたま目撃されてしまったんだろう」
「何故・・・その人は・・・生れることを拒むのでしょうか」
「さあ・・・」
政務官に呼び出される課長。
「逮捕されたそうじゃないか」
「誤認逮捕です」
「君は誤認逮捕されるのが趣味なのか」
「・・・」
「とにかく・・・警察より先にオバケを確保してくれ」
「人員の補充の件はどうなってますか」
「何度も言わせるな・・・秘密を知るものは少ないほど良いのだよ」
「・・・」
秘書官にバレたことを口には出せない課長なのである。
課長を待ち伏せするののののの。
大西でいいじゃないか。
「良心があるなら・・・取材に対して証言してもらえませんか」
「良心・・・」
「良い返事を待っています」
「・・・」
大西の育ちをあれこれ考える課長だった。
相当な箱入りで・・・なにか極端な思想に感染しているのかもしれない。
その頃・・・未来人は・・・母親に接触していた。
「僕は・・・圭介と言います・・・未来から来たあなたの息子です」
「未来人・・・」
圭介は・・・古いタオルを差し出す・・・。
「これに見覚えはありませんか・・・これが唯一の証拠です」
「何を言ってるの・・・」
「あなたに逢うために未来から来たんです・・・信じてください」
「あなた・・・二週間ほど前から・・・私をつけている人ね」
「え・・・」
「何が目的なの」
「そんな・・・僕はまだ来たばかりで・・・」
「お巡りさん・・・」
野絵は通りすがりの警官を呼ぶのだった。
圭介は逃げ出し・・・課長の車に拾われる。
「あなたには・・・婦女暴行の容疑がかかっているんですよ」
「え・・・」
「事情を話して下さい」
「僕は・・・2018年・・・つまり来年生れます・・・この世界では母体優先のはずなのに・・・出産時に・・・あの人は・・・死んでしまうのです」
「つまり・・・あなたは生れついての母親殺し・・・ということですか」
「母は天涯孤独の身の上だったらしい・・・結婚もしていなくて・・・父親が誰かもわかりません・・・僕は最初から孤児院で育ちました。里親にも恵まれず・・・誰からも必要とされないまま僕は母親が僕を生んだ年齢になりました。けれど・・・生れてよかったと思ったことは一度もありません」
「・・・」
「ひょっとしたら・・・母は・・・婦女暴行犯に犯されて・・・僕を妊娠するのかもしれない」
「・・・」
「だから・・・僕には父親がいないのかもしれない」
「・・・」
「でも・・・どうしてそんな男の子供を生む気になったのか・・・僕にはわからない」
「・・・」
「だから・・・僕はお母さんに・・・僕を生まないように・・・頼みに来たのです」
「そのタオルは・・・」
「母が僕を生んだ時に握りしめていたものだそうです」
「・・・」
「僕にとって・・・このタオルが・・・お母さんなんです」
課長はまたしても・・・圭介に脱走されてしまう。
「情けない」
「すまん」
「彼はどうするつもりなのでしょう」
「おそらく・・・婦女暴行犯から・・・彼女を守るつもりなんだ」
「自分を生ませないために・・・ですか」
「・・・」
その頃・・・野絵は・・・婦女暴行犯に拉致されていた。
圭介は暴行寸前に割り込む。
「やめてください」
「なんだ・・・てめえは・・・」
圭介は暴漢と格闘を開始する。
しかし・・・暴漢は兇悪だった。
叩きのめされる圭介。
「やめて・・・母さんにひどいことをしないで・・・」
「母さんだと・・・お前・・・頭おかしいのか」
そこへ・・・パトロール中の警官が現れる。
二人組の一人は・・・課長を逮捕していた男だった・・・。
暴漢はついに逮捕されるのだった。
「大丈夫でしたか」
「向田さん・・・」
「無事でよかった・・・」
どうやら・・・野絵と警官は・・・知り合いらしい。
野絵はストーカーの存在に気が付き・・・警官に相談していたのだった。
警官は野絵にタオルを差し出した。
「出血しています・・・救急車が来るまでコレを・・・」
「ありがとう・・・あ」
野絵は・・・タオルに気がついた。
そして・・・圭介を見るのだった。
「あの・・・助けてくれた人に御礼を言いたいのですが・・・」
「ああ・・・あの人は・・・法務省の人だそうですよ」
「法務省の・・・」
「上司の新谷さんと言う人が・・・引きとりにきています」
野絵は立ちあがった。
「新谷さん・・・」
「え・・・」
「戸籍管理課の新谷さんですか」
「どうして・・・・私のことを・・・」
「のののののから・・・話を聞いています」
「え」
「本当に・・・この人は未来から来た・・・私の子供なんですか」
「・・・そうです」
「課長・・・」と薫。
「だって・・・しょうがないだろう」
薫は課長の意を汲んだ。
「信じなくても構いません・・・ただ・・・彼の言葉を聞いてあげてください・・・彼はすべてを捨てて・・・そのためだけに未来から来たのです」
「那須野・・・なんだか・・・熱いな」
唖然とする野絵。
「・・・」
薫は圭介の背中を押した。
「さあ・・・言ってしまいなさい」
「僕を生んだ人は雑誌記者の北見野絵だと聞かされています。北見野絵は僕を生んだために死にました。だから・・・僕を生まないで・・・このまま長生きしてください・・・お願いします」
「そんな・・・」
「我々の仕事は未来人に今を変えさせないことなんですがね・・・いつも・・・負けちゃうんですよ・・・だって・・・人生賭けてやってくる人たちの・・・本気・・・凄いので・・・」
「さあ・・・行きましょう・・・北見圭介さん・・・」
二人は未来人を別荘に送り届けた。
そこに・・・大西と野絵が現れた!
「また・・・君か」
「今日は野絵の付き添いよ」
「私・・・警官の向田さんとお付き合いすることになりました・・・」
「死んでしまうかもしれない運命を選ぶのですか」
「私が・・・一人であの子を生むことになるのは・・・彼の家が・・・格式高いせいかもしれません。私は臆して結婚できなかったのかも・・・私にはそういう傾向があるのです。でも・・・あの子を一人ぼっちにしないために・・・死に物狂いになろうと思います・・・体調もしっかり管理して・・・無事に出産して・・・あの子を生むだけでなく・・・ちゃんと育ててあげたい・・・」
「あなたの気持ちを・・・彼に伝えますよ」
「ありがとう・・・」
「野絵は記事は書かないっていうけど・・・私はあきらめませんから」
「・・・」
薫は囁いた。
「無事に出産できるのでしょうか」
「そんなこと・・・誰にもわからないさ・・・もう未来は変わってしまったんだから」
未来人によって変貌し続ける現在。第一話の逃亡未来人・坪井信彦(笠原秀幸)は現在の坪井信彦に大金を渡しているのだった。
「誰にも・・・言うなよ」
「・・・」
残り二話である。
未来と現代の「謎」にはどんな決着が待っているのだろうか。
細部の辻褄があっていることを祈るばかりである。
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