カルテット(松たか子)晴天より曇天(満島ひかり)唐揚と檸檬(高橋一生)軽井沢の別府(松田龍平)
ヴィオラ奏者を演じる高橋一生が行きずりの女子大生(青野楓)とキスをしている頃・・・二回目も拡大した「嘘の戦争」では主人公の陽一(草彅剛)が家族の仇の娘を演じる山本美月を凌辱していたのであった。
激しい鍔迫り合いである。
まあ・・・とっとと平常通り、午後九時と午後十時で棲み分けた方がいいと思うぞ。
せっかく・・・二本立てに付き合ってくれる人たちのためにもな。
さて・・・ほぼ・・・決まりだした・・・冬のドラマのラインナップである。
(日)は基本的に「おんな城主直虎」である。一昨年のようなよほどの不出来がない限り定位置で。
(月)は月9が始っていないが・・・日9から「A LIFE~愛しき人~」がこぼれてきている。
(火)は「カルテット」で決まりである。
(水)は未定である。
(木)は「リテイク」と「忠臣蔵の恋」が年越しで送られてくる予定である。
(金)は「下剋上受験」で決まりである。
(土)は「スーパーサラリーマン左江内氏」で決まりである。
つまり・・・もう・・・残り一枠しかないんだよな・・・誰か勝ち取るのか・・・それとも谷間になるのかは・・・未定です。
で、『カルテット・第1回』(TBSテレビ20170117PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。「ダメな私に恋してください」から始ったこの枠の回復の兆しを「重版出来!」で軽く温め、「逃げるは恥だが役に立つ」でついに蘇らせた演出家の・・・新たなるチャレンジである。月9だから見るという時代とまではいかなくても・・・火10だから面白いかもしれないというところまで持って行ってほしいものだ。まあ・・・今のシステムだと次のプロデューサーがとんでもなくやらかす場合があるので難しいんだけどね。まあ・・・NHKドラマも去り、フジテレビドラマも去って・・・まさにチャンス到来なので・・・去年の冬ドラマより清々しいだろう。
東京・・・銀座四丁目・・・夜・・・一人のチェロ弾きの少女が・・・路上演奏を始める。
稼ぎは小銭が少々で・・・テトラパックのコーヒー牛乳代くらいである。
そこへ・・・一万円札を差し出す怪しい老婆(もたいまさこ)が現れた!
後に明らかになるが・・・巻鏡子である。
「仕事をお願いしたいのよ」
「演奏なら・・・どこにでも・・・」
「この女性とお友達になってもらいたいの・・・」
差し出された写真には・・・鏡子の息子の妻である・・・巻真紀(松たか子)の姿が・・・。
まきまきかよっ!・・・である。
巻真紀はヴァイオリン奏者であった。関係者の話ではプロであった過去があるらしい。
数日後・・・「カラオケ館」の個室で・・・ヴァイオリンを練習するまきまきに偶然を装って接近しようとしたチェロ弾きの少女・世吹すずめ(満島ひかり)は驚愕する。
他の個室から・・・ヴィオラ奏者の家森諭高(高橋一生)と・・・ヴァイオリン奏者の別府司(松田龍平)が現れたのである。
そんな・・・偶然があるだろうか・・・おそらくないのである。
だが・・・一同は・・・おそらく・・・それぞれの事情で・・・奇跡のような出会いを「運命」にしようとしているわけである。
数日後・・・ある雨の日・・・世界的指揮者を祖父に持っているが「ふくろうドーナツ」のお荷物社員である別府司は・・・まきまきを車に乗せて・・・祖父・良明が所有する軽井沢の別荘へと向う。
「冬の軽井沢も素敵なんですよ」
「・・・」
「すみません・・・僕ばかりおしゃべりをして」
「・・・て・・・て」
「えっ」
まきまきは小声である。
「昨日・・・緊張して眠れなくて・・・鴨の赤ちゃんが次々に排水溝に落ちる動画を見てしまって・・・」
「・・・僕は・・・皆さんとの出会いは運命だと思っています・・・偶然、弦楽四重奏ができるメンバーがカラオケ屋に集まるなんて・・・僕らはきっと最高のカルテットになりますよ」
「・・・は・・・が」
「えっ」
「人生には三つの坂があるそうです・・・上り坂と・・・下り坂・・・そして」
そこで・・・道端で女子大生とキスをしている家森が合流する。
「ええと・・・今の人は」
「旅行中の女子大生・・・道を尋ねられて教えた」
家森はそれだけでキスができるスキルを持っているらしい。
唖然とする別府である。
やがて・・・豪勢な別府の別荘に到着する。
「まきさんは・・・」
「君は上の名で呼んでるの・・・下の名で呼んでるの」
「上のまきさんです」
「まきさんは・・・結婚されているから・・・泊まりは無理ですよね」
「・・・す」
「えっ」
「君の好きにしていいよと夫に言われています」
おい・・・この調子で行くのか。
また・・・果てしなく再現性の高い世界を目指しているぞ。
も、もう少しだけ・・・。
すずめは・・・テーブルの下に潜り込んで眠っていた。
しかし・・・後にそれは盗聴のための工作中であったことが判明する。
すずめは油断のならない女なのである。
一同は・・・早速・・・練習を開始する。
「アーをください」とまきまきが言うとすずめがチェロでAを奏でる。
そして・・・四人は・・・場末のファッションモールで「ドラゴンクエスト・マーチ/すぎやまこういち」を演奏してレベルアップするのだった。
こうして・・・謎を秘めたカルテットは誕生した。
ささやかな打ち上げのために・・・別府は唐揚を作る。
別府とすずめが添えられたレモンを大皿の唐揚に絞ると家森が文句を言い出すのだった。
「何してんだよ」
「レモンを絞っています」
「どうして・・・」
「唐揚にはレモンだから」
「そうじゃない人もいるって考えてもいいんじゃないか」
「え」
「第一・・・パリパリ感が損なわれる」
「でも健康のためには」
「唐揚食べてる時点で健康のことは横においてるじゃないか」
「そんなに怒らなくてもいいんじゃないか」
「まきさんはどう思いますか」
「・・・と」
「えっ」
「たかが唐揚ってことはないんじゃないかと」
「はあ・・・」
「まず・・・レモンを絞ってもいいか聞くべきだったと思います」
「そうだよ・・・そこなんだよ」
「・・・」
「でも・・・唐揚を見てください」
「え」
「冷えはじめています」
「・・・食べましょう」
「いただきます」
ワインで口が軽くなる奏者たちだった。
「いつか国立の劇場で演奏したいですね」
「それは・・・夢の話ですね」
「結婚してどのくらいですか」
「三年です」
「まきさんの夫さんは広告代理店に御勤めだそうだ」
「どうして好きになったんですか」
「彼は平熱が高めで」
「へえ・・・」
「耳の裏からいい匂いがするんです」
「・・・」
まきの夫の話に身を乗り出すすずめなのである。
こうして・・・最初の演奏旅行は幕を閉じた。
東京に戻ってくる奏者たち。
まきまきの家には・・・夫の靴が置かれ、床に靴下が脱ぎ捨てられており・・・テレビはつけっぱなしだが・・・まき以外の人の気配はないようである。
別府は会社ではVIP待遇である。
上司(ぼくもとさきこ)は「おじい様はドイツですか」と御追従を言う。
別府は仕事を与えられず・・・いてくれればいい存在である。
そんな別府の姿を同僚の九條結衣(菊池亜希子)は微笑んで見つめる。
家森は美容院で働いている。
客(松山尚子)は「あら・・・店長さんがシャンプーしてくれるの」と言う。
「いえ・・・僕はアシスタントです」
「あら・・・」
「三十五歳のバイトリーダーです」
すずめは・・・狭い部屋の万年床でジャンクフードを漁るのだった。
そして・・・まきまきは変な鼻歌を歌う。
「のぼりざか・・・フンフンフン・・・・くだりざか・・・フンフン」
ああ・・・もう・・・ずっとこの世界にいたい魔法が・・・。
きんぴらごぼうと生卵かけごはんを食べるまきまき。
ニュースが「杉並区の公園の池で身元不明の四十代男性の死体が発見された」と語るのだった・・・。
おやおや・・・。
ミステリアスな匂いが漂う都会。
しかし・・・軽井沢では軽やかな空気が漂う。
カルテットの仮名はドーナツとなり・・・ワゴンをデコレーションする奏者たち。
湖畔で記念撮影をすれば猿が樹上で笑い、別府が洗濯をすれば家森がノーパンになる。家森が転べば別府も転び、すずめも転ぶのだった。
バディーシャンプーなどを買い出しに出かけた奏者たちは・・・「あしたのジョー」の帽子をかぶった「余命九カ月のピアニスト」・・・ベンジャミン瀧田(イッセー尾形)に出会う。
まきまきは・・・バスローブの下に着衣の芸を披露する。
別府はまるで恋をしているようにまきまきの写真を眺め・・・家森はまるで恋をしているようにすずめの寝顔を見つめる。
この物語は「全員片思い」なのだが・・・それは・・・奏者たちのことではないのだろう。
奏者たちが片思いしているのは・・・「音楽」・・・あるいは「音楽」で生計を立てることなのではないか。
それが「夢」であることによる・・・どこか・・・ウキウキした日々なのである。
別府は・・・地元のコネクションで・・・耳よりな情報を仕入れる。
「ライブレストランで・・・週末にステージに空きが出るらしい」
ドーナツ一家は・・・勇んでライブレストラン「ノクターン」に出かけるのだった。
ライブレストラン「ノクターン」のシェフ・谷村大二郎(富澤たけし)は好意的に彼らを迎える。
店構えは申し分なく・・・ステージは彼らをうっとりとさせる。
だが・・・外出から戻った大二郎の妻でホール担当の谷村多可美(八木亜希子)は渋い顔だった。
「残念だけど・・・ベンジャミンさん・・・まだ当分演奏できるらしいわ・・・」
「え・・・」
ドーナツのライバルは・・・ベンジャミンだった。
ベンジャミンは「ラ・ヴィ・アン・ローズ(ばら色の人生)」を奏でる。
ドーナツは「ノクターン」の客席にいた。
アルバイト店員の来杉有朱(吉岡里帆)は事情を明かす。
「不入りなんですけど・・・なにしろ・・・きるにきれないというか・・・」
「ご病気じゃ・・・ねえ」
「あの人が最初に演奏した時は・・・すごく感動したんですよ」
「・・・」
「それから・・・一年です」
「え・・・余命九カ月なのに・・・」
「でも・・・そういう人をきると炎上しますからね」
「・・・」
「私・・・元地下アイドルだったんで・・・わかるんです・・・私もかなり炎上しましたから」
「それは・・・あなたの目が笑ってないからじゃない」と何故か毒を放つまきまき。
「ええっ・・・笑ってますよ」と目が笑わない演技もできる最新人気若手女優だった。
トレーなどであえて胸を隠すチラリズムである。
見事な攻撃だ。
しかし・・・まきまきは・・・ベンジャミンの正体を見極めていた。
「あの人・・・五年前に見た時も余命九カ月でした」
「え」
「つまりあの人は・・・ニセ余命九カ月の人です」
「ええ」
「死ぬ死ぬ詐欺です」
「えええ」
「どうしますか」
「どうするって・・・」
「お店の人に言えば・・・私たちが・・・この店で」
まきまきの提案に・・・戸惑う三人だった。
彼らは・・・なにしろ・・・夢見る人々なのである。
音楽に片思いをしているのは・・・それを手にいれるために悪魔に魂を売っていないからなのだ・・・おいおいおい。
そこへ・・・ベンジャミンがやってくる。
「来たな・・・カルテット・・・アリスちゃん・・・ボトル持ってきて・・・」
「は~い」
「飲もうじゃないか」
奏者たちは一瞬・・・クインテットとなった。
老いさらばえた奏者の貧しい棲家にドーナツは入った。
ベンジャミンはかってプロとして商品(レコード)も出した奏者だった。
しかし・・・ベンジャミンの部屋にレコード・プレーヤーはない。
酔った老奏者は若者たちに「プレイ」を語り酔いつぶれた。
壁には家族の写真があったが・・・家族はいない。
音楽に片思いをしたものの末路だった。
「アーをください」とまきまき。
「ベンジャミンさん・・・鼻毛のびてたね」とすずめ。
「抜いてあげればよかったね」とヤモリ。
「あの・・・スーパーでまた演奏できるかどうか交渉してみます」とVIP。
「いつか・・・イオンモールで演奏したい」
「・・・」
帰京する奏者たち。
「今頃・・・家は散らかり放題だわ」
「夫婦って・・・なんですか」
「夫婦って・・・だと思うの」
肝心なところをバスの走行音で聞き逃す別府。
「いいですね」とお茶を濁すのだった。
後にわかるが「別れられる家族」と言ったまきまきは怪訝な顔をする。
帰宅したまきまきは掃除機に躓き・・・床の靴下の匂いを嗅ぐ。
まきまきの夫は今・・・どこにいるのか・・・。
別府は・・・九條結衣の部屋で風呂掃除をして・・・カニの殻を剥く係であるらしい。
二人はそれなりにお似合いだ。
しかし・・・別府が恋をしているのは「音楽」なのである。
家森は・・・路上で・・・道行く子供から「音楽」を感じて立ち止まる。
世界には音楽があふれている・・・しかし・・・それで食べていくことは難しい。
「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-/杉山清貴&オメガトライブ」をカーラジオで聞いていた怪しい男(Mummy-D)が家森を探し当てる。
奏者たちは冬の軽井沢に戻る。
ヤモリは・・・ベンジャミンの姿を冷蔵庫にマグネットで掲げようとするが・・・別府はピンで階段の途中に留める。
すずめはヤモリの「みかんつめつめゼリー」を取り出して食べる。
「それは俺のじゃないか」
「まきさんのですよ」
「だって俺のがないじゃないか」
「まきさんが食べたんじゃないですか」
「まきさんはまきさんのを食べたんだろう」
「まきさんが家森さんのを食べて・・・私がまきさんのを食べているだけです」
「ちょっと図解にして説明しようじゃないか」
「ああ・・・まきさん・・・今・・・どこですか」
まきまきはライブレストラン「ノクターン」でベンジャミンの仮病を密告していた。
三人が店に駆け付けると話は終わっていた。
「あなたに・・・演奏させるってことは・・・私たちが御客さんを騙してるってことになるから」
事実上のオーナーである谷村多可美はベンジャミンに引導を渡していた。
「・・・」
「あの・・・まきと言うものがこちらに・・・」
「控室の下見をしているわよ」
まきが姿を見せる。
「スペースとしては充分ですね」
「とりあえず・・・今夜からお願いね」
「はい」
三人はまきまきを密告者を見つめる目でとがめる。
ベンジャミンは無言で去って行くが・・・彼に声をかけるものはいない。
「一度戻って支度をしてきます」
奏者たちは車の中で鬩ぎ合う。
冬ざれた曲がり角で・・・ベンジャミンは赤い帽子を飛ばす。
ベンジャミンの明日はどっちだ・・・もうないのか。
思わず・・・車を降りる三人。
「今・・・拾いますから」
「ダンケシェーン」
冬枯れの森の中をベンジャミンは去って行く。
男たちは茫然とベンジャミンを見送って立ちすくむ。
すずめはふりかえる。
まきまきは前だけを見つめている。
その顔には覚悟が浮かんでいる。
別荘に戻った奏者たちはわだかまりを抱えたまま準備に入る。
しかし・・・別府の鬱屈はコーン茶に逃避する。
「しょうがないでしょう・・・ベンジャミンさんは嘘をついていたんです」
「あの人は・・・好きな音楽を続けたかっただけで・・・そのための嘘は」
「余命何カ月って・・・許せる嘘なんですか」
家森もコーン茶に逃避する。
「僕は別府くんと違って・・・あっち側だから・・・わかるよ・・・画鋲を刺せない人間は・・・嘘くらいつくんじゃないか」
「・・・もっとやり方があったと思うんです」
「どんな・・・」
「もっと・・・思いやりがある・・・」
「同情ってことですか」
「同情って言葉を悪く言わないでください」
「同類相哀れむでしょう・・・ベンジャミンさんに・・・自分たちの未来を見たんでしょう。私たち・・・アリとキリギリスのキリギリスじゃないですか。音楽で食べて行きたいっていうけど・・・もう答えは出てるんです。私たち・・・好きなことで生きていける人になれなかったんです。仕事にできなかった人は・・・決めなきゃいけないんです。趣味にするのか・・・それでもまだ夢を見続けるのか。趣味にできたアリは幸せかもしれません。でも夢を追い続けたキリギリスは泥沼でしょう。ベンジャミンさんは夢の泥沼に沈んで嘘をつくしかなかった・・・そしたら・・・こっちだって・・・奪い取るしかないじゃないですか」
すずめもコーン茶に逃避する。
「別府さんも家森さんも・・・ベンジャミンさんの家族になってあげればいいんです。ベンジャミンさんみたいに鼻毛のばせばいいんですよ。でも・・・まきさんは・・・キリギリスじゃないですよね・・・だって・・・結婚してるんだもの・・・旦那さんが・・・食べ物をくれるでしょう」
「唐揚おいしかったな」
「え」
「私・・・結婚前があまり・・・長くなかったので・・・主人に作る料理を悩み悩み作ってました。ある日・・・唐揚を作ると・・・主人は凄く美味しいって言って・・・それから・・・私は唐揚をよく作るメニューにしたんです。それから・・・しばらくたって・・・本郷の美味しい居酒屋で友達の悩み相談につきあっていると・・・主人が部下の人を連れて店にやってきたんです。声をかけようかどうか迷っていると・・・主人は唐揚を注文しました。部下の人がレモンをかけますかと言うと・・・主人はレモンは嫌いだと言ったんです。私はずっと・・・主人の食べる唐揚にレモンを絞っていたのに」
「でも・・・それは・・・優しさというか」
「気遣いというか」
「愛情があるから」
「部下の人はこう主人に聞いたんです・・・奥様を愛しているの・・・。すると主人はこう答えました。愛しているけど・・・好きじゃない」
「・・・」
「別府さんに・・・夫婦って何って尋ねられた時・・・私は言いましたよね・・・別れられる家族なんだと思うって・・・」
「え」
「人生には・・・三つの坂があるそうです」
「三つの坂」
「のぼりざか・・・くだりざか・・・まさか」
「まさか」
「人生にはまさかってあるんですよね・・・一年前・・・私がコンビニに出かけて戻ってくると夫は失踪してました・・・それきりです・・・だから・・・私には帰る家はありません・・・ここで皆さんと・・・音楽と一緒に暮らしたい・・・だからカーテンも買ってきたし」
「そんな・・・池袋ウエストゲートパークのヒロインの母親のエピソードみたいなことが本当に・・・」
「こけしか」
奏者たちはチューニングしてボウイングを決めた。
そしてレストラン「ノクターン」の控室にやってきた。
元地下アイドルは「カルテットドーナツ」の看板を見せた。
「ベンジャミンさんもドーナツのことを話していました。音楽を愛するのはドーナツの穴を愛するようなものだって。ないものがあるし・・・あるのにないもの・・・そんなものを愛せると思うのかって・・・ちょっと何を言ってるのかまったくわかりませんでしたけど。ふぇっへっへっへ」
匂い立つ・・・元地下アイドルの狂気。
「・・・」
奏者たちはステージに立って音楽に愛を捧げるのだった。
自己紹介替わりの一曲目は・・・「わが祖国/ベドルジハ・スメタナ」から「第2曲:ヴルタヴァ」のアレンジであった。
奏者たちは客からも元地下アイドルからも祝福される。
「はじめまして・・・僕たちはカルテット・ドーナツホールです」
奏者たちは存在していないのに存在しているものとして名乗りをあげた。
「あの日・・・偶然に皆さんとあえて・・・良かったです・・・私はそれを運命だと思っています」
まきまきの言葉に三人は複雑な表情を見せる。
すずめ以外の二人の経緯は不明だが・・・三人はそれぞれに偶然を装っていたのである。
出会いは偶然ではなかったのだ。
すずめを除く三人はトーストを食べた。
遅く起きたすずめは・・・窓辺で「エレンの歌 第3番/フランツ・シューベルト」(シューベルトのアヴェ・マリア)を奏でるまきまきの涙に気がつく。
「紫式部ありますよ」
「一箱1600円です」
高級ティッシュで涙を拭うまきまき・・・。
「家森さんのですけどね」
「さかむけをひじまではがされるわよ」
「みぞみぞしますね」
「みぞみぞって何?」
「みぞみぞすることです」
「今日はくもりね・・・私・・・晴れた日よりもこんな日の方がみぞみぞするわ」
「わたしもです」
そして・・・すずめは・・・テーブルの下から盗聴器を回収する。
密会したまきまきの義母に録音した会話を聞かせるすずめ。
「・・・夫は失踪してました・・・」
「息子は失踪なんかしませんよ・・・この女に殺されたんだ・・・必ず化けの皮ははがれる・・・それまで友達のふりを続けてくだざいね・・・」
「・・・」
こうして・・・秘密を抱えた奏者たちは・・・失われた何かを求めて・・・共同生活を始めたのである。
人生は長い・・・幸せになったり不幸せになったり・・・まっしろな灰になったりするけれど・・・秘密を守れるのが大人というものなのかしら・・・。
そして・・・わかりあえたような気がするのかしら。
関連するキッドのブログ→いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう
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コメント
みぞみぞして、
ふぇっへっへっへして、
変なところでヘタウマなのカラアゲネタが入ったと思ったらきちんと意味があるシナリオ上の伏線で、愛しているけど好きじゃないなんて辛い。
我が家でのコードネームのぶちゃんの躍進著しい。
脚本の完成度が高くて「よかったねー、よかったねー」としか言えず、「コメント泣かせ」(笑)。
投稿: 幻灯機 | 2017年1月28日 (土) 17時02分
✪マジックランタン✪~幻灯機様、いらっしゃいませ~✪マジックランタン✪
ついに全編ポエム、全登場人物ポエマー展開で
みぞみぞいたします。
みぞは穴の中でも宇宙に向って開いていない方ですからねえ。
エロチックでございますよ。
宇宙を生みだす穴を持っていない立場ではいかんともしがたいのですな。
再現性がどんどん高まり、危険水域を突破しそうなので
自重を促しております。
ふふふ・・・のぶちゃん、ゆとり実習生、使える研修医、結婚が決まった女、GSガールと暗号名増殖中ですな。
いつか主役を射止めるのか・・・期待が高まります。
バニーガールもしてもらいたい。
どんなおねだりだよ。
今年もよろしくおつきあいください。
投稿: キッド | 2017年1月29日 (日) 03時13分