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2017年2月28日 (火)

生存と生活の隙間に揺れる心(木村拓哉)

中国後漢末期の医師・華佗は麻酔の発明者とも言われ正史に名を残しているが曹操によって建安13年(208年)に処刑されている。

小説「三国志演義」では処刑の理由を次のように脚色している。

頭痛に苦しむ曹操に麻酔による脳外科手術を奨めた華佗。曹操は「脳を切り開く治療法など聞いたことがない・・・お前はわしを殺す気か」と怒り華佗を拷問の末に殺してしまう。

・・・それから1800年くらいたって・・・今は脳外科手術は日常茶飯事のように行われている。

だが・・・自分や身内に脳腫瘍患者がいて・・・手術の同意書にサインをする時・・・多くの人は「死」を意識するに違いない。

「脳を切り開くなんて・・・殺す気としか思えない」のである。

実際・・・脳外科手術が成功する時代になるまで・・・どれほどの人命が失われたか・・・想像するのも恐ろしいわけである。

それでも・・・助かりたい人は・・・過去の尊い犠牲に感謝しながら・・・同意書にサインするしかないのである。

後は・・・神に祈る他ないのだ。

で、『A  LIFE~愛しき人~・第7回』(TBSテレビ20170226PM9~)脚本・橋部敦子、演出・加藤新を見た。倫理的な問題には常に矛盾が伴っている。それは主に自由と平等という対立する概念を共存させているからだ。頭部をナイフで切開するのは非常に危険な行為である。一般人がそれを行えば罪に問われるが・・・医師による手術は治療行為として料金を取られる。平等を中心に考えれば一般人と医師の差別問題が生じるし・・・自由を中心に考えれば失敗しても人命尊重が前提である。人間は結局・・・その中間の曖昧な部分をそれぞれの感覚で倫理と考えているにすぎない。このドラマは最初から・・・その点を深く掘り下げているのである。

幼馴染の外科医・沖田一光(木村拓哉)と壇上記念病院の院長令嬢である小児科医・壇上深冬(竹内結子)の仲を引き裂き・・・自分の望みを叶えた副院長の座にある鈴木壮大(浅野忠信)は・・・深冬と結婚し・・・娘の莉菜(竹野谷咲)を授かっても・・・満たされない心を持て余す。

100%の愛という「ありえないもの」を求めるあまり・・・心に穴が開いてしまったのである。

沖田一光(木村拓哉)は深冬と一光の結婚を祝福しておきながら・・・十年間の間に一日平均二件の外科手術を続けて失恋を忘れるために仕事に没頭してきたのである。しかし・・・結局・・・恋心を忘れることはできなかったのではないか。

深冬は一光に結婚を引き留められなかったことを怨みつつ・・・壮大と結婚し、娘の莉菜を出産して・・・小児科医として良妻賢母として・・・院長の良き娘として歳月を過ごしながら・・・一光への恋をずっと秘めてきたのであった。

壮大は一光を裏切ったが・・・一光も深冬を裏切っていて・・・深冬も壮大を裏切っているのである。

だが・・・果たしてそれは・・・倫理的に許されないことなのだろうか・・・ということなのだ。

脳腫瘍となった深冬を・・・壮大と一光は最大限尊重し・・・いつ急変するかわからない深冬に小児外科医として執刀を許した。

患者の命より・・・深冬の生きる喜びが優先されたからである。

それは・・・倫理的には許されないかもしれないが・・・仕方ないじゃないか・・・ということなのだ。

手術すれば統計的に何割かは失敗することがわかっていながら・・・医師たちは患者の病気に立ち向かう。

もしもの時に備えて同意書にサインを求める。

それは倫理的には許されるかもしれないが・・・ちょっと複雑な気持ちにならないこともない・・・ということなのである。

理想を求めれば求めるほど・・・現実の壁は高くなっていく。

その高さに眩暈を感じながら・・・人間は素晴らしい眺望を求めて・・・・這い上がって行くのである。

いつ破裂してしまうかわからない病気の患者を待合室で待たせながら・・・病気の治療法を検索中の医師は・・・朝の光に浅い眠りを破られる。

一光が占有するドクター沖田ルームである。

深冬の治療法が見つからないのだった。

素晴らしいインターネットの世界に繋がる端末を覗いた一光は事務局からの「全体会議のお知らせ」や「学会のシンポジウムの日程」に混じって「シアトル中央病院」のStphen医師からのメールが届いていることに気がつく。

「深冬の治療法」について問い合わせをしていたのだった。

しかし・・・答えは「効果的な治療法はない」という残念なものだった。

脱力しかかる一光の前に・・・スーパー・オペナースの柴田由紀(木村文乃)が現れた。

「ホットドックキャベツ抜きマスタードダブルです」

野菜嫌いの一光のために朝食を届けるナース柴田。

キャベツ抜きのホットドックは・・・ホットドックとしては・・・まあ・・・いいか。

一方・・・壮大は愛妻と愛娘のために・・・朝食を作る。

「おはよう・・・これからは・・・朝食は俺が作るよ・・・今日は豆腐の味噌汁にしてみた」

「ありがとう・・・ねえ・・・ちょっと話があるんだけど」

そこへ・・・莉菜が現れる。

「話って・・・」

「病院に行ってからにする・・・」

「・・・そうか」

深冬と一光の抱擁を目撃しても・・・心の動揺を漏らさぬ壮大であるらしい。

しかし・・・その心は暗い穴に飲み込まれようとしているのだろう。

心に秘めた悪意ほど恐ろしいものはないのだった。

結局、病院で深冬は一光に先に話した。

深冬の悪意のないように見える選択も悪意を生み出しかねない以上、悪意と言えないこともない。

「オペのことで・・・壮大さんにはまだ話してないのだけど・・・」

一光は椅子を勧める。

「・・・」

「私の腫瘍は何もしなければ余命四カ月・・・長くて五カ月なのよね・・・」

「・・・」

「いつ破裂するかわからないし・・・神経を損傷せずに腫瘍を切除する方法は今の処・・・見つかっていない・・・でも・・・ある程度の不具合を覚悟すれば・・・たとえば・・・トランスシルビアン法で・・・腫瘍は切除できるでしょう・・・それなら生存は可能よね・・・沖田先生」

前頭葉、および頭頂葉と側頭葉を上下に分けている脳溝をシルヴィウス溝(外側溝)という。トランスシルビアン法はシルヴィウス溝から患部にアプローチする術式である。

しかし・・・ドラマのケースでは低侵襲な方法とはならずに眼球運動にかかわる動眼神経や錐体路(皮質脊髄路・・・大脳皮質の運動野と骨格筋を繋ぐ神経線維の束)に抵触し損傷させるという設定らしい。

「確実に視力に後遺症が残る。程度も予測できない」

「でも・・・生きられるでしょう・・・」

「だが・・・今の僕にはその選択肢はない」

「決めるのは・・・私よ・・・腫瘍が大きくなれば・・・その分、リスクも大きくなるし・・・私は医師でなくなってしまっても・・・生きて莉菜のそばにいたいの」

「・・・」

「私の命を・・・一番に考えて・・・オペをお願いします」

壮大が百点を目指すように・・・一光も百点を目指していた。

深冬の希望である生存よりも・・・「完全な深冬の温存」に夢中になっているのである。

深冬の命を救うことよりも・・・医師としての深冬の機能の維持を優先しているのだった。

お互いの譲れない一線が乖離しているのだが・・・どちらも最善を尽くしているのである。

「命」と「命より大切なもの」の衝突なのだ。

第一外科のミーティング。

外科部長は患者の執刀医を振り分ける。

「昨日・・・救急搬送された患者・・・左房粘液腫のオペなんだけど」

「俺がやります」

井川颯太(松山ケンイチ)が名乗りでる。

外科医トリオの白川(竹井亮介)赤木(ちすん)そして黒谷(安井順平)にどうしても出番を確保したいらしい。

「え・・・また」と赤木。

「最近オペ室の予約井川先生だらけだよね」と黒谷。

「伸び盛りですから」と白川。

「私にはのびしろがないのかよ」と落す赤木である。

まあ・・・息抜きができるの・・・この三人のコントだけだからな。

外科部長の羽村圭吾(及川光博)は・・・明らかに一光に感化されている颯太を複雑な目で見守るのだった。

一光の帰国から・・・様々な歯車に狂いが生じている。

風が吹けば草木は靡くのである。

羽村は風向きがどう変わって行くのか・・・予測が難しく・・・不安と同時に興味も抱いているのだった。

しかし・・・彼もまた重大な秘密からは隔離されている。

副院長室では真田事務長(小林隆)が後任の弁護士のリストを壮大に提出する。

「すまん・・・それはもう必要なくなった・・・」

解雇されたはずの顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)が姿を見せる。

「父の件では・・・感情的になって・・・申しわけありませんでした」

弁護士に感情的になられては困ると危惧する真田事務長。

「よろしいのですか・・・」

「うん・・・この病院にとって榊原先生はなくてはならない存在ですから」

壮大の中でも風向きは変わっている。

心の穴に向って激しい風が吹き込んでいるからである。

壮大の求める「完全な女」は陰影をくるくると回転させているらしい。

愛人としても復帰したらしい榊原弁護士なのだった。

事務長は退出した。

「事務長呆れてるじゃないですか」

「・・・」

「昨日何かあったんですか?」

「・・・」

「電話をくれるなんて・・・」

ノックの音があり・・・深冬が入室し・・・榊原弁護士は退出する。

「障害が残るのを覚悟の上で・・・早期オペを沖田先生に頼んだわ」

「え」

「家族として・・・壮大さんに・・・負担をかけてしまうことになるけど・・・お願いします」

「・・・」

深冬の決断に・・・壮大の中では嵐が吹きまくる。

壮大は一光を直撃する。

「深冬から・・・早期オペの希望があったか」

「ああ」

「どうすんだ・・・諦めるのか・・・深冬はどんな形でも生きたいっていうけど・・・俺は認めないぞ・・・だからこそ・・・お前に頼んだんだ・・・お前なら脳幹部にある腫瘍を完治させるオペができるって信じたからだ・・・違うのか」

「あきらめないよ・・・あきらめるわけないだろう」

壮大の問いに声を荒げて応じる一光だった。

「ごめん・・・お前も苦しいんだよな・・・」

壮大の明滅する心。

壇上記念病院の全体ミーティング。

「このたび深冬先生が小児外科の指導医の認定を取られました」

真田事務長の報告に目を細める院長の虎之助(柄本明)・・・。

「深冬が育児と仕事の両立ができるようバックアップしてやってくれよ」

虎之助は壮大に囁く。

しかし・・・議題が桜坂中央病院との提携に変わると興味を失ったように退席するのだった。

院長は大幅な収益アップを狙い小児科の縮小を目指す副院長とはあくまで経営方針を異にするのである。

小児科の外来に・・・父親の道山宏之(黒田大輔)に付き添われ十四歳の道山茜(蒔田彩珠)がやってくる。

腹痛を訴える中学生の茜は・・・検査の結果先天性胆道拡張症と診断される。

脳腫瘍の診断を自ら下した深冬は・・・病状を伏せつつ・・・手術を一光に任せることを小児外科のミーティングで発表する。

小児科医の一人、茶沢達彦(谷口翔太)は疑問を呈する。

「突然・・・どうかしましたか」

小児科医たちは・・・深冬の懐妊を憶測するのだった。

その他の医師たちは色によるネーミングでぞんざいな存在なのだが・・・どうしても笑いをとりたいらしい。

まあ・・・緊迫感が半端ないからな・・・。

患者の情報を一光に引き継ぐ深冬。

「茜ちゃんのところは・・・父子家庭で・・・手続きその他はお父さんと相談してください」

「わかった」

「他に何かありますか」

「まだ諦めていないから」

「完治を目指す気持ちはうれしいけど・・・術後の生活のクォリティーよりも・・・私はまず生き延びたいの・・・」

「・・・」

一光は例によって紙芝居形式で・・・患者への説明を行う。

「点滴で痛みの方を抑えてアミラーゼの数値が下がったら手術します」

「アミラーゼって・・・」

「膵臓から出ている消化を助ける成分のひとつなんです・・・いま・・・膵臓が炎症しているのでいろいろとパランスが崩れているんです。その原因が大きくなってしまった胆道にあるので・・・これをとりのぞくための手術をします・・・」

「簡単な手術なんですか」

「簡単とは言えないんですけど・・・全力でやらせていただきます」

一光の真摯な説明に茜は納得した。

壮大は榊原弁護士と外科部長を率いてあおい銀行の竹中(谷田歩)との融資交渉に臨む。

「桜坂中央病院との提携が正式に決まりました」

「今後の更なる改革のプランをお聞かせいただきたい」

「来年度のプランとして当初の構想通り小児外科を潰そうと思っています」

「しかし・・・院長先生がお認めにならないのでは・・・」

「いっそのこと壇上記念病院を桜坂中央病院の傘下に入れてしまえばいいんですよ」

「え・・・」

「そのためにも桜坂中央病院の外科部長にと思っていた羽村先生には副院長を兼任して経営面にも関わってもらいたいと思ってます・・・」

「つまり・・・桜坂中央病院に壇上記念病院を飲みこませて・・・桜坂中央病院そのものの経営権を手にするということですか」

「大切なのは・・・病院の名前ではなくて・・・経営効率の向上でしょう」

外科部長は壮大に真意を問う。

「君は・・・壇上記念病院の名前をつぶすつもりなのか」

「手に入らないなら・・・なくても同じじゃないか」

「しかし・・・深冬先生が指導医になって小児科にもそれなりの存在意義があるのじゃないか・・・今は沖田先生もいることだし」

「すべて・・・一時しのぎなんだよ・・・永続するものじゃない」

「院長に対して積もり積もったものがそんなにもあったとはね・・・」

「桜坂中央病院のこと引き受けてくれるのか?」

「もちろん・・・君とは友達だからね」

しかし・・・外科部長もまた・・・腹に一物を抱えているのだった。

愛人弁護士も壮大に真意を問う。

「病院だけじゃないですよね?・・・深冬先生のこともそう思ってますよね?・・・深冬先生と沖田先生が話してるの聞いちゃったんです・・・深冬先生治療が困難なご病気だそうですね・・・深冬先生の気持ちが自分にないならいっそのこと死んでしまえばいい・・・そう思ってますよね?・・・そこまで深冬先生のこと愛してるんですね」

愛されない愛人弁護士の鋭く尖った心が・・・壮大を刺すのだった。

「ああ・・・愛していたよ」

「本当に・・・過去形なんですか」

「・・・」

茜の病状に新たなる兆候が現れる。

「下着の右胸の乳頭が触れる部分に・・・血液の染みがあるのに気づいたって」

「採血の時についたって可能性は?」

「昨日は採血はしてない」

「乳管から出血してる可能性があるのでエコーで検査した方がいいな」

颯太は満天橋大学病院の院長である父親で関東外科医学会会長の井川勇(堀内正美)に呼び出されていた。

「壇上記念病院・・・最近・・・ゴタゴタしてるみたいじゃないか・・・そろそろここに戻ってこないか」

「今は・・・まだオペの勉強を」

「沖田先生か・・・」

「うん」

「お前にはいずれここを継いでほしいと思ってる・・・一生現場だけやっていく医者とは違う勉強も必要だ」

「・・・わかってるよ」

「後継者としての覚悟を持って四月からここに戻るか・・・このまま現場だけをやっていくのか・・・ハッキリ決めなさい」

「・・・」

もちろん・・・颯太はナース柴田と離れたくないだけなのである。

おいおいおい。

エコー検査の結果・・・茜には乳管の拡張とその中の一部に比較的境界明瞭な腫瘤が認められた。

乳腺外科部長の児島由貴子(財前直見)の所見では良性の乳管内乳頭腫と診断される。

「もうちょっと調べてみた方がいいんじゃないですか?」と異議を唱える一光。

「え・・・」と専門医としてのプライドが傷つく児島医師。

「他の病気じゃないって可能性が消えたわけじゃないですから」

「何を想定してるんですか?」

「乳がんです」

「14歳で乳がんだなんて聞いたことないよ」

「絶対ないって言い切れます?」

「・・・乳頭を絞ってみて分泌物が出るようだったら細胞診に出します」

しかし・・・分泌物の細胞診から異常所見は得られなかった。

「やはり経過観察でいいですね」

「待ってください」と譲らない一光。

「乳がんを疑うなんてバカげてる」

「異常がなかったからといって乳がんの可能性を否定することはできないと思うんですけど・・・マンモグラフィーとか生検とか・・・他の手段でちゃんと検査すべきだと思います」

「本当に患者さんのことを思うんだったら無駄で苦痛のある検査はやめるべきよ」

「無駄?」

「乳がん患者のうち35歳以下はたったの2.7パーセント・・・14歳で乳がんなんてありえないのよ」

「茜ちゃんの初潮は9歳で卵巣は機能してます・・・これまでにも10代後半の乳がんの報告はなかったわけではありません・・・理論上・・・14歳で乳がんになることはありえます」

「実際に14歳の症例は1つもない」

素晴らしいインターネットの世界を検索した一光は・・・カリフォルニアで10歳の症例があったことにたどり着くのだった。

「何をしているんですか・・・」と颯太。

「小児の乳がんの症例・・・」

「え・・・小児の乳がん・・・そんなのあるんですか」

そこにナース柴田が合流する。

「沖田先生は深冬先生の脳のオペをするためにこの病院にいるんですよね?」

「え・・・」

「俺・・・話してませんから」と身の潔白を案じる颯太。

「見てれば分かります・・・看護師ですから」

「柴田さんにはかなわないな」

「・・・休息も必要ですよ・・・何か御馳走してください」

「いいですね・・・何か温かいものでも」

「お寿司なんかいいですね」

「お寿司・・・好きなの?」

「はい」

ナース柴田とドクター颯太を嘉月寿司に案内する一光である。

「ここ・・・本当においしいんですか」

「親父の店なんだ」

「え」

「いらっしゃい」と沖田一心(田中泯)は客を笑顔で迎える。

「美味っ・・・鯛美味っ」と颯太。

「大穴子ください」とナース柴田。

「沖田先生って寿司屋になりたいと思ったことないんですか?」

「いや・・・」

「寿司屋も結構向いてそうですけど」

「じゃあ・・・何で医者になろうと思ったんです?」

「井川先生は?」

「僕は・・・医者になろう・・・と思ったことはないですね・・・なるのが当たり前だったので」

「ああ・・・」と息もぴったりのドクター沖田とナース柴田である。

「こっちは・・・医者になりてえって言われて・・・そりゃビックリしたよ・・・本当に医学部入るなんて・・・思ってもいなかった」

「俺の話はいいよ」

「勉強苦手だったんですか?」

「一浪して日邦大ですもんね」

「おい」

「でも・・・手術はホントにすごいですから」

「沖田先生は努力の人ですけどそれ以上にセンスと才能があるんですよね」

一心は親馬鹿の笑みを漏らす。

「母ちゃんが死んだおかげだな」

「え・・・」

「冗談だよ」

颯太とナース柴田は・・・妄想を膨らませる。

「あれかな・・・お母さんが亡くなったことがきっかけで苦手だった勉強してまで医者になろうとしたってこと・・・」

「かもね」

徐々にではあるが・・・ナース柴田とドクター颯太も仲睦まじくなってきているようだ。

若い二人にはそういう風が吹くからである。

榊原弁護士は外科部長と酒の席で密談を交わす。

「羽村先生は副院長先生と決裂したと思ってました」

「・・・」

「結局・・・尻尾をふったんですか」

「昔は・・・気の合う友人だと思っていたが・・・最近の彼の考えには同意しかねるところがあるね・・・手の届かないぶどうをすっぱいと決めつけるキツネみたいな・・・イソップ寓話でもあるまいに」

「鳴かぬなら殺してしまえ不如帰」

「信長か・・・」

「私はその気持ち分かるような気がします」

「・・・」

しかし・・・何食わぬ顔で・・・主夫を演じる壮大だった。

「私が辞めても・・・小児科のことをよろしくお願いします」

「もちろんだよ」

壮大はベーコン&エッグを炒めた。

茜の診断についてのカンファレンス。

「カリフォルニアで10歳の症例がありました」

「10歳・・・」

「マンモグラフィーと生検をやらせてください」

「でもこれ1例だけよね?」

「ゼロではないと言うことです」

「・・・」

「検査をやらせてください」

「ではまず生検から」

深冬は父親の許可を得て・・・茜に検査の必要性を説く。

「胸の検査がね・・・また必要になったの」

「・・・」

茜の表情に不安が満ちる。

「悪いものがないかを調べる検査よ」

「悪いもの?」

「世界でたった一人かもしれない・・・とても低い確率だけど・・・がんの疑いがあるの」

「がん・・・」

「検査をしてがんじゃなかったら安心だし・・・もしがんだったとしても今ならいくらでも治療法があるのよ」

「もしがんだったらどうなるの?」

「状態にもよるけど手術や放射線治療が必要になる・・・そうなった時に一緒に考えましょう・・・発見が遅れたことで治療の選択肢が少なくなったり治療法がなくなることだけは避けたいの・・・あとになってあの時ちゃんと調べておけば良かったってそう思わないために」

「わかりました・・・ちゃんと話してくれて・・・ありがとうございます」

患者の存在感・・・抜群である。

生検の結果・・・病理の診断は乳腺分泌がんだった。

「・・・見逃すとこだった」

「児島先生・・・根治の可能性は?」

「がんが小さいので十分に考えられる・・・」

患者の負担を軽減するために胆道拡張症と乳がんのオペを同時に行うことが決定する。

乳腺外科の児島が仰臥位で右乳房温存術と右脇からセンチネルリンパ節生検を行い、次に一光が腹腔鏡で胆道拡張症に対する手術を執刀するのだった。

「切除は腫瘍部分のみで傷は目立たなくしますから」

「よろしくお願いします」

帰宅した壮大は・・・論文を執筆する深冬を発見する。

「論文書いてるの・・・」

「カズとの共同作業だからか・・・」と思わず邪心が言葉となって滑り出る壮大。

「え?」

「いや・・・珍しい症例なのか」

「14歳の患者さんにね・・・乳がんが見つかったの」

「14歳で」

「明日オペなんだけど最初はそんなのありえないからって検査を認めてもらえなかったのよ・・・でも沖田先生は諦めなかったから・・・早期発見ができた・・・この症例は・・・未来の子供たちにとって貴重なものでしょう」

「そうか・・・沖田先生がな・・・しかし・・・あまり無理はするなよ」

「・・・ありがとう」

壮大の心の穴は収縮を繰り返す。

茜の手術は無事に終了した。

「可能性はゼロじゃなかったわね・・・いい勉強になったわ」

「ありがとうございました」

ドクター児島とドクター沖田はエールを交換した。

「シアトル中央病院」のStphen医師からの追伸があった。

「自分のモットーを君に贈る・・・初心忘れるべからず」

基本に忠実に・・・そこで・・・一光は・・・本来の心臓外科医としのキャリアを振り返るのだった。

心臓外科手術と・・・脳外科手術の術式がリンクし・・・一光は光明を見出すのだった。

「なんだ・・・バイパス手術があったじゃないか」

脳外科へのチャレンジに気をとられ・・・一光は・・・自分を見失っていたのである。

深冬もまた・・・颯太の分身的立場にある。

ついにトンネルを抜けたことを報告しにきた一光に・・・深冬は結紮の修練で応ずる。

「私・・・気付いてしまったのよ・・・私ね・・・医者の家に生まれてなかったら医者にはならなかったんだろうなってずっと思ってたの・・・でも違ってた・・・茜ちゃんのオペ・・・なんで私じゃなくて沖田先生がやってるんだろうって・・・ずっと思ってたの・・・私・・・自分で思ってる以上に医者だったみたい・・・気付くのが遅すぎたわ」

「遅くはないさ・・・オペの方法が見つかったから」

「え」

「心臓のバイパス術を応用して脳幹の血管をつなぐ・・・そうすれば神経を1つも傷つけずに腫瘍が取れるんだ」

「・・・」

「大丈夫だよ・・・君はまた・・・ここに戻ってこれる・・・医者として」

「・・・ありがとう」

手術室で見つめあう二人。

トンネルを抜けた二人は目に見えないオーラを発するのだった。

その様子を・・・モニターで・・・壮大が見ていた。

壮大の心の穴は・・・もはやブラックホールのようなものに・・・。

そこに・・・一光がやってくる。

「壮大・・・見つけたよ・・・大脳動脈に側頭動脈をつないで中脳側面で大脳動脈を離断する・・・このバイバス手術によって中脳側面が大きく露出して・・・脳溝から腫瘍に到達することができる・・・かなりリスクは高い・・・でも完治させるにはこの方法しかない」

「お前を信じて良かったよ」

「・・・」

「かなり危険だけどお前ならできるよな」

「すぐに準備にとりかかる・・・」

壮大の心は激しく明滅する。

「よりリスクが高い術式・・・それでもカズを信じてオペを受ける・・・か」

壮大には・・・自分が何を求めているのか・・・もはやわからなくなっているのではないか。

そういう気配が濃厚である。

再び全体会議・・・。

榊原弁護士が牙を剥く。

「リスク管理についてもう一度見直しをお願いしたいと思います・・・病気を抱えた医者が外科的治療を行うことは患者さんに不利益をもたらす危険があるので自己判断でしないようにお願いいたします」

「どういうことだ」と院長・・・。

「院長はご存じじゃないんですか?・・・深冬先生のご病気について」

「何?」

「深冬先生は脳に腫瘍を抱えていらっしゃいます・・・」

医師たちはどよめく・・・。

「これは・・・深冬先生のご病気を承知で患者さんに外科的治療を行わせていた・・・副院長の責任問題です」

「なんだって・・・」

血相を変える院長。

壮大はただ・・・愛人を見つめていた。

暗闇は暗闇を引き寄せるのだ。

そして暗闇は暗闇に魅了されるのだ。

愛されないなら殺すしかないのだ。

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アンナ基本に帰るのはとても大切ですぴょん。アンナの基本といえばそれはダーリン愛なのですぴょん。ダーリンに始まりダーリンに終わるのぴょ~ん。闇に落ちた人は差し伸べられた手も見えず・・・愛してくれている人の姿も見えない。ただただ自分を哀れみ嘆き苦しむだけ・・・愚かなことです・・・最大の不幸は自分が愚かだと気付かないことなのです・・・バカになってしまえば・・・人のやさしさが身に染みるのに世界が輝いていることにうっとりできるのに~残念なことですぴょん

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2017年2月27日 (月)

弘治元年、太原雪斎死す(貫地谷しほり)

登場人物の末期が描かれずにナレーション処理によって「死」が伝えられることを一部のお茶の間の皆さまは「ナレ死」と呼ぶらしい。

もちろん・・・歴史上の人々を描いている間にもその時代を生きている人々はどんどん死んでいるので一々描いていたら臨終のシーンぱかりになってしまうので仕方がないのである。

しかし・・・今川軍の軍師で・・・主人公・次郎法師(新井美羽→柴咲コウ)の出家にも深く関わり、主人公の父親・井伊直盛(杉本哲太)の軍事上の上官である太原雪斎(佐野史郎)が「ナレ死」どころかいつの間にか死んでいるという流れは急流の一言に尽きるのだった。

天文二十四年(1555年)には井伊直親(三浦春馬)の元服と奥山ひよ(ドラマではしの=貫地谷しほり)の婚姻や松平元信(阿部サダヲ)の元服と今川瀬名(菜々緒)との婚約などがあり・・・そこが見せ場だったらしい。

十月に改元があり・・・弘治元年(1555年)となって程ない閏十月十日(1555年11月23日)に太原雪斎は死去する。

あれだな・・・改元とか・・・閏月とかが・・・いろいろと面倒くさかったんだな。

そして・・・弘治年間は夢のように過ぎて行って・・・いきなり永禄年間に突入するわけである。

弘治四年(1558年)二月・・・正親町天皇即位のために永禄元年(1558年)に改元である。

直親・しの夫妻は結婚して四年がたったというのだから・・・永禄二年(1559年)のあたりを彷徨うドラマ的時空間である。

しかし・・・ドラマの中でしのが不妊で苦しんでいる間に・・・時は永禄三年(1560年)五月の桶狭間の戦い直前へと進んでいく。

弘治三年(1557年)に元信と今川義元の養女となって婚姻した瀬名は永禄二年に竹千代(松平信康)を出産し、永禄三年五月には第二子(亀姫)の出産直前となっている。

そういうところが・・・見せ場の大河ドラマなのだとそろそろ覚悟が必要なのかもしれない・・・。

来週の桶狭間の戦いも・・・そういう心構えで迎えたい。

で、『おんな城主 直虎・第8回』(NHK総合20170226PM8~)脚本・森下佳子、演出・福井充広を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は諸事情により描き下ろしイラスト公開はお休みですが・・・あくまでマイペースでお願い申しあげます。・・・まあ・・・ここまでは長いイントロダクションと言えるのではないでしょうか・・・。井伊谷の国人領主の姫として生まれて・・・親族のトラブルなどによって・・・出家することになったものの・・・安祥城攻めなど活躍した今川配下の有能な武将・井伊直盛という父親の庇護の元で・・・呑気に暮らしていた次郎法師が・・・奈落の底に転げ落ちて行く苦境の始りがすぐそこに迫っているわけですからな・・・。画伯のおっしゃる通りにここから面白くなるとよろしいですなあ。画伯のモチベーションも心配でございますからねえ。戦国絵巻が始ってもらいたいですよねえ。来週・・・織田信長は登場するのでしょうかねえ・・・少し・・・ドキドキします。信長抜きの桶狭間だったらどうしましょおおおおおおおおおおおおおお。

Naotora008 弘治元年(1555年)閏十月、太原雪斎が死没。弘治二年(1556年)、柴田勝家が福谷城を攻め東三河衆の旗頭・酒井忠次によって敗走。東条松平忠茂が日近城攻めで討ち死に。四月、斉藤道三が討ち死に。弘治三年(1557年)八月、掛川城主・朝比奈備中守泰能が死没。九月、上ノ郷城主・鵜殿長持が死没。十一月、織田信行が暗殺される。弘治四年(1558年)正月、武田信玄が信濃守護に任じられる。二月、松平元信が初陣で寺部城主・鈴木重辰を攻める。西三河衆の旗頭・石川家成先鋒を務める。鈴木氏は降伏。元信は山中三百貫文の地を拝領し元康を名乗る。改元後の永禄元年(1558年)九月、木下藤吉郎が織田信長の家臣となる。今川氏真が家督を継承。永禄二年(1559年)三月、元康の嫡男として松平信康(竹千代)誕生。小野玄蕃朝直の嫡男・朝之が生れる。鳴海城の山口教継、教吉親子が今川義元の命により切腹。鳴海城に岡部元信、大高城に朝比奈輝勝が配置される。織田信長は鳴海城に対し丹下砦、善照寺砦、中嶋砦を大高城に対して丸根砦、鷲津砦を構築する。永禄三年(1560年)、義元は沓掛城に近藤景春、岡崎城に山田景隆を配置。井伊直盛に尾張攻め先鋒の大将を命ずる。大高城に鵜殿長照が入城。五月十二日、義元は駿府を発進。十七日、沓掛城に到着。十八日、元康率いる三河衆が大高城に兵糧を敵前搬送。本多忠勝は元服して初陣を果たす。

東海道には祭りの賑わいがあった。総勢一万人の軍勢が遠江を通過し、三河に向っていく。すでに三河、尾張には今川勢と呼ばれる一万五千の軍勢が集結している。合わせて二万五千人の軍勢が尾張国を領する織田信長を成敗するのである。

田植えの終わったばかりの水田の景色の中を・・・大軍勢が通過していくのである。

軍役を課せられた農民たちが兵糧・馬草を積んだ荷駄車を押す姿さえ猛々しい。

駿河・遠江・三河を制し・・・尾張も支配下に置こうとする今川義元の野望が西へと進んでいくのだった。

「これは見ものだがや」

信長の忍びである龍神は修験者の姿で行列を遠望する。

同じ装束の青衾が応ずる。

「さてもさても・・・この威勢を見れば・・・尾張の侍どもも気が萎えよう」

「だもんで・・・信長様は・・・乾坤一擲の戦をするしかにゃあのだに・・・」

二人の忍びは義元の座する中軍の動向を追い続ける。

井伊谷の龍譚寺では修行僧たちが武具を整えていた。

井伊家当主の直盛が先鋒の大将を命ぜられ・・・軍勢を引き連れて出発すれば当然の如く・・・井伊谷には兵力の真空状態が生じる。

隣接する奥山の地を領する今川家の家臣・天野景貫の使いのものが山中の賊に不穏な気配があると知らせてきたのである。

奥山の里でも男たちは出動し・・・女子供が留守を守るばかりなのである。

背後の山には・・・野武士とも山賊ともつかぬ流浪の民が潜んでいる。

「さあ・・・参ろうか」

次郎法師が姿を見せ・・・馬上の尼武将となる。

そして馬に早足を命じるのだった。

駆けだした馬の後を追い・・・傑山と昊天に率いられた坊主たちが走りだす。

白昼堂々・・・山を下って奥山の里に侵入しようとした盗賊たちは・・・待ちかまえる僧兵たちの姿に驚く。

「こりゃあ・・・坊主ども・・・怪我したくなかったらすっこんでろ」

鉞をかついだ顔面に刀傷を遺す大男が吠える。

「命の惜しくないものは参るがよい・・・拙僧が引導を渡して進ぜようほどに」

昊天が読経で鍛えたよく通る声で応じる。

長刀を構えた昊天が誘うように盗賊たちに歩みよる。

「どけどけ・・・男に用はないんだよ」

昊天の実力を読みとる力もない大男の首は一瞬で宙に舞った。

盗賊たちからどよめきがあがる。

「やりやがったな」

盗賊たちは数を頼んで昊天に殺到する。

昊天は一薙ぎで・・・三人の男を絶命させた。

「やれやれ・・・これでは出る幕がないわ」

弓を構えた傑山がぼやく。

「何をしておる・・・」と次郎法師。「さっさと経を読んでやれ」

奥山の里には血の匂いが漂い・・・僧侶たちの成仏を祈る唱和の声が木霊するのだった。

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風林火山の桶狭間

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2017年2月26日 (日)

ナンパーマン(賀来賢人)VSニーチェマン(間宮祥太朗)超人たる資質なし(早見あかり)

原作者の藤子・F・不二雄には「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」(1976年)という短編作品がある。

「中年スーパーマン左江内氏」(1977年)と表裏一体の作品と言える。

「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」の主人公はキャラクターとしての「小池さん」である。

「小池さん」の顔をした句楽兼人は超人力により冷酷非情の独裁者となっていくのである。

政治権力を手中にした独裁者たちが躍進する2017年である。

独裁者になるためには世襲だろうと選挙だろう革命だろうと手段は問われない。

そして・・・今日は81年目の2月26日なのである。

腐敗した国家権力の打破を目指した青年将校たちは反乱に成功し革命に失敗する。

忠臣を殺害された天皇は首謀者の殺害を命じた。

法治国家では・・・国家と法令は優先順位に常に問題を含んでいる。

どちらも力の源泉である。

平和に呪縛された国家では・・・たとえ領土を不法占拠されても国民を拉致されても・・・ひたすら話し合いによる解決を求めなければならない。

聖なる力の行使者として小心者のサラリーマンが選ばれることの馬鹿馬鹿しさは・・・作者の胸に秘めた平和への祈りと考えることもできる。

さらに遡上すれば「パーマン」(1966年)があり・・・弱虫が正義の為に必死で勇気を奮い起こして戦うことが賞賛される。

どうか・・・力を握ったものが・・・傲慢でありませんように・・・。

庶民は常に願うのである。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第7回』(日本テレビ20170225PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。スーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)の本名は左江内英雄である。フジコ建設営業3課の課長は簑島光男(高橋克実)、左江内係長の部下たちは池杉照士(賀来賢人)、蒲田みちる(早見あかり)、下山えり(富山えり子)でようやく姓名のネーミングが終了したらしい。架空世界なのであるべきものがないのはよくあることである。

コンビニを拳銃強盗(鈴木浩介)が襲撃する。

驚く店長(坂田聡)と恐怖の叫び声をあげる女性客(愛原実花)・・・。

「きゃああああああああ」

「うるさいんだよ・・・タカラジェンヌでもあるまいし」

左江内氏登場である。

「何時だと思ってんだよ」

「何だ・・・お前は」

「スーパーマンです」

「本物ですか」

「本物です・・・睡眠中の事件は困るんですけどね」

「スーパーマンも眠るんですか」

「眠りますよ・・・ウルトラマンだって眠ると思いますよ」

「えええ」

「ウルトラマンだって家に帰れば寝るでしょう」

「家ってM78星雲にあるんですか」

「地球から千六百光年ですからね・・・通勤は大変だと思いますよ」

「通勤しないでしょう・・・地球に単身赴任じゃないですか」

「えええ・・・故郷に妻子を残してですか・・・そりゃあ・・・大変だなあ」

「ウルトラマンは独身でしょう」

「ウルトラの母がいてウルトラの父がいて・・・タロウもいるでしょう」

「タロウはウルトラマンの息子じゃないでしょう」

「戦争で死ねなかったお父さんのために」

「お前ら・・・何を呑気に立ち話してんだよ」

発砲するコンビニ強盗・・・。

しかし・・・弾丸はスーパースーツを貫くことはできない。

「えええ」

「本物だ」

「かっこいい」

左江内氏はコンビニ強盗から拳銃を取り上げると粘土のようにひねりつぶすのだった。

コンビニ強盗は降参した。

「警察を呼んでください」

「はい・・・あの・・・なんの御礼もできませんが・・・せめておでんでも・・・」

「あ・・・そういうのはいただけないんです」

左江内氏は・・・時々・・・スーパーマンとしての力を利用して通勤したりするが・・・そういうことにも罪悪感をもつ小心者なのである。

正義の力を行使して利益供与を受けたのでは・・・善が悪に転落すると考えている律儀者なのだ。

「でも・・・朝になればどうせ廃棄するだけなので・・・」

「そうですか・・・じゃあ・・・少し・・・頂くかな」

「あの・・・お勘定を」と女性客。

「ああ・・・お客さんには怖い思いさせちゃったので・・・料金はサービスさせてもらいます」

「いつも心に太陽を」

女性客が去ると小池警部(ムロツヨシ)と制服警官の刈野(中村倫也)が現れる。

「え・・・いいな・・・コンビニで晩酌」

「寝酒です」

「私もいいですか・・・」

「あ・・・じゃあ・・・ボクも」

「君は・・・犯人を署に連行して」

「えええ・・・そんなあ・・・じゃあ・・・君・・・一人で言ってくれる」

「はい」

「・・・なわけないだろう・・・さっさと連れて行け」

「じゃ・・・即行で帰ってきますから・・・ちくわぶとっといてくださいよ」

「ちくわぶ・・・とっとくから」

首都圏ローカルの食材である・・・ちくわぶはちくわではありません。

「じゃあ・・・ごちそうさまでした」

左江内氏が去ると忘却光線の効果で・・・店内には店長とおでんを食べている小池刑事だけが残される。

「あんた・・・何してんだ」

「え・・・」

「おでん泥棒か」

「えええ」

深夜の犯罪抑止行動により・・・メロウな気分の左江内氏のランチタイム。

蒲田と下山は弁当である。

「ダイエットには手作り弁当が一番効果あり」と蒲田。

「だよね」と下山。

「時すでに遅しじゃないの」と池杉。

「てめえ・・・殺すぞ」

しかし・・・左江内氏はテレビのニュースに心を奪われる。

海外のテルバニア(フィクション)でテロによる大惨事が起こっていた。

「どうしたんです・・・」

「いや・・・なんとかならなかったものかと」

「仕方ないですよ・・・この世界は悲惨な出来事で満ちているのですから」

その日の勤務を終えた左江内氏は北京ダックのある居酒屋で池杉相手に苦しい胸の内を語る。

「スーパーマンとしてもどかしいんだ」

「誰がスーパーマンですって・・・」

「私だ・・・この街の平和を守れても・・・さすがにテルバニアまでは」

「仕方ないでしょう・・・スパイダーマンだってニューヨークしか守ってないし・・・バットマンなんかどこにあるのかもわからない街しか守ってませんよ」

「しかし・・・心が痛むんだ」

「わかりました・・・そこまで言うのなら・・・このウィケスギが・・・若さでなんとかしますよ」

「本当」

「ええ」

左江内氏たちサラリーマンが記憶をなくすまで飲む世界なのである。

「パパ」

「いつまで寝てんの・・・遅刻するよ」

はね子(島崎遥香)ともや夫(横山歩)に叩き起こされる左江内氏。

強烈な二日酔いのために・・・スーパースーツ出勤をしようとして昨夜のことを思い出す。

出社すると・・・池杉と記憶を確かめ合う。

「なんだか・・・耳鳴りがするんです」

「それが・・・助けを呼ぶ声だよ」

「でも勤務中ですよ」

「トイレに行くふりして・・・助けに行くのさ」

「え・・・だから・・・左江内さん・・・いつもトイレが長かったんですか」

「本当にトイレに行ってることもあるけどね」

スーパーサラリーマン池杉は若々しく出動する。

胸のマークは(池)になっているのだった。

火事の現場である。

燃える建物を見て泣き叫ぶ住人(八十田勇一)・・・。

「逃げ遅れた人がいるんですね」

「いや・・・押し入れに現金が」

「金庫なら防火できるでしょう」

「ダンボールに入っている」

「・・・」

「あれが燃えると一文なしなんだよ」

仕方なく火中に飛び込む池杉である。

スーパースーツには対火性もあるが・・・動物である人間は火を惧れるものである。

漸く金入りダンボール箱を回収する池杉・・・。

しかし・・・住人は「どうせなら思い出のアルバムも持ち出してほしかった」と不満を口にする。

正義の味方の報われなきことに釈然としない池杉。

会社に戻った池杉は・・・。

「左江内さん・・・いつもあんなことしてんですか」

「スーパーマンだからね」

「プチ・リスペクトっす・・・透視で女の子の裸見てるだけじゃ・・・割があわないす」

「そんなことしちゃだめだよ・・・透視するのはやむにやまれぬ時だけだ」

「そんな・・・袋とじを開かないみたいな人生・・・耐えられないっす」

二人の会話に割り込む部長。

「なんだ・・・ウンコ談義か」

「ウンコ談義?」

「だって二人そろってウンコが長いんだもの」

「いや・・・ちょっとガンコちゃんで」

「いくらガンコちゃんでもウンコし過ぎだよ・・・もう少しウンコは控えめに」

「いい大人がゴールデンタイムにウンコを言い過ぎ」と次元を越える蒲田。

夜の街によからぬ男たちが現れる。

一人歩きの美しい女性(水上京香)を取り囲む狼たち・・・。

「やめてください」

「やめろといわれてもこれからやるわけだし」

「やめろ」

池杉登場である。

「なんだてめえは」

怯えつつ・・・狼たちをぶっとばす池杉だった。

「お嬢さん・・・お怪我はありませんか」

「ありがとうこざいます」

美女に抱きつかれその気になる池杉。

「よろしければ・・・東京ナイトクルージングをなさいませんか」

美女を乗せ・・・空中散歩をしたあげく・・・高層ビルの屋上でシャンパンを酌み交わす池杉だった。

その後も東京タラレバ娘風の女たちや・・・男に捨てられた女たちを選んで救援交際する池杉だった。

しかし・・・横浜の街で・・・交際中の蒲田にナンパが発覚するのだった。

「なにしてんだ・・・」

「いえ・・・これは・・・なんでも」

「ちょっと・・・顔貸せや」

この世界では浮気者は壮絶な暴力に曝される定めなのである。

そして・・・浮気現場に残される・・・スーパースーツ入り紙袋。

スーパーマンの責務から解放され・・・入浴を楽しむ左江内氏。

しかし・・・円子がキッチンで黴々の雑巾を発見したために・・・氷風呂の刑に処せられる。

翌朝・・・円子はヨガのポーズをしたままリヴィングルームで眠っていた。

「人間て・・・凄いな」

「ママが特別なのよ」

はね子はテレビを見ていた。

「これって魔法みたい」ともや夫。

都内の銀行では大量の紙幣が消失する事件が発生していた。

「えええ・・・まさか」

会社で池杉を問いつめる左江内氏。

顔面が崩壊した池杉は告白する。

「かわいい女の子を中心に・・・救助活動をしていたら・・・彼女バレして・・・」

「え」

「何者かにスーツを奪われました」

「ええっ」

「どうしましょう」

「しょうがないなあ・・・」

左江内氏は・・・スーツを池杉に譲渡した責任を感じるのだった。

左江内氏は・・・謎の老人(笹野高史)の助けを求める。

しかし現れたのは号外を配る男(佐藤二朗)だった。

「トランプ大統領当選!・・・って何だよ」

「配り忘れです」

「小池都知事誕生!・・・っていつだよ」

「私・・・今・・・レビューでは再現困難な・・・ごくせんの牛島豊作のキャラクターをしています」

「なつかしいな・・・」

「東京スカイツリー完成!・・・はいかが」

「もういいよ」

可愛い手袋をした怪しい老人が現れる。

「探してました」

「わかるよ・・・どうせなら・・・世界を救いたいというシンドロームな」

「・・・」

「だけど・・・無理は禁物だよ」

「おそらく・・・スーツは悪人の手に渡り・・・銀行強盗を」

「わかってるんだ・・・」

「とりもどすために・・・スーツが必要です・・・スペアはないんですか」

「少しだけ弱いスーツなら・・・この四次元ポケットに」

「あなたは・・・クソジジイ型ロボットだったのか」

「そんなこというなら貸さないぞ」

「あ・・・おなしゃす」

銀行強盗となった高萩省吾(間宮祥太朗)の胸には(高)のマークが示されている。

銀行員半沢を半殺しにする高萩・・・。

「命が惜しかったら早く・・・バッグに現金をつめろ・・・なんだよ・・・利息倍返しキャンペーン中って・・・」

「銀行もマイナス金利でピンチなんです」

「俺の知ったことかよ」

「・・・」

「あ・・・今・・・そこの爺・・・110番に電話したな」

「しません」

「スーパーマンなめるなよ・・・どんな音も聞き逃さないんだよ」

「許してください」

「許さない・・・ぶっ殺す」

「やめなさい」

スキーウェアを着た左江内氏が現れる。

「なんだ・・・おっさん」

「スーパーマンの力を悪用してはいけません」

「どうしてだよ」

「神様が許しません」

「神は・・・死んだんだよ」

「とにかくスーツを返しなさい」

「俺と勝負するつもりか」

「かかってきなさい」

高萩の一撃でぶっ飛ばされる左江内氏。

「少しどころじゃなく・・・かなり弱いな・・・このスーツ」

「ははははは・・・誰だか知らないが・・・このスーツの力を甘く見すぎだ」

「・・・」

現金が用意され・・・立ち去ろうとする高萩・・・。

しかし・・・左江内氏は必死に高萩の足にしがみつく。

「それは・・・君のお金じゃない・・・全国の労働者の皆さんが必死になって働いて稼いだ貯金なのだ」

「働いても働いても一銭も貯金できない人間だっているんだよ」

「それはそうかもしれないが」

「手に入れた力で・・・自分の手で・・・金を掴むことの何が悪いんだ」

格差社会の対立である。

「だけど・・・それは・・・泥棒だ」

「問答無用」

高萩は左江内氏を蹴り飛ばす。

悶絶しかかる左江内氏は・・・パンツの膨らみを感じる。

「あれ・・・これって・・・」

ポケットにはスーパーマンマークが入っていた。

どこからともなく・・・声がする。

(二日酔いで忘れていたのだろう・・・スーパーマンマークはいつも君とともにあるのだ)

思わずバッヂを胸にかざすスーパーマン・・・。

一瞬で左江内氏はスーパースーツを装着し・・・高萩は全裸になっていた。

「パンツは穿いている・・・ゴールデンだもの」と次元を越える高萩。

「さあ・・・お金を返しなさい」

「ふざけんな・・・」

高萩は殴りかかるが・・・左江内氏の一撃で昏倒するのだった。

喝采を叫ぶ行内の人々・・・。

「それでは・・・今まで盗まれたお金を返しに行きますので・・・」

忘却光線が発動され・・・高萩は逮捕される・・・起訴は難しそうだがな・・・。

おそらく・・・超人化前の余罪があるのだろう。

左江内氏は怪しい老人にスキーウェアを返却した。

「ありがとうございました」

「これに懲りて・・・スーツの譲渡はやめてくれよ」

「はい」

「君は・・・選ばれてスーパーマンになったのだから・・・」

「・・・」

「それから・・・これはただのスキーウェアだ」

「え」

「思いこみの力ってこわいよね」

「えええええええええ」

透視能力があっても・・・エロ目的に使用しない・・・力があっても悪用しない。

そして・・・困っている人を見過ごすことはできない。

左江内氏には・・・素晴らしいスーパーマンとしての資質があったのである。

「パパ。遅刻しちゃうよ」

「パパ・・・送って行ってよ」

子供たちを乗せて空を飛ぶ左江内氏。

「なにこれ・・・凄い」

「パパをソンケーするよ」

そんな・・・ちょっとした力の私的利用にも罪悪感を感じる左江内氏。

彼こそが生れついてのヒーローなのかもしれない。

シャローン・ストーンではなくて。

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2017年2月25日 (土)

ストレスが受験をダメにする(深田恭子)

「絵馬奉納で小学生のお小遣いが搾取されている」でもよかったけどな。

一枚三百円でも五枚で千五百円、五百円なら二千五百円、千円なら五千円だ。

結構・・・痛いよな。

小学生気分になってどうする。

人間は結局・・・神に頼るよなあ・・・。

全然、無宗教じゃないよな。

風水にも頼るよなあ。

人間は本当に・・・迷信深いよな・・・。

悪魔が言うセリフなのか。

まあ・・・神を信じるということは・・・同時に悪魔を信じることだからな。

で、『克上受験・第7回』(TBSテレビ20170224PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・吉田秋生を見た。暖かい日と寒い日が交互にやってきて乾燥注意報が発令する東京にも桃の花が咲き始めている。小学校五年生から受験体勢に入った桜井信一(阿部サダヲ)と香夏子(深田恭子)の娘の佳織(山田美紅羽)は大江戸小学校の六年一組に在籍中である。すでにドラマの中の季節は一学期なのである。

信一はパチンコ店のティッシュ配りのアルバイトを再開する。

スマイベスト不動産に就職した香夏子の営業成績が思ったより振るわず歩合が稼げないために・・・固定給だけでは・・・生活費を賄うのが精一杯なのである。

教材費やコピー機のレンタル代など出費が嵩む桜井家の家計。

中学受験にはお金がかかるのである。

そんなこと最初からわかっていただろうとお茶の間は茫然とするわけだが・・・何しろ二代続いた中卒家系なのである。

いろいろと・・・知らないことは多いのだった。

もちろん・・・大人である信一が・・・そのことに気付いていないわけではない。

わかっているが・・・暴走する機関車のように・・・佳織が中学受験をしなければ世界が破滅すると思いこんで・・・走り続けているわけである。

だが・・・小学校三年でスタートしなければ遅いと言われる中学受験の壁は高く・・・佳織の学力は伸び悩む。

「復習しても復習しても佳織の成績が向上しないこと」に「なぜ身長が伸びないのだ」と息子のトビオの代わりにアトムを作った天馬博士のような・・・不条理な怒りが・・・信一に蓄積していくのだった。

「なぜだ・・・なぜ・・・できない」

佳織に対してこみあげてくる激情を自制できなくなりかけている信一。

親が教えることにはデメリットがある。

子供に感情的になってしまうこと・・・と信一は自分に言い聞かせるが・・・そもそもあまり自制心がないタイプである。

空腹の佳織のために・・・夕食を作るが・・・調理はぞんざいになり、皿に盛りつけずフライパンで食卓に出すような攻撃性を示す信一。

悪霊に憑依された状態である。

成績があがらないわが子を罰したくて罰したくて仕方ない気持ちが抑えられないのだ。

そのために・・・意地悪がしたい。その上・・・手順が省略できて・・・一石二鳥だと耳元で悪魔が囁くのだ。

帰宅した香夏子はまったく邪気がないために・・・食卓に置かれたフライパンに反応する。

「テーブルが焦げちゃうよ」

香夏子はフライパンを持って台所に行き・・・味を調える。

自分が佳織に与えた罰を妨害されたと感じた信一の怒りの矛先は香夏子に向う。

「だったら・・・さっさと帰ってきて夕食を作れよ」

「え」

驚いた香夏子の様子に・・・正気に戻る信一。

「あ・・・そんなつもりじゃなかったんだ・・・ただ・・・時間がもったいないと思っただけで」

「信ちゃん・・・大丈夫?」

「・・・」

信一は自分に囁きかけていた悪霊を捜すが・・・そんなものはいない。

自分で自分がコントロールできなくなっているだけなのである。

慣れないことをしているストレスが・・・信一の自律神経を失調させていた。

翌朝・・・香夏子は登校する佳織とともに出勤する。

「お父さんがイライラしちゃうのは・・・私のせいなんだ・・・私はやっぱり麻里亜ちゃんみたいになれないのかな・・・」

「そんなに落ち込んでもしょうがないよ・・・やることはたくさんあるんだから」

「やることって・・・」

「とりあえず、角のお店でシュークリーム買って食べよう」

信一は悪魔に憑依されているが・・・香夏子は生れついての天使だった。

佳織は小山みどり先生(小芝風花)の授業中に睡眠を確保する。

徳川麻里亜(篠川桃音)は欠席である。

家庭教師の黒崎(菊田大輔)によって指導される麻里亜は・・・佳織の友情のペンをお守りに精進するのだった。

このままでは・・・家庭が崩壊するという危惧を感じた信一は・・・「朝比奈こころのクリニック」の扉を開く。

診療するのは朝比奈院長(佐野史郎)だった。

受診室には・・・何故か木馬や蜘蛛のオブジェが置かれている。

「ずっとあなたが好きだった」(1992年)から25年・・・冬彦さんが帰って来たらしい。

いや・・・「ゾ~ン!」と叫ぶんじゃないか。

いや・・・医者だから「沙粧妙子-最後の事件-」の池波宗一なのかもしれん・・・。

「心が落ち着くクスリを処方してください」

「まずは・・・不安の原因をお聞きしましょう」

「いえ・・・とりあえずクスリが欲しいのです」

「お気持ちはわかりますが・・・精神に作用するクスリは転売などの惧れがあるのでまずはあなたの状況を伺いたいのです」

「娘の中学受験が上手くいかない」と本当のことを言えない信一は「夫婦関係が上手くいかない」と嘘をつく。

「奥さんの浮気ですか・・・あなたの子供を宿していながら・・・学生時代の恋人とヨリを戻したいとか言い出しているわけですか」

「このままではDVDになりそうで」

「それは・・・DVですね・・・わかりました」

なんとか・・・精神安定剤の処方を受ける信一である。

クリニックに徳川直康(要潤)が現れた。

時系列では今は2016年の五月頃・・・東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設問題についてのイザコザがまだ尾を引いている段階である。

「トクガワ開発」もこの問題に巻き込まれ・・・直康は精神を失調したらしい。

「徳川・・・お前も娘のことか・・・」

「娘の偏差値は68に戻りました・・・私は仕事のことで・・・」

「嫌味かよ・・・そんな仕事やめちゃえよ」

「一応・・・社長なので・・・」

心は通じあったが・・・会話の噛みあわない同級生なのである。

香夏子はお惣菜の補給ついでに舅の一夫(小林薫)に愚痴るのだった。

「なかなか契約がとれなくて・・・」

「そりゃあ・・・大変だなあ・・・」

息子の家庭の経済問題が・・・一夫の心に波紋を投げかけるのだった。

一夫はスマイベスト不動産の長谷川部長(手塚とおる)を訪ね・・・家の「売却」を申し出る。

楢崎哲也(風間俊介)が査定のために派遣されるのだった。

「どうだい・・・高く売れそうかい」

「持ちかえって・・・検討してみます」

「くれぐれも信一たちには内緒にしてくれ」

「・・・」

今回・・・入浴サービスがない代わりに小学校では体育の授業がサービスされる。

サービスって言うなよ。

一組二組の合同授業で・・・二組の担任(TBS石井大裕アナウンサー)は体育会系らしい。

跳び箱の授業でゼッケンからリナが河瀬リナ(丁田凛美)、アユミが遠山アユミ(吉岡千波)という役名であることが判明する。

「よし・・・もっと高く」と熱血先生。

「無理・・・怖い」とリナ。

「私も自信ない」と佳織。

「怖いなら無理にやることないよ」とアユミ。

見守る小山みどり先生である。

同級生たちに煽られて・・・チャレンジする佳織だった。

チャレンジは成功し・・・帰宅した香夏子に嬉しげに報告する佳織。

しかし・・・精神的に不安定な・・・最近使われない言葉ではノイローゼである・・・信一が物議を醸すのだった。

「跳び箱なんか跳んで・・・失敗して突き指でもしたらどうするつもりだ」

「そんな・・・跳べたんだから・・・いいじゃない」

「ダメだ・・・麻里亜ちゃんなんか・・・中学受験のために欠席しているんだぞ」

「佳織がやりたいって言ってんだから・・・」

「とにかく体育なんてとんでもない」

学校に出かけて行き・・・体育の授業を見学させることを申し出る信一。

「しかし・・・体育も立派な授業です・・・教育者の責任として」と反論する熱血教師。

「何が教育者の責任だ・・・そんなら・・・佳織の将来を先生が責任もって面倒みてくれんのか」

「え・・・」

「あ・・・」

モンスターペアレントを自覚する信一だった。

小山みどり先生は信一を案ずる。

「すみません・・・また暴言を・・・」

「うちの親は自分の考えを押しつけるだけでしたが・・・お父様の場合は佳織ちゃんを愛しているゆえのことだとわかっておりますので・・・」

小山みどり先生の優しい言葉さえも・・・自分を見失いつつある信一の心に突き刺さる。

「今日は社会だ・・・周年の問題・・・2016年は徳川家康の死後400周年ですが・・・家康と同じ年に亡くなった英国の劇作家と言えば誰でしょう?」

「ウィリアム・シェイクスピアさん」

もはやクイズである。

まあ・・・テストというものは基本的にクイズなのだがな。

ついに・・・心のもつれが・・・身体に現れ・・・あるいは精神安定剤の副作用で・・・眩暈を感じた信一は・・・俺塾で卒倒してしまう。

信一は古のクレイジーキャッツとザ・ピーナッツのコントの悪夢に囚われる。

貧しい農家の寝床に寝たきりになっている信一。

「おとっつあん・・・お粥ができたわよ」と佳織。

「いつもすまねえな」

「それは言わない約束でしょう」

そこへ現れる借金取りの一夫と子分の杉山(川村陽介)・・・。

「娘は借金のカタにいただいていくぜ」

「それだけは勘弁してください」と香夏子。

「親分・・・母子まとめて売れば儲かりますぜ」

「やめてくれ・・・」

「待ちな・・・」

そこへ現れる西洋貴族風ガンマンの竹井(皆川猿時)・・・。

「お前・・・誰だ・・・」

「忘れたのかよ・・・俺だよ・・・ヘルマン・エビングハウスだよ・・・」

「ああ・・・さすらいの忘却曲線の人・・・」

素晴らしいな・・・。

ほぼ同じトーンで時代劇の「忠臣蔵の恋」も現代劇「下剋上受験」もこなす皆川猿時・・・さすがだという他はない。それを赦しちゃう演出家がな。

再び体育の授業のサービスである。

だからサービスって言うなよ。

ドッジボールを見学中の佳織を・・・麻里亜の泥靴事件の主犯格である藤本沙理菜(安武風花)が「弱虫さん」と煽るのだった。

闘志に着火する佳織・・・。

ドッジボールにチャレンジするが・・・こんどはチャレンジ失敗・・・突き指してしまうのだった。

父親の言いつけに背いて負傷してしまったことに罪悪感を覚える娘・・・。

そして・・・父親は完全に精神を失調してしまうのだった。

「なんでだよ」

「ごめんなさい」

「なんで・・・お父さんの言うこと聞かないんだよ」

「・・・」

「もう・・・やめるか・・・ちっとも成績あがんないし」

「そんなに・・・佳織のことを責めないで」と香夏子が援護する。

「責めてないよ」と香夏子を責め始める信一だった。「最初に香夏子が言った通りだったな・・・充分に幸せだったのに・・・俺が会社を辞めて・・・香夏子が働いて・・・佳織は友達と遊べなくなって・・・それなのに佳織の成績は上がらない・・・みんなを不幸にして・・・佳織の成績があがらない・・・」

「ごめんなさい・・・佳織・・・もっと頑張るから」

「もういいよ・・・もう終わりにしよう・・・受験なんてクソだ・・・佳織・・・勉強なんてやめちまえ」

「信ちゃん・・・」

「ごめん・・・一人にさせてくれ」

最悪の父親である。

もはや泣くしかない佳織だった。

香夏子は慰めるしかないのだった。

そこへ・・・一夫からの電話がある。

酒とつまみを買って・・・「お金の心配がいらないこと」を告げようとする一夫。

「すみません・・・今・・・取り込み中で・・・」

家出した信一を追いかける佳織。

佳織を見かけて追いかける一夫。

一夫を見かけて追いかける香夏子。

なんとなく・・・ユーモラスな空気が漂うのだった。

家族を思いやる愛のおいかけっこだからな・・・。

信一は・・・初詣をした神社にやってくる。

「桜葉合格祈願」の絵馬を見る信一だった・・・。

佳織は信一に声をかける。

「お父さん・・・」

「佳織・・・」

「一緒に帰ろうよ」

一夫に制されて夫と娘を見守る香夏子。

「お父さん・・・疲れちゃった・・・桜葉合格なんて無理だったんだ・・・夢は夢なんだよ・・・佳織が悪いんじゃない・・・遺伝だもの・・・佳織はお父さんの娘なんだもの・・・」

その時・・・ふと・・・絵馬にかおりの名を見出す信一だった。

(漢字をわすれませんように・・・かおり)

(頭が良くなりますように・・・かおり)

(偏差値があがりますように・・・かおり)

(お父さんのイライラが治りますように・・・かおり)

「どんだけ・・・お願いしてんだよ」

「だって・・・お父さんに教えてもらっても・・・佳織・・・すぐに忘れちゃうし・・・毎日・・・学校の帰りにお願いしてたの・・・でも絵馬は高くて・・・お小遣いなくなっちゃうし・・・いつもは買えなかった・・・お父さん・・・いつも間違えてごめんなさい・・・偏差値があがらなくてごめんなさい・・・だけど・・・佳織を見捨てないで」

「バカだな・・・見捨てるわけないじゃないか・・・俺の娘じゃないか」

思わず佳織を抱く信一。

「信ちゃん・・・」

辛抱たまらず飛び出して家族の輪に参加する香夏子だった。

神社のベンチで肩を並べる一夫を加えた桜井ファミリー。

「雨降って地固まるだな・・・」

「どういう意味・・・」

「雨が降ると親父の痔の具合がよくなるってことだよ」

「雨なんかふってないよ」

「見なよ・・・月が綺麗じゃないか」

一夫は・・・馬鹿な息子と息子の嫁と孫娘にアイ・ラブ・ユーを告げるのだった。

「とにかく・・・もう金の心配はいいぞ・・・近々・・・まとまった金が入りそうなんだ・・・香夏子さんも仕事が辛かったら・・・やめてもいいし・・・入学金の心配もしなくていい」

「え・・・」

後日・・・楢崎から・・・一夫の家の売却の件を聞かされる香夏子・・・。

「お義父さん・・・私があんなことを言ったからですか・・・」

「誰のせいでもないよ・・・俺も・・・信一も・・・香夏子さんだって・・・できることはたかがしれてる・・・でもよ・・・信一は生き方を変えようとしている・・・」

「・・・」

「俺は釘を打って・・・鉋で削って・・・そうやって仕事を覚えて一人前になれると思っていた・・・だけど時代はどんどん変わっちまう・・・そしたら生き方を変えるしかねえ・・・だけど・・・それは大変なことなんだ・・・あいつは今・・・自分を犠牲にして・・・佳織の人生を変えようとしている・・・親として・・・俺も何かしてやりてえ・・・それだけだよ」

再び・・・全国模試にチャレンジする佳織と麻里亜・・・。

麻里亜も佳織に友情の証としてペンを贈る。

しかし・・・結果発表の日・・・信一の心身の不調はピークに達するのだった。

「あれ・・・お父さんは」と佳織。

「なんか具合が悪いからって病院に行ってる」と麻里亜。

「うちのお父さんもだよ」

「最近の大人は弱いよね」

朝比奈こころクリニックで遭遇する信一と直康。

「どうしたんですか」

「お宅と違って・・・ウチは遺伝的に・・・おちこぼれだからね」

「・・・私と麻里亜は血は繋がっていないのです」

「え」

直康のショッキングな告白が信一に致命傷を与えたらしい。

悶絶する信一・・・。

朝比奈院長は直ちに救急車を呼ぶのだった。

「あなた・・・仲がよろしいのでしょう・・・同乗してください」

院長の調子に踊らされる直康・・・。

救急隊員ものるのだった。

「ご家族の方ですか」

「友人です」

「手を握って励ましてください」

「はい・・・桜井~俺がついてるぞ」

「徳川~・・・ありがとう」

信一と直康の友情がさらに深まるのだった。

受験まで残り三十五週間である。

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2017年2月24日 (金)

背中に矢を受けて高い橋から川へ落下する人(織田梨沙)

異世界の話である。

致命傷とも言える傷を受けてもたちまち快復する登場人物たちはそもそも人間ではないのかもしれない。

異国にはそれぞれの言語があり、通訳を必要とされるがバイリンガルなら大丈夫である。

外国映画の日本語版のように様々な言語を話しているが・・・全編翻訳されているのかもしれない。

「コンバット」ではドイツ軍だけは翻訳されずに「アメリカーナ!」と叫んだりする。

たとえとして時代がかりすぎているわ。

時々・・・専門用語で「カシャル」はロタ語で「猟犬」の意味だと説明したり、「ツアラ・カシーナ」はサンガル語で「船の魂」で「海賊船の船長」を意味するとか・・・南の大陸の「サズ」は北の大陸の「チャズ」であるとか・・・そういうのは異国情緒とか方言色とか・・・そういうものを醸しだす工夫である。

だが「旅情」を解さない人間には煩わしい部分でもあるだろう。

主人公は世界を股にかける用心棒であるために・・・それぞれの言語には通じているわけである。

だが・・・「コンバット方式」なら放牧民などの少数者との会話では・・・「異国語」使い「字幕スーパー」を乗せるという手もある。

そういう駆け引きが少し・・・物足りない気がします。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第5回』(NHK総合20170225PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・加藤拓を見た。女性を切り刻んだ男が法廷で「殺せるものなら殺してみろ」と叫ぶ人命尊重の優しい社会の投影により・・・人の命を奪うことに躊躇いや後悔の気持ちを抱く主人公設定である。そういう哲学をよしとするかどうかは別として児童文学としては譲れない一線なのだろう。しかし・・・世の中には未成年者を凌辱することを喜びとする人間がいることを教えることも大切なのである。

カンバル国王の主治医だった父・カルナを口封じのために殺され、父の親友だった天才的な短槍使いジグロ(吉川晃司)に守られて放浪生活を続けたバルサ(綾瀬はるか)・・・。ジグロを師として短槍使いの達人となったバルサだったが・・・やがて殺戮の喜びを感じるようになる。ジグロはバルサの魂に人命尊重の呪いをかけ・・・バルサは罪悪感に打ちひしがれるようになった。

殺人がタブー(禁じられた忌まわしきこと)になれば・・・すでに血に汚れたバルサには救いはないのである。

この世界には悔い改めれば許す神は存在しないのだ。

ロタ王国の被差別民タルの少女・アスラ(鈴木梨央)の用心棒となったバルサは・・・少女の心に宿る破壊神(タルハマヤ)によって・・・少女の無垢な魂が汚れることを危惧する。

だが・・・少女はすでに精霊と一体化することにより・・・大量殺人を果たしている。

少女の心が安定しているのは・・・その行為が「善」であるという合理化によるものである。

しかし・・・人命尊重の呪いをバルサはアスラに伝道しなければならない宿命なのである。

なぜなら・・・彼女は由緒正しい児童文学の主人公なのだから・・・。

ロタ王国の神話に登場する創造神アファールの鬼子であるタルハマヤ・・・。

異界(ノユーク)の春の季節・・・この世に現れるタルハマヤはタルの乙女(佳野)と一体化し・・・恐ろしき殺傷力を発動するサーダ・タルハマヤとなる。

タルはサーダ・タルハマヤの力でこの世を支配した。

そこでロタ人はサーダ・タルハマヤの首を落し・・・タルの支配を終わらせ・・・ロタ王国を建国したのである。

タルの民が・・・タルハマヤの復活を試みないように監視するのが・・・カシャルの任務だった。

カシャルの頭であるスファル(柄本明)は逃亡したアスラの行方を追い・・・タルハマヤの復活を阻止しようとする。

しかし・・・スファルの娘であるシハナ(真木よう子)はタルハマヤを復活させ・・・その力を利用しようと考える。

すべては・・・次期国王と目されるイーハン(ディーン・フジオカ)のためであるらしい。

イーハンはかって・・・アスラの母であるトリーシア(壇蜜) を愛した男だった。

ロタ王国の重要な祭りである「建国ノ儀」を前にイーハンの兄であるロタ国王・ヨーサム(橋本さとし)が崩御する。

ロタ王国には・・・南部を中心に・・・イーハンの王位継承を認めない勢力がある。

シハナは・・・ヨーサム国王の死に・・・密かな喜びを示すのだった。

「トリーシア様の娘を発見しました」

「娘・・・」

「お会いになりますか」

「・・・会おう」

人質に取られたアスラの兄チキサ(福山康平)と薬草使いのタンダ(東出昌大)を救出するために・・・ロタ王国祭儀場に向って旅をするバルサとアスラ・・・。

二人の前に・・・タルの民として特徴的な額に魔除けの紅を塗った女・イアヌ(玄理)が現れる。

アスラは何故か警戒心を示すのだった。

しかし・・・イアヌは・・・猫撫で声で話しかける。

「私は・・・アスラの母であるトリーシアの仲間でした・・・トリーシアにサーダ・タルハマヤの遺体が封印されていることを伝えたのは私なのです」

「サーダ・タルハマヤの遺体・・・」

「私はアスラが・・・神を降臨される力を持っていることにも気が付きました」

「・・・」

「それ以来・・・トリーシアが姿を消し・・・やがて祭儀場での恐ろしい出来事の噂を聞きました・・・トリーシアが処刑され・・・アスラが姿を消したと聞き・・・ずっと案じておりました」

「アスラの兄のチキサが人質に取られている・・・建国ノ儀の行われる日にアスラを祭儀場に連れて行かねばならない」

「しかし・・・建国ノ儀までにはまだ日がありますね・・・どうでしょう・・・それまでタルの民の隠れ里でお過ごしになられては・・・」

「タルの民の隠れ里・・・」

「タルの民は・・・ロタ王国のどこにでも・・・隠れ里を持っています・・・そこならば・・・身の安全は保障できますよ」

バルサが承諾すると・・・潜んでいたタルの民たちが現れる。

アスラを背負い駕籠に乗せ・・・草原の国にもある山林に踏み込むタルの民一行とバルサ・・・。

女性ばかりのタルの民に気を許すバルサだった・・・。

やがて、一行は隠れ里に続く吊り橋にさしかかる・・・。

背後に殺気を感じるバルサ。

「行け・・・何者かが追ってくる」

バルサは橋の上でカシャルたちの追撃を迎え撃つ。

殺人をタブーとするバルサの攻撃は甘く、必殺の攻撃を続けるカシャルたち。

しかし・・・達人であるバルサはカシャルたちの攻撃をいなすのである。

「バルサ」と叫ぶアスラ。

「先に行け・・・すぐに追いかける」

「参りましょう」とアスラを説得するイアヌだった。

カシャルたちの攻撃を橋の上でかわしながら時を稼ぐバルサ。

その背中に矢が突き刺さる。

振り返ったバルサは・・・タルの民たちが弓矢を構えていることに驚く。

すべては罠だったのである。

矢の毒に冒されたバルサは力尽きて・・・遥か下を流れる川に向って墜落するのだった。

アスラは・・・イアヌによって・・・タルの民の神の石に導かれる。

「あなたをお迎えすることが・・・私たちの願いでした」

「・・・」

タルの民たちは・・・アスラの前にひれ伏す。

その場に姿を見せるシハナ・・・。

「お前は・・・」

「すべて誤解なのです・・・」

「誤解・・・」

「私たちは・・・アスラを守ろうとしていたのです・・・」

「私を・・・」

「何故なら・・・あなたは・・・タルの民の希望だからです・・・トリーシア様もそれを願っていました」

「お母様が・・・」

シハナは呪術により・・・アスラに催眠をかけていた。

アスラの目には・・・シハナがトリーシアに見え始める。

「お母様・・・」

「アスラ・・・あなたは・・・あるお方と一つにならなければいけません」

「あるお方って・・・」

「お母様とそのお方は・・・いつも一つになりたがっていた」

「・・・」

「アスラが・・・その方と一つになるのです」

「お母様・・・もうどこにもいかないで・・・」

アスラはシハナの術中に落ちた。

北の大陸の先住民ヤクーの呪術師トロガイは焚き火の炎の中に浮かぶ星読博士シュガ(林遣都)の面影を幻視した。

「なんだい・・・こんなところまで」

「タスケテクダサイ・・・」

「泣きごとかい」

「ちゃぐむデンカガカイゾクニトラワレノミニ」

「なんと・・・チャグムが・・・」

「タスケテクダサイ・・・」

「瀕死なんだろうが・・・自分の身は自分で始末しな」

「キビシイデスネ」

「天は自ら助くるものを助けるのさ」

サンガルの捕虜収容所で・・・シュガは覚醒した。

この世界の住民たちの生死の境界線は曖昧である。

この世ならぬものが臨場しているこの世なのである。

瀕死から蘇生すればたちまち生命力が漲るらしい。

サンガルの戦士の槍に貫かれたナユグ(精霊)が見える皇太子チャグム(板垣瑞生)もすっかり元気になっている。

漁で賑わう海賊船の甲板で釣りの様子を物珍しく見守るのだった。

サンガルのたくましい女漁師(森久美子)は棹を使わず釣り糸だけで魚を釣り上げる。

「凄いな・・・」

「あんたもやってみるか」

「やらせてもらえるのか」

「嘘だよ・・・あんたのような細うでで魚が釣れるもんか」

「・・・」

しかし・・・新ヨゴ国の皇太子が気に入ったのか海賊のセナ(織田梨沙)はお相手をするのだった。

「ほら・・・ごらん・・・鮫の子だよ」

「鮫・・・」

「大人になれば人だって食う種族さ」

「人を食う魚か」

「鮫のヒレは珍味なんだよ」

「へえ・・・」

「サンガルでは腹に子がいる間に大漁になると生れた子はヤルヌール・コゥ・ラア・・・つまり神の思し召しに恵まれたものになるんだ・・・」

「ヤルヌール・・・コーラ」

「私が生れた日はすげえ大漁だったんだ・・・だから・・・私はこの船のツアラ・カシーナ(船長)になったのさ」

「え・・・君が海賊船長なのか」

「そうさ・・・セナ船長とは私のことだ」

自決しそこなったチャグムは臥薪嘗胆中である。

青い珊瑚礁的な南の島でのバカンスをエンジョイするのである。

しかし・・・脱出の志を捨てたわけではない。

「セナ船長・・・あのヒューゴとかいう男より・・・金を出したら・・・私に乗り換えてくれるのか」

「おやおや」

タルシュ帝国の密偵ヒュウゴ(鈴木亮平)が顔を出す。

「なんなら・・・一騎打ちで決着をつけましょうか」

「短槍を所望じゃ」

「よろしかろう・・・」

対決する二人・・・しかし・・・手負いのチャグムはヒューゴの敵ではない。

槍をへし折られたチャグムとヒューゴの間にセナが割って入る。

「もうよいだろう」

「なかなかの腕前ですな・・・バルサの手ほどきですか」

「バルサを短槍使いと知っているのか・・・」

「精霊の卵を宿した皇子を女用心棒が守りとおしたという武勇伝は有名ですからね」

「・・・」

ヒューゴはチャグムをヨゴの伝説の王トルガルの宮の廃墟へと誘う。

「春というのに寒いでしょう」

「・・・」

「トルガルが北の大陸に渡った頃も・・・海をナユグが渡ったといいます」

「そなたもあれを見たのか」

「あれは・・・南の大陸が衰え・・・北の大陸が栄える兆しなのかもしれない」

チャグムは廃墟の外で鐘が鳴る音を聞く。

「なんだろう・・・」

「葬式ですよ・・・」

「葬式・・・」

「タルシュ帝国の戦に駆り出されたヨゴの民が戦死したのです」

「戦死・・・」

「タルシュの兵役につけば・・・税が免除されるんですよ」

「・・・」

「タルシュ帝国は・・・他の国を食ってどんどん大きくなる獣のようなものです」

「肉食獣か・・・」

「滅んだ国の民は税を払うか・・・兵士になるか・・・家族を養うためには兵士になって手柄を立てた方が手っ取り早いのです」

「そして・・・死体となって帰ってくるわけか」

「チャグム皇太子・・・私はある人を紹介したいと思ってます」

「・・・」

海岸線にタルシュの軍団が現れる。

騎馬を楽しむのはタルシュ帝国の第二王子ラウル(高良健吾)だった。

馬から降りたラウルは踏み台にした調教師に問う。

「馬の足が張っている」

いつ蹴られてもおかしくない位置でラウルは馬の足の腫れを確かめる。

「申しわけありませぬ・・・気がつきませんでした」

謝罪する調教師の目玉をくりぬくラウル。

「節穴なら必要なし」

「ひえええええええ」

悶絶する調教師を一瞥もせずに立ち去るラウルだった。

タルシュ帝国の宰相クールズ(小市慢太郎) は素早く追従する。

幻惑迷彩で身を固めた貴公子は・・・なかなかに信長テイストである。

バルサは目覚めた。

「おや・・・お目覚めかい」

「トロガイ様・・・」

「お前を助けたのはその男だ」

バルサと戦ったカシャルの男だった。

「お前は・・・」

「俺は・・・スファル様の部下だ・・・」

そこへ・・・スファルとタンダが到着する。

「チキサはどうした」

「生きている・・・すまない・・・マーサの店を教えたのは俺だ」

「仕方のないことだ・・・それより・・・タンダ・・・早く・・・私の身体を治してくれ」

「まかせておけ・・・」

たちまち・・・快復するバルサである。

くりかえすが・・・この惑星の住民は・・・人類ではないのかもしれない。

「そうそう・・・バルサよ・・・チャグムもピンチらしいぞ」

「なんだって・・・」

守るべきものの名にバルサは萌えるのだ。

しかし・・・今は・・・アスラの物語を決着させなければならないのだ。

なにしろ・・・相手は悲しき破壊神なのだ。

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2017年2月23日 (木)

左京局と呼ばれて(武井咲)

浅草唯念寺の住職勝田玄哲の娘・きよは・・・桜田御殿に出仕して喜世となり・・・徳川綱豊(後の家宣)の寵愛を受けてお喜世の方となり・・・家宣の子・世良田鍋松を産んで左京局(さきょうのつぼね)となった。

大出世である。

きよが赤穂浅野家の侍女だったという史実はないが・・・きよの兄である勝田善左衛門の妻は赤穂浅野家の侍女であったと言われる。

ここから・・・磯貝十郎左衛門の内縁の妻であったきよが・・・月光院となるという奇想天外な虚構が紡がれているわけである。

その物語も終盤を迎えている。

きよが月光院となるまで・・・後一歩である。

で、『忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第19回』(NHK総合201702181810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・清水一彦を見た。赤穂義士・磯貝十郎左衛門(福士誠治)の内縁の妻・きよ(武井咲)は「赤穂浅野家再興の志」を胸に儒学者・細井広沢(吉田栄作)らの画策により、甲府宰相・徳川綱豊(平山浩行)に送り込まれる。五代将軍・綱吉によって将軍世嗣と定められた綱豊は徳川家宣となって江戸城西の丸に入る。十郎左衛門への恋心から・・・虚無に囚われていたきよだったが・・・将軍家の血筋を絶やさぬことを宿命とする家宣の心に触れて・・・身も心も家宣に捧げる覚悟が定まるのだった・・・。

ある意味・・・乙女心が蹂躙される話なのであるが・・・そういう時代なのである。

家宣の祖父にあたる家光を産んだ崇源院(お江)は徳川秀忠と婚姻する前は豊臣秀勝の妻であり、その前には佐治一成の妻であった。

徳川家康の母である伝通院(於大の方)を産んだ華陽院(源応尼)は水野忠政、松平清康、星野秋国、菅沼定望、川口盛祐に嫁いでは後家となっている。

それが女の務めだったのである。

ドラマ的には十郎左衛門に処女を捧げた体であるが・・・側室となるのに不足はないのだった。

家宣の正室である近衛熙子(川原亜矢子)は後水尾天皇の孫で霊元天皇の姪、そして東山天皇の従姉という雲の上の存在で・・・ある意味、きよはどこの馬の骨だかわからない存在である。

しかし・・・お子を孕めば・・・お部屋様なのである。

宝永五年(1709年)十二月・・・家宣の側室の一人、大典侍(おおすけ)の方ことお須免(野々すみ花)は徳川大五郎を出産する。

いずれも早世した熙子の産んだ夢月院、右近局(内藤理沙)の生んだ家千代に続く家宣の三男である。

そして・・・お喜世の方にも懐妊の兆しがある。

「お腹にお子を授かりました」

「・・・でかした」

家宣に褒められ微笑むお喜世であった。

宝永六年(1709年)一月・・・お喜世の方は江戸城西の丸奥御殿に部屋を与えられ左京局となった。

左京局付の中臈江島(清水美沙)は「お部屋様としての心得」を左京の局に説くのだった。

「けしていまわしきものをごらんになってはいけませぬ」

思わず・・・江島の顔を見る左京局・・・。

「妾の顔がいまわしゅうございますか」

「江島様・・・けしてそのようなことはありませぬ」

「江島とお呼びください・・・あなた様は・・・将軍世嗣のご側室という身分になられたのでございます」

「江島様・・・」

「江島でございます」

戸惑う左京局である。

大五郎の誕生・・・左京局懐妊で賑わう西の丸奥御殿。

そして・・・一月十日・・・。

江島は・・・御年寄の唐澤(福井裕子)に呼び出される。

奥座敷には正室・熙子、大典侍の方、正室付御年寄の岩倉(福井裕子)が顔を揃えていた。

「先ほど・・・本丸より報せがあった・・・公方様がお隠れになった・・・」

五代将軍徳川綱吉は麻疹により薨去した。享年63だった。

江戸城は徳川綱吉の葬儀に向けて動き出した。

徳川家宣の側用人となった間部詮房(福士誠治2役)と旗本で朱子学者の新井白石(滝藤賢一)は綱吉の政治の象徴といえる「生類憐れみの令」を一月二十日に廃止した。

新時代の幕が開いたのである。

「生類憐れみの令」が悪法であったとは言えないという研究もあるが・・・人命よりも畜生の命を大切にする法令が良法でないことは明らかだった。

「生類憐れみの令」の廃止に庶民は快哉を叫んだ。

五月一日・・・徳川家宣に将軍宣下があり・・・家宣は名実ともに・・・江戸城本丸の主となったのだった。

七月三日・・・左京局は家宣の四男・世良田鍋松を出産する。

ここでドラマは虚構空間に突入する。

三男・大五郎が早世するのは宝永七年(1710年)八月のことであるが・・・ドラマでは鍋松が生れる前に薨去してしまうのである。

なにしろ・・・虚構なのでなんでもありなのだった。

伊豆大島に遠島にされた赤穂浪士の遺児たちは浅野内匠頭の正室・瑤泉院(田中麗奈)やきよの伯母である仙桂尼(三田佳子)の尽力により、宝永三年(1706年)八月の徳川家綱の二十七回忌法事による特赦として中村正辰の長男・忠三郎も、吉田忠左衛門兼亮(辻萬長)の四男・伝内兼直も江戸に帰着している。綱吉が死去した宝永六年には大赦によって・・・僧となっていたものが還俗を許されたのである。

そして、内匠頭の実弟である浅野大学も赦免され五百石の旗本に列したのである。

つまり・・・鍋松が生れた一ヶ月後には浅野家のお家再興は叶ったのである。

だから・・・仙桂尼が「きよが将軍のお子を産みました」と報告し、瑤泉院が「やったな」と叫び・・・落合与左衛門(山本龍二)が「万歳三唱」をして瀧岡(増子倭文江)が「ほんにほんに」と言ってハッピーエンドなのであるが・・・やはり・・・きよが月光院になるまで描きたいらしい・・・。

なにしろ・・・下世話な世界では・・・月光院よりも「江島事件」の方が受けるからな。

そういうわけで・・・おどろおどろした・・・江戸城西の丸である。

時は遡り・・・宝永六年の梅雨時・・・。

臨月の迫る左京局の食が進まぬことを案ずる江島・・・。

奥医師の一人であるらしい上岡法印(村松卓矢)に相談し・・・燕巣(えんず)を長崎から取り寄せる江島だった。

「燕の巣でございます」

「燕の巣・・・」

「お肌がつやつやになると申します」

「おえっ・・・」

仕方なく・・・三河国とも甲斐国とも言われる江島の里から西瓜をとりよせる江島だった。

その頃・・・大五郎は夏風邪をひいていた。

江島の西瓜を見た大典侍の方付の侍女が・・・大五郎のために分け与えてもらう。

西瓜を食した大五郎は・・・食中毒の症状を示すのだった。

慶長の頃に法印となった野間玄琢の家系であろう奥医師の野間法印(麿赤兒)は顔を顰める。

「薬湯をのませておけば・・・」

熙子は江島を問いつめる。

「そなたは・・・左京の局の子が・・・それほどまでに・・・可愛いのか」

「滅相もない・・・誤解でございます・・・西瓜は左京の局様のために用意したもので」

「左京は・・・食うたのか」

「いえ・・・なにしろ・・・食が・・・」

「大五郎だけが西瓜を食べて・・・このようなことになったのじゃ」

「お許しくださりませ・・・」

「大五郎にもしものことあれば・・・ただではおかぬ」

江島の身を案じて臨月の腹を抱え左京局が現れる。

「江島は・・・お血筋を絶やさぬことを一心に案じているものでございます・・・けしてそのような邪なことはいたしませぬ」

「ええい・・・さがっておれ・・・妾は大五郎のために御祈祷らねばならぬのじゃ・・・」

しかし・・・産気付く左京局。

「左京・・・」

「左京の局様」

「誰かあれ」

産婆(外海多伽子)がかけつける。

ドラマでは看護の甲斐なく・・・大五郎は史実より一年早く・・・世を去るのだった。

「あああああ」

「左京局さま」

「うううううう」

「しっかりなさいませ」

「おおおおお」

「江島がついておりまする」

「えじまああああああ」

「おぎゃあ」

こうして・・・鍋松はこの世に生を受けた。

「この子は・・・大五郎の生まれ変わりのようじゃ」と誰もが思うのだった。

近衛煕子は・・・生れた子を引きとると申しつける。

江島が言上する。

「おそれながら・・・申し上げます・・・左京の局様がお腹を痛めた子・・・どうか日に一度の御目通りを賜りますことをお許しくだされませ」

「苦しゅうない・・・よきにはからえ」と将軍・家宣・・・。

「妾とて・・・」と煕子。「子を孕み産んだ身じゃ・・・左京の心は心得ておる・・・日に一度は鍋松に会いに参るがよい」

十一月・・・西の丸御殿の女たちは本丸大奥へと引っ越す。

鍋松を抱き・・・庭を渡る家宣・・・。

「左京よ・・・大五郎のみならず・・・鍋松は・・・早世した我が子たちの生まれ変わりのように思うてならぬのだ・・・」

「公方様・・・」

「そちには・・・褒美をとらせたい・・・何が望みじゃ・・・」

「・・・」

万感が胸に迫り・・・言葉を失う右京局だった。

月光が江戸城を照らす。

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2017年2月22日 (水)

彼らと彼女たちのすれ違い(吉岡里帆)

カルテットの名前は「ドーナツ・ホール」である。

ドーナッツの穴は・・・存在するが存在しないものの象徴である。

ドーナツの穴はドーナツではない。

しかし・・・人間はドーナツの穴を含めてドーナツだと考える。

ドーナツの穴はドーナツの不可欠な欠損なのである。

人間にはそんなことがどうでもいい人とそうではない人の二種類がある。

男は女にドーナツの穴を求めていた。

だが女はドーナツなのである。

しかも・・・女はドーナツとも言い切れない。

なぜならその穴はトンネルではなく・・・洞窟なのである。

そして男はバナナなのだ。

え・・・これは下ネタなの。

下ネタである。

で、『カルテット・第6回』(TBSテレビ20170221PM10~)脚本・坂元裕二、演出・坪井敏雄を見た。カルテット・ドーナツホールの第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)は夫が失踪中の人妻である。巻氏の失踪の謎を探るチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)は「真紀が息子を殺した」と主張する真紀の姑である巻鏡子(もたいまさこ)との関係を断つ。しかし、後継者となった元地下アイドルでライブレストラン「ノクターン」のアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)はすべての秘密を暴露してしまう。いたたまれずに世界的指揮者を祖父に持つ第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)の別荘から脱走したすずめは・・・駅前で失踪中のまきまきの夫である巻幹生(宮藤官九郎)と遭遇するのだった。

ミキオは「カルテットドーナツホール」のチラシを持っていた。

その夜・・・すずめとミキオは素晴らしいインターネットの世界に繋がる小部屋で夜を明かす。

ミキオは時々ノーパンのヴィオラ・家森諭高(高橋一生)の先輩を名乗り・・・「カルテットドーナツホール」の演奏を聞きたいのだとすずめに仄めかす。

巻鏡子が妄想する「殺人事件」の被害者が生きていることを知ったすずめは・・・ミキオを別荘に誘導することを決意していた。

すずめが家出した翌朝・・・まきまきはすずめを案じていた。

しかし・・・別府は素晴らしいインターネットのアプリケーションですずめと連絡がついていることを伝える。

「ちゃんと返事がありましたし・・・昨日はネカフェで・・・今日は帰ってくるって」

「でも・・・すずめちゃん・・・いつもはスタンプなんか使わないし」

すずめの心理的な「不安定さ」を推測するまきまき・・・。

そこへ・・・ヤモリが顔を出す。

「なんか・・・簡単に十万円がゲットできるアルバイトがあるそうなので・・・行ってきます」

「戸籍を・・・」と別府。

「売りません」

「シンジケートに・・・」とまきまき。

「入りません」

「・・・行ってらっしゃい」

まきまきは姑の鏡子を軽井沢駅に迎えに行く。

別府はドーナツ販売チェーン「ふくろうドーナツ」に出勤するのだった。

ヤモリにアルバイトを紹介したのはライブレストラン「ノクターン」のホール担当責任者・谷村多可美(八木亜希子)である。

「珍しい猿が逃げたんです」

「どんな風に珍しいんですか」

「ふぐりというか陰嚢というか金玉が青いのです」

「パタスモンキーかサバンナモンキーですね・・・」

そこに・・・アリスがやってくる。

「ふぐりってなんですか」

タカミの夫でシェフの大二郎(富澤たけし)はアリスが「ふぐり」を検索する様子にうっとりするのだった。

おそらく・・・アリスもまた・・・「青い金玉の猿」を捜すために召喚されたのだろう。

ヤモリは「青い金玉の猿を捕獲したら十万円」の「アルバイト」にアリスとチャレンジすることにスリルとサスペンスを感じるのだった。

雪が降る駅前で・・・道に倒れた通行人を助けたミキオとすずめは・・・鏡子を迎えに来たまきまきとすれ違う・・・。

まきまきは姑に教会で・・・「結婚生活の顛末」を語り、ミキオは別荘で「恋愛結婚の破綻」を語る。

お茶の間は・・・夫婦の心のすれ違いをそれぞれの立場で見せつけられるのだった。

2013年・・・広告代理店のクリエイターだったミキオは・・・プロのヴァイオリン奏者だったマキと送迎のためのタクシーで出会う。

「美人の音楽家」に一目惚れするミキオ。

「お仕事関係の人」と特に印象がなかったマキである。

クリエイターとして・・・アーティストと恋することの素敵さに目が眩んだミキオは積極的にマキにアプローチするのだった。

「音楽一筋」に生きてきたマキに・・・得意分野はないが・・・幅広い教養を持つミキオは時に新鮮で時に頼もしく映ったのだろう。

「アーティストへの憧れ」に支配されているミキオは「特別な存在」であるマキをゲットするために「素敵な交際」をプロデュースするのだった。

「マキマキになっちゃうけど・・・いいかな」

「ちゃんとプロポースしてください」

「僕と結婚してください」

「はい」

こうして・・・まきまきが誕生したのだった。

出会いのタクシーで制作の男は最初に幡ヶ谷で降りる。幡ヶ谷から早稲田までミキオとマキは小声で会話するわけである。

「・・・ですか」

「え」

「一度・・・お食事でもいかがですか」

「・・・ですよ」

「え」

「いいですよ」

早稲田から本郷までミキオは新しい冒険の始りにウキウキするのだった。

交際中のマキはミキオにとってそれなりにミステリアスである。

なにしろ・・・ミキオはオーケストラに参加してピエトロ・マスカーニ(1863~1945年)のオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ(田舎の騎士道)」でヴァイオリンを演奏したことがない。

マキにとってそれは「日常」なのである。

ミキオはマキに・・・自分が芸術を理解する男であることをアピールするためにお気に入りの詩集を贈る。

「あなたが書いたの?」

「いや・・・僕が好きな作家なんだ」

「へえ・・・」

ミキオにとって・・・自分が愛するものはミキオ自身を意味するのだが・・・マキにとってミキオはミキオ本人なのである。

ミキオはドーナツの穴をマキに示した・・・マキにはそれを見ることはできない。

マキは「カヴァレリア・ルスティカーナ」について簡単に語ることができるだろう。

演奏するためにはいろいろな解釈が必要だからである。

「トーリとローラは恋人だったんだけど・・・トーリが兵役についている間に・・・ローラはアルフと結婚してしまうの。仕方なくトーリはサンタと結婚することにしたんだけど・・・ローラのことをあきらめられなくて・・・アレしちゃうわけ・・・それがサンタにバレて・・・サンタはアルフに告げ口して・・・ここで有名な間奏曲が流れるわけ・・・怒ったアルフはトーリに決闘を申し込み・・・トーリは一巻の終わり・・・こんな感じの話よ」

ミキオは自分の知らない物語を話すマキにうっとりして・・・性的な衝動にかられるのだった。

後に・・・二人には子作りが難しいことが明らかにされるが・・・それがどちらの生殖能力に問題があるのかは明らかにされない。

しかし・・・それについて主体的に語るのがミキオであり・・・マキが「残念だ」と感想を述べるので・・・欠陥があったのはミキオだったと推測できる。

性的に不能ではないが無能であることは・・・ミキオの精神を蝕んでいくわけである。

マキが家族になろうと決めた相手は・・・性的な劣等コンプレックスによってダメ人間から社会のクズへと転落していくのである。

ミキオは社会的常識である「結婚したら家族」という前提から逸脱して・・・「恋人夫婦」であることに偏執し・・・一種の変質者となっていくのである。

ミキオは自分の「魂」の琴線に触れる「傑作映画」をマキと感動を共有しようとする。

しかし・・・すでに「芸術家」としての「魂」を確立しているマキにとって・・・それは「退屈」な映画だった。

ミキオはマキとの関係が・・・「自分の思った通りのものではないこと」に怒りを感じる。

「大好物のトリの唐揚に大嫌いなレモンを無造作にかける」まきまきが許せないのだった。

同時に「自分」をさらけ出しマキに「自分」を否定されることになった場合のみじめさにも耐えられないと考える。

だから・・・「レモンは絞らないで」とは言えないミキオなのである。

マキはミキオという家族を入手して・・・奏者であることを止めて専業主婦として生き始める。

まきまきとなったマキは・・・「夫が寂しい気持ちにならないように家で帰りを待つ妻」になったのである。

奏者でなくなったマキは平凡な女だった。

話題はテレビがお茶の間に示す範囲内。

近所のちょっとしたもめごとが最大のトラブルである。

ときめきからは程遠い女なのだ。

それは・・・ミキオがうんざりして逃げ出した母親の鏡子を連想させる。

しかし・・・そういうことに耐えるのが夫婦生活だという人もいるだろう。

さらに・・・そういうことを楽しむべきだと。

だが・・・勤務先の人事異動により・・・クリエーティブ課から人事課に異動になった時・・・ミキオは追い込まれるのだった。

マキは「独立」をミキオに奨める。

しかし・・・ミキオは「才能」を自分に見出せない。

だからこそ・・・特別な女として・・・マキを求めたのである。

しかし・・・気がつくと巻家は・・・サラリーマンの夫と専業主婦で形成されているのだった。

ないものねだりを続けたミキオはドーナツの穴には何もないことに気がついてしまったのである。

体調を崩して入院したマキ。

その病名が明らかでないことも一つのミステリーである。

音楽から家庭へ乗り換えたことへのストレス・・・あるいは不治の病。

しかし・・・平凡な女になってしまったまきまきから解放されたミキオはつかのまの安堵を感じる。

自分を守るだけで生きていける気安さ・・・。

映画館でいかにも「趣味」に生きる昔の同棲相手・・・水嶋玲音(大森靖子)と再会するミキオ。

おそらく・・・ミズシマは・・・ミキオと似ている女なのである。

ないものねだりを続ける女。

だから・・・ミズシマとミキオは意気投合する。

しかし・・・ミキオはたちまち・・・自分自身を見ることに飽きたのだろう。

「結局・・・長続きする愛ってのは見下している相手に寄り添うことができる人間と・・・尊敬している相手にひれ伏し続ける人間にしか許されないんじゃないかな」

「生ハムと焼うどんはおつまみに最高だしな」

ミズシマはミキオを求めるが・・・ミキオは答えない。

「自分のような他人」よりも「今は普通だが昔は特別だった他人」を選んだのである。

ミキオはマキにヴァイオリンを弾いて欲しかった。

しかし・・・マキはミキオのために挽肉をこねるのだった。

そして・・・マキはミキオが愛した詩集を鍋敷きとして使う。

たまたま・・・それがそこにあったので。

誰が悪いというわけではない。

そして・・・ミキオには更なる転勤の辞令が降りる。

それはおそらく左遷だったのだろう。

ミキオは自分で評価するほどには社会に評価されない現実に喘ぐ。

ミキオはマキと温泉旅行に行く。

ひょっとすると・・・ミキオはミズシマを誘うつもりだったのかもしれない。

そこで・・・熟年夫婦と出会う。

まきまきは共に老いて行く二人に憧憬を感じる。

ミキオは・・・ずっと連れ添うことに・・・倦怠を感じる。

誰が悪いというわけではない。

しかし・・・ミキオの中で破壊衝動が高まって行く。

それは・・・自分自身に向っていく。

ミキオはベランダから飛び降りた。

「妻に背中をおされたんですよ」

心理的に・・・という話を・・・ミキオは入院中のヤモリに話したのである。

病院で同室となったヤモリはミキオの贅沢な悩みを聞き流した。

しかし・・・ミキオより堅気ではないヤモリはいざとなったら・・・強請の材料にしようと心の奥にメモしたのだった。

「三階から落ちたくらいじゃ人は死なないよ」

「二階から落ちて亡くなる人だっていますよ」

男たちはバナナを食べた。

ミキオはギロチンが死んでもミズシマを助けにはいかなかった。

ミキオはマキに無断で会社を辞めた。

それでもあの日が来なければ・・・二人の人生は続いたのかもしれない。

だが・・・地球は偶然の出会いのために回り続けているのだ。

居酒屋で元部下の村上(阿部力)に愚痴を言うミキオ。

「レモンは嫌いなんだよ」

居合わせたまきまきは雷に打たれる。

「愛してるけど好きじゃないんだよ」

まきまきはどしゃぶりの中を立ち去るのだった。

ミキオは聞かれてはいけない言葉を聞かれてしまったことに気がつくのだった。

ミキオを愛そうとして・・・そこに幸せを感じていたまきまき。

最後まで自分だけを愛し続けるミキオ。

子孫繁栄という人類としての目的にも逃避できない不毛夫婦である。

ベッドサイドに花を飾り・・・それなりに愛を交わした日々。

価値観が合わない妻と器の小さい夫は小洒落たカフェのコーヒーと特価のコーヒーの間で宙吊りになってしまったのだった。

マーガレットも枯れ・・・ガーベラも枯れ・・・スイートピーも枯れ果てたのだ。

それでもミキオとまきまきは修復の糸口を探してあえぐ。

ミキオはとりあえず靴下を脱ぐ。

まきまきは・・・餃子につきもののラー油を口実に部屋を出る。

追いつめられたミキオは裸足ですべてから逃げ出すのだった。

まきまきの二年間の結婚生活を聞いた鏡子は・・・平手打ちまでしておいて・・・すべてに納得してしまうのだった。

「かならず・・・バカ息子を捜してきますので・・・待っていてください」

「いいえ・・・お義母様・・・私・・・離婚届を出したいと思います」

「・・・」

「もう・・・愛されていないことを知ってしまったので」

それ以上の説得をあきらめる姑だった。

その頃・・・別府は会社の倉庫に閉じ込められていた。

その頃・・・ヤモリはアリスに別荘の鍵を奪われていた・

別府は充電残量1%の携帯端末でヤモリに救援を求める。

その頃・・・まきまきは別荘に向っていた。

「なんか・・・別府くん・・・会社で閉じ込められちゃったみたいです・・・携帯の充電切れで」

「別荘に帰ったら別府さんの名刺を捜して・・・会社に連絡してみます」

その頃・・・すずめは宅配便の人に・・・ミキオのスニーカーに残るカラーボールの痕跡を指摘されていた。

「それからどうしたんですか」

「退職金を全額引き出して・・・関西方面に立ちまわりました・・・金に不自由しない一人旅って・・・楽しいし・・・」

「資金が尽きて・・・銀行強盗ですか」

「コンビニです」

「コンビニ強盗ですか」

「強盗って言うか・・・七十円しかなくて・・・コンビニの店員さんがいないのにレジが開いていて・・・三万九千円ほどいただいて・・・そしたら店員さんが出てきて・・・肉まんケースを倒してカラーボール投げられて」

「通報します・・・ああ・・・まきさんになんと言ったらいいか」

その頃・・・まきまきは別荘に向っていた。

その頃・・・すずめは後ろ手に縛られ二階の部屋で猿ぐつわをかまされていた。

別荘にアリスが侵入する。

何故か・・・アリスはまきまきのヴァイオリンケースを愛おしそうに抱きしめる。

ケースを肩にかけ・・・二階へ向かおうとするアリス。

階上から降りてくるミキオ。

お互いの正体を知ってか知らずか・・・格闘戦に突入。

「なんですか!」

フライパンでミキオを怯ませたアリスはケースを抱えたままベランダへと逃れる。

「それは・・・まきちゃんの・・・大切なヴァイオリンだ」

叫びながらアリスに武者ぶりつくミキオ。

振りまわされたアリスはベランダから飛び出して真っ逆さまに落下するのだった。

階下で何かが起こっていると知りながらすずめは呻くことしかできない。

ヤモリは猿を捜す。

別府はため息をつく。

ミキオは立ちすくむ。

まきまきは・・・。

そして・・・アリスは。

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2017年2月21日 (火)

一瞬の殺意と永遠の後悔の間で(木村拓哉)

誰かに殺意を覚えたことのある人ばかりではないだろうが・・・誰かを殺したいほど憎むことは割とありふれた話である。

そのうちの何パーセントかが・・・実行して・・・そのうちの何パーセントかは後悔するわけである。

つまり・・・何パーセントかは殺意を覚え実行して後悔しない可能性がある。

殺意と実行の間には・・・後悔することへの推測がある。

人を殺したことがない人でも・・・もしも殺したら・・・後悔するのではないかと考えることはできる。

そして・・・絶対に後悔しないか・・・後悔しても構わないと覚悟した人が殺す場合があるわけである。

いやもう・・・やみくもにぶち殺す人は別として。

いつか殺してやると・・・常日頃、考えていて・・・絶好の機会が訪れた場合にも逡巡してしまうのが人間というものである。

そう考える人たちに・・・「あなたは本当の殺意というものがわかっていない」と訴えたい人もいる。

「あいつを殺せ」と言われて殺す人たち・・・。

「死ねばいいと思ってました」と殺さない人たち・・・。

世界は様々な殺意に満ち溢れている。

だが・・・この世界には・・・殺さないという決断もある。

なにしろ・・・ほとんどの人が殺さなくてもいつか死ぬのだから・・・。

それでも大切なものを奪った人間に生きていてほしくないと願うことはそれほど悪いことではないと思う。

で、『A   LIFE~愛しき人~・第6回』(TBSテレビ20170219PM9~)脚本・橋部敦子、演出・木村ひさしを見た。演出家としては井川颯太(松山ケンイチ)と外科医トリオの白川(竹井亮介)赤木(ちすん)そして黒谷(安井順平)のかけあいでもっと笑いもとれるはずだが・・・それをギリギリ抑えてシリアスにまとめたのだろう・・・何度かヒヤヒヤしたが・・・よく抑制されていたと思う。殺したいという衝動も笑わせたいという衝動も似たようなものなのである。笑わせてはいけないところでは笑わせないというも一つの演出力なのだ。

「俺が告知する前に・・・自分で診断したらしい・・・」

幼馴染の外科医・沖田一光(木村拓哉)に報告されて・・・自制心を失う副院長の座にある鈴木壮大(浅野忠信)・・・。

絶望に心臓を掴まれている壮大の沸点は低い。

「お前が告知してくれるって言ったじゃないか・・・こんなことなら俺が言えばよかったよ」

一人で・・・治療の困難な部位の脳腫瘍を自覚してしまった・・・壇上記念病院の院長令嬢である小児科医・壇上深冬(竹内結子)の心を想像し・・・やりきれなさを爆発させる壮大なのである。

一光も壮大の言葉に理不尽さを感じないでもないが・・・妻を思う夫の心とあわせて・・・自分自身の共感もあり自制する。

「・・・」

「家に帰るのがこわいんだよ・・・どんな顔して深冬に会えばいいんだよ・・・」

(俺だって・・・)という感情をねじ伏せる一光なのである。

「私っていつふられたの」という深冬の言葉にずっとうろたえている一光。

十年前に終わったと思った恋が終わっていなかったのである。

なにしろ・・・そのために・・・いい年して独身の一光なのだった。

苦い失恋を忘れるために・・・一日に二人ずつ患者を切って切って切りまくったのだ。

壮大は歯をくいしばり・・・笑顔を装って家庭に戻る。

保育園に娘の莉菜(竹野谷咲)を迎えに行って帰るのだ。

「お父さんの手はどうして大きいの」

「え」

「どうしてどうして」

家路につく子供たちは「どうして」を連発している。

「保育園で流行ってるのか・・・」

どうして・・・せっかく入手した妻が脳腫瘍なんだよ・・・と叫びたい壮大なのである。

帰宅した莉菜は母親が恐ろしい病に冒されているとは夢にも思わない。

「今日の夕飯は何?」

「スパゲティー・ミートソースだよ」

「わ~い、やった~」

壮大の心は竦み上がるのだった。

「夏が帰ってくればいいのに・・・」と絵本を読み終わる深冬・・・。

まもなく・・・娘が母親を失ってしまうかもしれないことに・・・深冬は茫然とする。

そして・・・自分の死後の準備を始めるのだった。

「大切なものをまとめておいたわ・・・ごめんね・・・腫瘍のこと・・・いろいろ気を使わせて・・・」

「大丈夫だよ・・・俺たちの病院を信じろよ・・・俺がついているから」

(一光だっているだろう)とは口が裂けても言わない壮大だった。

壮大の心には大きな穴があいているのだ。

颯太は気配を察していた。

一光の変化を読んだらしい。

颯太もただの親の七光ではないのである。

「深冬先生が・・・病気のことを知ってしまったんですね」

「・・・」

「治療方法が見つかったら告知するのでは・・・」

「仕方ないだろう・・・深冬先生だって・・・医者なんだから」

「どうするんですか」

「なんとしても治療方法を見つけるさ・・・医者が限界だって言ったら・・・患者の命はそこまでなんだから」

「・・・」

颯太は・・・一光が絶望から目をそらしているだけではないのかと懐疑する。

病気は進行していくのである。

救急医療なら一刻の遅れが取り返しのつかないことになる。

脳腫瘍も・・・治療方法が見つかっても手遅れということもある。

颯太の連想が・・・急患を搬送させるのだった。

「救命から・・・呼び出しがかかった」

二人の心臓外科医は救急外来に向う。

「パチンコ屋で意識を失いました」

「大動脈解離の疑いがありますね」

「CTの検査は・・・」

患者の榊原達夫(高木渉)は大動脈解離(正常な層構造が壊れた大動脈は弱くなり最悪の場合破裂してしまう)でDeBakey分類II型(上行大動脈に解離が限局する)と診断される。

「脳虚血状態で意識が回復しないので・・・早急にトータルアーチリプレイスメント(弓部全置換術)が必要と考えます」

壊れかけた血管を人工血管に置換する手術である。

一光の診断に同意する第一外科部長・羽村圭吾(及川光博)だった。

「お願いできるかな」

「はい」

「初めてなので・・・見学させてください」

申し出る颯太だった。

「患者の娘さんが・・・お見えになりました」

真田事務長(小林隆)が案内してきたのは・・・顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)だった。

颯太は胸を張る。

「全力を尽くしますので・・・同意書にサインをお願いします」

「・・・同意しません」

「え・・・」

応接室で榊原弁護士に事情を聞く医師たち。

「同意しないと・・・私が悪いようなことをおっしゃいますが・・・悪いのはあの人です・・・あの人は十五年前に私と母親を捨てて・・・他の女と暮らし始め・・・それ以来・・・音信不通だったのですよ・・・私がどれだけ苦労したか・・・ここで話しますか」

「しかし」と外科部長。「あなたと患者の関係がどうあれ・・・手術しないと危険な状態なのです・・・そしてここは病院です・・・」

「人命第一です」と一光。

「だったら・・・同意書なしで・・・手術なされば・・・」

「・・・」

「どのくらい危険な手術なのですか」

「日本の統計によれば・・・手術になんらかの重大なアクジテントが生じるのは27%・・・つまり・・・四回に一回は何かが起こる・・・」

「死ぬことも・・・」

「あります・・・」

「では・・・こうしましょう・・・執刀医は・・・井川先生でお願いします」

「え」

「私が最も信頼するのは・・・井川先生ですので・・・その条件で・・・手術に同意する書類はこちらで用意します・・・私は弁護士ですから」

「・・・」

壮大は愛人でもある榊原弁護士を問いつめる。

「どういうつもりなんだ・・・」

「わかるでしょう・・・私は父親を殺したいほど憎んでいるの・・・せっかくのチャンスを逃す手はないでしょう」

「馬鹿なことを言うな」

「あなたなら・・・わかってくれると思っていたわ・・・私たち・・・父親によって心に穴をあけられた似たもの同士でしょう」

「何を言ってるのか・・・わからんね」

「あなただって・・・父親を捨てたくせに・・・」

「・・・」

壮大は・・・鈴木医院を継がずに壇上記念病院の娘婿に納まった男なのである。

医師たちは相談する。

「こうなったら・・・僕がやりますよ」と颯太。

「いや・・・君では」と難色を示す外科部長。

「しかし・・・あれじゃあ・・・僕なら確実に患者を殺すみたいなことでしょう」

「まあ・・・そうみたいだね」

「誰のための手術なんだよ」と一光。

「もちろん・・・患者さんのためです」

「わかった・・・僕が助手をします」と一光。

「榊原弁護士も・・・落ちつけばブラックジョークですますだろうし・・・何かあったら僕と君とで処理しよう・・・」と外科部長・・・。

しかし・・・同意書には榊原弁護士の監視が条件となっていた。

「他の先生方は手出し無用です・・・私が信頼しているのは・・・井川先生だけなので・・・」

「だが・・・手術が無事にすめば問題ないのだろう」

「そうですね・・・1/4ですものね」

「・・・」

「しかし・・・井川先生以外の方が手を出して何かあった場合には・・・条件を破ったということで訴訟できますので」

榊原弁護士の冷たい視線に慄く颯太だった。

壮大は外科部長に笑顔を向ける。

「なんとかしてくれよ・・・」

「困った時だけ・・・丸投げか」

「友達だろう」

「君の都合のいい時だけの友情なんだろう・・・」

桜坂中央病院の山本医師(武田鉄矢)の一件以来・・・心にしこりが残る外科部長なのである。

奇妙な条件の手術に懊悩する颯太だった。

「どうしたの」とスーパー・オペナースの柴田由紀(木村文乃)が顔を出す。

最近・・・ナース柴田は颯太の苦悩にも敏感なのである。

「だって・・・無理なんだもの」

「じゃあ・・・あきらめるの・・・まあ・・・沖田先生がなんとかしてくれるものね」

「・・・」

颯太はナース柴田によって闘志に着火されるのだった。

意識不明の患者は・・・世界で人間たちがそれぞれの思惑を衝突させているとは夢にも思わない。

しかし・・・世界とはそういうものなのだ。

世の中には二種類の患者がいる。

特別扱いされる患者とそうではない患者だ。

そして・・・特別扱いが幸せなことであるとは限らないのだ。

壮大は穴のあいた壁に掛けられた風景画を眺める。

榊原弁護士の言葉が・・・壮大を少年時代への回想へと誘う。

沖田一心(田中泯)の寿司屋で小学生の一光がテスト結果を父親に伝えている。

「四十八点かよ・・・しょうがねえな」

「壮大は九十八点なんだぜ・・・すごいだろう」

「お前が自慢してどうする」

「俺・・・腹へっちゃった」

「しょうがねえな」

一心は鯛茶漬けを振る舞う。

「壮大・・・お前も食べていきな」

「マサオですよお」

鈴木医師が・・・壮大の答案用紙を見て叱る。

「医師にはたった一つのミスも許されない・・・98点は0点と同じだ・・・100点以外は価値がないんだ・・・よく覚えておきなさい」

あれが・・・俺の心に穴を開けたのか。

だからって・・・俺は父親を殺すほど憎んでは・・・いない。

壮大は・・・藁に縋る思いで一光の元へと向う。

深冬の手術方法が見つからず・・・結紮のトレーニングで気持ちを鎮める一光。

その姿に壮大は回想に導かれる。

仲睦まじい一光と深冬の姿。

俺の心の穴が・・・二人を陥れたのか。

俺の百点満点を求める気持ちが・・・どんどん穴を広げて行くのか。

だから・・・罰として・・・深冬は脳腫瘍になったのか。

俺を罰するために。

俺から大切なものを奪うために・・・。

「榊原弁護士の・・・妙な意地に巻き込んですまん」

「いや・・・」

「あっちは・・・なんとかするから・・・お前は深冬のことに専念してくれ」

「そういうわけにもいかないよ」

「わかっているのか・・・明日は検査だ・・・検査で腫瘍が大きくなっていれば・・・いや・・・とにかく・・・二ヶ月前から・・・まだ何もできていないってことに・・・」

しかし・・・壁に治療方法をめぐる一光の苦悶の痕跡を見出す壮大。

「わかってるよ・・・そんなこと」

「とにかく・・・たのむよ」

「・・・ああ」

深冬の命が特別な命であることに・・・異論のない二人なのである。

榊原弁護士は・・・まだ・・・その点について「知らない」のだった。

そのことが・・・榊原弁護士の心の穴をさらに広げているのである。

颯太はナース柴田の支援を受けて・・・万端の準備を整えるために努力を重ねる。

ドクタールームでのやりとりを・・・為す術もなく傍観する深冬・・・。

頭部MRI検査の結果・・・深冬の腫瘍は前回検査よりも5 mm肥大していた。

「死」が深冬を追いかけてくるのだった。

自分がまもなくこの世を去って行く。

死線を乗り越えたばかりの父親・虎之助(柄本明)は・・・それを知らずに昔馴染みの病棟ナースと学会に出かけて行った。

沖田医師と二人で小児科を盛りたててくれ・・・という虎之助・・・。

しかし・・・深冬は余命数ヶ月・・・。

そして・・・一光は深冬の手術のために残留しているだけなのだ。

「なんとか・・・治療方法を見つけます」

「よろしくお願いします」

しかし・・・医師であるために深冬にはわかっている。

希望はほぼないのだ。

自分は・・・もうすぐ死ぬのだ。

幼い娘を残して・・・この世から消えてしまうのだ。

深冬の中に渦巻く不安を・・・榊原弁護士は知らなかった。

「幸せそうですね」

「え」

「あなたのように・・・恵まれた人にはわからないでしょうね」

「・・・」

「お金の苦労をしたこともなければ・・・有能な御主人がいて・・・おまけに・・・腕のいい元カレが側で支えてくれる・・・」

「そうね・・・私は幸せよ」

榊原弁護士の敵意に・・・女の直感が働く深冬だった。

しかし・・・そんなことは深冬にとってすでにどうでもいい。

なにしろ・・・死ぬのだ。

深冬の虚無に気圧される榊原弁護士は・・・さらに泥沼に足を踏み入れる。

榊原弁護士の父親の手術が開始される。

モニターで手術を監視する榊原弁護士・・・。

「こんな時に・・・いい加減にしてくれよ・・・」と壮大は愚痴る。

「こんな時って・・・どんな時ですか」

深冬の病状について口を閉じる壮大。

「・・・」

「提携の件も上手くいっているし・・・いいですよ・・・私たちの関係を清算しても・・・奥様もそろそろ私たちの関係に・・・気がついているようだし・・・」

「そうか・・・ありがとう」

「・・・」

「出て行けよ・・・」

「弁護士契約も切ってもらって構いません」

その時・・・手術室でアクシデントが発生する。

体外循環式装置による送血中に逆行性大動脈解離が起きたのだった。

レアケースに動きが止まる颯太。

危機を感じた外科部長が手術室に向う。

壮大は外科部長に電話をする。

「おい・・・急いで」

「俺に・・・命令しないでもらいたいね」

「なんだって」

「院長は学会で不在だし・・・ここでなんかあったら副院長責任だろう」

しかし・・・手術衣に着替え手術室に入る外科部長だった。

壮大は・・・思わず手術室の拡声器で指示を出す。

「おい・・・なんとかしろ・・・沖田先生・・・変わってくれ」

「うるさいな・・・静かにしてくれ・・・執刀医が決断中だ」

「・・・」

「井川先生・・・準備は万端なんだろう?」

「・・・フローダウン」

人工心肺からの送血を減ずる指示を出す颯太。

マスク越しに颯太の気迫が周囲を圧する。

「だな・・・それでいい」

トータルアーチリプレイスメントは無事に終了した。

虚脱する颯太にナース柴田は焼き肉をおねだりするのだった。

榊原達男は意識を取り戻した。

榊原弁護士が病室に姿を見せる。

「今回・・・医療費はすべてこちらがお支払いしますので・・・」

「みのり・・・」

「私は弁護士になりました・・・すべて母のおかげです・・・今後は一切・・・私を頼るようなことは願い下げですのでよろしくご理解ください」

「・・・」

退場する榊原弁護士を追いかけるドクターたち。

榊原弁護士はふりかえる。

「井川先生が手術を成功させてくれたことに感謝しています・・・おかげで今度は私があの人を捨てることができました」

「そういう意地を張れるのも・・・お父さんが生きているおかげなんじゃないの」

「沖田先生・・・自分の親子関係がすべての親子関係だと考えるのは・・・傲慢ですよ」

「・・・」

榊原弁護士は・・・父親に捨てられてからの苦難の日々を振り返るうちに夜に迷い込んだ。

道行く誰かに足をとられ転倒する捨てられた女。

「誰が望んで捨てられると言うのか・・・私はただ愛されたかっただけ」

道に倒れても呼び続ける誰かの名を持たない榊原弁護士なのである。

深冬のことで頭がいっぱいの一光。

荷物を抱えて父親の寿司屋にやってくる。

「なんだ・・・土産か」

「洗濯ものだよ」

「ちっ」

「腹減った」

「何にもねえよ」

しかし・・・鯛茶漬けを出す息子を溺愛する寿司職人。

ぼんやりと食べ始める一光。

一心は塩をふる。

「なんだよ」

「鯛が浮かばれねえんだよ」

息子の疲れを見てとった父親は塩分を増量したのだった。

「お・・・美味」

一光は一心の愛に溺れるのだった。

院長に・・・桜坂中央病院との提携について報告する壮大。

「よくやった・・・と言うとでも思ったのか・・・学会で嫌味を言われたよ・・・恩師の弱みにつけ込んだそうじゃないか」

「私はただ・・・小児科の赤字を埋めようとしているだけです」

「お前は・・・経営者として品性に欠ける!・・・こんな合併に価値などない!」

娘婿に敵愾心を燃やす・・・院長の悪意に心の穴を広げる壮大だった。

院長もまた・・・副院長の苦悩をまだ知らないのである。

颯太は病院に戻った一光に言葉をかける。

「アドバイスありがとうございました・・・沖田先生のおかげで・・・自分の限界を突破できた気がします・・・だから・・・先生も・・・不可能を可能にしてください」

「・・・」

深冬の「死」という暗い穴の中で男たちは足掻くのだった。

院長は孫に絵本を読んでいた。

「夏が帰ってくればいいのに・・・」

深冬は子供服をたたんでいた。

幼い娘は祖父よりも深冬に甘える。

「お父さん・・・遅いね」

「そうねえ」

「ねえ・・・どうして」

「儂がいるからじゃないのか」と微笑む院長・・・。

深冬の父も深冬の娘も・・・深冬の「死」の暗い穴の淵に立っている。

「海で泳ぎたい」

「夏じゃないから無理よ」

「どうして・・・ねえ・・・どうして」

穴の外からの声を煩わしく感じる深冬。

脳腫瘍なのである。

「うるさい」

母の罵声に驚く莉菜だった。

泣きだした莉菜を構いながら・・・娘を伺う虎之助・・・。

「すみません・・・お父さん・・・少しお願いできますか」

「ああ・・・いいけど」

娘を怒鳴りつけた自分に動顛した深冬は・・・主治医の元に向う。

かって・・・恋をした一光の元へ。

「どうした・・・」

「娘を怒鳴ったの」

「・・・」

「オペしなかったら・・・いつまで生きられる?」

「そういうことは・・・気休めだ」

「わかってるわ・・・明日かもしれない・・・夏に海で泳げると思う」

「四ヶ月か・・・五ヶ月だ」

「どうして・・・私が未来の展望を話している時に言ってくれなかったの・・・私のオペのためにここにいるだけだって・・・言ってくれればよかったのに」

「オペの方法は必ず見つけ出す・・・だから君は終わったわけじゃない」

「でも・・・大丈夫だって言ってくれないじゃない・・・私・・・怖いのよ」

深冬は涙が止まらなくなるのだった。

俯いて泣き続ける深冬を思わず抱きしめる一光。

その手は深冬の背中を摩り・・・髪を撫でてしまう。

一光の中で蘇る・・・深冬への恋情。

「絶対に救うから・・・それまでどこにもいかないから・・・絶対に」

深冬を抱きしめる一光を壮大が見ていた。

壮大の中で何かが壊れて行く。

壮大は二人に背を向けて笑いながら歩き出す。

関連するキッドのブログ→第5話のレビュー

Alife006ごっこガーデン。鯛茶のおいしい寿司店セット。

アンナきゃああああああ・・・ついに来た・・・そっと抱きしめて背中をなでなでからの~頭ぽんぽんまで~ダーリンのセクシープレイにアンナはぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんと10回跳んだぴょ~ん。リピする度に10回跳ぶのだぴょ~ん。アライフ式ダイエットぴょん。じいや・・・お腹すいたからたいちゃ作ってケロケロリン

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2017年2月20日 (月)

天文二十四年、松平二郎三郎元信元服す(菜々緒)

今川義元は清和源氏足利家筋吉良家の分家にあたる今川家の総領である。

ある意味で・・・時の将軍・足利義輝から血筋は遠いわけだが・・・実力的には駿河遠江二ヶ国の守護で三河国もほぼ領土化し・・・さらに尾張国を侵略中という太守となっている。

そのために全国から人材も集まってくる。

たとえば今川水軍を率いた伊丹康直は享禄ニ年(1529年)摂津国伊丹城が落城し父の元扶が討ち死にして諸国を放浪後、永禄元年(1558年)に駿河国に流れて今川義元に仕えることになる。

今回、検地の役人として登場する岩松氏が何者かは明らかではないが・・・岩松氏も足利氏流である。

しかし、母系に新田氏の流れもあり・・・南北朝時代には新田一族と足利一族の立場を使い分けて巧みに生き残ったと言われている。

岩松氏の一族には南朝方で戦った新田遠江又五郎経政(田島経政)などもいるわけである。

岩松氏本家は上野国新田金山城に拠ったが天文十七年(1548年)に家老の横瀬(由良)氏に岩松氏純が自害に追い込まれる。

没落した岩松一族が今川義元を頼ったことは充分に妄想できる。

今回・・・ドラマの中で小野但馬守政次は井伊の隠し田を「これは南朝の皇子の里」と言い逃れるわけだが・・・南朝方でもあった岩松氏としては「心得た」と言う他はなかったという妄想も成立するわけである。

基本・・・野武士経験のあるものは落ちぶれた南朝方にシンパシーを感じるのだ。

で、『おんな城主 直虎・第7回』(NHK総合20170219PM8~)脚本・森下佳子、演出・福井充広を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は三代続いた井伊家の家老で井伊直盛の家宰でもある小野政次の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。ドラマの中では井伊一門衆と家老家の対立軸が強調されていますが・・・そもそもは・・・井伊総領家の相続争いが葛藤を生み出しているわけでございます。叔父である直満の嫡男が総領家の直盛の娘に婿入りすることには分家による主家乗っ取りの気配があり・・・総領家の家老としては危機を感じて当然なのですよねえ。総領家とは言うものの国人領主の寄合所帯でございますからねえ。その上で隠居した直平や事実上の支配者である今川家との関係も良好に保たなければならない。そもそも・・・小野家は文武の文の方を担当するために抜擢されたらしい流れもあるのでなかなかに陰惨な関係が構築されていくわけでございます。さらには井伊谷宮や小野宮という氏神的な神道系と・・・龍譚寺に代表される臨済宗ネットワークとの軋轢も妄想できるところでございます。龍譚寺の高僧が小野神社に巣食った鬼を討ったとか屈服させたとかいう伝承が生れる勢いでございます。勝者の歴史の中で闇に消えた怨念がなかなかに蘇っているようでございます。毎週、闇落ちしている政次・・・どこまで墜ちて行くのか・・・。

Naotora007 明応元年(1492年)、大河内左衛門佐元綱の娘とされる於富の方が生れる。明応二年(1493年)、水野清忠の次男として忠政が生れる。永正八年(1511年)、松平信忠の嫡男として清康が生れる。大永五年(1525年)、清康が鈴木重政を攻める。大永六年(1526年)、清康が西郷信貞を攻め岡崎城を築城。清康の嫡男として広忠が生れる。享禄元年(1528年)忠政の継室となった於富の方が於大の方を出産。享禄二年(1529年)、清康が吉田城、宇利城などを攻め、三河国統一をほぼ達成。忠政は清康に降伏し、於富の方を離縁し、於富の方は清康の継室となる。天文4年(1535年)、清康は尾張攻めの最中に家臣の阿部正豊に斬られ死亡。松平信定が岡崎城を横領。広忠は暗殺を逃れ潜伏。於富の方は川口盛祐に再嫁し川口宗吉を出産。天文九年(1540年)、今川義元の援助で広忠が岡崎城を奪還。天文十年(1541年)、於大の方が広忠の室となる。天文十一年(1543年)、於大の方が竹千代を出産。天文十三年(1544年)、広忠と於大の方が離縁。天文十六年、竹千代が織田家に拉致される。天文十八年(1549年)に広忠が死亡。今川軍捕虜となっていた織田信広との交換で竹千代は駿河で人質となる。未亡人となっていた於富の方は華陽院と名乗り竹千代祖母として付き添う。駿府で華陽院は源応尼の名で竹千代を元服まで養育した。

「それで父上はどうして死んだのですか」

「妾はしかとは知りませぬ・・・家来たちの申すには急な病だったとも言いますし、織田の刺客だった片目の岩松という忍びに毒針を打たれたとも言います・・・領地を御検分中に野伏せりに襲われたと申すものもありました」

「岩松と申すものは・・・今川家にもおりまする」

「岩松は源氏の忍びとして各地におるものでございます」

「そうなのですか」

「・・・妾は竹千代殿はお爺様のような名将になられると思いますよ」

「お爺様・・・」

「清康公はそれはもう猛々しいお方でございました・・・なにしろ・・・あっという間に三河一国を治めてしまわれたのです」

「しかし・・・結局、家来に斬られたのだろう」

「・・・」

「我は精々・・・家来に斬られぬ主になろうと思う」

「それはなかなかのお覚悟でございますね・・・」

駿府の松平屋敷の天井裏から今川の忍び岩松八弥が忍び出た。

その顔には鬱屈した影があった。

今川から派遣された検地の役人は二俣城主の松井宗信の配下で岩松三太夫と名乗った。

井伊谷の館で当主・直盛を始め・・・主だった国人衆が使者を饗応する宴を開いている。

そのざわめきが龍譚寺の次郎法師の庵にも聞こえてくる。

奥山のくのいちである伊予が庭先に現れた。

「伊予か・・・今川の使者はどのような男であった」

「なかなかの色男でございましたよ・・・しかし・・・あれは忍びでございますね」

「ふふふ・・・どちらにしろ・・・妾は男に興味はないがな・・・伊予・・・これへ」

伊予は縁側に寄った。

「もっと・・・近うに」

「はい」

次郎法師は伊予を抱きよせた。

伊予は豊かな胸乳を持っている。

次郎法師は襟元から手を差し入れて・・・その感触を楽しむ。

女として生まれながら・・・次郎法師は男というものに興味がわかなかった。

次郎法師は女が好きなのだ。

次郎法師に導かれ・・・伊予は喘ぎ始める。

「愛いのお・・・」

次郎法師は伊予を抱きあげる。

女に生まれながら女しか愛せない。

次郎法師の出家の理由である。

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2017年2月19日 (日)

君の異常な愛情に縛られて海に沈む私でよかった(堤真一)

哀愁というものがどこから沸いてくるのか・・・多くの人々は知らない。

人の心は記憶の断片にすぎないので・・・哀愁には経験による個人差がある。

「あしたのジョー」といえばパンチドランカーである。

パンチドランカーは酔いどれ天使の一種である。

酔いどれ天使はパンチだけでなくギャンブルやもちろん酒にも溺れる。

スタジオの片隅てパンチドランカーと別の酔いどれ天使がやりあっているのを見たことがある。

酔いどれ天使が酒の匂いを漂わせてパンチドランカーの頭を小突き・・・私はヒヤヒヤした。

パンチドランカーというものはパンチを秘めているのである。

しかし・・・パンチドランカーはパンチを繰り出すことはなかった。

私はパンチドランカーも酔いどれ天使も好きだったので安堵した。

それからしばらくしてパンチドランカーは海で溺れて死んだ。

それからだいぶたって酔いどれ天使は酒に溺れて死んだ。

人は皆死んでいくのだ。

「あしたのジョー」がスーパーヒーローとして海に落ちて・・・帰らぬ人になったのかもしれないという流れは私を哀愁の海の底に招く。

しかし・・・多くの人々がそうとは知らずになんとなく哀愁を感じるのだろう。

人は感じやすい生き物だからである。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第6回』(日本テレビ20170218PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。スーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)の本名は左江内英雄である。さえないヒーローなのである。自称警部の小池刑事(ムロツヨシ)は小池郁男で制服警察官の刈野(中村倫也)は刈野助造である。まあ・・・なんとなくそういう感じなのだろう。

左江内氏の忘却光線の恩恵を受けた小池警部は立て続けに警視総監賞をゲットして食べるラーメンもいつもの「来々軒」から「行列のできるラーメン店」から出前するようになっているというのがフリである。

刈野がやってきて「小池さんがラーメンを食べるのを妨害する」という藤子ワールドのお約束を「宿命」として位置づける。

「小池警部・・・事件です」

「なんだよ」

「爆弾を仕掛けた犯人が責任者の携帯電話を教えろというので・・・小池警部の番号を教えました」

「何してくれてんだよ」

そこにボイスチェンジャーで変声した犯人からの着信がある。

(八景島シーパラダイスに爆弾をしかけた・・・避難を開始したらただちに爆破する・・・爆弾の捜索は二人だけで行うこと・・・こちらには全警察官の写真入り名簿がある)

「どんな縛りなんだよ」

いつものんきなフジコ建設営業3課・・・。

簑島課長(高橋克実)が「土日に家族サービスで千葉の牧場にピクニックに行く」と聞いた蒲田(早見あかり)が饒舌を展開する。

「えええ課長が家族サービスするなんて意外です~私の中の課長の好感度急上昇です~課長は土日はずっとパジャマで寝ていると思ってたのです~娘が積木くずしになっていても一緒に風呂でも入るかとか検討違いの冗談でごまかして結局一人で風呂に入ってまた同じパジャマを着てまた寝て日曜日はゴルフに行ってど下手もど下手だふりにつぐだふりをします~」

「いい加減にせんか~」

「今のはどちらかというと・・・左江内係長の土日なんじゃないのか」と池杉(賀来賢人)が矛先を変える。

「だけど係長は奥様がこわいから家では奴隷でしょう・・・会社では係長だけど家ではアルバイト扱いでしょう」

「ひどいな」と左江内氏。

「違うんですか・・・」

「土日の予定については毎週・・・私が提案している」

「えええええ」

左江内家の金曜の夜は週末プレゼンテーションが行われる。

左江内氏が家族に週末のレジャー計画を提案するのである。

「週末はまず河口湖までドライブします」

「ええ~・・・寒い」とお約束でクレームをつける妻の円子(小泉今日子)・・・。

「河口湖に何があるの」と都立源高校に通うはね子(島崎遥香)・・・。

「水があるだけでしょう」と円子。

「河口湖は水たまりではなく魚がいます・・・しかも釣った魚をその場で焼いて食べることができます」

「無理・・・私・・・頭のついてね魚無理~・・・私にとって魚はお刺身だけなの~」と円子。

「僕はステーキがいい」と公立骨川小学校に通うもや夫(横山歩)・・・。

「じゃあ・・・猟銃持ってバッファローを狩りに行くか・・・あはは」

左江内氏の冗談はスルーされるのだった。

「翌日はどうするの」

「富士急ハイランドに行きます」

「ええ~・・・二日続けて富士山周辺なんて・・・遭難するわ・・・天は我々を見放した!ってなるわ」

「それは八甲田山・・・」

「八甲田山って何?」とはね子。

「新田次郎原作の映画だよ・・・ちなみにこの子達は私の命だ~!は聖職の碑ね」

「もういいわ・・・提案は却下・・・明日は日帰りで八景島シーパラダイスに行くことにします」

「えええええええ」

真っ白な灰になる左江内氏だった。

こうして・・・左江内一家は・・・爆弾の仕掛けられた八景島シーパラダイスに突入するのである。

水族館と遊園地が複合したレジャー施設に到着した左江内ファミリーである。

「昨日・・・素晴らしいインターネットの世界で下調べしたんでしょう」

「いろいろとあるらしいね・・・水族館とか・・・乗り物とか」

「じゃあ・・・さっそと乗り物券を買ってきて・・・私たちはブランチしてるから」

「王様か」

チケット売り場を捜す左江内氏に「助けを呼ぶ声」が届くのだった。

「こんな時に」と思いつつ声に導かれバックヤードの事務所にたどり着く左江内氏。

そこには・・・小池刑事が爆弾魔からの指示待ちをしているのだった。

「何があったんですか」

「あなたは・・・」

「ああ・・・変身するのを忘れてました」

スーパーマンに変身する左江内氏。

「えええ」

「スーパーマンです」

「そんな馬鹿な」

左江内氏は刈野を小指で持ち上げてみせる。

「本物です凄いですスーパーマンです」

「実はこの施設には爆弾が仕掛けられているのです」

「えええ」

「潜伏中の犯人とか・・・仕掛けられた爆弾とか透視できませんか」

「それはちょっと無理ですね」

「意外とつかえませんね」

「それより・・・家族のことが心配なのでちょっと失礼します」

「え・・・スーパーマンに家族が」

「はい」

「ただし・・・爆弾のことは他の人には知られないようにしてください・・・避難指示をしたらすぐに爆発させると犯人が言っているので」

「わかりました」

食堂でブランチを楽しむ妻と子供たち。

「大変なんだ・・・爆弾が仕掛けられているらしいので・・・すぐに帰ってくれ」

「なんだって・・・そんな馬鹿なことあるわけないでしょう」

「本当なんだよ」

「で・・・君はどうするつもり」

「私は爆弾処理の手伝いを」

「えええ・・・ただのサラリーマンがどうしてよ・・・嘘確定じゃん・・・どうせ・・・課長から接待の仕事でも急にふられたんでしょう」

「じゃあ・・・仕事ってことでもいいから」

「そんな下らない仕事に行かせるわけないでしょう」

「くだらないって・・・僕が働いているからこうして遊びにも来れるわけだし」

「あ・・・パパ・・・それダメよ」とはね子。

「なんだって・・・ちがうでしょう・・・私がきちんと子育てしてるから・・・君は安心して働いていられるんでしょう」

「すね夫・・・お前も男ならわかるだろう」

「無理・・・小学生にサラリーマンの悲哀なんてわかんない」とすね夫。

「とにかく・・・今日は家族サービスを優先してね・・・さあ・・・誓って・・・私はみんなのおかげで安心して働かせていただいています」

「私はみんなのおかげで安心して働かせていただいています」

「よろしい」

子は鎹と言うが・・・一方的に鎹を打ちこまれている左江内氏なのである。

しかし・・・家族とはそういうものなのである。

子を思う父親はみんなそうやって生きている。

そうでない男は人でなしなのだ。

円子ほどの悪妻ではないとか・・・左江内氏ほど恐妻家ではないと言う人もいるかもしれないが・・・それは単なる体裁にすぎない。

左江内夫妻が夫婦のあるべき姿と言っても過言ではないのである。

そうでない夫婦は夫の暴力に耐えかねて妻が家出をするようなろくでもない家に決まっている。

おいおいおい。

とにかく・・・夫の指示に従うような家族ではなかった。

「せっかくの休日に仕事に行こうとして申しわけございませんでした」と謝罪する左江内氏なのである。

犯人からの指示を待つ小池警部。

逆探知装置が設定された小池警部の端末だが・・・爆弾魔は意表をついて事務所の電話にかけてくるのだった。

「なぜだ」

(逆探知をさけるために決まってる)

「さすがだな・・・どうだ・・・ついでに爆弾の隠し場所を教えてくれないか」

(そうでんな・・・ついでに・・・って誰が教えますかいな)

「うまい・・・ノリツッコミがうまい」

「犯人は芸人です・・・プロダクション人力舎を重点的に」とどこかにあるらしい捜査本部に連絡する刈野・・・。

「よせ・・・人力舎にしぼるな・・・事務所の先輩のシティボーイズさんも元は人力舎なんだから」

「アッシュ・アンド・ディ・コーポレーションにしますか」

「やめろ・・・それは俺の事務所だから・・・芸人専門の事務所じゃないから」

(こちらが本気であることをお知らせしようと思いましてね)

「どうするつもりだ」

(そこから出て・・・海を見てください)

「なぜ・・・そんなことを」

(いやなら・・・爆発させますよ)

「待て・・・言う通りにするから」

(だけど・・・いちいち逆らうから)

「そんなことないよお・・・それは勘違いだってばあ・・・ほらあ・・・事務所の人とかあ・・・いろいろ言われてえ・・・ちょっと心が揺れただけでえ・・・あなたのことを・・・信じてるってばあ」

犯人に対して甘えんぼ彼女モードで応対する警部だった・・・。

海上で大爆発が発生する。

「うわあ・・・」

「本気ですね・・・犯人・・・本気ですね」

(どうだった・・・)

「すごかった」

(わかったら・・・携帯電話の逆探知を解除して・・・)

「しました」

(それでは・・・小池警部の宝探しゲーム・・・スタート!)

「おい・・・ちょっと・・・待て」

不安げに見守る施設の職員たち。

「・・・大丈夫です・・・もう目星はついてますから」

コートの裾をたくし上げる挙動不審な態度で出動する小池警部。

「ここだけの話ですが・・・あれは・・・全く目星がついていないということです」

何故か職員たちに解説する刈野である。

まあ・・・一応ツッコミポジションなのでお茶の間向けに解説しているわけだ。

左江内一家は水族館へ。

「ほら・・・もや夫・・・美味しそうな魚だよ・・・夕飯は魚にしようか」

「ママが焼いてくれるの」

「無理~海鮮居酒屋に行くの」

「バカだね・・・ママは魚を焼くコンロに触ったことないんだよ」と姉として弟を諭すはね子だった。

「ちょっと・・・何・・・そわそわしてるの」

爆弾が気になって心ここになしの左江内氏ほ咎める円子である。

「いや・・・魚が凄いなあって思って」

「パパ・・・演技下手すぎ~」

「ちゃんと家族サービスしたら・・・仕事に行かせてあげようと思ったけど・・・そんなんじゃダメだね」

「そんな~・・・ちょっとトイレに行ってくる」

なんとか抜け出す左江内氏は小池警部と合流する。

「どうなりましたか・・・」

「とにかく爆弾を発見しないと」

「五分だけ・・・お手伝いします」

「なにそれ・・・ウルトラマンより二分長い自慢?」

「いえ・・・種族は違います」

「そうなの」

手分けをして捜索を開始することになるが・・・左江内氏の前にデート中の池杉と蒲田が現れる。

「課長・・・何してるんですか」

「その恰好・・・アトラクションのアルバイトか何かですか」

「君たち付き合ってるのか」

連続美人局事件の時に池杉が語っていた「本命」とは蒲田だったらしい。

超絶なよなよもったいぶる演技の池杉に呼応して超絶ぶりぶりカマトトする蒲田である。

「このことは内緒にしてください・・・課長は社内恋愛に厳しいので」

「もちろん」

「いいえ・・・係長は言っちゃいます・・・だって嘘がつけない人だもの」

「言わないよ」

「言ったら・・・バイトのことをバラしますからね・・・会社はバイト禁止ですからね」

「しかし・・・君たちが付き合ってたとはなあ」

「実は・・・係長が私たちのキューピットなんですよ」

「ええっ」

「言っちゃう・・・」

「言っちゃおう・・・うふふ」

「言うの・・・えへへ」

「言えない・・・ふふふ」

超絶バカップルのコントによって貴重な五分が経過するのだった。

「トイレ長い・・・」

「ちょっとお腹こわしちゃったみたい」

「うそ・・・どうせ・・・課長と仕事の電話してたんでしょう」

「違うよ・・・」

「はい・・・チェック」

円子は左江内氏の携帯端末の履歴をチェックする。

「あら・・・本当ね」

「だから・・・してないってば」

円子の表情が微かに和らぐのだった。

恐ろしいことだが・・・左江内夫妻は・・・円満なのである。

わかる人にはわかる夫婦の機微というものなのだ。

爆弾探しを続ける小池警部は広場にさしかかる。

そこで爆弾魔からの着信がある。

(ここで・・・指令があります)

「なんだ・・・あれか・・・爆弾魔が刑事に無理難題をしかける奴か」

(あれ・・・あるでしょう・・・ペンとアップルの奴)

「流行を追うのは嫌いだ」

(っていうか・・・もう・・・いまさら・・・って奴でしょう)

「深夜で来週・・・マンガ家と作曲家の番組で曲作るって言ってた」

(アレをさ・・・焼売と小龍包やって見せて)

「ええ~・・・そんな恥ずかしいこと~」

(じゃあ・・・爆発させる)

「やります・・・やりますから~」

薄く物悲しいBGMがかかり・・・ペン焼売小龍包ペンを演じる小池刑事だった。

小龍包の肉汁の熱々な感じを熱演する小池刑事にいつしか観客が集まってくるのだった。

水族館の出口でもや夫は「戦隊ヒーロースカマンショー」のポスターに魅かれる。

「これが見たい」

「じゃあ・・・そうしようか」

「ええ・・・私はあんまり・・・」とはね子。

「わかった・・・じゃあ・・・別行動にしよう・・・はね子はアトラクションに乗りたいんでしょう・・・パパはレストランの席取りね」

「ええ~」

とにかく・・・爆弾捜索を再開する左江内氏。

そこにはね子がやってくる。

「レストランの席取りは私がするから・・・パパは仕事に行っていいよ」

「え」

「私も実は友達と待ち合わせしているんだ・・・それに・・・別行動にしたのは・・・仕事に行っていいということだと思うよ・・・ママはただパパが家族サービスしてるってことを子供たちにアピールしたいだけなんだから・・・」

「はね子・・・」

つまり・・・円子は・・・左江内氏が子供思いであることを子供たちに伝えようとしている妻であると見切っているのだった。

そういう家族関係の複雑さを理解できない人は一定数存在します。

左江内家は・・・夫婦は仲良く・・・親子の絆も固いのである。

そう見えない人は本当の家族というものを誤解しているだけなのだ。

上空より捜索を開始した左江内氏は観客の輪の中で芸を披露する小池警部を発見する。

今回・・・忘却光線発生器は手動操作で・・・小池警部の記憶は継続している。

おそらく・・・左江内氏はマニュアルを少し読んだのでスーパーマンスーツの㊙テクニックに精通し始めたのだろう。

よくあることである。

「何をしているんですか・・・」

「爆弾は時限式でもあるらしい・・・私が犯人の気を引いている間になんとか捜してくれ」

「それは大変だ」

あせって捜索を開始する左江内氏だが・・・例の男(佐藤二朗)タイムである。

今回はヒーローアトラクションの演出のアルバイトをしているらしい。

ヒーローショーの敵役が衣装とともに渋滞にまきこまれ・・・到着が遅れているという事態が発生。

コスプレおじさんとしてスカウトされてしまう左江内氏だった。

「いいんじゃないか・・・今はスーパーマンVSバットマンとか何でもありだし・・・ヒーローがダークヒーローになっちゃってアイドルがカルトかカルトがアイドルか仏が神に神が仏に悪魔が天使に天使が悪魔に毒針がスプレーにスプレーが毒針に純情・愛情・過剰に課長に係長に元AKBと元ももクロの交差点なんちゃってママはアイドルなんてったって艶姿なのです」

笑うしかない左江内氏だった。

左江内氏がスーパー戦隊とともに舞台に登場するとどよめく観衆。

その中には円子ともや夫の姿もあった。

「パパ・・・」

敵役としてカスレッドたちの波状攻撃に適当にやられる左江内氏。

思わず父親を応援するもや夫。

「パパがんばって」

さらに円子も。

「パパしっかり」

うっかり本気を出す左江内氏。

スーパーパンチでカスレッドは虚空に消えた。

確実に死んだよな・・・。

「スーパーマンが戦隊ヒーローに勝っても諸行無常である」と演出家は語った。

もや夫も円子も観客も喜び・・・なんとなくうれしい左江内氏である。

カスレッド・・・安らかに眠れ。

人が死ぬのは哀しいことだが・・・いつまでも哀しんではいられないのだ。

そういう問題なのか。

タイムリミットが迫り・・・あせる小池刑事と左江内氏。

そこに謎の老人(笹野高史)が現れる。

「ピーターパンというアトラクションにおかしなものが置いてありますよ」

神の助けである。

神に対し「ありがとう・・・くそじじい」と暴言を吐く嘘をつけない左江内氏。

癇癪を起こすくそじじいだった。

出前用の岡持ちの中に隠された爆弾。

「うわあ・・・もう一分前だよ」

「どうしますか」

「とにかく・・・アトラクションだと思ってる周囲の人を・・・」

「避難させられません」

「三十秒切っちゃったよ」

「どうしますか・・・」

「スーパーマン・・・これを海に捨てちゃってください」

「ええ・・・もう残り時間が・・・」

「助けて・・・スーパーマン・・・みんなを助けて・・・スーパーえもん」

「・・・」

いつの間にか・・・円子ともや夫、はね子といつものクラスメイト・・・さやか(金澤美穂)とサブロー(犬飼貴丈)、そして池杉と蒲田までもが・・・集合している。

律儀な左江内氏は忘却光線を発動させてから海へ向って飛翔する。

「パパ・・・」

大爆発である。

人々は記憶を失った。

刈野が辻褄をあわせる。

「投げましたか・・・」

「投げた・・・俺は・・・昔・・・ピッチャーだったから」

肩を故障して投げられなくなった過去まで遡る偽りのエピソードに激しく頷くはね子だった。

しかし・・・父親に託されたゴキブリの次に行列に並ぶことが嫌いな母親のための席取りの使命を思い出しレストランに走るのだった。

「今・・・係長がいたような気がする」

「いるわけないでしょう」

ぼんやりしている池杉は記憶の残滓を感じるが・・・ドライな蒲田は幻想を振り払うのだった。

ただ・・・円子ともや夫は何かもやもやとしたものを感じながら・・・海を見つめていた。

父親不在のまま・・・帰宅した左江内一家・・・。

ぼんやりとした不安を抱える三人。

「遅いわねえ・・・何やってんのかしら」と円子。

「仕事でしょう」とはね子。

「パパは・・・もう帰ってこない気がする」ともや夫。

無意識の底で・・・爆炎の中に消えた左江内氏の記憶が燻っている三人。

そこへ・・・帰宅する左江内氏。

「なんでビショビショなの」

「イルカショーを見てたらイルカに襲われて気絶」

「おかげで渋滞の中・・・私が運転して帰って来たのよ」

「むしろ・・・僕を残して帰るなんてひどいじゃないか」

「仕事に行ったんだと思ってたから」

「僕が無事に帰ってきてうれしいんだろう」

「何言ってんの」

「またまた~」

熱烈に円子とイチャイチャする左江内氏だった。

家族に広がるやすらぎの輪・・・。

「じゃあ・・・パパはお風呂いただきます」

「沸いてないわよ」

「自分で沸かしま~す」

爆弾魔は「来々軒」の出前持ち(矢本悠馬)だった。

「お前・・・焼き鳥屋のアルバイトじゃなかったのか」

「ゆとりですがなにかじゃないよ」

「小池さん・・・あんたはひどい人だ・・・出世したからといって二十年間贔屓にしていた店に来なくるなんて・・・おやっさん・・・ショックで寝込んじゃいましたよ」

「あんちゃん・・・すまなかった・・・今からラーメン食べてくる・・・ダンカンこのやろう」

「殿・・・僕もたべたい~」

ビートたけしの物まねをしながら小池刑事は去った。

追いかける刈野。

出前持ちは放置されたので仕方なくダンスを踊るのだった。

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2017年2月18日 (土)

冬の終わりの打ち上げ花火はエビングハウスの忘却曲線のように(深田恭子)

あまり多くは語られないが徳川家の家庭教師が大河原(岡山天音)が黒崎(菊田大輔)にチェンジしている。

チェンジの理由は「もっとかっこいい人にして」という児童の希望であった。

岡山天音といえば・・・時々、二枚目枠でも登場するのだが・・・どちらかといえば個性的な顔立ちの整ったブサイクだと思うので妥当だと思う。

今をときめく清水富美加がヒロインを演じた「リアル鬼ごっこ THE ORIGIN」の王様役なんかかなりのキモさだったものな。

岡山天音の所属事務所には安藤サクラ、門脇麦、岸井ゆきの、満島ひかり、山田真歩などが所属していて・・・ある種の不気味さを醸しだしている。

こういう特色もひとつの味わいだよなあ。

能年玲奈に続いて、清水富美加との間にもトラブルを起こした所属事務所の女優陣はそこはかとなく・・・暴走族のレディースを連想させる顔ぶれが揃っている気がする。

あくまで個人的な感想です。

いろいろな個性があるように組織にもいろいろな特色があっていいと思う。

トラブルはいろいろな面倒を撒き散らし・・・うんざりしちゃう現場の人もいるだろうが。

それが人生というものだと歯を食いしばるしかないよねえ。

で、『克上受験・第6回』(TBSテレビ20170217PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・福田亮介を見た。春一番も吹いて冬ドラマも中盤戦である。下剋上は大雑把に言えば子分が親分をぶっ殺すということである。人の一生とは階級闘争の連続であると考えれば・・・それは忘れてはいけない・・・この世の核心部分と言えるだろう。親子の情で世襲的に継続されるシステムとテストによる実力選抜システムの両輪が社会をなんだかんだ維持しているわけである。そういうことに対してああだこうだ言っても仕方ないので・・・どのようなポジションでどのようなタイプであっても面白おかしく生きて行くしかないよ・・・このドラマはそんな風に語りかけているような気がする。

多くの人間は神についてあまり深く考えないで初詣に出かける。

桜井信一(阿部サダヲ)と妻の香夏子(深田恭子)、そして娘の佳織(山田美紅羽)はおみくじを引く。

香夏子は吉、佳織は中吉、信一は凶だった。

桜井一家は絵馬に願い事を書く。

氏神たちはこれを審査するわけである。

「みんな仲良く」と香夏子。

「微笑ましい」

「家族の幸せを願っている」

「受理」

「おいしいものを食べてたくさん寝たい」と佳織。

「微笑ましい」

「寝る子は育つ」

「受理」

「桜葉合格!」と信一。

「邪じゃな」

「身の程知らずじゃ」

「しかし・・・子を思う親心と言えないこともない」

「ただ浅ましいだけじゃ」

「ペンディング!」

神の心を人は知らないので・・・とにかく精進するしかないわけである。

全国オープン模試で偏差値が52に向上した佳織だったが・・・その後は一進一退を続けるのだった。

佳織の成績が伸び悩むことで信一の焦燥感は高まるのだった。

壁は一度は解けた問題が・・・再びチャレンジすると解けなくなっているという点にあった。

つまり・・・覚えたことを片っ端から忘れていくのである。

子供時代・・・信一はあまり覚えなかったので・・・人間が覚えたことを忘れるという基本的なことがわかっていなかったのだ。

つまり・・・馬鹿なのである。

信一は佳織が「忘れてしまうこと」に・・・恐怖を覚える・・・つまり・・・自分の馬鹿が娘に遺伝しているのではないか・・・と考えてしまうのである。

追い込まれた信一はついついスケジュールを逸脱し・・・佳織の睡眠時間を削るのである。

「どうして・・・できないんだ」

「・・・」

「睡眠不足なのか・・・それとも気迫が足りないのか」

「気迫不足だと思う・・・ごめん・・・ちょっと顔洗ってくる」

信一に追い込まれる佳織だった。

香夏子は佳織の身を案じるのだった。

「大丈夫なの・・・」

「大丈夫・・・学校で寝るから」

「先生に叱られない?」

「うん」

「昔は定規でビシッてやられたよな」と信一。

「デコピンとかね」と香夏子。

「デコピンって何?」

「こうやるんだよ」

香夏子は信一をデコピンするのだった。

お仕置きというより御褒美だよね。

大江戸小学校の小山みどり先生(小芝風花)は中学受験組の授業中の居眠りはスルーする方針になったらしい。

佳織・・・徳川麻里亜(篠川桃音)・・・大森健太郎(藤村真優)は熟睡するのだった。

佳織の友達であるアユミ(吉岡千波)とリナ(丁田凛美)は困惑するばかりである。

佳織たちは六年生になっていた。

受験まで残りおよそ300日・・・。

一学期の教師と親の個別面談・・・。

妻と別居中の徳川直康(要潤)と妻が就職した信一は顔を合わせる。

「緊張するよな」

「そうですか?」

直康はみどり先生に「娘を休学させたい」と申し出る。

「まだ・・・一学期ですよ」

「勝負はもう始っています・・・この学校の他の児童の皆さんとも上手くいっているとはいえないみたいだし・・・前の学校でもいじめのようなことがあって」

「私も・・・最初は心配しましたが・・・桜井佳織ちゃんとは仲良しになったみだいだし」

「その佳織ちゃんが問題なんです」

「え?」

直康は・・・娘と佳織の交際が・・・娘の成績に影響を与えているのではないかと危惧しているのだった。

その件で直康は信一に直談判を試みるのだった。

信一は直康を営業前の居酒屋「ちゅうぼう」に案内する。

店主の松尾(若旦那)も元同級生である。

「佳織さんが・・・娘と仲良くなってくれたことには感謝しています・・・しかし・・・最近、娘の成績が思わしくないのです」

「え」

「佳織さんはどうなんですか」

「佳織は偏差値52にあがったけどな・・・」と見栄を張る信一。

「・・・」

「もしかして佳織のせいだと言いたいわけ?・・・麻里亜ちゃんの成績下がっちゃったのが・・・どのくらい下がったの?」

「偏差値65前後です・・・今までは68をきったことはなかったのです」

「え」

「もう・・・時間がありません・・・だから佳織さんと麻里亜は友達付合いを控えた方がいいと思うのです」

「・・・」

「このままでは・・・桜葉に合格できません」

偏差値52で伸び悩む娘を持つ信一は・・・偏差値65で悩む父親にショックを受けたのだった。

それは・・・信一の中の複合的な感情のもつれ(コンプレックス)を激しく揺さぶるのだった。

その頃・・・スマイベスト不動産では長谷川部長(手塚とおる)が香夏子に「見習い期間」の終了を宣告する。

「これからは・・・一人で顧客を担当して・・・歩合をガンガン稼いでください」

「でも・・・私・・・まだ色々とわからないことが」

「大丈夫・・・ナラザキがフォローしますから」

「何でも聞いてください」と頼もしい楢崎哲也(風間俊介)である。

・・・っていうか・・・香夏子・楢崎ペアなら最強ではないのか。

「私たちが売りました」と風が吹くのではないのか。

放課後・・・佳織は麻里亜の家でお勉強会中である。

しかし・・・家庭教師が来れば二人の時間は終わりである。

「私・・・家庭教師の回数を増やしたから・・・学校に行く回数が減ると思う」

「そうなんだ」

佳織は淋しさを感じた。

佳織にとって麻里亜は・・・他のクラスメイトとは違う特別な存在になっていたのである。

佳織は・・・シャープペンシルを置き忘れた。

それは・・・佳織の一種の自己主張だったらしい。

「私を忘れないで」である。

桜井家の一家団欒。

「今日から一人前のハウジング・アドバイザーになったんだよ・・・お客様に一人で応対したんだ」

「お母さん・・・凄い」

「佳織は麻里亜ちゃんと勉強したんでしょう・・・勉強以外のことは話さないの?」

「健太郎の話で盛り上がったよ・・・健太郎も受験するんだ」

「佳織・・・」と鬱屈した思いを吐き出す信一である。「麻理亜ちゃんのところに行くのはやめなさい・・・勉強がはかどらない・・・・もしかしたら麻理亜ちゃんも迷惑に思っているかもしれないじゃないか・・・」

お茶の間に暗雲が立ち込めるのだった。

「俺塾」で・・・佳織は信一の理不尽な申し出に叛旗を翻す。

「どうして・・・問題を解かないんだ・・・」

「・・・」

「そんなに・・・麻理亜ちゃんのことが好きか?・・・でもな・・・麻理亜ちゃんはお前のことそんなに好きじゃないと思うぞ・・・麻理亜ちゃんは偏差値65だそうだ・・・偏差値52のお前のことなんか・・・最初から相手に」

学歴がないために・・・信一が受けた様々な屈辱が・・・言葉の暴力となって佳織を苛むのだった。

佳織は恐ろしい悪鬼と化した父親から逃げ出し香夏子の胸に飛び込んで泣きじゃくるのだった。

誰もが佳織になりたい場面からの入浴シーンのサービスである。

これが「性的な売りもの」というのならそうですと言う他はないわけだが・・・。

名場面なのである。

人間が・・・父と子が・・・母と子が・・・家族が優しく美しく描かれているのです。

すべては・・・認識の深さの問題なのだ。

親として暗礁に乗り上げた信一は・・・父親の一夫(小林薫)を訪ねる。

電球を変えようとしていた一夫を首吊寸前とするコントが展開されるのだった。

「香夏子さんと喧嘩したのか」

「なんでだよ」

「お前が俺んとこに顔出す理由なんてそれしかないだろう」

「そんなことねえよ・・・佳織だっているよ」

「佳織と喧嘩したのかよ」

「・・・」

一方・・・業務連絡のために香夏子と合流したナラザキは・・・香夏子の様子がおかしいことに気がつく。

「どうかしましたか・・・」

「私・・・もう・・・どうしていいか」

「え」

泣きだす香夏子に戸惑うナラザキ・・・。

その様子を大工の杉山(川村陽介)が見ていた!

杉山が師匠の一夫に注進し・・・一夫はスマイベスト不動産に殴りこみをかけるのだった。

「ウチの大切な嫁を泣かせるとはどういう料簡なんだよ」

「ひええええ」

そこへ・・・香夏子が戻ってくる。

「一体・・・何の騒ぎですか」

「あれ?」

もちろん・・・香夏子が悩んでいたのは信一と佳織のことだった。

追いつめられた信一は・・・ついに居酒屋「ちゅうぼう」で禁酒の誓いを破るのだった。

「馬鹿の子は馬鹿で・・・中卒の子は中卒」という諦念である。

そこへ・・・我らがナラザキが疾風怒濤の勢いで登場する。

「何してるんですか・・・佳織ちゃんはもう帰って勉強していますよ」

「いいんだよ・・・もう」

「中学受験は諦めるんですか?」

「だって・・・努力して勉強しても・・・すぐに忘れちゃうんだもの」

「そんなの当たり前じゃないですか」

「当たり前?」

「人間は忘れる生き物なんですよ」

「・・・」

ナラザキは店のメニューを書いた黒板り文字を消し去る。

「おい・・・何するんだ」

「いや・・・なんか面白そうだ」

「・・・」

ナラザキはドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(1850~1909年)の研究による記憶の保存と忘却の関係について示す曲線を描いた。いわゆるエビングハウスの忘却曲線である。

統計的な研究成果を噛み砕いて説明するナラザキだった。

「いいですか・・・人間は覚えたことを一時間後には半分忘れます・・・一日後には七割忘れます・・・一週間後には八割忘れます」

「・・・そうなのか」

「しかし・・・一日後にもう一度同じことを覚えたら・・・一週間後に忘れるのは七割になります」

「一割減った」

「さらに一週間後にもう一度同じことを覚えたら・・・一週間後に忘れるのは五割になります」

「半分覚えたよ」

「だから・・・復習が大切なのです・・・人間は反復することによって記憶を定着させ・・・忘れなくなるのです」

「失恋がいつまでも辛いのと一緒だ」

「そうやって人間はストーカーになるんだよな」

「勉強とはそういうくよくよしたものなのです」

「ナラサキ・・・お前は神か」

「ナラザキです」

一方・・・学校では・・・。

佳織の忘れものであるシャープペンシルを持って学校にやってくる麻里亜。

ちびっこ天使である健太郎が声をかける。

「それ・・・佳織のか・・・俺が返してやろうか」

「ううん・・・いいの」

麻里亜は佳織に話した。

「もう・・・佳織ちゃんとは会わない」

児童の友情に担任としてみどり先生が首を突っ込むのだった。

「お父さんにそう言われたの」

「はい」

「成績が落ちたから?」

「やっぱり・・・私のせいかな」と佳織。

「ううん・・・佳織ちゃんといると楽しいし・・・でも・・・自分の勉強はできなくなる」

「それで・・・どうしたらいいものかと・・・困っていたのね」

「・・・」

「それなら・・・友達よりも素晴らしいものになればいいのよ・・・」

「友達より素晴らしいもの?」

「それは・・・ライバルよ」

「ライバルって敵じゃないんですか」

「いいえ・・・敵はただ憎むべき相手・・・ライバルは相手のことを尊敬し・・・相手ががんばれば自分もがんばるし・・・相手が苦しめば自分の苦しみのように思うことができる・・・飛雄馬と満、ジョーと力石、アムロとシャアのような関係よ」

「わかりません」

「先生もよ」

「ライバル・・・」

「二人はライバル」

なんとなくときめく佳織と麻里亜だった。

みどり先生のお茶の間での評価が一気に高まるのだった。

忘却曲線に光明を見出した信一が帰宅すると佳織は一心不乱にドリルに取り組んでいた。

「佳織・・・こっちをむいておくれ・・・お父さん・・・間違ってたみたいだ・・・佳織が忘れちゃうのは・・・誰のせいでもなくて・・・復習が足りないだけだった」

「お父さんのウソツキ・・・」

「え」

「佳織と一緒にドリルやるって言ったじゃん」

「佳織・・・一人でやってたのよ」と香夏子。

「え」

「私・・・もう麻里亜ちゃんとは会わない・・・麻里亜ちゃんと話して決めたの」

「ええっ」

「私と麻里亜ちゃんは・・・ライバルになったのよ」

「えええ」

娘の成長に・・・親として何か・・・祝福を与えたくなった信一である。

信一は・・・仕事中の直康に面会する。

「娘たちのために・・・バーベキューパーティーをやろうと思うんだ」

「この大切な時期にですか」

「だから・・・けじめだよ・・・これを境に・・・二人はライバルになるんだ」

「ライバル?」

「つまり・・・もう会わないということだ」

しかし・・・直康には信一の言うところを娘に伝えるコミュニケーション能力が欠けていたのである。

娘は・・・会えば別れがつらいので会えない気分なのである。

「私は行かない」

「・・・」

仕方なく・・・バーベキュー・パーティー会場に娘の欠席を伝えに行く直康である。

居酒屋「ちゅうぼう」のメンバーが集まり・・・準備中の河川敷・・・。

「桜井さん・・・悪いけれど・・・娘は来ません・・・家で勉強しています」

「お前・・・そりゃ・・・ねえだろ・・・連れてくるって約束だっただろう」

「・・・麻里亜が自分で決めたことなんです」

「・・・」

「佳織ちゃんは友達じゃない・・・ライバルなんだと麻里亜はいいました」

「まったく・・・これだから頭のいい連中はよ・・・人の気持ちがわからねえのかよ」と理容師の竹井(皆川猿時)・・・。

「皆さんには・・・私や麻里亜の気持ちがわかるんですか・・・私は父に無理矢理・・・転校させられてしまいました・・・友達なんか一人もいない・・・私は勉強するしかなかったんです・・・運動もできない・・・楽器もできない・・・手先が器用でもない・・・そんな私が父に認められるには・・・勉強ができること・・・それしかなかったんです・・・私は皆さんが遊んでいる時に受験問題をひたすら解きました・・・この会に参加しないと決めた娘の気持ちを愛おしく思います・・・皆さんにはわからないかもしれませんが・・・私は娘を誇らしく思う」

がり勉仲間として激しく胸を打たれるナラザキだった・・・。

「おい・・・これでいいのか・・・佳織が泣いちゃうんじゃないか」と一夫。

去って行く直康を反射的に追いかける信一だった。

直康の車に乗り込む信一。

「お前の言ってることはわかったよ・・・だから・・・麻里亜ちゃんに会わせてくれ・・・俺が説得するよ・・・麻里亜ちゃん・・・我慢してるんだよ」

「我慢・・・」

「今日・・・バーベキューしなかったら一生後悔するよ」

「受験に落ちたらもっと後悔します」

「だから・・・あの子はなんていうか・・・ひねくれているだけなんだよ」

「麻里亜を悪く言うな!」

「悪く言ってないよ・・・素直じゃないってことだよ」

運転手がドアを開けたために転がり落ちた二人は流れで河原をゴロゴロするのだった。

その時・・・頭上から子供たちの歌声が聞こえる。

「線路は続くよ・・・どこまでも」

「え」

みどり先生が児童たちと橋を渡ってくる。

その中には麻里亜の姿もあった。

「お招きに与って参上しました」とみどり先生。

香夏子が声をかけていたのだった。

「どうして・・・ウチの子が・・・」

天使の健太郎が微笑む。

「せっかくだから・・・俺が誘ったんだ・・・ピンポン攻撃したらなんてことはなかったぜ」

健太郎の評価も鰻登りなのである。

河川敷のバーベキュー大会は盛り上がるのだった。

傷だらけの父親たちはなんとなくしょんぼりするのだった。

「佳織ちゃん・・・シャーペン忘れたでしょう」

「いいのよ・・・それ・・・麻里亜ちゃんが持っていて」

それは二人のライバルの証らしい・・・。

「佳織ちゃん・・・一緒に桜葉に行こうね」

「うん」

微笑み合う二人。

そんな二人を肩を並べて見守る信一と直康・・・。

「なんか声をかけてやれよ」

「こういう時・・・なんて言ってやったらいいのか」

「笑って髪の毛をくしゃくしゃってしてやればいいのさ」

緊張して小動物に近寄る直康・・・。

「よかったな・・・それ・・・もらったのか」

「うん」と微笑む麻里亜。

思わず直康は髪の毛タッチに成功するのだった。

夜空を焦がす「春」の花火・・・。

季節は「タイトル」とは違うが・・・受験が終わった頃に・・・全国一斉で花火を打ち上げればいいのにと思う今日この頃である。

受験まで残り40週間らしい・・・。

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2017年2月17日 (金)

投げ槍に貫かれ舌を噛み切りそこねて君は(清原果耶)

幻想世界の架空の物語を描く上でもある程度の設定は必要とされる。

小説世界ではかなり曖昧な設定でも断片と断片を繋ぐことはできるが映像化作品ではある程度の「本当らしさ」を紡がなければならない。

架空の設定も現実の歴史を土台にすることは多い。

どの歴史をモチーフとするかは・・・作者の趣味にもよるが・・・受け手もまた趣味による推測が可能である。

物語に登場する国家にも様々な原型が見え隠れするがキッドには日本海を挟んだ半島と列島の関係性が強く喚起されるのだった。

これは・・・キッドが大伴氏による半島進出についてかって妄想したことがあるためである。

北大陸と南大陸の間にある諸島国家サンガル王国は原作では新ヨゴ国と地続きであるが・・・ドラマでは海洋国家となっている。

現実では対馬が対応するが・・・より南洋的な沖縄諸島をはめ込んだようなムードがある。

スケールアップすれば南太平洋の諸島の挿入と言っても良い。

北大陸に存在する新ヨゴ国、カンバル王国、ロタ王国はスケールダウンすれば朝鮮半島の三国時代が連想される。

北の高句麗、東の新羅、西の百済である。

そうなるとサンガルは対馬だったり任那だったりするわけである。

南大陸に存在するタルシュ帝国は・・・つまり大和朝廷なのである。

幻想なので流動的であり・・・シャーマニズムに支配されるロタ王国の南北問題は貧しい北朝鮮と豊かな韓国にたやすく変換できるわけなのである。

あくまで個人的な妄想の話です。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第4回』(NHK総合20170211PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・西村武五郎を見た。第一部の二人の登場人物・・・用心棒バルサ(綾瀬はるか)と新ヨゴ国皇太子チャグム(板垣瑞生)が別行動をしていて二つの物語が同時進行しているため・・・よく言えば話に広がりがあり悪く言えば散漫な印象になってしまうこのドラマ・・・お茶の間の反応も様々なのだろう。キッドは毒々しい展開と平和共存の思想が見事に乖離していると考えている。大まかに言えば・・・バルサとチャグムが再会する時にそれは融合されるのだろう。それまでお茶の間がこの微妙さに耐えられるのかどうかは別として。

夢の中で・・・バルサは過去の自分(清原果耶)を振り返る。

胡散臭い母性を漂わせる四路街の衣装店主人マーサ(渡辺えり)がバルサに失われたものへの郷愁を呼び醒ます。

父親変わりの短槍使いジグロ(吉川晃司)は幼いバルサをマーサに託し・・・去ろうとしていた。

「お前はここに残れ・・・」

「何故だ」

「お前には・・・儂とは別の道がある・・・お前には儂のようになってもらいたくはない」

「嫌だ・・・あなたは私の気持ちがわかっていない」

バルサはジグロのようになりたかったのだ。

だが・・・それは修羅の道だった。

目覚めたバルサは自分の歩んできた血ぬられた道を振り返る・・・それが悪しき道だったと・・・いつから思うようになったのだろう・・・とバルサは考える。

人の命を奪うことに・・・いつから躊躇いを感じるようになったのか。

その答えは暗闇の中にある。

《建国ノ儀の朝・・・ロタ祭儀場の門をくぐれ》

ノユーグ(魔物)に憑依されたアスラ(鈴木梨央)の殺戮力を狙うロタ王に仕えるカシャル(猟犬)の呪術師シハナ(真木よう子)はアスラの兄チキサ(福山康平)と薬草使いのタンダ(東出昌大)を人質にとってバルサとアスラを脅迫するのだった。

「建国ノ儀は八日後」とマーサが教える。

「祭儀場・・・お母さんが殺されたところよ」とアスラ。

バルサは唇をかみしめる。

「どうするの」

「行かないと・・・お兄ちゃんが殺されちゃう・・・お兄ちゃんとタンダさんを助けないと」

「・・・わかった」

バルサの承諾に落胆するマーサだった。

「いつか・・・また・・・ここに戻っておいで・・・アスラは仕立屋として筋がいい・・・私がみっちり仕込めば腕のいい職人になれるよ・・・」

「・・・」

「私がここで待っていることを忘れないで」

「ありがとう・・・マーサ」とバルサはマーサを慰める。

だが・・・マーサのためにも旅立ちを決意するバルサなのである。

マーサの息子のトウノ(岩崎う大)が行商に出るために途中までの同行を申し出る。

「隊商と一緒の方が目立たないだろう・・・こっちも用心棒がいれば心強い」

トウノの好意を受けるバルサなのである。

幼いアスラのためにも荷駄馬車の存在は有効だった。

Seireimap023 カシャルの里ではタンダとチキサが枯れ井戸の底に監禁されていた。

タンダはつっけんどんでもっさりした口調でぼやく。

「こりゃ・・・逃げられないな」

シハナは父親でカシャルの長であるスファル(柄本明)も拘束している。

「シハナ・・・一体、何をしようというのだ」

シハナはつっけんどんでもっさりした口調で呟く。

「建国ノ儀・・・祭儀場にはロタ各地の実力者が集まる・・・そこにアスラを連れて行けば・・・必ず神を呼ぶ・・・タルの民の力を用いて・・・王がロタを一つにまとめる」

「シハナよ・・・お前の慕うイーハン殿下は国王陛下ではあられぬぞ」

「・・・」

ロタ王国のヨーサム(橋本さとし)国王は病んでいた。

「酒をもて・・・」

「兄上・・・」

ヨーサムの弟イーハン(ディーン・フジオカ)は兄の容体を気遣う。

「酒くらい飲ませろ・・・余の命は尽きようとしている」

「そのようなことを・・・」

「・・・もし・・・私が死んでも伏せておけ・・・そして・・・建国ノ儀はお前が取り仕切るのだ」

「私は・・・兄上のような名君になる自信はありません」

「タルの女も愛した男だ・・・なろうと思えば何にでもなれよう・・・お前の望むままの王になればよい」

「兄上・・・」

若き日のイーハンは・・・タルの民トリーシア(壇蜜) と深い関係になった。

賤民と王族の恋は許されるものではなかった。

「お前たちを・・・私が引き裂いた・・・それでも・・・お前の心に眠る慈しみの心までは奪えなかった・・・優しさなど・・・王には無用なものだ・・・しかし・・・自分の優しさを信じることは有用だ・・・お前は私より優しいことを信じればよい・・・己を信じる強い心が民を導く・・・お前はお前の信じる道へとこの国を導けばよいのだ」

ヨーサムは最後の酒を飲みほした。

アスラのサーダ・タルハマヤの力を用いてアスラの母親の愛人だったイーハンは何事かを企んでいるのだった。

豊かな南の民と貧しい北の民の経済格差がロタ王国では内乱の火種となっている。

それを禍々しいサーダ・タルハマヤの力で一つにすること・・・イーハンの優しい外見とはそぐわない何かが・・・その心には潜んでいるらしい・・・。

一方・・・すでにタルシュ帝国に降伏したサンガル王国の司令官オルラン(高木亘)によって身分を伏せたまま虜囚となったチャグムは・・・帝(藤原竜也)の密命を受けた暗殺部隊「狩人」の長モン(神尾佑)によって暗殺されかかっていた。

そこへ・・・聖導師(平幹二朗)の密命を受けたジン(松田悟志) が割り込む。

狩人同志の争いに驚く星読博士のシュガ(林遣都)だった。

「帝は・・・また・・・我の命を・・・」

「モンを生かしておいては・・・チャグム様の命を狙い続けます」とジン。

「殺してはならん・・・」とチャグム。

戦闘帆船の乗員たちはモンを拘束した。

「今なら・・・脱出が可能です」とジン。

「我らも共に参ります」と乗員たち。

「それはならぬ・・・お前たちは虜囚である間は命が保証されているが・・・脱走すれば殺されるかもしれぬ」

「しかし・・・船を操るものがいなければどこにも行けませぬ」

「シュガ・・・お前は残って皆の面倒を・・・」

「星読博士がいなければ船はどこにもたどり着けませぬ」

「・・・」

病人発生を装い・・・見張りを騙そうとした計画はチャグム暗殺のために手段を選ばないモンの叫びによって失敗し・・・屈強なサンガルの兵士たちにジンも苦戦を強いられる。

なんとか海岸線にたどり着くチャグムだが・・・もたもたしているうちにサンガルの兵士の投げた槍に貫かれてしまうのだった。

「あああああああ」

「チャグム様」

意識を取り戻したチャグムはサンガルの海賊セナ(織田梨沙)の海賊船に拘束されていた。

「ここは・・・」

「タルシュ帝国に向う船の上でございますよ」とヒュウゴ(鈴木亮平) が応じる。

「皆の者は・・・」

「無事ですよ・・・牢に戻しました」

「そうか」

チャグムは舌を噛んで自殺をしようとすかるが気配を読んだヒュウゴはチャグムの口に指を挿入する。

「私の指でよければいくらでも噛んでください・・・バルサとはあなたの大切なお方ですかな・・・何度も囈で呼ばれていましたぞ・・・その方のためにも命は粗末になさるな・・・私はタルシュ帝国の軍人ですが・・・元は南のヨゴ国の民でした。南のヨゴはタルシュ帝国と戦い敗れました・・・それでヨゴの人々は不幸になったかといえばそんなことはありませんでした」

「・・・」

「それどころか・・・人々は以前より豊かな暮らしを手に入れたのですよ・・・戦では多くの人々が死にました・・・しかし・・・生き残った人々は・・・今ではこう思っています・・・悪かったのは・・・タルシュに戦を挑んだヨゴのミカドだったのではないかと」

「・・・」

「チャグム殿下・・・あなたには・・・まだ戦を止めるという手が残っている・・・そのために・・・タルシュ帝国というものの現実を知ってみたいと思いませんか・・・ははん」

「ゆびをくちからぬいてくれ」

「おや・・・これは失礼」

スファルは穴牢のタンダの元へと現れる。

「自由の身になったのですか」

「娘の邪魔をしないと約束した」

「何故・・・ここへ」

「お前を助けるためじゃ・・・チキサは殺されぬだろうが・・・お前は殺されてしまうかもしれぬ」

「・・・チキサを残しては」

「タンダさん・・・行ってください」

「チキサ・・・」

トウノの隊商は交易相手の遊牧民の集落に到着する。

「もう少し・・・先まで一緒に」とトウノ。

「いいや・・・ここで別れよう」とバルサ。

「せめて・・・今夜はこの集落に泊まるといい」

「かたじけない」

その夜・・・狼の群れが集落を襲う。

「狼が吠えているよ・・・」

「こわいのかい」

「お父さんは・・・狼にかみ殺された」

「私がついている・・・大丈夫だ」

「でも・・・」

「待っておいで・・・追い払ってくるから」

しかし・・・狼の群れは飢えていた。

槍という武器は剣よりも三倍の利があると言われる。

しかし・・・それはあくまで個人的な格闘の場においての話である。

狼たちの群れによる狩りに対応することにはそれほどの利はない。

突き刺せば抜く必要があり・・・薙ぎ払えば片側が無防備になる。

二匹の狼を屠ったバルサは三匹目に押し倒された。

「くそ・・・」

その時・・・アスラが神を呼んだ。

仰向けに寝たバルサの上を修羅の旋風が吹き過ぎて行く。

狼たちは一匹残らず血まみれの肉塊となった。

振り返ったバルサはアスラの顔に浮かぶ悪鬼の哄笑に震えるのだった。

破壊神タルハマヤの恐ろしさを実感するバルサ。

それは・・・かっての自分の姿を思い出させる。

槍を振るい敵にとどめを刺そうとしたバルサをジグロがいさめる。

「バルサ・・・人を殺すのが楽しいか」

「楽しい?」

「お前は笑っていたぞ」

「笑ってなどいない」

「自分で・・・気づいておらぬのか・・・バルサよ・・・人に槍を振るい人の命を奪っている時・・・人は己の魂を削っているのだ・・・己の魂を己の槍から・・・どのように守るのか・・・それは自分で考えなければならぬ・・・そればかりは俺にも教えられぬ」

「己の魂を守る・・・」

目覚めたアスラはバルサに微笑む。

「ねえ・・・神様・・・いたでしょう・・・バルサにも見えたでしょう」

「アスラ・・・」

「バルサ・・・泣いているの・・・何故泣くの」

バルサは己に問う・・・アスラの魂を守る術が自分にあるのかと・・・。

自分自身の魂を守れているのかどうかもわからないと言うのに・・・。

だから・・・バルサは泣くしかないのだった。

二人の様子をタルの民イアヌ(玄理)が監視していた。

ロタ王国の王宮にシハナが現れる。

「音もなく近寄るな」と叱責するイーハン。

「失礼しました」

「何かあったか・・・」

「トリーシア様の娘を見つけました・・・お会いになりますか?」

「会おう・・・」

「王宮が静かすぎるようでございますが・・・」

「兄が死んだのだ」

「・・・」

「このことは・・・建国ノ儀まで秘せよと命じられた・・・よいな」

「承知いたしました」

人は安全のために力を求める。

そして力は人の安全を脅かす。

それが理というものなのだ。

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2017年2月16日 (木)

命繋ぎます(武井咲)

「命預けます」なら藤圭子である。

「緋牡丹博徒 お命戴きます」なら藤純子である。

正妻との間に二児があり、三人の愛人を次々に妊娠させる・・・現代なら大スキャンダルだが・・・時代劇なら本当にあった話なのである。

フィクションの面白さは・・・お茶の間のモラルに毒された人々の「心」を揺さぶる醍醐味にこそある。

フィクションとノンフィクションの区別がつかないのは一種の病だが・・・世の中にはそういう病に冒された人がいないわけではなく「このドラマはノンフィクション」ですという怪しいフレーズが生まれる。

「大きな声では言えない話」がある社会は不幸である。

しかし「大きな声」で「何か」を隠そうとする社会もまた不幸である。

たとえば「芸能界のしきたり」という意味不明なものを叫ばなければならない人もある意味不幸である。

「契約」が有効なのか無効なのかを裁判所の判断に委ねることも不幸と言えば不幸だ。

何かが上手くいかない時には何処かに原因があるものだがそれが「命そのもの」だった場合も不幸だ。

「悪役」を演じて石を投げられる役者は不幸だがある意味幸いである。

「女優は駆け出しの頃は衣装の布が少ないのが当たり前」と言った名女優は不幸なのか。

「性」を主題にしたドラマと「女優の心」の問題は永遠の主題である。

体当たりの演技という言葉がいつまでも許されますように。

女優が「絶対に性を売り物にしない世界」は空虚でかなり荒廃しているに決まっている。

で、『忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第18回』(NHK総合201702111810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・清水一彦を見た。赤穂義士・磯貝十郎左衛門(福士誠治)の内縁の妻・きよ(武井咲)は「赤穂浅野家再興の志」を胸に儒学者・細井広沢(吉田栄作)らの画策により、甲府宰相・徳川綱豊(平山浩行)に送り込まれる。自分が側室候補だったと知った時には「お喜世の方」と呼ばれ五代将軍・綱吉によって将軍世嗣と定められた徳川家宣の世継ぎを産むことを定められたきよなのである。

そういう時代なのである。

Chukoi003 宝永二年(1705年)・・・きよは江戸城西の丸の奥御殿で左京の方と呼ばれる側室となっていた。

「お殿様に・・・お聞きいただきたいことがございます」

きよは褥で家宣に「赤穂浅野家再興」を願い出ようとするが・・・気配を察した家宣に口を塞がれる。

「一度下った沙汰を覆すためには・・・人々を納得させる大義が必要じゃ・・・時を待て・・・今はその時ではない」

そもそも・・・寝室で愛妾が主君に願い事をするのはご法度(禁止事項)である。

そのために・・・監視役が耳を欹てているのだった。

無茶をするにも程があるのだった。

しかし・・・家宣のすべてを察した言葉に驚くきよ・・・。

(御殿様は・・・私が浅野家に仕えた過去をご存じなのか)

十郎左衛門意外の男に身を任せる日々を完全には受け入れてはいないきよだった。

きよ/左京の局という二重の心がわだかまる。

「月のものを・・・ですか」

指南役である江島(清水美沙)に生理について報告することを命じられ驚く喜世・・・。

「ご懐妊のためには必要なことでございます」

「・・・」

「奥医師の多紀法印様より・・・身体のしくみについて御教授を受けてまいりました」

江島は「御懐妊要録」なる書を喜世に渡すのだった。

「これは・・・」

「よくよく御精読なされますように」

家宣に身を開きながら・・・家宣の子を宿すことを心から受け入れられぬ喜世なのである。

宝永二年六月・・・。

五代将軍綱吉の生母であり・・・元禄十五年に女性としての最高位である「従一位」を授かった桂昌院が逝去した。

喜世の元へ家宣に仕える朱氏学者・新井白石(滝藤賢一)が現れる。

奥御殿も一種の男子禁制の場であるがドラマである。

「間部詮房様からお聞きしていましたが・・・これほどまでにお美しいとは」

主君の側室に言う言葉ではないがドラマである。

「無礼者」と手討にはならないのだった。

「一位様がお隠れになりました」

「公方様もさぞ御気落ちのことでしょう」

「これは世が変わる前触れですぞ」

「・・・」

「去る元禄十四年の刃傷沙汰に際して公方様が下した御沙汰も・・・一位様の官位を賜るに際しての御配慮と無縁ではなかったと申すものもおりまする」

「・・・その件がなければ御沙汰が変わったと・・・」

「いやいや・・・そこまでは申しませぬ・・・しかし・・・世を治める方が変われば・・・御沙汰も変わることは必定」

「そのような大それたお話・・・お口が過ぎるのでは・・・」

「ははは・・・戯言でござるよ」

軽い新井白石であるが・・・儒者として白石は将軍綱吉の治世を憎むこと甚だしいという説もある。

宝永三年(1706年)、伊豆大島へ流されていた村松政右衛門(井之脇海)の依願赦免が認められた。

政右衛門は他の遺児よりも一足早く江戸へ戻り、出家して無染と号した。

そんな人間が西の丸奥御殿に迎えられるわけがないがドラマである。

謎の豪商・木屋孫三郎(藤木孝)は謎の力で村松政右衛門と堀部ほり(陽月華)を連れ西の丸御殿で喜世に御目通りするのであった。

ちなみにほりは元禄十六年(1703年)に肥後国熊本藩藩主・細川綱利に召抱えられた従兄弟の堀部言真(堀部弥兵衛の甥)と熊本に転居したと言われている。

ここではおそらく熊本藩江戸屋敷で侍女をしているということなのだろう。

「御蔭様で江戸に戻ってくることができました」

「私など何のお力にもなっていませんが・・・亡き兄上様はさぞお喜びのことでしょう」

「お喜世の方様は大変なご出世・・・おめでとうございます」とほり。

「はたして・・・これが出世と申せるのでしょうか」

喜世には迷いがある。

「何を申します・・・お喜世の方様は・・・我らの光明なのでございます」

「光明・・・」

「希望の光でございます・・・なにとぞ・・・お世継ぎをお生みくだされませ」

すべての事情を知るほりに・・・「望み」を伝えられ・・・複雑な気持ちになる喜世だった。

もちろん・・・それは「愛する男の子を産みたい」という幻想に基づく心なのである。

お茶の間を相手にしている以上・・・脚本家が避けては通れない葛藤の極みなのだった。

喜世がいかに不本意であったとしても周囲は喜世が家宣の子を産むことを求めるという体裁が必要なのである。

そういう体裁を必要としない右近の局こと古牟(内藤理沙)が懐妊する。

宝永四年(1707年)七月・・・右近局は男子を出産する。

「お手柄であらしゃった」と正室の近衛煕子(川原亜矢子)も右近局をねぎらう。

右近局の生んだ子は「家千代」と命名された。

右近局は一之部屋様と呼ばれることになった。

しかし・・・九月・・・家千代は早世する。

一之部屋様は慟哭する。

「あのような身分低きものが将軍の母にならずにすんでよかった」と正室サイドは罵る。

近衛煕子の大典侍であり、家宣の側室の一人でもあるお須免の方(野々すみ花)は猫嫌いの正室のために・・・一之部屋様の愛猫を密かに追い払う。

愛児を失った一之部屋様は愛猫を求めて夜毎・・・御殿を彷徨うのだった。

「みいや・・・みいや」

「一之部屋様・・・お気を確かに」

喜世は一之部屋様を慰めようと言葉をかける。

「私には何もない・・・」

「きっと・・・また」

「お腹を痛めた子を失った苦しみをわかるものか」

「・・・」

「くやしかったら・・・子を産んでみせよ」

一之部屋様の乱心に言葉を失う喜世だった。

宝永五年(1708年)・・・今度はお須免の方が妊娠する。

「好機到来でございます」と矢島。「一之部屋様は養生所に入られ・・・お須免の方は御懐妊・・・殿のご寵愛を喜世の方様が一身に・・・」

「一之部屋様を里に戻すわけには参らぬのでしょうか」

「側室として一度はお殿様の子をお生みになったお方が里に戻るなどということはありませぬ」

「・・・」

「一生を奥で過ごす定めでございます」

「お須免の方様が・・・お子を産めば・・・私が産まずともよいではないですか」

「何を申されますか・・・お子が男子であるとは限りませぬ・・・お子が無事に生れるとは限りませぬ・・・生れても幼くして亡くなることもございます」

「・・・」

「公方様がお隠れになれば・・・次の公方様とともに女たちは本丸大奥に移ります」

「大奥」

「そこで・・・頂点に昇り詰めるのは・・・次の公方様を産んだお方です」

「・・・」

「私は・・・喜世の方とともに・・・出世したいのです」

江島の気迫に気圧される喜世だった。

喜世にはそのような望みはないのだった。

「今宵・・・殿のお召しでございます」

心乱れたまま・・・褥に侍る喜世・・・。

しかし・・・家宣は意外な言葉をかける。

「お古牟はいかがしておるか」

「お伏せりでございます」

「そうか・・・かわいそうなことをした」

「・・・」

「儂の子は育たぬ・・・」

「お殿様・・・」

「煕子との子も育たなかった・・・すべては儂が病弱ゆえじゃ」

「そのようなことは・・・」

喜世は初めて家宣の心に触れたような気がした。

「しかし・・・余は将軍世嗣じゃ・・・血筋を絶やすわけにはいかぬ・・・なんとしても・・・次の将軍世嗣を儲けなければならぬのじゃ・・・」

喜世は家宣を憐れと感じた。

喜世の心は解けた・・・。

「承知いたしました・・・喜世が・・・将軍世嗣様を必ずや・・・お殿様のためにお産みいたします」

十郎左衛門のことを忘れたわけではない・・・しかし・・・この夜・・・喜世は身も心も・・・家宣に捧げたのである。

監視役の江島は微笑んだ。

宝永五年(1709年)十二月・・・お須免の方は大五郎を出産した。

「お手柄であらしゃった」と正室の近衛煕子はお須免の方をねぎらう。

「これで公家の血を引く公方様が世を治めることになる・・・霊験あらたかな御祈祷の甲斐があったと申すもの・・・」

煤払いを終えた後の暮れの宴・・・西の丸奥御殿は華やぐ・・・。

家宣は酔いざましに庭から月を見る。

「お風邪をお召しになりますぞ・・・」

喜世は家宣の身を案じる。

「酔ったのじゃ・・・今宵は・・・めでたい心持ちじゃ・・・」

「殿・・・私にも・・・お子が授かったようでございます」

「なんと・・・」

喜世は優しく微笑んで・・・家宣を見つめた。

月光が二人を照らす。

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2017年2月15日 (水)

地獄の長いトンネルを抜けると地獄だった(吉岡里帆)

弱肉強食の世界において人を食いものにする人は普遍的な存在である。

金メダリストを育て上げる親も養豚場の経営者にどこか似ている。

芸能界に憧れる未成年者を選抜し消費者向けに出荷するビジネスも合法的なのである。

売買春は法律で罰せられるがグレーゾーンは常にある。

人間のどの部分を性的対象ととらえるかには個人差があるが売り手は売りどころを心得ているものだ。

競泳選手が競泳用水着姿をプールサイドで撮影されることに性的な意味合いがないと断言はできない。

話題の芸能人が一部報道で「水着姿が嫌だった」と主張したと第三者が発言している時に本人の水着写真を大きく掲載することが報道という名の印刷物を売りだすビジネスなのである。

一方で獲得した信者のお布施で成立する宗教団体はなるべく大きく報道されることが信者獲得のための広報手段として利がある場合が多い。

不特定多数のイメージの問題ではなく不特定多数の誰かを獲得できれば目的が達成できるのである。

朝鮮半島の利権を中露で争うような物騒な事態はそれなりに白熱するものだ。

もちろん・・・そういう舞台裏の事情はなるべく見せずに「夢」を売るのが王道だが・・・時には生々しい現場をさらしてしまう外道があってもいい。

吹けば飛ぶようなスタッフたちは右往左往することになるが・・・それがショー・ビジネスなのである。

人が人を食う世界で自分だけが安全だと思う方がどうかしている。

パンツをはかないでスボンをはく人もいればパンツをかぶる人もいるのが世界というものだ。

誰が何を食べるのかは食べられる方ではなくて食べる方が決めるのだ。

やろうとおもえばやれる。

こっちだってやれる。

人々が脅し合うのは・・・食べられたくない一心なので仕方ない。

で、『カルテット・第5回』(TBSテレビ20170214PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。カルテット・ドーナツホールの第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)は夫が失踪中の人妻である。世界的指揮者を祖父に持つ第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)はまきまきのストーカーであるが・・・巻の自宅でまきまきに一方的な愛を告白する。そこで何者かが玄関の鍵を解錠しドアを開ける・・・。

巻氏の失踪の謎を探るチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)の依頼者はまきまきの夫の母親である巻鏡子(もたいまさこ)である。

「息子は嫁に殺された」という鏡子の疑いが・・・妄執ではないかという結論にたどり着いたすずめはまきまきに対するスパイ行為の放棄を鏡子に申し出る。

軽井沢の古い教会で・・・ボイスレコーダーを返却しようとするすずめだった。

「まきさんは人を殺すような人ではありません」

「あの女・・・夫婦の部屋に男を連れこんでいたんだよ」

チェックした寝室に性的な行為後の気配がなかったことに落胆した鏡子なのだった。

「別府さんはゴミを捨てに行っただけです」

「あの女は夫が失踪した後にパーティーで馬鹿笑いをするような女なんだよ」

「まきさんは裏表があるような人ではありません」

「何を今さら・・・あんただって・・・嘘をついてあの女に近づいたんじゃないか・・・綺麗事を言うんじゃないよ」

他人の弱みにつけ込むという恥ずべき行為を恥ずかしげもなく行う鏡子には正義はない。

ただ・・・ひたすらどす黒いのである。

何が彼女をそうさせたのかは明らかではないが生れつきなのかもしれない。

「とにかく・・・私はもう辞めます」

すずめは鏡子の綺羅綺羅しいバッグにボイスレコーダーを押しこんで教会を去った。

入れ替わりに元地下アイドルでライブレストラン「ノクターン」のアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)が年老いた悪魔の潜む教会に足を踏み入れる。

こうして教会は悪魔の巣窟と化すのだった。・・・おいおいおい。

別府家の別荘・・・。

時々ノーパンのヴィオラ・家森諭高(高橋一生)は練習の途中ですずめに問う。

「あの・・・まきさんがベランダから夫さんを突き落としたという話・・・まきさんにしたかい」

「しませんよ・・・イエモリさん・・・まきさんの夫さんにからかわれたんじゃないですか」

「かもしれないけど・・・本当かどうか・・・すずめちゃんなら聞きだせるんじゃないかと」

「聞き出せません!」

そこにまきまきと別府が合流し密談は中断する。

ライブレストラン「ノクターン」の楽屋・・・。

谷村大二郎(富澤たけし)と多可美(八木亜希子)のオーナー夫婦が言い争いながら登場。

「夫婦が互いの携帯を覗きあうことの是非」を問いかける。

「わぼみいたくるやしはけではだどす・・・・」

カルテットとして和する四人だった。

「一人ずつお願いします」

「私は別に構わないと思います」とまきまき。

「僕は大体平気です」と別府。

「見るけど見られるのは嫌だ」とヤモリ。

「嫌です」とすずめ・・・。

夫婦の間の秘密についてそれぞれの感覚は不一致しているのだった。

まきまきは鏡子が訪問した時に笑顔で応対する。

鏡子の腰を揉むほどの良い嫁ぶりである。

「息子が死んだ気がする」

鏡子は邪な目付を隠して探りを入れる。

「ごめんね」とまきまき。「もっと会いに行けばよかったね・・・そんなことを考えてたんだ・・・そんなことないのに・・・」

嫁として姑を気遣うまきまきの言葉に落胆する鏡子なのである。

それぞれの内面を抱えながら演奏するカルテット。

その夜の「ノクターン」には来客があった。

別府の弟の圭(森岡龍)である。

「別荘の件なんだけど・・・」

「売るのかい・・・」

「兄さん次第さ・・・他の人たち・・・無職なんだって」

「でも・・・みんな・・・一生懸命・・・」

「あきらめきれない人たちなんだろう」

「・・・」

「母さんとも話したんだけど・・・とにかく仕事として成立しないとね」

「仕事として・・・」

別府は弟の紹介で音楽事務所のプロデューサー・朝木国光(浅野和之)からの仕事を請負うことになる。

恐ろしいほどのタイムリーさは・・・それが普遍的な話であることの証明に過ぎない。

別府ファミリーが一流なのかどうかは定かではないが・・・朝木音楽事務所は・・・カルテットドーナツホールが夢見る大きなホールでの演奏の仕事を宛がう実力を持っている。

「夏のクラシック音楽のフェスティバルに参加しませんか」と誘う朝木・・・。

「無理です・・・ヘタクソだから生卵をぶつけられます」と消極性を発揮するまきまきだった。

「とにかく・・・演奏を拝聴しましょう」

「ノクターン」での演奏中・・・まきまきは渋い顔をする朝木を盗み見る。

「きっと・・・あきれて帰っちゃいましたね・・・」

しかし・・・朝木は楽屋にやってくる。

「素晴らしかった・・・どうしてあなた方がプロになれなかったのが不思議なくらいです・・・ファースト・・・あなたは何をしていたのですか」

「主婦です」

「とにかく・・・皆さんには華がある・・・あなたたちは売れます」

「・・・」

「しかし・・・問題点がないわけではない・・・たとえばチェロ・・・遊び過ぎです」

「はい」

「ヴィオラ・・・楽譜を読みこんで」

「はい」

「セカンドは・・・もっと自分を主張して」

「はい」

「そしてファースト・・・もっと音に酔ってください」

褒められてアドバイスされて・・・昇天しかかるカルテット。

「気をひきしめて」

「ああいう人は口が上手いから」

「でもうれしかった」

「あんなに褒められたの生れて初めて・・・」

カルテットは薔薇色の未来にうっとりした。

「僕は一度でいいから破天荒な男と言われたいという夢があります・・・」と別府。

「家内安全・・・無病息災」とまきまき。

「ジュノンボーイもしくはベストジーニストに」とヤモリ。

「お布団の中に住む事です・・・それから自分の部屋に回転ずしを引く事です」とすずめ。

「それぞれの夢は別として・・・今はカルテットドーナツホールとしての夢を見ましょう・・・僕たちは今・・・上り坂にさしかかっているのかもしれません・・・みんなで坂の上を目指しましょうよ」

別府の提案に笑顔で答えるメンバーたちである。

みんな・・・みぞみぞしてきたらしい。

夜更け・・・「インタビュー」の書き起こしのアルバイトをしていたまきまきは「くそっ」と罵る。

「なにが・・・くそなんですか」と通りすがりのすずめ・・・。

「このカメラマン・・・くそ野郎なのよ・・・結婚しているくせに・・・妻には愛を感じないとかなんとか」

「・・・」

「私・・・夫が消えた次の日・・・友達の結婚パーティーに出て・・・くそ野郎って叫んだもの」

「え・・・パーティーに・・・心配じゃなかったんですか」

「お義母さんに連絡したら・・・お義母さんがとんできて・・・取り乱して・・・その時・・・思い出したのよ・・・彼がお義母さんと二人暮らしの時に・・・彼が面倒くさくなってお義母さんを捨てたって話してたこと・・・私は悟ったの・・・ああ・・・今度は私が捨てられたんだなって・・・だから・・・パーティーで夫のことをくそ野郎って罵って思いっきり笑顔で写真撮ってもらったの・・・」

「・・・その話・・・お母さんにしたんですか」

「できないわよ・・・可哀想だもの」

すずめはその話を信じ・・・自分の中でひとつの霧が晴れたような気分になった。

まきまきは・・・すずめのセーターに取付いた鏡子のバッグの綺羅綺羅の破片をゴミとして取り除く・・・。

すずめは秘密が発覚することの恐怖に慄くのだった。

カルテットをプロデュースする朝木は人気ピアニストの演奏補助の仕事をブッキングする。

それは・・・四人の想像を遥かに凌駕する「お仕事」だった。

「皆さんにはピアニストの若田弘樹さんと五重奏を演奏してもらいます」

演出家の岡中兼(平原テツ)はカルテットに説明する。

アシスタントの藤川美緒(安藤輪子)はファンタティックな翼を背負ったピアニストのセット模型に点灯して綺羅綺羅をサービスするのだった。

その華やかさにみぞみぞするカルテット・・・しかし。

ステージ衣装に着替えた四人はとてつもない違和感に包まれる。

「キュンキュンしますね」と藤川。

「キュンキュンするね」と岡中。

「あの・・・これは・・・」

「設定です」

「設定・・・」

「皆さんは地球外生命体の戦闘型カルテット・・・美剣王子愛死天ROOなのです」

「戦闘型カルテット・・・」

「それぞれのキャラは・・・アラサーキャラ、童貞キャラ、どS王子キャラ、妹キャラです」

「キャラ」

「お決まりのセリフもあります」

「ありがとう・・・ショコラ」とアラサーまきまき。

「時すでにお寿司」と童貞別府。

「よろしく頼ムール貝」とヤモリ王子。

「鬼茶碗蒸し」と妹すずめ・・・。

四人は異次元空間に足を踏み入れる。

「次は振付です」

「振付・・・」

「ダンスです」

「ダンス・・・」

踊らされるカルテットなのである。

キュンキュンするポーズを決める四人。

階段で弁当を使うのだった。

「なんか・・・なんかな」とイエモリ・・・。

そこへ・・・アシスタントフジカワがお茶を持ってやってくる。

「こんなところですみません」

「いえ・・・」

「皆さん・・・カルテットを組んで長いんですか」

「数ヶ月です・・・」

「それでこんな大きな舞台に立てるなんて凄いですね」

「・・・」

「私も・・・本当はピアニストなんです・・・でも舞台に立つのなんて夢のまた夢で・・・皆さんに憧れちゃいます」

「がんばります・・・」

何が綺羅綺羅して・・・何がくそなのか・・・計りかねるカルテットなのである。

演奏の練習ではなくダンスの練習に追われるカルテット。

「今日は以上です」

「え・・・」

「お客さんはキュンキュンを求めてくるので演奏の方は大体で大丈夫ですよ」

「しかし」

「お仕事ですから」

厳しい顔を見せるアシスタントフジカワだった。

そこに朝木が顔を出す。

「もう少し練習したいのですが」

「これから飲み会です」

「でも」

「飲み会も接待という仕事ですよ」

「要求に応えるためにベストを尽くしたいのです」

「要求に応えるのは一流の仕事・・・ベストを尽くすのは二流・・・我々のような三流は楽しく笑顔で仕事をすればよろしい・・・」

「しかし・・・せっかくの仕事なので」

「あなたがたに仕事を与えたのは・・・別府さんの弟に頼まれたからです・・・あの方にはいろいろと世話になっているので」

下積みの身から見ればめくるめく幸運・・・だが・・・彼らには奏者としてのプライドがあった。

求められなくても・・・深夜のカラオケボックスで・・・自分たちを追い込むのである。

たとえ「仕事の内容に心がおいつかない」としても・・・。

コンサート当日。

ピアニストの到着が遅れ・・・五重奏の当日リハーサルはスケジュールからカットされる。

「リハなしでは・・・さすがに無理です」

「大丈夫だ・・・音源を流すから・・・君たちは振りに専念してくれればいい」

カルテットは「ギリギリの状態」になった。

「こんなことしたくない」とすずめ。

「こんなことやる必要ないんじゃないか・・・」とイエモリ。

沈黙する別府。

すずめは楽譜をゴミにする。

「すみません」と白タイツ別府。

「帰ろう・・・」とイエモリ。

「やりましょう!」とスリットまきまき。「私たち・・・実力もないくせに・・・夢見たいだと思ったじゃないですか・・・私たち・・・大きなホールで演奏するなんてウソだろうって思ったじゃないですか・・・きっと・・・これが私たちの実力なんだと思います・・・これが現実なんだと思います・・・だったら三流の自覚をもって社会人失格の自覚をもって・・・演奏する振りを・・・してやりましょうよ・・・・プロとしての私達の仕事を見せつけてやりましょう・・・カルテットドーナツホールの夢を」

「・・・はい」

唯一のプロ経験者の言葉に従うアマチュアたちだった・・・。

すずめは涙を拭う。

綺羅綺羅したクソ仕事を完遂するカルテット・・・。

クソ仕事の本番はお茶の間向けではなかったので割愛された・・・。

見たかった人も多かっただろうが・・・。

「いやあ・・・素晴らしかった」

「キュンキュンしました」

プロデューサーとアシスタントはカルテットを送り出す。

「お疲れ様でした・・・」

頭を下げるカルテット・・・。

去って行く車を見送る三流のプロたち。

「楽しくなかったみたいですね」

「志のある三流は・・・四流だから」

朝木はすべてお見通しなのである。

カルテットは街かどで「Music for a Found Harmonium」を演奏する。

たまたま通りかかったアイリッシュ系の外国人が心を掴まれる。

カルテットは・・・プロであることを忘れ・・・単なる奏者となる。

音楽に身を捧げることは・・・心躍ることだった。

それを稼業にするのとは別の話なのである。

カルテットは・・・浮世の憂さを晴らした。

別府は弟に「断り」の電話を入れる。

別荘を売却する話が出るからには別府ファミリーにもなんらかの事情があるわけである。

しかし・・・執行猶予は与えられたらしい。

すずめは鏡子に電話をかけた。

「私の結論を伝えたいと思いまして・・・」

(もういいのよ)

「え」

(あなたはもういらないの・・・さようなら)

「・・・」

鏡子の禍々しい言葉に・・・不安を感じるすずめである。

別荘には・・・アリスが訪れていた。

「アリスちゃんが・・・衣装を持ってきてくれたのよ」とまきまき。

恐ろしい予感に心が震えるすずめ。

アリスは・・・鏡子のボイスレコーダーをすずめに誇示するのだった。

「アキバにいた頃の奴なんですが・・・直せば使えるかなと思いまして」

「ソーイング・セットを持ってきますね」

衣装の寸法を直し始める三人・・・。

「シェフたちの夫婦喧嘩は納まったのかしら」

「多可美さんがロックしたので・・・シェフが夫婦の寝室に鍵をかけるようなものだって」

「寝室って・・・」

「まきさんは・・・どうですか」

「私は・・・夫のことは知りたいとは思うけど」

「まきさんは・・・ずっと軽井沢にいて・・・大丈夫なんですか」

アリスが自分の後継者であることを確信するすずめ・・・。

「バームクーヘン食べますか」

「私はいいです」

アリスの言葉を封じようとデュオとなるすずめだった。

「バームクーヘンはなかったんじゃない」

すずめの言葉を聞きわけるまきまきである。

「鳥のマークの奴」

「ご主人は怒らないんですか」

「ああ・・・ロールケーキ」

「ロールケーキ食べましょう」

「私はいりません・・・酉年だし」

「それは・・・」

「鳥肉きらいだし」

「ロールケーキに鳥肉は入ってないわよ」

「すずめだけど人間です」

「夫婦だってドキドキするようなことは必要だと思うのよ」

「それって神話ですか・・・忌まわしい内緒話ですか」

「ロールケーキを」

「正義は大抵負けるってことでしょ・・・夢は大抵叶わない・・・努力は大抵報われないし・・・愛は大抵消えるってことでしょ・・・そんな耳触りのいいことを口にしてる人って現実から目を背けてるだけじゃないですか・・・夫婦に恋愛感情なんか・・・あるわけないでしょう」

「ううう」

「浮気はばれなければいいのです」

「アリスちゃん・・・それではズボンの下がノーパンみたいです」

「人間関係なんてみんな本当はノーパンでしょう」

「意味がわからない」

「人はみな本当と嘘が三対七ですよ」

「それじゃあ・・・人間は水ですか」

「私はロールケーキ食べたいな」

「ご主人はどうなんです」

「私の主人は・・・いなくなってしまって」

「ええっ・・・家出系ですか」

「・・・」

「どうしていなくなってしまったのですか」

「そんなこと・・・聞く必要ないでしょう」

「ええっ・・・すずめさんは知りたくないのですか」

アリスの死体の目による真顔攻撃!

「まきさん・・・答える必要ないですよ」

すずめの捨て身の防御!

「どうしてですか・・・私は変なことを聞きましたか」

「私は片思いだったみたい・・・」

「もう・・・やめて」

アリスは笑わない目ですずめを観察する。

「みんなウソツキですよね」

アリスは獲物をいたぶる猫のようにすずめに微笑む。

「アリスちゃん・・・私に何か・・・含むところが」

「夫婦に恋愛関係なんかあるわけないでしょ・・・夫婦に恋愛感情なんかを持ち込むから夫婦間の殺人が起こるんでしょ・・・大好き大好き大好き大好き大好き殺したい・・・って」

「ロールケーキ食べましょう」

「ご主人・・・もう生きてなかったりして・・・」

「やめて」

すずめはアリスにすがり・・・反動でまきまきの足元にボイスレコーダーが転がり落ちる。

どこまで計算されているのかわからない・・・アリスの魔性にお茶の間は呼吸を忘れる。

思わずボイスレコーダーを手に取り再生ボタンを押すまきまき・・・。

流れ出した音声は・・・別荘でのカルテットの懐かしい会話だった。

すずめはまきまきを裏切っていた日々の報いを受けるのだった。

「すずめちゃんは嘘のない子・・・そういう子と一緒に暮らす喜びがある」とまで言ってくれたまきまきにずっと嘘をつき続けた日々が・・・すずめにふりかかる。

とめどのない涙があふれ・・・首をたれるすずめ。

茫然とするまきまき。

修羅場を楽しんだアリスはまとめるのだった。

「鏡子さんに頼まれたんです・・・あの人・・・まきさんのこと疑ってて・・・まきさんがご主人を殺したんじゃないかって・・・私たちはそんなことないと思ってて・・・まきさんがそんなことするわけないって教えたくて・・・私たちは真紀さんの味方ですからね」

「・・・そうなの・・・ありがとう」

まきまきの顔からはすべての表情が抜けおちる。

笑わない目のまきまきは笑わない目のアリスを無視するのだった。

緊張の現場に宅配便が到着する。

すずめは・・・後悔に苛まれ・・・別荘から脱出するのだった。

残されたまきまきとアリスの間には冷たい静電気が通い合うのだった。

夜の帳が降りるまで町を彷徨うすずめは奇妙な男と衝突する。

「ごめんなさい」

「・・・です」

散乱した男の荷物の中にカルテットのパンフレットを発見するすずめ。

「ドーナツホールをご存じなんですか」

「ご存じっていうか」

「怪我をしてるんですか」

「犬に・・・まれた・・・けです」

「え」

「かまれた」

「え」

「だけです」

「え」

「ラブラドール」

「レトリーバー」

別荘に戻ってくる別府とイエモリ。

「バイト見つかりましたか」

「割烹着を着るやつなんだよね」

「割烹着・・・」

灯りの消えた別荘に異変を感じる二人・・・。

「何かありましたか・・・」

まきまきは二人に携帯端末の画像を見せる。

「この人が・・・」

「夫です」

母親を捨てたことがあり・・・いい会社に勤めてるエリートで・・・まきまきをはじめての花火デートに誘い優しくエスコートして・・・花火の火が落ちてきたら僕が手を引いて逃がしてあげると言い・・・唐揚げにレモンは無理ということはずっと隠し続け・・・妻を愛してるけど好きじゃないと部下に言い放ち・・・平熱高くて首筋から匂いがする・・・靴下脱ぎっぱなしにしてちょっとコンビニ行ってくると言ってそのまま帰ってこなかった夫(宮藤官九郎)である。

その・・・すべてを蒸発させてしまう暴力的な存在感・・・。

一部お茶の間は叫ぶ・・・「クドカンかよ」・・・。

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2017年2月14日 (火)

世界でただ一つの大切な命(木村拓哉)

人間は命を大切にする世界で生きている。

自分の命も大切だし他人の命も大切だと人間は教えられる。

人間の命だけではなくあらゆるものの命が大切だと感じることもある。

しかし・・・命は命を犠牲にして永らえるものだ。

そこに思い当たれば言葉が嘘であることがわかる。

不誠実で不条理に満ちた世界で人間は生きて行く。

他の命を殺して生きて行く。

だから命の中でも自分の命が大切なのである。

自分の命よりも大切なものがあると思いこんだ人間は愚かである。

けれど・・・愚かさは時に恐ろしく・・・時に美しい。

不特定多数の命ではなく特別な命があることに気がつくこと。

人はそれを愛と呼ぶのかもしれない。

で、『A  LIFE~愛しき人~・第5回』(TBSテレビ20170212PM9~)脚本・橋部敦子、演出・平川雄一朗を見た。十年前に・・・幼馴染の外科医・沖田一光(木村拓哉)と壇上記念病院の院長令嬢である小児科医・壇上深冬(竹内結子)が心を通わせた屋上で・・・彼女は意識を失った。片山関東病院で提携のための条件交渉中だった深冬の夫で副院長の座にある鈴木壮大(浅野忠信)は我を失い病院に駆けつける。病院に走り込み、エスカレーターを駆け上がり世界で一番大切なものを確認しようとする。

深冬は目覚める。

一光は安堵する。

深冬は点滴を打たれていることに不安を感じる。

「何か・・・飲む?」

「ええ・・・」

そこへ・・・壮大が到着する。

「深冬・・・」

「あなた・・・」

見つめ合う夫婦を一光は見つめる。

その顔に浮かぶ表情は・・・何か複雑な気持ちを隠しているように見える。

副院長室で・・・「深冬の病状」という秘密を共有する二人の医師は追いつめられている。

「もう・・・伏せておけないんじゃないか」

「・・・」

「いつ・・・深冬に話してくれるんだ」

「まだ・・・確実な手術方法が見つかっていない・・・病名だけでなく・・・希望も伝えたい」

「もう俺が切るよ・・・家に帰っても深冬がいるんだよ・・・俺はどんな顔すりゃいいんだ」

「落ちつけよ」

「・・・」

冷静さを失う壮大・・・しかし・・・冷静ではないのは一光も同じである。

一光が他の患者よりも・・・深冬を特別扱いしていることは明らかであった。

いつ・・・発作が起きてもおかしくない脳腫瘍患者に医療行為を続けさせていることがその証拠である。

一光もまた我を失っているのである。

一光は治療法の検索という行為に逃避しているのである。

なぜなら・・・一光にとっても深冬は特別な存在だから。

深冬が生き生きと生きていることが何よりも優先されるのだ。

それは恐ろしいことなのである。

しかし・・・人間なんてそんなものなのだ。

世界中にあふれている患者と目の前にいる愛しい人の命が同じであるわけがない。

家族だから恐ろしくて執刀できないという壮大も。

不可能に見える手術の方法を模索し続ける一光も。

同じ穴の狢なのである。

二人は深冬の命という呪縛にがんじがらめになっているのであった。

壇上記念病院の第一外科部長・羽村圭吾(及川光博)は「日本の名医百選」に選ばれ雑誌に掲載された。

看護師長の西山弥生(峯村リエ)は看護師たちとささやかな祝宴の席を設ける。

「羽村先生・・・おめでとうございます」

「僕にとって名誉なことは・・・恩師の山本先生と同じ雑誌に掲載されたことさ」

「関東医師会の事故調査員に選ばれたことも・・・うちの病院にとって名誉なことですわ」

「そうだね」

「ねえ・・・井川先生」

「・・・」

うっかり深冬の病状を知ってしまった満天橋病院の後継者として修行中の井川颯太(松山ケンイチ)は心ここにないのである。

颯太の苦悩に気がついたスーパー・オペナースの柴田由紀(木村文乃)・・・。

「なんか・・・あった?」

「いや・・・なにも」

「そう」

ナース柴田は野菜抜き牛丼の差し入れを持ってドクター沖田を急襲する。

「何か・・・お手伝いできることがありますか」

手術に関してはドクター沖田とナース柴田は一心同体なのである。

しかし・・・一光は「秘密」を柴田に打ち明けることができない。

その「秘密」は特別だからである。

「いや・・・これはいい」

「脳腫瘍ですよね」

「これは大丈夫・・・お願いしたいことがあったら・・・言うよ・・・柴田さん・・・牛丼、ありがとう」

「生姜は?」

「いらない」

ナース柴田はなんらかの壁の存在を感じて撤退した。

ナース柴田はドクター沖田を特別に信頼しているのだ。

一光は牛丼を食べた。

食事は苦悩を一瞬忘れさせる儀式なのである。

牛肉を食べて今を生きる一光・・・。

ドクタールームで颯太は深冬に初歩的な術式の確認を求められる。

いつもと同じように快活に振る舞う深冬だったが・・・行動に綻びが生じ始めていた。

「最近・・・うっかり忘れちゃうことが多くて」

深冬の「病」を知る颯太はうろたえる。

「深冬先生・・・」

「はい」

「いえ・・・最近・・・意欲的ですね」

「そうねえ・・・これまでは院長の娘という立場に縛られていたんじゃないかなって思うようになって・・・自分の気持ちを大切にしようと思ったのよ・・・」

「自分を大切にすることは・・・大事ですよね・・・」

それ以上・・・踏み込みことはできない颯太なのである。

深冬の「死に直結しているかもしれない病」は壇上記念病院を蝕み始めている。

関東医師会の事故調査委員として羽村外科部長が担当する調査対象は・・・恩師の山本(武田鉄矢)が執刀したオペだった。

「僧帽弁閉鎖不全症に対するMICSか・・・」

僧帽弁は心臓の左心房と左心室の間にある弁で左心房が収縮すると同時に開いて左心室へと血液を送り込み、また左心室が収縮すると同時に閉じて左心房へ血液が逆流しないように働いている。

僧帽弁閉鎖不全があれば血液が逆流するわけである。

MICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery)は低侵襲(小切開)心臓手術である。

大きな胸骨正中切開で行う心臓手術を小さな切開で行う心臓手術のことで・・・早期リハビリ、早期退院、早期社会復帰が可能になるという利点がある。

桜坂中央病院の副院長である恩師に対し聞き取り調査を行う羽村・・・。

山本輝彦は壮大にとっても恩師であった。

「鈴木(壮大の旧姓)と羽村を教えていた頃が懐かしいなあ・・・思えば遠くへきたもんだ」

「山本先生のご恩を忘れたことはございません」

「おいおい・・・泣かせるなよ」

「では・・・手術の録画を拝見させてください」

「・・・録画か・・・妙な時代になったもんだなあ」

羽村は微笑んだ。

颯太は外来患者の風間義男(須田邦裕)に相談を受けていた。

「なるほど・・・ミックスを受けて・・・息切れをするようになったと・・・」

「雑誌で・・・羽村先生のご高名を知って・・・」

「手術はどちらで・・・」

「桜坂中央病院の山本先生です」

颯太は日本医学界の縦社会構造を知るドクターである。

弟子の羽村医師が恩師の山本医師の「手術」を否定できないことを危惧するのだった。

颯太はそういうことに無頓着であろう沖田に相談するのだった。

「・・・というわけなんです」

「で・・・何か問題があるのか」

「問題があったらまずいので・・・沖田先生にお願いしたいんです」

「・・・わかった」

「すみません・・・大変な時に」

「え・・・」

「俺にできることがあれば・・・」

「特にないよ」

「脳のオペについて考えているんですよね」

「・・・」

「治せるんですか・・・本人は知ってるんですか」

「どういうこと・・・かな」

「すみません・・・たまたま・・・カルテを見てしまいました」

「救える方法が見つかったら・・・本人に告知するつもりだ」

「副院長先生は・・・愛されている奥様を切れるんですか」

「だから・・・僕が切るんだ」

だが・・・一光も深冬を愛していることはお茶の間にも明らかなのである。

壮大が正気を失っているように一光も正気ではないのである。

颯太は抱えていた秘密を吐き出して一息ついた。

検査の結果を風間に伝える一光。

「息切れの原因は・・・僧帽弁の閉鎖不全なので手術すれば治ります」

「前の手術にミスがあったということですか」

「それは・・・手術をしてみないと・・・わかりません」

「そういうものなのですか」

「ええ・・・医師は万能ではありませんから」

手術の結果・・・漏れは発見された。

片山関東病院との提携話が立ち消えになったことで・・・「あおい銀行」の担当者・竹中(谷田歩)は融資の見送りを壮大に通告する。

「提携の話は他にもありますから」

「計画が具体的になったらお話を伺います」

「しかし」

「こちらもビジネスですから」

「・・・」

深冬の手術のためにナース柴田が必要だというドクター沖田の主張が・・・経営者としての壮大の足枷となってしまっていた。

「どうするつもりなの」

ベッドサイドで愛人の顔から弁護士の顔に戻る榊原実梨(菜々緒)である。

「・・・」

榊原は壮大から秘密の匂いを嗅ぎ取る。

「なにかあるの・・・」

「なにもないよ」

「あなたにとって・・・私ってなんなのかしら」

「・・・」

「帰るのか・・・」

「・・・」

「そばにいてくれよ」

愛は彷徨うのだった。

手詰まりの壮大の元へ・・・羽村外科部長がやってくる。

「山本先生の手術映像を見た・・・漏れがあるのに・・・何事もなかったかのように閉じられていた」

「ミスがあったとそのまま報告するのはまずい・・・俺達で山本先生を守らなければ」

「・・・」

羽村は友情を・・・。

壮大は光明を見出していた。

一光は深冬が執刀する手術をモニターで見守っていた。

一光の心には穴があいている。

そこから愛が逆流するのだ。

深冬は医師として患者を救うのが生きがいなのである。

生死の境界線で・・・深冬の幸せを祈る一光。

善悪の境界線で深冬の手術を許容する一光。

いつ終わるかもしれない深冬の命の輝きを惜しむ一光。

繰り返すが・・・すでに一光は正気ではないのである。

愛が一光を狂わせているのだ。

深冬がペアン鉗子を落した。

一光は狂気の世界から醒める。

手術室に姿を見せる一光。

「状況説明して」

「どうして・・・私の手術よ」

「お前・・・体調がベストではないだろう・・・患者さんに失礼だ」

「・・・お願いします」

失礼なのは・・・深冬ではなく・・・一光なのである。

患者に病状を告知できずに・・・メスを握らせているのは彼なのだから。

「ありがとう・・・最近・・・体調がおかしくて」

「俺が看ようか」

「沖田先生の手を煩わせるまでもないわ・・・」

「・・・」

一光は愛の迷路で立ちすくむ。

壮大は恩師の前に現れる。

「鈴木・・・いや・・・壇上くん」

「ご無沙汰しています」

「君が医者としてだけではなく・・・経営者としても優秀だったとはねえ」

「本日は・・・経営者として伺いました」

手術の途中での執刀医の交代を聞き・・・颯太は一光に問う。

「深冬先生・・・大丈夫ですか?・・・・もしかして・・・腫瘍が大きくなってるんじゃ・・・早くなんとかしないと」

「そんなこと・・・わかってるよ」

一光は颯太を怒鳴りつけた。

「・・・」

「・・・すまない」

颯太は一光の苦悩を理解した。

隣室で一光の怒鳴る声を聞いた羽村。

「何が会ったか知らないけれど・・・ダメだよ・・・あんな風に熱くなっちゃ・・・医者にとって一番大切なのは・・・すでに冷静であることだ」

帰宅する壮大・・・。

「相談があるんだけど・・・」

「どうした・・・」

「健康診断で何もなかったのに・・・最近・・・頭痛が激しいのよ」

「わかった・・・診察しよう・・・検査のスケジュールを組んでおくよ」

「ありがとう」

壮大は追いつめられた。

「診断すればすぐに結果が出る」

一光も追いつめられた。

「診断するのか?」

「もちろんだよ・・・深冬が俺を頼ってくれたんだ」

壮大は泣いていた。

「ごめん・・・家族のお前に・・・辛い思いをさせて・・・でも・・・その診断・・・来週まで待ってもらえないか」

「大丈夫なのか・・・」

「執刀医として・・・俺が判断する責任がある・・・だからもう少しだけ・・・時間が欲しい」

往生際の悪い一光だった。

颯太は羽村に風間の一件を伝える。

「山本先生のミックスの手術を受けた患者さんだったので」

「その件が・・・私の調査対象なんだ・・・」

「・・・」

羽村は・・・山本に最終的な確認をする。

「本当に漏れはなかったんですよね?」

「壇上副院長が・・・報告書には漏れがなかったと書かかせると言っていたよ」

「え」

壮大は・・・手術ミス隠蔽を桜坂中央病院との提携話の取引材料にしていた。

羽村は壮大に詰め寄る。

「どういうつもりなんだ」

「俺は守るべきものを守っただけだ」

「何をだ・・・純粋に山本先生を守るのではなかったのか」

「お前だって・・・自分を守っただけだろう」

「・・・私が真実を暴いたら・・・」

「お前に・・・それができるのか」

「沖田先生ならどうするのだろう」

「なんでだよ」

「山本先生の患者を・・・沖田先生が再手術した・・・」

「・・・」

「沖田先生には駆け引きなんかないだろうね」

羽村は沖田に・・・風間の再手術の結果を問う。

「最初のオペに問題がありました・・・手術は不完全だった・・・逆流を確認したのに・・・弁閉鎖機能の障害をそのままにして閉じたんです・・・それ以上切開すると・・・小切開心臓手術の症例じゃなくなっちゃうからというのが理由でしょう」

「患者への説明にあたって・・・山本先生のミスは黙っていてくれないか」

「ミックスの症例としてカウントするために・・・患部を放置したことを見逃せと」

「山本先生はマルファン症候群に対する大動脈解離の患者を何人も救っているんだ」

「患者さんは自分の体の中で起きていることを知りたがっています・・・医師としてそれを説明しないわけにはいかない」

「・・・」

もちろん・・・深冬も自分に何が起きているかを知りたいわけだが・・・一光はそれとこれとは話が違うと思っている。

一光にとって・・・深冬はただの患者ではないのである。

一光の正論に・・・羽村は屈した。

羽村はありのままの調査報告書を提出し・・・山本医師は患者に謝罪し、職を辞した。

羽村のやり場のない気持ちは一光へと向う。

羽村は情熱を迸らせ・・・沖田の頬を張るのだった。

驚愕する一光。

「君は優秀な外科医を一人殺したんだ」

「何を」

「君は気楽でいいね」

「なんだって」

取っ組み合いに発展である。

「暴力はいけません」

修羅場と化したドクター・ルームで二人を分けるその他の医師たち。

颯太は叫ぶ。

「羽村先生・・・やめてください・・・沖田先生だってそんなに気楽じゃないんですよ・・・沖田先生もやめて・・・痛」

深冬は・・・一光の様子がおかしいことに気がつくのだった。

「どうかした?」

「明日にしてもらっていいかな・・・ちゃんと話すから」

「そう・・・」

羽村の暴力で一光は正気を取り戻したのだった。

羽村は夜風に吹かれた・・・。

携帯端末の留守番電話には・・・山本医師からのメッセージが残されている。

《俺はどうやら・・・自分を見失っていた・・・権威という魔物に縛られて・・・患者を傷つけるというモンスターになっていた・・・お前が俺を救ってくれたんだ・・・田舎に帰って一からやり直すよ・・・これが去りゆく俺のお前に贈る言葉だ・・・ありがとう》

羽村は泣き濡れた。

山本副院長が去ったことで桜坂中央病院に欠損が生じた。

これを補完すると言う名目で・・・壮大は提携を成功させる。

羽村は桜坂中央病院の外科部長を兼任することになった。

感謝の意を伝える桜坂中央病院の経営陣に・・・複雑な表情で応ずる羽村だった。

羽村の青春の炎は燃え尽きたのだった。

深冬は・・・直感で・・・秘密があることを悟った。

医師である深冬は・・・自分自身の検査結果にアクセスした。

「ごめんなさい・・・遅れちゃって」

「・・・健康診断のMRIで脳に腫瘍が見つかった・・・壮大と相談して治療の方法が見つかってからということで今まで話さなかった・・・あいつも辛かったんじゃないかな・・・君もいろいろ症状が出てきて不安だったと思う・・・オペは僕が任されてる・・・腫瘍の状態は」

死刑台へと続く階段を見上げるような気持ちの一光なのである。

「おめでとうって書いてあったね・・・壮大さんとの結婚が決まった時のメールの返信・・・何度も見直したのよ・・・何度も・・・何度も・・・・間違いじゃないかって。・・・でもね・・・書いてあることは・・・おめでとうだった・・・私ったら・・・あの時・・・何を期待したんだろう。・・・私・・・さっきもね・・・何度も何度も見たのよ。・・・間違いじゃないかって。あんなの見たことない。脳深部に3センチの腫瘍。何度見ても私のデータだったよ。そして3センチの腫瘍だった」

「確かに厳しい状況だけど。・・・きっと方法はある。僕が・・・それを必ず見つけるから」

「私、医者よ」

「僕も医者だ・・・諦めない限り可能性はある・・・」

「私・・・回診に行かなくちゃ・・・」

恐ろしい何かが一光の足を地の底に引きずり込もうとしていた。

心に秘めていたそれは解放しても消えないのだった。

愛する人の命が失われるかもしれないという恐怖・・・。

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Alife005ごっこガーデン。男と男が秘密の話をする部屋セット。

アンナ沖田先生を虜にする深冬先生は本当は魔性の女なの・・・死ぬかもしれないと思ってポロポロこぼれる胸に秘めた恋心が沖田先生をからめとるの・・・タイプが違うと言うのかもしれないけれど・・・愛しているから 壮大が手術が出来ないなら・・・沖田先生にだって本当はできないはずなのぴょん・・・愛する人の命を賭けて手術に挑まなければならないダーリンのその時を思うだけでアンナは涙の海に溺れるのです・・・じいや~・・・涙の海プール用意して~温泉ヴァージョンにしてほしいぴょ~ん

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2017年2月13日 (月)

天文二十四年、井伊肥後守直親元服す(三浦春馬)

天文五年(1536年)生れとされる井伊肥後守直親なので元服したのは数えで二十歳ということになる。

やや遅めの元服ということになる。

同じく天文二十四年(1555年)には松平元信も元服しており、こちらは数えで十四歳である。

この時すでに直親の嫡男・直政の姉・高瀬姫は生れていたという説もあるが・・・大河ドラマ的お茶の間モードが発動して未登場である。

場合によっては姉でなく妹になってしまう可能性も・・・キャスティングから妄想できる。

直政を演じる菅田将暉(23歳)で高瀬姫を演じる高橋ひかる(15歳)である。

ただし、高橋ひかるが直政の幼少期を演じる寺田心(8歳)に対応するなら姉の線も残っている。

直政誕生が永禄四年(1561年)とされているので実年齢差なら高瀬姫誕生は元服前である。

ドラマでは直親が逃亡先の保護者として「松岡様」を口にしている。

直親が潜伏していたのは信濃国の松源寺である。

松源寺は信濃国松岡城主の松岡氏の菩提寺で開山となった臨済宗妙心寺派の文叔禅師は松岡氏の一族だった。

井伊氏の菩提寺である龍譚寺もまた臨済宗妙心寺派に属する。

つまり・・・龍譚寺と松源寺の縁なのである。

「松岡様」とは文叔禅師の甥もしくは弟にあたる松岡城主・松岡頼貞ということになる。

ちなみに天文二十三年の武田信玄による信濃国伊那への進出により、松岡頼貞は降伏して、武田の武将・山県昌景の与力となっている。

直親の逃亡中の現地妻と娘の運命や如何に・・・というところなのである。

さて・・・ドラマでは何事もなかったように直親は奥山朝利の娘・奥山ひよを正室とする。

戦国時代には珍しく実名の伝わる「ひよ」なのだが・・・何故かドラマでは「しの」なのだった。

「ひよ」ではなく「しの」にしたいこだわりが誰かにあったのだろう・・・。

で、『おんな城主 直虎・第6回』(NHK総合20170212PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は次郎法師の従兄弟で井伊直盛の養子となる井伊直親の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。井伊家の一族であることから・・・謀反人の子でありながら井伊の総領家の養子として迎えられ・・・自分の妻となるはずだった女を正室にする直親に対して・・・井伊家家老として複雑な思いを抱く小野但馬・・・「お前は俺と同じ道をたどる」という父の呪いがじわじわと効いてくる感じでございますねえ。そんな心に油をそそぐのが・・・ヒロインの直親に対する「秘めた恋」ということになるのですな。このドラマにおける「井伊一族」の異常なほどの「空気を読まない感じ」が・・・小野但馬をガンガン追い込んでいくのでございましょうねえ。基本的に小野但馬は・・・「おとわ」への秘めた恋が原点にあるわけですが・・・瀬名の母親である佐名と・・・小野和泉の間にも・・・そういう関係があったのではと妄想できます。それにしても今川の対織田戦線に井伊がまったく関与していない風なのは少しものたりないですな。国人衆の兵力として農民たちも借りだされているでしょうし・・・井伊一党の武将たちもどんどん傷だらけになっていて・・・手足を失っているくらいの戦国モードもちょっぴり欲しい気もいたします。戦国大河なのに・・・六話まで・・・戦は噂だけというのも画期的でございますけれどもねえ。桶狭間の合戦も噂だけで終わったらどうしようか・・・と不安になるのでございます。主人公が戦場に出るわけではないので・・・「真田丸」方式なら・・・それもありでございますからねえ・・・。

Naotora006天文二十四年(1555年)二月、ドラマの井伊直親が元服する。三月、松平元信(徳川家康)が元服。四月、尾張守護代の織田大和守信友は織田信長の叔父・信光によって殺害される。討ち取ったのは森可成ともいう。信長は清州城主となる。大和守家重臣の坂井大膳は駿河の今川氏を頼って逃亡するが消息不明となる。五月、信長の弟・信行は当主の名乗りである弾正忠を名乗る。六月、信長の叔父・信次が信長の弟・秀孝を殺害して逃亡。信行は信次の守山城下に放火。七月、武田晴信と長尾景虎が犀川で激突、第二次川中島の戦いに突入。長期対陣の後に今川義元が仲裁。九月、加賀一向一揆討伐中の朝倉宗滴が病没。閏十月、太原雪斎が死去。十一月、信光は家臣の坂井孫八郎に殺害される。美濃国守護代の斉藤義龍が弟の孫四朗、喜平次を殺害。父親の斉藤道三は大桑城に退去。北条氏康によって幽閉中の足利晴氏の嫡男・古河公方足利義氏が元服する。義元は駿河・遠江・三河で検地を実施する。三河国安祥城攻めで祖父と父を相次いで失った本田忠勝は叔父の本田忠真に養育されている。数えで八歳だった。

今川館での元服の後のささやかな宴で元信は初めての酒を飲んだ。

突然・・・悲哀が胸を襲う。

厠に立った元信は庭で天女のような姫を見た。

「いかがなされた・・・」

姫は家康が涙を流しているのを見て言う。

「これは・・・家臣を憐れむ涙でござる」

「三河殿と・・・お見受けしました」

「貴女は・・・関口刑部様の・・・瀬名姫様」

「家臣のどなたか・・・亡くなったのでございますか」

「わが家臣はたくさん討ち死にいたしておりまする」

「・・・」

「尾張の織田との戦で・・・三河衆が命を賭している時に・・・主たる我はこうして籠の鳥も同然で・・・無為の時を過ごしてございます」

「我が母の里は・・・遠江の井伊谷だと申します。井伊の里からの文が届けば・・・一族の訃報ではないかと心騒ぐと申しておりました。遠江衆もたくさん討ち死にしているそうでございますれば」

「武士たるもの・・・戦場で死ぬは誉れと申します・・・しかし・・・我は」

「元服もなされたからには・・・太守様の命により・・・戦場には遠からずお出ましになられましょう」

「さようでござろうか・・・」

「きっと・・・お手柄をたてられますよ」

「・・・」

美しい姫に励まされ・・・涙を拭った元信は宴の席へと戻って行く。

瀬名姫はその後ろ姿に何故か・・・心騒ぐものを感じるのだった。

見たこともない母の故郷である遠江国。年若い人質の貴公子の故郷はさらに遠い三河国である。

瀬名は遠い異国にロマンを感じるのだった。

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2017年2月12日 (日)

酒と不倫とお金と家族(本田翼)

どこからどこまでが夢でどこからどこまでが現実なのか。

それもまた奇妙な味わいの一品といえるだろう。

どこか物さぴしいトーンを醸しだすこの作品なのだが・・・今回は一つの到達点と言えるだろう。

冒頭・・・スカイダイビングをする男のパラシュートは開かない。

墜落による「死」をお茶の間で目撃した人間は多いだろう。

虚構でありながらそれは現実に通じている。

スーパーヒーローが登場することで回避される死・・・そこからお茶の間の人々はアンバランスゾーンに導かれていく。

幼い頃から虚構の登場人物に恋をしてきたものにとって・・・失恋は日常茶飯事だ。

それがハッピーエンドであれば・・・現実に棲むものは失恋するしかないわけである。

長じて・・・実在するアイドルたちと日常で顔をあわせるようになっても・・・架空の恋は生れては終わる。

今はただ・・・彼女たちがそれなりに幸せであることを祈るばかりの日々だが・・・それもまた無意味なのである。

意味などなくても人は生きていけるのだ。

これはそういう話。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第5回』(日本テレビ20170211PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。「勇者ヨシヒコと導かれし七人」ではキジだったので飛ぼうと思えば飛べる男(若葉竜也)だが・・・スカイダイビング中にパラシュートが開かず絶体絶命である。そうなる可能性がないわけではないのにスカイダイビングをするなんてバカだとしか思えないが何度かそういう企画を発案したり台本を書いたりしてタレントにやらせている以上・・・自分が悪魔だと思うしかないわけである。

スーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)が登場し・・・「どうしましたか?」と問う。

「あんた・・・飛んでるの?」

「そこ・・・気になりますか」

「だって・・・」

「今・・・パラシュート開きますね」

「いや・・・別に普通に助けてもらってもいいのですが」

「でも・・・せっかくだから・・・パラシュートで降りた方が楽しいでしょう」

「そんなことしている間に墜落します」

「・・・おかしいな・・・不良品かな」

「ひええええええええええええ」

パラシュートは開かなかったが無事着地する男・・・左江内氏が去ると忘却光線ですべてを忘れる。

奇跡の誕生である。

一種の神秘体験であり・・・男が怪しい宗教にのめりこむ可能性が生じるがそれはまた別の話だ。

左江内氏が人命救助を終えて帰宅すると妻の円子(小泉今日子)の機嫌が悪い。

「洗い物の途中でどこいってたの・・・」

「トイレに・・・」

「長い・・・待たされて料理する気がなくなっちゃった」

「えええ」

「ママのシチューが食べたかったなあ」と公立骨川小学校に通うもや夫(横山歩)・・・。

「なんでもいいから・・・早く作って」と都立源高校に通うはね子(島崎遥香)・・・。

「じゃあ・・・今夜はしゃぶしゃぶにしよう」

「手抜きだね・・・そんなのお湯わかすだけで料理とは言えないね」と円子。

「そんなあ・・・」と左江内氏。

いつもの左江内家の夕べである。

その夜・・・円子は「芸能人の不倫」について語る。

「軽いんだよねえ・・・肉を食べさせてもらったらすぐ不倫なんて」

「そんなものかな」

「あなた・・・不倫なんてしてないでしょうね」

「おこずかい的に無理でしょう・・・肉を食べさせられない」

「お金があったら不倫するんだ」

「しないしない」

「不倫なんかしたらぶっ殺すよ」

「・・・」

かわいいが恐ろしい妻だった。

フジコ建設営業第三課・・・。

簑島課長(高橋克実)に酒に誘われる左江内氏。

「今日はちょっと懐がさびしくて・・・」

「俺が奢りまんがな」

部下の蒲田(早見あかり)と下山(富山えり子)が口を挟む。

「課長が関西弁を使う時は嘘ですよ」

「この前も奢りまんがなと言いながら割り勘でした」

「そんなことはないけん・・・今日は奢るけえのお」

お調子者の池杉(賀来賢人)が反応する。

「広島弁の時は本当に奢ってくれます」

「ボルケーノは火山じゃけーのー」

なぜか・・・ビジネスホテルでさしむかう左江内氏と課長。

「なぜ・・・ここで」

「二人きりになるにはここしかなかった」

「そんな・・・倫理的に」

「倫理的にダメだよな」

「課長がまさかそう言うあれだったとは・・・」

「好きだったのかな」

「ありがとうございます」

課長に迫られて肛門が引き締まる思いの左江内氏。

しかし・・・。

「なんとかしないと・・・俺、やっていないんだよ・・・無罪なんだよ」

「課長・・・犯罪を?」

「総務課の藤崎、いるだろう?」

「ああ」

「仲良しだろう・・・」

「総務課時代の後輩ですけど・・・」

「君はああいうモデル体型より小さい子が好きなんだろうけど・・・綺麗じゃん」

「そうですね」

総務課の藤崎(本田翼)と酒を飲み・・・記憶を失くし・・・気がつくとビジネスホテルのベッドで目を醒ました課長・・・。

残されたメモには・・・。

《奢ってくださりありがとうございました・・・また誘ってくださいね》

「どう・・・思う」

「そういうことじゃないですか」

「それからメールで彼女がお金を請求して来るんだよ・・・奥さんにバレたくなかったらって」

「・・・」

「なんとかしてくれよ・・・彼女と仲良しさんだろう」

仕方なく・・・総務課で藤崎を呼び出す左江内氏。

いわゆるひとつの小悪魔的に魅力を醸しだす藤崎である。

「うれしいな・・・藤崎さんに呼び出されるなんて」

「今晩・・・一杯飲まないか・・・割り勘で」

「いいですよ」

居酒屋である。

すでに足の組み方が淫靡な藤崎・・・。

「すまないね・・・誘っておいて・・・割り勘で」

「左江内さんちの家庭の事情を知ってますから」

「課長の件なんだけど」

「話したんだ・・・ひどい」

「どうして」

「私・・・押しに弱くて」

「ハゲなのに」

「ええ」

「しかし・・・お金を要求するなんて」

「それは・・・内緒にしてくれって言うからムカついて」

「じゃあ・・・本気じゃないんだ」

「もらっておきましたよ・・・五十万円」

「えええ」

「でも・・・今度は結婚できる人とお付き合いします」

「じゃ・・・一件落着ということで・・・飲もうか・・・割り勘だけど」

ビジネスホテルのベッドで目を醒ました左江内氏・・・。

残されたメモには・・・。

《割り勘だけどうれしかった・・・ホテル代も払っておきますからご安心を》

罪悪感に満たされて帰宅する左江内氏。

素晴らしいインターネットの世界でショッピング中の円子だった。

「なにしてんの」

「ジャングルで買い物してんの」

「ジャングルはアナコンダがいるから気をつけて」

不自然なまでに笑いながら就寝する左江内氏だった。

夢だとはっきりわかる夢である。

この後でも夢オチがあるが・・・そちらはどこからが夢なのかわからない仕掛けになっている。

そのために・・・物語全体の幻想性が高まるのである。

極道の妻となった円子。

「総務課の若いのと浮気しよったじゃろがい」

「ご・・・誤解だ」

しかし・・・藤崎がいかにもやりましたモードて登場する。

「死ねや・・・左江内」

円子にドスで腹部を貫かれる左江内だった。

はね子が極道の娘として背をむける。

「これからはアマゾンの密林でおかんと生きて行くけんの」

もや夫が極道の息子として言い捨てる。

「外道は地獄におちんさい」

三人はジャングルに消えて行く。

「ア・・・アナコンダに気をつけて・・・」

息絶えて目覚める左江内氏だった。

「怖ええええええ」

オフィスで・・・。

「例の商談うまく行ったかな?」

「え・・・まあ」

「よし・・・今日は領収書なんでもこいだ」

課長に群がる課員一同である。

総務課前の廊下で・・・。

雰囲気を醸しだす藤崎・・・。

「居酒屋の後なんだけどさ・・・いろいろあったのかな?」

「はい」

「どうしたらいいのかな」

「どうしたらいいと言われましても」

「内緒にしておいてくれるのかな?」

「はい」

露骨に安堵する左江内氏である。

「今日、飲み行かない?・・・奢るからさ」

「無理しなくていいですよ」

はね子に金を借りるために待ち合わせをする左江内氏・・・。

これはすでに夢なのかもしれない。

いつものクラスメイト・・・さやか(金澤美穂)とサブロー(犬飼貴丈)と現れるはね子。

はね子のサイフは万札でぎっしりである。

「どうして・・・」

「へそくりよ・・・何かあったらと思うと不安なの」

なんとか・・・はね子から三万円を借りる左江内氏である。

はね子が優しすぎるのできっと夢なのだな。

居酒屋ですき焼きを食べる左江内氏と藤崎である。

肉を食べて不倫するという夢なのだ。

「私、お見合い相手と結婚しないといけないんです・・・その前に本当に好きな人にアタックしてみたくなったんです」

「え・・・それって僕のことなの」

「はい」

「そうだったんだ」

「私のひとときの恋も終わりです。来週には人妻なので」

気がつくと例のベッドの上である。

《最後に素敵な思い出ができました・・・さようなら》

左江内家のチャイムが鳴る。

藤崎がやってきたのだった。

「どなた・・・」

「私、左江内さんとおつきあいさせていただいているものです」

「おつきあい?」

「男と女の関係です」

円子は微笑むと署名捺印済みの離婚届けを左江内氏に渡す。

「署名捺印よろしくね・・・さあ・・・私たちはファミレスに行きましょう」

円子と子供たちは去って行くのだった。

三ヶ月後・・・左江内氏の離婚が社内に知れ渡ると・・・独身の女性社員たちはお弁当をもって左江内氏に群がる。

池杉は激しく身悶える。

「これじゃあ・・・さえないさんじゃなくてさえてるさんだ」

課長はハゲをアピールする。

「俺も離婚さえすれば」

「それはありませんね」と口を揃える女子コンビだった。

もう・・・夢に決まっているな。

家では新婚妻となった藤崎が三つ指ついてお出迎えである。

「お食事になさいますか・・・お風呂になさいますか・・・それとも」

「メシにしよう」

「後でお背中お流ししますね」

夢である。

マスクをした占い師(佐藤二朗)は問いかける。

「女難の相が出ています」

「え」

「若い頃・・・あなたはブランドもので身を固めたCAと恋に落ちた」

「いえ・・・そんなことは」

「あなたは魚屋さん・・・で、カメレオンのおかしな置物をプレゼントした。いかにしたら欧介と桜子は結ばれるか・・・」

「ヤマトナデシコじゃねえか」

屋上で・・・。

「一度目は浮気だと思うんですけど・・・二度目があると本気だと思うんです」

「一度あることは二度ある・・・それは愛じゃない」

「私・・・お見合い相手との結婚やめます・・・左江内さんが離婚してくれるのを待ちます」

「いや・・・ひどい妻だけど・・・離婚はできない」

「ひどい・・・じゃあ・・・百万円」

「え」

「そうじゃないと・・・私・・・左江内さんのこと・・・あきらめられません」

「えええ」

謎の老人(笹野高史)が現れる。

「もててるねえ・・・」

「そんなんじゃないですよ」

「責任を忘れるほどの責任か」

「・・・それは無責任なんじゃ」

そこで助けを求める声。

妻の首つり自殺を止めようとする夫(山田明郷)だった。

「どうしましたか」

「グルメ番組で・・・一度でいいからあんなご馳走食べてみたいって言ったら・・・妻が怒りだして」

「奥さん・・・料理が下手なんですか」

「そりゃあ・・・もう・・・」

「作ってくれるだけで感謝しないと・・・ウチなんか・・・滅多に作ってくれません」

「あらあら」

左江内氏の愚痴に同情して仲直りする老夫婦だった・・・。

「左江内さん、金貸してください」

池杉が左江内氏に無理な申し出をする。

「無理な相談だけど・・・何に使うんだ」

「女が別れてくれなくて・・・総務課の藤崎って子、いるでしょう」

「藤崎・・・」

「手切れ金を要求されてるんです・・・僕には別に本命がいるので・・・百五十万」

「増えてるのか」

「何のことですか」

偶然が三度続いたら必然であるという。

連続美人局事件の発生を疑う左江内氏・・・。

美人局なのか・・・不倫強請なのでは。

そんな言葉は聞いたことないし・・・。

例によって左江内氏はスーパーマンパワーを私的に流用するのだった。

藤崎の監視と追跡である。

藤崎がたどり着いたのは・・・金田ローンという危険な金融組織だった。

「これで完済ですよね」

「残念だったね・・・お嬢ちゃん・・・明日までに百万円だ」

「そんな・・・もう二百万も返済しているのに・・・」

「利息があるからねえ」

「もう無理です」

「なんなら・・・相談にのるよ」

追いつめられて店を出た藤崎をサラリーマンに戻った左江内氏が待ちかまえる。

「左江内さん・・・」

「事情を聞こうか・・・」

藤崎の両親は豆腐屋を経営していた・・・経営難に陥り・・・金を借りたのが悪質な金融組織だったのだ。

「そうか・・・それじゃあ・・・借用書を返してもらってくるよ」

「そんな・・・すごく・・・暴力的な感じの・・・アレですよ」

「大丈夫・・・暴力には慣れている」

スーパーマンに変身して金田ローンに乗り込む左江内氏である。

「なんだ・・・てめえは・・・」

「悪徳なことはほどほどにしないと・・・ちょっと探させてもらいますよ」

「ふざけるな」

「やっちまえ」

「足腰立たなくしてやるぜ」

足腰立たなくされる悪徳金融一同である。

「あったあった・・・では・・・これは完済ということで」

借用書を破棄する左江内氏。

そこへ・・・かねてから内定していた金田ローンの強制捜査に踏み切る小池刑事(ムロツヨシ)と警察官刈野(中村倫也)・・・。

「あ・・・」

「まさか・・・瞬殺ですか」

「・・・」

「ブルース・リーのドラゴンからの・・・ジャッキー・チェンの酔拳からの・・・武田鉄矢のハンガーヌンチャクからの・・・」

「ありがとうございました」と藤崎。「実は・・・あの夜は・・・何もなかったんです」

「そうだったんだ」

「でも・・・左江内さんのことは本当に好きでした」

「えええええ」

左江内氏が長い夢から覚めると円子が起床していた。

「え・・・朝食作ってくれたの」

「昨日・・・不倫された夢を見た・・・怒りがおさまらなくて・・・」

「・・・」

「だから・・・召し上がれ・・・デスソースたっぷりの激辛トーストを・・・」

タバスコで真っ赤に染まったトースト・・・。

左江内氏の悪夢は続く。

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2017年2月11日 (土)

スタートダッシュで出遅れて過去問やったら泣かされる(深田恭子)夕飯食堂(小林薫)

駅伝の醍醐味の一つはごぼう抜きである。

追いつけ追い越せひっこ抜けなのである。

これは時間差スタートという出遅れも・・・個人の力で逆転できるという可能性を示唆している。

短距離走で一分遅れのスタートでは勝負にならないが・・・長距離走なら逆転は可能なのである。

人生はどちらかといえばマラソンだ。

親子三代でいえば・・・祖父は終盤戦・・・両親は中盤戦・・・そして子供は序盤戦を走っている。

学歴がすべてではないが・・・人生の岐路においてある程度の重要な要素なのである。

両親は子供がスタートダッシュに出遅れていることに気が付き・・・声援を送る。

子供は葉を食いしばり前を見つめる。

人生はレースではないという考え方もある。

しかし・・・誰もが敗北の屈辱よりも勝利の栄光に包まれたいと思うものなのである。

もちろん・・・そうではない変態は別として。

人生が勝負であることは・・・好みの問題ではなく自然なのである。

で、『克上受験・第5回』(TBSテレビ20170210PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・福田亮介を見た。桜井信一(阿部サダヲ)はろくでなしである。娘の佳織(山田美紅羽)の担任教師・小山みどり先生(小芝風花)は「親の見栄で中学受験なんて子供が可哀想」と指摘するが明らかにそういう側面はある。家計のことなど考えずに勝手に職を辞し妻の香夏子(深田恭子)が就職したにもかかわらず家事を完遂しないクズの側面もある。勉強が好きだったわけでもないのに高校進学を推奨しなかった父親の一夫(小林薫)を逆恨みしている側面もある。いろいろと素晴らしいとは言えない信一なのだが・・・唯一つ・・・佳織の幸せを願いそのために中学受験が不可欠であると信じていることは間違いないのだった。それが愚かな思いこみにすぎないにしても・・・誰が信一の心情を否定できるだろうか。

信一は妻と娘のために朝食を作るのであった。

妻と娘はお寝坊さんである。

スマイベスト不動産にハウジング・アドバイザーとして勤務することになった香夏子なのである。

母親のスーツ姿に「お母さんかっこいい」と喜ぶ佳織だった。

就寝前に名刺を眺めすぎてうっかり布団と一緒にたたむ香夏子だった。

「あった」

「お母さん、遅刻しちゃうよ」

慌ただしい桜井家の新体制発足の朝・・・。

洗濯して掃除と・・・信一もなんとか家事をこなす。

「俺はスーパー・ハウスキーパー・・・そしてスーパー・ティーチャーなのだ」

信一は自画自賛するが・・・慣れないことを始めた時は用心が必要なのである。

まあ・・・桜井家にそんなこと言っても無駄だけどな。

家事を終えた信一は営業前の居酒屋「ちゅうぼう」で受験勉強を開始する。

「誰もいないと寂しいんだよ」

店主の松尾(若旦那)は嫌な顔一つしない。

「だけど香夏子のことはちょっと心配なんだ・・・あいつ可愛いだろう・・・変な男に目つけられたらって・・・世間には口ばっかで身の程知らずな男っているからな」

「それ・・・お前な」

ツッコミはする松尾だった。

楢崎哲也(風間俊介)とコンビを組んで物件を顧客に案内する香夏子。

顧客は乳児を連れたの中津川夫妻である。

乳児が泣きだし慌てる中津川夫人(黒坂真美)・・・。

一児の母親として手慣れた対応を見せる香夏子なのであった。

「すみません」

「私にも子供がいますから」

香夏子のコミュニケーション力に好感を抱くナラザキなのだった。

長谷川部長(手塚とおる)も香夏子を嫌らしい目で見詰めつつ食事に誘い・・・スマイベスト不動産は華やぐのである。

そりゃ・・・そうだわなあ。

大江戸小学校では靴ビショビショ事件以来欠席の続く麻里亜(篠川桃音)の件で小山みどり先生は父親の徳川直康(要潤)と面談していた。

「色々とわがまま言ってすみません」

「休みが続くと・・・登校しづらくなりますから」

「もう少し様子を見させてください」

零点シスターズことコマツコになれそうなリナ(丁田凛美)と松井愛莉の幼少期を演じられそうな美少女のアユミ(吉岡千波)は綺麗に洗った靴を佳織に見せる。

「この間のあれはさ・・・ほんとに私たちじゃないから」とアユミ。

「わかってるよ」と佳織。

「でもあの子・・・絶対に私たちだと思ってるよね」とリナ。

徳川氏に気がついた佳織は靴を受け取って走る。

「あの・・・これ・・・麻里亜ちゃんの靴返そうと思って」

「一応・・・受け取っておくよ」

「直接渡したいから会わせてもらえますか?」

佳織は先を読む力に優れているのだ。

徳川氏にリナやアユミの心情を伝える力はないと洞察したのだ。

あまり・・・優秀そうではない家政婦の芳江(山野海)は佳織に高圧的な態度を見せるが・・・麻里亜は佳織を歓迎する。

「飲み物を用意して」

「はい・・・お嬢様」

「あの・・・風邪の具合は・・・」

「え・・・ああ・・・もう治った」

「よかった・・・あの・・・これ・・・この間の靴・・・あれ・・・リナとアユミがやったんじゃないんだ・・・リナたちはたまたま拾っただけで・・・これ・・・ちゃんと洗ったって」

「下駄箱にいれておいて・・・捨てちゃダメよ」

「はい・・・お嬢様」

「二階に来て・・・」

お嬢様の部屋に感激する佳織だった。

「うわあ・・・広い・・・大きい」

書架には洋書も並んでいる。

「麻里亜ちゃん・・・これ読めるの?」

「生れたの向こうだから」

「向こう」

「こちらにきたばかりの頃は発音がおかしいってからかわれた」

「全然おかしくないよ」

「家庭教師を呼んで全力で修正したの」

「さすがは麻里亜ちゃん」

「受験勉強・・・どこまで進んでいるの?・・・過去問やっている?」

「過去問?」

「前に出題された入試問題だよ」

「これは・・・桜庭学園・・・二年前の入試問題・・・」

「やってみる?」

「でも・・・私にはまだ早いって・・・お父さんが」

問答無用で専用複写機でテスト用紙を作成する麻里亜・・・。

初めての過去問に挑んだ佳織は・・・。

香夏子が帰宅すると信一と一夫がカレーを作っている。

「昔はこうやって二人で作ったもんだ・・・」

「作れるもんなら・・・なんでも作るよ」

「深夜食堂みたい」

「記憶には青魚がいいんだってよ・・・DDTというのが入ってて」

DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は有機塩素系の殺虫剤である。

青魚の成分で学習機能向上作用があると言われるのはDHA(ドコサヘキサエン酸)だ。

「佳織は?」

「友達のところで遅くなるって」

友達と聞いてリナとアユミの家に電話する香夏子・・・。

「誰の家って言ってたの」

「ええと・・・」

記憶力に問題のある信一だった。

ママさんネットワークに不慣れなのである。

心配して探しに出た信一と香夏子・・・。

そこへ・・・運転手付の徳川家の車で送られてくる佳織だった。

「どこへ行ってたの」

「麻里亜ちゃんち・・・お父さんにそう言ったよ」

「信ちゃん・・・」

「・・・」

祖父の手作りカレーを食べる佳織は心ここにあらずである。

「どうしたんだ・・・」

「麻里亜ちゃんが凄すぎて・・・家はコンビニみたいだったし」

「コンビニ?」

「大きなコピーの機械があって・・・それで桜庭学園の過去問をコピーして」

「過去問・・・」

「麻里亜ちゃんは満点だったのに・・・私・・・一問もできなかった」

「えええ」

「後から考えたらわかりそうな問題がいくつかあったけど・・・麻里亜ちゃんが凄い早さで答えを書くんで・・・私・・・頭が真っ白になって・・・もっと勉強しないと・・・麻里亜ちゃんに追いつけない」

「佳織・・・」

「どうしよう・・・」

佳織は学力格差を実感したショックで泣きだしてしまうのだった。

泣き寝入りした佳織。

「俺塾」では香夏子が囁く。

「大丈夫なの」

「今の佳織じゃ・・・桜庭学園の過去問なんて無理なんだよ」

「遺伝的に」

「違うよ・・・時期尚早なんだ・・・今は遅れを取り戻している段階なんだから」

「・・・」

「徳川の娘は・・・前にやったことあるんじゃないかな」

「え」

「一度やってれば全問正解だって簡単だ」

「そんなこと・・・」

「お前だって・・・友達とゲームやる時・・・自分の得意なやつやるだろう」

「それは・・・信ちゃんでしょう・・・」

「悪気はないってことだよ・・・いいところ見せたいだけなんだよ・・・子供だから」

「信ちゃん・・・子供なのね」

「・・・」

しかし・・・あまりのレベルの違いを見せつけられ佳織は自信喪失してしまったのだ。

「もう・・・おいつくのなんて・・・無理だよ・・・麻里亜ちゃんの背中が見えない」

「大丈夫だよ」

「でも・・・」

「よし・・・じゃあ・・・全国オープン模試にチャレンジしよう・・・過去問はお前には早すぎただけなんだ・・・百メートル泳げないのにオリンピックに出場するようなもんだ。でも・・・今まで勉強したことは無駄じゃない・・・それを模試で確かめるんだ」

「もし・・・前と同じだったら・・・」

「さんな弱気でどうする・・・よし・・・こうしよう・・・全日本小学生テストあっただろう・・・あれより悪かったら・・・中学受験はきっぱり諦める」

「諦める・・・」と佳織の負けん気に火がつく。「・・・諦めたくない」

佳織は・・・宿敵の麻里亜と一緒に登校しようと思うのだった。

家政婦は「お嬢様は風邪が完治しておりません」と応じる。

「麻里亜ちゃんに・・・全国オープン模試一緒に受けようと伝えてください」

麻里亜は登校した。

「麻里亜ちゃん・・・風邪は治ったの」と小山みどり先生。

「はい」

佳織は麻里亜を笑顔で迎えるのだった。

麻里亜は佳織のためにできることをした。

佳織は麻里亜のためにできることをしたのだ。

調子に乗って信一はコピー機のリース契約を結ぶのだった。

基本的に大雑把な信一は電気料金の督促状をゴミとして捨ててしまう。

香夏子は滞納している電気料金を払うように頼んでいたがうっかり忘れる信一。

送電停止処分である。

「なんで振り込みじゃないんだ」

「あなたが嫌だって言ったんじゃない」

変なことに拘るが面倒くさいことは嫌い。

そういう困った人間はよくいる。

家事に不慣れな夫と・・・慣れない職場で緊張する妻の緊張が高まっていた。

そんな最中の・・・全国オープン模試当日である。

「電気料金」を誰が支払いに行くかでもめる信一と香夏子。

信一に雑用を押しつけられ腹を立てた香夏子は気分を鎮めようとお茶を沸かす。

そこに・・・ナラザキから電話が入る。

「今日の契約・・・お客様が1時間早くしてくれないかって」

あわてて出勤する香夏子・・・やかんの火の消し忘れに騒然とするお茶の間だった・・・。

香夏子は顧客との契約のために携帯端末の電源をオフにした。

「女の人がいてホッとしました」

中津川夫人の言葉に仕事の喜びを感じる香夏子・・・。

一方・・・模試会場で徳川氏と会った信一はカフェで旧交を温めることになる。

「お久しぶりですね」

「その馬鹿丁寧な喋り方・・・なんとかならないの?・・・小学校一緒だったんじゃん」

「僕なんか・・・酒の力を借りないと娘と話せないですよ」

「ええっ」

「勉強・・・教えてるとか」

「教えてるんじゃねえよ・・・一緒に勉強してんのさ・・・算数とか難しいから」

「難しい・・・ですか」

「俺にとってはな・・・」

「いや・・・嫌みで言ったんじゃないんです・・・女の子は色々難しいでしょう」

「そういうのは・・・嫁さんまかせだよ・・・そっちだって・・・奥さんが」

「妻は二年ほど前に出て行ってしまって・・・」

「あ・・・悪いこと言っちゃったかな」

「・・・」

その時・・・信一の携帯端末に・・・マンションの管理人から連絡か入る。

「えええええええええええ」

帰宅した香夏子は・・・一夫が窓を修理しているのに驚く。

「なんで・・・電話に出ないんだ」

「大事な契約があったので・・・電源切ってた」

「ガスコンロ消すの忘れただろう」

「あ・・・」

「火災報知器が鳴って・・・隣の家の人が消防に電話して・・・ガラスを割って・・・消防隊が入ったそうだ・・・とりあえず応急処置を」と一夫。

「なにやってんだよ・・・一歩間違えたら・・・火事になってたんだぞ」

「ごめんなさい・・・そんなつもりじゃ・・・佳織は」

「徳川のところで預かってもらってる・・・」

「私・・・迎えに行ってくる」

「送ってくれるように頼んであるから」

「・・・」

鬱憤がたまっていた信一は・・・香夏子を労わる心を失っていた。

「お前・・・ちょっと浮かれてんじゃねえのか・・・外に働きに出て・・・お客さんにちやほやされて」

「信一・・・そのいい方はないだろう・・・香夏子さん・・・こいつヤキモチ焼いてんだよ・・・嫁さんが働きに出て思った以上にうまくやってるから」

「そんなんじゃねえよ」

図星だったのでさらにいきりたつ信一である。

「信一は勉強をする・・・香夏子さんは仕事をする・・・そういう風に二人で決めたんだろう」

「親父・・・黙っててくれ・・・俺は火の用心について」

「中学受験なんてしなくたって・・・幸せになる道はある・・・俺はそう思っていた・・・怪我が治ったら・・・すぐに現場に復帰しようと思ってあちこちに声かけたんだ・・・でも・・・俺に回ってくる仕事なんてない」

「お父さん・・・」

「気難しくて文句の多い年寄りより・・・もっと若い人でってな・・・道具もやたらと新しいもんになっちまってるし」

「そりゃ・・・仕方ねえよ・・・時代が違うし」

父親のわびしさに胸がつまる信一・・・。

「男が外で稼いで・・・女が家を守る・・・娘はいつか嫁に行く・・・そんな時代は終わっちまったらしい。だから信一・・・お前が佳織をいい学校に行かせようってえ気持ち・・・今はよくわかる・・・けどな・・・そのためには佳織のことだけを考えて夫婦が一つにならなきゃなんねえ・・・え・・・そうだろう」

そこに・・・佳織が帰宅する。

「佳織・・・」

「お母さん・・・佳織・・・疲れちゃった・・・」

母と娘の入浴タイムである。

様々な思いを胸に桜井一家は夜を越えていく。

一夫はイルミネーションの飾られた明るい家を見る。

そんな家は・・・一夫が信一を育てていた頃にはなかったのだ。

時代は変転していくのだった。

模試結果発表の日・・・。

結果が悪ければ・・・桜井一家の野望は夢と消えるのだ。

仕事中の香夏子もこらえきれずに・・・ナラザキに仕事を押しつけて会場に走るのだった。

似たもの夫婦である。

ぐったりした夫と娘を発見する香夏子・・・。

「だめだったの・・・」

「いや・・・あがってた・・・成績あがってた・・・245点・・・偏差値52」

「これって・・・すごいんだよね」

「すごいよ・・・短期間でこれだけよくあげましたねって言われた」

「おめでとう」

「おかあさん」

前回・・・偏差値41

今回・・・偏差値52

11ポイントのアップで・・・佳織は下流から中流へと這い上がったのである。

緊張から解放され・・・佳織は香夏子の腕の中で泣きじゃくった。

最下位で襷を受け取って二十人ごぼう抜きにしたがまだ前に二十人いる感じ・・・。

受験まで残すところ・・・およそ一年と一ヶ月である。

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2017年2月10日 (金)

傷だらけの用心棒(綾瀬はるか)生きて虜囚の辱めを受ける(板垣瑞生)

架空の世界で架空の歴史を紐解くことは格別に無意味なことである。

しかし・・・無意味なことにはそれなりの醍醐味がある。

ナンセンスは「笑い」の基本要素なのである。

たとえば・・・連合国が東京を大空襲し広島と長崎に原爆を投下した後で・・・大日本帝国が奇跡の逆転勝利を掴んだ世界の話。

敗戦国となった米国で行われる「ワシントン裁判」では一体、何が裁かれることになっただろう。

少なくとも・・・原爆開発関係者は全員、死刑になっただろうか・・・それとも新兵器開発のために帝国の奴隷となったのか。

あるいは人民共和国によって朝鮮半島が統一された近未来の世界。

日本国は核攻撃の脅威にさらされ・・・友愛を示すために大河ドラマは「従軍慰安婦物語」をオンエアし、全国にくまなく少女像が作られる。

一部の市民団体は「拉致被害者の像」を全世界に作ろうとするが激しい弾圧に遭う。

そういう幻想の世界に・・・私たちは誘われます。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第2回』(NHK総合20170128PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・中島由貴を見た。目に見えない力により・・・作られた世界にはいくつかの特徴がある。たとえばこの世界には共和国はない。共和国とはそもそも王権と市民権が和する国家である。その原動力は民主主義である。しかし・・・「守り人」シリーズに登場する国家は・・・新ヨゴ皇国(ドラマでは見えない力によって新ヨゴ国)、カンバル王国、ロタ王国、サンガル王国、タルシュ帝国であり、帝や王という血統による権威が民を支配する国家ばかりである。これはそういう潜在意識に基づく幻想世界の物語なのだ。

Seireimap022 ロタ王国の港町・ツーラム・・・。

謎めいた男・ヒュウゴ(鈴木亮平)は少女海賊のセナ(織田梨沙)とともに密偵の報告を受ける。

「新ヨゴ国はサンガル王国に援軍を送るのか・・・」

「戦闘帆船一隻・・・しかし・・・その船には皇太子が乗船しているらしい」

「せっかく皇国から皇の字を省略したのに皇太子って言っちゃてるし」

「まあ・・・そういうもんだ」

「国王は陛下、王族は殿下、将軍は何だっけ」

「閣下だ」

「大提督様は」

「閣下だな」

新ヨゴ国を出港した戦闘帆船は海洋国家サンガル王国を目指し南に進路をとっていた。

ナユグ(精霊)が見える皇太子・チャグム(板垣瑞生)は甲板にいた。

チャグムの母・二ノ妃(木村文乃)の父親でもある新ヨゴ国の海軍大提督・トーサ(伊武雅刀)は孫の健康状態を気遣う。

「殿下・・・御気分はいかがですか・・・船酔いなどは・・・」

「おじいさま・・・お気遣いなく・・・私にも海の男の血が流れているらしい」

「これは頼もしい」

「戦の前に・・・寄り道をしたいのです」

「寄り道・・・」

「帝の許しを得ずに・・・ロタに密使をさしむけました」

「なんと・・・」

「タルシュ帝国に対峙するために・・・ロタ王国と新ヨゴ国の同盟締結は・・・譲れない安全保障政策です」

「帝がお許しになりますまい」

「だから・・・ロタ国王と皇太子による秘密条約を結びたいのです」

「・・・」

「おじいさま・・・私と共に謀反人になっていただきたい」

「承知つかまつった」

トーサは補給を理由に進路へと変えた。

ロタ王国のヨーサム(橋本さとし)国王は王弟のイーハン(ディーン・フジオカ)とともに優雅に狩を楽しんでいた。

鹿のようなものを射抜くヨーサム国王。

イーハンは喝采するが・・・直後に馬上から落下するヨーサム。

ヨーサムは病んでいた。

「兄上・・・無理をなさってはいけませぬ・・・」

「イーハン・・・新ヨゴ国の皇太子の提案をどう思う?」

「帝と皇太子の意見が違うのでは・・・まともに応じるわけにはいきますまい」

「しかし・・・わが国とて・・・分裂の危機は常にある」

「・・・南北問題ですか」

「そうだ・・・南の領域は豊かだが・・・北の領域は貧しい・・・経済格差はいつだって内乱の火種だ・・・特に北には・・・タルの民がおる・・・」

兄の言葉にイーハンは処刑されたタルの民の女・トリーシア(壇蜜) の死に顔を思い浮かべる。

「タルシュ帝国は確かに脅威だ・・・しかし・・・南の領域ではタルシュとの貿易を歓迎するものもいる・・・わが国の危機に・・・やがて・・・お前が対峙することになるだろう」

「兄上・・・」

「あの女に・・・こだわりすぎるな」

「・・・わかっております」

運命に導かれ・・・バルサ(綾瀬はるか)と薬草使いのタンダ(東出昌大)はトリーシア(壇蜜) の遺児たち・・・チキサ(福山康平)とアスラ(鈴木梨央)の兄妹を保護していた。

ロタ王に仕えるカシャル(猟犬)の呪術師たちはアスラに憑依したノユーク(悪霊)を警戒していた。

カシャルの長であるスファル(柄本明)がバルサの宿営地に現れる。

用心棒としてスファルを威嚇するバルサ。

「バルサよ・・・あの兄妹を・・・何から守っているつもりだ・・・あの兄妹を・・・何から救うというのだ」

「・・・」

「アスラは・・・ただの子供ではない・・・王都の祭儀場で・・・アスラの母親は処刑された・・・禁断の罪を犯したからだ・・・その場にいたものどもは・・・皆殺しにされた・・・残された子供の足跡を追って・・・私は・・・二人を発見した」

「あの子を殺せと・・・命じられたのか」

「バルサよ・・・アスラに宿りしものは・・・チャグムに宿りしものとは違うのだ」

タンダが口を挟む。

「しかし・・・ナユグなのでしょう」

「ナユグ(精霊)ではない・・・ノユーグ(魔物)だ・・・この世に破壊をもたらす邪悪な悪霊だ・・・タルの民は神と崇めるが・・・恐ろしい邪神に他ならないのだ」

「異界のものに正邪をつけるのは人間の都合ではないのか」

「バルサ・・・惧れを知らぬものよ・・・」

バルサとスファルの口論に怯えるアスラ。

危険を察知したチキサが飛び出す。

「争わないでください・・・妹が怖がります」

「私たちは争っているわけではない・・・私はこれで失礼しよう・・・バルサよ・・・よくよくお考えなされ」

スファルは去り・・・タンダは食事の用意を整える。

「これから・・・どうするんだ」とタンダは厄介事からの解放を願う口調になる。

「どこに逃げても・・・追いかけてくるでしょう」とチキサ。

「大丈夫よ」とアスラは無邪気に言う。「私たちは神様が守ってくれるもの」

「アスラにとって神様は・・・お母さんのようなものなんです・・・恐ろしさから逃れるために恐ろしいことをしてしまう・・・」

「とりあえず・・・食事にしよう」とタンダは気まずさをごまかすためにスープを口にする。「う・・・ダメだ・・・食べるな」

スファルは食材に一服盛って行ったのだった。

強烈な催眠効果に昏睡する一同・・・。

スファルの娘・シハナ(真木よう子)が現れ・・・アスラの身柄を確保する。

バルサは全身を襲う倦怠感と戦いながら身を起こす。

しかし・・・周囲は猛火に包まれていた。

「バルサ・・・」

バルサはタンダの声にふりかえる。

「これは・・・幻影だ・・・毒消しを飲め・・・」

バルサはタンダの薬を服用した。

たちまち・・・静寂が戻ってくる。

「行け・・・バルサ・・・」

バルサは騎乗し・・・シハナを追いかける。

シハナは森を抜けていた。

「スター・ウォーズ エピソード6のいただきね」

「かなり・・・温い感じだけどね」

バルサは馬をシハナと並行して走らせ、アスラに飛びついて奪還する。

「物理的にどうなのよ」

「相対速度の問題よ」

二人は短剣と短槍で対峙する。

「力量が同じなら武器の長い方が勝つ」

「つまり・・・私の方が腕が上ってことよ」

バルサはシハナに追いつめられるが・・・覚醒したアスラに驚愕するシハナ。

「去れ」

「・・・」

シハナは撤退する。

「お兄ちゃんたちは・・・」

「おそらく・・・捕まった・・・二人は私たちをおびき寄せる餌として簡単には殺されない」

バルサはアスラを連れてロタ王国と新ヨゴ国の国境を目指す。

トーサの戦闘帆船はツーラムに寄港する。

草の市でにぎわう港町。

「世界各地から・・・草が集まっています・・・南の旧ヨゴ国の物産もあるという話です」

チャグムは草使いのタンダを連想する。

そこへロタ王国の南部を束ねる大領主・スーアン(品川徹) が現れる。

「他国の兵をみだりに上陸させるわけにはいかぬ」

「我こそは新ヨゴ国の皇太子である・・・ロタ王に御目通りしたく参上しました・・・早急にお取り次ぎ願いたい」

「皇太子とな」

ロケによっては広大な感じのこの世界だが・・・セットや・・・都市間の距離感はかなり脱力する。

たちまち・・・ロタ王宮にワープする皇太子一同である。

「お父上はいかに思し召しかな」

ヨーサム国王はチャグムに問う。

「父に背いてここにおりまする。しかし・・・単独でタルシュ帝国に応じるのは無謀と推察いたしました」

「同盟というものは・・・そなたの考えるような容易いものではない」

「無礼は承知の上・・・しかし・・・国王陛下のお口添えがあれば・・・我が父の考えも変わると心得ます」

「わが国には・・・タルシュ帝国から・・・ツーラム開港の要請もある」

「それは・・・タルシュ帝国に侵略の口実を与えるようなものです」

「しかし・・・わが国には開港を望む声もある・・・したがって・・・皇太子殿の望みに即答はできかねる」

「・・・」

「されど・・・皇太子殿と余の絆は深まった・・・再び会いまみえることを心より願う・・・ご武運を御祈り申し上げますぞ」

「・・・ありがたき幸せにございます」

交渉は決裂した。

チャグムは船上で空を渡る精霊の群れを見る。

「こんなものが見えても何の役にも立たない」

「しかし・・・ファンタジーっぽさは演出できますぞ」

新ヨゴ皇国の星読博士・シュガ(林遣都)は教育係としてチャグムを慰めた。

やがて・・・戦闘帆船はサンガル王国の大船団に遭遇する。

「我こそはサンガル王国司令官オルランである」

「私は新ヨゴ国海軍大提督ソーサ・・・サンガル王の要請により参りました」

オルラン(高木亘)は嘲笑する。

「それはありがたいが・・・たった一隻では助けにはならん」

「これなるは・・・精鋭部隊でござる」

「つまり・・・新ヨゴ国は・・・サンガル王国を最初から信じていなかったということだな・・・されば・・・武装解除し・・・虜囚となられよ」

「すでに・・・タルシュの軍門に下ったと申されるか・・・」

「さよう・・・タルシュ帝国に服従を誓わねば滅びの道をたどるまで・・・それほどまでにタルシュ帝国は圧倒的な実力を持っているのです・・・新ヨゴ国も忠誠を誓うがよろしかろう」

「新ヨゴ国は・・・けして他国に服従しない」

「ならば・・・海のもくずと消えるがよろしかろう」

「・・・兵たちの命を保証してくださるか」

「いかにも」

「降伏の旗を掲げよ」

チャグムは怒りを示す。

「一戦も交えずに捕虜となるのですか」

「無駄死にはなりませぬ」

「皇太子としてこのような恥辱に耐えられぬ」

「殿下・・・身分を偽り兵士となっていただく・・・」

「そのようなこと・・・兵が一人でも裏切れば」

「私の部下にそのような不心得者はおりませぬ・・・」

「大提督・・・」

「たとえ国が滅んでも・・・皇宮の血統を絶やしてはなりませぬ」

「おじいさま・・・」

捕虜の移動は終了した。

「さあ・・・大提督閣下もこちらへ」

「船と運命を共にすることが提督の務め・・・」

「さようか」

戦闘帆船は自沈し・・・海のもくずと消え去った。

バルサとアスラは放牧民の集落で一夜の宿を得た。

「明日になったら、お兄ちゃん達を助けに行く」

「アスラ・・・」

「神様がきっと助けてくださる。私・・・お母様の代わりに神様を招くことができるようになったの。だから・・・お兄様達を探しましょう」

「アスラ・・・神様を招いてはいけない」

「どうして」

「招けば人が死ぬ」

「それは・・・悪い人だからでしょう」

「相手が悪いかどうかは・・・アスラが決めることではない・・・向こうから見ればこちらが悪いのかもしれない・・・どちらが悪いかなんて・・・神様でも決められないことだ」

「だったら殺されるのを待つしかないの・・・お母さんは何もしていないのに殺された・・・それなのに神様に助けを求めちゃいけないの・・・タルの民はロタ人に殺されるのが当たり前なの・・・」

アスラは泣きじゃくる。

バルサはアスラを抱きしめる。

「もう・・・わかった」

「絶対に許さない・・・お母さんを殺した人たちを・・・私の敵は・・・みんな悪よ」

炎の中で沈む船を見つめ・・・チャグムは誓う。

「おじいさま・・・あなたの命を・・・無駄にはしません・・・」

しかし・・・チャグムに何ができると言うのだろう・・・。

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で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第3回』(NHK総合201700204PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・西村武五郎を見た。二本立てはつらいよ・・・最終コーナーである。谷間にも続く変則編成とか・・・いい加減にしてもらいたいよね。もはや・・・お茶の間は季節のない空間となりつつあるのだよ。いや・・・暖房切ったら結構寒いぞ。切るなよ。少なくとも「守り人」シリーズの世界に空調設備はないと思うぞ。だからってレビュー書く時に体感する必要はないだろう。

銃火器はないようだが・・・火薬はどうなんだろう。

花火はでてきたっけ?

思い出せない・・・。

戦闘帆船はなぜ・・・大量の油を搭載していたのか・・・謎だよな。

・・・まあ・・・いいじゃないか。

アスラはバルサに問われ・・・母親の最後について語る。

アスラの母親・トリーシアは禁断の神域にアスラを連れこんだ。

「森林の外で・・・お母様は・・・お兄様に待つように言ったわ。そこはとても恐ろしい場所だった。私は帰りたかったけれどお母様に励まされ・・・奥へ続く神域の通路を進んでいった。すると首のない屍が横たわる聖なる台があったの。そこで私は神様を見たの・・・私は屍の首から光る蔦が伸びているのを見た。怖かったけれどとてもきれいだった・・・私が人には見えないものを見ると・・・お母様はとても喜んでくださった・・・お母様は呪文を唱えながら・・・私に光の輪に触れるように言ったの・・・ヤドリギの輪に触れ・・・ノユークのタルハマヤを受け入れよ・・・そんな呪文だった・・・そして私はサーダ・タルハマヤになったのよ」

「ロタの人々はタルハマヤは恐ろしい破壊の神だと言っていた・・・」

「いいえ・・・タルハマヤは・・・タルの民を救う神様よ・・・お母様はそう言った・・・その時・・・ロタの兵士たちがやってきた。お兄様は兵士たちに捕まっていたわ。兵士たちはお母様を祭壇の十字架にかけて・・・槍で刺した・・・お母様は神様を呼べと私に言った・・・すると神様がやってきて・・・悪い人たちをみんな罰したのよ」

「・・・」

バルサが推測したように・・・タンダとチキサはスファルたちに囚われていた。

「バルサたちは・・・新ヨゴ国の国境に向っているようだ」

「鷹の目で追うにも限界があるでしょう」

タンダは揶揄した。

「自分たちに人質の価値はないと言うのかな」

「少なくとも・・・あなたたちから逃げた方が俺たちも安全でしょう」

「愚かな・・・」とシハナが蔑みの目を向ける。「お前はタルハマヤの何たるかを知らない」

「しかし・・・ナユグの・・・いやノユークの精霊に善悪はないでしょう・・・こっちの世界から見れば・・・恐ろしい振る舞いをするのかもしれないが・・・」

「タルに昔・・・一人の美しい乙女がいたという・・・美しさに魅かれた盗賊たちがやってきて・・・乙女をかどわかそうとした・・・抵抗した乙女の両親は殺された。逃げ出した乙女は川辺で光の大樹を見た。救いを求めた乙女に応え・・・タルハマヤは光の枝を伸ばした。そして・・・破壊神サーダ・タルハマヤが降臨した。タルの民は神と一つになった乙女の力を利用して・・・この地を恐怖で支配した」

「それは・・・ロタ人たちの勝手な言い草だ」

タルの民であるチキサが反駁する。

「そうかもしれぬ・・・しかし・・・サーダ・タルハマヤの存在は不安定なものだ・・・ロタの人々が勝利し・・・サーダ・タルハマヤの復活を禁じたことは仕方のないことだったとも言えるだろう」

「お前も・・・アスラの恐ろしい力を見ただろう・・・」

「・・・」

「我々・・・ロタ王に仕える猟犬カシャルは・・・呪術をもって・・・タルの民を監視するのも役目・・・お前の母のように・・・神を信じるあまりに・・・災いを解き放つものが現れるからのう・・・」

「タンダよ・・・すでに追手はバルサに追いついておる・・・しかし・・・相手は短槍の使い手じゃ・・・できれば先廻りがしたいのじゃ・・・」

「バルサはおそらく・・・四路街を目指している・・・しかし・・・それ以上は言えない・・・知りたければ俺たちを同行させろ」

「・・・よかろう」

「何か・・・道があるはずだ」

「滅びに続く道でないとよいがのう」

殺気を感じたバルサは放牧民のテントを出る。

殺到するカシャルの戦士たち。

バルサは戦士たちの戦闘力を奪うが矢傷を受けてしまうのだった。

「殺せ・・・」

「殺しはしない」

「みんな・・・この女は・・・化け物を連れている・・・その子供はサーダ・タルハマヤだぞ」

遊牧民たちの目に怯えが浮かぶ。

「黙れ」

バルサは戦士の口を封じた。

「殺したの・・・」

「気絶させただけだ」

しかし・・・遊牧民たちの視線は冷たかった。

バルサとアスラは石を投げられテントを追われた。

「どうするの・・・」

「誰かを頼るしかない時は・・・必ず来るものだ」

バルサの心には・・・国境の町・四路街に住む昔馴染みの顔が浮かんでいた。

新ヨゴ国には戦闘帆船の敗報が届いていた。

「サンガル王国より・・・タルシュ帝国に従うべきだという親書が届きました」

星読博士のガカイ(吹越満)が告げる。

「・・・」

帝(藤原竜也)は微笑んだ。

「トーサ閣下は戦闘帆船とともに自決なされ・・・乗員は捕虜になったようです」

「皇太子もか」

「皇太子については・・・触れられていません・・・いかがいたしましょう」

「捨てておけ」

「しかし・・・」

「こちらが何もしなければあちらが動くしかない・・・」

「・・・」

「陸軍大提督・・・国境の警備を厳重にするのだ」

陸軍大提督ラドウ(斎藤歩)は命令に従った。

二ノ妃(木村文乃)は帝に訴える。

「チャグムはどうなったのです」

「安心しろ・・・チャグムは捕虜になったりはしない」

「・・・」

聖導師(平幹二朗)は帝に意見を述べる。

「おそらく・・・皇太子の行方が知れぬのは・・・トーサ閣下のご配慮であると」

「ふふふ・・・身分を偽っておるのだろう・・・新ヨゴ皇国の皇太子たるものが・・・虜囚の憂き目に遇うなど・・・あってはならぬことだ・・・」

「・・・」

「手は打ってある」

「まさか・・・狩人にご命令を・・・」

「戦死こそが名誉・・・皇太子の死に・・・臣民は一丸となるであろう・・・皇太子はなぜ死んだか・・・立てよ・・・新ヨゴ国の・・・民草よ・・・ジーク・ヨゴ!」

「陛下・・・」

サンガル王国の捕虜収容所。

「殿下・・・もう少しお食べください」

「いらぬ・・・もはや・・・これまでだ」

シュガは落胆したチャグムに言葉を失う。

「すっかり・・・腑抜けになったもんだな」

護衛のために随行している狩人ジン(松田悟志)は嘲笑する。

「殿下に対して言葉が過ぎるぞ」

狩人頭のモン(神尾佑)が嗜める。

「そのような態度では・・・せっかくのトーサ閣下の計略が無駄になります」

「・・・」

「かって・・・精霊を宿したお前を見上げた男と思った俺が馬鹿だったよ・・・めそめそしやがって・・・単なるガキじゃねえか・・・こんなガキのために・・・トーサ閣下は命を捧げたのか・・・その命を無駄にしないと誓った言葉は世迷いごとか」

「ジン・・・すまなかった・・・お前の言う通りだ・・・泣きごとを言うために生き延びたわけではない・・・みんな・・・今日から私はただのチャグムだ・・・さあ・・・食べるぞ・・・腹が減っては戦が出来ぬからな・・・」

しかし・・・その夜・・・帝の密命を受けたモンは・・・チャグムの息の音を止めにかかるのだった。

四路街で衣装店を営む女主人・マーサ(渡辺えり)はバルサを歓待した。

マーサと息子のトウノ(岩崎う大)が行商をしていた頃・・・今は亡きジグロ(吉川晃司)とバルサは用心棒として雇われていたのだった。

ジグロはマーサの思い人だった。

「マーサはねえ・・・あんたぐらいの年から・・・用心棒だったよ」

マーサの言葉に驚くアスラだった。

マーサはアスラを入浴させ・・・アスラに残るヤドリギの輪の痣に驚く。

「あんた・・・怪我していたのかい」

「いいえ・・・これは生れつきです」

「そうかい・・・変なこと言ってすまなかったね」

しかし・・・バルサの矢傷は熱を持っていた。

マーサは医術死を呼んで手当をさせる。

「長居はできないんだ・・・」

「追われているんだね」

「迷惑はかけられない」

「何を水臭いこと言ってんだ・・・あんたを用心棒として雇うからね・・・契約が終わるまで逃げられないよ」

「・・・」

バルサは意識を失った。

夢の中でバルサ(清原果耶→綾瀬はるか)はスマル(野村将希)を短槍で貫く。

バルサが初めて殺した相手・・・。

「殺さなければ殺される・・・それでも殺すな・・・と言うのか」

バルサは己に問うのだった。

マーサはアスラに機織りの術を教え・・・美しい衣装を与える。

目覚めたバルサはアスラの笑顔を見た。

ロタ王国の宮廷では南北の領主たちが論争をしていた。

「何故・・・南にだけ増税が行われるのだ」

「北は今・・・疫病が流行中で支援が必要なのだ」

「北のことは北でまかなえばいいではないか」

「北のものに死ねと言うのか」

「・・・陛下」

南部を束ねる大領主スーアンが立ち上がる。

「申せ」

「増税のことは了承いたします・・・しかし・・・ツーラムの開港もご了承願いたく申し上げます」

「それとこれとは話が違うではないか」

イーハンが口を挟む。

「イーハン殿下・・・北の地の疫病も北の地にタルの民が多いことと無関係ではないでしょう・・・祭事場での惨劇の噂がございます・・・この際・・・タルの民をこの国から一掃してはいかがでございましょう」

「なんと・・・」

イーハンがタルの民に同情的な態度であることは周知の事であるらしい。

タルの民問題もまたロト王国分裂の兆しであった。

スファルはタンダを問いつめる。

「そろそろ・・・教えてもらおうか」

「しかし・・・どうなさるつもりです・・・バルサは素直に従ったりしませんよ」

「殺せる時に殺せないものなど・・・どうにでもなる」とシハナ。

「殺せる相手を殺さない・・・その優しさこそがバルサの強さではないか」

「そんなのはただの役立たずさ・・・」

「まずは話し合いだ・・・」とスファル。

「バルサはおそらく・・・マーサの店にいる」

「ああ・・・そうかい」

シハナは態度を豹変させる。

カシャルたちは・・・タンダとチキサ・・・そしてスファルまでも拘束するのだった。

「シハナ・・・お前・・・どうするつもりだ」

「父さんのやり方は手ぬるい・・・ここからは私が仕切るよ」

「なんだと・・・」

「私はね・・・アスラの力を使い・・・この国を一つにまとめるつもりなのさ」

「えええ」

シハナの使い猿は手紙をバルサに届けた。

「何て書いてあるの・・・」

「アスラを連れてこなければ・・・タンダとチキサを殺す・・・とさ」

アスラの力をめぐり・・・陰謀が渦巻き始めていた・・・。

支配者たちは常に力を欲する。

より強く支配するために。

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2017年2月 9日 (木)

孕めば勝ちの世界(武井咲)

虚構の世界の一つに伝奇というものがある。

伝奇は歴史のようなものだが・・・正史というには憚りがあるようなものである。

七代将軍・徳川家継の生母・月光院が赤穂義士・磯貝十郎左衛門の内縁の妻だった。

・・・というようなことは伝奇である。

基本的に虚構なのでなんでもありなのである。

作り手もお茶の間もそういう「幻想」を楽しむしかないのである。

「常識」というものには三つの難しさがある。

一つは「地域性」である。都会の大病院では個室でなくてもそれぞれのベッドにテレビが付属しているのが普通だが・・・地域によってはそうでもなかったりする。

一つは「時代性」である。たとえば素晴らしいインターネットの世界以前の世界と以後の世界はもはや別世界である。

一つは「個人性」である。日本人でも英語がペラペラの人もいれば日本語も怪しい人もいるわけである。

朝ドラマで「裕福な家庭の家族と使用人に待遇の差がある」ことに違和感を感じる中流家庭の人は多いだろう。

「使用人」を使ったことのない人には実感がないのだろうが「使用人」は「使用人」なのである。

朝ドラマで「お嬢様」があまりにも大切にされすぎるという人も多いだろうが・・・それが「お嬢様」というものなのだ。

朝ドラマで次男坊が・・・「本家」で臨終を迎えたいと願うことを不自然と感じる人も多いだろうが・・・「家督」を長男が継承する家父長制度では自然のことなのである。なにしろ・・・次男は鐚一文もらえないので無一文の場合さえあるのだった。

「大奥」のことについて多くを知らない人々に「伝奇」を伝えるのはかなり冒険であるが・・・どうせ知らないだろうと手を抜くと火傷することがあるので注意が必要だ・・・。

で、『忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第17回』(NHK総合201702041810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・船谷純矢を見た。「忠臣蔵」篇できよ(武井咲)と十郎左衛門(福士誠治)の純愛を描けば描くほど・・・「大奥」篇できよが喜世の方となって甲府宰相・徳川綱豊(平山浩行)の愛妾となり、さらには左京の局となって懐妊することは一種の残酷物語となっていく。きよはまさに「子を生むための道具」となったのである。

「女は産む機械」などと言えば非難轟々の現代ではおぞましいフィクションと言えるわけである。

しかし・・・「フィクション」に「これはフィクションです」と但し書きをつけてなんとか宥めなければ「フィクション」が死んでしまうのである。

「フィクション」の「戦場」でどれだけ「戦闘」があっても「戦死」する人はいないのでございます。

ただし・・・「法律上の戦闘とは言えない武力衝突」で「戦死」する人はいないとは言い切れない。

一刻も早く、戦場で軍人が戦死できる国家になってもらいたいものだ。

おいおいおい。

「大奥」は「男子禁制」である。

何故かと言えば・・・生れたのが誰の子かが・・・重要だからだ。

そのために・・・いくら将軍ではなくて大名だからとはいえ・・・殿のお手付きになった侍女が簡単に外出など許されない・・・とは言うものの・・・あくまでフィクションである。

江戸の庶民に大人気の赤穂義士だが・・・将軍家からは切腹を命じられた罪のある人々である。

現に赤穂義士の遺児たちは遠島処分になっている。

次期将軍候補の徳川綱豊のお手付きになった侍女が・・・赤穂義士の眠る泉岳寺で墓参りすることはかなり・・・危ない橋の上にいる・・・という話だ。

「十郎左様・・・お逢いしとうございます」

・・・などと呟いている場合ではないのである。

そこにこれがどうしようもなくフィクションであることを強調するために登場する十郎左衛門と瓜二つの間部詮房(福士誠治)なのだった。

間部詮房は徳川綱豊の小姓・・・腹心である。

綱豊の周囲には「世継ぎを生ませて将軍レースに勝とうプロジェクト」が展開中なのである。

儒学者・細井広沢(吉田栄作)がきよの類まれなる美貌に目をつけ・・・「お喜世の方」として桜田御殿に送り込んだのは「プロジェクト」の一環なのである。

何故なら・・・綱豊がその気になる女でなければ役に立たないからだ。

間部詮房はすべての事情を知り・・・「お喜世の方」を監視し保護する密偵なのである。

喜世は・・・十郎左衛門が蘇ったと思ったのだが・・・そんなことはないのであった。

「あなた様は・・・」

「間部詮房と申します・・・お喜世の方様をお迎えにあがりました」

「私を迎えに・・・」

「お喜世の方様は・・・いずれ・・・殿の側室となるお方・・・」

「・・・」

「どうか・・・お慎みくだされますように」

しかし・・・喜世にはまだ自分の置かれた立場への理解が不足しているのだ。

桜田御殿の褥で綱豊の男根にわが身を貫かれながら・・・それがわが身のこととは実感できないのだった。

「慎む・・・」

「家臣一同が・・・お世継ぎ誕生を待ちわびていることをお忘れなきよう」

「お世継ぎを・・・」

それが・・・喜世に定められた運命なのだった。

Chukoi002 徳川将軍家は初代家康から秀忠、秀忠から家光、家光から家綱と順調に父子相続を重ねてきた。しかし、家綱が嫡子を得ないまま逝去し・・・弟の綱吉が五代将軍を継承したのである。綱豊の父・綱重は綱吉の兄であり継承順位は上だったが・・・四代将軍・家綱に先立って死去していたのだった。五代将軍となった綱吉も嫡子がなく・・・唯一の娘である鶴姫が正室となった紀州藩主の徳川綱教が次期将軍の有力候補となっていた。綱吉の生母である桂昌院は血縁である鶴姫が綱教の子を産むことを強く願っていたのである。名君の誉れも高く、三代将軍・家光の孫である綱豊も有力な後継者候補であった。もし・・・綱豊に・・・綱教より早く嫡子が誕生すれば後継者レースはかなり有利となるのである。綱豊の正室である近衛熙子(川原亜矢子)は長女・豊姫と長男・夢月院を産んでいたがいずれも早世していた・・・。

「お喜世の方様の悲願が成就することを祈っております」

「悲願・・・」

それが・・・綱豊の側室となって跡継ぎを産むことなのか・・・別の意味を含んでいるのかは明らかにしない詮房だった。

桜田御殿では・・・侍女頭の唐澤(福井裕子)が喜世の指南役である江島(清水美沙)とともに喜世付の侍女を叱咤していた。

「喜世の方を残して戻ってくるとは何事ぞ・・・」

「申しわけございませぬ・・・」

そこへ・・・喜世が無事に戻ったと報せが入る。

「江島・・・」

「わかっております」

江島は喜世に告げる。

「喜世の方様は・・・御自分の立場をわかっておいでか」

「申しわけございませぬ・・・」

「もしも・・・喜世の方様に何かあれば・・・帰された侍女は死ぬ他ないのですぞ」

「え・・・そんな」

「よくよく・・・お考えあれ」

喜世はわが身の変転に驚くのだった。

綱豊は詮房より報告を受けていた。

「喜世はどこにおったのだ・・・」

「泉岳寺でございます」

「泉岳寺・・・なぜ・・・そのような場所に・・・」

詮房は理由を語らなかったが・・・綱豊は何事かを察した。

「喜世の方様を推挙したのは・・・柳沢吉保様でございましたな」

「柳沢は・・・余に乗り換えたようで・・・油断はならぬな」

「いかがいたしますか」

「喜世の方の出自については細井広沢に今一度問うてみよ・・・喜世は捨てるには惜しい」

「は」

そこに急使が到着する。

「何事じゃ」

「鶴姫様がご逝去とのことでございます」

「なんと・・・」

鶴姫は宝永元年(1704年)四月十二日に疱瘡のため死去した。二十七歳だった。

綱豊にとってそれは朗報だった。

桜田御殿では・・・侍女たちが噂話をする。

「これで・・・お殿様が・・・御世子様に決まったようなもの」

「我らも・・・お城に入れましょうか」

「それはわかりませぬ」

喜世より先に綱豊の寵愛を受けていた古牟(内藤理沙)が喜世に囁く。

「大丈夫ですよ・・・私たちは・・・殿に格別のご恩を受けていますもの・・・一緒に精進いたしましょう」

古牟が喜世を呪詛していることを知った後では・・・猫撫で声も恐ろしいのである。

細井広沢は間部詮房の顔をつくづくと眺めた。

「あなた様が・・・間部詮房ですか」

「さようでございますが・・・なにか」

「いや・・・実に・・・福相ですな」

「顔相もご覧になるのですか・・・」

「いかにも・・・あなた様は・・・喜世の方様の守り本尊となられるだろう」

「・・・」

「私は・・・甲府宰相様こそが・・・世直しをなされる方と占っております」

「世直し・・・」

「庶民は倦んでおりまする・・・たとえば・・・お犬様のこと・・・たとえば・・・赤穂浪士の騒動のこと・・・」

「赤穂浪士・・・ですか」

細井広沢は微笑んだ。

宝永元年十二月五日・・・五代将軍・綱吉は綱豊を世子(世継ぎ)と定めた。

豊綱は家宣と改名し江戸城西の丸に入る。

柳沢吉保は綱豊の甲斐国甲府城を与えられ、十五万二千石の大名となった。

喜世の方は正式に将軍世嗣・徳川家宣の側室となり・・・「左京の局」となった。

ただし・・・左京の局と呼ばれるようになったのは男子出産後とも言われる。

古牟は右近の局となった。

「おめでとうございます」

唐澤と江島は側室に仕える立場となった。

西の丸・奥御殿(本丸の大奥とは別)のトップは正室の近衛煕子である。

煕子の父は関白・近衞基熙であり、母は常子内親王(後水尾天皇皇女)である。

左京の局や右近の局とは比較にならない高貴な家柄であった。

正室付御年寄の岩倉(ふくまつみ)は「御目通りが許された」と左京の局と右近の局を煕子の元へ案内する。

「つまらないものだが・・・京からとりよせたらくがんじゃ・・・召し上がれ」

戸惑う側室たち・・・。

「遠慮することはない」

「では御言葉に甘えて・・・」

二人は菓子を味わう。

「美味しゅうございます」

「ほほほ・・・殿のために御励みくだされ」

二人が去ると・・・煕子は大典侍のお須免(野々すみ花)を見る。

「あのような下賎のものに・・・遅れをとってはなりませぬぞ」

大典侍(おおすけ)は女官の最上位であるがお須免は家宣の側室の一人でもあった。

お須免の方もまた・・・懐妊を求められていたのである。

奥座敷に下がると江島はお小言を言うのであった。

「召し上がれと言われても召し上がってはなりませぬ」

「・・・」

「公家の言葉は武家の言葉とは逆さまなのです」

「・・・」

「それに・・・お方様は・・・大の猫嫌い・・・その猫もどうにかせねばなりませぬ」

「そんな・・・」

右近の方は愛猫の「みい」を抱きしめる。

「この子なしでは生きておられませぬ」

「とにかく・・・部屋から一歩も出してはなりませぬ」

左京の方はただただ圧倒されているのだった。

「先が思いやられるな」と唐沢・・・。

「けれど・・・」と江島は密かに告げる。「左京の方への・・・殿のご寵愛は尋常ではございませぬ」

「それは・・・そうじゃが・・・」

「左京の方は・・・何か魔性を秘めているのかもしれませぬ」

「・・・」

どのような・・・手段を用いたのか・・・仙桂尼(三田佳子)が西の丸に姿を見せる。

・・・フィクションだからな。

「伯母様・・・」

「左京の方様・・・大層なご出世おめでとうございます」

「仙桂尼様もお変わりなく・・・」

「本日は瑤泉院様からの文をお届けにあがりました」

「瑤泉院様から・・・」

瑤泉院は喜世の出世を祝福する。

もちろん・・・そのようなことは秘中の秘で・・・このような場所で口にすることではない。

この後も仙桂尼はとんでもない言葉を口にし続けるが・・・あくまでフィクションである。

「富子様がお亡くなりになりました」

「富子様が・・・」

吉良上野介の正室・富子こと梅嶺院(風吹ジュン)は宝永元年八月八日に死去した。

「遠島になったもののうち・・・間瀬久太夫様の次男の間瀬正岑殿は病で亡くなったそうです」

「・・・」

「しかし・・・私はあきらめておりませぬ・・・そなたも・・・そなたのお勤めをしっかりとなさいませ」

「・・・私の務め」

「お殿様のお子をお生みになることです」

それが・・・女にしかできぬことなのでしょうかと問いたい左京の局だった。

左京の局は思い詰めた。

左京の局の悲願は「お家再興」である。

それは・・・十郎左衛門の悲願に他ならなかった。

「私が・・・殿様に・・・お伝えできるのは・・・寝屋の中だけ・・・」

左京の局はまだ・・・この世の仕組みというものを充分に理解していなかったのである。

左京の局は褥を務める夜・・・あふれる気持ちを抑えかねた。

「いかがした・・・」と家宣が問いかける。

「お殿様・・・お願いがございます・・・」

しかし・・・家宣は気配を察し・・・左京の局の口を掌で塞ぐ。

「それはならぬ・・・」

左京の局は言葉を飲み込んだ。

寝ずの番を務める正室付御年寄の岩倉は耳を欹てていた・・・。

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2017年2月 8日 (水)

今宵、私とあなたと二人の子供の三人で(高橋メアリージュン)

やるせない人々の物語である。

ほぼ中流家庭の物語だった「逃げるは恥だが役に立つ」がアリさんたちの物語とすれば・・・こちらは冬のキリギリスの話なのだ。

メンバーの一人が軽井沢に別荘を持っていることに象徴されるように・・・彼らはどちらかといえば上流階級に属する出自を持っている。

そして・・・若者たちがバンドを組むのとは違い・・・彼らは一人一人がそれなりのプレイヤーである。

そうなるためにはある程度の音楽的教養が必要となる。

たとえば彼らが人前で演奏するための楽器は・・・素晴らしいインターネットの世界で一万円で買えるエレキギターではないのである。

彼らにとってヴァイオリンやヴィオラそしてチェロは高級乗用車なみの価格であることが最低限なのである。

そのあげく・・・彼らはダメ人間の烙印を押されつつある。

これは「夢は必ずしも叶うものではない」という現実をお茶の間につきつける。

それでも・・・彼らは音楽家としてそれなりに素晴らしい演奏をするわけである。

つまり・・・彼らはけして努力を怠ったわけではないのだ。

そういう人々の洗練された愛の物語である。

全編がわかる奴だけにわかればいい鎧をまとっている。

だから・・・視聴率については触れないでおきたい。

で、『カルテット・第4回』(TBSテレビ20170207PM10~)脚本・坂元裕二、演出・金子文紀を見た。カルテット・ドーナツホールは夫が失踪中の第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)、世界的指揮者を祖父に持つ第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)、時々ノーパンのヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、巻氏の失踪の謎を探るチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)からなる弦楽四重奏団である。

彼らが出会ったのはまきまきがヴァイオリンを練習するために使ったカラオケの館だった。

まきまき・・・練習のためにカラオケの館に。

別府・・・まきまきのストーカーだった。

ヤモリ・・・不明。

すずめ・・・失踪中のまきまきの夫の母親・巻鏡子(もたいまさこ)に雇われて。

彼らは別府家の所有する軽井沢の別荘で共同生活を送り、音楽家らしい情熱を発露する。

まきまき・・・夫に捨てられた女として意地をみせる。

別府・・・まきまきにアプローチしつつ年上の女に捨てられる。

ヤモリ・・・元地下アイドルでライブレストラン「ノクターン」のアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)にアプローチするがアリスの妹(渡辺優奈)の家庭教師を強要される。

すずめ・・・元超能力少女として詐欺師の父親に利用された過去を乗り越え、アリスの恋の手ほどきを無視して別府の唇を奪う。

いろいろとお盛んなのであった。

なんやかんやで軽井沢の長い冬は続いて行くのである。

「これをご覧下さい」

別府は他の三人に告げる。

別荘のゴミ集積場にはゴミ袋が溜まっていた。

「たまってますね」

「匂いますね」

「困りましたね」

三人は室内から呼び出され寒さをこらえながら困惑する。

「誰も捨てないからです」

「別府さんがいつも捨ててたから」

「僕が捨てなければ誰かが捨てるかもしれないと捨てるのをやめてみました」

「・・・」

「すずめちゃん・・・捨ててください」

「朝は無理・・・起きられない」

「僕だって眠りたい・・・まきさん」

「朝は寒いから・・・」

「僕だって寒い・・・イエモリさん」

「おこづかいくれる・・・」

「なんで僕があなたにお小遣いを・・・」

「アルバイトを辞めてしまって・・・苦しいんだよ」

「ゴミ袋を光学迷彩にすれば夜の間に出せます」

「草薙素子かっ・・・ゴミ収集車にも見えないので放置されちゃいますよ・・・ゴミたちはかくれんぼをして見つけてもらえなかった悲哀を味わうことになりますよ」

「シーズンごとに当番を決めましょう・・・私、春で」

「夏で」

「秋で」

別府を残し・・・室内に退避する三人である。

朝食の時間なのだ。

別府はついに怒りの虜となって・・・ゴミ袋を室内に持ち込むのだった。

「ゴミを捨てない人間はゴミから見てもゴミです・・・あなたたちは見捨てられたこの子たちの気持ちがわかるまで一緒に暮らすべきだ」

ゴミの臭気に満ちた朝食である。

「今に・・・ゴミ屋敷と呼ばれますよ・・・身体にゴミの匂いが染みつきますよ・・・友達いなくなりますよ」

「ゴミの匂いの好きな友達を作ればいいのでは」

「そんな人はいません」

「学生時代にいました・・・足の臭い美人と足の臭くない美人なら臭い方がいいって」

「変態じゃないですか」

「変態ですね・・・」

しかし・・・平気でお握りを食べるヤモリ・・・。

「ええええええ」

「とにかく・・・このままでは住民運動が起きて・・・ここを追い出されて・・・放浪の旅に」

そこに・・・半田温志(Mummy-D)と墨田新太郎(藤原季節)の二人組が現れた!

「外でお話ししましょう」

「おにぎりか・・・具はなんですか」

「・・・けと・・・かです」と人見知りのために小声になるまきまき。

「え」

「しゃけとおかかです」

「あ・・・それは僕のおかか」

「ヤモリさん・・・いい加減・・・この人の居場所を教えてもらえませんかね」

「イエモリです・・・だから・・・知らないと・・・何度言えば」

ヤモリと半田が問答をする間に手下の墨田はヤモリの部屋からヴィオラを持ちだす。

「みつけちゃいました」

「あ・・・それだけはやめて」

「いいお返事を待ってますよ」

「おにぎりを掴んだ手で・・・」と悲鳴をあげるすずめ。

「それがないと・・・演奏できません」

「ゴミを出す日ですか・・・ついでだから・・・出しておきますよ」

二人組はゴミとヴィオラを持ち去るのだった。

「いい人たちですね」と別府・・・。

「警察呼びます」とまきまき・・・。

「やめてください・・・あの人たちは・・・悪人ではないのです」

「え」

ヤモリの部屋に集合する一同。

「彼らが捜しているのは・・・僕の離婚した妻です」

「結婚してたのですか」

「子供もいます」

「・・・」

「すずめちゃん・・・トイレのスリッパ脱いで」

すずめはスリッパを脱いで部屋の隅のダンボール箱の上に置く。

「長い話になりますが・・・僕は子供の頃・・・自転車で日本一周をしたことがあって」

「そこからですか」

「Vシネマの俳優をやっていた時に・・・」

「Vシネマ・・・」

「六千万円の宝くじに当たったんです」

「え」

「でも・・・買ったことを忘れていて気が付いたら引き換え期間が終わってました」

「ええっ」

「僕はヤケ酒を飲みました・・・その席で・・・飼っていたハムスターが死んで泣いている彼女と出会ったのです」

「なんとなく一緒に映画を見に行って・・・映画の中でもハムスターが死にました」

そこがまきまきのツボだったらしい。

「僕も・・・元気がなかったので・・・結婚して・・・子供もできました」

「どうして・・・離婚しちゃったんですか」

「その年は猛暑で・・・僕は定職につかずに・・・結婚なんて地獄ですから・・・妻はピラニアです・・・婚姻届けはデスノート・・・」

「ダメ人間だったんですね」

「はい・・・彼らが捜しているのが元の妻の茶馬子です」

「どうして・・・」

「僕と別れた妻に恋人が出来て・・・資産家の息子なのに家業を嫌って小説家になりたいという西園寺誠人というアホボンで・・・二人は僕の息子の光太を連れて駆け落ちしたんです」

「なるほど・・・」

「西園寺家が息子をつれ戻すために組員・・・いや社員を派遣したわけです」

「居場所はわかっているんです」

「え・・・」

ヤモリはトイレのスリッパの下のダンボール箱を開く。

中からは子供用の1/2チェロのセットが現れた。

「かわいい・・・」

「息子用ですよ・・・茶馬子が送りつけてきました」

「この送り主の住所に・・・」

「それは嘘ですよ・・・でもコンビニの受付印が横須賀です」

「小学生の子供がいれば小学校で待ち伏せできるわね」

「・・・」

「子供のために・・・口を割らなかったのね」

「茶馬子に会って・・・西園寺家と話をつけるように話してきます」

こうして・・・ヤモリはすずめを連れて横須賀に向うのだった。

ヤモリはカルテット・ドーナツホールの車を運転しながらフランスの古謡「フレール・ジャック」のメロディーを口笛で吹く。

聖騎士ジャック

やすらかに眠れ

鐘を鳴らそう弔いの鐘を

キンコンカンキンコンカン

「どうして・・・私がイエモリさんの恋人役なんですか」

「茶馬子は・・・僕が孤独死するって心配してるんだ」

「だったら・・・まきさんの方が」

「茶馬子は僕の好みのタイプを知っている・・・」

「・・・それなのにどうして別れちゃったの」

「妻と猫とカブトムシがいたら・・・話が通じるのは猫、カブトムシ、妻の順だからね・・・冬でもサンダルはいてるし」

「・・・」

「僕はケガして入院した事があるんだ・・・その時・・・息子だけがお見舞いに来た・・・息子は僕に早く大人になりたいって・・・言うんだ。ぼくは・・・心底・・・自分自身をダメ奴だと思ったよ・・・だって僕はその頃・・・いつも・・・子供の頃に戻りたいと思っていたから・・・」

しかし・・・ヤモリの身の上話の途中ですずめは眠っていた。

その頃・・・過去を乗り越えたすずめが任務を放棄したために自ら・・・別荘周辺を嗅ぎまわっていた鏡子は眼鏡を落してしまう。

そこへ別府がやってくる。

「落し物ですか」

「眼鏡を・・・」

「大変だ・・・捜すのを手伝いましょう」

そこへまきまきがやってくる。

「別府さん・・・キスしましたよね」

「え」

「なかったことにしようとしているでしょう」

「でも」

「すずめちゃん・・・待ってますよ」

「あ・・・動かないで」

別府はまきまきの足元から鏡子の眼鏡を拾い上げる。

「別府さんのですか」

「いえ・・・」

別府は鏡子の姿を捜すが・・・鏡子は停車していたトラックの荷台に潜り込んでいた。

トラックは走り出し・・・荷台から身を起こした鏡子はまるで市場に売られていく子牛のようにわびしく去って行った。

横須賀の小学校で小学生の下校を見張るヤモリ。

教員たちがヤモリを見る目は厳しい。

爽やかな笑顔で応えるヤモリ。

その頃、車中のすずめはリコーダーの音色で目覚める。

右手がパーで左手がグー

合体だ妊娠だ

大橋光太(大江優成)は波止場の公園のベンチで海を見る。

すずめに導かれ・・・ヤモリは接近した。

「光太・・・誰だかわかるか」

「パパ」

「光太・・・」

「ちょっとこれ持ってて・・・ちょっと待ってて」

光太は水飲み場へ向かう。

昔の記憶に操られ・・・光太を抱いて持ち上げようと身構えるヤモリ。

しかし・・・光太はもう・・・一人で水が飲めるほどに成長していた。

「光太・・・大きくなったな」

「パパ・・・帰ろう・・・家はあっちだよ」

屈託のない光太である。

光太の指さす方向からサンダル履きの女がやってくるのに気がつくすずめ。

大橋茶馬子(高橋メアリージュン)と西園寺誠人(永島敬三)である。

「カブトムシ・・・」

「え」

「あ・・・なにしてんねん」

ヤモリは光太を抱き抱えて逃げ出した。

追いかけようとする茶馬子の前に風邪気味の半田が立ちふさがる。

「なんやねん」

「半田・・・」

「坊ちゃん・・・」

「・・・」

家森が光太を連れ帰ったことに驚くまきまき・・・。

「ここ・・・パパのお屋敷?」

「パパのお屋敷だよ」

今夜の夕食のおかずは・・・アジフライだった。

アジフライに醤油をかけるまきまきとすずめと別府・・・。

「ちょっと・・・なにかけてんの」

「醤油ですけど・・・」

「アジフライにはソースでしょうが」

「ママが・・・醤油でもソースでも食べた方がみんなと仲良くできるって」

光太の言葉に動揺するヤモリだった。

息子と同じようにアジフライに醤油をかけようとするヤモリだったが・・・最後の一線を越えられない。

「別府くん・・・ソースいただけますか」

「中濃ですか・・・ウスターですか」

「ウスターで・・・」

光太は就寝する時に・・・消灯しても平気だった。

「パパ・・・いつ離婚終わるの・・・大体何ヶ月くらい」

離婚はいつか終わるものではないと・・・説明できないヤモリなのである。

ヤモリは階下で待つ一同に相談する。

「カルテットやめようかな・・・」

まきまきは驚いた・・・。

「定職について・・・そしたら・・・茶馬子だって・・・」

そこで呼鈴が打ち鳴らされる。

ピンポンピンポンピンポンピンピンピンビンポン・・・。

「これは・・・茶馬子のチャイム・・・」

「えええ」

思わず身を伏せるヤモリだった。

「そうしているとまるでヤモリですね」

応対するまきまきとすずめ・・・。

「何か御用ですか・・・」

「半田という人にここに家森が住んでいると聞きました・・・光太もおるんやろ」

「二階でぐっすり眠ってますから」

「家森は・・・」

「二階でぐっすり」

「起こしてえな」

「イエモリさん・・・いつも茶馬子さんの話をしていました」

「ハムスター死んだんですよね」とすずめ。

「・・・」

「他に何死にました」

「いきているものの話をしましょうよ」

「・・・」

「イエモリさん・・・やり直したいって言ってましたよ」

「この世で一番鬱陶しいのは・・・もう一回やりなおそうって言う奴や」

「でも・・・イエモリさん・・・いつも言ってます・・・結婚は天国だった・・・茶馬子さんはノドグロだ・・・婚姻届は夢を叶えるドラゴンボールだって・・・」

「まさか・・・」

「本当だよ」と階段で王子のように振る舞い出すヤモリ。「茶馬子はノドグロでキンキだ」

「他には」と茶馬子。

「イセエビだ・・・」

「魚で」

「魚・・・魚で・・・」

「セキサバ・・・」とまきまきが小声で支援する。

「関さばだ・・・」

微笑む茶馬子・・・。

「西園寺くんはどうした」

「若い衆に泣きついて帰ったわ・・・ホッとしたんやろう・・・お金もなくなったし・・・私にも飽きてきたところやったんやろ」

仲を取り持つことができたと思った三人は退場する。

別府は仲直りのお祝いに自分の生れ年の秘蔵ワインを振る舞う勢いである。

しかし・・・。

居間に戻ると茶馬子とヤモリは言い争っている。

「子供をかすがいにしたら・・・夫婦は終わりやねん」

「でも・・・光太は三人で暮らしたいって」

「たまに・・・子供に構って父親面する男が一番腹立つんじゃ」

「う」

「光太が高熱出した時・・・病院連れてって言ったのに・・・風邪薬ですませようとしたやろ・・・肺炎になりかけたんやで」

「結局・・・病院に行っただろ」

「となりのおばはんが言ってくれたからやろ」

「・・・」

「どうして・・・赤の他人にいい顔して・・・女房の言うこと聞かんのや」

「・・・」

「あんた・・・一番言ってはあかんことをいったんや」

「・・・」

「ああ・・・宝くじ・・・六千万・・・引き換えてたらなあって・・・」

「・・・」

「そしたら・・・私と会わんかったし・・・光太も生れてないやろう・・・」

ヤモリは本当のことを言われて辛かった。

それは・・・自分がダメな男であることと同じ意味だからである。

「お前だって・・・音楽している俺が・・・好きだったんだろう」

「若い時の夢はええ・・・三十過ぎたらごくつぶしじゃ」

「ひでぶ」

翌朝・・・体調を回復した半田がヴィオラを返しにやってくる。

「それから・・・これ・・・奥さんに」

トリオは囁く。

「奥さんじゃないよね」

「元だよね」

「往年の・・・」

「手切れ金か・・・」

思わず半田をビンタする茶馬子。

女を殴らない主義なのか反射的にヤモリをどつく半田である。

金額を改めてバッグに納める茶馬子。

「受け取るのか」

「当たり前やろ」

「組長・・・いえ・・・半田さん・・・そろそろ」

つまり・・・西園寺組系半田組である。

「あんた・・・怖い目にあわせてすまんかったな」

組員たちは去って行った。

ヤモリは自暴自棄になり・・・自分の分身であるヴィオラを破壊しようとする。

それを制止する茶馬子。

「あんたはそのままでええで・・・それしかあかんやろ」

四人のダメな人々と・・・唯一まともな大人である茶馬子の鮮やかな対比・・・。

しかも・・・浪花節テイストだ・・・。

別れの儀式である。

開店前の「ノクターン」でアリスを加えたメンバーたちは父子競演のステージに拍手を送る。

「フレール・ジャック」を奏でるヤモリと光太・・・。

フレールジャック フレールジャック

中京記念で予後不良

安楽死安楽死

サンタクロース サンタクロース

いつかいっぱい

玩具を買って

ジングルベル ジングルベル

開店した「ノクターン」でヤモリはフランスの作曲家・ヤン・ピエール・ティルセンのアルバム「Les Retrouvailles 」収録の一曲「La Veillée」を奏でる。

日本版の「再会」では「宵」と訳されるが・・・それは「夕食後の団欒のひととき」と言うには物悲しい・・・。

父親と元夫の晴れ姿を見おさめて・・・光太と茶馬子は黒塗りのタクシーで去って行った。

残された大人になれなかった男は涙をこらえることができない。

トリオは自分の姿を見るように落涙するヤモリを見守る。

トリオは乙女の瞳をメイクしてつぶやく。

「私たちも孤独死ですかね」

「ずっと一緒だったらどうかな」

「死ぬまでカルテットをやる気ですか」

「少子化問題もありますしね」

「なにしてんの・・・」とヤモリ・・・。

「イエモリさん・・・少子化問題をどう思いますか」

思わず噴き出すヤモリは・・・同化させられるのだった。

四人は乙女の道化となった。

しかし・・・ゴミ袋の増殖は止まらなかった。

「どうするつもりですか・・・」

「いろいろあったから・・・」

その時・・・まきまきの携帯端末に着信がある。

「マンションでもゴミを放置していたので・・・異臭騒ぎになってしまいました」

「・・・」

カルテット・ドーナツホール車はゴミ袋を満載して軽井沢を出発する。

「一緒に捨てて叱られないでしょうか」と別府。

「もう・・・叱られているので」とまきまき・・・。

いつまでも大人になれないキリギリスたちは叱られる宿命である。

すずめは買い出しに出たスーパーマーケットで・・・鏡子に出会う。

「あの女のスマホを持ちだして下さい」

「私・・・もう・・・やめましたから」

「・・・」

「夫さんは・・・ただ・・・家出をしただけなのではないのですか」

「それならば・・・なぜ・・・私のところに帰ってこないのです」

「親に会いたくない子供だっていますよ」

「ひでぶ」

「とにかく・・・私は・・・まきさんが殺してないと信じます」

鏡子を置き去りにするすずめ・・・しかし・・・隣の通路にはアリスが待ち構えていた。

「アリスちゃん」

「すずめさん・・・千円貸してくれませんか」

「いいですよ」

「やっぱり・・・二千円」

「え」

アリスはすずめの財布を覗きこむ。

「五千円ありますね・・・」

「ひ・・・」

2015年、映画「明烏」で福田雄一。

2016年、ドラマ「ゆとりですがなにか」でクドカン。

そして・・・ココと・・・鬼才・天才たちを虜にする魔性が爆発する吉岡里帆でアール。

とにかく・・・なんとか危機を脱したすずめは・・・風邪を発症したヤモリのためにおかゆセットを作るのだった。

「食べますか・・・」

「食べる」

「階段から落ちて入院した時の傷を見る」

「あ・・・」

「これ・・・入院してた時の写真」

「ミイラ男ですか」

「これ撮ったの・・・まきさんの夫さんなんだよね」

「え」

「入院していた夫さん・・・ベランダからまきさんに突き落されたんだって言うのさ」

「ええっ」

「あの日・・・金に困った僕は・・・まきさんを強請うと思ってたんだ」

「えええ」

まきまき・・・練習のためにカラオケの館に。

別府・・・まきまきのストーカーだった。

ヤモリ・・・まきまきの夫さんの言葉を信じてまきまきを強請うとしていた。

すずめ・・・失踪中のまきまきの夫の母親・巻鏡子(もたいまさこ)に雇われて。

まきまきと別府はマンションに到着した。

ベランダでゴミ袋を整理する作業にとりかかる別府である。

「気をつけてくださいね・・・夫は一度うっかり転落して入院したことがあるんです」

作業が一段落してまきまきは出前を取ることを提案する。

別府は・・・脱ぎ捨てられたままの男物の靴下を発見する。

「出前が来るまで天津甘栗でも食べましょうか」

別府は栗の実をまきまきに差し出す。

「別府さんも食べてください」

しかし・・・不気味な気配を発しつつ栗を剥き続けまきまきに実を差し出す別府である。

「この靴下も捨てましょうか」

「それはゴミではありません」

別府はまきまきの手を取った。

「僕は靴下相手に三角関係しなくちゃならない・・・いつまで夫さんの帰りを待っているのですか・・・今頃・・・別な女といるのかもしれませんよ・・・愛していないけど好きな女と・・・夫さんはベッドでどこからキスするんですか・・・あなたといると二つの気持ちが混ざります・・・楽しいは切ない・・・嬉しいは悲しい・・・優しいは冷たい・・・愛しいは虚しい。愛しくて愛しくてむなしくなります。語りかけても触ってもそこには何もない。じゃあ・・・僕は一体・・・何からあなたを奪えばいいんですか」

別府・・・まきまきにアプローチしつつ年上の女に捨てられる。すずめに唇を奪われるがまきまきのことをあきらめたわけではなかった。

ヴァイオリンを奏でる指は・・・ヴァイオリンを奏でる指を弄る。

別府はゴミがゴミを愛して何が悪いという心境なのか・・・。

そして・・・一切の心を隠すまきまき・・・。

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Quartet001ごっこガーデン。ヴィオラも聴けるおいしいラーメンカフェセット前。

まこ「ヴィオラの人が餃子をあ~んして食べさせてくれるサービスもありましゅ~。しそ餃子にぷりぷりエビ餃子。ラーメンは淡麗でシェフは容姿端麗デス。じいや~、よだれたれちゃったので前掛けくだしゃ~い

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2017年2月 7日 (火)

すれちがう心を修復する道具(木村拓哉)

心臓が機能しなければ心不全になる。

心臓の鼓動が停止すれば人は死に至るのである。

心臓は伸縮し血液を循環させる。

血管はその道である。

道が閉塞すれば渋滞が生じる。

医師たちは抜け道を作り血流を確保する。

パイパス手術のための様々な道具が駆使される。

人の心と心が通わない時・・・人は話し合う。

言葉はそのための道具だ。

言葉を軽視すれば・・・銃を構えることになる。

で、『A   LIFE~愛しき人~・第4回』(TBSテレビ20170205PM9~)脚本・橋部敦子、演出・加藤新を見た。十年前に・・・幼馴染の外科医・沖田一光(木村拓哉)と壇上記念病院の院長令嬢である小児科医・壇上深冬(竹内結子)の恋路に何らかの画策を施し・・・娘婿で副院長の座にある鈴木壮大(浅野忠信)は蓄積した「うしろめたさ」に心が張り裂けそうになっているらしい。

「まだ・・・好きなのか・・・深冬のことが・・・」

「本気で言ってんの?・・・あるわけないだろ・・・もう10年たってんだからさ・・・お前どうしたんだよ?」

「・・・」

一光は「恋」から目を背け・・・壮大の「経営者としての立場」に配慮した。

「・・・彼女のこと・・・オペに入れたのは悪かった」

壮大は「罪の告白」を思いとどまる。

「・・・カズ・・・変なこと言って悪かった」

「・・・」

「そのうちもんじゃ行かないか?」

「もんじゃ・・・」

「お前・・・昔キャベツとネギ抜きだったよな」

「今もな」

「え・・・偏食は身体によくないぞ」

「・・・」

一光は・・・医師としての職務に戻る。

壮大は・・・業火に炙られながら家路につく。

良妻賢母である深冬は夫の苦悩には気がつかない。

「お帰りなさい・・・今日は勝手にオペしてごめんなさい」

「・・・」

「どうしても・・・自分の手で救いたかったのよ」

「・・・」

「私・・・医者を続けてもいいよね」

「カズが・・・」

「え」

「いや・・・続けたかったら・・・そうすればいい」

「ありがとう」

壮大は一人になって・・・息を吐き出す。

たった一つの嘘に・・・十年ずっと苦しめられることになるとは・・・思ってもいなかった壮大なのである。

そうまでして獲得したものが・・・今や・・・失われようとしているのだ。

その恐ろしさは壮大の心身を蝕んでいる。

壮大はナイーブな男だった。

しかし・・・有能な経営者でもある壮大は・・・愛人で顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)と練り上げた経営戦略を・・・真田事務長(小林隆)に伝える。

「片山関東病院との提携の話を進めています」

「提携ですか」

「片山関東病院は現在係争中の案件が一件もなく提携するにはリスクの少ない病院です」

榊原弁護士は説明する。

「消化器外科だけが有名だった病院ですが今後は心臓血管外科にも力を入れていこうとしています」

「提携して・・・うちの外科医が出張でオペをした場合・・・向こうの症例数としてカウントされて短期間で評判を上げられる・・・その代わり高度なオペが必要な患者をうちに回してもらう」

「あの・・・この話は病院長はご承知なんでしょうか」

「古い経営論で凝り固まった院長には理解されにくい話だと思います・・・ですから正式に決定するまでは黙っていてください・・・この病院のために提携は絶対に成功させなければならないので」

新規参入を目指す同業者に人材を派遣しつつ・・・主導権を握ろうとする戦略らしい。

満天橋病院の後継者として修行中の井川颯太(松山ケンイチ)はドクタールームの奥の沖田ルームの乱雑さに眉をひそめる。

「汚いな・・・もう」

しかし・・・散乱する資料に「脳腫瘍」に関連したものが多いことに気がつくのだった。

そこへ・・・一光が現れた。

「沖田先生・・・来月の当直表をデスクの上に置いておきましたから」

「ありがとう」

二人のやりとりを白川(竹井亮介)や赤木(ちすん)そして黒谷(安井順平)などのその他のドクターたちが揶揄する。

「井川先生は沖田先生になついているよな」

「ボンボンはアウトローに憧れるものよ」

颯太は一光が「何故、脳腫瘍の資料を収集しているのか」を知らぬまま・・・深冬に素朴な疑問を投げかける。

「沖田先生って一体何がやりたいんですかね?・・・沖田先生の専門の心臓と小児のオペなら分かりますけど脳もやってるんですよ?」

「子供の脳なら前からやってたわよ」

「・・・」

一光と壮大が恐ろしい事実から目をそらし・・・時間を費やしているために・・・颯太は単純な事実を知らない。

目の前に答えがあることを。

壮大は榊原弁護士と第一外科部長の羽村(及川光博)を伴い片山関東病院を訪問する。

「心臓血管外科の片山です」

「おや」

「息子なんですよ」

「片山関東病院」の院長・片山修造(鶴見辰吾)は・・・息子の片山孝幸(忍成修吾)を心臓血管外科医として売り出そうとしているのである。

忍成修吾ならではの下衆な視線を注がれる榊原弁護士の脚部だった。

鶴見辰吾ならではの食えない感じもすでに漂っている。

片山関東病院は甘い相手ではなさそうである。

「提携のお話前向きに検討してます」

「こちらの心臓血管外科のためにお力になれると思います」

「世界的に活躍されてた沖田先生に学べる機会はなかなかありませんからねえ」

羽村(及川光博)を相手にしない片山院長なのである。

「沖田先生にはぜひ当院でオペをしていただきたい・・・それ次第で今後のおつきあいを考えさせていただくことになると思います」

気分を害する羽村だったが・・・スマートに対応するのだった。

「沖田先生を連れてくるべきだったね」

しかし・・・壮大は真意を明かす。

「提携が決まれば・・・いずれ羽村先生をここの院長に・・・と思ってる」

「え」

「入り口は対等な提携でも副院長はいずれこの病院を飲み込むつもりですよ」

榊原弁護士は微笑むのだった。

「つまり・・・片山院長は・・・庇を貸して母屋を取られる・・・わけね」

壮大は一光を呼び出す。

「片山関東病院で切ってほしい患者がいるんだ・・・向こうとの提携を考えている」

「羽村先生じゃダメなの?」

「向こうのリクエストがお前なんだ・・・向こうは心臓血管外科の技術を上げて看板にしようと考えてる」

「わかった・・・こっちのスタッフを連れてくよ」

「向こうはスタッフに経験を積ませたいんだ・・・一人で行ってくれ」

「オペは患者さんのためのものだろ」

「医者を育てることだって患者を救うことにつながるだろ」

「重要なのは患者さんを救うためにベストを尽くすことだからさ・・・間違いなく難易度が高いオペだし・・・俺もちゃんと動けるスタッフが必要だから」

「分かった・・・その点については向こうと交渉する・・・必ず完璧なオペにしてくれ」

看護師長の西山弥生(峯村リエ)にシフトの変更を伝えられ出張を命じられるオペナースの柴田由紀(木村文乃)・・・。

「沖田先生のご指名よ」

その言葉に・・・笑みを漏らすナース柴田である。

ドクター沖田とナース柴田は手術室の名コンビなのである。

少なくとも・・・心に問題を抱えるナース柴田はそのことを「命綱」にしていたらしい。

二人は例によって綿密な手術前の打合せを始める。

「沖田先生は・・・片山関東病院で出張オペだよ・・・」

「そうなんですか」

「井川先生・・・見学してきたら」

羽村外科部長は颯太を監視要員として利用する腹である。

颯太は喜んでコンビに付き添うのだった。

患者は左室機能不全を伴う慢性心不全であるらしい。

「左室形成術および冠動脈3枝バイパス手術を始めます・・・」

3枝バイパスとはバイパス術を実施する動脈の数が三本ということである。

執刀医は一光、助手は片山ジュニアである。

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「機械出しの柴田です」とナース柴田を紹介するドクター沖田。

「よろしくお願いします」

「・・・」

片山ジュニアは看護師は眼中にないのである。

手術は順調に進むが・・・ドクター沖田は術中に片山ジュニアに経験を積ませようと指示を出す。

「IVCのテーピングを助手側の方から巻いてください」

IVCとは下大静脈径であり、下半身の血液を心臓に集める役割をしている。

「はい・・・ファバロロ」

片山ジュニアはファバロロ(冠状動脈剪刀)を要求するが・・・ナース柴田はサテンスキー(血管鉗子)を差し出す。

激怒してサテンスキーを放りだす片山ジュニア。

「ファバロロだ」

「左室瘤です。心臓を脱転したくないのでサテンスキーの方がいいと思います」

的確な指示という口答えをしたナース柴田に激昂する片山ジュニア。

「看護師の分際で・・・看護師の分際で・・・看護師の分際で・・・医師であるこの俺様に指図するのか・・・看護師の分際で」

「僕もサテンスキーの方がいいと思いますよ・・・この患者さんの場合は心臓持ち上げて血圧下げたくないんで」

冷静に事実を告げるドクター沖田。

「・・・」

片山ジュニアは肥大した自尊心をクラッシュされた。

しかし・・・手術は無事に終了する。

患者の家族に手術の成功を伝えるドクター沖田とナース柴田。

片山ジュニアはナース柴田を押しのけ・・・復讐心に燃えた視線を送るのだった。

一光は頓着しなかったが・・・颯太にはある程度・・・事態が理解できた。

颯太もまたジュニア一族なのである。

しかし・・・颯太には良血が流れているのだった。

「片山先生・・・感じ悪いよね・・・柴田さんが正解だったのが・・・気に入らなかったんだよ」

「・・・」

「柴田さんが医者になった方がよかったんじゃない?・・・看護よりオペの方が好きそうだし」

「なれないよ」

「何で?・・・医者と同じくらい知識あるし・・・そこら辺の医者になら勝ってるかも・・・ナースにしとくのもったいないよ」

「簡単に言わないで!」

颯太はうっかり虎の尾を踏むタイプなのである。

ナース柴田が泣きながら走り去るとドクター沖田が登場する。

「お待たせ・・・セクハラでもしたのか」

「しませんよ・・・なんだか・・・急に機嫌が悪くなって」

一光は颯太を食事に誘った。

一般人には想像もつかないドクターたちの外科手術後の焼肉である。

「肉ばかりで平気なんですか」

「食べたかったら頼めば」

「野菜焼きください・・・沖田先生って24時間のうちどれぐらいオペのこと考えてるんですか?」

「・・・」

「今まで6千いくつもオペしてたらプライベートなんてないですよね?」

「今日で6412件」

「オペ以外のこと何か興味ないんですか」

「オペ以外って・・・」

「例えばですね・・・結婚とか」

「結婚か・・・結婚を考えたことはある」

「何で結婚しなかったんです?」

「ふられたから」

「・・・野菜も食べてください」

「・・・」

片山院長は・・・壮大にクレームを申し出る。

「昨日のオペは素晴らしかったのですが・・・それだけに残念なことがあります」

「?」

「チームワークを乱すようなスタッフのいる病院と提携するのはいかがなものかと」

「?」

颯太は経営陣に呼び出される。

「昨日はどうだった」

「うちのレベルの高さを見せつけられたと思います・・・片山先生なんか・・・柴田さんにダメ出しされる始末で・・・さすがだったなあ・・・柴田さん」

経営陣は事態を察した。

「彼を送り込んでおいて正解でしたね」と羽村。「それにしてもナースに足を引っ張られるとは」

「片山ジュニアには」と榊原弁護士。「私も吐き気を催しましたけどね」

「だから」と壮大。「一人で行けって言ったんだよ」

ナース柴田を召喚する経営陣。

「あなたがしたことで病院の提携話がなくなりかけてるんです」

「沖田先生は何ておっしゃってますか?」

「柴田さんが主張するようなことは何も言ってなかったよ」

壮大は一光からは事情を聴取していなかった。

「・・・」

しかし・・・壮大の些細な嘘はナース柴田の命綱を切断するのだった。

「しばらくオペから外れてもらいます」

「辞めます」

「え」

「あなた・・・奨学金の返済が」と案ずる看護師長。

「借金してでも返します」

「辞めてくれるなら話も早い」

「先方も納得してくれますね」

ナース三条(咲坂実杏)に自分の手術から柴田が外されたと聞き驚愕する颯太。

「どういうことですか」と外科部長を問いつめる。

「君が・・・武勇伝を話してくれたからさ」

「え・・・意味がわからない」

「病院も辞めさせるつもりはなかったんだけど・・・ここを辞めるって彼女が言ったんだよ」

一光はただならぬ様子の柴田に気がつく。

「何やってんの?」

「辞めるんです」

「何で?」

「関係ないでしょう」

「僕はいい相棒ができたなあと思ってたんだけど」

「相棒って・・・医者は結局医者の味方じゃないですか」

「どういう意味?」

「ナースを下に見てるってことです・・・医者はナースをアシスタントだとしか思ってない・・・医者はナースより患者さんに感謝されて当然って思ってる・・・医者はナースを認めようとしない」

一光は柴田の怒りの原点を知らない。

「もういいよ・・・辞めて正解なんじゃない?」

「・・・」

「ついでにナースも辞めちゃえば?・・・ナースを認めてないのは医者じゃない自分自身だろ」

「分かったようなこと言わないでください!・・・私は誰よりも勉強してきたし練習もしたし合コンでチヤホヤされて喜んでるナースとは違います・・・自分の仕事に誇りを持ってやってきました」

「・・・」

「私の何が分かるんですか!」

一光は唖然とするのだった。

深冬はナース柴田にアプローチする。

「ごめんなさいね・・・片山関東病院のことで柴田さんを巻き込んでしまったみたいで」

「いえ・・・」

「沖田先生がひどいこと言ったみたいだけどあんまり気にしない方がいいと思うよ・・・沖田先生って手先は器用だけど人として不器用なところがあるの」

「沖田先生のことよくご存じなんですね」

「十年前にここにいた時からそうだったから・・・沖田先生のことはともかく柴田さんが辞めたら私が困る・・・難しいオペのときは絶対柴田さんに入ってほしいから・・・向こうの先生がメンツつぶされてむくれてるだけだから・・・今回のことは同じ女性として私も許せない」

「問題なのは私が女だからじゃなくてナースだからですよ・・・深冬先生は医者だから」

「え・・・」

二人の会話を聞き咎める榊原弁護士である。

「今の何ですか?・・・深冬先生は本当に柴田さんを引き留めたかったんですか?・・・それとも不器用な沖田先生をかばいたかっただけですか?」

「え」

「副院長がどうして病院の提携話を進めてると思ってるんですか?・・・深冬先生のいる小児外科の赤字を埋めるためですよ・・・何も分かってないのに邪魔しないでください」

「主人はいずれ柴田さんをオペ室に戻すつもりだと思ったから・・・引き留めました」

「・・・何も分かってないんですね」

「?」

榊原弁護士は愛人なのである。

夫から壁に穴をあけるほど愛されている妻に一言ぐらい言いたかったらしい。

クールに見える榊原弁護士もまた・・・業火に焼かれているのである。

片山院長が壮大にアプローチをする。

「例のオペナースは現場から外しました」

「わざわざそんな報告いりませんよ・・・早速ですが壇上先生に興味を持っていただける難しい患者がうちにいるんです」

片山院長もまた・・・壇上記念病院の医療技術を利用して・・・何かを目論んでいるのだろう。

病院経営も食うか食われるかの時代なのである。

しかし・・・良血のジュニアである颯太にはただ若々しい下心があるだけだった。

「柴田さん・・・明日休みだから気晴らしにどっか行かない?」

「いいよ」

「行かないよね・・・だろうねえ・・・だと思ったんだけどね・・・え・・・いいの」

颯太は柴田をデートに誘うことに成功した!

「ドイツの高級乗用車じゃないのね」

「国産の高級乗用車ですがなにか」

「・・・」

「沖田先生がひどいこと言ったみたいだけど・・・俺は絶対に辞めてほしくないから」

「ドイツ車に乗りたきゃ乗ればいいのよ」

「いや・・・別に」

「腹立つ!・・・親が医者だからって当たり前に医者になる人!」

「え」

「親が医者でも医者になれない人だっているって言ってんの!・・・たった一度のミスで訴えられて病院つぶれて・・・医学部行くお金ないから仕方なく奨学金借りて看護学校行くしかなかった・・・私はいつかドイツ車にのってやる」

「そんな・・・過去が・・・柴田さんに・・・」

「お腹すいた」

「何食べる」

「肉」

「しゃぶしゃぶ」

「焼肉」

「ちょっと待って・・・靴に・・・青春の蹉跌がね」

「二月の濡れた砂ね・・・」

ナース三条にはナース柴田のようなオペナースとしてのスピードはなかった。

一光は・・・かゆい所に手が届かない気分になるのだった。

深冬は一光の事情を察するのだった。

「柴田さんのこと気になっているんでしょう」

「・・・」

「柴田さんにオペナース辞めろなんて・・・それ本心?」

「あまりにも彼女が自分のこと卑下するようなこと言うからさ・・・ショックだったんだよね・・・彼女のこと信頼してたから」

「それな・・・それを言葉で伝えたの」

「いや・・・言わなくても伝わるでしょう」

「ちゃんと言わなきゃ伝わらない」

「そんなことないって」

「私は分からなかった!・・・あの頃・・・突然シアトル行った沖田先生が何考えてんのかもうサッパリ分からなかった」

「話・・・そこに飛ぶのかよ」

「とにかく柴田さんにはちゃんと伝えた方がいいと思います」

壮大は一光を呼び出す。

「片山関東病院からうちに回してもらうことになった患者のデータだ」

「松果体部腫瘍か・・・」

「手強いがこれが切れないようじゃ深冬の血管腫は切れない・・・今回は俺が切ってもかまわない」

「いや俺が切る・・・俺に切らしてくれ」

「すぐに受け入れの準備を進める」

「柴田さんのことなんだけど・・・こないだのオペで彼女の判断は正しかった・・・彼女を切るのは筋が通らない」

「この世は筋の通らないことばかりなんだよ・・・そんなこと言い出したら何も守れやしない」

「・・・何を守ろうとしてるんだよ」

「この病院に決まってるだろ」

「・・・スタッフ一人守れないでか」

「腕のいいオペナースはすぐに見つける」

「俺にとって彼女以上のオペナースはいない」

「・・・」

「血管腫みたいな難しいオペには絶対に柴田さんが必要だって言ってんだよ・・・お前だって分かってるだろう・・・一度のオペで大体900回の器具の受け取りがある・・・1回につき1秒の遅れがトータルで15分の遅れになるんだよ・・・特に脳深部は何かあったときに器具でしか処置ができないから・・・たった1秒の遅れが命に関わってくる」

「カズ・・・深冬の命を盾にするのか」

「マサオ・・・切るのは俺だ・・・お前じゃない」

病院の廊下で邂逅するドクター沖田とナース柴田。

「し・・・しばた・・・さん・・・ごめん・・・悪かった・・・辞めた方がいいなんて本当は思ってないから・・・柴田さん腕いいしそれだけじゃなくて誰よりもオペのことちゃんと勉強してるって・・・僕は知ってるから・・・ちゃんと見てるから」

「沖田先生の言ったとおりでしたナースとしての自分を一番認めてなかったのは私自身です・・・すみませんでした・・・オペナースとしてどんだけ頑張っても何かが足りないってずっと感じてたんだと思います」

「僕も昔学歴コンプレックスみたいなのがあって・・・どんなにオペの腕を磨いても認められない時期が長かったから・・・自分のこと認めるって簡単なことじゃないと思う・・・でも柴田さんのことは・・・僕が間違いなく認めてるってことだけは忘れないでほしい」

「ありがとうございます」

ドクター沖田とナース柴田は長いお辞儀を交わすのだった。

まるで喧嘩別れしそうになった漫才師のように・・・それはたとえとしてどうかな。

コンビは復活した。

「では始めます・・・メス」

「はい」

「・・・」

「ハサミです」

「はい」

「鑷子です」

「はい」

ボケとツッコミが逆になっているわけである。

それほどの名コンビなのだ。

見学する壮大はいつしか・・・これが深冬の手術のような幻想を感じる。

放置すれば失われ・・・挑戦して失敗すれば失われる・・・壮大の大切なもの。

犯した罪の報いに怯える犯罪者のように壮大の心は揺れる。

一光には微かなミスも許されない。

「あ」

「おい」

「出血量確認して・・・どれぐらい出てる?」

ナース三条が確認する。

「出血カウント100・・・増えてます」

麻酔科医の町田が告げる。

「血圧低下・・・昇圧剤投与開始」

「右手吸引管2番準備・・・」

「準備できてます」

「・・・ありがとう」

「血圧さらに10低下・・・」

「緊急輸血取り寄せかけます」

「どこだ・・・」

緊迫する手術室。

壮大は過呼吸の症状を示す。

(息が・・・息がつまる)

幻想の恐怖に我を失う壮大は手術室から撤退する。

(深冬を・・・手術するなんて・・・俺には無理だ)

「見えた・・・ここか・・・バイポーラ(止血効果のある電気メスの一種)出力30にして」とドクター沖田。

「バイポーラです・・・出力30に上がってます」とナース柴田。

名コンビは難局を乗り切った。

「お疲れさまでした・・・」

「相変わらず動き最高ですね・・・いい感じでした」

「私もです」

二人は相性のよさを確かめ合うのだった。

颯太は深冬に伝える。

「知ってましたか・・・柴田さんが医者目指してたこと」

深冬はナース柴田に伝える。

「ごめんなさい・・・無神経なこと言って」

ナース柴田は答える。

「私・・・手術室看護師を辞めるつもりありません・・・この病院も」

「よかった・・・」

「はい・・・沖田先生とオペできるので」

「え」

「・・・失礼します」

なぜか・・・淫靡な風を感じる深冬である。

颯太は・・・うっかり・・・深冬の電子カルテを覗いた。

「え」

壮大は片山院長に告げる。

「オペナースの柴田を許していただけないでしょうか?」

「壇上先生お話が違いますよね」

「患者を救うためには彼女がどうしても必要なんです」

「ナース一人のためによく頭を下げられますね」

「患者を死なせるわけにはいかないんだよ!」

「え」

遠い昔の歌が聞こえる。

包丁一本

晒に巻いて

旅へ出るのも

板場の修行

深冬は一光を屋上で捕まえた。

「柴田さんのこと・・・よかったね」

「ああ」

「ねえ・・・もう終わったことだから聞くけど・・・私っていつふられたの?」

(鈴木さんにプロポーズされました)と深冬は一光にメールで告げた。

(おめでとう)と一光は深冬をメールで祝福した。

「・・・」

「ごめん・・・変なこと聞いて・・・今さらなんだけど・・・でもホントに・・・・私いつふられたのか分からなかった・・・もしかしたらシアトルに行ったときがそうなのかなとか・・・考えたんだけどよく分からないままで」

「ごめん・・・明日のオペの準備あるから」

騒ぐ心を抑え込み・・・立ち去ろうとする一光を・・・人間が倒れる音が引き留める。

深冬は意識を失っていた。

「深冬」

ふられたと思った男はふられたと思った女を抱き起こした。

とりかえしのつかない時が刻一刻と過ぎていく・・・。

関連するキッドのブログ→第3話のレビュー

Alife004ごっこガーデン。長いお辞儀をする廊下セット。

アンナ「し、しばたさん・・・この一言がアンナの脳を激しく揺さぶったのぴょ~ん・・・ああ・・・なんて照れ屋さん・・・ああ・・・なんてシャイ・・・ああ・・・なんて不器用なの・・・ダーリンの魅力のすべてが・・・この一言に凝縮されて・・・全国の柴田さんがうらやましくてうらやましくて明日から柴田に改姓したい夜なのぴょ~ん

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2017年2月 6日 (月)

天文二十三年、小野和泉守政直死す(柴咲コウ)

遠江国人衆の一族である井伊氏は遠江の東北部に分布する古い豪族である。

井伊介は正式な官職名ではないが遠江の国府の次官クラスの権威を持っていたらしい。

一族は井伊谷宮を中心に遠江東北部に勢力を広げ、戦国期に入ると本家分家の攻防も行われる。

生き残った井伊家は我こそが本家と言うわけであるが・・・真実は定かではないわけである。

それが歴史というものなのだ。

一部の系図によれば奥山氏は井伊の分家ということになる。

井伊共保から八代目の盛直の子・俊直が赤佐家を興す。

赤佐俊直から四代目の朝清が奥山家を興す。

奥山朝清から盛朝-朝良-直朝-朝藤-朝実-親朝-朝利と続く。

ちなみに赤佐俊直の弟は貫名政直を名乗り数えて五代目が日蓮(1222~1282年)となる。

井伊氏が古き一族であることを示す一端と言えるだろう。

奥山親朝の娘は新野左馬助親矩の室となっている。

新野左馬助親矩の妹は井伊信濃守直盛の室である。

つまり、奥山因幡守朝利と新野左馬助親矩、そして井伊信濃守直盛は義理の兄弟なのである。

朝利の娘たちは井伊直親、中野直由、小野朝直、鈴木重時など多くの家に嫁いで行き・・・奥山家は分家筋ながら井伊の血縁を繋いでいく。

で、『おんな城主 直虎・第5回』(NHK総合20170205PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回はついに主役登場となった井伊直盛の娘・次郎法師の描き下ろしイラスト大公開でお得でございます。素っ頓狂な感じの子役の演技を引き継いで乙女モードの柴咲コウの演技は賛否両論巻き起こる感じでございますねえ。ほぼ架空の人物と言ってもいいほどの井伊直虎の物語ですので・・・子役と繋ぐ演技をすることはリアリティー形成の作戦としては悪くない感じがいたしました。これは「白夜行」でも「ごちそうさん」でも使われた脚本家の基本テクニックでもございますな。「白夜行」は別格としても・・・人間の成長を描くための常套手段でもございましょう。あの子が大きくなると・・・こうなるのかあ・・・という感動がございますからねえ。守護大名・今川家と・・・国人領主・井伊家の軋轢については説明不足のようにも見えるし・・・淡々とじわじわと浸透を図っているようにも見える・・・先行きに期待が持てる感じがいたします。天文二十三年(1554年)から成人篇をスタートさせるとなると六年後の永禄三年(1560年)の桶狭間の戦いが一つのクライマックスとなるでしょうから・・・まずは青春篇ということになるのでしょうねえ。そこまで・・・亀と鶴の明暗の別れをじっくりと描いて行くのでしょう。これは・・・戦国絵巻だけど戦は当分おあずけということなのかもしれませんな・・・。まあ・・・井伊谷を何とかするずら会議とか・・・行間を主張する小野但馬守政次とか・・・井伊直満の一同爆笑怨霊とか・・・いろいろと楽しい感じはいたします。

Naotora005 天文二十一年(1552年)、今川義元の娘が武田義信の室となる。天文二十三年(1554年)一月、今川勢は尾張国への侵攻を開始する。織田信長・斉藤道三の連合軍は今川勢の村木砦を強襲しこれを殲滅した。七月、尾張守護の斯波義統が守護代の織田信友に攻められ自害する。北条氏康の娘が今川氏真の室となる。八月、井伊直盛の家老・小野政直が病没。十二月、武田信玄の娘が北条氏政の室となる。甲相駿三国同盟が成立した。信玄は信濃国伊那郡に侵攻し、松尾小笠原氏の小笠原信貴・小笠原信嶺父子が信濃先方衆として鈴岡小笠原氏の小笠原長時・小笠原信定兄弟の松尾城を攻め落城させる。天文二十四年三月、松平元信が元服する。四月、信長は清州城を奪取する。八月、今川義元は松平親乗を将とする三河衆を尾張国に侵攻させる。十月、三河国の吉良義安が織田方に通じる。厳島の戦いで毛利元就が陶晴賢を自害に追い込む。二十三日、弘治に改元される。この頃、謀反の疑いで今川義元に誅された井伊直満の嫡男・亀之丞が潜伏中の信濃国から井伊谷に帰参し、井伊直盛の養子となる。

駿河国善得院で龍潭寺の南渓和尚は太原雪斎と面会した。

「小豆坂、安祥城と軍師の御采配はお見事でございました・・・」

「辛勝であった・・・褒められるほどのものではない」

「しかし・・・井伊の総領・直盛殿はお褒めにあずかったとか・・・」

「井伊党の活躍には助けられましたぞ・・・直盛殿には安祥城の城代を見事にお勤めなされ・・・井伊谷に無事戻られたであろう」

「それについては・・・願いたきことがございます」

「・・・申されよ」

「跡目相続の件でござりまする」

「・・・直盛の娘を還俗させて・・・婿をとるか・・・」

「いえ・・・太守様のお叱りを受けて逃亡中の直満の一子を帰参させたく・・・」

「それは・・・難しいな」

「しかし・・・直満を訴えた小野和泉守もすでに世を去り・・・謀反の疑いも・・・北条氏と通じたということ・・・もはや・・・今川と北条が御親類となられた今は・・・ご赦免があってもよろしいのではございませんか」

「それはそれ・・・これはこれよ・・・」

「しかし・・・井伊は今川の寄子として忠節を励んでおりまする。寄親として・・・子の相続を気にかけていただきませぬか・・・」

「御隠居の直平殿には・・・直元という末子があったな・・・」

「直元はわが弟ながら・・・天文十年に身罷っておりますが・・・」

「それの遺児ということでどうじゃ・・・」

「遺児・・・」

「直満の一子は行方知れず・・・が・・・直元の遺児があり・・・直平殿が養育していたということじゃ・・・まずは直平殿の養子として世にだし・・・直盛殿の養子と直せばよろしかろう・・・」

「それでお許しがいただけますか・・・」

「他言は無用じゃ・・・太守様のご機嫌よろしき時に拙僧から言上つかまつる」

「ありがたきことでございまする」

「何・・・井伊が忠誠は・・・疑うこともないこと・・・今川の軍には欠かせぬ・・・」

こうして・・・直満の子・亀之丞は・・・井伊直元の忘れ形見として井伊直盛の養子となり・・・井伊直親と名乗った。

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2017年2月 5日 (日)

人知れず仕事を終えたコピーロボ変らぬ鼻の色ぞ哀しき(堤真一)

(金)の深田恭子ママに癒され、(土)の小泉今日子ママに萌える・・・あくまで個人的な感想です。

今季の週末は二夜連続キョンママ祭りなのである。

深キョンママはママにしたい女優ナンバーワン系だが・・・キョンキョンママは結構面倒臭い系である。

それはある意味、リアルな女房のプロトタイプだが・・・キョンキョンでなくても面倒くさいのが普通である。

それがキョンキョンなので萌えるわけでございます。

その辺りの微妙な匙加減に逆上する人もいるだろうし・・・未婚の男性たちは・・・もしも自分の相手がああだったらどうしようと恐怖するわけである。

大丈夫・・・大抵の人はキョンキョンではないし・・・大抵の人はあんな感じで面倒くさいものです。

それに耐えて生きていく・・・それが人生というものだから。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第4回』(日本テレビ20170204PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。このドラマの左江内氏(堤真一)には名前はない。左江内家の事実上のボスの円子(小泉今日子)の夫であり、都立源高校に通うはね子(島崎遥香)と公立骨川小学校に通うもや夫(横山歩)の父親・・・それが左江内氏。フジコ建設営業第三課の係長であるサラリーマン左江内氏。家庭と職場・・・左江内氏はすでに両手がふさがっているのにさらに「ヒーロー」という第三の荷物を背負わされる。これが趣味だったらよくある話である。ヒーローなんて嫌だ嫌だと言いながら・・・スーパーサラリーマン左江内氏は・・・かなり公私混同していくのである。人間というものはそういうものなのだ。

桟橋に小池刑事(ムロツヨシ)と警察官刈野(中村倫也)が現れる。

洋上に小型クルーザーがあり、船上で若いと言えなくもない男(笠原秀幸)と若いと言っても差し支えない女(生越千晴)が手を振っているのが見える。

「手をふってますね」

「ふりかえしてやろうか」

風向きが変わり船上の二人の声が桟橋の二人に届く。

「助けて~」

「燃料切れで~」

「漂流してます~」

「助けて~」

刈野が事態に気がつく。

「救助を求めています」

「これは・・・カイホを呼ぶ他はないな」

「小池刑事・・・海上保安庁に救援を要請しますか」

「いや・・・俺だって海の猿だ・・・しかし・・・ここはカイホすな」

小池刑事が逡巡しているとスーパーサラリーマン左江内氏がクルーザーに舞い降りるのだった。

「どうしました・・・」

「あなた・・・今・・・飛んできましたよね」

「そこ・・・気になりますか」

「だって・・・」

「私・・・ランチ・タイムだったのに・・・呼ばれてやってきたわけで」

「はあ・・・」

「昼飯食べたいわけで・・・なんなら帰りますけど」

「助けてもらえるんですか」

「もちろん」

「どうやって?」

「船ごと持ち上げて桟橋まで運びます」

「そんなことできるんですか」

「その確認・・・必要ですか」

「いや・・・このまま彼女と漂流して無人島に漂着して青い珊瑚礁的な冒険生活も悪くないかなって」

「彼の戯言はどうでもいいのでお願いします」

「いいんですね」

「君もブルック・シールズになれるのに」

「きゃあああああ」

クルーザーは空中を飛んで桟橋付近に着水する。

スーパーサラリーマン左江内氏が去ると忘却光線の威力で残された人々はヒーローの存在したことだけを忘れてしまう。

「あれ・・・いつの間に」

「助かった~」

「俺の海賊王の夢が・・・」

この男・・・わざと燃料切れにしてたんじゃないか・・・。

「お手柄ですね・・・小池刑事」

「そうだね・・・私・・・小池警部はほら・・・海の猿だから・・・」

「警部じゃなくて巡査部長ですよね・・・だけど少しも濡れていませんね」

「ウォータープルーフだから」

オフィス街に戻った左江内氏はフジコ建設の屋上に着地する。

部下の蒲田(早見あかり)と下山(富山えり子)の二人が左江内氏に気がつく。

「係長・・・何してたんですか」

「お昼休み・・・終わっちゃいますよ」

「頭・・・びしょびしょじゃないですか」

「ちょっと寝ぐせを直してた」

「今朝・・・寝ぐせの印象なし」

「俺なりのこだわりだ」

「係長が髪型に拘っている印象なし」

「・・・」

凸凸コンビから凹凹コンビへリレーされてオープニングコントがのほほんと終了する。

喜劇女優としての早見あかりの凄腕が冴えるのだ。

謎の老人(笹野高史)におでん屋で愚痴る左江内氏。

「どうしたの・・・その傷」

「妻がね・・・珍しく弁当を作ってくれたんです」

「よかったじゃない」

「だけど・・・昼休みに人命救助をして昼飯食べそこなったんですよ・・・弁当があることをすっかり忘れて帰宅して・・・妻が手をつけていない弁当を発見して・・・殴る蹴るですよ」

「今度は愛妻弁当は残さないようにね」

「・・・」

オフィスでは簑島課長(高橋克実)とお調子者の池杉(賀来賢人)が左江内氏を待ち受ける。

「例の栃木のリゾートホテルのプレゼンテーションなんだけど」

「あれは池杉の担当では・・・単独での受注が決まりかけてたんじゃないですか」

池杉は簑島に過剰にすり寄るのだった。

「そうなんだけどね・・・結局、三社によるプレゼンテーションになったよ」

「裏切られたんです」

「ああ・・・」

「それで・・・君にプレゼンをまかせたいんだ」

「つまり・・・尻拭いということですか」

「頼むよ」

「仕方ありませんね・・・でプレゼンはいつですか」

「二日後だ・・・」

「え」

「明らかに意地悪なんだよ・・・」

「うちにやらせる気がないわけですか・・・どんだけ嫌われたんだ」

「ウフン」

なんらかの工作があったらしく凹凹コンビが出動する。

「係長・・・栃木出身ですよね」

「すごいアドヴァンテージじゃないですか」

「案外、逆転できるかもしれませんよ」

「契約とれたら部長に昇進しますよ」

凹凹コンビに耳元で囁かれ揺れる左江内氏・・・。

「そうかな・・・とにかく・・・設計部に行ってくる」

敗戦処理を見事なチームワークで左江内氏に押しつけることに成功した営業第三課一同だった。

「トレビアン・・・ウインブルドン」と意味不明の快哉を叫ぶ池杉である。

設計課の諸星(尾上寛之)たちは・・・左江内氏の状況説明を聞いてやっつけ仕事を開始するのだった。

「とにかく君たちにまかせるよ」

「とにかくやっつけます」

帰宅した左江内氏をガメラと化したコタツ司令官が待ちかまえる。

「あ・・・炬燵出したのか・・・ダメじゃないか」

「ダメだって言ったんだけど」とはね子。

「それなのにどうして・・・」

「ママ・・・なんかいろいろあったみたい」

「えええ」

説明しよう・・・円子は一度コタツに入ると立ち上がれなくなってしまうのだ。

「ママ・・・風邪ひくよ」

「ほっといて・・・」

翌朝もコタツでガメラとなり朝の指図をする円子だった。

「アタシも食事食べるからおなしゃす」

「脱水するぞ」

しかし・・・ピタゴラスイッチ的水分補給装置を完成している円子である。

「明日・・・もや夫・・・保護者同伴遠足だからね」

「高尾山か・・・いい天気らしいね」

「何・・・他人事みたいに・・・」

「え」

「パパが連れてって」

「君が行くって言ったじゃないか」

「龍兵くんママとケンカしちゃったのよ・・・サッカー教室の話になってもや夫のことディフェンダー向きとか言うもんだから」

「ディフェンダーだって大切じゃないか・・・長友とか」

「長友じゃ嫌なの・・・香川・・・岡崎っていうより本田・・・」

「内田だって・・・ディフェンダーだし」

「・・・」

「顔かっ」

「とにかく・・・ツートップがいいの・・・顔合わせたらケンカになっちゃうから・・・行けないの」

「困るよ・・・明日・・・大切なプレゼンが」

「休めばいいじゃん」

「そういうわけにはいかないよ」

「パパっていつもそう・・・自分の都合ばっかり」

「・・・」

「もや夫がディフェンダー呼ばわりされたんだよ」

「お義母さんに頼めないかな」

「バアバに・・・じゃ・・・電話して」

しかし・・・バアバ(青木和代=ジムシィ)はジイジとワイハーでアサイーなのだった。

万事休すの左江内氏・・・。

「あの・・・パーマンのコピーロボットみたいなのないですか」

「そりゃ・・・同じF先生の原作だけどさ」

「原作?」

「とにかく・・・そんな都合のいいものないよ」

怪しい老人にも見放され・・・家庭の事情を職場に持ち込む左江内氏である。

「とにかく・・・長友じゃダメなんです」と左江内氏。

「わかるよ」と課長。

「わかるのかっ」と池杉。

「とにかく・・・動かざること山の如し・・・風林火山です」

「武田信玄か・・・」

「山だけだしっ」

「しかし・・・すべて私事でした・・・お忘れください」

「忘れよう」

「忘れんのかいっ・・・ていうか・・・何故、半沢直樹風!」

設計課の諸星チームは・・・。

「なんか・・・ダラダラとやるより・・・いい設計に仕上がりました」

「え」

「まかせるって言われた時・・・この人ダメだと思ったんですが・・・なんだかほっておけなくて・・・ダメ元でやったら・・・なんだかスムーズにアイディアが出て・・・これ・・・手応えありますよ」

「はあ・・・」

こうなったら・・・もや夫に泣いてもらおうと決意した左江内氏・・・。

「明日・・・パパが来てくれるんでしょう・・・高尾山・・・天狗が出るかもよ」

とても言い出せたものではない。

こうなったら・・・早めに出勤して準備をして・・・プレゼンは諸星チームに委ねるしかないと結論する左江内氏である。

寿司職人(佐藤二朗)は問いかける。

「何故に河童巻きばかりを・・・」

「河童だからさ・・・」

「通ではなく・・・」

「通はこはだとか卵焼きとかだろう」

そこへ・・・怪しい老人が現れる。

「一回だけということで原作的にもOKが出たよ」

「原作的って・・・」

「これだろ」

その手にはクレーンゲームでキャッチできるようなコピーロボットが握られていた。

「やった」

「ただし・・・三時間限定だからね」

「会議を終えて高尾山に飛べば交代できます」

「絶対だよ・・・人間が・・・コレになっちゃうとこ誰かにみられたらトラウマになる人もいるかもしれないから・・・気をつけてよ」

「はい」

プレゼンの準備を終えて・・・コピーロボットは鼻のスイッチで・・・何故かハイキングスタイルの左江内氏に変身する。

まあ・・・なんでもありの笑いだな。

いざ・・・プレゼンへと出発する左江内氏だが・・・明らかに挙動不審の池杉・・・。

プレゼン会場で設計図が紛失していることに気がつく左江内氏。

「データも消えています」

「会社のPCに残っているはずです」

「間に合いませんよ」

しかし・・・左江内氏は弾丸より速いのだ。

けれど・・・会社のPCのデータも消去されていた。

スーパーマンの登場に驚く一同。

池杉は逃げ出す。

思わず追いかける左江内氏。

「すみません・・・なんだか・・・プレゼンが思ったより上手く行きそうで・・・自分が失敗したのに係長に手柄立てられたら・・・カッコ悪すぎて・・・たえられませんでした」

「なんてことを・・・」

お茶の間では池杉のクズっぷりに卒倒する人続出である。

会議場に戻った左江内氏・・・。

正直にデータが紛失したことを話すのだった。

「ただ・・・一言言わせてもらうと・・・私は栃木県出身です・・・皆さんのプレゼンを聞いていていくつか・・・思いついたことがありました」

「クレームをつける気か」

「いえ・・・栃木県人として・・・よりよいホテルができればいいなあと思いまして」

真摯に改良点を述べる左江内氏に一同は耳を傾ける・・・。

「敵に塩を送りすぎですよ」と諸星。

「ですねえ・・・」

「でも・・・楽しいプレゼンでした」

「そうですか・・・あっ」

うっかり・・・遠足のことを失念していた左江内氏である。

「これは・・・ギリギリだ」

しかし・・・高尾山には円子が来ていた。

「え」

「あら・・・パパ・・・帰っていいって言ったでしょう」

「いや・・・どうして・・・」

「ディフェンダーに向いてるっていうのも一つの才能だと思いなおしたの」

「そうか」

左江内氏は飛び去り・・・人々は忘れた。

左江内氏は・・・空からコピーロボットを探索する。

人気のない林の中に横たわる任務を終えたコピーロボット。

「こんな寂しいところで・・・流石は私のコピーだ」

社に戻った左江内氏は池杉に二度謝罪される。

「やったぞ・・・リアリティー建築と共同開発に決まった」と喜ぶ課長。

恐ろしいほどのハッピーエンドである。

炬燵は仕舞われていた。

「炬燵・・・片付けたのか」

「でも・・・私は芯から身体が冷えたので一切の家事ができません・・・よろしくおなしゃす」

ギクシャクと階上に去って行く円子。

「いつもと・・・同じだけどな・・・」

平和な日常に苦笑する左江内氏なのです。

ついにハッピーエンドに仕上がったよ・・・凄いぞ。

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2017年2月 4日 (土)

昨日の新幹線で東京から京都に向ったあの人を今日の新幹線で追いかけたら名古屋あたりですれちがっちゃいました(深田恭子)

小学一年生から中学受験体勢に入っているライバルを小学五年生から追いかけて追いつくことができるのか・・・という問題である。

もちろん・・・できないことはないのだが・・・それには個人差という問題がある。

徒歩でしか旅をできない程度の学習能力の者を新幹線なみの学習能力の者がたちまち追い抜くことはできるのだ。

いずれにしろ・・・先発したものに余裕があり・・・後続のものはあせりあわてふためき無理をしなければならない。

「旅人算」はそういう当然のことを教えてくれるのである。

もちろん・・・試験というゴールにはギャンブル性がつきもので・・・実力者がアクシデントで脱落し、運よくすべりこみセーフという場合もある。

不条理な世界におけるサバイバル・ゲームを面白おかしくみせてくれるこのドラマ。

まあ・・・結局・・・深田恭子が嫁だったり母親だったりする時点ですでに勝者だという考え方もあります。

で、『克上受験・第4回』(TBSテレビ20170203PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・吉田秋生を見た。公立・大江戸小学校の五年生・佳織(山田美紅羽)と偏差値72を要する桜葉学園中等部を父娘で目指そうと決意した桜井信一(阿部サダヲ)だったが・・・娘の受験勉強に熱中するあまり、スマイベスト不動産で信一に指導される立場の名門・東西大学を卒業した楢崎哲也(風間俊介)に仕事を丸投げするという暴挙に出る。堪忍袋の緒が切れた哲也はありのままを上司の長谷川部長(手塚とおる)に報告する。社内での信用が失墜した信一は奇策に走るのだった・・・。

「じゃあ・・・15番」

桔梗である。

「ききょう・・・」

「正解」

母子仲良く浴槽で桜井香夏子(深田恭子)特製漢字暗記札をサービスである。

つかみはOKなのかよ。

16番は「蚕」である。

「天に虫だから・・・ホタル」

「残念・・・カイコでした~」

その頃・・・夫は解雇どころか・・・自分で退職願を提出していた。

「部長が・・・そんな中途半端なことでどうするとおっしゃったので・・・」

「言ったけど」

「娘の中学受験に専念することにしました」

「えええええええええ」

常識人たちを唖然とさせる信一だったが・・・それは中卒だからではなく・・・性分なのだろう。

常識人であるナラザキは自分の言動が信一を退職に追いやったと思い悩み・・・一週間後・・・桜井家をケーキを持って訪問するのだった。

裏番組の「お母さん、娘をやめてもいいですか?」は教師の家庭訪問がケーキありだったのに、小山みどり先生(小芝風花)の家庭訪問がケーキなしだったのでバランスをとったな。

・・・たまたまだろうが。

「主人は出勤しましたけど・・・」

「え・・・」

仕方なく、香夏子に訪問理由を話すナラザキだった。

「すべて・・・僕が悪かったのです」

「そんな・・・ナラザキさんは当然のことをしただけじゃないですか」

天女のような香夏子だった。

こうして・・・妻には内緒で退職した信一の行動は筒抜けになったのだった。

しかし・・・天女・香夏子はすぐに信一を問いつめたはしないのだった。

天女だからな・・・。

一方・・・算数の授業でめきめきと頭角を現す佳織である。

信一の幼馴染で東京大学卒の徳川直康(要潤)が経営する大企業「トクガワ開発」の社長令嬢・麻里亜(篠川桃音)は中学受験のための自習に励む。

佳織のクラスメートのコマツコになれそうなリナ(丁田凛美)と美少女のアユミ(吉岡千波)はクラスに馴染まない麻里亜にちょっかいをかけるが・・・佳織はそれを制止する。

「かまわないであげて」

「私たちは・・・佳織のことは応援しているんだよ」

リナとアユミは弁解するが・・・クラスにはさらに兇悪なグループもあり・・・リーダー女児(安武風花)が呪いの神飛行機を投げて暗雲がたちこめる。

「なによ・・・佳織の勉強の邪魔しないで」

「ふふん・・・」

チビこと大森健太郎(藤村真優)は背筋に冷たいものを感じるのだった。

小山みどり先生は「友達が出来てよかった・・・心配していたのよ」と本人に告げる鈍感力を発揮しつつ・・・学級の無事を祈るのだが・・・。

嫉妬の炎は格差社会の根底に常に燻り続けるものだ。

居酒屋「ちゅうぼう」で娘のために「旅人算」を予習する信一にも中卒仲間がからんでくる。

付き合いが悪くなった信一に淋しさを感じると同時に嫉妬してしまうのだ。

「ちゅうぼう」店主の松尾(若旦那)は「ほっといてやれ」とたしなめる。

しかし・・・「仕事がなくちゃ困るだろう」と案じる仲間たち・・・。

失職中の信一はパチンコ屋の呼びこみとしてティッシュ配りのアルバイトをしている。

「新台導入しました~」

この手の仕事に慣れた信一は女性のアルバイト(奥仲麻琴)に指導する勢いである。

「もっと声を出して・・・両手のふさがった客はスルーして・・・空いている方の手をめがけて・・・差し出す」

「はい」

「よし・・・いいぞ」

「コーチ、ありがとうございます」

「エースを狙うんだ!」

麻里亜と佳織の距離は縮まる。

「いいな・・・佳織ちゃんはお父さんと勉強しているんでしょう」

「私は・・・家庭教師・・・」

「凄い・・・」

「・・・」

信一は旅人算を佳織に説明するが・・・途中で自分でもわけがわからなくなってしまう。

「ええと・・・相対速度がな」

「相対速度・・・」

「大丈夫だ・・・少し目をつぶってなさい」

素直に目隠しする佳織がいたいけないことおびただしい。

一方・・・家庭教師(岡山天音)に解答チェックをされる麻里亜・・・。

そこへ徳川直康が帰宅する。

「どうですか・・・先生」

「最近・・・集中力に欠ける事が多いです」

「あなたの教え方が悪いのよ」

「え」

「もっとかっこいい人にチェンジして」

「麻里亜・・・」

麻里亜は嫌らしい感じの家庭教師の鼻っ柱をへし折って自室に引き上げる。

寝床でも・・・「旅人算」に悩む信一。

香夏子は軽くジャブを繰り出す。

「最近・・・仕事の方はどうなの」

「どうしたの・・・急に」

「前はよく・・・話してたじゃない」

「夫の仕事の愚痴は鬱陶しいと素晴らしいインターネットの世界で言われているから」

「信ちゃんの話は面白いよ・・・」

「今は・・・旅人算のことで頭がいっぱいなんだ」

「・・・」

仕方なく・・・香夏子は舅の一夫(小林薫)を訪ねる。

「仕事をやめたのか・・・しょうがねえ野郎だな」

「私に話してくれないんです」

「ここはひとつ・・・口出ししないでやってくれ・・・心配かけたくねえってことだろうから」

「はい」

「それにしても楢崎って野郎は・・・義理を知らねえな・・・若い頃は師匠のとってきた仕事を有り難くやらしてもらうのが筋だろうに・・・」

もちろん・・・信一の手抜きはそういう話ではない。

むしろ・・・ナラザキは今時珍しい義理堅さである。

つまり・・・一夫は・・・ものすごい親馬鹿なのだ。

信一は一歩間違えればろくでなしだが・・・愛されているので踏みとどまるのだなあ。

「旅人算」ノイローゼとなった信一は中卒仲間を巻きこんで「実写版」に挑戦する。

「いいか・・・まず梅ちゃんが・・・スタートして・・・竹ちゃんが十五数えてから自転車で追いかける・・・よーい、スタート」

梅本(岡田浩暉)は走り出し、背後から竹井(皆川猿時)が自転車で猛ダッシュ・・・。

「うおおおおおおお」

「そうか・・・分速60メートルを分速120メートルで追い抜く時は・・・分速60メートルがまるで静止しているに見える・・・これが相対速度・・・」

遅れを取り戻すにはあせるしかないのである。

居酒屋「ちゅうぼう」を訪れるナラザキ・・・。

「お前のせいで・・・信ちゃんが無職に」と凄む元ヤンたち・・・。

「あの奥様に・・・」と桜井家訪問の話をしかけるナラザキを制する信一。

店の外に出た二人は同時に土下座するのだった。

「僕のせいで・・・」

「お前に仕事を押しつけて・・・」

退職の件を香夏子に伝えてしまったことも謝罪しようとするナラザキを制する信一。

「それより頼みがあるんだよ・・・嫁さんに会社辞めたこといってないんだよ」

「え」

つまり・・・香夏子は信一に何も言ってないのかと悟るナラザキ。

「それと・・・旅人算の教え方を教えてくれ」

「・・・旅人算は・・・スゴロクにたとえるといいんですよ」

「スゴロク・・・」

信一はナラザキを連れて帰宅する。

「いい人連れて来たぞ」

「ナラザキさん」

「はじめまして」

錯綜する嘘と真実である。

あらゆる人間関係はそのように維持されるものなのだ。

一分を一マスにした旅人算スゴロク版を手作りする一同。

「兄のたけしくんは午前8時に分速60mで歩いて学校に向かいました。寝坊した弟のけんじくんは8時15分に分速120mの自転車で家を出発しました。けんじくんがたけしくんに追いついたのは何時何分でしょうか」

「まず・・・佳織ちゃんの友達が先にスタートしたとするよ」

「麻里亜ちゃんね」

「そうか・・・それで・・・麻里亜ちゃんは一回に1コマずつ進むことにする・・・佳織ちゃんが寝坊している間に・・・15回分進んで・・・15コマ目に到着している」

「もうすぐ学校に着いちゃうわね・・・学校まで二十分もかからないし」

「ここは田舎の学校で学校まで遠いんだ」

「田舎って大変ね」

「ここで追いつくために佳織ちゃんは自転車に乗るので一回に2コマずつ進むことにする」

「自転車通学は禁止されてるよ」

「ここは田舎なので大丈夫・・・麻里亜ちゃんが1コマ、佳織ちゃんが2コマ進むと二人の差ははどうなった」

「14コマ・・・」

「二回目・・・また麻里亜ちゃんが1コマ・・・佳織ちゃんが2コマ・・・二人の差は?」

「13コマ・・・・一回に1コマ縮まるのね」

「じゃあ・・・追いつくためには何回必要になるのかな」

「最初が15コマだから・・・十五回?」

「正解」

「なるほど~・・・そういうことか~」と理解する信一だった。

「問題では一分でたけしくんは六十メートル、けんじくんは百二十メートル進むことになってるから・・・たけしくんは十五分でとのくらい進むかな」

「60×15=900・・・だから九百メートル」

「けんじくんとたけしくんが一分で進む距離の差は?」

「120-60=60・・・だから六十メートル」

「一分で六十メートル近付くと九百メートル近付くためには」

「900÷60=15・・・十五分」

「最初が8時15分だから・・・追いつくのは・・・」

「8時30分」

「正解!」

「すげえええええええ」と感嘆する信一だった。

佳織と信一は旅人算を理解した!

ティッシュ配りに精を出す信一。

そこに一夫がやってくる。

「お前・・・ティッシュなんか配ってどうするつもりだ」

「とにかく・・・ノルマがあるから」

「誰ですか・・・警察呼びますか・・・それとも仮面ライダーウィザードを」

「コヨミかっ」

「仕方ねえ・・・仕事が終わるまで待ってやらあ」

居酒屋「ちょうぼう」に移動である。

「お前・・・毎日の生活をどうするつもりだ」

「一年半の辛抱なんだよ」

「ちゃんと仕事をして・・・高校受験で勝負しろ」

「今でも・・・遅いんだよ・・・高校受験になったら完全に手遅れなんだよ・・・それに高校受験になったら・・・みんなそれなりに勉強してくるから・・・手堅いレースになって・・・穴なんか来ないんだ」

「そういうものなのか」

「親父・・・特殊算って知ってるか」

「相撲とりだろう」

「それは鹿児島県出身、二所ノ関部屋の徳州山だろうが・・・鶴亀算とか・・・旅人算とか・・・流水算にニュートン算、分配算に仕事算、時計算に通過算・・・とにかくいろいろあるんだよ・・・それが終わったって・・・比とか・・・相似とか・・・パップス=ギュルダンの定理とか・・・ああ・・・果てしない」

「お前・・・香夏子さんは・・・自分が働くって言ってんだぞ・・・女房働かすなんて・・・お前、それでも桜井家の男かよ」

「・・・」

一夫は男女雇用機会均等法を知らない。

中卒だからかっ。

説明する時間が惜しい信一だった。

スマイベスト不動産では・・・。

「桜井の抜けた穴をしっかり埋めてくれよ」

「僕では無理です・・・桜井さんに戻ってきてもらった方が」

「これから面接するんだ・・・変わりなんていくらでもいる」

「・・・」

学校では・・・。

リナとアユミが相談している。

「どうしよう・・・佳織を待ってる?」

「でも・・・今日もあの子と一緒かも」

そこへ女帝グループが通りかかる。

「ふふん」

リナとアユミは「いじめ」を直感するのだった。

二人は水浸しになった「麻里亜」の靴を発見した!

そこへ・・・佳織と麻里亜がやってくる。

「あの・・・これ・・・」

麻里亜は上履きのまま駆け去るのだった。

「麻里亜ちゃん」

佳織は追いかけるが追いつけない。

「ヤバい・・・」とリナ。

「誤解されたよね~」とアユミ・・・。

善意が悪意に飲み込まれる複雑な社会情勢である。

佳織は茫然と公園に立ちすくむ。

そこに健太郎がやってくる。

「これやるよ」と駄菓子を渡す健太郎。

「いらない」

「俺さ・・・くじ運がメチャいいんだ・・・お前はどうよ」

「私はあんまり」

「だろうな・・・だからやるんだよ」

「・・・」

「これ食べながら・・・一緒に帰ろうぜ」

テクニシャンか・・・ちびっこテクニシャンなのか。

成長するとラブホテルの客引きになるのか。

そして朝ドラマのヒロインの娘に「恋のルールに反則なしは上級者向けテクニック」と説教するのか。

そんなことしてないぞ。

あくまで妄想です。

寄り道した佳織か帰宅すると・・・両親と祖父がただならぬ空気で会議中である。

「俺塾に行ってなさい」

「・・・」

俺塾から様子を窺う佳織だった。

「仕事が決まったら・・・話そうと思ってた」

「私が働きます」

「え」

「今日・・・スマイベスト不動産の面接を受けて来ました・・・明日から来てほしいって」

「おいおい・・・パートの仕事と本当の仕事は違うんだぜ・・・お前には無理だよ」

「信ちゃんはいつもそう・・・佳織のことは受かるって励ますのに・・・どうして私には無理だって言うの?」

「だって・・・お前・・・今まで営業の仕事なんて・・・」

「ママ凄い」と飛び出す佳織。「パパと同じ仕事をするなんて凄いね・・・パパはいつもお仕事大変だって言ってたのに・・・それと同じ仕事をできるなんて」

孫に言われてはのるしかない一夫である。

「よくぞ申した・・・それでこそ桜井家の嫁だ」

「えええええええ」と孤立した信一である。

とにかく・・・スマイベスト不動産は素晴らしい人材を確保したのである。

明日から・・・従業員一同、うっとりなのである。

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2017年2月 3日 (金)

過去を顧みるな!未来を恐れるな!という恐ろしいセオリー(成海璃子)

タイムトラベルものとしてはほとんど絶望的なシステムダウンだが・・・人情劇としてはそこそこ仕上がっているこのドラマ。

結局、人生はなるようにしかならないのでなんとなく生きればいいよ・・・ということである

そうだったか?

だって・・・こんなに辻褄があわない話でも・・・それもまた現実だからしょうがないってことでしょう。

っていうか・・・こんなドラマでもオンエアできるっていうのが凄いよな。

お前だって・・・成海璃子が出ていればなんでもいいんだろう。

まあ・・・そうなんだけどな。

この・・・実際・・・しょうもない話を・・・存在感でおしきったヒロイン、天晴だよな。

「黒い十人の女」→「リテイク」と続いた2016年~2017年の成海璃子祭り・・・もう思い残すことはないほどだ。

で、『リテイク 時をかける想い・最終回(全8話)』(フジテレビ201701282340~)脚本・演出・植田尚を見た。2022年にタイムマシンが発明される時空の2017年である。もう少し、準備と予算をかけられたら素晴らしい傑作に仕上がった気がするがもう終わってしまったから何を言っても虚しいのである。もちろん・・・タイムマシンシステムという架空のテクノロジーが人類の共通認識下にない以上・・・どんな話でもOKなのだ。どんな矛盾も時が解決するからである。あえて説明がないのはお茶の間に想像の余地を残す行間なのだろう。

2011年の東日本大震災の記憶が生々しい現在・・・今やどうなっているのかわからない原発の格納容器の下。人間を30秒で殺す毒を撒き散らしながら核燃料は今、どこにあるのか。原発関係者はみな・・・タイムマシンが欲しいよねえ。できたら・・・リテイクしたいよねえ。

「先ほど起きました大和第一銀行強盗殺人事件の続報です。店内で男性を刺殺し現金およそ八千万円を奪い今も逃走中の犯人を名乗るグループがインターネット上に犯行声明文を公開しました。それによれば犯人グループは昨年逮捕され収監中の人物の即時釈放を要求しており・・・」

「犯人はなぜ・・・テレビ局を占拠しようとするのだ」

「生放送中のスタジオを乗っ取ってメッセージを伝えようとするのだと思います」

「それも・・・坪井さんが言ってたのか?」

「・・・はい」

一体・・・那須野薫(成海璃子)はいつ・・・坪井と話したのだろう。

戸籍監理課の課長・新谷真治(筒井道隆)はお茶の間とともに懐疑する。

しかし・・・二人を乗せた車は犯人たちの車に追い付いてしまい・・・考える暇を与えないのだ。ずるいぞ。

「俺が犯人たちの気をひくから・・・その間に本を奪還してくれ」

「課長・・・大丈夫なんですか」

「何とかするしかない」

テレビ局前の路上で車から降りた犯人たちの前に無防備で姿を見せる課長・・・。

「あの~・・・すみません」

「あ・・・お前は・・・銀行にいた奴じゃねえか」

「まさか・・・つけてきたのか」

「・・・失礼します」

「こら・・・待て」

目の前で人が逃げれば人には追う習性があるらしい。

待機していた薫は車内から「未来の出来事が書かれた年鑑」を盗み出す。

課長はナイフでネクタイを切り裂かれ叫ぶ。

「誰か~・・・助けて~」

テレビ局では警備員の交代時間でもあったのか・・・多数の警備員が現れる。

「どうしましたか」

「この人たち・・・銀行強盗です」

「えええ」

腕に覚えのある警備員揃いであったらしく・・・銀行強盗たちはたちまち確保される。

「いやあ・・・殺されるかと思ったよ・・・ははは」

「笑いごとじゃないですよ」

薫は涙ぐんでいた。

そこへ・・・柳井刑事(敦士)と警察官たちが到着する。

「どうして・・・ここに」

「犯人たちが話しているのを聞いたんだ・・・」

「なぜ・・・すぐに話してくれなかったんですか」

「いや・・・聞き間違いだったら・・・恰好悪いだろう・・・それから・・・テレビ局に仲間がいるらしい」

「テレビ局に・・・」

柳井刑事はテレビ局に勤務する一味も逮捕することに成功するのだった。

身元不明の死体となった未来から来た坪井信彦(笠原秀幸)は警視庁から区役所に引き渡され行旅死亡人として社会福祉法人によるしめやかな葬儀の後で火葬となった。

死亡現場の大和第一銀行と警備会社が花を供えた。

課長と薫は葬儀に参列した。

「坪井さんは・・・無縁仏として共同墓地に入るんですね」

「そういう決まりらしい」

「なんだか・・・哀しいですね」

「坪井さんは・・・警備員の命を救った・・・参列者の中に・・・家族連れがいただろう・・・あの人たちは家族を失わずにすんだ・・・せめてもの慰めだ」

「でも・・・人はいずれ・・・死ぬんですよ・・・坪井さんはそれを一時的に先延ばししただけなんです・・・リテイクはそういう虚しい行為なんです」

「那須野・・・お前・・・」

「すみません・・・今日は帰ります」

課長は那須野を見送った。

何故か・・・胸が痛むのだった。

翌日・・・出勤した課長にパートタイマーのパウエルまさ子(浅野温子)が告げる。

「こんなものが・・・課長のデスクに置いてあったのよ」

薫の辞表だった。

「まさか」

「さっきから連絡してるけど電話にでないの」

「何か心当たりは・・・」

「そっちこそどうなのよ・・・部下でしょう」

「那須野は自分のことはほとんど話さないので・・・」

「そうねえ・・・こっちの話はよく聞いてくれるんだけど」

「でしょう」

「私たちは・・・彼女のこと・・・ほとんど知らないのね・・・一年半も一緒に働いているのに」

「自宅に行ってみます」

「待って・・・私も」

殺風景な薫の部屋。

「なにこれ・・・若い女の子の暮らす部屋とは思えない」

那須野は洋服ダンスを開いた。

そこには白い衣装が一着あるだけだった。

那須野は法務大臣政務官の国東修三(木下ほうか)の執務室を訪れる。

「ノックくらいしてよ」

「・・・」

「坪井というオバケ・・・亡くなったそうですね・・・例の本はどうなりましたか」

「那須野が姿を消しました」

「おやおや」

「那須野は未来人ですね・・・那須野は未来に起きる出来事を知っていたんだ・・・調べたら那須野には戸籍がありませんでした・・・そんな人物をマンションに住まわせ・・・この仕事に就かせることができるのは・・・あなたしかいないでしょう」

「2014年・・・彼女が私を訪ねてきて・・・2022年にタイムマシンが発明されると言うのです。しかし・・・いくつかの出来事を彼女が予言しました。それはすべて的中したのです。私は一部の政治家に働きかけ・・・対策会議室を作ったのです」

「なぜ・・・那須野を戸籍管理課に配属したのですか」

「それが彼女の希望だったのです」

「彼女は何のために・・・リテイクを・・・」

「オバケ・・・いや・・・未来から来たものたちはあまり多くを語らないのです・・・おそらく制作スタッフがいろいろと背景を作るのが面倒だったからでしょう」

「一方通行のタイムトラベルというアイディア一本で勝負ですからね」

「とにかく・・・職務を放棄した以上・・・彼女も隔離する必要がありますね」

「そんな・・・」

「速やかに身柄を確保して隔離してください」

課長はうなだれて戸籍管理課に戻る。

「どうだった・・・」

「那須野がリテイクしてきた理由を課長は知りませんでした・・・この部署の設立を提案したのは那須野だそうです」

「薫ちゃん・・・未来人に居場所を作ってあげたかったのかも・・・薫ちゃんの部屋・・・見事に何もなかったもの・・・」

「リテイクは虚しい行為だと言ってました」

「彼女だって・・・歴史を変えるためにやってきたのは間違いないと思うけど・・・失敗してしまったのかしら」

「成功したとしても・・・彼女自身にはなんの見返りもないわけです」

「そうね・・・」

「何かを成し遂げたとしても・・・残るのは見知らぬ世界だけか」

「私たち・・・彼女の孤独を理解しようともしなかったわね」

課長は思い出していた。

免許証を持っていない薫・・・。

DVDを借りられない薫・・・。

「病気になったら・・・どうするつもりだったんだ」

居酒屋「へのへのもへじ」で薫の姿を捜す課長。

しかし、やってきたのは柳井刑事だった。

「なんだ・・・お前か」

「ひどいな・・・これ・・・みてくださいよ」

柳井刑事は薫とのツーショット画像を自慢する。

「お前・・・これ・・・いつだ」

「一昨日・・・一時間だけデートしてくれました」

「・・・土曜日か」

「でも・・・それから音沙汰なくって・・・」

「・・・そうか」

「薫ちゃんて・・・不思議なところがありますよね」

「え」

「なんだか・・・僕らとは違う世界を見ているような」

「お前は・・・見る目があるんだな」

「はい?」

「彼女は何か他に言ってなかったか」

「オバケなんかいない方がいいんだとか・・・なんとか」

「オバケ・・・」

「意外と幽霊とかを信じているタイプなんですかね」

課長は・・・薫が何をしようとしているのか・・・わかったような気がした。

戸籍管理課で課長はパウエルに推測を話す。

「那須野はタイムマシンの開発を阻止するつもりかもしれません」

「なぜ・・・」

「これ以上・・・未来人にリテイクさせないためですよ」

「阻止するって言っても・・・」

「薫はパスポートを取得できませんから・・・国外には出られません。薫が阻止するつもりなら・・・。つまり・・・タイムマシンは日本で開発されるのです」

「ロケの予算もないから・・・都内ね」

「素晴らしいインターネットの世界で一発検索できませんか」

「出たわ・・・城聖大学で量子物理学の権威である川島教授がタイムマシン開発のためのプロジェクトチームを立ち上げたって記事がヒットした」

「このドラマ的にはそれが精一杯ですね」

「薫ちゃんのの年代別シミュレーション似顔絵・・・出来ているわよ」

課長は絶句した。

那須野薫の幼少期は・・・課長の娘・波留(横溝菜帆)と瓜二つだったのだ。

「どうしたの・・・」

「那須野薫は・・・私の娘でした・・・」

「え」

「あぶねえ・・・俺に気があるのかと思っていた」

「こらこら」

柳井紗栄子(西丸優子)と波留は玄関から出てきた。

「ママ・・・今日も仕事で遅いから・・・帰ったら・・・夕飯、冷蔵庫にあるからね」

「いってきます」

「いってらっしゃい」

薫は母親と幼い自分の姿を見ていた。

母親を見送り・・・波留を追いかける薫。

「波留ちゃん・・・私、新谷課長の部下で那須野薫というものです」

「パパの・・・部下?」

「・・・パパに会いたい?」

「でもママは会っちゃダメだって」

「ママはね・・・波留ちゃんを育てるのに一生懸命なだけで・・・パパのこと嫌いになったわけじゃないと思う」

「・・・」

「パパだって波留ちゃんのことが大好きなんだよ・・・うらやましいな」

「え」

「私にはパパもママもいないから」

「・・・かわいそうね」

「だから私は後ろばっかり見て生きてきた・・・でもね・・・波留ちゃんは違うよ。 私と波留ちゃんは違う。パパもママも元気だし・・・波留ちゃんの人生はこれからなの」

「人生・・・」

「パパに会いたい?」

「うん・・・パパに会いたい・・・パパとママと三人で前みたいに」

「だったら・・・それをママに言ってみて」

「・・・」

「言葉にして口に出さないと気持ちは伝わらないから・・・」

「ママに・・・」

「そうしたら・・・願いは叶うかもしれないよ」

「・・・」

「なにかをがんばったら・・・きっといいことがある」

「・・・」

「つらいことや・・・かなしいことも・・・きっとのりこえられるよ」

「そうなの」

「うん・・・私は波留ちゃんが幸せになれるって信じてる」

「ありがとう」

「じゃあ・・・バイバイ」

「バイバイ・・・」

課長は川島教授に面会していた。

「こんな美人に会ったら忘れませんよ」

「そうですか・・・美人ですか」

「とにかく・・・この人には見覚えがありません」

「先生はタイムマシンを研究されているとか」

「あれは・・・サークル活動みたいなものです」

「ちょっと噂に聞いたんですけど2022年くらいに完成するということでは・・・」

「あと五年でタイムマシンが・・・あり得ないですねえ」

「そうなんですか」

「テクノロジーというものは・・・突然・・・飛躍する場合もあります・・・なにしろ・・・原子爆弾さえ実現させるのが人類です・・・実現を阻んでいたものが・・・別のテクノロジーの成果でなくなるってこともある・・・人間並みの人工知能なんて夢のまた夢だったものが・・・今や」

「その・・・サークル活動のメンバーを教えてもらえますか」

「ホームページにのってますよ・・・」

パウエルは「例の本」を政務官に届けた。

「薫ちゃんが課長の娘だって・・・知ってたの」

「知りませんでした」

「ホントに?」

「ただ・・・彼女が私のところに来た時・・・新谷くんの事件は知ってましたね・・・」

「冤罪事件のこと・・・」

「何か・・・関わりがあるとは察していましたが・・・そうですか・・・娘さんでしたか」

「国を動かすつもりなら・・・もう少し人間に興味を持つべきね」

「人間には興味を持っているつもりです」

「でも・・・本に未来が書いてあったとしても・・・その未来を作るのは人間一人一人なのよ」

「厄介なことですねえ」

「未来人が歴史を書き換えているから・・・その本は役に立たないかもしれないじゃない」

「だから・・・未来人を隔離する必要があるのです」

「・・・」

下町ロケット工場・・・。

「牟田は確かに・・・うちの従業員です・・・屋上で休憩してますよ」

「少しお邪魔してもいいですか」

「構いませんよ・・・ちょっと変わってる奴だけど」

「変わっている?」

「天才肌っていうの・・・元々・・・変人だったんだけど・・・七年前に奥さんと子供を事故で亡くしてね・・・それからは特にね・・・」

「・・・」

牟田(浅野和之)は屋上で計算に熱中していた。

「牟田義弘さんですね?」

「あんた・・・誰だ?」

「2032年の未来から来た者です」

「え」

「牟田さんは・・・タイムマシンを研究していますよね」

「2032年・・・十五年後か・・・」

「2022年には完成します」

「からかってんのか」

「私はあなたが発明したタイムマシンでここに来たのです」

「へえ・・・それじゃ何か・・・未来の俺から何かメッセージでもあるのか」

「何もありません・・・私の来た未来ではあなたは・・・消息不明です・・・タイムマシンの技術は闇のビジネスとして成立して割りと手軽に利用できます」

「ほう・・・」

「なにしろ・・・一方通行なので・・・私も過去に来るまでは・・・半信半疑でした」

「どういうことだ」

「つまり・・・遡上した過去はやってくる未来とは通じていないのです」

「時間線が分岐するわけだな」

「とにかく・・・私のいた未来には・・・過去に戻った未来人は一人もいません」

「つまり・・・二周目の人間がということか」

「ですね・・・それでも・・・人は闇のタイムマシンを利用します・・・何故だと思いますか」

「さあ」

「みんな・・・絶望して・・・自殺するつもりで利用するからですよ・・・そして・・・実際に過去に到着してびっくりするのです」

「・・・」

「私はあなたにタイムマシンの開発をやめてもらいたいと思いまして」

「なぜだ」

「今・・・この時代には未来人がたくさん来ています・・・それぞれの思いがあったことでしょう・・・でもそれは・・・あってはいけないことなのです」

「この世にはあってはいけないものなどないと思うがね」

「奥さんとお子さんを事故で亡くされたと伺いました・・・」

「そうだよ・・・頭がおかしくなりそうだったよ・・・何度・・・あの事故さえなければ・・・と思ったことか・・・」

「・・・」

「過去に戻れば妻と子供を助けられるじゃないか」

「でもそこには過去のあなたもいるのですよ」

「・・・」

「たとえ・・・奥さんとお子さんを助けたとしても・・・それはあなたの奥さんやお子さんではないのです」

「しかし・・・二人の死はなかったことにできるだろう」

「なかったことになんてできませんよ・・・人間は必ず死ぬのですから・・・もしもあなたが二人より長生きしたら・・・もう一度・・・それを味わうことになるのです」

「・・・」

「つらい思いを二度するだけです」

「そんなこと・・・」

「未来から来た人間は現代では誰でもないのです・・・そんな人間が生きていくために何をするか・・・わかるでしょう」

「・・・」

「そういう人たちを生みだしてはいけない」

「俺はやめない・・・世の中にはわかっちゃいるけどやめられない人間がいるんだよ・・・お嬢ちゃん・・・たとえ広島や長崎で何万人死のうが・・・原子爆弾を作った奴がいたように」

「どうしても・・・」

「じゃあ・・・俺を殺すか・・・そうじゃなきゃ何も変わらんぞ・・・そこをどけ」

「あ」

牟田に突き飛ばされ・・・バランスを崩した薫は屋上から飛び出した。

間一髪、その手を課長が掴む。

「待ってろ・・・今・・・引き上げる」

課長は自分でも信じられない力を発揮した・・・。

薫を屋上に引き上げたのである。

「すごい・・・」

「波留・・・大きくなったな・・・」

「パパ・・・」

「話してくれないか・・・今までのこと・・・」

「2014年・・・大きな列車事故があって・・・パパは本当は死にました・・・私は六歳だった・・・ママは女手一つで私を育ててくれましたが・・・2032年・・・私が二十四歳になった時に病死します。私を育てた無理が祟ったのです・・・私は哀しくて・・・闇でタイムマシンを買ったのです」

「事故・・・あの時か・・・」

「踏み切りで立ち往生していた車の運転手は逃げ出していたのです・・・だから私が踏み切りの緊急停止ボタンを押しました・・・列車は停止して・・・事故は起きなかったけれど・・・パパは乗り換えた地下鉄で痴漢をした犯人に・・・」

「あれは・・・本当に冤罪だったんだ」

「せっかく助けたのに・・・結局・・・パパとママは・・・」

「・・・」

「パパの命を助けても・・・結局・・・現代の波留ちゃんも親子三人で暮らしていない」

「ドジで・・・すまん」

「でも・・・生きてさえいれば・・・また一緒に暮らせるかもとも思いました・・・けれど・・・この仕事をしているパパ・・・課長は・・・危険な目に遭ってばかりで・・・いつまた命を落すか・・・お母さんも結局・・・私を一人で育てて・・・このままだと同じ未来が・・・私のしたことはすべて無駄なのかもしれない・・・その上・・・課長がまた死んだらと思うと・・・怖くて」

「この一年半・・・どうだった」

「え」

「俺は・・・お前が娘だなんて・・・夢にも思わなかったが・・・なんだか楽しかった。結局・・・仕事人間だけれど・・・絶望を抱えた未来人と接するうちに・・・自分が見逃していたいろいろなことに気がついたような気がした。三年前に死んでいたら・・・こんな気持ちにはなれなかったし・・・大人になったお前を見ることもなかったよ・・・だから・・・来てくれてありがとう」

「パパ・・・」

「未来人は過去を改変する・・・しかし・・・現代人にとってそれもまた歴史の一部なんじゃないのかな。もし・・・列車事故で死ななかったとしても・・・痴漢騒ぎに巻き込まれなかったとしても・・・家族を二の次にしていた俺は・・・結局、紗栄子に愛想尽かされて・・・波留に寂しい思いをさせたかもしれない・・・そう思えるようになったのは・・・大人になった波留・・・那須野薫という部下がいてくれたおかげだと思うんだ・・・」

「課長・・・」

「那須野薫は・・・俺のもう一人の娘だ・・・自分の娘がこんなに側にいて気が付けないダメ親父だが・・・これからは・・・もう少しマシな父親になるように努力するよ・・・娘が二人いる父親なんてザラにいるんだから・・・」

「お父さん・・・」

「そのブレスレット・・・」

「これ・・・事故の時に遺品として贈られてきたんです」

「同じのあるよ・・・」

課長は助手席のダッシュボードを開いた。

「え・・・六歳の誕生日プレゼントなのに・・・」

「だって・・・ほら・・・あれから・・・痴漢に間違われて・・・離婚して・・・面会も許してもらえず・・・渡す暇なかったんだよ・・・」

「今から行きましょう」

「え」

「もう九歳になってるんですよ・・・こっちの私」

「・・・」

「助手席・・・仕えるようになってますね・・・」

「お前が・・・うるさく言うからさ」

薫/波留は微笑んだ。

政務官秘書の大西史子(おのののか)はパウエルに頼まれて「例の本」をシュレッダーにかけていた。

「よく決心してくれたわね」

「国益に反するかもしれませんが・・・正義のためには仕方ありません」

「自分の信じるところに従うことは大切なことよ」

「私・・・こっそりとこういうことをするのが嫌いじゃないみたいです」

「のののののののの」

薫は戸籍管理下に復帰した。

政務官はニヤニヤ笑いながらそれを認める。

清濁併せのむのが政治家なのである。

オバケとなったマッド・サイエンティスト牟田が到着したのは・・・2017年だった。

どうやら未来人着地点予測技術が短期間で改良されたらしい。

牟田の目の前に課長と薫が立っている。

「牟田さん・・・」

「君たちは・・・」

「戸籍管理課のものです」

「戸籍管理課って・・・」

「失敗でしたね・・・」

「え」

「ここ・・・2017年ですよ」

「そんな・・・2000年じゃないのか」

「誰にでもやり直したいつらい過去はありますよね。でもそれは乗り越えなければ駄目なんです。人生にリテイクはない。人はやり直せない今を全力で生きるからこそ輝く・・・」

「ふふふ・・・甘いな・・・これは試し跳びだよ」

「え」

「私は・・・必ず・・・事故を阻止するよ・・・」

「牟田さん・・・」

「もう会うことはないだろう・・・時間線は変更されてしまうから・・・」

「・・・」

「お嬢ちゃん・・・君に会えてよかった・・・おかげでタイムマシンが完成したからね」

「そんな・・・」

「さらば・・・いざ出発だ・・・まだ見ぬ過去へ・・・」

牟田は改良されたタイムマシンで過去へと去って行った。

過去は改変され・・・誰もが気付かないまま一つの世界が消失した。

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2017年2月 2日 (木)

女の操を捨てよ、義の褥へ参ろう(武井咲)

寺山修司かっ。

さて・・・「精霊の守り人」の日であるが・・・「忠臣蔵の恋」と「リテイク」の二本立てが辛いので今週は分割でレビューすることにいたしました。

そのため・・・来週は「精霊」が二話・三話合併号です。

結局、二本立てなのか・・・。

別ドラマの二本立てよりマシな気がして・・・。

体力の問題だな。

体力の問題です。

とにかく・・・今週で「リテイク」が終わるから。

まあ・・・「忠臣蔵」も凄い展開になってるからな。

ある意味、ファンタジーだよ。

妄想もここまでくれば天晴な感じがするよ。

そもそも・・・歴史とは妄想だからな。

しかし・・・勝田元哲の子・勝田善左衛門泰賀の妻が浅野内匠頭長矩家に仕えていたという資料があったりするので驚愕するのだよな。

つまり・・・つま(宮崎香蓮)は歴史的に実在の人物だったと言えるのだなあ・・・。

で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第16回』(NHK総合201701281810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・伊勢田雅也を見た。歴史的な整合性はともかく女のドラマとしてもかなりアクロバットな展開である。儒教的な道徳観では二夫にまみえず・・・ということで磯貝十郎左衛門(福士誠治)に操を捧げた磯貝十郎左衛門(福士誠治)が甲府宰相・徳川綱豊(平山浩行)の側室になったのでは貞女とは言えないわけである。しかし、徳川幕府の三代将軍・家光の母である崇源院(江)は徳川秀忠の正室となる前に佐治一成、豊臣秀勝と二度も婚姻している。三度目の婚姻で将軍の母となったのである。織田信長の姪という血筋によるところも大きいが・・・とにかくそれを不貞とは呼ばないわけである。一方で命を賭けた恋をした女として・・・そうなってしまっていいのかという心情の問題がある。これは恋した男が「生きよ」と言ったので仕方なかったという流れになっている。とにかく・・・このドラマでは「誰の子供を身ごもるか」という選択権はヒロインには与えられているということなのである。しかし・・・「死ぬか・・・玉の輿に乗るか」という選択肢しか与えられていないことは言うまでもない。それは・・・かなり面白いことになります。

Chukoi001 元号が宝永に改まるのは元禄十七年(1704年)三月十三日のことである。きよは喜世と名を改め、甲府宰相桜田御殿に仕えることになる。甲府徳川家二十五万石は第四代将軍・家綱の弟で第五代将軍・綱吉の兄である徳川綱重から始る。延宝六年(1678年)に綱重が死去し二代藩主となったのが綱豊である。綱豊は綱吉の甥ということになる。甲府徳川家には下屋敷として御浜御殿があり、これが現在の浜離宮である。一方、現在の桜田門から日比谷公園周辺に上屋敷がありここに付随して桜田御殿があった。ドラマでは正室が上屋敷の奥にあり・・・喜世は桜田御殿の奥に仕えるという設定になっているが・・・要するに奥御殿ということである。歴史上の喜世は最初、但馬国豊岡藩主・京極甲斐守高住の屋敷に奉公し、次に出羽国新庄藩主・戸沢上総介正誠の屋敷へ仕えた後で大御番・矢島治大夫の養女として桜田御殿に入ったと言われる。赤穂浅野藩とは無縁だが・・・安芸広島藩の二代藩主・浅野光晟の娘・市は正誠の正室である。全く無関係ではないのである。浅野家再興の願いを秘め・・・次期将軍候補の一人である甲府宰相綱豊に女中奉公する気の喜世だったが・・・周囲の思惑はそうではなかった。

喜世が桜田御殿に召されたのは・・・世にも希な美貌だったからである。

侍女頭の唐澤(福井裕子)は喜世の指南役を江島(清水美沙)とする。

浅野家とは格式が違う甲府徳川家での行儀作法が喜世を戸惑わせるのだった。

喜世は立ち振る舞いを厳しく躾けられ、相応しい教養を身につけるために「伊勢物語」などの古典を読み、筆写し、朗読し、暗誦することを求められる。

「甲府徳川家の御殿様に仕えるものとしての恥をかかぬように・・・教養を血肉にするのです」

江島の指導は厳しいものだった。

そんなある日、猫と戯れる古牟(内藤理沙)と知り合う喜世。

「江島様はお厳しいお方でございましょう」

「・・・」

「しかし・・・殿様はとても御優しいお方なのですよ」

「さようでございますか」

「ここはまだよろしいのですよ・・・御正室のおられる上屋敷の奥では何もかも京風とか・・・なにしろ奥方様の母上様は常子内親王様であらせられます」

「・・・」

何もかもが・・・しがない庵の住職の娘である喜世には想像を絶するのである。

「奥方様は・・・豊姫様、夢月院様と二人の御子に先立たれ・・・はや齢三十九・・・近頃はご自分の上臈御年寄である須免様を側室に奨めておられるとか・・・」

「側室・・・」

「それに比べたら・・・こちらの奥は気楽なものですよ」

屈託のない様子の古牟の話に微笑む喜世だった。

しかし・・・初めて姿を見せた徳川綱豊は喜世に声をかける。

「面を上げよ」

「喜世殿・・・そなたのことじゃ」

驚きながら喜世は綱豊を仰ぎ見る。

綱豊は喜世の容姿を確かめたのである。

「喜世殿・・・今宵・・・殿の褥を御勤めせよ」

唐澤の言葉に耳を疑う喜世。

「案ずるな・・・江島にすべてまかせればよい」

喜世はたちまち・・・江島によって磨きをかけられる。

「殿のお声がかかったのは・・・身に余る名誉と心得よ」

気がつけば寝間に残される喜世である。

自分が殿様の夜伽を務めることになるとは夢にも思っていなかった喜世。

しかし・・・もはや逃れる場所はないのである。

ここは・・・桜田御殿なのである。

隣の間では江島が控えている。

(十郎左衛門様・・・)

思わぬ成り行きに言葉を失う喜世だった。

やがて・・・寝間に綱豊が現れる。

身を横たえた喜世に綱豊が触れた瞬間・・・喜世は身を起こした。

「お許しくださいませ」

「初めてか・・・」

「御無礼とは思いますが・・・初めてお会いしたお方と・・・このようなことはできませぬ」

「・・・よい・・・さがれ」

成り行きにのけぞる江島だった。

「自分のしたことがわかっておいでか」

「申しわけございませぬ」

「その場で手打ちにならなかったことが不思議なくらいじゃ・・・」

「・・・」

「このような不始末・・・前代未聞じや・・・喜世殿・・・御覚悟なされよ」

「・・・」

「妾もただでは済まぬだろう」

喜世は・・・自分が操を守ったことで・・・周囲のものに災いがおよぶことに思いいたる。

死か・・・さもなくば夜伽だったのである。

喜世は唇を噛みしめた。

翌日・・・綱豊は側近の間部詮房を呼び出した。

顔を見せぬアングルが工夫されているが・・・配役は福士誠治である。

思わず一同爆笑せざるをえないが・・・この世界の間部詮房は・・・礒貝十郎左衛門のそっくりさんなのであった。

「そちにたずねたきことがある」

「なんなりと」

「喜世のことじゃ・・・」

喜世の桜田屋敷入りには間部詮房も一枚噛んでいるらしい・・・。

桜田御殿の奥は侍女たちの噂話で喧しい。

「殿の夜伽をこばむとは・・・」

「なんという粗相でございましょう・・・」

「御番をなさった江島様もただではすみますまい・・・」

喜世はいたたまれない思いで御沙汰を待つ。

江島が喜世を呼び出す。

「喜世殿・・・殿が今宵もそなたをお呼びじゃ・・・」

「は・・・?」

「殿はそなたを気に入られたご様子」

「え・・・?」

「覚悟はいかがじゃ・・・」

「お申しつけに従います」

喜世は覚悟を決めた。

生きていくと決めた以上・・・運命に従う他はないのである。

しかし・・・綱豊は喜世に触れてはこなかった。

「親は健在か」

「母は幼き頃に・・・亡くなりました」

「そうか・・・」

「しかし・・・父が大切に育ててくれました」

「私の父は厳しいお方だった・・・文武両道を疎かにしてはならぬと・・・」

「・・・」

「しかし・・・私は・・・学問の方が性に合っていたらしく・・・武の方は怠りがちであった・・・」

「まあ・・・」

綱豊はただ・・・喜世と話すだけの夜を重ねた。

喜世は江島に呼び出された。

「殿は苦労多きお方であらせられる」

「・・・」

「先代の綱重さまは・・・御弟であったがゆえに・・・将軍の座に御兄がついた。綱重様は次期将軍とされながら身罷られ・・・将軍の座には御弟がつかれた。綱豊様は・・・世が世なら文句なくご世子様であったのじや・・・」

「・・・」

「今・・・次期将軍の候補となった綱豊様であるが・・・お子が次々と早世なされ・・・お世継ぎにめぐまれぬ」

「・・・」

「喜世・・・わかるか・・・」

「畏まりました」

喜世は自分が求められているものの重さを悟ったのである。

寝間に綱豊が現れた。

「御殿様・・・お願いがございます」

「申して見よ」

「私を・・・お抱きくださいませ」

「よし」

喜世は綱豊に身体を開いた。

仙桂尼(三田佳子)の言葉が蘇る。

「何もかも忘れ・・・新しき殿に・・・身も心もお仕えなされよ」

喜世は綱豊の精を受けとめた。

二人は身体を休めた。

「これまでに・・・心にかかるものはあったのか」

「もう・・・亡うなりました・・・」

「さようか・・・」

綱豊は喜世の頬を撫でた。

次の間で江島は胸をなでおろす。

喜世は御殿の廊下で・・・唐澤と江島の声を聞く。

「そうか・・・ついに殿に身をまかせたか」

「はい・・・」

「はじめからめかけとして送りこまれた分際で・・・手をかけさせおって」

「なかなかの暴れ馬でございました」

喜世は悟った。

桜田御殿に喜世を送り込んだものたちの・・・心の内を・・・。

すべては・・・喜世を甲府宰相の側室に仕立てるためだったのだ。

茫然とする喜世の耳に猫の声が届く。

そして・・・古牟の声がした。

「猫や・・・お殿様は・・・すっかり・・・古牟をお見限りじゃ・・・喜世殿が来る前はあれほど可愛がってくださったのに・・・猫や・・・お殿様に伝えておくれ・・・どうか古牟を夜伽にお呼びくださるように・・・古牟なら御殿様のために・・・立派なお世継ぎを生んでみせようぞ・・・と」

喜世は耳を疑う。

ここは・・・喜世にとって・・・想像を絶するワンダーランドなのである。

是非もなく女は子を生む道具であった。

それがさだめだったのである。

藩主のお手付きになった喜世にそのような外出が許されるかどうかはともかく・・・泉岳寺にやってくる喜世である。

「十郎左衛門様・・・きよをお許しくだされませ・・・」

きよは・・・運命に身を委ねたわが身の不貞をわびた・・・。

「きよ殿・・・」

振り向いた喜世は驚愕する。

それは・・・磯貝十郎左衛門の亡霊・・・さもなくば瓜二つの間部詮房なのである。

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2017年2月 1日 (水)

泣いてご飯を食べる超能力少女とロッカーに安置された骨壷二つ(満島ひかり)

気がつけば2017年も二月である。

月は刺さりそうなほどに細い。

長身の暗殺者に切り刻まれて殺される夢を見て命乞いをしながら目をさます。

自分が「死」を惧れていることに驚く今日この頃である。

人間って面白いなあ・・・。

わたしたちの教科書」からほぼ10年である。

胸が痛くなる境遇の人々を描き続けて傑作に仕上げてきた脚本家の円熟を感じさせる本作と言えるだろう。

熟れた果実のように芳香を漂わせている。

その香りを嗅ぎながら・・・なんだか潮時も感じるのだなあ。

いや・・・脚本家のことではなくて・・・キッドのレビューの話である。

ドラマを楽しんで・・・その記憶をなぞる・・・このレビュー・・・。

それも・・・そろそろ・・・店じまいなのかもしれない。

だって・・・きりがないものなあ。

人は確固たる思いが揺らぐものだから・・・。

もちろん・・・そういいつつ・・・新しいドラマが始れば・・・また書いてしまうかもしれないわけだが。

で、『カルテット・第3回』(TBSテレビ20170131PM10~)脚本・坂元裕二、演出・金子文紀を見た。カルテット・ドーナツホールは夫が失踪中の第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)、世界的指揮者を祖父に持つ第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)、美容院でバイトリーダーを勤めるヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、巻氏の失踪の謎を探るチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)からなる弦楽四重奏団である。

彼らは軽井沢にある別府家の別荘で合宿生活を送るのだった。

千葉市立青葉病院では一人の手品師が生涯を終えようとしていた・・・。

すずめの父親である綿来欧太郎(高橋源一郎)である。

欧太郎の世話をしているのは岩瀬寛子(中村優子)だが・・・欧太郎との続柄は明らかではない。

中村優子の実年齢が42歳、高橋源一郎が66歳である。

兄妹としては年齢差が大きすぎるので欧太郎の姉妹が寛子の母なのであろう。

つまり、欧太郎は寛子にとっておそらく叔父である。

そして・・・病床の欧太郎が見せるトランプを使った手品に目を輝かせる高校生らしき年頃の岩瀬純(前田旺志郎)は寛子の子供なのだろう。

「あいつ・・・いつ来るかなあ」

「そうねえ」

欧太郎とすずめの父娘関係についての事情をある程度は知っているらしく寛子は言葉を濁す。

父娘の離別は二十年以上前の出来事である。

「叔父さんは娘に会いたいの?」

純にとって欧太郎は大叔父にあたる。

寛子とすずめは従姉妹なので・・・すずめは純にとっていとこおばである。

そういう続柄は高校生にはどうでもいいことだ。

純は寛子に問う。

「どうして会いにこないのかなあ・・・」

「二十年以上会ってないそうだから」

「なんで・・・親子が別れてくらしているの」

「すずめちゃんのお母さんは早くに亡くなっているの・・・叔父さんは・・・大事件を起こして逮捕されちゃったから」

「逮捕?・・・あの人、犯罪者なの・・・」

八歳の頃の綿来すずめ(太田しずく)は「超能力少女」として一世を風靡していた。

もちろん・・・父親仕込みのトリックによるものである。

満島ひかりの実年齢31歳から察するにそれは1994年頃の出来事である。

超能力者すずめはマスメディアでももてはやされたが・・・やがて超能力がトリックによるものであることが発覚し・・・すずめは偽魔法少女としてバッシングを受ける。

娘の超能力を餌に・・・欧太郎は詐欺を行ったのだろう。

超能力の実在を信じて騙される人々はいつの時代にも一定数いるものである。

訴訟が起こされ・・・欧太郎と関係の深かったテレビ関係者が自殺するに至ったのだ。

父親が投獄中に・・・すずめは・・・親戚をたらいまわしにされて育ったという。

純が検索すると・・・動画がヒットする。

「超能力詐欺って・・・すげえな」

ある事件によってTBSテレビが一度死んでいることを知らない世代なのである。

しかも過去の断片はいつでも素晴らしいインターネットの世界を漂っているのだ。

まるで・・・悪霊のように。

岩瀬家もすずめの親戚の一つだったので・・・事件当時、二十歳前後だった寛子は岩瀬家で過ごしたすずめを知っているのだった。

「ある日・・・すずめちゃんは家の蔵でおじいさんのチェロを見つけて・・・それ以来、蔵に籠ってチェロを引き続けていたの・・・」

「チェロ・・・」

すずめが世吹すずめを名乗っているのは・・・綿来すずめだった過去を隠すためだろう。

しかし・・・事情を何も知らず想像力にも恵まれていない高校生の純は・・・父親が会いたがっているのだから娘は会いに来るべきだと感じるのだった。

軽井沢の別荘・・・。

過去の悪夢がまたしても自分を追いかけはじめたことを知らないすずめが目を醒ます。

寝坊していた。

(午後から雪になりそうなので洗濯物は午前中にとりこんでください)

そんなメモも役に立たない昼下がりである。

雪は降る・・・沈む心。

すずめは洗濯物を暖炉で乾かすことにした。

しかし・・・ヤモリのパンツが炎の中に転がり落ちる。

仕方なく・・・すずめはパンツを灰にして証拠隠滅を図る。

そこへ・・・ライブレストラン「ノクターン」からの米の差し入れにやってくる元地下アイドルのアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)・・・。

笑わない目で微笑みかけるアリス。

「せっかくのおやすみなのにデートとかしないんですか」

「しませんね」

「彼氏を作らないんですか」

「告白とかが・・・苦手で・・・」

「告白は小学生のすることです・・・中学生以上は誘惑してください」

「誘惑とは」

「誘惑とは人間を捨てること・・・基本は三つ・・・猫になるのか・・・虎になるのか・・・雨に濡れた仔犬になるのか・・・どれにしますか」

「じゃ・・・猫で」

「ごろん・・・ああ・・・つかれちゃった」

アリスは実演を開始し・・・すずめを抱き寄せる。

「キスしてはダメですよ・・・いつキスしてもおかしくない距離を作るのが女の仕事です。ペットボトル一本分の距離を保つのです。女からキスしたら・・・恋は生まれないのです」

獣たちは見つめ合うのだった。

カルテット・ドーナツホールのメンバーが集結し、出発間際である。

「洗濯したはずのパンツが・・・ランジェリーがない」

「別府さんのランジェリー貸してあげたらどうですか」

「ランジェリー貸してって・・・変でしょう」

「途中のコンビニで買ってください」

まきまきが登場するとボーダーが別府とペアルックな感じに。

「特別な関係に見えますよ」

別府が着替えると白いシャツがヤモリとかぶるのだった。

「特別な関係に見えるじゃないですか」

ノクターンでは純がボーダーを着て待っていた。

「ボーダーがかぶっています」

「ボーダーを見かけた次の日が狙い目です」

「すみません・・・棉来すずめさん」

「・・・皆さん・・・先に行ってください」

「あなたのお父さん・・・もうすぐ亡くなります」

「・・・」

「最後に・・・娘に会いたいって・・・」

「・・・」

「僕と一緒に来てください」

「今日は仕事があるので行けません」

「・・・」

純は視線ですずめを咎める。

メンバーたちは・・・すずめの動揺を気遣う・・・。

「今日・・・テンポが・・・あれでしたね」

「遅かったですか」

「いえ・・・速かったです」

まきまきは・・・すずめをそっと見つめる。

ヤモリはアリスを誘うことに成功したらしい。

「でもね・・・パンツがね」

なぜかヒップに「ウルトラソウル」の文字が白抜きされたパンツである。

「競泳用ですか」

「これしかなかったんですよ」

ヤモリの下ネタにまきまきはすずめに微笑みかける。

あわてて笑顔を繕うすずめ。

まきまきは思慮深くすずめを見守るのだった。

別荘に戻ったすずめは風呂上りのアイスクリームを別府におねだりする。

「別府さん・・・明日・・・何かありますか」

「明日・・・そういえば餅つき大会があるそうですよ」

「別府さん・・・行きますか」

「明日は・・・実家に帰らないといけないんです・・・父が何か賞をもらったらしくて」

「すごいですね」

「僕以外はね・・・」

「餅つき大会の方が楽しいんじゃないですか」

「いや・・・家族の祝い事なので・・・帰らないわけにはいかないのです」

「家族・・・だから」

「そういえば・・・すずめちゃんの家族の話はしていませんね」

「家族は・・・岡山県でキビダンゴ作ってます」

もちろん・・・嘘である。

すずめの家族は死にかけているのだ。

そこへ・・・ヤモリが帰ってきて火照る身体を慰める強い酒を求めるのだった。

「ウルトラソウルはなかったんですか」

アリスがヤモリを連れこんだのは・・・実家だった。

アリスは何か恐ろしいものに変身していたらしい。

「本当にあがっていいの~」

「何しにきたんですか」

「へへへ」

背後からあすなろ抱きを決めようとするヤモリ。

「あ・・・そこ・・・おじいちゃん・・・寝ているので」

「え」

明らかに夜逃げした一家の逃亡生活的就寝である。

狭い部屋に・・・アリスの祖父と両親が三人で眠っている。

奥の部屋を開くと・・・そこではアリスの妹(渡辺優奈)が勉強机に向っていた。

すずめの過去が地獄なら・・・アリスの現在も地獄である。

「妹・・・高校受験なんです・・・勉強教えてあげてください」

「はい」

「私・・・明日早いので帰ります」

「はい」

どこかへ帰って行くアリスである。

「あの人は・・・やめた方がいいよ」

「・・・」

「お姉ちゃんの小学生の時の仇名・・・淀君だったの・・・クラスが変わる度にお姉ちゃんのいたクラスだけ学級崩壊しちゃったの・・・お姉ちゃんと付き合ってた人・・・Apple Storeで働いていたのに・・・今は朝からパチンコ屋に並んでいるよ」

・・・ヤモリは今日の出来事を語り終えた。

「何があったんでしょうね」

「目が笑わない人の話ですからね」

「何があってもおかしくないですよね」

「すずめちゃん・・・もう・・・眠ったら」

「大丈夫です・・・」

すずめは一人になりたくなかったらしい。

目が覚めるとまきまきがパソコンを使っていた。

机の上のボイスレコーダーに驚くすずめ。

しかし・・・それはまきまきのものだった。

「在宅で仕事を始めたんです・・・テープ起こしの仕事です」

まきまきはボイスレコーダーを再生する。

「国はたくさんの借金をしています。借金はいつか返さなければなりませんが返す人数がどんどん減っているわけです」

「すずめちゃん」

「はい」

「後で一緒に餅つき大会に行きませんか」

「私・・・今日はちょっと」

すずめは・・・机の下の盗聴用ボイスレコーダーを回収し・・・失踪中のまきまきの夫の母親・巻鏡子(もたいまさこ)と密会するためにいつもの喫茶店に向う。

鏡子は・・・息子がまきまきによって殺されたと信じているのである。

「今月分です」

お金を渡す鏡子。

「私・・・もう・・・こういうのやめようかなって思うんです」

「あなた・・・ロッカーの鍵持ってるんでしょう・・・海の見える場所に移してあげたいんでしょう・・・お金が必要じゃありませんか・・・それにね・・・私はあなたの経歴を見込んで・・・お願いしてるんですよ・・・なんなら・・・これからみなさんに・・・あなたの昔話を聞かせに伺ってもいいんですよ・・・ねえ」

そこへ通りすがりのアリスが現れる。

「すずめちゃんじゃないですか・・・こんにちは」

「あ」

あわてて金を隠すすずめ。

不気味なにこやかさを示すアリス。

「では失礼します・・・さようなら」

去っていくアリス。

「紅茶のおいしい喫茶店ね・・・あなたにとってこれが一番むいている仕事なのよ」

すずめの心は行ったり来たりである。

ノクターンの楽屋に谷村夫妻(富澤たけし・八木亜希子)が現れる。

「知り合いの旅館仲居さんがお金を横領していることが発覚しました」

「・・・」

「まさか・・・皆さんの中に犯罪者はいませんよねえ」

一同は家森を見つめるのだった。

「なんで僕?」

ちょっとした世間話にも動揺するすずめをまきまきは見逃さない。

「天気予報」の言葉遊びなどで和やかな湯豆腐の夕餉。

しかし・・・カルテット宛てのメールに動画が添付されている。

「なんだこれ・・・超能力少女って・・・スパムかな」

「やばい奴じゃないの」

「ウイルスとか」

「課金とか」

「急いで削除して」

思わず張りすぎたチェロの弦を切るすずめだった・・・。

すずめは・・・アリスの伝授した技にチャレンジしてみた。

別府のベッドに潜り込んで猫になったのである。

しかし・・・別府の反応は鈍い。

「あ、Wi-Fi繋がらないんですか?」

ペットボトル一本分の距離。

「あ、部屋に虫的なものが?」

ペットボトル一本分の距離。

「あ、お腹空いているんですね・・・ドーナツありますよ」

ペットボトル一本分の距離を縮めない別府である。

「ごめんなさい・・・こんなことするつもりじゃなかったんです」

「ドーナツ・・・どうぞ」

「いただきます」

「Wi-Fi繋がらないか・・・」

すずめを残し別府は去った。

翌日・・・すずめは別荘から姿を消した。

「何か変わったことはありませんでしたか」

「Wi-Fiが・・・」

「とにかく・・・私は一日別荘にいます・・・すずめちゃんが帰ってきたらお知らせしますから」

「・・・」

まきまきは・・・すずめに何かが起こっていることを察知していた。

すずめは病院に向っていた。

しかし・・・病院前の停留所で下りることができなかった。

財布の中身は心細い。

例のお金に手をつけることができないのだった。

公園でチェロを弾き小銭を稼ごうとするが警官に咎められる。

すずめはなけなしの五百円で花屋で花束を作ってもらった。

ロッカー式納骨堂にやってくるすずめ。

亡き母の骨壷に幼い子供のように挨拶をするのだった。

超魂がそこにあるのかい。

お腹がすいたすずめはドーナツを食べた。

地獄はいつまでもいつまでも続いて行く。

まきまきは病院からの電話をとった。

カルテットのワゴンで軽井沢から千葉へゴー!である。

すずめの父親は虫の息だった。

「一度・・・息を引き取ったんですが・・・また・・・戻って来たんですよ・・・すずめちゃんに会いたいのかもねえ」

寛子はつぶやく。

すずめの父親はまきまきと目を合わせた。

(ごめんなさい・・・人違いです)

すずめの父親は地獄に堕ちた。

純は・・・まきまきに話しかける。

どうしても・・・自分の知っていることを伝えたい年頃である。

おなじみの「超能力少女すずめの動画」である。

「なんだか・・・大変だったみたいです」

「・・・」

「検索してたら・・・こんなのも見つけました」

ブログ「OL辞めてロンドンで暮らしています」は声・安藤サクラで届けられる。

「OLだった頃・・・つばめちゃんという同僚がいた。よく笑う子だったけれど・・・自分の話は絶対にしない変な子だった。ある日・・・誰かがその子の名前で検索をしてみると・・・みんなが子供の頃を思い出した。つばめちゃんはあの超能力少女だったのだ。たくさんの人を不幸にしたという詐欺事件の張本人が同じ会社にいたのだった。誰が始めたのかはわからないけれど・・・つばめちゃんの机の上に出ていけというメモが置かれ始めた。つばめちゃんはそれでもよく笑う子だったけれど・・・ある日・・・会社を辞めた。机の中が出ていけメモでいっぱいになってしまったからだ・・・つばめちゃん・・・今はどこにいるのでしょう。今もよく笑うのでしょうか」

「これって・・・すずめちゃんのことですよね」

「目上の人をちゃん付けでは呼ばない方がいいですよ」

まきまきはいたたまれない気持ちで外の空気を吸う。

そして病院前を漂うすずめを発見するのだった。

すずめは逃げた。

まきまきは追いかけた。

「お腹がすきませんか」

まきまきは定食屋にすずめを誘った。

二人はカツ丼を注文した。

店には「稲川淳二の深夜の浴場」が流れている。

「食べたら・・・病院に戻りますか」

「稲川淳二さんですよね・・・これ」

「すずめちやん」

「まきさん・・・こわい話は好きですか」

「すずめちゃん」

「真夜中に温泉とか」

「すずめちゃん・・・お父さん・・・さっき亡くなられました」

「ホーンテッドマンションなら」

「すずめちゃん」

「・・・ごめんなさい・・・なんか・・・聞きましたか・・・昔のこととか」

「・・・」

「昔・・・父がお世話になった人が大怪我して入院したことがあったんです・・・でも父は絶対に見舞いに行かなかった・・・病院に行って風邪をうつされたら嫌だって・・・父が基礎工事を請け負ったビルがあったんです・・・ビルが八割方出来あがったところで・・・基礎工事に問題があることが発覚しました・・・一からやり直しになって倒産する会社とかあったのに・・・その日・・・父はラーメン屋でスープが温いってクレームつけて作り直させたんですよ・・・ひどいですよね」

すずめはビールのポスターの水着美人に語りかける。

「こわいな・・・こわいな・・・なんだろう・・・身体がどうにも動かない・・・やだなやだな・・・どうしよう」

「私の父は稲川淳二の怪談より恐ろしい人でした」

そこへカツ丼がやってくる。

「食べ終わったら・・・病院に行きますね・・・怒られちゃうかな・・・ダメかな・・・家族だから・・・行かなきゃダメかな」

まきまきは割りばしを差し出した。

受け取ろうとするすずめの手をまきまきは握った。

「すずめちゃん・・・カツ丼食べたら軽井沢へ帰ろう」

「でも」

「いいよ・・・病院に行かなくていいよ」

「でも・・・父親が死んだのに」

「いいの」

「・・・知られたら・・・カルテット辞めなきゃいけないのかなって・・・」

「そんなことはない」

「怖かった・・・みんなから離れたくなかったから」

「私たちみんなでトイレの芳香剤みたいなシャンプーを使ってるじゃないですか・・・家族じゃないけど洗濯物まとめて洗濯してるじゃないですか」

二人はカツ丼を食べた。

「美味しい・・・」

「泣きながらご飯を食べたら・・・人は生きていけます」

軽井沢へ向かう車の中で蔵の中のチェロの話を始めるすずめ。

「蔵の中でおじいさんにチェロを教えてもらったんです。おじいさんはチェロはおじいさんより年上なんだって言いました。そして私が年をとっても死んでもまだ生きていくって。チェロは凄く長生きなんだって。私は思ったんです。私より長生きなら・・・私は死ぬまでチェロと一緒なんだって。ずっとずっと一緒なんだって」

「それって・・・まさか・・・怖い話じゃないよね」

「私・・・まだ・・・まきさんに隠していることが」

「あら・・・」

まきまきは前方に注意を奪われていた。

別府の別荘はイルミネーションで飾られていた。

餅つき大会はあるし、すずめは赤、まきまきは緑のクリスマスカラーだし・・・軽井沢はまだ年末なのか・・・。

二人を出迎えようとして別府は脚立から転げ落ちた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

すずめは別府に手を差し伸べる。

そしてキスをした。

すずめは虎になったらしい。

「Wi-Fi、繋がりました~」

「ノクターン」のステージ・・・。

「無伴奏チェロ組曲/J・S・バッハ」を弾きかけたすずめは思いなおして「無伴奏チェロのための組曲/ガスパール・カサド」を奏でる。

ウルトラソウルを鎮めるレクイエムのように・・・すずめは忌まわしい過去と訣別するのだった。

祝福を求めるならば自分で扉を開くしかないのである。

プレイヤーは今という瞬間の音を楽しむしかないのだ。

すずめはロッカーのキーを二つ持つことになった。

「すずめちゃん・・・金庫もってるんですか」

「金庫の中身はキビダンゴです」

家森は例によって怪しい男(Mummy-D)にキャッチされる。

いよいよ・・・本性を現す男は・・・家森を簀巻きにして階段をゴロゴロさせる勢いである。

「このお姉さん・・・どこにいるのかなあ」

「この人に愛情ないし・・・知らないですよ」

「転がしちゃおうかなぁ」

「や・・・やめて」

男の差し出す写真に写っているのは高橋メアリージュンにそっくりな女である。

・・・本人だろう・・・。

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