酒と不倫とお金と家族(本田翼)
どこからどこまでが夢でどこからどこまでが現実なのか。
それもまた奇妙な味わいの一品といえるだろう。
どこか物さぴしいトーンを醸しだすこの作品なのだが・・・今回は一つの到達点と言えるだろう。
冒頭・・・スカイダイビングをする男のパラシュートは開かない。
墜落による「死」をお茶の間で目撃した人間は多いだろう。
虚構でありながらそれは現実に通じている。
スーパーヒーローが登場することで回避される死・・・そこからお茶の間の人々はアンバランスゾーンに導かれていく。
幼い頃から虚構の登場人物に恋をしてきたものにとって・・・失恋は日常茶飯事だ。
それがハッピーエンドであれば・・・現実に棲むものは失恋するしかないわけである。
長じて・・・実在するアイドルたちと日常で顔をあわせるようになっても・・・架空の恋は生れては終わる。
今はただ・・・彼女たちがそれなりに幸せであることを祈るばかりの日々だが・・・それもまた無意味なのである。
意味などなくても人は生きていけるのだ。
これはそういう話。
で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第5回』(日本テレビ20170211PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。「勇者ヨシヒコと導かれし七人」ではキジだったので飛ぼうと思えば飛べる男(若葉竜也)だが・・・スカイダイビング中にパラシュートが開かず絶体絶命である。そうなる可能性がないわけではないのにスカイダイビングをするなんてバカだとしか思えないが何度かそういう企画を発案したり台本を書いたりしてタレントにやらせている以上・・・自分が悪魔だと思うしかないわけである。
スーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)が登場し・・・「どうしましたか?」と問う。
「あんた・・・飛んでるの?」
「そこ・・・気になりますか」
「だって・・・」
「今・・・パラシュート開きますね」
「いや・・・別に普通に助けてもらってもいいのですが」
「でも・・・せっかくだから・・・パラシュートで降りた方が楽しいでしょう」
「そんなことしている間に墜落します」
「・・・おかしいな・・・不良品かな」
「ひええええええええええええ」
パラシュートは開かなかったが無事着地する男・・・左江内氏が去ると忘却光線ですべてを忘れる。
奇跡の誕生である。
一種の神秘体験であり・・・男が怪しい宗教にのめりこむ可能性が生じるがそれはまた別の話だ。
左江内氏が人命救助を終えて帰宅すると妻の円子(小泉今日子)の機嫌が悪い。
「洗い物の途中でどこいってたの・・・」
「トイレに・・・」
「長い・・・待たされて料理する気がなくなっちゃった」
「えええ」
「ママのシチューが食べたかったなあ」と公立骨川小学校に通うもや夫(横山歩)・・・。
「なんでもいいから・・・早く作って」と都立源高校に通うはね子(島崎遥香)・・・。
「じゃあ・・・今夜はしゃぶしゃぶにしよう」
「手抜きだね・・・そんなのお湯わかすだけで料理とは言えないね」と円子。
「そんなあ・・・」と左江内氏。
いつもの左江内家の夕べである。
その夜・・・円子は「芸能人の不倫」について語る。
「軽いんだよねえ・・・肉を食べさせてもらったらすぐ不倫なんて」
「そんなものかな」
「あなた・・・不倫なんてしてないでしょうね」
「おこずかい的に無理でしょう・・・肉を食べさせられない」
「お金があったら不倫するんだ」
「しないしない」
「不倫なんかしたらぶっ殺すよ」
「・・・」
かわいいが恐ろしい妻だった。
フジコ建設営業第三課・・・。
簑島課長(高橋克実)に酒に誘われる左江内氏。
「今日はちょっと懐がさびしくて・・・」
「俺が奢りまんがな」
部下の蒲田(早見あかり)と下山(富山えり子)が口を挟む。
「課長が関西弁を使う時は嘘ですよ」
「この前も奢りまんがなと言いながら割り勘でした」
「そんなことはないけん・・・今日は奢るけえのお」
お調子者の池杉(賀来賢人)が反応する。
「広島弁の時は本当に奢ってくれます」
「ボルケーノは火山じゃけーのー」
なぜか・・・ビジネスホテルでさしむかう左江内氏と課長。
「なぜ・・・ここで」
「二人きりになるにはここしかなかった」
「そんな・・・倫理的に」
「倫理的にダメだよな」
「課長がまさかそう言うあれだったとは・・・」
「好きだったのかな」
「ありがとうございます」
課長に迫られて肛門が引き締まる思いの左江内氏。
しかし・・・。
「なんとかしないと・・・俺、やっていないんだよ・・・無罪なんだよ」
「課長・・・犯罪を?」
「総務課の藤崎、いるだろう?」
「ああ」
「仲良しだろう・・・」
「総務課時代の後輩ですけど・・・」
「君はああいうモデル体型より小さい子が好きなんだろうけど・・・綺麗じゃん」
「そうですね」
総務課の藤崎(本田翼)と酒を飲み・・・記憶を失くし・・・気がつくとビジネスホテルのベッドで目を醒ました課長・・・。
残されたメモには・・・。
《奢ってくださりありがとうございました・・・また誘ってくださいね》
「どう・・・思う」
「そういうことじゃないですか」
「それからメールで彼女がお金を請求して来るんだよ・・・奥さんにバレたくなかったらって」
「・・・」
「なんとかしてくれよ・・・彼女と仲良しさんだろう」
仕方なく・・・総務課で藤崎を呼び出す左江内氏。
いわゆるひとつの小悪魔的に魅力を醸しだす藤崎である。
「うれしいな・・・藤崎さんに呼び出されるなんて」
「今晩・・・一杯飲まないか・・・割り勘で」
「いいですよ」
居酒屋である。
すでに足の組み方が淫靡な藤崎・・・。
「すまないね・・・誘っておいて・・・割り勘で」
「左江内さんちの家庭の事情を知ってますから」
「課長の件なんだけど」
「話したんだ・・・ひどい」
「どうして」
「私・・・押しに弱くて」
「ハゲなのに」
「ええ」
「しかし・・・お金を要求するなんて」
「それは・・・内緒にしてくれって言うからムカついて」
「じゃあ・・・本気じゃないんだ」
「もらっておきましたよ・・・五十万円」
「えええ」
「でも・・・今度は結婚できる人とお付き合いします」
「じゃ・・・一件落着ということで・・・飲もうか・・・割り勘だけど」
ビジネスホテルのベッドで目を醒ました左江内氏・・・。
残されたメモには・・・。
《割り勘だけどうれしかった・・・ホテル代も払っておきますからご安心を》
罪悪感に満たされて帰宅する左江内氏。
素晴らしいインターネットの世界でショッピング中の円子だった。
「なにしてんの」
「ジャングルで買い物してんの」
「ジャングルはアナコンダがいるから気をつけて」
不自然なまでに笑いながら就寝する左江内氏だった。
夢だとはっきりわかる夢である。
この後でも夢オチがあるが・・・そちらはどこからが夢なのかわからない仕掛けになっている。
そのために・・・物語全体の幻想性が高まるのである。
極道の妻となった円子。
「総務課の若いのと浮気しよったじゃろがい」
「ご・・・誤解だ」
しかし・・・藤崎がいかにもやりましたモードて登場する。
「死ねや・・・左江内」
円子にドスで腹部を貫かれる左江内だった。
はね子が極道の娘として背をむける。
「これからはアマゾンの密林でおかんと生きて行くけんの」
もや夫が極道の息子として言い捨てる。
「外道は地獄におちんさい」
三人はジャングルに消えて行く。
「ア・・・アナコンダに気をつけて・・・」
息絶えて目覚める左江内氏だった。
「怖ええええええ」
オフィスで・・・。
「例の商談うまく行ったかな?」
「え・・・まあ」
「よし・・・今日は領収書なんでもこいだ」
課長に群がる課員一同である。
総務課前の廊下で・・・。
雰囲気を醸しだす藤崎・・・。
「居酒屋の後なんだけどさ・・・いろいろあったのかな?」
「はい」
「どうしたらいいのかな」
「どうしたらいいと言われましても」
「内緒にしておいてくれるのかな?」
「はい」
露骨に安堵する左江内氏である。
「今日、飲み行かない?・・・奢るからさ」
「無理しなくていいですよ」
はね子に金を借りるために待ち合わせをする左江内氏・・・。
これはすでに夢なのかもしれない。
いつものクラスメイト・・・さやか(金澤美穂)とサブロー(犬飼貴丈)と現れるはね子。
はね子のサイフは万札でぎっしりである。
「どうして・・・」
「へそくりよ・・・何かあったらと思うと不安なの」
なんとか・・・はね子から三万円を借りる左江内氏である。
はね子が優しすぎるのできっと夢なのだな。
居酒屋ですき焼きを食べる左江内氏と藤崎である。
肉を食べて不倫するという夢なのだ。
「私、お見合い相手と結婚しないといけないんです・・・その前に本当に好きな人にアタックしてみたくなったんです」
「え・・・それって僕のことなの」
「はい」
「そうだったんだ」
「私のひとときの恋も終わりです。来週には人妻なので」
気がつくと例のベッドの上である。
《最後に素敵な思い出ができました・・・さようなら》
左江内家のチャイムが鳴る。
藤崎がやってきたのだった。
「どなた・・・」
「私、左江内さんとおつきあいさせていただいているものです」
「おつきあい?」
「男と女の関係です」
円子は微笑むと署名捺印済みの離婚届けを左江内氏に渡す。
「署名捺印よろしくね・・・さあ・・・私たちはファミレスに行きましょう」
円子と子供たちは去って行くのだった。
三ヶ月後・・・左江内氏の離婚が社内に知れ渡ると・・・独身の女性社員たちはお弁当をもって左江内氏に群がる。
池杉は激しく身悶える。
「これじゃあ・・・さえないさんじゃなくてさえてるさんだ」
課長はハゲをアピールする。
「俺も離婚さえすれば」
「それはありませんね」と口を揃える女子コンビだった。
もう・・・夢に決まっているな。
家では新婚妻となった藤崎が三つ指ついてお出迎えである。
「お食事になさいますか・・・お風呂になさいますか・・・それとも」
「メシにしよう」
「後でお背中お流ししますね」
夢である。
マスクをした占い師(佐藤二朗)は問いかける。
「女難の相が出ています」
「え」
「若い頃・・・あなたはブランドもので身を固めたCAと恋に落ちた」
「いえ・・・そんなことは」
「あなたは魚屋さん・・・で、カメレオンのおかしな置物をプレゼントした。いかにしたら欧介と桜子は結ばれるか・・・」
「ヤマトナデシコじゃねえか」
屋上で・・・。
「一度目は浮気だと思うんですけど・・・二度目があると本気だと思うんです」
「一度あることは二度ある・・・それは愛じゃない」
「私・・・お見合い相手との結婚やめます・・・左江内さんが離婚してくれるのを待ちます」
「いや・・・ひどい妻だけど・・・離婚はできない」
「ひどい・・・じゃあ・・・百万円」
「え」
「そうじゃないと・・・私・・・左江内さんのこと・・・あきらめられません」
「えええ」
謎の老人(笹野高史)が現れる。
「もててるねえ・・・」
「そんなんじゃないですよ」
「責任を忘れるほどの責任か」
「・・・それは無責任なんじゃ」
そこで助けを求める声。
妻の首つり自殺を止めようとする夫(山田明郷)だった。
「どうしましたか」
「グルメ番組で・・・一度でいいからあんなご馳走食べてみたいって言ったら・・・妻が怒りだして」
「奥さん・・・料理が下手なんですか」
「そりゃあ・・・もう・・・」
「作ってくれるだけで感謝しないと・・・ウチなんか・・・滅多に作ってくれません」
「あらあら」
左江内氏の愚痴に同情して仲直りする老夫婦だった・・・。
「左江内さん、金貸してください」
池杉が左江内氏に無理な申し出をする。
「無理な相談だけど・・・何に使うんだ」
「女が別れてくれなくて・・・総務課の藤崎って子、いるでしょう」
「藤崎・・・」
「手切れ金を要求されてるんです・・・僕には別に本命がいるので・・・百五十万」
「増えてるのか」
「何のことですか」
偶然が三度続いたら必然であるという。
連続美人局事件の発生を疑う左江内氏・・・。
美人局なのか・・・不倫強請なのでは。
そんな言葉は聞いたことないし・・・。
例によって左江内氏はスーパーマンパワーを私的に流用するのだった。
藤崎の監視と追跡である。
藤崎がたどり着いたのは・・・金田ローンという危険な金融組織だった。
「これで完済ですよね」
「残念だったね・・・お嬢ちゃん・・・明日までに百万円だ」
「そんな・・・もう二百万も返済しているのに・・・」
「利息があるからねえ」
「もう無理です」
「なんなら・・・相談にのるよ」
追いつめられて店を出た藤崎をサラリーマンに戻った左江内氏が待ちかまえる。
「左江内さん・・・」
「事情を聞こうか・・・」
藤崎の両親は豆腐屋を経営していた・・・経営難に陥り・・・金を借りたのが悪質な金融組織だったのだ。
「そうか・・・それじゃあ・・・借用書を返してもらってくるよ」
「そんな・・・すごく・・・暴力的な感じの・・・アレですよ」
「大丈夫・・・暴力には慣れている」
スーパーマンに変身して金田ローンに乗り込む左江内氏である。
「なんだ・・・てめえは・・・」
「悪徳なことはほどほどにしないと・・・ちょっと探させてもらいますよ」
「ふざけるな」
「やっちまえ」
「足腰立たなくしてやるぜ」
足腰立たなくされる悪徳金融一同である。
「あったあった・・・では・・・これは完済ということで」
借用書を破棄する左江内氏。
そこへ・・・かねてから内定していた金田ローンの強制捜査に踏み切る小池刑事(ムロツヨシ)と警察官刈野(中村倫也)・・・。
「あ・・・」
「まさか・・・瞬殺ですか」
「・・・」
「ブルース・リーのドラゴンからの・・・ジャッキー・チェンの酔拳からの・・・武田鉄矢のハンガーヌンチャクからの・・・」
「ありがとうございました」と藤崎。「実は・・・あの夜は・・・何もなかったんです」
「そうだったんだ」
「でも・・・左江内さんのことは本当に好きでした」
「えええええ」
左江内氏が長い夢から覚めると円子が起床していた。
「え・・・朝食作ってくれたの」
「昨日・・・不倫された夢を見た・・・怒りがおさまらなくて・・・」
「・・・」
「だから・・・召し上がれ・・・デスソースたっぷりの激辛トーストを・・・」
タバスコで真っ赤に染まったトースト・・・。
左江内氏の悪夢は続く。
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