過去を顧みるな!未来を恐れるな!という恐ろしいセオリー(成海璃子)
タイムトラベルものとしてはほとんど絶望的なシステムダウンだが・・・人情劇としてはそこそこ仕上がっているこのドラマ。
結局、人生はなるようにしかならないのでなんとなく生きればいいよ・・・ということである
そうだったか?
だって・・・こんなに辻褄があわない話でも・・・それもまた現実だからしょうがないってことでしょう。
っていうか・・・こんなドラマでもオンエアできるっていうのが凄いよな。
お前だって・・・成海璃子が出ていればなんでもいいんだろう。
まあ・・・そうなんだけどな。
この・・・実際・・・しょうもない話を・・・存在感でおしきったヒロイン、天晴だよな。
「黒い十人の女」→「リテイク」と続いた2016年~2017年の成海璃子祭り・・・もう思い残すことはないほどだ。
で、『リテイク 時をかける想い・最終回(全8話)』(フジテレビ201701282340~)脚本・演出・植田尚を見た。2022年にタイムマシンが発明される時空の2017年である。もう少し、準備と予算をかけられたら素晴らしい傑作に仕上がった気がするがもう終わってしまったから何を言っても虚しいのである。もちろん・・・タイムマシンシステムという架空のテクノロジーが人類の共通認識下にない以上・・・どんな話でもOKなのだ。どんな矛盾も時が解決するからである。あえて説明がないのはお茶の間に想像の余地を残す行間なのだろう。
2011年の東日本大震災の記憶が生々しい現在・・・今やどうなっているのかわからない原発の格納容器の下。人間を30秒で殺す毒を撒き散らしながら核燃料は今、どこにあるのか。原発関係者はみな・・・タイムマシンが欲しいよねえ。できたら・・・リテイクしたいよねえ。
「先ほど起きました大和第一銀行強盗殺人事件の続報です。店内で男性を刺殺し現金およそ八千万円を奪い今も逃走中の犯人を名乗るグループがインターネット上に犯行声明文を公開しました。それによれば犯人グループは昨年逮捕され収監中の人物の即時釈放を要求しており・・・」
「犯人はなぜ・・・テレビ局を占拠しようとするのだ」
「生放送中のスタジオを乗っ取ってメッセージを伝えようとするのだと思います」
「それも・・・坪井さんが言ってたのか?」
「・・・はい」
一体・・・那須野薫(成海璃子)はいつ・・・坪井と話したのだろう。
戸籍監理課の課長・新谷真治(筒井道隆)はお茶の間とともに懐疑する。
しかし・・・二人を乗せた車は犯人たちの車に追い付いてしまい・・・考える暇を与えないのだ。ずるいぞ。
「俺が犯人たちの気をひくから・・・その間に本を奪還してくれ」
「課長・・・大丈夫なんですか」
「何とかするしかない」
テレビ局前の路上で車から降りた犯人たちの前に無防備で姿を見せる課長・・・。
「あの~・・・すみません」
「あ・・・お前は・・・銀行にいた奴じゃねえか」
「まさか・・・つけてきたのか」
「・・・失礼します」
「こら・・・待て」
目の前で人が逃げれば人には追う習性があるらしい。
待機していた薫は車内から「未来の出来事が書かれた年鑑」を盗み出す。
課長はナイフでネクタイを切り裂かれ叫ぶ。
「誰か~・・・助けて~」
テレビ局では警備員の交代時間でもあったのか・・・多数の警備員が現れる。
「どうしましたか」
「この人たち・・・銀行強盗です」
「えええ」
腕に覚えのある警備員揃いであったらしく・・・銀行強盗たちはたちまち確保される。
「いやあ・・・殺されるかと思ったよ・・・ははは」
「笑いごとじゃないですよ」
薫は涙ぐんでいた。
そこへ・・・柳井刑事(敦士)と警察官たちが到着する。
「どうして・・・ここに」
「犯人たちが話しているのを聞いたんだ・・・」
「なぜ・・・すぐに話してくれなかったんですか」
「いや・・・聞き間違いだったら・・・恰好悪いだろう・・・それから・・・テレビ局に仲間がいるらしい」
「テレビ局に・・・」
柳井刑事はテレビ局に勤務する一味も逮捕することに成功するのだった。
身元不明の死体となった未来から来た坪井信彦(笠原秀幸)は警視庁から区役所に引き渡され行旅死亡人として社会福祉法人によるしめやかな葬儀の後で火葬となった。
死亡現場の大和第一銀行と警備会社が花を供えた。
課長と薫は葬儀に参列した。
「坪井さんは・・・無縁仏として共同墓地に入るんですね」
「そういう決まりらしい」
「なんだか・・・哀しいですね」
「坪井さんは・・・警備員の命を救った・・・参列者の中に・・・家族連れがいただろう・・・あの人たちは家族を失わずにすんだ・・・せめてもの慰めだ」
「でも・・・人はいずれ・・・死ぬんですよ・・・坪井さんはそれを一時的に先延ばししただけなんです・・・リテイクはそういう虚しい行為なんです」
「那須野・・・お前・・・」
「すみません・・・今日は帰ります」
課長は那須野を見送った。
何故か・・・胸が痛むのだった。
翌日・・・出勤した課長にパートタイマーのパウエルまさ子(浅野温子)が告げる。
「こんなものが・・・課長のデスクに置いてあったのよ」
薫の辞表だった。
「まさか」
「さっきから連絡してるけど電話にでないの」
「何か心当たりは・・・」
「そっちこそどうなのよ・・・部下でしょう」
「那須野は自分のことはほとんど話さないので・・・」
「そうねえ・・・こっちの話はよく聞いてくれるんだけど」
「でしょう」
「私たちは・・・彼女のこと・・・ほとんど知らないのね・・・一年半も一緒に働いているのに」
「自宅に行ってみます」
「待って・・・私も」
殺風景な薫の部屋。
「なにこれ・・・若い女の子の暮らす部屋とは思えない」
那須野は洋服ダンスを開いた。
そこには白い衣装が一着あるだけだった。
那須野は法務大臣政務官の国東修三(木下ほうか)の執務室を訪れる。
「ノックくらいしてよ」
「・・・」
「坪井というオバケ・・・亡くなったそうですね・・・例の本はどうなりましたか」
「那須野が姿を消しました」
「おやおや」
「那須野は未来人ですね・・・那須野は未来に起きる出来事を知っていたんだ・・・調べたら那須野には戸籍がありませんでした・・・そんな人物をマンションに住まわせ・・・この仕事に就かせることができるのは・・・あなたしかいないでしょう」
「2014年・・・彼女が私を訪ねてきて・・・2022年にタイムマシンが発明されると言うのです。しかし・・・いくつかの出来事を彼女が予言しました。それはすべて的中したのです。私は一部の政治家に働きかけ・・・対策会議室を作ったのです」
「なぜ・・・那須野を戸籍管理課に配属したのですか」
「それが彼女の希望だったのです」
「彼女は何のために・・・リテイクを・・・」
「オバケ・・・いや・・・未来から来たものたちはあまり多くを語らないのです・・・おそらく制作スタッフがいろいろと背景を作るのが面倒だったからでしょう」
「一方通行のタイムトラベルというアイディア一本で勝負ですからね」
「とにかく・・・職務を放棄した以上・・・彼女も隔離する必要がありますね」
「そんな・・・」
「速やかに身柄を確保して隔離してください」
課長はうなだれて戸籍管理課に戻る。
「どうだった・・・」
「那須野がリテイクしてきた理由を課長は知りませんでした・・・この部署の設立を提案したのは那須野だそうです」
「薫ちゃん・・・未来人に居場所を作ってあげたかったのかも・・・薫ちゃんの部屋・・・見事に何もなかったもの・・・」
「リテイクは虚しい行為だと言ってました」
「彼女だって・・・歴史を変えるためにやってきたのは間違いないと思うけど・・・失敗してしまったのかしら」
「成功したとしても・・・彼女自身にはなんの見返りもないわけです」
「そうね・・・」
「何かを成し遂げたとしても・・・残るのは見知らぬ世界だけか」
「私たち・・・彼女の孤独を理解しようともしなかったわね」
課長は思い出していた。
免許証を持っていない薫・・・。
DVDを借りられない薫・・・。
「病気になったら・・・どうするつもりだったんだ」
居酒屋「へのへのもへじ」で薫の姿を捜す課長。
しかし、やってきたのは柳井刑事だった。
「なんだ・・・お前か」
「ひどいな・・・これ・・・みてくださいよ」
柳井刑事は薫とのツーショット画像を自慢する。
「お前・・・これ・・・いつだ」
「一昨日・・・一時間だけデートしてくれました」
「・・・土曜日か」
「でも・・・それから音沙汰なくって・・・」
「・・・そうか」
「薫ちゃんて・・・不思議なところがありますよね」
「え」
「なんだか・・・僕らとは違う世界を見ているような」
「お前は・・・見る目があるんだな」
「はい?」
「彼女は何か他に言ってなかったか」
「オバケなんかいない方がいいんだとか・・・なんとか」
「オバケ・・・」
「意外と幽霊とかを信じているタイプなんですかね」
課長は・・・薫が何をしようとしているのか・・・わかったような気がした。
戸籍管理課で課長はパウエルに推測を話す。
「那須野はタイムマシンの開発を阻止するつもりかもしれません」
「なぜ・・・」
「これ以上・・・未来人にリテイクさせないためですよ」
「阻止するって言っても・・・」
「薫はパスポートを取得できませんから・・・国外には出られません。薫が阻止するつもりなら・・・。つまり・・・タイムマシンは日本で開発されるのです」
「ロケの予算もないから・・・都内ね」
「素晴らしいインターネットの世界で一発検索できませんか」
「出たわ・・・城聖大学で量子物理学の権威である川島教授がタイムマシン開発のためのプロジェクトチームを立ち上げたって記事がヒットした」
「このドラマ的にはそれが精一杯ですね」
「薫ちゃんのの年代別シミュレーション似顔絵・・・出来ているわよ」
課長は絶句した。
那須野薫の幼少期は・・・課長の娘・波留(横溝菜帆)と瓜二つだったのだ。
「どうしたの・・・」
「那須野薫は・・・私の娘でした・・・」
「え」
「あぶねえ・・・俺に気があるのかと思っていた」
「こらこら」
柳井紗栄子(西丸優子)と波留は玄関から出てきた。
「ママ・・・今日も仕事で遅いから・・・帰ったら・・・夕飯、冷蔵庫にあるからね」
「いってきます」
「いってらっしゃい」
薫は母親と幼い自分の姿を見ていた。
母親を見送り・・・波留を追いかける薫。
「波留ちゃん・・・私、新谷課長の部下で那須野薫というものです」
「パパの・・・部下?」
「・・・パパに会いたい?」
「でもママは会っちゃダメだって」
「ママはね・・・波留ちゃんを育てるのに一生懸命なだけで・・・パパのこと嫌いになったわけじゃないと思う」
「・・・」
「パパだって波留ちゃんのことが大好きなんだよ・・・うらやましいな」
「え」
「私にはパパもママもいないから」
「・・・かわいそうね」
「だから私は後ろばっかり見て生きてきた・・・でもね・・・波留ちゃんは違うよ。 私と波留ちゃんは違う。パパもママも元気だし・・・波留ちゃんの人生はこれからなの」
「人生・・・」
「パパに会いたい?」
「うん・・・パパに会いたい・・・パパとママと三人で前みたいに」
「だったら・・・それをママに言ってみて」
「・・・」
「言葉にして口に出さないと気持ちは伝わらないから・・・」
「ママに・・・」
「そうしたら・・・願いは叶うかもしれないよ」
「・・・」
「なにかをがんばったら・・・きっといいことがある」
「・・・」
「つらいことや・・・かなしいことも・・・きっとのりこえられるよ」
「そうなの」
「うん・・・私は波留ちゃんが幸せになれるって信じてる」
「ありがとう」
「じゃあ・・・バイバイ」
「バイバイ・・・」
課長は川島教授に面会していた。
「こんな美人に会ったら忘れませんよ」
「そうですか・・・美人ですか」
「とにかく・・・この人には見覚えがありません」
「先生はタイムマシンを研究されているとか」
「あれは・・・サークル活動みたいなものです」
「ちょっと噂に聞いたんですけど2022年くらいに完成するということでは・・・」
「あと五年でタイムマシンが・・・あり得ないですねえ」
「そうなんですか」
「テクノロジーというものは・・・突然・・・飛躍する場合もあります・・・なにしろ・・・原子爆弾さえ実現させるのが人類です・・・実現を阻んでいたものが・・・別のテクノロジーの成果でなくなるってこともある・・・人間並みの人工知能なんて夢のまた夢だったものが・・・今や」
「その・・・サークル活動のメンバーを教えてもらえますか」
「ホームページにのってますよ・・・」
パウエルは「例の本」を政務官に届けた。
「薫ちゃんが課長の娘だって・・・知ってたの」
「知りませんでした」
「ホントに?」
「ただ・・・彼女が私のところに来た時・・・新谷くんの事件は知ってましたね・・・」
「冤罪事件のこと・・・」
「何か・・・関わりがあるとは察していましたが・・・そうですか・・・娘さんでしたか」
「国を動かすつもりなら・・・もう少し人間に興味を持つべきね」
「人間には興味を持っているつもりです」
「でも・・・本に未来が書いてあったとしても・・・その未来を作るのは人間一人一人なのよ」
「厄介なことですねえ」
「未来人が歴史を書き換えているから・・・その本は役に立たないかもしれないじゃない」
「だから・・・未来人を隔離する必要があるのです」
「・・・」
下町ロケット工場・・・。
「牟田は確かに・・・うちの従業員です・・・屋上で休憩してますよ」
「少しお邪魔してもいいですか」
「構いませんよ・・・ちょっと変わってる奴だけど」
「変わっている?」
「天才肌っていうの・・・元々・・・変人だったんだけど・・・七年前に奥さんと子供を事故で亡くしてね・・・それからは特にね・・・」
「・・・」
牟田(浅野和之)は屋上で計算に熱中していた。
「牟田義弘さんですね?」
「あんた・・・誰だ?」
「2032年の未来から来た者です」
「え」
「牟田さんは・・・タイムマシンを研究していますよね」
「2032年・・・十五年後か・・・」
「2022年には完成します」
「からかってんのか」
「私はあなたが発明したタイムマシンでここに来たのです」
「へえ・・・それじゃ何か・・・未来の俺から何かメッセージでもあるのか」
「何もありません・・・私の来た未来ではあなたは・・・消息不明です・・・タイムマシンの技術は闇のビジネスとして成立して割りと手軽に利用できます」
「ほう・・・」
「なにしろ・・・一方通行なので・・・私も過去に来るまでは・・・半信半疑でした」
「どういうことだ」
「つまり・・・遡上した過去はやってくる未来とは通じていないのです」
「時間線が分岐するわけだな」
「とにかく・・・私のいた未来には・・・過去に戻った未来人は一人もいません」
「つまり・・・二周目の人間がということか」
「ですね・・・それでも・・・人は闇のタイムマシンを利用します・・・何故だと思いますか」
「さあ」
「みんな・・・絶望して・・・自殺するつもりで利用するからですよ・・・そして・・・実際に過去に到着してびっくりするのです」
「・・・」
「私はあなたにタイムマシンの開発をやめてもらいたいと思いまして」
「なぜだ」
「今・・・この時代には未来人がたくさん来ています・・・それぞれの思いがあったことでしょう・・・でもそれは・・・あってはいけないことなのです」
「この世にはあってはいけないものなどないと思うがね」
「奥さんとお子さんを事故で亡くされたと伺いました・・・」
「そうだよ・・・頭がおかしくなりそうだったよ・・・何度・・・あの事故さえなければ・・・と思ったことか・・・」
「・・・」
「過去に戻れば妻と子供を助けられるじゃないか」
「でもそこには過去のあなたもいるのですよ」
「・・・」
「たとえ・・・奥さんとお子さんを助けたとしても・・・それはあなたの奥さんやお子さんではないのです」
「しかし・・・二人の死はなかったことにできるだろう」
「なかったことになんてできませんよ・・・人間は必ず死ぬのですから・・・もしもあなたが二人より長生きしたら・・・もう一度・・・それを味わうことになるのです」
「・・・」
「つらい思いを二度するだけです」
「そんなこと・・・」
「未来から来た人間は現代では誰でもないのです・・・そんな人間が生きていくために何をするか・・・わかるでしょう」
「・・・」
「そういう人たちを生みだしてはいけない」
「俺はやめない・・・世の中にはわかっちゃいるけどやめられない人間がいるんだよ・・・お嬢ちゃん・・・たとえ広島や長崎で何万人死のうが・・・原子爆弾を作った奴がいたように」
「どうしても・・・」
「じゃあ・・・俺を殺すか・・・そうじゃなきゃ何も変わらんぞ・・・そこをどけ」
「あ」
牟田に突き飛ばされ・・・バランスを崩した薫は屋上から飛び出した。
間一髪、その手を課長が掴む。
「待ってろ・・・今・・・引き上げる」
課長は自分でも信じられない力を発揮した・・・。
薫を屋上に引き上げたのである。
「すごい・・・」
「波留・・・大きくなったな・・・」
「パパ・・・」
「話してくれないか・・・今までのこと・・・」
「2014年・・・大きな列車事故があって・・・パパは本当は死にました・・・私は六歳だった・・・ママは女手一つで私を育ててくれましたが・・・2032年・・・私が二十四歳になった時に病死します。私を育てた無理が祟ったのです・・・私は哀しくて・・・闇でタイムマシンを買ったのです」
「事故・・・あの時か・・・」
「踏み切りで立ち往生していた車の運転手は逃げ出していたのです・・・だから私が踏み切りの緊急停止ボタンを押しました・・・列車は停止して・・・事故は起きなかったけれど・・・パパは乗り換えた地下鉄で痴漢をした犯人に・・・」
「あれは・・・本当に冤罪だったんだ」
「せっかく助けたのに・・・結局・・・パパとママは・・・」
「・・・」
「パパの命を助けても・・・結局・・・現代の波留ちゃんも親子三人で暮らしていない」
「ドジで・・・すまん」
「でも・・・生きてさえいれば・・・また一緒に暮らせるかもとも思いました・・・けれど・・・この仕事をしているパパ・・・課長は・・・危険な目に遭ってばかりで・・・いつまた命を落すか・・・お母さんも結局・・・私を一人で育てて・・・このままだと同じ未来が・・・私のしたことはすべて無駄なのかもしれない・・・その上・・・課長がまた死んだらと思うと・・・怖くて」
「この一年半・・・どうだった」
「え」
「俺は・・・お前が娘だなんて・・・夢にも思わなかったが・・・なんだか楽しかった。結局・・・仕事人間だけれど・・・絶望を抱えた未来人と接するうちに・・・自分が見逃していたいろいろなことに気がついたような気がした。三年前に死んでいたら・・・こんな気持ちにはなれなかったし・・・大人になったお前を見ることもなかったよ・・・だから・・・来てくれてありがとう」
「パパ・・・」
「未来人は過去を改変する・・・しかし・・・現代人にとってそれもまた歴史の一部なんじゃないのかな。もし・・・列車事故で死ななかったとしても・・・痴漢騒ぎに巻き込まれなかったとしても・・・家族を二の次にしていた俺は・・・結局、紗栄子に愛想尽かされて・・・波留に寂しい思いをさせたかもしれない・・・そう思えるようになったのは・・・大人になった波留・・・那須野薫という部下がいてくれたおかげだと思うんだ・・・」
「課長・・・」
「那須野薫は・・・俺のもう一人の娘だ・・・自分の娘がこんなに側にいて気が付けないダメ親父だが・・・これからは・・・もう少しマシな父親になるように努力するよ・・・娘が二人いる父親なんてザラにいるんだから・・・」
「お父さん・・・」
「そのブレスレット・・・」
「これ・・・事故の時に遺品として贈られてきたんです」
「同じのあるよ・・・」
課長は助手席のダッシュボードを開いた。
「え・・・六歳の誕生日プレゼントなのに・・・」
「だって・・・ほら・・・あれから・・・痴漢に間違われて・・・離婚して・・・面会も許してもらえず・・・渡す暇なかったんだよ・・・」
「今から行きましょう」
「え」
「もう九歳になってるんですよ・・・こっちの私」
「・・・」
「助手席・・・仕えるようになってますね・・・」
「お前が・・・うるさく言うからさ」
薫/波留は微笑んだ。
政務官秘書の大西史子(おのののか)はパウエルに頼まれて「例の本」をシュレッダーにかけていた。
「よく決心してくれたわね」
「国益に反するかもしれませんが・・・正義のためには仕方ありません」
「自分の信じるところに従うことは大切なことよ」
「私・・・こっそりとこういうことをするのが嫌いじゃないみたいです」
「のののののののの」
薫は戸籍管理下に復帰した。
政務官はニヤニヤ笑いながらそれを認める。
清濁併せのむのが政治家なのである。
オバケとなったマッド・サイエンティスト牟田が到着したのは・・・2017年だった。
どうやら未来人着地点予測技術が短期間で改良されたらしい。
牟田の目の前に課長と薫が立っている。
「牟田さん・・・」
「君たちは・・・」
「戸籍管理課のものです」
「戸籍管理課って・・・」
「失敗でしたね・・・」
「え」
「ここ・・・2017年ですよ」
「そんな・・・2000年じゃないのか」
「誰にでもやり直したいつらい過去はありますよね。でもそれは乗り越えなければ駄目なんです。人生にリテイクはない。人はやり直せない今を全力で生きるからこそ輝く・・・」
「ふふふ・・・甘いな・・・これは試し跳びだよ」
「え」
「私は・・・必ず・・・事故を阻止するよ・・・」
「牟田さん・・・」
「もう会うことはないだろう・・・時間線は変更されてしまうから・・・」
「・・・」
「お嬢ちゃん・・・君に会えてよかった・・・おかげでタイムマシンが完成したからね」
「そんな・・・」
「さらば・・・いざ出発だ・・・まだ見ぬ過去へ・・・」
牟田は改良されたタイムマシンで過去へと去って行った。
過去は改変され・・・誰もが気付かないまま一つの世界が消失した。
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