背中に矢を受けて高い橋から川へ落下する人(織田梨沙)
異世界の話である。
致命傷とも言える傷を受けてもたちまち快復する登場人物たちはそもそも人間ではないのかもしれない。
異国にはそれぞれの言語があり、通訳を必要とされるがバイリンガルなら大丈夫である。
外国映画の日本語版のように様々な言語を話しているが・・・全編翻訳されているのかもしれない。
「コンバット」ではドイツ軍だけは翻訳されずに「アメリカーナ!」と叫んだりする。
たとえとして時代がかりすぎているわ。
時々・・・専門用語で「カシャル」はロタ語で「猟犬」の意味だと説明したり、「ツアラ・カシーナ」はサンガル語で「船の魂」で「海賊船の船長」を意味するとか・・・南の大陸の「サズ」は北の大陸の「チャズ」であるとか・・・そういうのは異国情緒とか方言色とか・・・そういうものを醸しだす工夫である。
だが「旅情」を解さない人間には煩わしい部分でもあるだろう。
主人公は世界を股にかける用心棒であるために・・・それぞれの言語には通じているわけである。
だが・・・「コンバット方式」なら放牧民などの少数者との会話では・・・「異国語」使い「字幕スーパー」を乗せるという手もある。
そういう駆け引きが少し・・・物足りない気がします。
で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第5回』(NHK総合20170225PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・加藤拓を見た。女性を切り刻んだ男が法廷で「殺せるものなら殺してみろ」と叫ぶ人命尊重の優しい社会の投影により・・・人の命を奪うことに躊躇いや後悔の気持ちを抱く主人公設定である。そういう哲学をよしとするかどうかは別として児童文学としては譲れない一線なのだろう。しかし・・・世の中には未成年者を凌辱することを喜びとする人間がいることを教えることも大切なのである。
カンバル国王の主治医だった父・カルナを口封じのために殺され、父の親友だった天才的な短槍使いジグロ(吉川晃司)に守られて放浪生活を続けたバルサ(綾瀬はるか)・・・。ジグロを師として短槍使いの達人となったバルサだったが・・・やがて殺戮の喜びを感じるようになる。ジグロはバルサの魂に人命尊重の呪いをかけ・・・バルサは罪悪感に打ちひしがれるようになった。
殺人がタブー(禁じられた忌まわしきこと)になれば・・・すでに血に汚れたバルサには救いはないのである。
この世界には悔い改めれば許す神は存在しないのだ。
ロタ王国の被差別民タルの少女・アスラ(鈴木梨央)の用心棒となったバルサは・・・少女の心に宿る破壊神(タルハマヤ)によって・・・少女の無垢な魂が汚れることを危惧する。
だが・・・少女はすでに精霊と一体化することにより・・・大量殺人を果たしている。
少女の心が安定しているのは・・・その行為が「善」であるという合理化によるものである。
しかし・・・人命尊重の呪いをバルサはアスラに伝道しなければならない宿命なのである。
なぜなら・・・彼女は由緒正しい児童文学の主人公なのだから・・・。
ロタ王国の神話に登場する創造神アファールの鬼子であるタルハマヤ・・・。
異界(ノユーク)の春の季節・・・この世に現れるタルハマヤはタルの乙女(佳野)と一体化し・・・恐ろしき殺傷力を発動するサーダ・タルハマヤとなる。
タルはサーダ・タルハマヤの力でこの世を支配した。
そこでロタ人はサーダ・タルハマヤの首を落し・・・タルの支配を終わらせ・・・ロタ王国を建国したのである。
タルの民が・・・タルハマヤの復活を試みないように監視するのが・・・カシャルの任務だった。
カシャルの頭であるスファル(柄本明)は逃亡したアスラの行方を追い・・・タルハマヤの復活を阻止しようとする。
しかし・・・スファルの娘であるシハナ(真木よう子)はタルハマヤを復活させ・・・その力を利用しようと考える。
すべては・・・次期国王と目されるイーハン(ディーン・フジオカ)のためであるらしい。
イーハンはかって・・・アスラの母であるトリーシア(壇蜜) を愛した男だった。
ロタ王国の重要な祭りである「建国ノ儀」を前にイーハンの兄であるロタ国王・ヨーサム(橋本さとし)が崩御する。
ロタ王国には・・・南部を中心に・・・イーハンの王位継承を認めない勢力がある。
シハナは・・・ヨーサム国王の死に・・・密かな喜びを示すのだった。
「トリーシア様の娘を発見しました」
「娘・・・」
「お会いになりますか」
「・・・会おう」
人質に取られたアスラの兄チキサ(福山康平)と薬草使いのタンダ(東出昌大)を救出するために・・・ロタ王国祭儀場に向って旅をするバルサとアスラ・・・。
二人の前に・・・タルの民として特徴的な額に魔除けの紅を塗った女・イアヌ(玄理)が現れる。
アスラは何故か警戒心を示すのだった。
しかし・・・イアヌは・・・猫撫で声で話しかける。
「私は・・・アスラの母であるトリーシアの仲間でした・・・トリーシアにサーダ・タルハマヤの遺体が封印されていることを伝えたのは私なのです」
「サーダ・タルハマヤの遺体・・・」
「私はアスラが・・・神を降臨される力を持っていることにも気が付きました」
「・・・」
「それ以来・・・トリーシアが姿を消し・・・やがて祭儀場での恐ろしい出来事の噂を聞きました・・・トリーシアが処刑され・・・アスラが姿を消したと聞き・・・ずっと案じておりました」
「アスラの兄のチキサが人質に取られている・・・建国ノ儀の行われる日にアスラを祭儀場に連れて行かねばならない」
「しかし・・・建国ノ儀までにはまだ日がありますね・・・どうでしょう・・・それまでタルの民の隠れ里でお過ごしになられては・・・」
「タルの民の隠れ里・・・」
「タルの民は・・・ロタ王国のどこにでも・・・隠れ里を持っています・・・そこならば・・・身の安全は保障できますよ」
バルサが承諾すると・・・潜んでいたタルの民たちが現れる。
アスラを背負い駕籠に乗せ・・・草原の国にもある山林に踏み込むタルの民一行とバルサ・・・。
女性ばかりのタルの民に気を許すバルサだった・・・。
やがて、一行は隠れ里に続く吊り橋にさしかかる・・・。
背後に殺気を感じるバルサ。
「行け・・・何者かが追ってくる」
バルサは橋の上でカシャルたちの追撃を迎え撃つ。
殺人をタブーとするバルサの攻撃は甘く、必殺の攻撃を続けるカシャルたち。
しかし・・・達人であるバルサはカシャルたちの攻撃をいなすのである。
「バルサ」と叫ぶアスラ。
「先に行け・・・すぐに追いかける」
「参りましょう」とアスラを説得するイアヌだった。
カシャルたちの攻撃を橋の上でかわしながら時を稼ぐバルサ。
その背中に矢が突き刺さる。
振り返ったバルサは・・・タルの民たちが弓矢を構えていることに驚く。
すべては罠だったのである。
矢の毒に冒されたバルサは力尽きて・・・遥か下を流れる川に向って墜落するのだった。
アスラは・・・イアヌによって・・・タルの民の神の石に導かれる。
「あなたをお迎えすることが・・・私たちの願いでした」
「・・・」
タルの民たちは・・・アスラの前にひれ伏す。
その場に姿を見せるシハナ・・・。
「お前は・・・」
「すべて誤解なのです・・・」
「誤解・・・」
「私たちは・・・アスラを守ろうとしていたのです・・・」
「私を・・・」
「何故なら・・・あなたは・・・タルの民の希望だからです・・・トリーシア様もそれを願っていました」
「お母様が・・・」
シハナは呪術により・・・アスラに催眠をかけていた。
アスラの目には・・・シハナがトリーシアに見え始める。
「お母様・・・」
「アスラ・・・あなたは・・・あるお方と一つにならなければいけません」
「あるお方って・・・」
「お母様とそのお方は・・・いつも一つになりたがっていた」
「・・・」
「アスラが・・・その方と一つになるのです」
「お母様・・・もうどこにもいかないで・・・」
アスラはシハナの術中に落ちた。
北の大陸の先住民ヤクーの呪術師トロガイは焚き火の炎の中に浮かぶ星読博士シュガ(林遣都)の面影を幻視した。
「なんだい・・・こんなところまで」
「タスケテクダサイ・・・」
「泣きごとかい」
「ちゃぐむデンカガカイゾクニトラワレノミニ」
「なんと・・・チャグムが・・・」
「タスケテクダサイ・・・」
「瀕死なんだろうが・・・自分の身は自分で始末しな」
「キビシイデスネ」
「天は自ら助くるものを助けるのさ」
サンガルの捕虜収容所で・・・シュガは覚醒した。
この世界の住民たちの生死の境界線は曖昧である。
この世ならぬものが臨場しているこの世なのである。
瀕死から蘇生すればたちまち生命力が漲るらしい。
サンガルの戦士の槍に貫かれたナユグ(精霊)が見える皇太子チャグム(板垣瑞生)もすっかり元気になっている。
漁で賑わう海賊船の甲板で釣りの様子を物珍しく見守るのだった。
サンガルのたくましい女漁師(森久美子)は棹を使わず釣り糸だけで魚を釣り上げる。
「凄いな・・・」
「あんたもやってみるか」
「やらせてもらえるのか」
「嘘だよ・・・あんたのような細うでで魚が釣れるもんか」
「・・・」
しかし・・・新ヨゴ国の皇太子が気に入ったのか海賊のセナ(織田梨沙)はお相手をするのだった。
「ほら・・・ごらん・・・鮫の子だよ」
「鮫・・・」
「大人になれば人だって食う種族さ」
「人を食う魚か」
「鮫のヒレは珍味なんだよ」
「へえ・・・」
「サンガルでは腹に子がいる間に大漁になると生れた子はヤルヌール・コゥ・ラア・・・つまり神の思し召しに恵まれたものになるんだ・・・」
「ヤルヌール・・・コーラ」
「私が生れた日はすげえ大漁だったんだ・・・だから・・・私はこの船のツアラ・カシーナ(船長)になったのさ」
「え・・・君が海賊船長なのか」
「そうさ・・・セナ船長とは私のことだ」
自決しそこなったチャグムは臥薪嘗胆中である。
青い珊瑚礁的な南の島でのバカンスをエンジョイするのである。
しかし・・・脱出の志を捨てたわけではない。
「セナ船長・・・あのヒューゴとかいう男より・・・金を出したら・・・私に乗り換えてくれるのか」
「おやおや」
タルシュ帝国の密偵ヒュウゴ(鈴木亮平)が顔を出す。
「なんなら・・・一騎打ちで決着をつけましょうか」
「短槍を所望じゃ」
「よろしかろう・・・」
対決する二人・・・しかし・・・手負いのチャグムはヒューゴの敵ではない。
槍をへし折られたチャグムとヒューゴの間にセナが割って入る。
「もうよいだろう」
「なかなかの腕前ですな・・・バルサの手ほどきですか」
「バルサを短槍使いと知っているのか・・・」
「精霊の卵を宿した皇子を女用心棒が守りとおしたという武勇伝は有名ですからね」
「・・・」
ヒューゴはチャグムをヨゴの伝説の王トルガルの宮の廃墟へと誘う。
「春というのに寒いでしょう」
「・・・」
「トルガルが北の大陸に渡った頃も・・・海をナユグが渡ったといいます」
「そなたもあれを見たのか」
「あれは・・・南の大陸が衰え・・・北の大陸が栄える兆しなのかもしれない」
チャグムは廃墟の外で鐘が鳴る音を聞く。
「なんだろう・・・」
「葬式ですよ・・・」
「葬式・・・」
「タルシュ帝国の戦に駆り出されたヨゴの民が戦死したのです」
「戦死・・・」
「タルシュの兵役につけば・・・税が免除されるんですよ」
「・・・」
「タルシュ帝国は・・・他の国を食ってどんどん大きくなる獣のようなものです」
「肉食獣か・・・」
「滅んだ国の民は税を払うか・・・兵士になるか・・・家族を養うためには兵士になって手柄を立てた方が手っ取り早いのです」
「そして・・・死体となって帰ってくるわけか」
「チャグム皇太子・・・私はある人を紹介したいと思ってます」
「・・・」
海岸線にタルシュの軍団が現れる。
騎馬を楽しむのはタルシュ帝国の第二王子ラウル(高良健吾)だった。
馬から降りたラウルは踏み台にした調教師に問う。
「馬の足が張っている」
いつ蹴られてもおかしくない位置でラウルは馬の足の腫れを確かめる。
「申しわけありませぬ・・・気がつきませんでした」
謝罪する調教師の目玉をくりぬくラウル。
「節穴なら必要なし」
「ひえええええええ」
悶絶する調教師を一瞥もせずに立ち去るラウルだった。
タルシュ帝国の宰相クールズ(小市慢太郎) は素早く追従する。
幻惑迷彩で身を固めた貴公子は・・・なかなかに信長テイストである。
バルサは目覚めた。
「おや・・・お目覚めかい」
「トロガイ様・・・」
「お前を助けたのはその男だ」
バルサと戦ったカシャルの男だった。
「お前は・・・」
「俺は・・・スファル様の部下だ・・・」
そこへ・・・スファルとタンダが到着する。
「チキサはどうした」
「生きている・・・すまない・・・マーサの店を教えたのは俺だ」
「仕方のないことだ・・・それより・・・タンダ・・・早く・・・私の身体を治してくれ」
「まかせておけ・・・」
たちまち・・・快復するバルサである。
くりかえすが・・・この惑星の住民は・・・人類ではないのかもしれない。
「そうそう・・・バルサよ・・・チャグムもピンチらしいぞ」
「なんだって・・・」
守るべきものの名にバルサは萌えるのだ。
しかし・・・今は・・・アスラの物語を決着させなければならないのだ。
なにしろ・・・相手は悲しき破壊神なのだ。
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