女の操を捨てよ、義の褥へ参ろう(武井咲)
寺山修司かっ。
さて・・・「精霊の守り人」の日であるが・・・「忠臣蔵の恋」と「リテイク」の二本立てが辛いので今週は分割でレビューすることにいたしました。
そのため・・・来週は「精霊」が二話・三話合併号です。
結局、二本立てなのか・・・。
別ドラマの二本立てよりマシな気がして・・・。
体力の問題だな。
体力の問題です。
とにかく・・・今週で「リテイク」が終わるから。
まあ・・・「忠臣蔵」も凄い展開になってるからな。
ある意味、ファンタジーだよ。
妄想もここまでくれば天晴な感じがするよ。
そもそも・・・歴史とは妄想だからな。
しかし・・・勝田元哲の子・勝田善左衛門泰賀の妻が浅野内匠頭長矩家に仕えていたという資料があったりするので驚愕するのだよな。
つまり・・・つま(宮崎香蓮)は歴史的に実在の人物だったと言えるのだなあ・・・。
で、『土曜時代劇・忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・第16回』(NHK総合201701281810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・伊勢田雅也を見た。歴史的な整合性はともかく女のドラマとしてもかなりアクロバットな展開である。儒教的な道徳観では二夫にまみえず・・・ということで磯貝十郎左衛門(福士誠治)に操を捧げた磯貝十郎左衛門(福士誠治)が甲府宰相・徳川綱豊(平山浩行)の側室になったのでは貞女とは言えないわけである。しかし、徳川幕府の三代将軍・家光の母である崇源院(江)は徳川秀忠の正室となる前に佐治一成、豊臣秀勝と二度も婚姻している。三度目の婚姻で将軍の母となったのである。織田信長の姪という血筋によるところも大きいが・・・とにかくそれを不貞とは呼ばないわけである。一方で命を賭けた恋をした女として・・・そうなってしまっていいのかという心情の問題がある。これは恋した男が「生きよ」と言ったので仕方なかったという流れになっている。とにかく・・・このドラマでは「誰の子供を身ごもるか」という選択権はヒロインには与えられているということなのである。しかし・・・「死ぬか・・・玉の輿に乗るか」という選択肢しか与えられていないことは言うまでもない。それは・・・かなり面白いことになります。
元号が宝永に改まるのは元禄十七年(1704年)三月十三日のことである。きよは喜世と名を改め、甲府宰相桜田御殿に仕えることになる。甲府徳川家二十五万石は第四代将軍・家綱の弟で第五代将軍・綱吉の兄である徳川綱重から始る。延宝六年(1678年)に綱重が死去し二代藩主となったのが綱豊である。綱豊は綱吉の甥ということになる。甲府徳川家には下屋敷として御浜御殿があり、これが現在の浜離宮である。一方、現在の桜田門から日比谷公園周辺に上屋敷がありここに付随して桜田御殿があった。ドラマでは正室が上屋敷の奥にあり・・・喜世は桜田御殿の奥に仕えるという設定になっているが・・・要するに奥御殿ということである。歴史上の喜世は最初、但馬国豊岡藩主・京極甲斐守高住の屋敷に奉公し、次に出羽国新庄藩主・戸沢上総介正誠の屋敷へ仕えた後で大御番・矢島治大夫の養女として桜田御殿に入ったと言われる。赤穂浅野藩とは無縁だが・・・安芸広島藩の二代藩主・浅野光晟の娘・市は正誠の正室である。全く無関係ではないのである。浅野家再興の願いを秘め・・・次期将軍候補の一人である甲府宰相綱豊に女中奉公する気の喜世だったが・・・周囲の思惑はそうではなかった。
喜世が桜田御殿に召されたのは・・・世にも希な美貌だったからである。
侍女頭の唐澤(福井裕子)は喜世の指南役を江島(清水美沙)とする。
浅野家とは格式が違う甲府徳川家での行儀作法が喜世を戸惑わせるのだった。
喜世は立ち振る舞いを厳しく躾けられ、相応しい教養を身につけるために「伊勢物語」などの古典を読み、筆写し、朗読し、暗誦することを求められる。
「甲府徳川家の御殿様に仕えるものとしての恥をかかぬように・・・教養を血肉にするのです」
江島の指導は厳しいものだった。
そんなある日、猫と戯れる古牟(内藤理沙)と知り合う喜世。
「江島様はお厳しいお方でございましょう」
「・・・」
「しかし・・・殿様はとても御優しいお方なのですよ」
「さようでございますか」
「ここはまだよろしいのですよ・・・御正室のおられる上屋敷の奥では何もかも京風とか・・・なにしろ奥方様の母上様は常子内親王様であらせられます」
「・・・」
何もかもが・・・しがない庵の住職の娘である喜世には想像を絶するのである。
「奥方様は・・・豊姫様、夢月院様と二人の御子に先立たれ・・・はや齢三十九・・・近頃はご自分の上臈御年寄である須免様を側室に奨めておられるとか・・・」
「側室・・・」
「それに比べたら・・・こちらの奥は気楽なものですよ」
屈託のない様子の古牟の話に微笑む喜世だった。
しかし・・・初めて姿を見せた徳川綱豊は喜世に声をかける。
「面を上げよ」
「喜世殿・・・そなたのことじゃ」
驚きながら喜世は綱豊を仰ぎ見る。
綱豊は喜世の容姿を確かめたのである。
「喜世殿・・・今宵・・・殿の褥を御勤めせよ」
唐澤の言葉に耳を疑う喜世。
「案ずるな・・・江島にすべてまかせればよい」
喜世はたちまち・・・江島によって磨きをかけられる。
「殿のお声がかかったのは・・・身に余る名誉と心得よ」
気がつけば寝間に残される喜世である。
自分が殿様の夜伽を務めることになるとは夢にも思っていなかった喜世。
しかし・・・もはや逃れる場所はないのである。
ここは・・・桜田御殿なのである。
隣の間では江島が控えている。
(十郎左衛門様・・・)
思わぬ成り行きに言葉を失う喜世だった。
やがて・・・寝間に綱豊が現れる。
身を横たえた喜世に綱豊が触れた瞬間・・・喜世は身を起こした。
「お許しくださいませ」
「初めてか・・・」
「御無礼とは思いますが・・・初めてお会いしたお方と・・・このようなことはできませぬ」
「・・・よい・・・さがれ」
成り行きにのけぞる江島だった。
「自分のしたことがわかっておいでか」
「申しわけございませぬ」
「その場で手打ちにならなかったことが不思議なくらいじゃ・・・」
「・・・」
「このような不始末・・・前代未聞じや・・・喜世殿・・・御覚悟なされよ」
「・・・」
「妾もただでは済まぬだろう」
喜世は・・・自分が操を守ったことで・・・周囲のものに災いがおよぶことに思いいたる。
死か・・・さもなくば夜伽だったのである。
喜世は唇を噛みしめた。
翌日・・・綱豊は側近の間部詮房を呼び出した。
顔を見せぬアングルが工夫されているが・・・配役は福士誠治である。
思わず一同爆笑せざるをえないが・・・この世界の間部詮房は・・・礒貝十郎左衛門のそっくりさんなのであった。
「そちにたずねたきことがある」
「なんなりと」
「喜世のことじゃ・・・」
喜世の桜田屋敷入りには間部詮房も一枚噛んでいるらしい・・・。
桜田御殿の奥は侍女たちの噂話で喧しい。
「殿の夜伽をこばむとは・・・」
「なんという粗相でございましょう・・・」
「御番をなさった江島様もただではすみますまい・・・」
喜世はいたたまれない思いで御沙汰を待つ。
江島が喜世を呼び出す。
「喜世殿・・・殿が今宵もそなたをお呼びじゃ・・・」
「は・・・?」
「殿はそなたを気に入られたご様子」
「え・・・?」
「覚悟はいかがじゃ・・・」
「お申しつけに従います」
喜世は覚悟を決めた。
生きていくと決めた以上・・・運命に従う他はないのである。
しかし・・・綱豊は喜世に触れてはこなかった。
「親は健在か」
「母は幼き頃に・・・亡くなりました」
「そうか・・・」
「しかし・・・父が大切に育ててくれました」
「私の父は厳しいお方だった・・・文武両道を疎かにしてはならぬと・・・」
「・・・」
「しかし・・・私は・・・学問の方が性に合っていたらしく・・・武の方は怠りがちであった・・・」
「まあ・・・」
綱豊はただ・・・喜世と話すだけの夜を重ねた。
喜世は江島に呼び出された。
「殿は苦労多きお方であらせられる」
「・・・」
「先代の綱重さまは・・・御弟であったがゆえに・・・将軍の座に御兄がついた。綱重様は次期将軍とされながら身罷られ・・・将軍の座には御弟がつかれた。綱豊様は・・・世が世なら文句なくご世子様であったのじや・・・」
「・・・」
「今・・・次期将軍の候補となった綱豊様であるが・・・お子が次々と早世なされ・・・お世継ぎにめぐまれぬ」
「・・・」
「喜世・・・わかるか・・・」
「畏まりました」
喜世は自分が求められているものの重さを悟ったのである。
寝間に綱豊が現れた。
「御殿様・・・お願いがございます」
「申して見よ」
「私を・・・お抱きくださいませ」
「よし」
喜世は綱豊に身体を開いた。
仙桂尼(三田佳子)の言葉が蘇る。
「何もかも忘れ・・・新しき殿に・・・身も心もお仕えなされよ」
喜世は綱豊の精を受けとめた。
二人は身体を休めた。
「これまでに・・・心にかかるものはあったのか」
「もう・・・亡うなりました・・・」
「さようか・・・」
綱豊は喜世の頬を撫でた。
次の間で江島は胸をなでおろす。
喜世は御殿の廊下で・・・唐澤と江島の声を聞く。
「そうか・・・ついに殿に身をまかせたか」
「はい・・・」
「はじめからめかけとして送りこまれた分際で・・・手をかけさせおって」
「なかなかの暴れ馬でございました」
喜世は悟った。
桜田御殿に喜世を送り込んだものたちの・・・心の内を・・・。
すべては・・・喜世を甲府宰相の側室に仕立てるためだったのだ。
茫然とする喜世の耳に猫の声が届く。
そして・・・古牟の声がした。
「猫や・・・お殿様は・・・すっかり・・・古牟をお見限りじゃ・・・喜世殿が来る前はあれほど可愛がってくださったのに・・・猫や・・・お殿様に伝えておくれ・・・どうか古牟を夜伽にお呼びくださるように・・・古牟なら御殿様のために・・・立派なお世継ぎを生んでみせようぞ・・・と」
喜世は耳を疑う。
ここは・・・喜世にとって・・・想像を絶するワンダーランドなのである。
是非もなく女は子を生む道具であった。
それがさだめだったのである。
藩主のお手付きになった喜世にそのような外出が許されるかどうかはともかく・・・泉岳寺にやってくる喜世である。
「十郎左衛門様・・・きよをお許しくだされませ・・・」
きよは・・・運命に身を委ねたわが身の不貞をわびた・・・。
「きよ殿・・・」
振り向いた喜世は驚愕する。
それは・・・磯貝十郎左衛門の亡霊・・・さもなくば瓜二つの間部詮房なのである。
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