投げ槍に貫かれ舌を噛み切りそこねて君は(清原果耶)
幻想世界の架空の物語を描く上でもある程度の設定は必要とされる。
小説世界ではかなり曖昧な設定でも断片と断片を繋ぐことはできるが映像化作品ではある程度の「本当らしさ」を紡がなければならない。
架空の設定も現実の歴史を土台にすることは多い。
どの歴史をモチーフとするかは・・・作者の趣味にもよるが・・・受け手もまた趣味による推測が可能である。
物語に登場する国家にも様々な原型が見え隠れするがキッドには日本海を挟んだ半島と列島の関係性が強く喚起されるのだった。
これは・・・キッドが大伴氏による半島進出についてかって妄想したことがあるためである。
北大陸と南大陸の間にある諸島国家サンガル王国は原作では新ヨゴ国と地続きであるが・・・ドラマでは海洋国家となっている。
現実では対馬が対応するが・・・より南洋的な沖縄諸島をはめ込んだようなムードがある。
スケールアップすれば南太平洋の諸島の挿入と言っても良い。
北大陸に存在する新ヨゴ国、カンバル王国、ロタ王国はスケールダウンすれば朝鮮半島の三国時代が連想される。
北の高句麗、東の新羅、西の百済である。
そうなるとサンガルは対馬だったり任那だったりするわけである。
南大陸に存在するタルシュ帝国は・・・つまり大和朝廷なのである。
幻想なので流動的であり・・・シャーマニズムに支配されるロタ王国の南北問題は貧しい北朝鮮と豊かな韓国にたやすく変換できるわけなのである。
あくまで個人的な妄想の話です。
で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第4回』(NHK総合20170211PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・西村武五郎を見た。第一部の二人の登場人物・・・用心棒バルサ(綾瀬はるか)と新ヨゴ国皇太子チャグム(板垣瑞生)が別行動をしていて二つの物語が同時進行しているため・・・よく言えば話に広がりがあり悪く言えば散漫な印象になってしまうこのドラマ・・・お茶の間の反応も様々なのだろう。キッドは毒々しい展開と平和共存の思想が見事に乖離していると考えている。大まかに言えば・・・バルサとチャグムが再会する時にそれは融合されるのだろう。それまでお茶の間がこの微妙さに耐えられるのかどうかは別として。
夢の中で・・・バルサは過去の自分(清原果耶)を振り返る。
胡散臭い母性を漂わせる四路街の衣装店主人マーサ(渡辺えり)がバルサに失われたものへの郷愁を呼び醒ます。
父親変わりの短槍使いジグロ(吉川晃司)は幼いバルサをマーサに託し・・・去ろうとしていた。
「お前はここに残れ・・・」
「何故だ」
「お前には・・・儂とは別の道がある・・・お前には儂のようになってもらいたくはない」
「嫌だ・・・あなたは私の気持ちがわかっていない」
バルサはジグロのようになりたかったのだ。
だが・・・それは修羅の道だった。
目覚めたバルサは自分の歩んできた血ぬられた道を振り返る・・・それが悪しき道だったと・・・いつから思うようになったのだろう・・・とバルサは考える。
人の命を奪うことに・・・いつから躊躇いを感じるようになったのか。
その答えは暗闇の中にある。
《建国ノ儀の朝・・・ロタ祭儀場の門をくぐれ》
ノユーグ(魔物)に憑依されたアスラ(鈴木梨央)の殺戮力を狙うロタ王に仕えるカシャル(猟犬)の呪術師シハナ(真木よう子)はアスラの兄チキサ(福山康平)と薬草使いのタンダ(東出昌大)を人質にとってバルサとアスラを脅迫するのだった。
「建国ノ儀は八日後」とマーサが教える。
「祭儀場・・・お母さんが殺されたところよ」とアスラ。
バルサは唇をかみしめる。
「どうするの」
「行かないと・・・お兄ちゃんが殺されちゃう・・・お兄ちゃんとタンダさんを助けないと」
「・・・わかった」
バルサの承諾に落胆するマーサだった。
「いつか・・・また・・・ここに戻っておいで・・・アスラは仕立屋として筋がいい・・・私がみっちり仕込めば腕のいい職人になれるよ・・・」
「・・・」
「私がここで待っていることを忘れないで」
「ありがとう・・・マーサ」とバルサはマーサを慰める。
だが・・・マーサのためにも旅立ちを決意するバルサなのである。
マーサの息子のトウノ(岩崎う大)が行商に出るために途中までの同行を申し出る。
「隊商と一緒の方が目立たないだろう・・・こっちも用心棒がいれば心強い」
トウノの好意を受けるバルサなのである。
幼いアスラのためにも荷駄馬車の存在は有効だった。
カシャルの里ではタンダとチキサが枯れ井戸の底に監禁されていた。
タンダはつっけんどんでもっさりした口調でぼやく。
「こりゃ・・・逃げられないな」
シハナは父親でカシャルの長であるスファル(柄本明)も拘束している。
「シハナ・・・一体、何をしようというのだ」
シハナはつっけんどんでもっさりした口調で呟く。
「建国ノ儀・・・祭儀場にはロタ各地の実力者が集まる・・・そこにアスラを連れて行けば・・・必ず神を呼ぶ・・・タルの民の力を用いて・・・王がロタを一つにまとめる」
「シハナよ・・・お前の慕うイーハン殿下は国王陛下ではあられぬぞ」
「・・・」
ロタ王国のヨーサム(橋本さとし)国王は病んでいた。
「酒をもて・・・」
「兄上・・・」
ヨーサムの弟イーハン(ディーン・フジオカ)は兄の容体を気遣う。
「酒くらい飲ませろ・・・余の命は尽きようとしている」
「そのようなことを・・・」
「・・・もし・・・私が死んでも伏せておけ・・・そして・・・建国ノ儀はお前が取り仕切るのだ」
「私は・・・兄上のような名君になる自信はありません」
「タルの女も愛した男だ・・・なろうと思えば何にでもなれよう・・・お前の望むままの王になればよい」
「兄上・・・」
若き日のイーハンは・・・タルの民トリーシア(壇蜜) と深い関係になった。
賤民と王族の恋は許されるものではなかった。
「お前たちを・・・私が引き裂いた・・・それでも・・・お前の心に眠る慈しみの心までは奪えなかった・・・優しさなど・・・王には無用なものだ・・・しかし・・・自分の優しさを信じることは有用だ・・・お前は私より優しいことを信じればよい・・・己を信じる強い心が民を導く・・・お前はお前の信じる道へとこの国を導けばよいのだ」
ヨーサムは最後の酒を飲みほした。
アスラのサーダ・タルハマヤの力を用いてアスラの母親の愛人だったイーハンは何事かを企んでいるのだった。
豊かな南の民と貧しい北の民の経済格差がロタ王国では内乱の火種となっている。
それを禍々しいサーダ・タルハマヤの力で一つにすること・・・イーハンの優しい外見とはそぐわない何かが・・・その心には潜んでいるらしい・・・。
一方・・・すでにタルシュ帝国に降伏したサンガル王国の司令官オルラン(高木亘)によって身分を伏せたまま虜囚となったチャグムは・・・帝(藤原竜也)の密命を受けた暗殺部隊「狩人」の長モン(神尾佑)によって暗殺されかかっていた。
そこへ・・・聖導師(平幹二朗)の密命を受けたジン(松田悟志) が割り込む。
狩人同志の争いに驚く星読博士のシュガ(林遣都)だった。
「帝は・・・また・・・我の命を・・・」
「モンを生かしておいては・・・チャグム様の命を狙い続けます」とジン。
「殺してはならん・・・」とチャグム。
戦闘帆船の乗員たちはモンを拘束した。
「今なら・・・脱出が可能です」とジン。
「我らも共に参ります」と乗員たち。
「それはならぬ・・・お前たちは虜囚である間は命が保証されているが・・・脱走すれば殺されるかもしれぬ」
「しかし・・・船を操るものがいなければどこにも行けませぬ」
「シュガ・・・お前は残って皆の面倒を・・・」
「星読博士がいなければ船はどこにもたどり着けませぬ」
「・・・」
病人発生を装い・・・見張りを騙そうとした計画はチャグム暗殺のために手段を選ばないモンの叫びによって失敗し・・・屈強なサンガルの兵士たちにジンも苦戦を強いられる。
なんとか海岸線にたどり着くチャグムだが・・・もたもたしているうちにサンガルの兵士の投げた槍に貫かれてしまうのだった。
「あああああああ」
「チャグム様」
意識を取り戻したチャグムはサンガルの海賊セナ(織田梨沙)の海賊船に拘束されていた。
「ここは・・・」
「タルシュ帝国に向う船の上でございますよ」とヒュウゴ(鈴木亮平) が応じる。
「皆の者は・・・」
「無事ですよ・・・牢に戻しました」
「そうか」
チャグムは舌を噛んで自殺をしようとすかるが気配を読んだヒュウゴはチャグムの口に指を挿入する。
「私の指でよければいくらでも噛んでください・・・バルサとはあなたの大切なお方ですかな・・・何度も囈で呼ばれていましたぞ・・・その方のためにも命は粗末になさるな・・・私はタルシュ帝国の軍人ですが・・・元は南のヨゴ国の民でした。南のヨゴはタルシュ帝国と戦い敗れました・・・それでヨゴの人々は不幸になったかといえばそんなことはありませんでした」
「・・・」
「それどころか・・・人々は以前より豊かな暮らしを手に入れたのですよ・・・戦では多くの人々が死にました・・・しかし・・・生き残った人々は・・・今ではこう思っています・・・悪かったのは・・・タルシュに戦を挑んだヨゴのミカドだったのではないかと」
「・・・」
「チャグム殿下・・・あなたには・・・まだ戦を止めるという手が残っている・・・そのために・・・タルシュ帝国というものの現実を知ってみたいと思いませんか・・・ははん」
「ゆびをくちからぬいてくれ」
「おや・・・これは失礼」
スファルは穴牢のタンダの元へと現れる。
「自由の身になったのですか」
「娘の邪魔をしないと約束した」
「何故・・・ここへ」
「お前を助けるためじゃ・・・チキサは殺されぬだろうが・・・お前は殺されてしまうかもしれぬ」
「・・・チキサを残しては」
「タンダさん・・・行ってください」
「チキサ・・・」
トウノの隊商は交易相手の遊牧民の集落に到着する。
「もう少し・・・先まで一緒に」とトウノ。
「いいや・・・ここで別れよう」とバルサ。
「せめて・・・今夜はこの集落に泊まるといい」
「かたじけない」
その夜・・・狼の群れが集落を襲う。
「狼が吠えているよ・・・」
「こわいのかい」
「お父さんは・・・狼にかみ殺された」
「私がついている・・・大丈夫だ」
「でも・・・」
「待っておいで・・・追い払ってくるから」
しかし・・・狼の群れは飢えていた。
槍という武器は剣よりも三倍の利があると言われる。
しかし・・・それはあくまで個人的な格闘の場においての話である。
狼たちの群れによる狩りに対応することにはそれほどの利はない。
突き刺せば抜く必要があり・・・薙ぎ払えば片側が無防備になる。
二匹の狼を屠ったバルサは三匹目に押し倒された。
「くそ・・・」
その時・・・アスラが神を呼んだ。
仰向けに寝たバルサの上を修羅の旋風が吹き過ぎて行く。
狼たちは一匹残らず血まみれの肉塊となった。
振り返ったバルサはアスラの顔に浮かぶ悪鬼の哄笑に震えるのだった。
破壊神タルハマヤの恐ろしさを実感するバルサ。
それは・・・かっての自分の姿を思い出させる。
槍を振るい敵にとどめを刺そうとしたバルサをジグロがいさめる。
「バルサ・・・人を殺すのが楽しいか」
「楽しい?」
「お前は笑っていたぞ」
「笑ってなどいない」
「自分で・・・気づいておらぬのか・・・バルサよ・・・人に槍を振るい人の命を奪っている時・・・人は己の魂を削っているのだ・・・己の魂を己の槍から・・・どのように守るのか・・・それは自分で考えなければならぬ・・・そればかりは俺にも教えられぬ」
「己の魂を守る・・・」
目覚めたアスラはバルサに微笑む。
「ねえ・・・神様・・・いたでしょう・・・バルサにも見えたでしょう」
「アスラ・・・」
「バルサ・・・泣いているの・・・何故泣くの」
バルサは己に問う・・・アスラの魂を守る術が自分にあるのかと・・・。
自分自身の魂を守れているのかどうかもわからないと言うのに・・・。
だから・・・バルサは泣くしかないのだった。
二人の様子をタルの民イアヌ(玄理)が監視していた。
ロタ王国の王宮にシハナが現れる。
「音もなく近寄るな」と叱責するイーハン。
「失礼しました」
「何かあったか・・・」
「トリーシア様の娘を見つけました・・・お会いになりますか?」
「会おう・・・」
「王宮が静かすぎるようでございますが・・・」
「兄が死んだのだ」
「・・・」
「このことは・・・建国ノ儀まで秘せよと命じられた・・・よいな」
「承知いたしました」
人は安全のために力を求める。
そして力は人の安全を脅かす。
それが理というものなのだ。
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