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2017年2月21日 (火)

一瞬の殺意と永遠の後悔の間で(木村拓哉)

誰かに殺意を覚えたことのある人ばかりではないだろうが・・・誰かを殺したいほど憎むことは割とありふれた話である。

そのうちの何パーセントかが・・・実行して・・・そのうちの何パーセントかは後悔するわけである。

つまり・・・何パーセントかは殺意を覚え実行して後悔しない可能性がある。

殺意と実行の間には・・・後悔することへの推測がある。

人を殺したことがない人でも・・・もしも殺したら・・・後悔するのではないかと考えることはできる。

そして・・・絶対に後悔しないか・・・後悔しても構わないと覚悟した人が殺す場合があるわけである。

いやもう・・・やみくもにぶち殺す人は別として。

いつか殺してやると・・・常日頃、考えていて・・・絶好の機会が訪れた場合にも逡巡してしまうのが人間というものである。

そう考える人たちに・・・「あなたは本当の殺意というものがわかっていない」と訴えたい人もいる。

「あいつを殺せ」と言われて殺す人たち・・・。

「死ねばいいと思ってました」と殺さない人たち・・・。

世界は様々な殺意に満ち溢れている。

だが・・・この世界には・・・殺さないという決断もある。

なにしろ・・・ほとんどの人が殺さなくてもいつか死ぬのだから・・・。

それでも大切なものを奪った人間に生きていてほしくないと願うことはそれほど悪いことではないと思う。

で、『A   LIFE~愛しき人~・第6回』(TBSテレビ20170219PM9~)脚本・橋部敦子、演出・木村ひさしを見た。演出家としては井川颯太(松山ケンイチ)と外科医トリオの白川(竹井亮介)赤木(ちすん)そして黒谷(安井順平)のかけあいでもっと笑いもとれるはずだが・・・それをギリギリ抑えてシリアスにまとめたのだろう・・・何度かヒヤヒヤしたが・・・よく抑制されていたと思う。殺したいという衝動も笑わせたいという衝動も似たようなものなのである。笑わせてはいけないところでは笑わせないというも一つの演出力なのだ。

「俺が告知する前に・・・自分で診断したらしい・・・」

幼馴染の外科医・沖田一光(木村拓哉)に報告されて・・・自制心を失う副院長の座にある鈴木壮大(浅野忠信)・・・。

絶望に心臓を掴まれている壮大の沸点は低い。

「お前が告知してくれるって言ったじゃないか・・・こんなことなら俺が言えばよかったよ」

一人で・・・治療の困難な部位の脳腫瘍を自覚してしまった・・・壇上記念病院の院長令嬢である小児科医・壇上深冬(竹内結子)の心を想像し・・・やりきれなさを爆発させる壮大なのである。

一光も壮大の言葉に理不尽さを感じないでもないが・・・妻を思う夫の心とあわせて・・・自分自身の共感もあり自制する。

「・・・」

「家に帰るのがこわいんだよ・・・どんな顔して深冬に会えばいいんだよ・・・」

(俺だって・・・)という感情をねじ伏せる一光なのである。

「私っていつふられたの」という深冬の言葉にずっとうろたえている一光。

十年前に終わったと思った恋が終わっていなかったのである。

なにしろ・・・そのために・・・いい年して独身の一光なのだった。

苦い失恋を忘れるために・・・一日に二人ずつ患者を切って切って切りまくったのだ。

壮大は歯をくいしばり・・・笑顔を装って家庭に戻る。

保育園に娘の莉菜(竹野谷咲)を迎えに行って帰るのだ。

「お父さんの手はどうして大きいの」

「え」

「どうしてどうして」

家路につく子供たちは「どうして」を連発している。

「保育園で流行ってるのか・・・」

どうして・・・せっかく入手した妻が脳腫瘍なんだよ・・・と叫びたい壮大なのである。

帰宅した莉菜は母親が恐ろしい病に冒されているとは夢にも思わない。

「今日の夕飯は何?」

「スパゲティー・ミートソースだよ」

「わ~い、やった~」

壮大の心は竦み上がるのだった。

「夏が帰ってくればいいのに・・・」と絵本を読み終わる深冬・・・。

まもなく・・・娘が母親を失ってしまうかもしれないことに・・・深冬は茫然とする。

そして・・・自分の死後の準備を始めるのだった。

「大切なものをまとめておいたわ・・・ごめんね・・・腫瘍のこと・・・いろいろ気を使わせて・・・」

「大丈夫だよ・・・俺たちの病院を信じろよ・・・俺がついているから」

(一光だっているだろう)とは口が裂けても言わない壮大だった。

壮大の心には大きな穴があいているのだ。

颯太は気配を察していた。

一光の変化を読んだらしい。

颯太もただの親の七光ではないのである。

「深冬先生が・・・病気のことを知ってしまったんですね」

「・・・」

「治療方法が見つかったら告知するのでは・・・」

「仕方ないだろう・・・深冬先生だって・・・医者なんだから」

「どうするんですか」

「なんとしても治療方法を見つけるさ・・・医者が限界だって言ったら・・・患者の命はそこまでなんだから」

「・・・」

颯太は・・・一光が絶望から目をそらしているだけではないのかと懐疑する。

病気は進行していくのである。

救急医療なら一刻の遅れが取り返しのつかないことになる。

脳腫瘍も・・・治療方法が見つかっても手遅れということもある。

颯太の連想が・・・急患を搬送させるのだった。

「救命から・・・呼び出しがかかった」

二人の心臓外科医は救急外来に向う。

「パチンコ屋で意識を失いました」

「大動脈解離の疑いがありますね」

「CTの検査は・・・」

患者の榊原達夫(高木渉)は大動脈解離(正常な層構造が壊れた大動脈は弱くなり最悪の場合破裂してしまう)でDeBakey分類II型(上行大動脈に解離が限局する)と診断される。

「脳虚血状態で意識が回復しないので・・・早急にトータルアーチリプレイスメント(弓部全置換術)が必要と考えます」

壊れかけた血管を人工血管に置換する手術である。

一光の診断に同意する第一外科部長・羽村圭吾(及川光博)だった。

「お願いできるかな」

「はい」

「初めてなので・・・見学させてください」

申し出る颯太だった。

「患者の娘さんが・・・お見えになりました」

真田事務長(小林隆)が案内してきたのは・・・顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)だった。

颯太は胸を張る。

「全力を尽くしますので・・・同意書にサインをお願いします」

「・・・同意しません」

「え・・・」

応接室で榊原弁護士に事情を聞く医師たち。

「同意しないと・・・私が悪いようなことをおっしゃいますが・・・悪いのはあの人です・・・あの人は十五年前に私と母親を捨てて・・・他の女と暮らし始め・・・それ以来・・・音信不通だったのですよ・・・私がどれだけ苦労したか・・・ここで話しますか」

「しかし」と外科部長。「あなたと患者の関係がどうあれ・・・手術しないと危険な状態なのです・・・そしてここは病院です・・・」

「人命第一です」と一光。

「だったら・・・同意書なしで・・・手術なされば・・・」

「・・・」

「どのくらい危険な手術なのですか」

「日本の統計によれば・・・手術になんらかの重大なアクジテントが生じるのは27%・・・つまり・・・四回に一回は何かが起こる・・・」

「死ぬことも・・・」

「あります・・・」

「では・・・こうしましょう・・・執刀医は・・・井川先生でお願いします」

「え」

「私が最も信頼するのは・・・井川先生ですので・・・その条件で・・・手術に同意する書類はこちらで用意します・・・私は弁護士ですから」

「・・・」

壮大は愛人でもある榊原弁護士を問いつめる。

「どういうつもりなんだ・・・」

「わかるでしょう・・・私は父親を殺したいほど憎んでいるの・・・せっかくのチャンスを逃す手はないでしょう」

「馬鹿なことを言うな」

「あなたなら・・・わかってくれると思っていたわ・・・私たち・・・父親によって心に穴をあけられた似たもの同士でしょう」

「何を言ってるのか・・・わからんね」

「あなただって・・・父親を捨てたくせに・・・」

「・・・」

壮大は・・・鈴木医院を継がずに壇上記念病院の娘婿に納まった男なのである。

医師たちは相談する。

「こうなったら・・・僕がやりますよ」と颯太。

「いや・・・君では」と難色を示す外科部長。

「しかし・・・あれじゃあ・・・僕なら確実に患者を殺すみたいなことでしょう」

「まあ・・・そうみたいだね」

「誰のための手術なんだよ」と一光。

「もちろん・・・患者さんのためです」

「わかった・・・僕が助手をします」と一光。

「榊原弁護士も・・・落ちつけばブラックジョークですますだろうし・・・何かあったら僕と君とで処理しよう・・・」と外科部長・・・。

しかし・・・同意書には榊原弁護士の監視が条件となっていた。

「他の先生方は手出し無用です・・・私が信頼しているのは・・・井川先生だけなので・・・」

「だが・・・手術が無事にすめば問題ないのだろう」

「そうですね・・・1/4ですものね」

「・・・」

「しかし・・・井川先生以外の方が手を出して何かあった場合には・・・条件を破ったということで訴訟できますので」

榊原弁護士の冷たい視線に慄く颯太だった。

壮大は外科部長に笑顔を向ける。

「なんとかしてくれよ・・・」

「困った時だけ・・・丸投げか」

「友達だろう」

「君の都合のいい時だけの友情なんだろう・・・」

桜坂中央病院の山本医師(武田鉄矢)の一件以来・・・心にしこりが残る外科部長なのである。

奇妙な条件の手術に懊悩する颯太だった。

「どうしたの」とスーパー・オペナースの柴田由紀(木村文乃)が顔を出す。

最近・・・ナース柴田は颯太の苦悩にも敏感なのである。

「だって・・・無理なんだもの」

「じゃあ・・・あきらめるの・・・まあ・・・沖田先生がなんとかしてくれるものね」

「・・・」

颯太はナース柴田によって闘志に着火されるのだった。

意識不明の患者は・・・世界で人間たちがそれぞれの思惑を衝突させているとは夢にも思わない。

しかし・・・世界とはそういうものなのだ。

世の中には二種類の患者がいる。

特別扱いされる患者とそうではない患者だ。

そして・・・特別扱いが幸せなことであるとは限らないのだ。

壮大は穴のあいた壁に掛けられた風景画を眺める。

榊原弁護士の言葉が・・・壮大を少年時代への回想へと誘う。

沖田一心(田中泯)の寿司屋で小学生の一光がテスト結果を父親に伝えている。

「四十八点かよ・・・しょうがねえな」

「壮大は九十八点なんだぜ・・・すごいだろう」

「お前が自慢してどうする」

「俺・・・腹へっちゃった」

「しょうがねえな」

一心は鯛茶漬けを振る舞う。

「壮大・・・お前も食べていきな」

「マサオですよお」

鈴木医師が・・・壮大の答案用紙を見て叱る。

「医師にはたった一つのミスも許されない・・・98点は0点と同じだ・・・100点以外は価値がないんだ・・・よく覚えておきなさい」

あれが・・・俺の心に穴を開けたのか。

だからって・・・俺は父親を殺すほど憎んでは・・・いない。

壮大は・・・藁に縋る思いで一光の元へと向う。

深冬の手術方法が見つからず・・・結紮のトレーニングで気持ちを鎮める一光。

その姿に壮大は回想に導かれる。

仲睦まじい一光と深冬の姿。

俺の心の穴が・・・二人を陥れたのか。

俺の百点満点を求める気持ちが・・・どんどん穴を広げて行くのか。

だから・・・罰として・・・深冬は脳腫瘍になったのか。

俺を罰するために。

俺から大切なものを奪うために・・・。

「榊原弁護士の・・・妙な意地に巻き込んですまん」

「いや・・・」

「あっちは・・・なんとかするから・・・お前は深冬のことに専念してくれ」

「そういうわけにもいかないよ」

「わかっているのか・・・明日は検査だ・・・検査で腫瘍が大きくなっていれば・・・いや・・・とにかく・・・二ヶ月前から・・・まだ何もできていないってことに・・・」

しかし・・・壁に治療方法をめぐる一光の苦悶の痕跡を見出す壮大。

「わかってるよ・・・そんなこと」

「とにかく・・・たのむよ」

「・・・ああ」

深冬の命が特別な命であることに・・・異論のない二人なのである。

榊原弁護士は・・・まだ・・・その点について「知らない」のだった。

そのことが・・・榊原弁護士の心の穴をさらに広げているのである。

颯太はナース柴田の支援を受けて・・・万端の準備を整えるために努力を重ねる。

ドクタールームでのやりとりを・・・為す術もなく傍観する深冬・・・。

頭部MRI検査の結果・・・深冬の腫瘍は前回検査よりも5 mm肥大していた。

「死」が深冬を追いかけてくるのだった。

自分がまもなくこの世を去って行く。

死線を乗り越えたばかりの父親・虎之助(柄本明)は・・・それを知らずに昔馴染みの病棟ナースと学会に出かけて行った。

沖田医師と二人で小児科を盛りたててくれ・・・という虎之助・・・。

しかし・・・深冬は余命数ヶ月・・・。

そして・・・一光は深冬の手術のために残留しているだけなのだ。

「なんとか・・・治療方法を見つけます」

「よろしくお願いします」

しかし・・・医師であるために深冬にはわかっている。

希望はほぼないのだ。

自分は・・・もうすぐ死ぬのだ。

幼い娘を残して・・・この世から消えてしまうのだ。

深冬の中に渦巻く不安を・・・榊原弁護士は知らなかった。

「幸せそうですね」

「え」

「あなたのように・・・恵まれた人にはわからないでしょうね」

「・・・」

「お金の苦労をしたこともなければ・・・有能な御主人がいて・・・おまけに・・・腕のいい元カレが側で支えてくれる・・・」

「そうね・・・私は幸せよ」

榊原弁護士の敵意に・・・女の直感が働く深冬だった。

しかし・・・そんなことは深冬にとってすでにどうでもいい。

なにしろ・・・死ぬのだ。

深冬の虚無に気圧される榊原弁護士は・・・さらに泥沼に足を踏み入れる。

榊原弁護士の父親の手術が開始される。

モニターで手術を監視する榊原弁護士・・・。

「こんな時に・・・いい加減にしてくれよ・・・」と壮大は愚痴る。

「こんな時って・・・どんな時ですか」

深冬の病状について口を閉じる壮大。

「・・・」

「提携の件も上手くいっているし・・・いいですよ・・・私たちの関係を清算しても・・・奥様もそろそろ私たちの関係に・・・気がついているようだし・・・」

「そうか・・・ありがとう」

「・・・」

「出て行けよ・・・」

「弁護士契約も切ってもらって構いません」

その時・・・手術室でアクシデントが発生する。

体外循環式装置による送血中に逆行性大動脈解離が起きたのだった。

レアケースに動きが止まる颯太。

危機を感じた外科部長が手術室に向う。

壮大は外科部長に電話をする。

「おい・・・急いで」

「俺に・・・命令しないでもらいたいね」

「なんだって」

「院長は学会で不在だし・・・ここでなんかあったら副院長責任だろう」

しかし・・・手術衣に着替え手術室に入る外科部長だった。

壮大は・・・思わず手術室の拡声器で指示を出す。

「おい・・・なんとかしろ・・・沖田先生・・・変わってくれ」

「うるさいな・・・静かにしてくれ・・・執刀医が決断中だ」

「・・・」

「井川先生・・・準備は万端なんだろう?」

「・・・フローダウン」

人工心肺からの送血を減ずる指示を出す颯太。

マスク越しに颯太の気迫が周囲を圧する。

「だな・・・それでいい」

トータルアーチリプレイスメントは無事に終了した。

虚脱する颯太にナース柴田は焼き肉をおねだりするのだった。

榊原達男は意識を取り戻した。

榊原弁護士が病室に姿を見せる。

「今回・・・医療費はすべてこちらがお支払いしますので・・・」

「みのり・・・」

「私は弁護士になりました・・・すべて母のおかげです・・・今後は一切・・・私を頼るようなことは願い下げですのでよろしくご理解ください」

「・・・」

退場する榊原弁護士を追いかけるドクターたち。

榊原弁護士はふりかえる。

「井川先生が手術を成功させてくれたことに感謝しています・・・おかげで今度は私があの人を捨てることができました」

「そういう意地を張れるのも・・・お父さんが生きているおかげなんじゃないの」

「沖田先生・・・自分の親子関係がすべての親子関係だと考えるのは・・・傲慢ですよ」

「・・・」

榊原弁護士は・・・父親に捨てられてからの苦難の日々を振り返るうちに夜に迷い込んだ。

道行く誰かに足をとられ転倒する捨てられた女。

「誰が望んで捨てられると言うのか・・・私はただ愛されたかっただけ」

道に倒れても呼び続ける誰かの名を持たない榊原弁護士なのである。

深冬のことで頭がいっぱいの一光。

荷物を抱えて父親の寿司屋にやってくる。

「なんだ・・・土産か」

「洗濯ものだよ」

「ちっ」

「腹減った」

「何にもねえよ」

しかし・・・鯛茶漬けを出す息子を溺愛する寿司職人。

ぼんやりと食べ始める一光。

一心は塩をふる。

「なんだよ」

「鯛が浮かばれねえんだよ」

息子の疲れを見てとった父親は塩分を増量したのだった。

「お・・・美味」

一光は一心の愛に溺れるのだった。

院長に・・・桜坂中央病院との提携について報告する壮大。

「よくやった・・・と言うとでも思ったのか・・・学会で嫌味を言われたよ・・・恩師の弱みにつけ込んだそうじゃないか」

「私はただ・・・小児科の赤字を埋めようとしているだけです」

「お前は・・・経営者として品性に欠ける!・・・こんな合併に価値などない!」

娘婿に敵愾心を燃やす・・・院長の悪意に心の穴を広げる壮大だった。

院長もまた・・・副院長の苦悩をまだ知らないのである。

颯太は病院に戻った一光に言葉をかける。

「アドバイスありがとうございました・・・沖田先生のおかげで・・・自分の限界を突破できた気がします・・・だから・・・先生も・・・不可能を可能にしてください」

「・・・」

深冬の「死」という暗い穴の中で男たちは足掻くのだった。

院長は孫に絵本を読んでいた。

「夏が帰ってくればいいのに・・・」

深冬は子供服をたたんでいた。

幼い娘は祖父よりも深冬に甘える。

「お父さん・・・遅いね」

「そうねえ」

「ねえ・・・どうして」

「儂がいるからじゃないのか」と微笑む院長・・・。

深冬の父も深冬の娘も・・・深冬の「死」の暗い穴の淵に立っている。

「海で泳ぎたい」

「夏じゃないから無理よ」

「どうして・・・ねえ・・・どうして」

穴の外からの声を煩わしく感じる深冬。

脳腫瘍なのである。

「うるさい」

母の罵声に驚く莉菜だった。

泣きだした莉菜を構いながら・・・娘を伺う虎之助・・・。

「すみません・・・お父さん・・・少しお願いできますか」

「ああ・・・いいけど」

娘を怒鳴りつけた自分に動顛した深冬は・・・主治医の元に向う。

かって・・・恋をした一光の元へ。

「どうした・・・」

「娘を怒鳴ったの」

「・・・」

「オペしなかったら・・・いつまで生きられる?」

「そういうことは・・・気休めだ」

「わかってるわ・・・明日かもしれない・・・夏に海で泳げると思う」

「四ヶ月か・・・五ヶ月だ」

「どうして・・・私が未来の展望を話している時に言ってくれなかったの・・・私のオペのためにここにいるだけだって・・・言ってくれればよかったのに」

「オペの方法は必ず見つけ出す・・・だから君は終わったわけじゃない」

「でも・・・大丈夫だって言ってくれないじゃない・・・私・・・怖いのよ」

深冬は涙が止まらなくなるのだった。

俯いて泣き続ける深冬を思わず抱きしめる一光。

その手は深冬の背中を摩り・・・髪を撫でてしまう。

一光の中で蘇る・・・深冬への恋情。

「絶対に救うから・・・それまでどこにもいかないから・・・絶対に」

深冬を抱きしめる一光を壮大が見ていた。

壮大の中で何かが壊れて行く。

壮大は二人に背を向けて笑いながら歩き出す。

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