スタートダッシュで出遅れて過去問やったら泣かされる(深田恭子)夕飯食堂(小林薫)
駅伝の醍醐味の一つはごぼう抜きである。
追いつけ追い越せひっこ抜けなのである。
これは時間差スタートという出遅れも・・・個人の力で逆転できるという可能性を示唆している。
短距離走で一分遅れのスタートでは勝負にならないが・・・長距離走なら逆転は可能なのである。
人生はどちらかといえばマラソンだ。
親子三代でいえば・・・祖父は終盤戦・・・両親は中盤戦・・・そして子供は序盤戦を走っている。
学歴がすべてではないが・・・人生の岐路においてある程度の重要な要素なのである。
両親は子供がスタートダッシュに出遅れていることに気が付き・・・声援を送る。
子供は葉を食いしばり前を見つめる。
人生はレースではないという考え方もある。
しかし・・・誰もが敗北の屈辱よりも勝利の栄光に包まれたいと思うものなのである。
もちろん・・・そうではない変態は別として。
人生が勝負であることは・・・好みの問題ではなく自然なのである。
で、『下克上受験・第5回』(TBSテレビ20170210PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・福田亮介を見た。桜井信一(阿部サダヲ)はろくでなしである。娘の佳織(山田美紅羽)の担任教師・小山みどり先生(小芝風花)は「親の見栄で中学受験なんて子供が可哀想」と指摘するが明らかにそういう側面はある。家計のことなど考えずに勝手に職を辞し妻の香夏子(深田恭子)が就職したにもかかわらず家事を完遂しないクズの側面もある。勉強が好きだったわけでもないのに高校進学を推奨しなかった父親の一夫(小林薫)を逆恨みしている側面もある。いろいろと素晴らしいとは言えない信一なのだが・・・唯一つ・・・佳織の幸せを願いそのために中学受験が不可欠であると信じていることは間違いないのだった。それが愚かな思いこみにすぎないにしても・・・誰が信一の心情を否定できるだろうか。
信一は妻と娘のために朝食を作るのであった。
妻と娘はお寝坊さんである。
スマイベスト不動産にハウジング・アドバイザーとして勤務することになった香夏子なのである。
母親のスーツ姿に「お母さんかっこいい」と喜ぶ佳織だった。
就寝前に名刺を眺めすぎてうっかり布団と一緒にたたむ香夏子だった。
「あった」
「お母さん、遅刻しちゃうよ」
慌ただしい桜井家の新体制発足の朝・・・。
洗濯して掃除と・・・信一もなんとか家事をこなす。
「俺はスーパー・ハウスキーパー・・・そしてスーパー・ティーチャーなのだ」
信一は自画自賛するが・・・慣れないことを始めた時は用心が必要なのである。
まあ・・・桜井家にそんなこと言っても無駄だけどな。
家事を終えた信一は営業前の居酒屋「ちゅうぼう」で受験勉強を開始する。
「誰もいないと寂しいんだよ」
店主の松尾(若旦那)は嫌な顔一つしない。
「だけど香夏子のことはちょっと心配なんだ・・・あいつ可愛いだろう・・・変な男に目つけられたらって・・・世間には口ばっかで身の程知らずな男っているからな」
「それ・・・お前な」
ツッコミはする松尾だった。
楢崎哲也(風間俊介)とコンビを組んで物件を顧客に案内する香夏子。
顧客は乳児を連れたの中津川夫妻である。
乳児が泣きだし慌てる中津川夫人(黒坂真美)・・・。
一児の母親として手慣れた対応を見せる香夏子なのであった。
「すみません」
「私にも子供がいますから」
香夏子のコミュニケーション力に好感を抱くナラザキなのだった。
長谷川部長(手塚とおる)も香夏子を嫌らしい目で見詰めつつ食事に誘い・・・スマイベスト不動産は華やぐのである。
そりゃ・・・そうだわなあ。
大江戸小学校では靴ビショビショ事件以来欠席の続く麻里亜(篠川桃音)の件で小山みどり先生は父親の徳川直康(要潤)と面談していた。
「色々とわがまま言ってすみません」
「休みが続くと・・・登校しづらくなりますから」
「もう少し様子を見させてください」
零点シスターズことコマツコになれそうなリナ(丁田凛美)と松井愛莉の幼少期を演じられそうな美少女のアユミ(吉岡千波)は綺麗に洗った靴を佳織に見せる。
「この間のあれはさ・・・ほんとに私たちじゃないから」とアユミ。
「わかってるよ」と佳織。
「でもあの子・・・絶対に私たちだと思ってるよね」とリナ。
徳川氏に気がついた佳織は靴を受け取って走る。
「あの・・・これ・・・麻里亜ちゃんの靴返そうと思って」
「一応・・・受け取っておくよ」
「直接渡したいから会わせてもらえますか?」
佳織は先を読む力に優れているのだ。
徳川氏にリナやアユミの心情を伝える力はないと洞察したのだ。
あまり・・・優秀そうではない家政婦の芳江(山野海)は佳織に高圧的な態度を見せるが・・・麻里亜は佳織を歓迎する。
「飲み物を用意して」
「はい・・・お嬢様」
「あの・・・風邪の具合は・・・」
「え・・・ああ・・・もう治った」
「よかった・・・あの・・・これ・・・この間の靴・・・あれ・・・リナとアユミがやったんじゃないんだ・・・リナたちはたまたま拾っただけで・・・これ・・・ちゃんと洗ったって」
「下駄箱にいれておいて・・・捨てちゃダメよ」
「はい・・・お嬢様」
「二階に来て・・・」
お嬢様の部屋に感激する佳織だった。
「うわあ・・・広い・・・大きい」
書架には洋書も並んでいる。
「麻里亜ちゃん・・・これ読めるの?」
「生れたの向こうだから」
「向こう」
「こちらにきたばかりの頃は発音がおかしいってからかわれた」
「全然おかしくないよ」
「家庭教師を呼んで全力で修正したの」
「さすがは麻里亜ちゃん」
「受験勉強・・・どこまで進んでいるの?・・・過去問やっている?」
「過去問?」
「前に出題された入試問題だよ」
「これは・・・桜庭学園・・・二年前の入試問題・・・」
「やってみる?」
「でも・・・私にはまだ早いって・・・お父さんが」
問答無用で専用複写機でテスト用紙を作成する麻里亜・・・。
初めての過去問に挑んだ佳織は・・・。
香夏子が帰宅すると信一と一夫がカレーを作っている。
「昔はこうやって二人で作ったもんだ・・・」
「作れるもんなら・・・なんでも作るよ」
「深夜食堂みたい」
「記憶には青魚がいいんだってよ・・・DDTというのが入ってて」
DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)は有機塩素系の殺虫剤である。
青魚の成分で学習機能向上作用があると言われるのはDHA(ドコサヘキサエン酸)だ。
「佳織は?」
「友達のところで遅くなるって」
友達と聞いてリナとアユミの家に電話する香夏子・・・。
「誰の家って言ってたの」
「ええと・・・」
記憶力に問題のある信一だった。
ママさんネットワークに不慣れなのである。
心配して探しに出た信一と香夏子・・・。
そこへ・・・運転手付の徳川家の車で送られてくる佳織だった。
「どこへ行ってたの」
「麻里亜ちゃんち・・・お父さんにそう言ったよ」
「信ちゃん・・・」
「・・・」
祖父の手作りカレーを食べる佳織は心ここにあらずである。
「どうしたんだ・・・」
「麻里亜ちゃんが凄すぎて・・・家はコンビニみたいだったし」
「コンビニ?」
「大きなコピーの機械があって・・・それで桜庭学園の過去問をコピーして」
「過去問・・・」
「麻里亜ちゃんは満点だったのに・・・私・・・一問もできなかった」
「えええ」
「後から考えたらわかりそうな問題がいくつかあったけど・・・麻里亜ちゃんが凄い早さで答えを書くんで・・・私・・・頭が真っ白になって・・・もっと勉強しないと・・・麻里亜ちゃんに追いつけない」
「佳織・・・」
「どうしよう・・・」
佳織は学力格差を実感したショックで泣きだしてしまうのだった。
泣き寝入りした佳織。
「俺塾」では香夏子が囁く。
「大丈夫なの」
「今の佳織じゃ・・・桜庭学園の過去問なんて無理なんだよ」
「遺伝的に」
「違うよ・・・時期尚早なんだ・・・今は遅れを取り戻している段階なんだから」
「・・・」
「徳川の娘は・・・前にやったことあるんじゃないかな」
「え」
「一度やってれば全問正解だって簡単だ」
「そんなこと・・・」
「お前だって・・・友達とゲームやる時・・・自分の得意なやつやるだろう」
「それは・・・信ちゃんでしょう・・・」
「悪気はないってことだよ・・・いいところ見せたいだけなんだよ・・・子供だから」
「信ちゃん・・・子供なのね」
「・・・」
しかし・・・あまりのレベルの違いを見せつけられ佳織は自信喪失してしまったのだ。
「もう・・・おいつくのなんて・・・無理だよ・・・麻里亜ちゃんの背中が見えない」
「大丈夫だよ」
「でも・・・」
「よし・・・じゃあ・・・全国オープン模試にチャレンジしよう・・・過去問はお前には早すぎただけなんだ・・・百メートル泳げないのにオリンピックに出場するようなもんだ。でも・・・今まで勉強したことは無駄じゃない・・・それを模試で確かめるんだ」
「もし・・・前と同じだったら・・・」
「さんな弱気でどうする・・・よし・・・こうしよう・・・全日本小学生テストあっただろう・・・あれより悪かったら・・・中学受験はきっぱり諦める」
「諦める・・・」と佳織の負けん気に火がつく。「・・・諦めたくない」
佳織は・・・宿敵の麻里亜と一緒に登校しようと思うのだった。
家政婦は「お嬢様は風邪が完治しておりません」と応じる。
「麻里亜ちゃんに・・・全国オープン模試一緒に受けようと伝えてください」
麻里亜は登校した。
「麻里亜ちゃん・・・風邪は治ったの」と小山みどり先生。
「はい」
佳織は麻里亜を笑顔で迎えるのだった。
麻里亜は佳織のためにできることをした。
佳織は麻里亜のためにできることをしたのだ。
調子に乗って信一はコピー機のリース契約を結ぶのだった。
基本的に大雑把な信一は電気料金の督促状をゴミとして捨ててしまう。
香夏子は滞納している電気料金を払うように頼んでいたがうっかり忘れる信一。
送電停止処分である。
「なんで振り込みじゃないんだ」
「あなたが嫌だって言ったんじゃない」
変なことに拘るが面倒くさいことは嫌い。
そういう困った人間はよくいる。
家事に不慣れな夫と・・・慣れない職場で緊張する妻の緊張が高まっていた。
そんな最中の・・・全国オープン模試当日である。
「電気料金」を誰が支払いに行くかでもめる信一と香夏子。
信一に雑用を押しつけられ腹を立てた香夏子は気分を鎮めようとお茶を沸かす。
そこに・・・ナラザキから電話が入る。
「今日の契約・・・お客様が1時間早くしてくれないかって」
あわてて出勤する香夏子・・・やかんの火の消し忘れに騒然とするお茶の間だった・・・。
香夏子は顧客との契約のために携帯端末の電源をオフにした。
「女の人がいてホッとしました」
中津川夫人の言葉に仕事の喜びを感じる香夏子・・・。
一方・・・模試会場で徳川氏と会った信一はカフェで旧交を温めることになる。
「お久しぶりですね」
「その馬鹿丁寧な喋り方・・・なんとかならないの?・・・小学校一緒だったんじゃん」
「僕なんか・・・酒の力を借りないと娘と話せないですよ」
「ええっ」
「勉強・・・教えてるとか」
「教えてるんじゃねえよ・・・一緒に勉強してんのさ・・・算数とか難しいから」
「難しい・・・ですか」
「俺にとってはな・・・」
「いや・・・嫌みで言ったんじゃないんです・・・女の子は色々難しいでしょう」
「そういうのは・・・嫁さんまかせだよ・・・そっちだって・・・奥さんが」
「妻は二年ほど前に出て行ってしまって・・・」
「あ・・・悪いこと言っちゃったかな」
「・・・」
その時・・・信一の携帯端末に・・・マンションの管理人から連絡か入る。
「えええええええええええ」
帰宅した香夏子は・・・一夫が窓を修理しているのに驚く。
「なんで・・・電話に出ないんだ」
「大事な契約があったので・・・電源切ってた」
「ガスコンロ消すの忘れただろう」
「あ・・・」
「火災報知器が鳴って・・・隣の家の人が消防に電話して・・・ガラスを割って・・・消防隊が入ったそうだ・・・とりあえず応急処置を」と一夫。
「なにやってんだよ・・・一歩間違えたら・・・火事になってたんだぞ」
「ごめんなさい・・・そんなつもりじゃ・・・佳織は」
「徳川のところで預かってもらってる・・・」
「私・・・迎えに行ってくる」
「送ってくれるように頼んであるから」
「・・・」
鬱憤がたまっていた信一は・・・香夏子を労わる心を失っていた。
「お前・・・ちょっと浮かれてんじゃねえのか・・・外に働きに出て・・・お客さんにちやほやされて」
「信一・・・そのいい方はないだろう・・・香夏子さん・・・こいつヤキモチ焼いてんだよ・・・嫁さんが働きに出て思った以上にうまくやってるから」
「そんなんじゃねえよ」
図星だったのでさらにいきりたつ信一である。
「信一は勉強をする・・・香夏子さんは仕事をする・・・そういう風に二人で決めたんだろう」
「親父・・・黙っててくれ・・・俺は火の用心について」
「中学受験なんてしなくたって・・・幸せになる道はある・・・俺はそう思っていた・・・怪我が治ったら・・・すぐに現場に復帰しようと思ってあちこちに声かけたんだ・・・でも・・・俺に回ってくる仕事なんてない」
「お父さん・・・」
「気難しくて文句の多い年寄りより・・・もっと若い人でってな・・・道具もやたらと新しいもんになっちまってるし」
「そりゃ・・・仕方ねえよ・・・時代が違うし」
父親のわびしさに胸がつまる信一・・・。
「男が外で稼いで・・・女が家を守る・・・娘はいつか嫁に行く・・・そんな時代は終わっちまったらしい。だから信一・・・お前が佳織をいい学校に行かせようってえ気持ち・・・今はよくわかる・・・けどな・・・そのためには佳織のことだけを考えて夫婦が一つにならなきゃなんねえ・・・え・・・そうだろう」
そこに・・・佳織が帰宅する。
「佳織・・・」
「お母さん・・・佳織・・・疲れちゃった・・・」
母と娘の入浴タイムである。
様々な思いを胸に桜井一家は夜を越えていく。
一夫はイルミネーションの飾られた明るい家を見る。
そんな家は・・・一夫が信一を育てていた頃にはなかったのだ。
時代は変転していくのだった。
模試結果発表の日・・・。
結果が悪ければ・・・桜井一家の野望は夢と消えるのだ。
仕事中の香夏子もこらえきれずに・・・ナラザキに仕事を押しつけて会場に走るのだった。
似たもの夫婦である。
ぐったりした夫と娘を発見する香夏子・・・。
「だめだったの・・・」
「いや・・・あがってた・・・成績あがってた・・・245点・・・偏差値52」
「これって・・・すごいんだよね」
「すごいよ・・・短期間でこれだけよくあげましたねって言われた」
「おめでとう」
「おかあさん」
前回・・・偏差値41
今回・・・偏差値52
11ポイントのアップで・・・佳織は下流から中流へと這い上がったのである。
緊張から解放され・・・佳織は香夏子の腕の中で泣きじゃくった。
最下位で襷を受け取って二十人ごぼう抜きにしたがまだ前に二十人いる感じ・・・。
受験まで残すところ・・・およそ一年と一ヶ月である。
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