ナンパーマン(賀来賢人)VSニーチェマン(間宮祥太朗)超人たる資質なし(早見あかり)
原作者の藤子・F・不二雄には「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」(1976年)という短編作品がある。
「中年スーパーマン左江内氏」(1977年)と表裏一体の作品と言える。
「ウルトラ・スーパー・デラックスマン」の主人公はキャラクターとしての「小池さん」である。
「小池さん」の顔をした句楽兼人は超人力により冷酷非情の独裁者となっていくのである。
政治権力を手中にした独裁者たちが躍進する2017年である。
独裁者になるためには世襲だろうと選挙だろう革命だろうと手段は問われない。
そして・・・今日は81年目の2月26日なのである。
腐敗した国家権力の打破を目指した青年将校たちは反乱に成功し革命に失敗する。
忠臣を殺害された天皇は首謀者の殺害を命じた。
法治国家では・・・国家と法令は優先順位に常に問題を含んでいる。
どちらも力の源泉である。
平和に呪縛された国家では・・・たとえ領土を不法占拠されても国民を拉致されても・・・ひたすら話し合いによる解決を求めなければならない。
聖なる力の行使者として小心者のサラリーマンが選ばれることの馬鹿馬鹿しさは・・・作者の胸に秘めた平和への祈りと考えることもできる。
さらに遡上すれば「パーマン」(1966年)があり・・・弱虫が正義の為に必死で勇気を奮い起こして戦うことが賞賛される。
どうか・・・力を握ったものが・・・傲慢でありませんように・・・。
庶民は常に願うのである。
で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第7回』(日本テレビ20170225PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。スーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)の本名は左江内英雄である。フジコ建設営業3課の課長は簑島光男(高橋克実)、左江内係長の部下たちは池杉照士(賀来賢人)、蒲田みちる(早見あかり)、下山えり(富山えり子)でようやく姓名のネーミングが終了したらしい。架空世界なのであるべきものがないのはよくあることである。
コンビニを拳銃強盗(鈴木浩介)が襲撃する。
驚く店長(坂田聡)と恐怖の叫び声をあげる女性客(愛原実花)・・・。
「きゃああああああああ」
「うるさいんだよ・・・タカラジェンヌでもあるまいし」
左江内氏登場である。
「何時だと思ってんだよ」
「何だ・・・お前は」
「スーパーマンです」
「本物ですか」
「本物です・・・睡眠中の事件は困るんですけどね」
「スーパーマンも眠るんですか」
「眠りますよ・・・ウルトラマンだって眠ると思いますよ」
「えええ」
「ウルトラマンだって家に帰れば寝るでしょう」
「家ってM78星雲にあるんですか」
「地球から千六百光年ですからね・・・通勤は大変だと思いますよ」
「通勤しないでしょう・・・地球に単身赴任じゃないですか」
「えええ・・・故郷に妻子を残してですか・・・そりゃあ・・・大変だなあ」
「ウルトラマンは独身でしょう」
「ウルトラの母がいてウルトラの父がいて・・・タロウもいるでしょう」
「タロウはウルトラマンの息子じゃないでしょう」
「戦争で死ねなかったお父さんのために」
「お前ら・・・何を呑気に立ち話してんだよ」
発砲するコンビニ強盗・・・。
しかし・・・弾丸はスーパースーツを貫くことはできない。
「えええ」
「本物だ」
「かっこいい」
左江内氏はコンビニ強盗から拳銃を取り上げると粘土のようにひねりつぶすのだった。
コンビニ強盗は降参した。
「警察を呼んでください」
「はい・・・あの・・・なんの御礼もできませんが・・・せめておでんでも・・・」
「あ・・・そういうのはいただけないんです」
左江内氏は・・・時々・・・スーパーマンとしての力を利用して通勤したりするが・・・そういうことにも罪悪感をもつ小心者なのである。
正義の力を行使して利益供与を受けたのでは・・・善が悪に転落すると考えている律儀者なのだ。
「でも・・・朝になればどうせ廃棄するだけなので・・・」
「そうですか・・・じゃあ・・・少し・・・頂くかな」
「あの・・・お勘定を」と女性客。
「ああ・・・お客さんには怖い思いさせちゃったので・・・料金はサービスさせてもらいます」
「いつも心に太陽を」
女性客が去ると小池警部(ムロツヨシ)と制服警官の刈野(中村倫也)が現れる。
「え・・・いいな・・・コンビニで晩酌」
「寝酒です」
「私もいいですか・・・」
「あ・・・じゃあ・・・ボクも」
「君は・・・犯人を署に連行して」
「えええ・・・そんなあ・・・じゃあ・・・君・・・一人で言ってくれる」
「はい」
「・・・なわけないだろう・・・さっさと連れて行け」
「じゃ・・・即行で帰ってきますから・・・ちくわぶとっといてくださいよ」
「ちくわぶ・・・とっとくから」
首都圏ローカルの食材である・・・ちくわぶはちくわではありません。
「じゃあ・・・ごちそうさまでした」
左江内氏が去ると忘却光線の効果で・・・店内には店長とおでんを食べている小池刑事だけが残される。
「あんた・・・何してんだ」
「え・・・」
「おでん泥棒か」
「えええ」
深夜の犯罪抑止行動により・・・メロウな気分の左江内氏のランチタイム。
蒲田と下山は弁当である。
「ダイエットには手作り弁当が一番効果あり」と蒲田。
「だよね」と下山。
「時すでに遅しじゃないの」と池杉。
「てめえ・・・殺すぞ」
しかし・・・左江内氏はテレビのニュースに心を奪われる。
海外のテルバニア(フィクション)でテロによる大惨事が起こっていた。
「どうしたんです・・・」
「いや・・・なんとかならなかったものかと」
「仕方ないですよ・・・この世界は悲惨な出来事で満ちているのですから」
その日の勤務を終えた左江内氏は北京ダックのある居酒屋で池杉相手に苦しい胸の内を語る。
「スーパーマンとしてもどかしいんだ」
「誰がスーパーマンですって・・・」
「私だ・・・この街の平和を守れても・・・さすがにテルバニアまでは」
「仕方ないでしょう・・・スパイダーマンだってニューヨークしか守ってないし・・・バットマンなんかどこにあるのかもわからない街しか守ってませんよ」
「しかし・・・心が痛むんだ」
「わかりました・・・そこまで言うのなら・・・このウィケスギが・・・若さでなんとかしますよ」
「本当」
「ええ」
左江内氏たちサラリーマンが記憶をなくすまで飲む世界なのである。
「パパ」
「いつまで寝てんの・・・遅刻するよ」
はね子(島崎遥香)ともや夫(横山歩)に叩き起こされる左江内氏。
強烈な二日酔いのために・・・スーパースーツ出勤をしようとして昨夜のことを思い出す。
出社すると・・・池杉と記憶を確かめ合う。
「なんだか・・・耳鳴りがするんです」
「それが・・・助けを呼ぶ声だよ」
「でも勤務中ですよ」
「トイレに行くふりして・・・助けに行くのさ」
「え・・・だから・・・左江内さん・・・いつもトイレが長かったんですか」
「本当にトイレに行ってることもあるけどね」
スーパーサラリーマン池杉は若々しく出動する。
胸のマークは(池)になっているのだった。
火事の現場である。
燃える建物を見て泣き叫ぶ住人(八十田勇一)・・・。
「逃げ遅れた人がいるんですね」
「いや・・・押し入れに現金が」
「金庫なら防火できるでしょう」
「ダンボールに入っている」
「・・・」
「あれが燃えると一文なしなんだよ」
仕方なく火中に飛び込む池杉である。
スーパースーツには対火性もあるが・・・動物である人間は火を惧れるものである。
漸く金入りダンボール箱を回収する池杉・・・。
しかし・・・住人は「どうせなら思い出のアルバムも持ち出してほしかった」と不満を口にする。
正義の味方の報われなきことに釈然としない池杉。
会社に戻った池杉は・・・。
「左江内さん・・・いつもあんなことしてんですか」
「スーパーマンだからね」
「プチ・リスペクトっす・・・透視で女の子の裸見てるだけじゃ・・・割があわないす」
「そんなことしちゃだめだよ・・・透視するのはやむにやまれぬ時だけだ」
「そんな・・・袋とじを開かないみたいな人生・・・耐えられないっす」
二人の会話に割り込む部長。
「なんだ・・・ウンコ談義か」
「ウンコ談義?」
「だって二人そろってウンコが長いんだもの」
「いや・・・ちょっとガンコちゃんで」
「いくらガンコちゃんでもウンコし過ぎだよ・・・もう少しウンコは控えめに」
「いい大人がゴールデンタイムにウンコを言い過ぎ」と次元を越える蒲田。
夜の街によからぬ男たちが現れる。
一人歩きの美しい女性(水上京香)を取り囲む狼たち・・・。
「やめてください」
「やめろといわれてもこれからやるわけだし」
「やめろ」
池杉登場である。
「なんだてめえは」
怯えつつ・・・狼たちをぶっとばす池杉だった。
「お嬢さん・・・お怪我はありませんか」
「ありがとうこざいます」
美女に抱きつかれその気になる池杉。
「よろしければ・・・東京ナイトクルージングをなさいませんか」
美女を乗せ・・・空中散歩をしたあげく・・・高層ビルの屋上でシャンパンを酌み交わす池杉だった。
その後も東京タラレバ娘風の女たちや・・・男に捨てられた女たちを選んで救援交際する池杉だった。
しかし・・・横浜の街で・・・交際中の蒲田にナンパが発覚するのだった。
「なにしてんだ・・・」
「いえ・・・これは・・・なんでも」
「ちょっと・・・顔貸せや」
この世界では浮気者は壮絶な暴力に曝される定めなのである。
そして・・・浮気現場に残される・・・スーパースーツ入り紙袋。
スーパーマンの責務から解放され・・・入浴を楽しむ左江内氏。
しかし・・・円子がキッチンで黴々の雑巾を発見したために・・・氷風呂の刑に処せられる。
翌朝・・・円子はヨガのポーズをしたままリヴィングルームで眠っていた。
「人間て・・・凄いな」
「ママが特別なのよ」
はね子はテレビを見ていた。
「これって魔法みたい」ともや夫。
都内の銀行では大量の紙幣が消失する事件が発生していた。
「えええ・・・まさか」
会社で池杉を問いつめる左江内氏。
顔面が崩壊した池杉は告白する。
「かわいい女の子を中心に・・・救助活動をしていたら・・・彼女バレして・・・」
「え」
「何者かにスーツを奪われました」
「ええっ」
「どうしましょう」
「しょうがないなあ・・・」
左江内氏は・・・スーツを池杉に譲渡した責任を感じるのだった。
左江内氏は・・・謎の老人(笹野高史)の助けを求める。
しかし現れたのは号外を配る男(佐藤二朗)だった。
「トランプ大統領当選!・・・って何だよ」
「配り忘れです」
「小池都知事誕生!・・・っていつだよ」
「私・・・今・・・レビューでは再現困難な・・・ごくせんの牛島豊作のキャラクターをしています」
「なつかしいな・・・」
「東京スカイツリー完成!・・・はいかが」
「もういいよ」
可愛い手袋をした怪しい老人が現れる。
「探してました」
「わかるよ・・・どうせなら・・・世界を救いたいというシンドロームな」
「・・・」
「だけど・・・無理は禁物だよ」
「おそらく・・・スーツは悪人の手に渡り・・・銀行強盗を」
「わかってるんだ・・・」
「とりもどすために・・・スーツが必要です・・・スペアはないんですか」
「少しだけ弱いスーツなら・・・この四次元ポケットに」
「あなたは・・・クソジジイ型ロボットだったのか」
「そんなこというなら貸さないぞ」
「あ・・・おなしゃす」
銀行強盗となった高萩省吾(間宮祥太朗)の胸には(高)のマークが示されている。
銀行員半沢を半殺しにする高萩・・・。
「命が惜しかったら早く・・・バッグに現金をつめろ・・・なんだよ・・・利息倍返しキャンペーン中って・・・」
「銀行もマイナス金利でピンチなんです」
「俺の知ったことかよ」
「・・・」
「あ・・・今・・・そこの爺・・・110番に電話したな」
「しません」
「スーパーマンなめるなよ・・・どんな音も聞き逃さないんだよ」
「許してください」
「許さない・・・ぶっ殺す」
「やめなさい」
スキーウェアを着た左江内氏が現れる。
「なんだ・・・おっさん」
「スーパーマンの力を悪用してはいけません」
「どうしてだよ」
「神様が許しません」
「神は・・・死んだんだよ」
「とにかくスーツを返しなさい」
「俺と勝負するつもりか」
「かかってきなさい」
高萩の一撃でぶっ飛ばされる左江内氏。
「少しどころじゃなく・・・かなり弱いな・・・このスーツ」
「ははははは・・・誰だか知らないが・・・このスーツの力を甘く見すぎだ」
「・・・」
現金が用意され・・・立ち去ろうとする高萩・・・。
しかし・・・左江内氏は必死に高萩の足にしがみつく。
「それは・・・君のお金じゃない・・・全国の労働者の皆さんが必死になって働いて稼いだ貯金なのだ」
「働いても働いても一銭も貯金できない人間だっているんだよ」
「それはそうかもしれないが」
「手に入れた力で・・・自分の手で・・・金を掴むことの何が悪いんだ」
格差社会の対立である。
「だけど・・・それは・・・泥棒だ」
「問答無用」
高萩は左江内氏を蹴り飛ばす。
悶絶しかかる左江内氏は・・・パンツの膨らみを感じる。
「あれ・・・これって・・・」
ポケットにはスーパーマンマークが入っていた。
どこからともなく・・・声がする。
(二日酔いで忘れていたのだろう・・・スーパーマンマークはいつも君とともにあるのだ)
思わずバッヂを胸にかざすスーパーマン・・・。
一瞬で左江内氏はスーパースーツを装着し・・・高萩は全裸になっていた。
「パンツは穿いている・・・ゴールデンだもの」と次元を越える高萩。
「さあ・・・お金を返しなさい」
「ふざけんな・・・」
高萩は殴りかかるが・・・左江内氏の一撃で昏倒するのだった。
喝采を叫ぶ行内の人々・・・。
「それでは・・・今まで盗まれたお金を返しに行きますので・・・」
忘却光線が発動され・・・高萩は逮捕される・・・起訴は難しそうだがな・・・。
おそらく・・・超人化前の余罪があるのだろう。
左江内氏は怪しい老人にスキーウェアを返却した。
「ありがとうございました」
「これに懲りて・・・スーツの譲渡はやめてくれよ」
「はい」
「君は・・・選ばれてスーパーマンになったのだから・・・」
「・・・」
「それから・・・これはただのスキーウェアだ」
「え」
「思いこみの力ってこわいよね」
「えええええええええ」
透視能力があっても・・・エロ目的に使用しない・・・力があっても悪用しない。
そして・・・困っている人を見過ごすことはできない。
左江内氏には・・・素晴らしいスーパーマンとしての資質があったのである。
「パパ。遅刻しちゃうよ」
「パパ・・・送って行ってよ」
子供たちを乗せて空を飛ぶ左江内氏。
「なにこれ・・・凄い」
「パパをソンケーするよ」
そんな・・・ちょっとした力の私的利用にも罪悪感を感じる左江内氏。
彼こそが生れついてのヒーローなのかもしれない。
シャローン・ストーンではなくて。
関連するキッドのブログ→第6話のレビュー
| 固定リンク
コメント