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2017年3月26日 (日)

永禄五年、井伊直親死す(三浦春馬)

桶狭間合戦の余波は永禄五年の松平元康と織田信長の同盟により・・・三河国からの今川勢の撤退と・・・遠州錯乱とも呼ばれる遠江国の国人衆と今川家との関係悪化を本格化させる。

永禄五年十二月に松平家への内通を疑われた井伊直親が掛川城主・朝比奈泰朝に討ち取られたこともまた・・・真相の定かならぬことである。

しかし・・・これを契機に遠江国の国人領主たちが次々に謀反を疑われ・・・今川家の命令に従う国人領主たちと互いに争うことになるのである。

結果から見れば・・・今川氏真は自ら・・・防波堤となる遠江国の家臣たちを殺したことになり・・・今川家の衰退を早めるわけである。

しかし・・・負け組である今川家と最終的な勝者となる徳川家では・・・語りたい史実が変容していくのが歴史というものだ。

その中で・・・今川家中から・・・徳川家に乗り越えて・・・見事に戦国時代を泳ぎ切った井伊家の語る歴史もまた・・・いろいろと・・・怪しいものになっていく。

そんなわけで・・・本当のところがどうだったのかは・・・よくわからない永禄年間を・・・実際にいたのかどうかわからない井伊直虎が物語られていくのだ。

まあ・・・ある程度・・・なんでもありなんだな。

で、『おんな城主  直虎・第12回』(NHK総合20170326PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。画伯の体調がよろしくないようなので心配である。素晴らしいインターネットの世界では・・・御尊顔を拝したこともないのに非常に親しいように感じる方々があり・・・時に心穏やかならぬ時もあるのだが・・・基本的には妄想である。時にはお会いしたいと思うこともないのではないが・・・会わぬことこそが・・・妄想世界を確実なものにすると考えもする。お互い遠い世界に住んでいて・・・十万光年くらいの距離があって・・・だけど親しみを感じる。それが素晴らしいインターネットの世界の醍醐味である。・・・まあ・・・キッドは隣に住んでいる人や・・・親戚・・・古くからの友人にも滅多にあわないのでのでございますけれど。この世には素晴らしいのかどうかよくわからない現実世界というものがあり・・・それは結構面倒くさいものなのである。そういう意味で・・・もう少しなんとか上手く立ち回れなかったのかと思う・・・井伊谷の人々にもやもやしても・・・それは誰かの妄想に過ぎないと思えばなんとかスルーできるわけである。総髪から月代になった小野政次があれほど批判的だった父・政直と同じ道を歩み始める因果に・・・戦国時代の悲哀を感じますねえ。そして・・・奥山朝利の娘婿がまたしても登場・・・。一部家系図的には・・・奥山親朝~奥山朝利~奥山朝宗(孫一郎)~奥山朝忠(六左衛門)と続くわけですが・・・親朝の娘たちと・・・朝利の娘たちは一部混交しておりまして・・・まあ・・・代変わりすれば・・・姉妹も・・・家中の女の一人になるわけですからねえ。朝宗と朝忠も父子とする説と兄弟とする説もあるようですしね。とにかく・・・奥山の女たちは・・・国人領主たちに嫁ぎまくっていることは確かなようです。ドラマの登場人物では新野左馬助は奥山朝利の義理の兄弟で、中野直由は義兄弟あるいは娘婿、小野玄蕃はほぼ娘婿、井伊直親は確実に娘婿、そして井伊谷三人衆の一人、鈴木重時も娘婿・・・。そんな奥山朝利を暗殺したとなれば小野政次は一族中の爪弾き確実でございましょう。そういうことがあってもおかしくない戦国時代ではございますが・・・少なくとも井伊家が仕立て上げた小野政次の悪名を・・・このドラマは払拭する気なのだと思う今日この頃でございます。

Naotora012 永禄五年(1563年)十二月、井伊直親が朝比奈泰朝に襲撃され討ち死に。永禄六年(1563年)正月、本證寺第十代・空誓が三河国で一向門徒を蜂起させ松平家康と対立する。本多正信、蜂屋貞次、夏目吉信など多くの家臣が家康に離反した。七月、織田信長は美濃国攻めのために本城を新築した小牧山城に移転する。九月、天野景泰・天野元景親子が今川氏真から離反した疑いで攻められる。犬居城を攻めた井伊直平は陣中で没した。永禄七年(1564年)正月、元康は馬頭原合戦で一揆勢を破り、一向衆門徒は和睦に応ずる。二月、北条氏康は下総国で里見義堯・義弘父子を撃破する。八月、上杉輝虎が五回目となる川中島の戦いに出陣、武田信玄と対峙。九月、氏真は謀反の疑いで曳馬城主・飯尾連竜を攻め敗北。井伊家目付・新野親矩、井伊家家老・中野直由が討死。幼少の井伊家当主・井伊虎松(井伊直政)は一族の守護者を失うことになる。この頃、井伊直盛の娘・次郎法師が井伊直虎を名乗り井伊谷城主になったという伝承がある。十月、上杉武田両軍は川中島から撤収する。氏真は飯尾連竜の姉を室とする遠江二俣城主・松井宗親を駿府に召喚しこれを謀殺した。

「氏真様は・・・御所の仇討ちをする気概もないのか」

井伊直親は馬上で呟いた。

井伊谷領の継承を安堵された御礼を言上するために・・・駿府へ向かう直親は前夜、掛川城の朝比奈泰朝の接待を受けた。

桶狭間の合戦で馬を並べた養父・井伊直盛の武者ぶりを泰朝が物語ったのである。

養父の無念の死に・・・涙した直盛は・・・仇討ちをしたいと感じたのだった。

氏真は一度は遠江国三河国の国境まで軍を進めたが・・・戦わずに兵を引いている。

「滅多なことを言うものではありませぬ」

直親の実の父である井伊直満の代から仕え・・・直親の信濃国亡命に十年も付き従った勝間田の忍びである今村藤七郎が直盛を諌める。

「しかし・・・あまりにも覇気がないことではないか」

「戦には潮時と言うものがございます」

「・・・」

「御所様も・・・尾張に織田信秀殿が存命だった頃には・・・苦戦なされておったとか・・・信秀殿が死んで・・・代替わりした時・・・御所様は一気に三河国から尾張国にまで進出なされた・・・」

「しかし・・・御所様はその信長に討たれてしまったではないか」

「だからこそでございます・・・誰もが御所様の勝利を疑わなかったところを・・・あえない御最後・・・世間は尾張の信長というものを天魔の如く惧れているのでございますよ」

「・・・」

「国衆は誰も負けるものに味方などしたくないのです」

「戦っても必ず負けるとは限らぬだろう」

「旗色が悪いのでございます。それが証拠に・・・御所様から元の字を拝領した松平様までが・・・織田に靡いたのです」

「松平元康など裏切り者ではないか」

「元康様の奥方は・・・殿と同じく直平様の孫にあらせられますぞ・・・殿は口が過ぎるのです」

「藤七郎とてそのように口がうるさいではないか」

直親は口をとがらせた。

すでに二十代半ばを越えているのに・・・直親は幼さを滲ませる。

家臣でありながら・・・永らく親代わりであった藤七郎には甘えたくなるのだった。

「しっ・・・」

藤七郎の顔色が変わった。

馬を飛び降りた藤七郎は地面に耳をつける。

「何者かがやってまいります・・・おのおの方・・・用心召されよ」

やがて・・・掛川城の方から騎馬武者の集団が現れた。

「肥後守殿・・・待たれよ」

直親を受領名で呼ぶ先頭の武者には見覚えがあった。

昨夜の接待の席にいた朝比奈泰朝の家来である。

「何事か」

「主の命により成敗いたす」

「何」

すでに背後の武者たちが弓を構えている。

次の瞬間・・・無数の矢が二十人ほどの直親主従に襲いかかる。

藤七郎は抜刀して矢を斬り払い主を身を持って庇うために跳ぶ。

無数の矢が藤七郎に刺さった。

「殿・・・お逃げくだされ」

振り返った藤七郎は直親が馬から崩れ落ちるのを見た。

直親の背には無数の矢が突き刺さっていた。

直親主従は前後を挟撃されていたのである。

無傷なものは一人もいなかった。

「何故じゃ・・・」

呻きながら身を起こそうともがく直親を横目に槍を構えた足軽たちに応じる藤七郎。

しかし矢毒がたちまち身体を痺れさせていく。

「殿」

藤七郎は槍に貫かれていた。

朝比奈泰朝が姿を見せた。

「せめてもの情けじゃ・・・」

泰朝は四つん這いになった直親の首を一刀両断にした。

泰朝の家来たちは・・・直親の郎党たちにとどめをさしていく。

たちまち・・・静寂がやってくる。

「井伊谷に使いを出せ・・・直親様は・・・野伏せりに襲われて・・・武運拙く亡くなられたとな」

泰朝の家来が首を塩漬けにするための甕を持って現れる。

泰朝は直親の幼名を知っていた。

「亀の首が甕に入る・・・か」

泰朝は乾いた笑みを浮かべた。

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2017年3月25日 (土)

殺らなければ殺られるだけの存在(綾瀬はるか)

物語の語り手が思うことと物語の聞き手が思うことが同じとは限らない。

人の心ほど定かならぬものはない。 

人間関係とはつまり主従関係である。 

夫婦にも主従があり、親子にも主従があり、友人にも主従がある。 

政治家にも主従があり・・・国家にも主従はある。 

主従関係がないということは敵対関係なのである。 

それではあまりにも荒涼としていると感じる人もいるだろう。 

もちろん・・・潤いというものは・・・そういう主従関係や敵対関係を越えたところにある。 

主人に優しくしてもらった奴隷・・・敵に助けられた味方・・・そこは泣くところである。 

日本が不自由極まりない国だと思って・・・外国に行けば・・・どれだけ不自由を感じることか。 

つまり・・・ファンタジーとはそれを明らかにする話なのである。 

ここではないどこかにもまた・・・いろいろ面倒なことが待っているに決まっているのだ。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・最終回(全9話)』(NHK総合20170325PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・中島由貴を見た。なんとなく・・・たくさんお金を使いました・・・という雰囲気だけが漂う本作品である。しかし・・・それはあくまでテレビ番組の制作費ということでは・・・という話である。あえて言うならば・・・お金のかかった少年ドラマシリーズというべきか。なんか・・・なんかな・・・ちゃっちいんだよな。それでも・・・ファンタジーをやろうという心意気だけは高く評価したい。

たとえば・・・船舶の発達の加減がわからない。

基本的には帆船時代なのであろう。

しかし・・・火薬の使用は限定的で・・・大航海時代には欠かせない大砲の搭載はないわけである。

タルシュ帝国の全人口はどの程度なのだろうか。

それに比べて新ヨゴ国の全人口はどうなのだろう。

大陸間の戦争となれば・・・海軍の輸送力が問われるわけである。

南北大陸に横たわるサンガル王国の海域はどの程度の広さなのだろう。

モンゴル帝国でさえ・・・日本海に遮られて・・・日本への侵略に失敗するわけである。

当時世界最強の武力を持っていた16世紀の豊臣秀吉軍も・・・朝鮮半島の征服には成功しなかった。

渡海の問題は・・・戦争の可否にそれほど影響するわけである。

まあ・・・他人の作るファンタジー世界に・・・リフリティーを求めても無駄なんだけどな。

Seireimap006 「私の可愛いチャグムに何をした」

バルサ(綾瀬はるか)の鉄拳を甘んじて受け入れたヒュウゴ(鈴木亮平)だった。

「・・・」

「やり返してはこないのか」

「私にはあなたと戦う理由がない」

「お前はチャグムの敵ではないのか」

「敵か・・・味方か・・・それしかないのですか」

「チャグムの敵は私の敵だ・・・用心棒とはそういうものなのだ」

「私は・・・タルシュ帝国の密偵ですが・・・同時に滅ぼされたヨゴ国の民でもある」

「・・・」

「私は・・・タルシュ帝国の密偵として・・・チャグム皇太子を追いつめた・・・しかし・・・同時に虜囚としての立場から彼を解放した・・・」

「死の淵に追い込んだことには変わりがあるまい」

「しかし・・・チャグム皇太子は・・・生き延びられた・・・」

「・・・」

「私は・・・見たかったのです・・・ヨゴの王家の血を引く若者が・・・これから何を成し遂げるのか」

「チャグムが・・・何をするかだと・・・」

その時・・・バルサは火の匂いを感じた。

「燃えている・・・これは・・・家に火をかけられたな」

「こんな街中で火攻めだと・・・」

「こちらへ・・・」

ヒュウゴは隠れ家の脱出路にバルサを導く。

隠れ家の裏手は路地裏に続いている。

反対側には火の手があがっている。

「こんなことをするのは・・・ロタの兵隊ではないな・・・」

「気をつけろ」

バルサは飛来する矢を短槍で打ち落とした。

「どうやら・・・狙いは俺のようだ」

「私についてこい」

バルサを次々に飛来する槍を払いのけながら・・・ツーラムの水路へと向う。

腿に矢を受けたヒュウゴを庇いつつバルサは小舟に乗り込んだ。

「水の流れはゆるやかだ・・・追手を逃れるためには上流に漕ぐしかない・・・」

なんとか・・・危地を脱した二人は水路から川へと小舟をこぎ進める。

「これで・・・腿を止血しろ」

バルサはヒュウゴに革ひもを渡した。

「すまない」

「矢を抜くぞ」

「・・・」

「毒が塗ってあるな」

「大丈夫だ・・・私に毒は効かぬ」

「そうか・・・」

「襲ってきたものたちの見当がついているようだな」

「弓を射ったものたちに見覚えがある・・・」

「・・・」

「あれは・・・ロタ王国に仕えるカシャル(猟犬)たちだ・・・」

「なるほど・・・俺をタルシュの密偵と知ってのことか」

「そこまではわからん」

「それにしても・・・さすがはバルサだな・・・顔が広い」

「カシャルたちの狙いを・・・確かめねばならない」

「俺がいては・・・まずいな」

「お前には・・・この舟をやる・・・しばらく・・・流れていくがよい・・・」

「よいのか・・・これは・・・チャグム殿下の救出のために用意したものだろう」

「私は今・・・懐が温かいんだよ」

「そうか・・・用心棒としてあなたを雇っているものは・・・二ノ妃だな」

「・・・」

「チャグム殿下に会ったら・・・一つ伝えてもらいたいことがある」

「なんだ・・・」

「新ヨゴ国とロタ王国の同盟が難しいと考えたら・・・ロタ王国とカンバル王国の同盟によって道が開けると」

「何・・・」

「カンバル王国と新ヨゴ国の間には・・・緩やかな同盟関係がある。カンバル王国とロタ王国が同盟を結ぶことが出来れば・・・三国同盟の目がある。そうなれば・・・タルシュ帝国にもうかつな武力行使には踏み切れぬ・・・」

「面倒な駆け引きだな」

「国と国との・・・争いなどというものは・・・面倒なものだ」

「・・・とにかく・・・お前の言葉は伝えよう・・・もう・・・行け・・・追手の匂いがする」

バルサは小舟を押しだすと・・・川面を歩きだす。

バルサは間合いを計って叫んだ。

「カシャルの方々とお見受けする・・・私の名はバルサ・・・私はカシャルと戦うつもりはない」

木陰からカシャルの弓手が現れた。

「バルサか・・・あなたの名前は知っている」

「私は・・・カシャルの頭に問いたいことがある・・・案内してもらえないか」

バルサは短槍を地面に刺し・・・敵意のないことを伝える。

「よかろう・・・しかし・・・この地にある隠れ里に行くためには目隠し願いたい」

「我が目を塞ぐがよい」

目隠しをすることは・・・相手に命を委ねることに等しい・・・。

カシャルの弓手が合図をすると・・・潜んでいたカシャルのものたちが姿を見せる。

「手縄をも必要だ」

「我が手を縛るがよい」

バルサは縛られて・・・カシャルの隠れ里に向う。

ツーラムの郊外にあるカシャルの隠れ里の頭領はアハル(中島唱子)と言う肥満した中年女だった。

縄を解かれたバルサは座る場所を与えられる。

「あんたが・・・バルサかい・・・あんたの名前は・・・王都のものから聞いている・・・御活躍だったそうじゃないか・・・」

「スファルとシハナには世話になった」

「困った父娘だよ・・・親子で割れてはお勤めに支障があるからね」

「・・・」

「それで・・・あの男とはどういう関係だい」

「あの男には・・・尋ねたいことがあったのだ・・・」

「何をだ・・・」

「私は・・・少年を捜している」

「あの男の正体を知っているのか」

「タルシュの密偵だと言っていた」

「正直だねえ・・・噂通りの人だね・・・あんたは」

「私の捜している人は・・・スーアン太守の城にいるらしい・・・何か・・・城に入る手立てはないだろうか」

「そういうことは・・・もう少し・・・気心が知れてから・・・頼むものだ・・・今夜はここで休んでお行き・・・私が手料理でもてなそう」

それを食べると・・・太るのではないかと思うバルサだった。

案の定・・・料理は美味だった。

もりびとシリーズの肥満体トリオ結成である。

四路街のマーサ(渡辺えり)・・・サンガルの女海賊(森久美子)・・・そしてカシャルのアハル・・・。

なんだろう・・・スタッフが肥満熟女好きなのか。

そして・・・四人目はスーアン(品川徹)の孫娘・ユラリー(信江勇)である。

実年齢が上から・・・渡辺えり(62歳)、森公美子(57歳)、中島唱子(50歳)なので・・・信江勇(28歳)は若手のデブっちょと言えるだろう。

しかし・・・ユラリーは年齢不詳である・・・おませな幼女のようなしぐさも見せるが・・・単に愚鈍なのかもしれない。

侍女から・・・新ヨゴ国の貴公子の噂を聞き・・・チャグムが軟禁されている部屋を訪れたユラリーだった。

「侍女から・・・素敵な人だと聞いて・・・会いに来たの・・・だって・・・侍女では高貴な方のお相手はつとまらないでしょう」

「あなたは・・・」

「私は・・・ユラリー・・・スーアン城の主・・・スーアン太守は私のおじい様なの」

「え・・・それでは・・・スーアン様にお引き合わせいただけますか」

「それは・・・無理なのよ・・・あなたの望みはかなえたいけど・・・」

「それでは・・・せめて城の外に出られないでしょうか」

「それはダメよ・・・お城の外は・・・危ないもの」

「・・・それでは・・・せめて・・・庭に・・・」

「お庭?」

「美しい夜の庭をあなたに・・・案内してもらいたいと」

「いいわよ・・・」

ロマンチックな気分でユラリーは蝋燭ひとつを灯し・・・チャグムと庭に出る。

チャグムは城壁の低そうな場所を求めて暗がりへと進む。

「ロマンチックねえ・・・」

「それでは・・・しばらく・・・目をお閉じください」

「まあ・・・」

ユラリーはうっとりとした顔で目を閉じる。

チャグムは蝋燭の火を消す。

しばらく・・・待って・・・ユラリーが目を開くとチャグムは姿を消していた。

「いやああああああああああああああ」

夜の庭に響き渡るユラリーの絶叫。

チャグムは壁を乗り越えようと足場を捜していた。

その時・・・背後からスーアン城の侍女(花影香音)がチャグムに声をかける。

「あ・・・お前は・・・お世話係」

「こちらへ・・・」

「・・・」

「城を出たいのでしょう」

「え」

侍女は・・・抜け穴を知っていた。

「なぜ・・・こんなものが・・・」

「私は・・・ロタ王に仕えるカシャルの女です」

「カシャル・・・ロタ王の親衛隊か・・・つまり・・・間諜か・・・」

城の外に馬が待っていた。

「準備がいいことだな」

「急いでお行きください」

「王都はどちらだ・・・」

「馬が知っています」

「ええっ」

「お気をつけて」

チャグムが騎乗すると・・・馬は走り出した。

まるで何者かに操られているように・・・。

動物使いのカシャルは・・・特別な力を持った呪術師でもあった。

チャグムの乗った馬を操るのは・・・アハルだった。

頭痛に顔をしかめてバルサは目覚めた。

「私に・・・薬入りの料理をご馳走してくれたのかい」

「ぐっすり眠れたろう」

「なぜだ・・・」

「チャグム皇太子は・・・昨日のうちに・・・城から逃げたよ」

「・・・」

「チャグム皇太子は・・・新しい・・・ロタ王と会いたがっていたからね」

「なぜ・・・私を眠らせたのだ」

「シハナがね・・・あんたを巻き込むと厄介だからって言うからさ」

「・・・」

「追えば・・・いいよ・・・ロタ王のもとで・・・チャグム皇太子に御目通りすればいい」

バルサはチャグムを追って馬を走らせた。

逃げたチャグムにはスーアンが追手を出していた。

タルシュにチャグムを匿っていたことが知られれば裏切り行為と見なされるからである。

スーアンの兵士たちは・・・王都の郊外の村でチャグムに追いついた。

チャグムは疲れ果てて粗末な宿で眠っている。

しかし・・・精霊の声が・・・危険を知らせるのだった。

目覚めたチャグムは暗殺者に包囲されていた。

「何者だ」

「死ね」

必死に暗殺者の剣から身をかわすチャグム・・・。

そこにカシャルのシハナ(真木よう子)が現れた!

「大の男がよってたかって・・・子供一人を襲うのかい」

「なんだ・・・この女・・・」

「ご挨拶だねえ・・・」

「邪魔すると・・・怪我をするぞ」

言った男はシハナの短剣に貫かれていた。

「こいつ・・・カシャルだ」

「そいつも殺せ」

殺到する暗殺者たち・・・。

しかし・・・バルサと互角に渡りあうシハナの敵ではない。

暗殺者たちはたちまち骸となった。

「あなたは・・・」

「私はシハナ・・・新国王・・・イーハン様に会いに来たのだろう」

「・・・」

「案内するよ」

チャグムが南北対立で揺れるロタ王国を彷徨っている頃・・・国境を封鎖した新ヨゴ国では星読博士のシュガ(林遣都)が帝(藤原竜也)が「星相」について奏上していた。

「ただならぬ・・・星相が現れております」

「申してみよ」

「吉凶が相克する相です・・・これは古きものが滅びる凶と新しきものが生れる吉のせめぎあう相なれば・・・」

「そのようなことは当たり前ではないか・・・」

「民のためを思えば・・・タルシュ帝国に降伏するのもまた道かもしれませぬ」

「そなたは・・・命が惜しいか」

「滅相もございませぬ」

「新ヨゴ国が滅びるのが天命ならば・・・民も国とともに滅びることこそ・・・美しいと思わぬか」

「・・・」

「朕は・・・新ヨゴ国を汚れなき世界へと導く・・・美しき帝になりたいのじゃ」

帝の言葉に逆らうものはなかった。

聖導師(平幹二朗)は密かにシュガを呼び出した。

「お前の申すことにも理があると思う」

「・・・」

「お前の教えを民に広めるべきだろう」

「私は・・・誰かが・・・そう言うのではないかと・・・密かに案じておりました」

「・・・」

「それが・・・内通者の証だからです・・・まさか・・・聖導師様が・・・」

「そうだ・・・私は・・・タルシュ帝国に通じておる」

「・・・」

「それとも・・・お前は・・・新ヨゴ国の民が・・・自分のことしか考えぬ・・・わが身のためにわが子を殺すこともいとわぬ・・・あの帝とともに滅びるのがいいと・・・思うのか」

シュガは絶句した。

王城のイーハンは物憂い日々を送っていた。

「シハナか・・・何をしにきた・・・そちらのものは・・・」

「新ヨゴ国のチャグム皇太子殿下でございます」

「チャグム・・・」

「イーハン陛下・・・お願いがあり・・・参上いたしました」

「チャグム殿下・・・そなたのことは兄から聞いている」

「では・・・」

「同盟はできぬと・・・兄も申していただろう」

「しかし・・・それでは・・・北の大陸はタルシュ帝国に蹂躙されます」

「だが・・・そなたの父の帝は・・・同盟を望まぬと聞いた」

「・・・」

「そのような状況で・・・皇太子殿下と何を約することができようか・・・」

「わかりました・・・では私はこれより・・・カンバル王国に参ります」

「カンバル王国に・・・」

「カンバル王に・・・ロタ王国との同盟を説きに参ります」

「なんと・・・」

「もし・・・それが・・・成功したならば・・・どうか・・・王にご同意願いたい」

チャグムは涙を流した。

「なぜ・・・泣く・・・」

「カンバル王と手を結ぶことは・・・恩ある人を裏切ることになるからです」

「それは・・・カンバル出身の短槍の名人のことか・・・」

「え・・・バルサをご存じなのですか」

「些少は・・・そなたの・・・望みは承った・・・しかし・・・カンバル王が応じることは万に一つもあるまい」

「だが・・・他に手立てはないのです・・・それが・・・私の考え抜いた答えなのです」

バルサが王都に到着した時・・・すでにチャグムはカンバルへと旅立っていた。

バルサをシハナが出迎えた。

「今度は・・・チャグムを利用しようとしたのか」

「いや・・・そのつもりはない・・・私は・・・イーハン王に仕える者として・・・チャグム殿下を案内しただけだ・・・南部のものたちに・・・チャグム殿下が利用されることを・・・避けたかったのだ」

「・・・」

「信じられないかもしれないが・・・私はバルサに感謝している」

「・・・」

「私は恐ろしい夢を見ていたのかもしれない・・・悪夢から救い出してくれたのはあなただと思っている」

「私は・・・ただ・・・」

「わかっている・・・バルサは幼きアスラをただ・・・守りたかったのだろう」

「・・・」

「しばし・・・待たれよ・・・」

「どうした・・・」

「王都のカシャルの集落が襲われた・・・父上が・・・」

カシャルが動物使いである以上・・・人に心を伝える術も持っているのである。

成り行きでシハナとカシャルの集落へと向うバルサ・・・。

集落の広場にシハナの父・スファル(柄本明)は吊るされていた。

「父上」

「来るでない・・・」

バルサとシハナに殺到する・・・襲撃者たち。

「南部のものたちか・・・いや・・・ちがうな・・・」

村に火を放つ火炎放射器を持った男たち。

「あれは・・・タルシュ帝国の武器らしい・・・」

「タルシュの密偵部隊が・・・こんなところに」

「バルサ・・・行け・・・チャグム殿下も追われているだろう」

「お前も逃げよ・・・」とスファルが呟いた。「儂が霧を呼んでやる」

スファルは死力を尽くして・・・霧隠れの術を使った。

たちまち・・・視界は閉ざされる。

カンバル王国へ続く山道を進むチャグム・・・。

精霊が危機を知らせる。

「追手か・・・」

馬が矢に貫かれ・・・チャグムは馬上から投げ出される。

チャグムは走って逃げ始める。

しかし・・・追手たちは剣を翳して迫るのだった。

絶体絶命・・・その時、のけぞったのは追手だった。

「その者に手を出すな・・・」

「バルサ・・・」

「いいかい・・・私の背中から離れるんじゃないよ」

「バルサ・・・」

「お前たち・・・退かぬなら・・・容赦はしないよ」

追手たちは退かなかった。

バルサは・・・封じていた全力を出す。

たちまち死体の山が築かれる。

無敵の短槍使いの復活である。

追手たちは全滅した。

「バルサ・・・どうしてここに・・・」

「チャグム・・・忘れたのかい・・・私はお前の用心棒だよ」

そして・・・物語は・・・漸く・・・最終章へと進むらしい・・・。

続きは・・・今秋である。

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2017年3月24日 (金)

将棋の女王によるチェスのナイトを用いたチェックメイト(仲間由紀恵)

好敵手である。

窮地に追いやられた敵のクイーンを・・・味方の騎士が・・・救出するという・・・チェスなのに将棋のような話なのである。

チェスも将棋も知らないという人のために念のために言っておくが・・・チェスは敵に殺された駒が盤上をただ去って行くのだが・・・将棋は敵に倒されても捕虜となるだけで・・・洗脳されて敵軍となって盤上に戻ってくるというゲームなのである。

将棋の駒に心があれば・・・敵が味方になり・・・味方が敵になるこの世の定めを・・・なんと思うのだろうか。

裏切り者のくせに・・・とか・・・仲間になれば頼もしい・・・とか。

冷徹非情に謎を解く杉下右京と・・・どんな人間も手駒にしてしまう社美彌子・・・。

二人の知的ダンスに・・・うっとりするしかないのだった。

で、『相棒season15 最終回SP悪魔の証明』(テレビ朝日20170322PM8~)脚本・輿水泰弘、演出・橋本一を見た。長い長い話である。しかも・・・登場人物の過去のエピソードが絡み合っているために・・・話は複雑である。ミステリ好きのための一話と言ってもいいだろう。二人のプレーヤーが一歩も譲らずに・・・最後の一手まで手の内を見せない好ゲームなのである。久しぶりに「相棒」でうっとりできたな・・・。

スパイ(工作員)と言えばジェームズ・ボンドことコードネーム007は英国のMI6所属である。米国にはCIAがあり、ソ連にはKGB(カーゲーベー)があった。日本には内閣府内閣官房内閣情報調査室があるわけである。いわゆる内調に警察庁のキャリアであった社美彌子(仲間由紀恵)は総務部門主幹として出向していた過去がある。つまり・・・日本版のスパイの一員だったわけだ。

「ロシアンタイムス」東京支局長という表向きでスパイ活動を行っていたヤロポロク・アレンスキー(ユーリー・B・ブラーフ)を巡る連続殺人事件で・・・国賊であるスパイの協力者を殺しの連鎖に巻き込んだ内閣情報調査室室長・天野是清(羽場裕一)は杉下右京(水谷豊)の追及で逮捕され収監されたが・・・今も裁判で係争中の被告人となっている。

杉下右京は・・・天野是清がなんらかの事情で・・・社美彌子を庇っているのではないかと疑っている。

ヤロポロク・アレンスキーは結局、米国に亡命した。

自称、ロマンチックな男・冠城亘(反町隆史)はヤロポロク・アレンスキーと恋に落ちた社美彌子がマリア(ピエレット・キャサリン)を出産した事実を胸にしまっているのだった。

つまり・・・かなり・・・複雑な前段があるわけである。

日本にスパイがいるなんて荒唐無稽な話だと思っている能天気な人々には少し難しいかもしれないわけである。

ふざけた顔でつまらないジョークを連発している米国人タレントがCIAのエージェントかもしれないなどとは・・・一般人は妄想しないものだからな。

おいおいおい。

そもそも・・・この局自体が親旧ソ連の牙城じゃ・・・もういいだろう。

心に「覗き屋」として変質的な歪みを抱え・・・杉下右京と冠城亘への偏執的な怨みを抱く警視庁生活安全部サイバーセキュリティ本部専門捜査官・青木年男(浅利陽介)は素晴らしいインターネットの世界のセキュリティーに対する甘さを露呈する冠城亘のパソコンに接触し、ハッキングのためのベースとしてバックドアを仕掛ける。冠城亘のパソコンを経由してピーピングトム青木が侵入したのは警視庁総務部広報課課長となっている社美彌子のパソコンだった。

青木は・・・Mのフォルダーに収められたマリアの画像にうっとりとするのだった。

青木の仕掛けたフォルダーの移動の悪戯に気付いた社美彌子はサイバーセキュリティ本部に相談する。

青木はハッキングの証拠を冠城亘のパソコンに残したまま・・・バックドアを閉じるのだった。

冠城亘は・・・元の上司である社美彌子のパソコンに対するハッカーとして嫌疑をかけられてしまうのである。

「冤罪です・・・第一・・・俺にはそんなハッキング能力はありません」

無罪を主張する冠城亘・・・しかし、部下の失策に・・・右京は「あることを証明するのは簡単ですが・・・ないことを証明するのは困難です・・・いわゆる悪魔の証明という奴ですねえ」と冷静に指摘する。

ここから・・・右京は可愛い部下の冤罪を晴らすために奔走するのだが・・・肝心の冠城亘にさえ・・・そう思われないのが人徳というものである。

やがて・・・未婚の警視庁キャリアに隠し子がいたという下世話な記事が写真週刊誌に掲載される。

冠城亘はますます窮地に追いやられる。

同時に・・・スキャンダラスな記事の主役となった社美彌子は女性キャリアに対して差別的な感情を持つ警視庁幹部に吊るしあげられる。

警視庁副総監・衣笠藤治(大杉漣)や警視庁刑事部長・内村完爾(片桐竜次)は「子供の父親」を追及するが・・・「プライバシー」を盾に口を割らない社美彌子なのである。

社美彌子をヤロポロク・アレンスキーの協力者として疑う法務事務次官・日下部彌彦(榎木孝明)には「よくやったと言いたいところだがやり方が粗雑だ」と叱責される冠城亘だった。

ロマンチックな冠城亘は「やったのは俺ではない」と社美彌子に直訴する。

ある意味・・・ものすごいピエロ・ポジションなのである。

なにしろ・・・謝罪している相手こそが事件の黒幕なのである。

一方・・・杉下右京は・・・「誰かに謎を仕掛けられたら挑まないわけにはいかない」と独自の捜査を開始する。

「マリア」の父親がヤロポロク・アレンスキーであることに言及する杉下右京に・・・ロマンチックな冠城亘は抵抗を感じるのである。

「俺には想像もつかないところから・・・真実を追求しているのでしょうが・・・社美彌子も人間だということを忘れないでください」

「想像もつかないなら・・・黙っていろ」

「・・・何様なんだ」

ここは上司と部下と言うよりは・・・超優秀な父親と不出来な息子の会話である。

「のってきましたね」と微笑む犯罪者出身の「花の里」の女将・月本幸子(鈴木杏樹)はニヤニヤするのだった。

なにしろ・・・今回の冠城亘はものすごくピエロであり・・・お茶の間の冠城亘応援団は・・・結末で苦い思いを味わうことになるわけである。

同性愛者であるために苦しい立場の警視庁警務部首席監察官・大河内春樹(神保悟志)はラムネを貪り食うのだった。

警視庁刑事部の参事官・中園照生警視正(小野了)は特命係に警視庁捜査一課・伊丹刑事(川原和久)と芹沢刑事(山中崇史)を配置する。

「週刊フォトス」の記者・風間楓子(芦名星)に「マリアの父親はヤロポロク・アレンスキーかもしれない」と伝えて反応を確認した杉下右京は捜一コンビに・・・風間記者の周辺調査を依頼するのだった。

やがて・・・風間記者の恋人・・・キング出版編集者の軍司森一(榊英雄)の存在が浮上する。

「警部殿の読み通り・・・軍司は東京大学将棋部で・・・社美彌子と先輩後輩でした」

「王手ですね」

「どういうことですか」と説明を求めるピエロ冠城亘・・・。

「つまり・・・これは・・・社美彌子の自作自演ということです」

「え・・・」

「情報を制するものは・・・世界を制しますからねえ」

やがて・・・「週刊フォトス」は「未婚の母の娘の父親はスパイだった」という衝撃記事を掲載するのだった。

再び・・・警視庁幹部は社美彌子を召喚する。

「もはや・・・プライバシーを盾にはできないよ」と衣笠副総監・・・。

「ヤロポロク・アレンスキーが娘の父親であることは間違いありません」

「由々しきことだ・・・」

「しかし・・・皆さんが想像しているような事情ではありません」

「何・・・」

「私はヤロポロク・アレンスキーに強姦されたのです」

「えええ」

当時の事情を知るものとして警察庁長官官房付の甲斐峯秋(石坂浩二)が現れた!

「私も驚愕した・・・しかも妊娠が分かり・・・出産すると聞いて唖然とした」

「しかし・・・中絶という選択もあったのではないか」

「生れてくる子供に罪はありませんから」

チェックメイトである。

けれど・・・セクハラ大王の内村刑事部長は下衆を極める。

「そんなこと言って・・・本当は和姦なんじゃないの」

だが・・・衣笠副総監は臭いものにふたをするのだった。

「諸般の事情を考慮して・・・この件は不問とする」

すべてはなかったことになったのであった。

「しかし・・・なぜ・・・彼女は秘密の暴露を・・・」とつぶやく

「ハッキングをされた時点で・・・自分の弱点の消滅を計画したのでしょう」

「公然の事実となれば・・・もはや秘密の意味はなくなる・・・」

「彼女は謎の解明へと私を誘い・・・まんまと目的を果たしたのです・・・そして君の罪はうやむやになった」

「・・・」

杉下右京の非情の調査によって自分が救われたこと悟る冠城亘・・・。

「しかし・・・ハッカーは誰なのでしょう・・・冠城くんの・・・パソコンに容易に接近できる人物が・・・結構・・・身近にいる可能性がありますね・・・ねえ・・・青木くん」

青木はじっとりと手に汗をかいた。

「右京さんを猟犬として使い・・・自分を守り切る・・・食えない女だ」

ロマンチックでピエロで負け惜しみの強い冠城亘だった。

社美彌子は愛するマリアのためにプリキュアの最新版ソフトを入手した。

マリアが・・・愛の結晶なのか・・・そうではないのかを証明するのは困難なのである。

愛国者と国賊の区別が曖昧なように・・・。

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2017年3月23日 (木)

海賊も用心棒も殺し屋ですが何か?(綾瀬はるか)

国会で都議会で・・・うさんくさい人がうさんくさい人たちからうさんくさい質問をされてうさんくさい答えをしている今日この頃である。

もちろん・・・世の中がうさんくさいので・・・それでいいのだろう。

うっかり・・・付き合っていると気が滅入るのでほどほどにしなければならない。

権力は腐敗するのが当たり前なので時々・・・膿を出すのは悪いことではない。

しかし・・・混沌とした世界情勢を前に・・・あまりだらだらとしているのは・・・それはそれで不安なのである。

隙を見せたらやられてしまう・・・すでにそういう時代じゃないのかな。

うっかり・・・負ける方につかないように・・・それだけが気がかりである。

それとも・・・いよいよ世界大戦争に突入なのかな・・・。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第8回』(NHK総合20170318PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・西村武五郎を見た。人命尊重という理想から・・・最も遠いのが戦争行為であることは明らかである。しかし、理想はあくまで理想であり・・・現実的には21世紀になっても他国の国土を併合してしまう国家が国連の常任理事国であり、他国の領土を不法占拠している隣国や他国の人間を拉致して殺害する隣国が公然と存在しているわけである。盗賊から商人を守る用心棒が・・・殺人を後ろめたく思うようだと・・・専守防衛など成立しないことになる。「戦争で人を殺しても敗北しない限り罪には問われない・・・」ということを義務教育で教えることの是非が問われるわけである。先制攻撃した方が敗北した場合は・・・責任を追及されるし・・・先制攻撃をするような人々に負けた場合は想像するだけで恐ろしい・・・つまり・・・何が何でも負けられないのが戦争と言うものなんだなあ。必ず勝つとは限らないからなるべく戦争にならないように知恵を絞るべきなのだが・・・それはそれとしていつでも敵を殺せる準備はしておかないとねえ。

いつか・・・どこかの世界・・・。

北の大陸の・・・新ヨゴ国の西・・・カンバル王国の南に位置するロタ王国。

ロタ国王ヨーサム(橋本さとし)の崩御によって北部ロタと南部ロタの対立が深まっていた。

南大陸をほぼ制圧したタルシュ帝国は・・・北大陸と南大陸の狭間に位置する海洋国家サンガル王国をすでに傘下に収め・・・虎視眈々と・・・北大陸征服の時を狙っている。

南部ロタの太守スーアン(品川徹)は南部の領主たちの盟主として・・・タルシュ帝国と手を組み・・・前国王ヨーサムの弟・イーハン(ディーン・フジオカ)の王位継承に異を唱えていた。

ロタの被差別民タルの女トリーシア(壇蜜)と情を交わしたイーハンは・・・秩序を乱すものとして危険視されていたのである。

王の密偵組織であるカシャル(猟犬)も・・・穏健派の長・スファル(柄本明) と・・・その娘で過激派のシハナ(真木よう子)の二派に分かれて争う始末だった。

トリーシアの娘・アスラ(鈴木梨央)が精霊の一種で恐ろしい破壊神タルハマヤを宿したことにより・・・イーハンとスーアンの対立は決定的なものとなる。

サーダ・タルハマヤとなり・・・ロタの貴族たちを虐殺しかけたアスラを用心棒のバルサ(綾瀬はるか)が制止し・・・混乱するロタ王都を脱出する。

タルハマヤを拒絶したアスラは・・・意識を取り戻すが・・・言葉を失っていた。

バルサと薬草使いのタンダ(東出昌大) はチキサ(福山康平)とアスラの兄妹を連れて・・・ロタ王国と新ヨゴ国の国境の街・・・四路街へと退避する。

マーサの店に兄妹を預けたバルサは・・・新ヨゴ国の皇太子チャグム(小林颯→板垣瑞生)が暗殺されたと聞き・・・悲哀に襲われるのだった。

自分の大切な人を守り切れなかった無力感に包まれたバルサは・・・言葉を失い温もりを求めるアスラを残し・・・孤独の道を進む。

護衛士として・・・隊商の用心棒の職を求めて・・・口入屋に向うバルサ。

しかし・・・皇太子の死を受けて臨戦体制となった新ヨゴ国の国境は封鎖され・・・国王の崩御により喪に服すロタ王国の情勢も不安定となり・・・交易商人たちも商いを手控えていた。

「バルサ・・・当分・・・用心棒の口はないぞ」

「新ヨゴからロタへ向かう隊商がやってくるまで・・・待つさ」

「さて・・・そんなものが来るのはいつになることか・・・」

「・・・」

「すでに海の民はタルシュに下り・・・新ヨゴ国も滅んでしまうかもしれないという御時勢だ・・・」

新ヨゴ国の帝(藤原竜也)は・・・皇太子チャグムを軍神とするための儀式を行っていた。

「皇太子チャグムは新ヨゴ国にその身を捧げた・・・チャグムは神となった・・・軍神チャグムよ・・・新ヨゴ国を守りたまえ」

帝は陸軍大提督ラドウ(斎藤歩)に国境の封鎖を命じた。

「鎖国」によって・・・タルシュの侵略が納まるが如くの対応である。

しかし・・・タルシュ帝国の第二王子ラウル(高良健吾) がチャグムに告げた言葉が事実なら・・・すでにタルシュの触手は皇宮内に伸びているのである。

新ヨゴ皇国の星読博士シュガ(林遣都)は・・・それが誰かを推測する。

チャグム皇太子の死を受けて・・・皇太子の扱いとなったトゥグム(高橋幸之介)の教育係のガカイ(吹越満)は充分に怪しい。

帝を暗殺して傀儡の帝を立てるなら・・・チャグムよりもトゥグムの方が相応しい。

「シュガよ・・・よく・・・帝はお前をお許しになられたものだな」

「ガカイさんにお伺いしたいことがあります」

「なんだ・・・」

「ガカイさんは・・・次期聖導師になられるかもしれない」

「そうかもしれんな」

「ガカイさんは聖導師として・・・どのように国を守るつもりですか」

「シュガよ・・・我ら星読博士の仕事とは何か」

「星を読むことです」

「そうだ・・・我々は運命を読む・・・そして運命を変えるのは我々の仕事ではない」

「なんですって・・・」

「新ヨゴ国が滅びると星が告げるなら・・・その運命を受け入れるのが天意に適った生き方だ・・・」

「まさか・・・帝を裏切って・・・タルシュに従うのではないでしょうね」

「それを星が告げるのならな」

「・・・」

帝は命令に従ってチャグム暗殺を遂行したと報告する狩人頭のモン(神尾佑)を召喚した。

「モンよ・・・チャグムは・・・最後の瞬間・・・それを命じたのが・・・朕であることを悟っていたか」

「そのような・・・暇はなかったと思われます・・・チャグム殿下はあっという間に海の藻屑となりました」

「そうか・・・モンよ・・・汝のしたことを悔いる必要はない・・・チャグムはその身を捧げて新ヨゴ国を守護したのだ・・・それを悔いることは・・・軍神となったチャグムへの冒涜と心得よ」

「惧れ多いことでございます」

帝は微笑んだ・・・。

聖導師(平幹二朗)の寿命はつきかけていた。

しかし・・・シュガが秘事を打ち明けるとすれば・・・他に人はいない・・・。

「聖導師様・・・お知らせしたきことがあります」

「何事か・・・」

やつれた聖導師の顔に精気が蘇る。

聖導師は・・・秘密の通路を使い・・・後宮に潜入する。

チャグムを失ったと信じる二ノ妃(木村文乃)は奥に引き籠っていた。

「二ノ妃様・・・」

「聖導師・・・近う寄れ・・・もそっと・・・近う」

「チャグム様は・・・お亡くなりになっておりませぬ・・・」

「・・・」

「チャグム様は・・・生きておいででございます」

「なんと申した」

「チャグム様は・・・死んだとみせかけて・・・タルシュの手を逃れ・・・ロタ王国に落ちのびられたそうです」

「まことか・・・」

「嘘など申しませぬ・・・」

「チャグムが生きている・・・たった一人で・・・ロタにおると・・・さすれば・・・バルサを雇わねばならぬ・・・」

「バルサ・・・」

「狩人のジンを呼べ・・・」

「畏まりました」

ジン(松田悟志)は密命を受け・・・国境地帯へと旅立った。

バルサと別れ新ヨゴ国に向ったタンダは・・・国境封鎖の監視を逃れ・・・獣道をたどっていた。

そこで・・・タンダはジンと邂逅する。

「あなたは・・・狩人のジン・・・」

「タンダよ・・・バルサの居所を知らぬか・・・」

「まさか・・・あなたが・・・討手ですか」

「俺ではバルサを討てぬことは・・・お前がよく知っているだろうが」

「・・・」

「二ノ妃様からの仕事の依頼だ」

「お妃様から・・・」

「任務は・・・チャグム殿下の護衛だ・・・」

「チャグム殿下は亡くなったと聞いた・・・」

「生きておられる」

「えええ」

バルサは四路街の口入所でジンから・・・二ノ妃の手紙を受け取った」

「チャグムが生きている・・・」

バルサは腹の底からこみあげてくる衝動をこらえることができなかった。

バルサは笑った。

「アハハ」

「バルサ・・・」とタンダが人目を気にする。

「ハハハハ」

「バルサよ・・・引き受けてもらえるか」

「ハハハハハハ・・・・引き受けた」

バルサは前払いの報酬を受け取る。

「二ノ妃は・・・相変わらず気前がいいな」

「どうする」

「とりあえず・・・ロタ王国のツーラム港に向う・・・手紙にあるタルファの首飾りを換金していれば・・・足取りがつかめるだろう・・・」

「頼んだぞ・・・バルサ」

「ジン・・・お前は・・・タンダを新ヨゴに送ってくれ」

「え・・・俺を連れていかないのか」とタンダ。

「急がねばならんからな」

バルサはすでに馬市場に向っていた。

チャグムは海上で暮らす海の民ラッシャローの船にたどり着いていた。

ツーラム港を目指す算段をしているところで・・・海賊の襲撃を受けたのだった。

そうとは知らぬ・・・バルサはツーラム港の酒場を巡っている。

大衆食堂の店主(市オオミヤ)に情報を求めるバルサ。

「この街でお高い宝石がさばけるかい」

「この店は酒を振る舞う店だよ・・・そんなことを大声で言うもんじゃない」

「心配してくれてありがとう・・・邪魔をしたな」

バルサは釣りをしているのだった。

「宝石」という餌には・・・ならず者が食い付くのである。

しかし・・・店を出たバルサを追いかけてきたのはツアラ・カシーナ(海の恵を呼ぶもの)と呼ばれる海賊頭のセナ(織田梨沙)だった。

バルサを尾行したセナはたちまちまかれてしまう。

そして・・・セナは背後からバルサに問われるのだった。

「私に何か用かい」

「そういう店を知っている・・・」

「ほう・・・そうかい」

「私もその店のことを調べている・・・何か・・・わかったら教えてほしい・・・それが店を教える条件だ」

「ふうん・・・まあ・・・いいだろう」

「武器は持っていけない・・・私が預かろう・・・」

「・・・」

「合言葉は・・・ネズミが猫にご挨拶申し上げる・・・」

「店はどこだい」

「ついておいで・・・」

バルサは怪しい路地裏の盗品商オルシ(寺十吾)の店に入った。

「おや・・・メスのネズミか・・・」

「それが客に対する態度なのかい」

「おや・・・売り手かと思えば・・・買い手だったのか・・・何をお求めですか・・・お客さん」

「そうだな・・・たとえば・・・タルファの首飾り」

「・・・あなた様にお買い上げいただけるとは思いませんが・・・」

「あるのが・・・わかればいいんだよ・・・私が知りたいのは・・・それを持ちこんだ人間の情報だ・・・言い値で買うよ」

「お前は・・・何者だ」

「それは知らない方が身のためだよ」

「しゃらくせえ・・・少し痛い目に合わないと・・・」

目の前からバルサが消え去ったことに驚くオルシ。

しかし・・・その時には背後に回ったバルサに首を絞められていた。

「大人しくしていれば・・・苦しまずに済んだんだよ」

オルシの手下たちは武器を構えて近付く。

「待て・・・」

「ふふふ・・・わかるかい・・・首の骨が悲鳴を上げているのが」

「よせ・・・」

「海賊だ・・・」

「へえ・・・」

「赤目のユザンが・・・売りに来た」

「品物はどうした」

「スーアン城の若殿が買った」

「よし・・・ではこのまま・・・出口まで付き合ってもらおうか」

「・・・」

店を出たバルサは殺気を感じる。

解放されたオルシは手下の影に隠れて叫ぶ。

「生きて帰れるとでも思ったのか・・・」

「生かしておいた恩を仇で返すのかい」

「野郎ども・・・やっちまいな」

オルシの手下たちが殺到する。

しかし・・・バルサは素手で充分に渡りあうことができた。

男たちの攻撃をかわしながら路地を進んでいく。

その先に立つ男にただならぬ気配を感じたバルサは・・・拳を突き出す。

その拳を受けとめたのはラウル王子の密偵・・・ヒュウゴ(鈴木亮平)である。

ヒュウゴは凄腕で追手を食いとめるのだった。

「バルサ・・・こっちだよ」

セナがバルサの短槍を渡しながら導く。

「私を知っているのか・・・あんた誰だい・・・」

「私はチャグムの友達さ・・・セナって言うんだ」

「・・・」

バルサはセナと逃走を続ける。

「こっちだよ」

「赤目のユザンを知っているか・・・」

「知っている・・・同じ島の生まれだ」

「棲家は」

「案内しよう」

二人は闇に消える。

タルファの首飾りを売って・・・売春宿で大盤振る舞いをしたユザン(平山祐介)は一寝入りするためにアジトに戻って来た。

「おい・・・野郎ども」

様子がおかしいことに・・・酔いのため気がつかないユザンである。

見慣れぬ女の姿に・・・驚くユザン。

「なんだ・・・お前は・・・」

「遅かったじゃないか」

「お前・・・子分たちに何をした」

「お前の行く先を言わないもんだから・・・眠らせてやったよ・・・なかなか良い子分じゃないか」

「ふざけるな・・・」

「お前・・・タルファの首飾りをどうやって手にいれたんだい」

「タルファの・・・」

そこへ・・・軍勢がなだれ込む。

「なんだ・・・」

「お前のしでかしたことの報いなんだよ」

「あれは・・・ロタの兵隊じゃねえか・・・」

「逃げるんだ・・・裏口があるだろう」

「・・・」

兵士たちの数に怯えて・・・ユザンは逃げ出した。

追手を逃れる二人は袋小路の隠し扉を開いて待つセナに導かれて息をつく。

「一体なんだってんだ・・・」

「お前・・・チャグムをどうした」とセナ。

「チャグム・・・」

「十五、六の男の子だよ・・・そいつは私の大切な人なんだ」

「あのガキのことか・・・」

「お前が・・・ラッシャローの船を襲ったのは噂になってるんだよ」

「お前は誰だよ・・・」

「へえ・・・私の顔を知らないのか・・・それでも海賊のはしくれかい」

「え・・・あ・・・セナ様・・・ツアラ・カシーナがなんで・・・こんなところに」

「まさか・・・お前・・・チャグムを奴隷商人に売り飛ばしたんじゃないだろうね」

「あの首飾りをいただいて・・・港まで送っただけだよ・・・ガキは市場の方に歩いて行った・・・それきりだ」

「そうか・・・チャグムはそこで・・・ロタ王の崩御を知り・・・途方に暮れただろう」

「しかし・・・なんでロタの兵隊が・・・」

「お前の売った宝石は・・・売ったものの口封じが必要なものだったのさ」

「チャグムは・・・スーアン城に入り・・・おそらく軟禁されている」とヒュウゴが割り込む。

ヒュウゴに目配せされて・・・セナはユザンを連れ出す。

「命が惜しかったら・・・すぐに出港しな・・・」

「へい・・・」

「バルサさん・・・私がチャグムの友達というのは本当だよ・・・バルサさんは・・・チャグムに聞いた通りの人だった」

「・・・」

セナとユザンが部屋を出て行くと・・・バルサはヒュウゴに向き合う。

「お前は・・・タルシュの密偵・・・ヒュウゴなのか」

「ほう・・・そこまで御存じですか」

「お前は・・・チャグムの敵ではないのか」

「立場で言えば・・・敵ということになるでしょう・・・しかし・・・人の心は・・・そのように割り切れるものではありますまい」

「お前・・・チャグムに何をした・・・」

「私は古きヨゴの民として・・・殿下に寄り添い・・・時にはその命をお助けいたしました・・・そして・・・殿下の前で・・・処刑されるように仕向けたのです・・・殿下は私の命乞いのために屈服し・・・一度は帝の暗殺を請け負った・・・・」

バルサは・・・ヒュウゴが・・・チャグムの心を弄んだことを知った。

「酷いことをしたものだな」

「それが・・・唯一の・・・戦乱を避ける手段だったのです」

バルサは拳を繰り出した。

ヒュウゴはあえて・・・拳に顔を晒し・・・壁際まで吹っ飛んだ。

スーアン城に南部同盟の領主の一人アマン(緋田康人)が到着した。

「太守様・・・新ヨゴ国の皇太子を捕えたとは本当ですか」

「聞こえが悪いぞ・・・アマン殿・・・チャグム殿下は我が城にご滞在なされているのだ」

「しかし・・・」

「ユラリー・・・さがっておれ」

スーアンの孫娘ユラリー(信江勇)は父親の命じられるままに食卓から去った。

「すべては・・・わが息子オゴンの手柄じゃ・・・」

オゴン(富澤たけし)は微笑んだ。

「だが・・・新ヨゴ国の皇太子を匿ったとなると・・・タルシェには裏切り行為と責められるのでは」

「アマン殿・・・殿下はあくまで・・・取引材料じゃ・・・タルシュにはこう申すのじゃ・・・わが息子・・・アマンがロタの王座につきし時・・・チャグム皇太子を引き渡すと」

「ロタを総べるアマン国王・・・」

「うむ・・・よき響きじゃ・・・」

スーアン大領主を盟主とする南部同盟は・・・北部を制圧したイーハン王の王位継承を認めず・・・タルシュ帝国と組んで・・・ロタ王国の統一を目論んでいたのだった。

チャグムは・・・タルシュの虜囚から・・・スーアンの虜囚になったことにまだ気がつかない。

「いつになったら・・・スーアン太守に御目通りが叶うのか」

チャグムは与えられた客室で・・・侍女(花影香音)に問う。

「私に問われてもわかりかねます」

「一刻も早く・・・おとりつぎ願いたい・・・」

「ごゆっくり・・・お休みくだされませ」

「・・・」

チャグムは己の非力を噛みしめる。

バルサには幼い弟子の苛立ちが・・・手にとるようにわかっていた。

「チャグム・・・待っていろ・・・」

バルサはチャグムが幽閉されているスーアン城を見上げた。

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2017年3月22日 (水)

アリスとリスとレモンとパセリとコーヒーとミルクと死と乙女と黒と白とグレー(松たか子)

変則的な「精霊の守り人II 悲しき破壊神」と「おんな城主  直虎」を除くと2017年の冬ドラマのレギュラー・レビューもこれで終わりである。

珠玉の名作がラストを飾るのもなかなかに清々しい展開である。

視聴率的には*9.8%↘*9.6%↘*7.8%↘*7.2%↗*8.5%↘*7.3%↗*8.2%↗*9.5%↗11.0%↘*9.8%で平均視聴率が*8.9%という微妙な数字を残しているわけだが・・・まあ・・・そういう時代なんだな。

スポーツ中継延長で深い時間の方が視聴率が高かったり、最初と最後が同じというミラクルも達成している。

脚本・演出・音楽そして出演者が・・・相当なクォリティーであったことは間違いないだろう。

いろいろと含みを残した脚本のために・・・演出上のエラーである「時系列の不一致」が・・・「時系列の作為的な配置転換」という「奇妙な深読み」を始める視聴者も産んだりして・・・それだけ・・・お茶の間の妄想を膨らませる余地があった・・・ということだろう。

送り手側も「ミステリ」と言ったり、「ラブストーリー」と言ったり・・・見出しつけすぎの気配があったりもした。

終わってみれば・・・これは「人生の冒険の物語」であり・・・さらに言えば「心なき人々への警句」だったと思われる。

「ミステリ」で必ず「犯人」が告白するように・・・「ラブストーリー」で必ず「恋人たち」がキスするように・・・「人生」はチョロくないのである。

しかし・・・音楽を武器に冒険者たちは幸せな一時を過ごしていく。

コンサートでステージに空き缶を投げつけるような人でなしには・・・けして味わえない美しさとともに。

で、『カルテット・最終回(全10話)』(TBSテレビ20170321PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。名もなきカルテットが結成された最初の冬の始りから・・・カルテットドーナツホールが活動休止に追い込まれるまでの冬の終わりまでを一つの話と考えれば・・・前回が最終回である。十四年前に早乙女真紀になりすました山本彰子(松たか子)という第一ヴァイオリンが逮捕され・・・公正証書原本不実記載等の罪とともに不審死した養父の毒殺疑惑が表沙汰となり・・・物語はボーナス・ステージに突入するのだった。

「美人バイオリニストはなりすましだった」「戸籍売買の闇~十四年間他人の名前で結婚まで」「夫は強盗犯!犯罪者夫婦の痴情のもつれ」「疑惑の女・・・養父殺しの謎」「賠償金二億円!加害者家族を搾り取った女の転落」「疑惑のバイオリニストと奇妙な共同生活・・・カルテットの色と金」「世界の別府ファミリーの御曹司が食いものにされていた!」「うそつき魔法少女もいた黒いカルテット」「証拠不十分・・・執行猶予で野放しにされる魔女の恐怖」・・・週刊誌やワイドショーを賑わす・・・山本彰子とカルテットドーナツホールである。

裁判を終えた山本彰子は壊れかけた洗濯機とともに・・・人目を忍び・・・ひっそりと暮らしていた。

夏・・・である。

麦茶を飲み干す山本彰子には白髪が目立つ。

担当弁護士が山本彰子のアパートを訪問する。

「執行猶予もついたことだし・・・音楽活動を再開してはいかがですか」

「・・・」

「やはり・・・皆さんの元に戻るのは無理ですか」

「あの人たちは・・・受け入れてくれると思います」

「では・・・なぜ・・・」

「これから・・・私がどんな演奏をしても・・・犯罪者のシューベルトや・・・疑惑の女のベートーベンになってしまうでしょう。・・・それでは聴衆を心から楽しませることはできないと思うのです。私には灰色の音楽しか残されていないのです」

「・・・」

「カルテットドーナツホールは私に・・・最高のひとときをプレゼントしてくました・・・もういつ死んでも構わないと思うほどに・・・だから・・・もう充分なのです」

山本彰子はすでに・・・灰になる覚悟だった。

軽井沢の別荘では・・・第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)とヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、そしてチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)が第一ヴァイオリンの帰還を待っていた。しかし・・・裁判終了後に山本彰子が消息不明となり・・・気分はグレーなのである。

やがて・・・軽井沢には二年目の冬が迫ってくる。

細々と営業を続けるカルテットドーナツホール・・・。

「お肉の日」のイベントで演奏するために・・・ゲストのヴァイオリニスト・大橋エマ(松本まりか)を迎えるのだった。

「リムジンじゃないんですね」

カルテットのワゴンに違和感を感じるミニストップちゃんである。・・・いつの話だよ。

第一話で道を訊かれた女子大生と路上キスをして存在をアピールしていたヤモリは今回は犬のマリコにじゃれつかれていた。

宇宙の長澤まさみと会話するまでになった高橋一生の爆発ぶりに長年のファンが涙目の最近である。

ヤモリを「ユタカさん」と呼ぶ・・・別府。

別府を「ツカサくん」と呼ぶ・・・ヤモリ。

もはや・・・ユタカとツカサの時代に突入なのである。

ハイテンションのゲスト大橋は・・・眠り姫のすずめに驚く。

そして・・・コスチューム・プレイに激しくテンションを下げるのだった。

ツカサは牛・・・ユタカは鶏・・・すずめはピンクの豚の着ぐるみ・・・そしてゲスト大橋はコックさんの衣装なのである。

「こんなんじゃ・・・演奏できません」

「人間なのに・・・」

「恥ずかしくないんですか・・・皆さん・・・椅子取りゲームに負けたのにイスに座ってるフリをいつまで続けるつもりなんですか」

辛辣な批判の言葉を投げかけて去って行くゲスト大橋・・・。

「くずもちを残していってくれた」

「いい人だったね」

「すみません・・・お肉の日の仕事しかとれなくて・・・」

ツカサはユタカとすずめを練習に誘うが・・・二人は多忙だった。

カルテットドーナツホールの活動拠点だったライプレストラン「ノクターン」は色々あって・・・割烹ダイニング「のくた庵」に模様替えしていた。

シェフの大二郎(富澤たけし)は板前に憧れていたらしい。

ユタカは給仕人として週七日勤務しているのである。

すずめは「不動産屋」が店じまいするために・・・新たなる資格を獲得するべく徹夜で勉強をするのだった。

「すずめちゃんに・・・徹夜は似合いません・・・すずめちゃんに相応しいのは・・・二度寝」

すずめは微笑むが眠らないのだった。

「みんなおかしい・・・狂っている・・・まともなのは僕だけだ」

ツカサはドーナツ販売チェーン「ふくろうドーナツ」を退職して・・・無職になっていた。

ツカサは正しいキリギリス・・・働きまくるユタカや・・・徹夜で勉強するすずめは間違ったキリギリスなのである。

山本彰子という人間を何も知らずに「蔑む商品」として消費する酷い世間が一方にあり・・・そんな山本彰子に関わったすずめやユタカを雇用し続けた優しい人々がいる。

世界の別府ファミリーの恥部となったツカサに対して・・・別府ファミリーは冷たいようにも思われるが・・・冷酷そうな弟も・・・犬に噛まれたツカサに絆創膏を貼ってくれる優しさを持っている。

そして・・・別荘には買い手がつかない。

グレーな軽井沢は・・・白い冬へと向っている。

そして・・・第一ヴァイオリン不在のカルテットは・・・ひっそりと息をひきとろうとしていた。

割烹ダイニング「のくた庵」のランチタイム。

ツカサとすずめは食事をしてユタカは給仕をしている。

「ここが・・・こんな風になっちゃったの・・・僕らのせいですよね」

「マスターは・・・和食に憧れてたみたいよ・・・僕も板場で修業しないかって誘われてるの」

「えええ」

そこにハイエナ雑誌記者が現れる。

「ちょっとお話よろしいですか」

「・・・」

「山本彰子・・・例の件で・・・何か話していませんか」

「何かって何ですか」

「死んだ父親代わりの男のこととかね」

「・・・」

「ほら・・・うっかり口をすべらせるってことあるじゃないですか」

「その件は不起訴になったじゃありませんか」

「あなたたちだって・・・彼女に利用されたわけでしょう」

「そんな人じゃありません」

「これ・・・最新号なんですけど」

雑誌記者は醜聞写真週刊誌「flash」のような「fresh」を見せるのだった。

そこには・・・男性と路上でコロッケを食べながら笑う山本彰子の姿が盗撮されていた。

見出しは「白昼堂々コロッケデート・・・疑惑の女のふしだらな日常」などとスキャンダラスである。

「ねえ・・・どう思います」

カルテットはショックを受けた。

長い春雨を食べながらユタカはつぶやく。

「真紀さん・・・幸せそうだった」

春雨を鋏で切ってもらいながらすずめは反駁する。

「道端でコロッケ食べたら誰だって幸せになりますよ」

「じゃあ・・・僕とコロッケデートする?」

だが・・・一番ショックを受けたのはツカサである。

「解散しましょうか・・・」

「おやおや・・・コロッケデートシンドローム発症か・・・」

「仕事もないし・・・すずめちゃんは勉強ばかりしてるし・・・ユタカさんは毎日働いているし・・・マキさんは名前を変えたって平気で生きていける人で・・・もう次の人生を歩んでいる・・・僕だけが・・・同じ場所でじっとしているんだ・・・僕も・・・もう自分の中のキリギリスを殺すしかないでしょう」

すずめは階段を駆けあがりヴァイオリンケースを抱えて戻ってくる。

「私は・・・預かったんです・・・マキさんが帰ってくるまで・・・この子と一緒に待っているって約束したんです・・・解散するなら・・・このヴァイオリンをマキさんに返さないと」

「じゃあ・・・返しに行こうか」

「場所・・・わかるんですか」

「うん・・・」

ストーカーとしての能力を全開にするツカサだった。

素晴らしいインターネットの世界の風景が目に見える地図で「コロッケデートの場所」を特定するツカサ・・・。

「あ・・・なんか・・・似てる」

「あ・・・郵便ポスト」

「あ・・・ここ」

アリの群れが巣食う団地に到着するカルテット車・・・。

山本彰子は玄関のドアに書かれたへたくそな落書きについて管理人に詫びていた。

「すぐに消しますから」

「最初の字を大きく書き過ぎているよね」

山本彰子は洗濯をしながら・・・弁護士に電話をかける。

「ええ・・・あの記事で・・・住所を特定されたかもしれません・・・はい・・・御面倒をおかけしてすみません」

洗濯ものを干す山本彰子の耳に届く・・・「Music for a Found Harmonium(見つけたハーモニウムのための音楽)」・・・。

山本彰子はおびき出された。

山本彰子は走った。

山本彰子はお約束で転んだ。

団地の広場で・・・トリオは・・・団地の子供たちをウキウキさせていた。

すずめは・・・山本彰子に気がついた。

演奏が止まる。

山本彰子は立ち去ろうとする。

演奏が再開される。

山本彰子は立ち止り振り返り・・・手拍子を打った。

「こんなへたくそなカルテット見たことないわ・・・」

「第一ヴァイオリンがいないから」

「よく・・・人前で演奏できたわね」

「じゃあ・・・あなたが弾いてみせてよ」

「・・・」

すずめは山本彰子の手をとった。

その手は・・・生活のために痛んでいた。

すずめは山本彰子の髪を見た。

白髪が目立った。

すずめは山本彰子を抱きしめた。

「別府さん・・・車をお願いします・・・マキさんを連れて帰るから」

ユタカは山本彰子を背後から抱きかかえた。

後ろから前からハグされて・・・身動きのとれなくなった山本彰子・・・。

ツカサはハグに参加したい気持ちをこらえて車に向う。

捕獲したキリギリスを逃がすわけにはいかないのだった。

別荘にカルテットが帰って来た。

「マキさんのことはなんて呼べばいいですか」とユタカは訊いた。

「マキで・・・」

すずめとツカサとユタカとマキ・・・カルテットは四人になった。

四人はチーズ・フォンデュを食べる。

「マキさん・・・コロッケデートの記事・・・読みました」

「あれは・・・デートではありません・・・あの方はお世話になった弁護士さんです」

「ツカサくん・・・安心してる場合じゃないよ・・・コロッケと弁護士・・・最高の組み合わせだよ」

「・・・」

「ごはん食べた後・・・どうします」

「練習しますか」

ウキウキと食事を終える四人だった。

「イエモリさんはどうしているんですか」

「元のノクターンで給仕をしてます」

「すずめちゃんは」

「資格をとるために勉強中です」

「別府さんは」

「無職です」

「・・・」

「別にマキさんのせいじゃありませんよ・・・一年前にも話したじゃないですか・・・音楽を趣味にするか・・・仕事にするか・・・仕事にすれば・・・泥沼だし・・・趣味にする時期が向こうからやってきたというか」とユタカ。

「仕事のない日に・・・路上で演奏したら・・・楽しいかもしれません」とすずめ。

「でも・・・僕は夢を見ていて・・・損したと思ったことはありません・・・夢を見てずっと楽しかった」とツカサ。

不在の間に死にかかっているトリオの病状に気付くマキ・・・。

「コーン茶飲みますか」とマキ。

「コーン茶もうありません」

「じゃ・・・コンサートしましょうか」

「え」

「軽井沢の大賀ホールで」

「ホールの前で?」

「いいえ・・・ちゃんとステージで」

「いささか・・・キャパが大きすぎるのでは」

「あら・・・私を誰だと思っているの・・・世間を騒がせたニセ早乙女真紀よ・・・疑惑の美人ヴァイオリニストなんだからね」

「でも・・・それで集まるお客さんは・・・僕たちの音楽を聴きに来るわけじゃないですよね」

「だけど・・・伝えることはできるでしょう・・・」

「好奇の目に晒されてもいいんですか」

「そんなの気にならない」

「一人でも・・・二人でも・・・伝えることができるかもしれない」

すずめは最初にマキに共感した。

「私だって・・・うそつき魔法少女だから・・・あの人は今に出られます」

「僕も・・・世界の別府ファミリーの恥ですから」

「僕だって・・・Vシネ俳優だし・・・それなりに」

ユタカはともかく・・・集客力に問題のないメンバーなのである。

「シーズン・オフだし・・・ハコは安く借りられるはず」

「ですね」

こうして・・・カルテットドーナツホールは単独で「mysterious strings night(ミステリアスな弦の夕べ)」コンサート・・・入場料3500円を開催することにしたのだった。

「真紀さんて・・・結局無実だったのよねえ」と和装の女将となった谷村多可美(八木亜希子)が呟く。

「どうですかねえ」ととぼける従業員のユタカ・・・。

別荘の内見中の俗悪な顧客がすずめに問い掛ける。

「この辺にあの女が住んでいた別荘があったんでしょう」

「今でも骨付きカルビ食べながらその辺の電柱を蹴り上げているという噂ですよ」

カルテットは世間を煽った。

カルテットのホームページは炎上した。

そして・・・マキの目論み通り・・・チケットは完売した。

ユタカは・・・客が持ってきた手紙を多可美から預かった。

「これなんですか・・・」

「カルテットドーナツホール宛ての手紙だけど・・・読まなくても損はしないよ」

「でも・・・せっかくだから」と朗読を始めるすずめだった。「私は一年前にあなたたちの演奏を聴いたものです。率直に言って最悪の演奏だったと思います。あなたたちは素晴らしい音楽が生れる過程でできたゴミです。ゴミ焼却場で燃やされた排煙のような存在です。あるいは火葬場の煙突から立ち上る煙と言ってもいいでしょう。自分たちがとっくに死んでいるのに気がつかない。燃やされて煙になっているのにまだ演奏を続けている。なぜ・・・そんな煙の分際で・・・カルテットなんて続けているのでしょう。私は五年前に奏者であることわ辞めました。自分が煙だと自覚したから・・・私は問い質したかった。何故・・・あなたたちは煙のくせに演奏し続けるのか。そこにどんな意味があるのか・・・と」

カルテットはコンサートの演奏曲を決め・・・練習を開始した。

あっという間に当日がやってきた。

慌ただしい別荘の人々・・・。

全員が音楽に囚われた服役者のようにボーダーを選択してしまう。

「かぶってますね」

「着替えますか」

「時間がありません」

「私・・・寝ぐせが」

「楽屋で直せます」

「どうせ誰もみていません」

「誰も・・・」

スズメの乙女心を踏みにじるツカサである。

ハイエナ報道陣が待ち構えるホール通用口。

寝ぐせを気にしながら・・・すずめは駆け込んだ。

盛況のコンサート会場。

「大入り満員ね」と谷村夫妻。

アポロチョコを持っている男は「ふたりの夏物語」を聴いている。

ゆかりの人々が集う夜である。

長身の白人男性にエスコートされてリムジンから降りるのは・・・ゴージャスなドレスに身を包み・・・右手の薬指に綺羅綺羅しいリングを嵌めた来杉有朱(吉岡里帆)だった・・・。

「アリスちゃん」と絶句する谷村夫妻・・・。

アリスは笑わない目で勝ち誇る。

「人生、チョロかった・・・アハハハハハハ」

一部お茶の間は万歳三唱し・・・他人の成功を妬み嫉むことに執着する人は「アリス死ね」と叫ぶのだった。

とにかく・・・「元地下アイドルアリスの不思議な旅」は見てみたいものだな。

「トイレに行ってくる」

「僕も」

ツカサとユタカが出て行った楽屋で・・・すずめはブランクを乗り越えるために痣ができるほど練習したマキに問い掛ける。

「一曲目・・・どうして・・・弦楽四重奏曲第14番にしたんですか」

「弦楽四重奏曲第14番/フランツ・シューベルト」は第二楽章が歌曲「死と乙女」と同じ主題であるために「死と乙女」とも称される。

「好きな曲だからだよ」

「真紀さんのことを疑ってきた人たちは・・・別の意味にとりそう・・・」

「そうかな・・・」

「なんで・・・この曲にしたの」

「・・・こぼれたのかな」

あらゆる言葉にはあらゆる意味がある。

すずめとマキの間でこぼれるのは「好き」なので・・・そのまま・・・「死と乙女」が好きという意味になる。

しかし・・・マキの次のセリフが謎めかせるのである。

「内緒ね」

考えようによっては・・・「殺意」を仄めかしたことになる。

すずめは・・・マキの言葉をしばらく考えてから微笑む。

それが・・・「殺意の告白」に対する「暗黙の了解」かどうかも明らかではない。

なにしろ・・・すずめは・・・マキが人を殺していようがいまいが・・・気持ちが変わるとは思えないほど・・・マキの心に寄り添っているのだ。

四人はステージに立った。

野次を飛ばすものもなく・・・静寂が彼らを迎える。

おそらく・・・客席にはただならぬ空気が立ち込めている。

だが・・・少なくとも何人かは・・・カルテットドーナツホールの奏でる音楽を聴きにきたのである。

その代表が・・・ショッピングモールで「ドラクエのテーマ」を聴いた中学生の二人組と・・・カルテットをこよなく愛したアリスであることは言うまでもない。

そして・・・カルテットに辛辣なファンレターを書いたと思われる帽子の女・・・。

とにかく誰かを蔑みたい人々は・・・思ったより好意的な客層にたじろいでいたのだろう。

そしてステージのカルテットは「死と乙女」を奏でる。

こっちに来るな

お前は情け知らずの魔物

私はお前のものにはならない

私には素晴らしい未来がある

そのおぞましい手で

私に触るな

自分を抑えることのできない悪意の持ち主が空き缶をステージに投げつけるという暴虐を行う。

しかし・・・音楽の神に身を捧げる奏者たちは目もくれない。

あの日からカルテットの冒険は始った。

カラオケ店の通路は出会いの場・・・。

「ずっと奏者を続けるの」

「音楽で食べて行くなんて・・・無理でしょう」

「二十年弦を続けたけど好きになれなかった」

「ずっと一人でチェロを弾いていたのでプロになるのなんて・・・でも・・・弾いていて楽しくなって・・・お客さんが喜んでるとちょっと嬉しくなって」

「届いたなって思うのよね」

「届けましょうよ・・・私たちの音楽を」

私のさしのべた手をとりなさい

美しく可憐な乙女

私はお前を苦しめたりはしない

私はお前を安らぎに導く

怯えることなど何もない

騒々しいこともない

あなたはただ安らかに眠るだけ

誰もが逃れられぬ運命に抱かれ・・・やがて灰になるのである。

拍手がわき上がる。

衝撃の告白を求めてきたもの。

誰かの無様な姿を見たかったもの。

音楽が嫌いなものは・・・憤りに支配されて席を立つ。

自分たちが・・・少数者であることに怯えつつ・・・理解できないものから逃げ出す。

怒りと恐怖は同じ魔物から生じるのだ。

カルテットはドラゴンクエスト「序曲/すぎやまこういち」から「冒険の書」へと道をたどりセーブを行う。

カルテットのユーモアに浮き立つ聴衆たち。

中学生たちはニヤニヤして・・・アリスは受ける。

そして・・・カルテットの必殺技「Music for a Found Harmonium」が繰り出される。

カルテットは乗りに身を任せ・・・帽子の女さえ手拍子をするのだった。

何故、続けるのか・・・楽しいからに決まってる・・・なのである。

奏者たちは夢中になり・・・聴衆たちの心は躍り出すのだった。

空気が揺れ・・・「何か」が届いて心が震えるので。

別荘ですずめが目を醒ます。

不安がよぎる。

もしも・・・夢だったらどうしよう。

キッチンにはツカサとユタカがいて調理をしている。

しかし・・・すずめの不安はおさまらない。

飾られた写真を求めるすずめ。

ホールでの記念写真。

カルテットの雄姿・・・。

間もなく二階からマキが降りてくる。

すずめは安堵して微笑む。

よかった・・・夢ではなかった・・・私たちは大きなホールでコンサートをしたのだ。

カルテットは冬を乗り切ったのである。

「ごはんできたよ」

「は~い」

すずめとマキは唱和する。

おかずは唐揚だった。

小皿にレモンをとるすずめとツカサ。

しかし・・・ユタカは二人のパセリに対する態度を咎めだす。

「見て・・・これは何?」

「パセリ・・・」

「あまり好きではないので」

「・・・好き嫌いの問題じゃないのです」

お父さんの言いたいことを代弁するお母さんのように囁くマキ。

「パセリ・・・いるでしょう・・・彩りを添えているでしょう」

「・・・どうすればよかったんですか」

「サンキュー・・・パセリ」と囁くマキ。

「そうです・・・サンキュー・・・パセリ」

「あ・・・」

「あ・・・」

「パセリいましたね」

「パセリ綺麗ですね」

「センキューパセリ」

「そう・・・それでよろしい」

しかし・・・高圧的な父親に耐えきれずはしゃぎ出す末の娘のように・・・すずめは唐揚にレモンをかけまくるのだった。

「え・・・なにするの・・・謀反なの・・・革命なの・・・テロなの」

「いえーい」

お行儀の悪いのがキリギリスファミリーの嗜みなのである。

軽井沢に春が来た。

「熱海・・・」

「花火大会の演奏なんて・・・どうなの」

「聞こえるのかしら」

「町長が金色夜叉を長々と」

「それは火花」

「とにかく・・・初めての遠征ですから」

「行こう・・・カルテット」

別荘は売りに出ているが買い手はまだつかない。

カルテット車を・・・リスが見送った。

カルテットはドライブを楽しむ。

アリスもリスも可愛いし、レモンとパセリは唐揚にかかせない、コーヒーにミルクも悪くない、乙女もいつか死ぬし乙女でなくなってからでも死ぬ、そして白黒つけないグレーだって楽しめるのが大人というものだ。

しかし・・・ガソリンの切れた車がエンストすることは間違いなし。

たちまち・・・迷い出す冒険者たち。

砂浜をパーティーは右往左往する。

「あっちですね」

「いや・・・こっちでした」

「迷ったね」

「こんな見晴らしのいいところで」

すずめは笑いをこらえきれない。

「すずめちゃん・・・どうして笑っているの」

「急ぎましょう・・・間に合わないかもしれない」

「みぞみぞしてきました」

カルテットを見守るものは・・・寄せては返す波・・・。

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2017年3月21日 (火)

海の彼方から来た友達(木村拓哉)

男二人に女一人の三角関係からは「友情」が生じる場合がある。

もちろん・・・男と女の友情の場合もあるが・・・基本的には男と男の友情である。

ガールズトークに代表される「女たちの友情」がもてはやされる時代だが・・・実は男性同士の友情は・・・同性愛の場合も含めて・・・普遍的なテーマなのである。

シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」でも有名なガイウス・ユリウス・カエサルの「ブルータス、お前もか」というつぶやきは男同士の友情が前提なのである。友達だからこそ裏切られたショックは大きいのだ。

弱肉強食が強調される時代に・・・男同士の友情は成立しにくいわけである。

男同士はまず敵対関係が前提という哀しい今日この頃なのだ。

そこに激しく斬り込んだドラマだった。

終わってみれば・・・二人の男が篤い友情を確かめあう話だったのである。

もちろん・・・木村拓哉(44歳)・・・浅野忠信(43歳)・・・共に十一月生れというキャスティングなのだから・・・それはあらかじめ一目瞭然のことだったのだ。

たとえ・・・一光が深冬をどんなに愛していようと・・・壮大との友情の方が大事に決まっているのだった。

で、『A   LIFE~愛しき人~・最終回(全10話)』(TBSテレビ20170319PM9~)脚本・橋部敦子、演出・平川雄一朗を見た。男の子はポケットに手を入れたがるものである。母親にとってそれは面白くないことだ。ポケットに手を入れていては転んだ時に危険だからである。礼儀を重んじる人々の一部にはポケットに入れた手を不遜と感じるものもいるだろう。ポケットの中で手が何か危険なものを握っていることを恐れる人もいる。そのような白眼視を乗り越えても男の子はポケットに手を入れるのだ。何故なら・・・そこにポケットがあるからである。

なにしろ・・・ポケットの中には目に見えないビスケットが入っているのだから。

だから・・・男たるものは・・・大人になってもポケットに手をつっこむのが基本である。

「今すぐ・・・この病院を出ていきたまえ」

義理の息子に裏切られた気持ちでいっぱいの壇上記念病院々長・虎之助(柄本明)だった。

壮大(浅野忠信)に友達として裏切られた気がしている外科部長・羽村圭吾(及川光博)は告発する。

「君は壇上病院を乗っ取る理由を言った・・・手に入らないなら無くしてしまえばいいって」

壮大に愛人として裏切られたも同然の元顧問弁護士・榊原実梨(菜々緒)も断罪する。

「奥様の手術が失敗して死ねばいいっておっしゃってましたよね?」

「え・・・」

榊原弁護士の言葉に仰天する一同。

「いや・・・それは違うよ」と壮大。

「そうだ・・・必死にオペの準備をしていた」と壮大を庇う沖田一光(木村拓哉)・・・。

壮大は深冬を見る。

もちろん・・・深冬は・・・榊原弁護士の言葉を鵜呑みにしたりはしていない。

深冬は・・・壮大を信じ・・・手を差し伸べる。

だからこそ・・・壮大は・・・もはやその場にいたたまれないのである。

壮大は言葉を失い・・・部屋から退場した。

そんな壮大を追いかけるのは・・・一光なのである。

「壮大・・・待てよ」

「・・・」

「どこへいくつもりだ」

「出てけって言われたんだ・・・この病院を出ていくよ」

「深冬のオペ・・・どうすんだよ」

「お前がやれよ」

「本気で言ってんのか」

「さっきの話を聞いてただろう」

「・・・自分で救うって言ったろ」

「深冬も・・・院長も・・・み~んな・・・お前がいいって言ってんだよ・・・俺がお前だったら嬉しいよ・・・お前だって・・・俺の事笑ってたんだろう」

「じゃあ・・・何で深冬と抱き合ってたんだよ」

「・・・あれは違うよ」

「何が違うんだよ・・・もう誰も俺の事なんか必要としてない」

「そんな事ねえよ」

「カズ・・・お前に俺の気持ちわかるか・・・分からないよな」

「・・・」

立ち去る壮大の背中を見つめる一光である。

一光には壮大の気持ちがわからない・・・。

深冬と結婚して愛娘・莉菜(竹野谷咲)まで儲けた壮大は・・・一体何が不満なのだ・・・。

一光は・・・うらやましくてうらやましくて泣きたい気持ちだったのに・・・。

馬鹿じゃないのか・・・と思う他ないのだった。

榊原弁護士は・・・壇上父娘に副院長室の壁の穴を見せた。

「副院長の心にも・・・穴が開いていたんです」

「・・・」

外科部長は赤木(ちすん)やその他のドクターたちに・・・副院長の解任を伝える。

「僕も・・・この病院を辞めます」

「え・・・」

「結果的に・・・友達を売ったことになるからね・・・最低限の責任はとらないと」

一光は外科部長に問わずにはいられない。

「深冬先生のオペの前に・・・なぜ・・・あんなことを」

「・・・あの状態で・・・彼にオペをさせて・・・大丈夫だったと思うかい」

「・・・」

「君が来てから・・・彼は壊れてしまった・・・放ってはおけないよ・・・友達だからね」

壮大は音信不通になってしまった。

残された一光は予定通りに深冬の手術に挑むしかなかった。

手術の予定日は迫っていた。

ナース柴田(木村文乃)と井川颯太(松山ケンイチ)は一光に寄り添う。

「もう・・・七万回を越えてますね」

「え・・・そんなに」

「手術が遅れた分・・・結紮の練習は積めた・・・」

「どんなことにも・・・いい面と悪い面がありますよ」

「副院長と連絡は・・・」

「電話にもでないし・・・メールにも応答はない・・・」

壮大は・・・実家の鈴木医院に戻っていた。

すでに閉院され人気のない実家に一人・・・。

壮大に百点満点を求めた父親はすでに他界していた。

一光は緊張していた。

深冬を助ける自信が持てないのである。

もしも・・・自分がのこのこと帰国しなければ・・・院長は穏やかに死に・・・壮大と深冬は・・・残された時間を・・・仲睦まじく過ごしたのかもしれない。

そんな思いさえ湧き出る。

一光は救いを求めて一心(田中泯)の元へと帰る。

「いらっしゃい・・・なんだ・・・お前か」

「腹減った」

「しょうがねえな」

一心は寿司を握った。

「美味・・・」

「当たり前だろう・・・」

「無理すんなよ」

「お前がいつまでたっても半人前だからだよ」

「俺はいつになったら一人前になれんだよ」

「お前が手術してくれて・・・俺が寿司を握れるようになって・・・それをお前が食ってる・・・ありがてえことじゃねえか」

「・・・」

親馬鹿である。

一心の心意気が・・・一光の心をほぐす。

手術当日である。

「緊張してる・・・」

「ちょっとね・・・」

「緊張してるの」

「大丈夫」

一光は深冬に医師として微笑んだ。

颯太は一光を手術室へと送り出した。

「アシストバイパス併用頭蓋内腫瘍摘出術を行います」

出血後の深冬の腫瘍は三つに分離していた。

バイパス手術によって視野を確保し側頭開頭(サブ テンポラルアプローチ)によって腫瘍を摘出する手順である。

ドクターたちはモニターで経緯を見守るのだった。

「全ての神経繊維を温存する方法を取るので・・・術後の後遺症は一切想定していません」

100%を目指すことを宣言する一光・・・。

バイパスする血管の吻合は無事に終了する。

「さすがだ・・・」

「細いね・・・」

「心臓の血管の5分の1の太さだから」

「1ミリ以下か・・・」

ICG(蛍光血管撮影)を用いて血流部分を観察しながら腫瘍摘出へと移る一光・・・。

「一つ目・・・」

「はい・・・」

「二つ目・・・」

「はい・・・」

「側頭葉が腫脹している」

「最深部の腫瘍・・・見えますか」

「見えない」

モニター前のドクターたちに動揺が広がる。

「沖田先生・・・止まった」

手術室で立ちすくむ一光。

「VEP(視覚誘発電位)波高・・・50になりました」

「無理だ・・・」

「VEP波高・・・40になりました」

「何もできないまま・・・三分過ぎたぞ」とドクタールーム。

「沖田先生」とナース柴田が一光にタイムリミットを告げる。

「すまない・・・閉じるしかない」

一光は最後の腫瘍を取りきれずに手術を終えた。

一光は虎之助に状況を説明する。

「最深部の腫瘍が・・・視野から隠れてしまいました・・・再出血のリスクがありますので・・・脳の腫脹が収まり次第・・・再手術の実施が必要です」

「・・・できるのか」

「・・・」

できるかどうかではなく・・・やらなければ終わりなのだ・・・一光は唇を噛みしめる、

深冬は意識を取り戻した。

「ありがとう」

「腫瘍をとりきれなかった・・・」

「・・・壮大さんは・・・」

「・・・」

一光は・・・深冬の心を悟った。

一光は壮大にメールを送信する。

(腫瘍をとりきれなかった・・・深冬はお前のことを待っている)

颯太は一光を励ます。

「3分の2は取れたんですよね・・・だったら残った3分の1だって・・・」

「専門じゃない人は黙ってて」

颯太を躾けるナース柴田。

「専門じゃないか・・・」

「いえ・・・沖田先生のことじゃありません」

「・・・」

一光は・・・専門医である壮大のアドバイスを切望する。

しかし・・・メールへの応答はない・・・。

入院中の深冬に替わり莉菜の面倒を見ている・・・虎之助の妹である上野豊子(山口美也子)が一光を訪ねてくる。

「もしもの時に・・・莉菜ちゃんに渡して欲しいと・・・深冬から預かったのですけど・・・本当は壮大さんに・・・託したかったんだと思うんです・・・先生の方からお渡しいただけないでしょうか」

「・・・壮大に・・・」

見舞いにやってきた莉菜はむずがる。

「お父さんと一緒に帰る」

「お父さんはお仕事が忙しいのよ・・・」

「・・・」

一光の心は痛むのだった。

家族が帰った後に深冬に会いに行く一光。

「これを・・・預かった・・・」

「・・・沖田先生・・・私が壮大さんでなく・・・沖田先生に手術をお願いしたのは・・・もしもの時のことを考えたからなの・・・」

一光の中で・・・深冬への思いが断ち切れたのは・・・この瞬間だったのかもしれない。

深冬は一光の昔の恋人ではなく・・・壮大の妻であり・・・莉菜の母親だったのである。

一光は・・・古い卒業名簿を取り出した。

壮大の実家の住所をうろ覚えだったらしい。

「ああ・・・確か・・・あの辺だったよな・・・」

訪ねようと思えば・・・いつでも訪ねられたのだ。

壮大はそこにいるはずだと確信している一光。

しかし・・・まだ・・・どこかに・・・深冬に対する未練があったのかもしれない。

あるいは壮大に対する対抗意識が・・・。

しかし・・・もはやそんな場合ではなかった。

患者を助けるために・・・一途一心あるのみなのである。

「やはり・・・ここにいたのか・・・なにしてんだよ」

「お前こそ・・・何しに来た」

「深冬は・・・お前のオペでもしものことがあったら・・・莉菜ちゃんとお前の仲がこじれるんじゃないかって・・・心配して・・・俺を指名したんだよ」

「そんな肝心なこと・・・なんで俺じゃなく・・・お前に話すんだよ」

「あの時・・・話そうとしてたじゃないか」

「・・・俺はいつだって必要とされてないんだ・・・子供の頃からいつだってそうだ・・・お前はいいよな・・・みんなから愛されて・・・いつも必要とされてた・・・」

「おい・・・それは俺のセリフだろう・・・お前・・・俺の気持ちがわかるかって・・・俺に聞いたよな・・・お前には俺の気持ちがわかるのかよ・・・俺がどれだけお前のことをうらやましいと思ってるか・・・お前は昔から何でも俺より上手にできるし・・・その上・・・俺より何倍も努力家で・・・医師になってからだって・・・お前は俺にとって・・・ずっと雲の上の存在だった・・・シアトルに行ったのだって・・・ お前に追いやられたからじゃない・・・お前に追いつきたかったからだ・・・学歴もコネもない・・・俺には何もなかったから・・・深冬の事だって大病院の娘だし・・・将来の事を考えると自信が無かったんだよ・・・だから逃げたんだ」

「・・・」

「お前に価値がないなんて・・・お前だけが言ってることじゃないか」

「・・・」

「俺から見たら・・・お前なんて百点満点で百二十点だよ・・・だけど・・・俺だってシアトルに行ってなんとか・・・合格点とったかなって・・・ようやく・・・ギリギリでだよ・・・やっとだよ・・・そんな感じなんだよ」

「・・・」

「再手術は三日後だ・・・彼女はお前を待ってる・・・彼女を救うには・・・お前が必要なんだよ」

壮大は・・・去って行く・・・一光の姿を見つめた。

再手術当日。

一光は・・・友を待っていた。

開始時刻は迫っている。

もちろん・・・壮大はやってくる。

一光の心は喜びに満ちた。

我が良き友よ・・・である。

「壮大・・・」

「カズ・・・俺の気持ちを見せてやるよ」

一光は壮大を抱きしめる。

壮大は一光の背中を撫でた。

「三条さん・・・術衣をもう一着」

出番を確保したナース三条千花(咲坂実杏)は輝く笑顔で応じる。

「準備出来てます」

モニターで見守るドクターたちはどよめく。

「副院長・・・」

「残存腫瘍摘出術を開始します」

一光と壮大の負ける気がしないコンビ結成である。

「浅側頭動脈のバイパス手術から始めます」

一光の主導によるパイパス手術は滞りなく進む。

「パイパスペイテンシー(開通)に問題なし」

一光は主導権を壮大に渡す。

「それじゃ・・・残存腫瘍をとるよ・・・まず・・・左から行くか・・・右から行くか・・・決めるよ」

「見えますか」

「外側脊髄視床路が見えないな・・・錐体路も見えない」

「牽引するか」

「じゃ・・・尾頭から」

「尾頭から」

「ゆっくりだ・・・見えないな・・・頭側」

「頭側・・・」

「見えない・・・滑車神経側・・・」

「滑車神経」

「気をつけろ・・・すぐ錐体路だ」

「わかってる」

「みえてきた・・・これだ・・・まだ吸引するな」

「牽引限界です」

「剥離できそうだ・・・はがれてきた・・・いいぞ・・・」

「・・・吸引しますか」

「まだだ・・・はい・・吸引して」

「吸引します」

「とれたね」

「とれたとれた」

ナース柴田は摘出された腫瘍を受け取る。

「とれました」

モニタールームの外科部長。

「この二人・・・最強だね」

院長室の虎之助は腰を抜かしていた。

壮大は・・・「ありがとう」と言い残し・・・手術室を退出する。

「面倒くさい人ですね・・・」とナース柴田は印象を述べる。

一光は頷いて壮大を追いかけた。

「俺一人じゃ・・・厳しかったよ」

「別にお前を助けるためにやったわけじゃないぜ」

「・・・」

「・・・」

「だけど・・・お前は最高だよ・・・外科医として」

二人は視線を交わした。

深冬は意識を回復する。

「神経をどこも傷つけずに・・・腫瘍を全部取りきれた」と一光。

深冬は微笑む。

「壮大と一緒にオペをした・・・あいつは・・・誰よりも深冬のことを大切に思ってる・・・だから・・・大丈夫」

一光は一心におねだりをした。

「また・・・ちょっと家をあけるよ」

「お前が家にいたことなんてないだろう」

「親父のことは壮大に頼んであるから・・・なんかあったら・・・我慢なんかしないで病院に行ってくれ」

「・・・・」

一心は鯛茶漬けを振る舞った。

「美味・・・」

占領していたドクタールームを整理する一光。

手伝うナース柴田。

「柴田さん・・・本当にありがとう・・・結構・・・プレッシャーだったでしょう」

「いえ・・・私・・・沖田先生とオペしている時の自分が一番好きですから」

「沖田先生・・・シアトルに戻るんですか・・・」と颯太。

「うん・・・」

一光は・・・ナース柴田を手放すのは惜しいと少し考える。

しかし・・・ナース柴田は先手を打つのだった。

「この病院には私に出来る事がまだまだ沢山あるので・・・私はここに残ります・・・また一緒にオペ出来る日を楽しみにしています」

「私事ではありますが・・・オレも留学を視野に入れる事にしました」と颯太。

「へえ・・・」

「修行をして・・・それから経営者としての勉強もします」

「どっちもか」

「医者としても経営者としても理想の病院を作ります」

「理想の病院って・・・」

「医師が患者のために全力を尽くせる病院です」

「なるほど・・・」

「だから・・・柴田さん・・・オレについてきてくれませんか」

「その手をお放し・・・」

「・・・はい」

一光は微笑んだ。

医師としては一人前だが・・・男として・・・まだまだな一光なのである。

深冬の病室に壮大が姿を見せる。

「深冬・・・」

「壮大さん・・・」

深冬は手を差し伸べる。

その手にしがみつく壮大。

壮大の両眼からあふれる涙・・・。

二人の姿に・・・院長は引退を決意する。

壮大は外科部長を説得した。

「副院長をお願いできるかな・・・」

「え・・・」

「俺が・・・明日から・・・院長だ」

「どうして」

「友達じゃないか」

「君に服従はしないけど・・・いいのかな」

「友達だからな・・・」

一光は旅立った・・・。

深冬は回復し・・・莉菜と散歩に出かけるまでになった。

「ねえ・・・ママ・・・海の向こうには何があるの」

「いろいろなものがあるわよ・・・そして素晴らしい人もいるの」

「本当・・・」

「見てみる?」

深冬は莉菜を抱き抱える。

「わあ・・・広い・・・お船が見えるよ」

・・・榊原弁護士は外科部長のアドバイスに従った。

「たとえ・・・誰かに裏切られても・・・素直な気持ちで前を向くしか・・・結局・・・出来ないんじゃないのかな・・・友人として・・・君に言えることはそれだけだね」

同じ男を愛した二人だった。

榊原弁護士は父親(高木渉)の職場を訪ねた。

榊原達夫は笑顔を見せた。

父の笑顔に・・・娘は笑みを返した。

シアトルの一光は今日も執刀医として手術室にいる。

職人の道に終わりはないのである。

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Alife010ごっこガーデン。愛と宿命の廃病院セット。

アンナいや~ん。ワンチャンスあったのは壮大だったのぴょ~ん。ナース柴田さんにもチャンスはあったのに・・・恋愛下手のドクター沖田設定だったのでしたぴょん。 澱んだ親友の心をひっかきまわして風のように去って行ったけど・・・ドクター沖田はアンナの心も奪っていったのぴょんぴょんぴょ~ん。 病気にならなかったら・・・深冬はよろめいたのでしょうか・・・それは誰にもわからない・・・いや・・・莉菜ちゃんいるからな・・・でも・・・榊原弁護士との一件がアレなので・・・ないこともないのかなあ・・・人の心も・・・運命も・・・ちょっとしたことで大きく変わる・・・そんな気がした最終回なのでした・・・そして・・・余韻・・・また余韻・・・じいや・・・お寿司握って~

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2017年3月20日 (月)

永禄五年、松平元康・織田信長同盟す(菜々緒)

寛永元年(1624年)、松下常慶(安綱)は六十七歳で死んだと言われている。

逆算すると永禄元年(1558年)生れであり・・・井伊直親が暗殺される永禄五年(1563年)十二月には数えで五歳である。

念のため・・・。

もちろん・・・永禄年間の遠江のあれやこれやは謎に包まれているので時空を越えたいろいろなことが起きうるわけである。

石川数正は天文二年(1533年)生れで永禄五年には三十路であるが・・・天文十八年(1549年)に松平元康が今川家の人質になってから近侍しているために・・・十年以上、駿府ににいて・・・夫人となった瀬名たちの事情にも通じていたわけである。

永禄五年(1562年)二月、元康が三河国上ノ郷城を攻め、鵜殿長照を討ち取り、長照の子である氏長、氏次兄弟を捕虜とすると元康妻子との人質交換の使者として数正が選ばれたのはそのような経緯がある。

元康の物語ではないので・・・織田信長との清州同盟が描かれないのはいいとして・・・その結果、織田方だった久松俊勝に嫁いでいた元康の実母・於大の方が松平家の奥の事に影響力を振るうようになったことは描いた方が良かった気がする。

今川系の嫁と・・・織田系の姑の軋轢が・・・瀬名母子の別居生活の理由だからである。

正室と嫡男を自害させるという「徳川家康」の暗い影の発端なのである。

戦塵渦巻く三河遠江国境を越えて次郎法師が右往左往するのはかなり笑えるとしても。

愛する男の死後・・・井伊谷のわがまま姫がどのように変貌するのか・・・不気味である。

で、『おんな城主  直虎・第11回』(NHK総合20170319PM8~)脚本・森下佳子、演出・渡辺一貴を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。元康が碁盤を戦略地図に見立てて支配の構想を練るというのはなかなかに鬼気迫りますな。次郎法師が岡崎城外の惣持尼寺の門をたたき「私の愛した人が殺されちゃうの・・・瀬名・・・ここをあけろ」というのも同様にホラーと考えればそれなりに笑えるのでございますよね。駿河国駿府城から遠江国龍譚寺、そして三河国岡崎城へと・・・次郎法師が三国を突破していく冒険活劇にすればかなりワクワクいたしますけどねえ。なにしろ・・・桶狭間の合戦直後の・・・ここは戦国時代真っ只中なのでございますから。偽物元康による奇想天外な謀略はなかなかにドラマチックですが・・・そこまで絵空事をするなら・・・もう少し次郎法師がくのいちでもよかったような気がします。出番は多いのですが・・・次郎法師は凄いというよりもやることなすこと裏目に出てるというところが・・・「白夜行」のヒロインと同じじゃないかとも思う今日この頃です。まあ・・・どうしても戦国三角関係ラブロマンスを描きたいなら・・・しょうがないなあ・・・とため息をつくしかないのでございます。

Naotora011 永禄五年(1562年)正月、松平元康は伯父・水野信元の仲介で織田信長と同盟する。二月、松平元康は実母の夫・久松俊勝と共に三河国上ノ郷城を攻め、鵜殿長照を戦死させ、長照の子・氏長・氏次兄弟は元康の捕虜とする。三月、石川数正が氏長・氏次兄弟と元康の正室・瀬名姫と嫡男・竹千代そして長女・亀姫の人質交換に成功。娘婿の離反の責を問われ、関口親永は正室とともに自害。瀬名姫母子は岡崎城外の惣持尼寺に隠遁。元康の異父弟・松平康元が上ノ郷城主となる。元康の叔父・水野忠重が鷲塚城主となる。義理の叔父である酒井忠次が元康の家老となる。吉良義昭の兄・義安が元康に臣従。美濃国大御堂城主の竹中重元が死去し、重治が相続。この頃、もしくは十二月に今川氏真に謀反を疑われた井伊直親は弁明のために駿府に召喚される。一説によれば家老・小野政次が疑いが晴れたと伝えたために召喚に応じたとされる。直親はこの道中、氏真の命令に従った掛川城主・朝比奈泰朝の軍勢に包囲され討死した。

今川氏より松平元康が独立し、三河国内の今川勢力を駆逐し始めた反乱は遠江国の国人領主たちにも波及していた。

三河国の今川勢は吉田城の小原鎮実を残すのみである。今川家当主の氏真は臣下の離反を抑えるために画策し・・・遠江国内には疑心暗鬼が横行する。

桶狭間の合戦で総領家の井伊直盛を失った井伊家でも求心力が低下し、直盛の遺言により家老となった分家の中野家と直盛の養子・直親の妻の里である奥山家の間に確執が生じている。

義元の元で緩やかに進行していた井伊家の分断が氏真によって強引に推進され・・・結果として今川家の遠江支配は崩壊していくのである。

元康の放った伊賀の忍びたちは遠江国をゆっくりと蝕み始めていた。

曳馬城の飯尾連竜、二俣城の松井宗恒、犬居城の天野景泰らの動静は定かではない。

氏真は二俣城に鵜殿長照の遺児である氏長を送り込んだ。井伊谷の西方の奥山は天野景貫に与えられていたが・・・東の天野本家と井伊を挟撃する姿勢を見せる。曳馬城の飯尾連竜の正室・お田鶴の方は長照の妹とされるが・・・その素性には諸説がある。義元の養女とされた関口親永の妻が井伊直平の娘であったように・・・永禄期の遠江国は謎に包まれているのである。

瀬名とお田鶴の方は姉妹だったという説もあり・・・そうなればお田鶴の方もまた直平の孫ということになる。

戦国時代には同族相討つ悲劇は珍しくないが・・・義元の戦略を踏襲した氏真の国人領主の分断策は完全に裏目に出る。

家臣に家臣を討たせる戦略により・・・遠江国には今川家の臣下がいなくなってしまうのである。

元康は忍びを使い・・・箍の緩んだ小領主たちに餌を撒いていくのである。

遠江国頭陀寺城主の松下氏は秋葉権現の修験者しのびである。

当主の松下嘉兵衛之綱の妻は松下連昌の娘である。

之綱の父・長則は槍術の達人だったと言われる。

松下連昌と松下長則はどちらが本家でどちらが分家か定かでない同族なのである。

松下家には早くから織田家の手が入っていた。

織田家の足軽の子息である日吉丸が奉公に入っていたのは偶然ではないのである。

修験者しのびとして松下連昌の子・常慶安綱が頭角を現すのは間もなくのことであった。

信長と同盟を結んだ元康は・・・伊賀の忍び・服部家と結び・・・忍びの組織化を進めていた。

織田家から松下家を引き継ぎ・・・元康は遠江国の忍び組織を拡充する。

忍びたちは・・・芸を売りにし・・・各地を放浪するものもいるが・・・土着して・・・草となるものもいる。

松下家は双方の色合いを持った忍びの一族だった。

遠江には他に秦氏の出自を持つ勝間田の一族がある。

秦氏の忍びは聖徳太子の時代にはすでに発生している。

伊賀の服部家もまた・・・その末裔なのである。

勝間田の一族からは武田信玄の配下となった小幡虎盛や・・・井伊直親を信濃国伊那郡松源寺に落ちのびさせた今村藤七郎正実が出る。

本来・・・井伊氏は天皇の忍びの一族である。

井伊介として遠江国の忍びを総べていたものが・・・今は国人領主として・・・忍び属性を薄れさせているのである。

松下の忍びも・・・勝間田の忍びも・・・かってはその支配下にあったのである。

二俣城の松井一族も・・・松下の井伊の名を残す。

曳馬城の飯尾一族も・・・井伊の緒なのである。

やがて・・・譜代ではない井伊直政が・・・徳川四天王の一人として名を挙げるのは・・・遠江から信濃、甲斐、駿河に広がる井伊介ネットワークを再構築したからに他ならない。

くのいち次郎法師の物語は・・・その基礎を築く話なのである。

氏真に欺かれ・・・命を落す直親は・・・その捨て駒に過ぎないのだった。

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2017年3月19日 (日)

スーパーマンを止めないで(小泉今日子)

自宅モードの円子が特にブスなわけではないが・・・バス旅行中のおでかけモードの円子はものすごく美人である。

女優魂だな!

つまり・・・自宅モードの時の円子は・・・アイドルらしさを消して子育て中の専業主婦なのである。

それを全身全霊で演じているわけだ。

小泉今日子の凄みだよな・・・。

51歳なんだぜ・・・。

40代後半からの「最後から二番目の恋」~「あまちゃん」~「続・最後から二番目の恋」のたたみかけから一呼吸置いてのコレなのである。

加齢・・・じゃない華麗だ。

アイドル女優として・・・円熟の極みだ。

あなたに会えてよかった・・・。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・最終回(全10話)』(日本テレビ20170318PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。なぜか・・・前回↗10.5%の*4.2%上げである。もう・・・視聴率は完全に終わってるんじゃないか。統計的な目安として・・・。まあ・・・それは裏番組との兼ね合いと言われればそれまでだけどな。だって毎週、面白いじゃんか。とてもじゃないが見たり見なかったりできるコンテンツじゃないだろう・・・いやいやいや・・・お前の感覚でものを言うなよ。

二週連続のフジコ建設営業3課からのスタートである。

簑島課長(高橋克実)の娘がインフルエンザを発症し・・・接待ゴルフに行けなくなったので・・・ゴルフ未経験の左江内係長(堤真一)に白羽の矢がたつ。

池杉照士(賀来賢人)も別件で行けないらしい。

ここで・・・三人は「接待ゴルフ」の基礎講座を行う。

「ナイスショ~」

「ナイト~」

「夜でも騎士でもないからショットだから」

「池ポチャ」

「トレビの泉に入ったからには満願成就ですな」

「すごい」

「惜しくものらず」

「淡谷のり子」

「なるほど」

「そこそこの距離」

「OK牧場」

「・・・」

ガッツ石松ネタに冷たい対応をするのは堤幸彦ネタだからだな。

先達者に敬意を表しつつ蔑むのか・・・。

蒲田みちる(早見あかり)と下山えり(富山えり子)は冷たく見守るのだった。

帰宅した左江内氏を居間で待つ円子(小泉今日子)、はね子(島崎遥香)、そして、もや夫(横山歩)・・・。

「明日・・・新作ゲームマグナムモンスターエースが発売になります」

「朝から並ばないと買えないくらいの人気なんだ」

「並ぶよね」

「無理なんだ・・・明日、接待ゴルフで」

「いいよ・・・パパ・・・ママ・・・仕事の方が大切だよ・・・ゲームが買えなくて・・・話題に乗り遅れて・・・仲間はずれにされて・・・やがていじめにあっても・・・我慢するよ」

「いじめはともかく・・・我慢は大切だ・・・ウチの家計は浪費気味だし」

「何言ってんの・・・お金を使って経済を活性化するのは・・・大切なことなのよ・・・トランプに負けない強い日本のために」

「えええ」

先週からトランプ・ブームらしい。

「ゴルフ何時から・・・」

「十時だけど・・・」

「電気店は・・・九時からです」

移動時間は・・・と言いかけれてスーパーマンになればなんとかなると口ごもる左江内氏。

夫婦の寝室で・・・。

「初めてやったら・・・はまったなんてやめてよね」

「仕事なんだから」

「土日に家族サービスしないで・・・仕事なんて許せない」

そこへはね子が登場。

「よく考えてみたんだけど・・・行列できてると思うよ」

「え」

「今から並ばないと・・・ゴルフに間に合わなくなる」

「ええっ」

弟思いの姉であり父親思いの娘である・・・。

ゴルフバックを担いで出動する左江内氏だった。

しかし・・・すでにかなりの行列が出来ているのだった。

午前九時・・・店頭販売が始るが・・・行列は遅々として進まない。

ついに制限時間いっぱいとなり・・・ゲームを購入できないままゴルフ場に向う左江内氏。

はじめてのゴルフに・・・接待相手も呆れる下手さを発揮した左江内氏だが・・・ついにスーパーマンの力と忘却光線を利用して・・・なんとか接待を乗り切るのだった。

樹木もなぎ倒すスーパーショットを放ち、ゴルフボールより早く飛んでカップインである。

接待終了後・・・電気店めぐりをする左江内氏・・・。

しかし・・・各店舗は軒並み売り切れなのである。

営業時間の終了が迫り・・・あせる左江内氏。

その時・・・およびがかかる。

「助けに行ってたら・・・お店が閉まってしまう・・・」

一瞬の躊躇である。

マンションのベランダから落ちかける幼児・・・母が手を掴んでいるが・・・ついに力尽きる。

間一髪・・・到着した左江内氏が手を伸ばすが・・・届かない。

子供は墜落してしまうのだった。

「すぐに病院に連れて行きます」

子供を搬送した左江内氏は・・・着替えて手術室に向う。

「あの・・・お子さんの容体は・・・」

「お医者様は・・・予断を許さないと・・・あなた・・・どなたですか」

「お子さんが落ちるところを見ていたものです」

「・・・心配して来てくださったのですね」

「・・・はあ」

胸に重い気持ちを抱えて帰宅する左江内氏だった。

「ゲーム買えた?」

「買えなかった・・・」

「話題に乗り遅れて・・・仲間はずれにされて・・・いじめにあうのか・・・」

「悲劇ね」

「ゲームなんてどうだっていいんだよ・・・そんなの悲劇でもなんでもないんだよ」

目の前で起った悲劇に押しつぶされる左江内氏だった。

気持ちを抑えきれず・・・家を飛び出すのである。

「え・・・」

「パパが本気で怒ったの初めて見た」

「・・・ぶっとばす」

戸惑う・・・左江内氏の家族たち・・・。

夜の街を彷徨う左江内氏の元へ謎の老人(笹野高史)が現れる。

「深刻そうだね」

「もう限界だ・・・やはり返却させてくれ・・・このスーパースーツを」

「これまで頑張ってきたじゃないか」

「昔から嫌なことでも・・・やってるうちに馴染んじゃう性質だから・・・でも・・・もう無理だ・・・仕事も家庭も・・・ヒーローの仕事もなんて・・・背負いきれない・・・今日も・・・助けられる命を・・・もう嫌なんだ・・・全ての責任を放棄したい」

「わかった・・・もう諦めるよ・・・明日からスーパーマンは他の人にやってもらう」

「本当に・・・」

「確認しておくがもう一度これが欲しいと言っても・・・もう取り返せないぞ・・・鉄の掟だ」

「大丈夫・・・そんなこと絶対に思わない」

スーツ・・・そして変身マークを返却する左江内氏・・・。

心はたちまち軽くなる。

その勢いで痛飲する左江内氏だった。

路上で目を覚ますと・・・なぜか・・出勤モードが用意されている。

本来・・・日曜日だが・・・すでに左江内氏は悪夢の世界に彷徨いこんでいるのである。

「よくわからないが・・・ラッキーだ」

晴々とした気分で出勤した左江内氏だったが・・・会社には・・・米倉係長(佐藤二朗)が存在する。

「どちら様でしょうか」と他人行儀な蒲田・・・。

「え」

「うわ・・・お酒臭い」

「なんだよ・・・蒲田くん」

「え・・・どうして私の名前を・・・」

「君は誰だ」と課長。

「いやだな・・・課長・・・係長の左江内ですよ」

「うちの係長は米倉くんだが・・・」

「え・・・」

「もう一度・・・ロビーで行き先を確認した方がよろしいでしょう」

「ええっ」

ランチタイム・・・物影から覗くと米倉係長は弁当のことでからかわれている。

「どうして・・・茶色いんですか」

「これは・・・僕の好きなもので」

「あ・・・御自分で作ってるんですね」

「奥さん・・・鬼嫁ですもんね」

「えええ」

会社の居場所を失った左江内氏・・・。

帰宅すると・・・円子もはね子も他人を見る目で・・・左江内氏を見る。

「君はだれなんだ・・・」

「お前は・・・」

家にも米倉がいるのだった。

「警察を呼ぶぞ」

あわてて退散する左江内氏・・・家の表札も「米倉」になっている。

「お風呂がヌルヌルなんですけど」

「ごめん・・・追い炊きした」

「パパは貧乏症だから」

「加齢臭が溶け込むのよね」

「人をメルトダウンした原子炉みたいに・・・」

「土下座して自分の不甲斐なさをフガフガとわびな」

「加齢臭を湯船に融け込ましてすみませんフガフガ」

左江内氏は米倉に自分の日常を見た。

「あいつの仕業か・・・」

左江内氏は・・・老人を捜し始める。

路上でチンピラたちがサラリーマン相手に暴力をふるっている現場に遭遇する左江内氏。

「やめたまえ」

「なんだと・・・」

左江内氏が暴行されてしまうのだった。

そこへ・・・一人乗りのフライングマシンに乗って・・・キャプテンマンが現れる。

キャプテンマンは屁の力でチンピラたちを撃退するのだった。

「どうも・・・元スーパーマン」

「君が・・・次のスーパーマンなのか」

「それは違うよ・・・」と老人が現れる。

「この人は・・・スーパーマンたちのリーダーだ」

「パーマンのバードマンみたいな」

「また・・・原作者が同じだからって・・・原作が違うと・・・もろもろのアレがね」

「キャプテンマンですねん・・・パーやんでもありまへんで・・・君はダメだったね」

「え」

「僕は君をずっと監視していた」

キャプテンマンの正体は米倉だった。

「そんな・・・あなたになんて会ったことはない」

「それは忘却光線を使ってたから・・・君が知らなくてもお茶の間の皆さんは知っている」

「お茶の間・・・」

「いい線まで行ったんだけどな・・・結局・・・スーパーマンとしての自覚が芽生えなかったね」

「・・・」

「だからといって・・・俺の家族や・・・仕事まで奪うなんて・・・」

「だって・・・君はすべての責任を放棄したいって言ったじゃないか」

「・・・」

「君は・・・一人で気楽な生活をすればいい・・・さぞや・・・快適なことだろう」

キャプテンマンはフライングマシンで飛び去る。

「相変わらず・・・血も涙もないお方だ・・・しかし・・・スーパーマンのリーダーはああでないとつとまらない・・・」と老人。

「・・・」

「じゃあ・・・私もこれで・・・君の替わりを見つけないとならないからね」

老人も去っていく。

失うものがなくなって・・・自由になった左江内氏は・・・拠り所を求めて病院にたどり着いた。

母親が左江内氏に気がつく。

「御蔭様で・・・息子が意識を取り戻しました」

「よかった・・・」

「あ・・・スーパーマン」

「え・・・」

「何を言ってるの」

「この人が僕を病院に運んでくれたんだよ」

「・・・」

「今でも覚えている・・・この加齢臭」

「失礼なことを言ってすみません・・・この子・・・まだ混乱しているようで」

「いいんです」

「これからもがんばってね・・・スーパーマン」

「ありがとう・・・」

あてどなく街を歩く左江内氏はうらぶれた「ホトケ電器」にたどり着く。

「マグナムモンスター一つだけあります」の張り紙に心奪われる左江内氏・・・。

ゲームを買い損ねてすべてを失った男なのである。

「あの・・・マグナムモンスター・・・ありますか」

「あるよ・・・十万円」

「え・・・なんで」

「スチームアイロンと羽毛布団・・・そしてカセットテープがついてくる」

「ドラクエの抱き合せ商法かよ・・・懐かしすぎる・・・」

「いらないのか」

店主はホトケ四号・・・じゃなかった米倉である。

もちろん・・・脚本ワールド的には繋がっている天上世界なのだろう。

「だから・・・高すぎる」

「じゃ・・・ゲームをもう一本」

「最後の一つじゃないのかよ」

電気店のテレビにニュース速報が映る。

「バスに立てこもった男が・・・乗客を人質に・・・」

「円子・・・」

乗客の中に・・・円子がいた。

「バス旅行なんて・・・貧乏人のすることよ・・・」と言っていた円子なのである。

いてもたってもいられずに・・・店を飛び出した左江内氏。

「もしもし・・・私の代わりにスーパーマンにならないかい」

「なるよ」

「また・・・あんたか」

「俺が返せと言ったんじゃない・・・ジジイの方から声をかけてきたんだから・・・鉄の掟に反さないだろう」

「まあね」

「俺はスーパーマンになる」

「その言葉・・・忘れるなよ」

謎の老人は消えた。

存在することに対する責任の所在。

人は皆・・・温もりを求めて・・・温もりに対しての責任を負い・・・自問自答しながら・・・生きて行くものなのだ。

「手に入れた居場所を守るのか・・・そこから逃げ出すのか」

人生とはただそれだけのものなのである。

「大人しくしろ」

「大人しくしてるじゃない」とマイペースの円子。

「ごめんなさい」と円子のママ友の木手夫人(福島マリコ)・・・。

「だまれ・・・」とバスジャック犯(菅田将暉)・・・。

小池警部(ムロツヨシ)と制服警官の刈野(中村倫也)は武装した警官隊とともに指を咥えていた。

そこに飛来するスーパーマン左江内氏・・・。

「なんだ・・・お前・・・」

「妻を助けに来ました」

「パパ・・・」

「ふざけるな」

犯人は発砲するが・・・弾丸を弾き返すスーパースーツである。

「くそ・・・お前の嫁を殺してやる」

「仕方がない・・・いいだろう・・・その嫁はな・・・料理も掃除もしない・・・たまに洗濯だけはするが自分と子供たちの衣料が縮むのが嫌だからだ・・・日頃から私に暴力を振るうし・・・そんな嫁だ・・・遠慮なく殺してくれ」

「ここで生き延びたらマジで殺してやっからな」

「な・・・ひどいだろう・・・だけど顔を撃つのはやめてくれ・・・可愛いので」

「・・・」

「・・・と油断させておいて」

拳銃を奪い「くにゃり」と折り曲げる左江内氏。

「くそ・・・」

犯人はナイフを抜く。

しかし・・・円子の飛び蹴りが炸裂するのだった。

「イケメンだから大目に見てやっていたけど・・・あいつを殴っていいの私だけだから」

「菅田将暉に似てるって言われます」

「全然似てねえし・・・山崎賢人のほうが好きだし」

「あ・・・それは言っちゃダメなやつだな・・・」

「・・・」

「ほら・・・傷ついちゃった・・・君はなんでこんなことを・・・」

「田舎から上京してきたのにゲームが売り切れになってて・・・むしゃくしゃしてたら・・・おかしな仮面をかぶった男の人に拳銃を渡されて・・・勝手に体が動いて」

「ゲームってこれか・・・二つ持ってるから一つあげるよ」

「やった」

ゲームソフトを与えられた犯人は消失した。

「あ・・・そうか・・・これもテストか」

「テストって・・・」

「いや・・・旅行の続きを楽しんで」

左江内氏が下車するとバスは走り出す。

運転手は・・・米倉だった。

左江内氏は忘却光線を作動させた。

「あれ・・・」

長い長いネクタイを引きずって意識を取り戻す小池警部。

「どうして・・・みんな集まってるの」と刈野。

「これは・・・慰安旅行だ」

「え・・・え・・・どこに行くの」

「千葉の秘湯だ・・・」

「わ~い」

「今日まで本当にありがとう・・・これからもよろしく」

「はい・・・」

「い~あん」

「い~あん」

左江内氏は茶色い生姜焼きを調理する。

なるべく焦げていない肉を家族の皿に盛りつけする。

「バスの中でひどい夢を見た・・・」

「どんな夢」

「パパが犯人にママを殺させようとするの」

「ひどいね」

「むかつくからちょっと殴らせろや」

「え」

可愛い嫁に可愛くボコボコにされる左江内氏である。

最後のイチャイチャである。

ニヤニヤするはね子ともや夫だった。

フジコ建設営業3課・・・。

「2課にプレゼンを押しつけられた」と簑島課長。

「くそ・・・むかつく」と蒲田。

「ボイコットしましょう」と池杉。

「やりましょう・・・時間がもったいない」

「え」

「フジコ建設として・・恥ずかしくない仕事を」

「左江内係長・・・冴えてる」

屋上に飛来するキャプテンマン。

「たくましくなったね」

「がんばりますよ・・・前から気になってたっだけど・・・顔が大きすぎて・・・マスクが似合ってないよね」

「え・・・最後の最後でそこ・・・私はね・・・連続ドラマのラストシーンなんて・・・これが初めてなんだよ・・・それなのにそこ」

「ま・・・家庭も仕事も・・・そしてスーパーマンも責任もってやりますよ・・・何しろ・・・選ばれし男なんですから」

「その通り・・・最大公約数的常識を持つあたりさわりのない人・・・超人力を保持しても悪用できない小心者・・・そしてぱっと見が冴えない・・・目立たない存在・・・この条件を満たすものはざらにはいないからね」

「・・・」

そこでおよびがかかる。

「頼んだぞ・・・スーパーマン」

「はい・・・まあ・・・やれる範囲で」

悪と善の境界線は・・・深い霧に覆われて判然とはしない。

しかし・・・そこを適当な感じでひとっ飛びに乗り越える・・・それが正義のヒーローというものなのである。

変わらないものなど何一つない・・・この世界において。

彼らは今日も歯をくいしばる。

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2017年3月18日 (土)

転ばぬ先の滑り止め(深田恭子)

背水の陣を好む人間と保険を好む人間がいる。

退路を断って決戦を挑むことを好むと言う人は「見栄っ張り」で「ええかっこうしい」で「虚栄心が強い」と言えなくもない。

基本的に破滅型である。

一か八かが大好きで・・・勝負に勝つことよりも勝負そのものが好きなのである。

そしてノイローゼになりやすい。

保険を好む人は「次善の策」を準備するし、石橋を叩いて渡る。

つまりBプランがあり、慎重派である。

勝つためには手段を選ばない。

基本的にクールである。

ただし、くよくよしすぎるとノイローゼになる。

どちらが人生を楽しめるのかは・・・意見が分かれるところだろう。

人には向き不向きがあり・・・「ベストを尽くすために後先考えないこと」も成功の秘訣と言えないこともない。

人が家族を作るのは・・・お互いの欠点を補う必要があるからである。

バカな亭主にはよくできた女房が必要なのである。

もちろん・・・よくできた女房を得るためにはバカな亭主になる必要があるわけである。

・・・いやいやいや。

で、『克上受験・最終回(全10話)』(TBSテレビ20170317PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・福田亮介を見た。脚本的にはややあざといわけである。「すべりどめ」の存在を隠しておく必要は・・・日常生活にはあまりない。しかし・・・ここは「内助の功」の強調として乗り切るのだった。同じ中卒でも桜井信一(阿部サダヲ)がバカで・・・香夏子(深田恭子)が良妻賢母であるという流れは一貫しており・・・最終回の「大逆転」もそこそこスムーズに展開するのだった。

常に狂気を孕んだ阿部サダヲの存在感は不必要なまでに不気味さを醸しだしてしまうのだが・・・常にかわいい深田恭子がそれを中和して・・・成立するドラマなのだった。

そろそろ・・・阿部サダヲには頭のおかしな犯罪者を演じてもらいたいよねえ。

なにしろ・・・「アベサダ」なのである・・・女だったら恐ろしいことをしでかす名前なのだから。

東大生の親は東大生が多いということが統計的にも明らかな時代なのである。

中卒の両親の子供が・・・中学受験をするのはものすごく無謀なことだ。

しかし・・・無謀なことをしないで・・・底辺に甘んじることはものすごく怠惰なことでもある。

学歴社会なのに受験に関心がない両親なんてクソだと激しく結論するこのドラマ。

一部お茶の間の臓腑をえぐるのだった。

佳織(山田美紅羽)の受験番号「277」は・・・合格発表の表示にはなかった・・・。

信一は膝から崩れ落ち・・・立ち上がることができない。

(神も仏もないのかよ)

自分が本気を出せば・・・成し遂げられないことはない・・・という思いこみが木端微塵になったのである。

現実の恐ろしさに腰が抜ける信一だった。

そんな信一に手を差し伸べる・・・佳織。

「お父さん・・・帰ろう」

古典である・・・「いざとなったら男より女の方が強い」という流れ。

桜井父娘の様子から「事態」を察した徳川直康(要潤)と徳川麻里亜(篠川桃音)の父娘はかける言葉がみつからないのだった。

香夏子からの連絡を受け・・・居酒屋「ちゅうぼう」の中卒の仲間たち・・・松尾(若旦那)、竹井(皆川猿時)、梅本(岡田浩暉)、そして杉山(川村陽介)は意気消沈する。

中学受験の先輩である楢崎哲也(風間俊介)も無念さを滲ませる。

帰宅した信一は香夏子に誘導されて入浴するのであった。

背水の陣で戦に挑み・・・惨敗した信一は・・・痺れた頭で・・・娘の行く末を案じる。

「次は・・・高校受験だ・・・また一から勉強だ」

「・・・」

信一に背を向ける佳織。

香夏子はすっかり・・・オヤジギャルになり・・・接待で毎晩帰りが遅くなる。

「もう少し・・・家のことも考えてよ」

「誰が稼いで食わしてやってると思ってんだ」

「・・・」

夜遊びの激しくなった佳織を捜しに行く信一。

佳織はコンビニ前で零点シスターズの河瀬リナ(丁田凛美)と遠山アユミ(吉岡千波)と遊んでいた。

「佳織・・・受験勉強の時間だよ」

「ざけんなよ・・・もう勉強なんてするわけねえだろう」

「そんな」

「とっとと消えろよ・・・お受験クソオヤジ・・・」

「え・・・お受験クソオヤジって・・・」

「みんな・・・そう呼んでるよ」

「ね~」

「ね~」

「佳織~」

涙目で妄想から帰還する浴槽の信一。

明らかなサービス・ミスである。

一夫(小林薫)は祝いの酒にはならなかった特級酒を持って訪れる。

「佳織はどうしてる?」

「帰ってからずっと・・・俺塾に籠っちゃって・・・」

一夫は孫を案じて様子を窺う。

「何をしてるんだ?」

「受験で出た問題・・・もう一度解き直してみたの・・・よくわかった」

「え・・・何がわかったんだ?」

「何がわかってなかったのか」

「・・・」

中卒の三人と中学受験に失敗したものが食卓を囲む。

「ウサギと亀のようにはいかなかったね」

「ああ・・・」

「何の話だ?」

「ウサギと亀の本当のタイトルは油断大敵・・・ウサギたちが亀には用心しろっていう縛めなんだって」

「つまり・・・エリートたちはさ・・・油断しなければ絶対に負けないってことだよな」

「ある程度の努力で勝てるような相手じゃなかった・・・お父さんも私もずっと甘くみてたよね・・・頑張れば良い結果になるって・・・こんなに頑張ってるんだから神様が見放すはずないって」

「でも・・・あれ以上・・・頑張れないよ・・・あれが限界だよ」

信一は弱音を吐き・・・一夫はため息をつく。

「と言うことは・・・一生かかっても・・・俺たちは勝てねえってことか」

「大丈夫だよ・・・相手との距離がわかったからいつかきっと追いつける・・・だからお父さん・・・公立中学に行ってもまた一緒に勉強してくれる?」

中学受験をしたことのない信一に対して実際に挑んだ佳織はたくましく成長を遂げていたのだった。

応援団と選手とでは見える景色が違うのである。

「あ・・・いや・・・それはどうかな・・・中学の勉強は・・・もうお父さんには難しすぎるし・・・そろそろ・・・仕事もしないと・・・」

信一の心はすでに死んでいた。

しかし・・・香夏子には奥の手があったのだ。

「二人とも・・・もうひと頑張りしないとね」

「香夏子・・・そんなこと言ったって」

「みんなには内緒で・・・星の宮女学院の願書を出しておいたの」

「え」

「だって・・・桜庭学園より星の宮女学院の制服がかわいいんだもの」

ノイローゼ状態の信一なら・・・「二番じゃダメなんだ」と怒りだすところだが・・・すでに死んでいるので降伏するしかないのである。

「受けてもいいの?」

「佳織・・・」

「こっちの方が簡単なんだろう」と一夫。

「桜葉学園の次に難しいし・・・」

すでに死んでいるので消極的な信一である。

「大丈夫・・・今度は絶対に受かる」

ニュータイプとして覚醒した佳織だった。

御先真っ暗な信一とは違い・・・すでに先が見通せる佳織なのである。

「香夏子さん・・・ありがとう」と一夫は息子に代わって礼を述べる。

「私は公立でもいいと思ってるんです・・・でも・・・将来・・・佳織にやりたいことができた時・・・学歴がないのが理由でそれができないとしたらかわいそうだなって・・・思うようになって・・・」

「敗者復活戦じゃ・・・金メダルはとれないんだよな」

ウジウジと・・・終わったことに拘る信一。

「手ぶらで帰るわけにはいかないのよ」

「でも・・・桜庭学園を落ちた子たちが・・・たくさん来るし」

「負け犬同志・・・相手にとって不足はないわ」

三位決定戦に向けてモチベーションをあげるため・・・素早く心を切り変える猛者がそこにいた。

三日後・・・星の宮女学院の受験当日・・・。

すでに受験生としての風格さえ感じさせる佳織だった。

「お父さん・・・受験勉強楽しかったね」

「え・・・」

信一は凛々しい娘を眩しく感じるのだった・・・。

星の宮女学院の保護者面談は・・・着席が許されるらしい。

「お父さんの最終学歴が・・・中学卒業となっていますが・・・間違いありませんか」

「はい・・・家庭の事情で・・・そのようになりました・・・だから・・・娘には自分が経験していない世界を知って欲しかったのです」

「塾には行かせず・・・お父様ご自身が教えられたとありますが・・・」

「娘と一緒に中学受験というものを自分で経験してみたかったので」

「おやりになっていかがでしたか」

「一言で申せば・・・とても・・・楽しかったということになります」

合格発表当日・・・素晴らしいインターネットの世界で合格通知を待つ一同。

「ここをクリックしたら・・・合否がわかります」

「早くクリックしろ」

「ここは・・・桜井さんが・・・」

「いや・・・俺には無理だ」

佳織が辛抱できずにクリック!

「やった・・・432番・・・合格」

「万歳」

佳織は・・・信一が願った桜葉学園ではなく・・・自分が行きたいと考えた星の宮女子学院に合格したのであった。

信心深い一夫は・・・早朝のお礼参りに信一を連れ出す。

「何も・・・こんなに朝早く神社に来なくてもいいだろう」

「馬鹿野郎・・・お礼参りは早いに越したことねえんだよ」

「・・・」

「神様・・・私は息子にろくな教育をあたえてやりませんでした・・・しかし・・・息子は孫娘に立派な教育を授けることができました・・・心より御礼申し上げます」

「親父・・・」

「この神社も・・・あちこちガタが来てるんで・・・俺が修繕することにしたよ」

「・・・」

腕に自信がある一夫は身体で礼金を払うつもりらしい。

全国を行脚するシルバー宮大工の誕生である。

佳織の小学校卒業式の当日・・・。

テレビでは・・・「トクガワ開発」の社長・德川直康の退任がニュースになっていた。

海外事業での失敗の責任をとってのことらしい。

学校に押し寄せる報道陣・・・。

明治時代の朝ドラマの主人公のような正装をした小山みどり先生(小芝風花)が一喝する。

「場所柄をわきまえなさい・・・このウジ虫ども」

「・・・」

「大変だな・・・」と信一。

「いや・・・でも・・・うれしいこともあったよ」と直康。

育児ノイローゼで・・・転地療養していた妻(野々すみ花)が快方に向ったらしい。

娘が桜葉学園に合格したことが功を奏したのである。

お嬢様を妻にするのもいろいろと大変なのである。

香夏子は小山みどり先生に礼をする。

「いろいろとアドバイスしてくれてありがとうございました」

「こちらこそ・・・どんな馬鹿げたことのように見えても・・・何かを成し遂げる気持ちの大切さを教えていただいたような気がします」

「えへ」

佳織はライバルと握手をした。

「今度は東大を目指しましょう」

「麻里亜ちゃんがそう言うのなら・・・喜んで」

大森健太郎(藤村真優)は受験しなかった。

「俺は天才だから・・・公立で充分なんだ・・・そしていつか医者になる・・・佳織が病気になったら治してやるよ」

「ありがとう・・・アライフを見たのね」

「まあね」

信一は自分の体験を素晴らしいインターネットの世界で発信した。

これが出版社の目にとまり・・・「下剋上受験」はベストセラーになるのだった。

信一は・・・娘の七光で受験アドバイザーとしてそこそこ活躍している。

信一のトークイベント&サイン会では・・・娘の手紙朗読が見せ場である。

「それでは・・・娘さんからの手紙をお聞きください」と司会者(赤江珠緒)・・・。

「私は中学1年生です・・・みんなにすごいねと言われる学校で・・・全生徒の中で私の家が一番貧乏だと思います・・・でも・・・それで困ったことはまだ一度もありません・・・友達もたくさんできました・・・この間・・・父は本がたくさん売れたと喜んでいました・・・私が大学に行けるほど売れたの?・・・と聞くと・・・大丈夫だと言っていました・・・買ってくれたみなさん・・・本当にありがとうございます」

いろいろと複雑な気持ちになる聴衆たちである。

楢崎が課長に昇進し・・・香夏子は課長補佐になるという話がある。

「あの・・・産休はいただけるのでしょうか」

「え」

桜井夫妻はやることはやっているのだった。

こうして・・・世界は回って行く。

無理を承知で受験しなければそもそも合格できないという話である。

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2017年3月17日 (金)

燃えよ本能寺!(小栗旬)信長協奏曲NOBUNAGA CONCERTO(柴咲コウ)

谷間です。

コンプリートということでは・・・続きは劇場で・・・というテレビが自分の首を絞めるスタイルでありながら・・結局はオンエアするので大丈夫という典型のコレである。

腐ってもテレビなので・・・平均視聴率12.5%の連続ドラマという宣伝をやっておけば・・・そこそこ劇場に客が来るだろうというビジネスである。

どうしてもみたい人は・・・金を払ってでもみるわけである。

そういう商売に文句を言うのは大人げないのだが・・・このブログのポリシーとしては・・・オンエアされないとレビューできないわけである。

で・・・2014年のドラマ(全11話)の最終回が2016年に劇場で映画として公開され・・・2017年オンエアされたわけである。

しかし・・・素晴らしいインターネットの世界では二年くらいのブランクはどうということはないのだった。

で、『信長協奏曲NOBUNAGA CONCERTO・(2016年劇場公開作品)』(フジテレビ20170116PM9~)原作・石井あゆみ、脚本・宇山佳祐(他)、演出・松山博昭を見た。平成の高校生のサブロー(小栗旬)がタイムスリップして瓜二つの織田信長になりすましたのは天文二十年(1551年)で本能寺の変は天正十年(1582年)である。歴史改変物語だとしても・・・ほぼ史実通りに事態が推移するので31年の歳月が経過するかというとそんなことはない。登場人物はほとんど老いる気配がないので・・・ある種のファンタジー空間にサブローは紛れ込んだのである。ちなみに帰蝶(柴咲コウ)は天文四年(1535年)生れなので家康が天下を完全に手中に収めた大坂夏の陣は慶長二十年(1615年)であり・・・もしも帰蝶が存命ならば齢八十になっている。しかし・・・ファンタジー空間なので帰蝶は永遠のアラサーを彷徨うのだった。

なんじゃあこりゃあ・・・とは思うが遊園地のアトラクションに文句を言っても仕方ない。

「ジェット・コースターにジェットエンジンなし」である。

どれだけの時が流れたのか・・・サブローは本願寺との戦いに突入している。

本願寺顕如が三好三人衆(三好長逸・三好政康・岩成友通)や鈴木孫一率いる雑賀衆とともに信長に対して挙兵したのは元亀元年(1570年)のことである。信長の対本願寺戦は天正八年(1580年)に石山を本願寺が退去するまで続く十年戦争である。

しかし・・・ファンタジー世界では一気呵成に合戦が進展していく。

天正四年(1576年)に越中・能登を平定した上杉謙信は越前の織田勢と激突。

天正六年(1578年)には毛利氏に与する播磨国の別所氏が叛旗を翻す。

これらは最後の足利将軍義昭の策謀によるもので・・・関連しているものの前後して起る合戦である。

しかし・・・上杉・毛利・本願寺の同盟として信長を包囲するわけである。

サブローは・・・上杉に柴田勝家(高嶋政宏)、毛利に羽柴秀吉(山田孝之)、本願寺に実は織田信長である明智光秀(小栗旬・二役)を派遣する。

信長の名をサブローに譲った光秀だったが・・・天下統一に向けて家臣に愛され、帰蝶にも妹の市(水原希子)にも愛されているサブローに嫉妬し・・・心に闇を飼う。

信長の股肱の臣である沢彦(でんでん)は「そろそろ・・・すべてを取り戻していいのではないか」と光秀(信長)を唆すのである。

幼い頃に信長によって家族を殺された秀吉は復讐のために密謀を巡らし・・・光秀に信長殺しを唆す。

本願寺に対するために天王寺に砦を構築した光秀は・・・包囲すると見せかけて・・・安土城の信長を急襲しようと考える。

その時、サプローと同じくタイムスリップしてきた松永弾正久秀(古田新太)は安土城に現れた。

「お悔やみをいいにきた」

「え・・・誰か死んだの?」

「天下統一が目前になったら・・・信長は死ぬんだよ」

「え・・・なんで」

「なんでって・・・お前・・・教科書に書いてあるだろう」

「えええ」

「バカだと思っていたが・・・そこまでバカだったとはな・・・」

「俺が・・・死ぬ」

一方・・・市は帰蝶に信長と結婚式をすることを奨める。

「結婚式・・・」

死の予言に茫然とする信長はそれどころではない。

帰蝶の安全を確保するために・・・徳川家康(濱田岳)の城に避難させようと考える信長。

「なぜ・・・私が家康殿のところへ?」

「俺・・・もうすぐ死ぬかもしれないんだ」

「何故・・・そのようなことを・・・」

「俺は・・・未来から来たから・・・これから起ることがわかるんだよ」

「・・・」

一方・・・例によって本願寺に寝返った松永弾正は・・・天王寺砦が手薄になることを顕如に知らせる。

信長を急襲するために砦を出た光秀は本願寺勢に包囲され・・・窮地に陥るのだった。

「くそ・・・松永め・・・」

光秀が信長を殺したところで・・・光秀を殺そうと考えていた秀吉は目算が狂い唇を噛みしめるのだった。

「え・・・ミッチーが・・・ピンチなの・・・」

サブローは何もかも忘れて・・・少ない手勢を引き連れ・・・救援に向うのだった。

いつの間にか・・・無双の武人として成長したサブローは本願寺門徒を殺して殺して殺しまくるのだった。

信長が三千の兵力で一万五千の本願寺勢を撃破する天王寺砦の戦いである。

しかし・・・ファンタジー世界では北陸や関東から・・・配下の武将たちが全員集合し・・・負傷して窮地に陥った信長を救い出すのである。

命を救われた光秀は信長に告げる。

「私は・・・太陽のようなお前が・・・羨ましかったのだ」

「月も大切なんですよ。地球が太陽の周囲を回るように・・・月は地球の周囲を回るのです」

「え」

「歴史は変わった・・・俺は死なない」

なんとなく確信したサブローは帰蝶との挙式を決意する。

「俺・・・京都で結婚しようと思うんだ」

「じゃあ・・・本能寺を予約しておきます」と池田恒興(向井理)・・・。

「ケーキも発注しておきます」と森蘭丸(冨田佳輔)・・・。

大人たちは年をとらないが・・・子供たちは成長するファンタジーゾーンである。

帰蝶は・・・大坂で河童が捉えられたと知り・・・回り道をする。

河童はタイムスリップしてきたウィリアム・アダムス(スティーブ・ワイリー )だった。

「ワタシ・・・日本大好キナいんぐらんど人デス」

「信長が誰に殺されるか・・・存じて居るか」

「ミツヒデサン・・・」

「え・・・いつどこでじゃ」

「イツカハワスレマシタ・・・場所ハ本能寺デス」

「えええ」

その頃・・・秀吉は光秀を脅迫していた。

「信長を殺さなければ・・・帰蝶を殺す」

「それが・・・武将のすることか」

「是非もない」

光秀は・・・帰蝶を保護するための忍びを送りつつ・・・本能寺に向う。

本能寺で帰蝶を待つサブロー。

「上様・・・謀反です」

「え・・・」

「明智光秀に包囲されました」

炎上する本能寺。

「ミッチー・・・」

「すべては・・・秀吉の罠だ・・・」

「え・・・サルくんの・・・」

「私が身代わりになる・・・お前は逃げてくれ」

「そんな・・・」

「戦のない世を・・・作るのだろう」

「ミッチー・・・」

サブローは逃げた。

姿を見せる秀吉。

「なぜ・・・こんなことを・・・」

「初陣の焼き打ちで・・・お前が俺からすべてを奪ったのだ」

「復讐は私を殺して・・・終わりにしてくれ」

「殺す・・・お前の影武者も・・・お前の妻も・・・お前の妹も・・・お前の家来たちも・・・皆殺しだ」

兇悪な秀吉だった。

逃走中のサブローは光秀の忍びに救助された帰蝶と合流する。

「逃げましょう・・・」

「いや・・・上映時間も残り少ないので・・・俺は光秀として・・・山崎の合戦をしなければならないのです」

「なぜなのじゃ」

「秀吉が天下統一することが・・・教科書に書いてあるので・・・」

「バカ・・・」

「でも・・・元々・・・月9なので指輪はプレゼントしないとダメなんだ」

「月9・・・」

「帰蝶・・・愛している」

「行って来い」

だが・・・光秀軍は・・・羽柴軍には敗れる宿命である。

「サルくん・・・僕を殺してもいいけど・・・戦のない世は君が作ってよ」

「戦のない世など来ぬ」

「君なら・・・きっとできる・・・」

「夢のまた夢じゃ・・・」

秀吉はサブローを斬った。

しかし・・・サブローは消えてしまった。

「え・・・」

サブローは現代に帰還した。

高校生ではなくなっていたらしく・・・サブローは就職したのだった。

そんなある日・・・サブロー宛てに画像データが送られてきた。

ウィリアム・アダムスが現代に帰還し・・・サブローの存在をリサーチして・・・帰蝶のビデオメッセージを届けたらしい。

いろいろと・・・アレだが・・・もう・・・なんでもありなんだな。

「信長・・・元気でいるか・・・来世に届くという・・・このカラクリで・・・お前に言いたいことがある・・・妾もそなたに惚れておる・・・その・・・愛している」

サブローは四百年ほど前に死んだ帰蝶の冥福を祈るのだった。

そして・・・今日も地球のどこかで戦争が継続中である。

戦争が絶えることなどないのだ・・・人類が滅亡するまでは・・・。

関連するキッドのブログ→前回のレビュー

くう様の信長協奏曲

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2017年3月16日 (木)

ラブホの上野さん(本郷奏多)お友達ゾーンのあなたへ(松井愛莉)

谷間である。

四百万アクセスも達成したし・・・4444444までは遠い童貞じゃなかった道程が残されている。

連日の更新が途切れるのはなんとなく残念な感じもするわけだが・・・そんなことを言っているとキリがないわけである。

膨大なコンテンツが生み出され続けるメディアに応じて・・・しかるべき論評も価値があるのではないかと考え日記を兼ねて始めたこのブログだが・・・それなりの成果はあったと思う。

最近・・・TOKYO MXで「ウルトセラブン」をオンエアしているので見ているのだが・・・ものすごい名作がないわけではないが・・・大体・・・ひどい出来の作品の連打である。

とくに・・・脚本がひどい・・・。

子供向けだからこんなもんでいいんじゃないの・・・的な稚拙さが充満している。

まあ・・・今でも・・・ひどいものはひどいのだが・・・あんなものを凄いと思って育った子供はろくなもんじゃないな・・・。

まあ・・・自分のことなのだが・・・。

ドラマ鑑賞が趣味で・・・それなりの数を見れば・・・そこそこ語れる時代である。

好き嫌いもあるし・・・知的水準の問題もあるが・・・素晴らしいドラマはそういうものを凌駕して素晴らしいといいなあと思う。

最近ではアニメ「この素晴らしい世界に祝福を!」を祝福したい。

で、『ラブホの上野さん・第1回~』(フジテレビ201701190126~)原作・上野、脚本・小鶴乃哩子(他)、演出・日暮謙を見た。いわゆる一つの恋愛指南ものである。恋愛というものもゲームの一種であるから攻略法があるという感覚は・・・本当の恋愛ではないという考え方もあるが・・・まあ・・・人生いろいろである。

ラブホテル「五反田キングダム」のスタッフである上野さん(本郷奏多)が遥か上から目線で「恋愛下手」の人々にあり難いアドバイスをしてくれるのである。なぜ・・・上野さんがそんなことをするかというと・・・恋愛成就の末に・・・ラブホテル「五反田キングダム」を利用してもらうからである。

つまり・・・「営業」です。

基本的に・・・男性が女性をラブホに連れこめたら成功なので・・・その後のことはあまり問題ではないのだった。

毎回、様々な・・・まだラブホに行けないカップルのゲストが登場し・・・心理学をベースにした上野さんのアドバイスでラブホの売上に貢献するのだった。

従業員の一人に・・・童貞の一条くん(柾木玲弥)がいて・・・ややサディスティックな傾向のある上野さんに精神的にいたぶられたり・・・彼氏以外の男には徹底的にクールな女性スタッフの相川千尋(大沢ひかる)に蔑まれたりするところもベースとなっている。

さらに・・・一条くんは・・・近所のカフェバーの店員である中瀬麻衣(松井愛莉)に童貞を捧げることを夢見ているのだった。

今季のフジテレビの中ではマシな作品なのである。

とにかく・・・のんびりとニヤニヤして見ていられるからな・・・。

第8話に至っても・・・一条くんは麻衣と素晴らしいインターネットの世界の会話アプリのためのアドレスを交換できていないという体たらくなのだが・・・上野さんは・・・女性のアクションに対するリアクションを指導する。

「相談に乗る時に一番大切なのは・・・素晴らしい提案をすることではなく・・・相手の気持ちに同調することです」

「・・・」

「どうすればいいかと聞かれたら・・・一緒に考えようと答えてください・・・そして何も考えない・・・ひたすら・・・彼女の気持ちに寄り添うのです」

「・・・」

「なぜなら・・・女性にとって必要なのは・・・結論ではなく・・・気持ちなのです」

男女の違いがあることに・・・些少の物議は醸すわけだが・・・正論なのだった。

第8話のゲスト・カップルは・・・聖子(梶原ひかり)に対して友達と恋人の境界線を越えられない竹内(松下仁)である。

「どうすれば・・・相手に異性として認めてもらえるか・・・ということです」

「・・・」

「竹内さんも・・・一条くんも・・・お友達ゾーンの住人なのです」

「お友達ゾーン・・・」

「一条くん・・・友達といるとどんな気持ちですか」

「・・・」

「あ・・・友達もいないのですか」

「いますよ・・・それは・・・気が楽というか・・・」

「つまり」

「ホッとできるというか・・・」

「安心だってことですよね」

「はい」

「安心だから安全なのか・・・安全だから安心なのか」

「・・・」

「どうすればいいと思いますか」

「さあ・・・」

「緊張感ですよ」

「緊張・・・」

「彼女の心に土足で踏み込む勇気です」

「そんなことをしたら・・・嫌われないですか」

「嫌われたくなくて・・・ずっと安心安全で・・・童貞のまま一生を送っても構わないと」

「だって・・・いつかチャンスがくるかもしれないじゃないですか」

「つまり・・・釣りをしなくても魚は釣れるということですか」

「・・・」

「お友達は・・・どこまで行ってもお友達・・・だって・・・変わらぬ友情って言うでしょう」

こうして・・・竹内は・・・彼女の心に土足で踏み込み・・・成功したらしい。

どうやって踏み込んだのかは見せないのが・・・基本である。

そして・・・一部愛好家の見所は・・・聖子たち・・・釣られたゲストがラブホテルにやってきた時のそれぞれのリアクションなのである。

まあ・・・ある意味・・・ものすごく性的興味でしかみていないわけである。

あの梶原ひかりが・・・そういう役をやるようになったのだなあ・・・と遠い目をするわけである。

一条くんもなんとか・・・最終回には麻衣をラブホに連れこめるといいのになあ。

関連するキッドのブログ→あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。

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2017年3月15日 (水)

明日の軽井沢は晴れのち曇りでしょう(松たか子)

アリスは大きなウサギ穴に飛び込みました。穴の中はトンネルのようにまっすぐ続いていていきなりの下り坂。踏みとどまることができずに深淵へと落下するアリスなのです。(不思議の国のアリス/ルイス・キャロル)

淀君は織田信長の姪で豊臣秀吉の側室。豊臣秀頼の母。徳川家康により豊臣家が滅んだ大坂の陣で敗因の元凶とされる。

楊貴妃は唐の第九代皇帝・玄宗の皇妃。古代中国を代表する美人。あまりに美しすぎて国を混乱させたと責められ死を賜った。

美しく愛らしいことが罪であると醜い者たちは考えるものだ。

美しく愛らしいものたちは嫉妬の炎で炙られる宿命なのである。

美人薄命と言うが・・・そもそも年老いた美女というものの存在そのものが困難だ。

つまり・・・本当の美人とは美少女だけなのである。

おいおいおい。

で、『カルテット・第9回』(TBSテレビ20170314PM10~)脚本・坂元裕二、演出・坪井敏雄を見た。戸籍上の早乙女真紀(篠原ゆき子)が自転車泥棒で逮捕され十四年前に闇金業者に戸籍を売ったことが発覚する。平成十五年・・・山本彰子(松たか子)は地下経済の一端を担う戸籍売買業者から戸籍を三百万円で買い・・・早乙女真紀になりすましたのだと富山県警の大菅直木(大倉孝二)はサオトメマキの元の姑・鏡子(もたいまさこ)に告げる。

「戸籍を売ることは犯罪とは言えないのですが・・・戸籍を買って・・・他人になりすまし婚姻届を出せば・・・公正証書原本不実記載等罪に問われる可能性があります。刑法157条によれば5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられるのです」

「え」

「ご存じでしたら・・・彼女の居場所を教えていただけませんか」

「・・・」

鏡子は強盗を犯して拘留中の息子・巻幹生(宮藤官九郎)に面会する。

「それで・・・彼女の居場所を教えたのか」

「だって・・・仕方ないじゃないか」

「なんで・・・そんなことを」

山本彰子の母親は「上り坂下り坂ま坂」という曲を歌っていた演歌歌手・山本みずえ(坂本美雨)だった。

彰子の父親とは死別し・・・再婚した夫とも別れたみずえは一人で彰子を育てていたが彰子が十歳の時に坂道で自転車に轢かれて死亡する。

みずえを轢き殺したのは12歳の少年で弟が生れた病院に向う途中だったと言う。

彰子はみずえと離婚した元夫に引きとられ、家庭内暴力に苛まれつつ、ヴァイオリンを習い大学を卒業したという。

「事故死の損害賠償金が二億円だったそうよ」

「・・・」

「保護者となった男から日常的な暴力を受け・・・あの人は家出を繰り返し・・・その度に連れ戻されていたそうよ」

「マキちゃんが・・・賠償金の受取人だったからか」

「・・・」

「じゃあ・・・マキちゃんは被害者じゃないか・・・そいつから逃れるために戸籍を買って逃げ出したってことだろう」

「多くの犯罪者は自分を被害者と思うことから生れる・・・って刑事さんが言うの」

「・・・」

「あの人が姿を消した頃に・・・その人は亡くなっているんだって・・・心不全だけど・・・不審なところがあるらしいわ」

「だからって・・・マキちゃんが・・・人を殺したりするわけないじゃないか」

幹生に対して事情聴取に訪れる大菅刑事・・・。

「しかし・・・あなただって・・・早乙女真紀を名乗る山本彰子に騙されているわけですよ」

「でも・・・真紀ちゃんは母親を殺された被害者なんでしょう・・・」

「殺したのは十二歳の少年ですよ・・・少年の家族は職を失い一家離散しました。少年は生れた弟と暮らすことはなかったそうです」

「・・・」

「それでも・・・損害賠償の請求は続けられていたと言います・・・彼女が姿を消す十四年前まで・・・十二年間もね」

「だったら・・・だからじゃないですか・・・被害者遺族がいなくなったら・・・加害者が助かるから」

「支払いは停止されています」

「でしょう・・・彼女はそういう人です・・・加害者のために・・・自分が犠牲になったんだ」

「・・・」

「そうか・・・真紀ちゃんは・・・僕と結婚して巻真紀になって・・・普通の暮らしがしたかったんだ・・・ずっと・・・怯えてくらしてきたから・・・十年以上も・・・本当の名前を隠して一人ぼっちで」

「ふふ・・・まさか・・・今度は夫が失踪して犯罪者になるとは思わなかったでしょうね」

「う」

「まあ・・・捜査資料からあなたの元・妻が早乙女真紀であることが判明して手間が省けました」

「僕は・・・彼女から逃げ出しただけじゃなく・・・彼女を不幸せに・・・」

「まあ・・・何が幸せで・・・何が不幸かは人それぞれでしょう。彼女が加害者のために存在を消したのか・・・それとも別の事情があるのかも・・・何れ明らかになりますよ」

心を隠している様子が見える大菅刑事・・・。

それが単に職業的なものかどうかは定かではない。

山本彰子の年令は十歳プラス十二年プラス十四年でおよそ三十六歳。

加害者の少年は現在、三十八歳で・・・少年の弟は二十六歳である。

大菅刑事を演じる大倉孝二の実年齢は四十二歳である。

松たか子の実年齢が三十九歳であるから・・・大菅刑事が加害者少年となんらかの関係のある人物である可能性は微かに残されている。

同僚刑事がつぶやく。

「どちらなんでしょうね・・・加害者のためか・・・それとも・・・男の不審死に関連しているのか」

大菅刑事は皮肉な笑みを消してポーカーフェイスになるのだった。

大学を卒業するまで山本彰子だった女が・・・早乙女真紀というプロの奏者になることに些少の困難さを感じないでもないが・・・関係者には芸名を装っていたということなのだろう。

そもそも戸籍を売った早乙女真紀が生きていることの方が問題だよな。

普通は埋められているか・・・沈んでいるかだよな。

二人の刑事たちは冬の軽井沢を目指すのだった。

軽井沢の商店街を散歩するカルテット・ドーナツホールの第一ヴァイオリン・サオトメマキとチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)・・・。

「見るだけ~」

「見るだけ~」

二人は服飾店に入る。

「似合う」

「すずめちゃんの方が似合う・・・すずめちゃんの誕生日って・・・四月だっけ」

「三日です・・・ええっ・・・何かプレゼントしてくれるの?」

「聞いただけ~」

「真紀さんは・・・八月?」

「八月十日・・・ええっ・・・プレゼントしてくれるの?」

「聞いただけ~」

二人は姉妹のように・・・ブランコを漕ぐ。

「真紀さん・・・もっと漕いで」

「私はこれで充分よ」

別荘ではヴィオラ・家森諭高(高橋一生)と第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)が食事の支度をしている。

「ただいま」

「お帰りなさい」

「卵買ってきた」

「卵ありますよ」

食卓に猫の声が届く。

「隣の猫ちゃんですね」と別府。

「うちも猫飼いたいですね」とすずめ。

「留守にしてる間・・・かわいそうでしょ」とヤモリ。

「熱帯魚とかどうですか?」とサオトメマキ。

「ニモとか」

「ニモ可愛いですよね」

「ニモって」とヤモリ。

「ニモですよ・・・」

「これなんですか」

「ホッチキス」

「違います・・・これの名前はステープラー・・・バンドエイドは絆創膏・・・ホッチキスは商品名でしょ・・・バンドエイドも商品名でしょ・・・ポストイットは付箋紙・・・タッパーはプラスチック製密閉容・・・器ドラえもんは猫型ロボット・・・YAZAWAは矢沢永吉・・・トイレ詰まったときのパッコンはラバーカップでしょ・・・あと君また袖にご飯粒つく!・・・ほら・・・カピカピ・・・ほら・・・あの魚の名前はカクレクマノミ・・・ニモは商品名です・・・本当の名前で呼んで」

固有名詞と・・・商品名との心情的問題の話である。

コマーシャリズムによる言葉の汚染問題には表現者のポリシーがからんで複雑だ。

チャイムの音が響く。

ヤモリに辟易した三人は先を争うように玄関に向う。

「わしを倒してから行け」は「千と千尋の神隠し」の青蛙(我修院達也)の声色と思われる「わしにもくれ」のヴァリエーションか・・・。

来客者は別荘売買に関連した業者だったらしい・・・。

ついに・・・別荘売却の一件を知ることになる別府以外の三人・・・。

「ここ・・・売っちゃうの」

「実家でそう言う話が出ていて」

「ここなかったらカルテットできないってわけじゃないし」

「僕も就職するから」

「それじゃそっちが本業になっちゃいます」

「いいんじゃないですか?」

「よくありません・・・仕事やバイトが優先になって・・・・シフトがあるからって・・・本来やりたかったことができなくなった人・・・僕はたくさん見てきました」

「でも・・・将来ホントにキリギリスになっちゃって」

「飢え死にしちゃって」

「孤独死しちゃって」

「子供バイオリン教室の頃からちゃんとしてなかった子達は今世界中で活躍してます・・・飢え死に上等・・・孤独死上等じゃないですか・・・僕達の名前はカルテットドーナツホールですよ・・・穴がなかったらドーナツじゃありません・・・僕は皆さんのちゃんとしてないところが好きです・・・たとえ世界中から責められたとしても僕は全力でみんなを甘やかしますから」

「穴がなくなったら揚げたパンですね」

「カルテット揚げパン・・・」

「アンコとか入るんじゃないの・・・アンドーナツ」

「この別荘は僕が守りますから」

「ありがとう」

「ノクターン」の従業員控室で・・・アルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)が悲鳴を上げる。

素晴らしいインターネットの世界での株式投資に失敗したらしい。

お金を信じるアリスは一瞬で失われた金額に絶望を感じるのだった。

そこにシェフの大二郎(富澤たけし)がやってくる。

素早くハイヒールの踵を折って・・・修復を求めるアリスなのだった。

「シェフって・・・この店のオーナーなんですよね」

「二代目だけどね」

「凄いな・・・」

ホール担当責任者の多可美(八木亜希子)は夫の大二郎の誕生日を祝い・・・サプライズでケーキを用意していた。

やってきたカルテットを引き連れて・・・大二郎を探し始める多可美・・・。

損失を埋めるために・・・大二郎を誘惑しはじめるアリスなのである。

「大二郎さん肩幅も広いし」

一同はアリスの誘惑を覗き見るのだった。

「何か疲れちゃった」と背後から攻めるアリス。

「何だろう」

「猫ですね」とアリスの弟子であるすずめが解説する。

「最近・・・寂しくって」

「雨に濡れた仔犬です」

「あのね~大二郎さん・・・私・・・」と正面に回るアリス。

「虎です・・・虎になりました」

多可美は鬼の形相である。

しかし・・・そんなことは万に一つもありえないのだが・・・大二郎にはアリスの誘惑が通用しないのだった。

「そういうのやめてくれる・・・僕ママのこと愛してるんで」

「・・・そうですか」

アリスは素早く撤退して・・・誘惑相手の妻とカルテットに遭遇するのだった。

「おはようございます」

壊れたハイヒールでにこやかに挨拶する手負いのアリスである。

蝋燭はケーキを燃やした。

泥棒猫(未遂)のアリスは多可美によって解雇された。

いかなる時も笑みを絶やさないアリス。

ただし・・・常に目は笑っていない。

「多可美さんどうもありがとう・・・多可美さんだ~い好き」

手切れ金上乗せの退職金に喜ぶアリスは多可美をハグする。

「真紀さん・・・私のこと忘れないでね」

「たぶん忘れられません」

「家森さん・・・いつスキー連れてってくれるんですか?」

「こっちから連絡します」

「ええっと」

「別府です」

「別府さん大好き!」

しかし・・・何故か別府とはハグしないアリスである。

「すずめさん・・・私と組んで何か大きいこと」

難色を示すすずめだった。

退場の花道でスポットライトを浴びるアリス。

「不思議の国に連れてっちゃうぞ~」

地下アイドル時代の決め台詞を投げかけるアリス。

思わず反応しかかるヤモリだった。

「・・・アリスでした・・・じゃあね・・・バイバイ」

退場したアリスはお約束で転倒するのだった。

「あ~ん」

「ドジっ子アピールですね」

「淀の方・・・」

「傾国の美女・・・」

「不思議の国はどこにあるんでしょうか」

すでに・・・お茶の間は知っている。

アリスにとって・・・この世界こそが不思議の国なのだ。

アリスはなんとか・・・自分の世界に帰ろうとして冒険を続けているのである。

そして・・・サオトメマキ・・・まきまき・・・ヤマモトアキコもまた・・・穴に落ちてしまったアリスなのだった。

アリスとアキコは魂の姉妹なのだ。

古くからショー・ビジネスの世界では芸と性は不可分なものである。

しかし・・・芸を売っても身は売らぬことに乙女たちは憧れるのだ。

そして・・・様々なドラマが生れ・・・様々な事件が起こるのである。

苦界に沈みアリスは芸を見失い・・・洗練されたアキコは性を見失ったのである。

歌姫と奏者の分かれ道・・・。

別府は実家に戻って・・・別荘の件について交渉をする。

ヤモリは就職活動に出る。

すずめは業務中に・・・昼休憩で別荘に戻る。

「お昼あるかな~」

「中華丼なら」

「いただきます」

「仕事どう?」

「パソコン使えるの私だけだから・・・たぶんもう少しで乗っ取れると思う」

「すずめちゃん・・・会社員だったんだもんね」

「真紀さん・・・ずっと東京でしょ?・・・地下鉄とかですれ違ったりしたかも」

「地下鉄で・・・」

「チェロ背負った小学生とバイオリン背負った中学生が・・・改札口とか連絡通路とか隣同士の車両とかで・・・」

「・・・」

「まわりは嘘ばっかりだったから・・・自分もどっか遠くに行きたいなって・・・いつも思ってて・・・真紀さんみたいに嘘がない人と出会ってたら」

「うちからちょっと離れたとこに空き地があったの・・・そこにね廃船があったの・・・そこで寝そべって一晩中星を見たり・・・そこにいるとねそのままワーって浮き上がってどっか遠くに行けそうな気がしてた」

「・・・オールのない船で・・・星の破片が降りつもって・・・」

「そして・・・軽井沢に着いたの」

「軽井沢行きだったんだ」

「ここに来たかったんだ・・・もう十分だなって思うの・・・ねえ・・・キクラゲ食べる?」

「キクラゲ・・・戻らないんじゃないですか・・・ランチタイムの間に」

一日の終わり・・・。

サオトメマキとすずめはご馳走を作って待つ。

別府は説得に失敗して意気消沈している。

「弟さんと喧嘩したんですか」

「チワワに噛まれて・・・弟に絆創膏貼ってもらった」

ヤモリが就職を決めて帰宅する。

「ノクターンに決まりました」

「え」

「アリスちゃんの後釜です」

「祝賀会ですね」

「ヤモリさんはパンツを穿いてください」

「パンツだけはいてる人とパンツだけはいてない人どっちがまともな社会人?」

「どっちもまともじゃありません」

「仕事と趣味両立すればいいじゃないの・・・どっちも稼げるわけだし」

「咲いても咲かなくても花は花です・・・私の考えたことわざです」とサオトメマキ。

「起きてても寝てても生きてる」とすずめ。

「つらくても苦しくても心」と別府。

「でも一度でいいから大きなホールで演奏してみたい」とすずめ。

「映画でも見ましょう・・・STARSHIP VS GHOST・・・って映画なんですけど宇宙船も幽霊も出てこないんですよ」

「・・・」

サオトメマキはソフトをふざけて投げ捨てる。

そして・・・刑事たちが到着する。

「早乙女真紀さんはご在宅でしょうか?」

「え」

「少しお話よろしいですか?」

「何でしょう?」

「山本彰子さんですよね?」

「・・・」

「任意同行のお願いにまいりました」

「間違いじゃないですか・・・」とすずめ。

しかし・・・サオトメマキの表情を見たすずめは・・・間違いではないことを察するのだった。

マキは・・・アキコだったのだ。

「富山県警まで御同行願いたいので・・・明日、改めてお迎えにあがります」

「はい」

刑事たちが去るとアキコは階段を昇る。

「真紀さん・・・」

「ごめんね・・・すずめちゃん・・・私たち・・・地下鉄ですれ違うはずなかったの」

アキコは逃亡を考える・・・しかし・・・逃げてどうなるというのだろう。

「真紀さん」と部屋の外から声をかけるヤモリ。

「ちょっと・・・待ってください・・・」

「大丈夫ですか」

「はい」

アキコは覚悟を決めた。

「私・・・昔・・・悪いことしたから・・・それが今日返ってきたんです」

「真紀さん・・・」

「ごめんなさい・・・私・・・早乙女真紀じゃないです・・・嘘ついてたんです・・・私・・・嘘だったんです・・・本名は別です・・・戸籍買って逃げて東京行きました・・・それからずっと早乙女です・・・ニセ早乙女真紀です・・・なりすまして・・・幸いずっとバレなくて調子乗って結婚しました・・・名前もらってしれっとしてずっとだましてました・・・皆さんのこともだましました・・・カルテットなんか始めちゃって仲よくしたフリして・・・嘘だったんですよ・・・明日の演奏終わったら警察行ってきます・・・もうおしまいです・・・お世話になりました・・・本当の私は・・・」

「もういいよ・・・もう何も言わなくていい真紀さんが昔誰だったかとか・・・私達が知ってるのは真紀さんで・・・他のとかどうでもいい・・・」

「私は皆さんを裏切って」

「人を好きになることって絶対裏切らないから・・・知ってるよ真紀さんがみんなのこと好きなことくらい・・・それは嘘なはずないよ・・・だってこぼれてたもん・・・人を好きになるって勝手にこぼれるものでしょ?」

「・・・」

「道で演奏したら楽しかったでしょ?・・・真紀さんは奏者でしょ?・・・音楽は戻らないよ・・・前に進むだけだよ・・・心が動いたら前に進む・・・好きになったとき・・・人って過去から前に進むでしょ・・・私は真紀さんが好き・・・今ね・・・信じてほしいか信じてほしくないかそれだけ聞かせて」

「信じてほしい・・・」

「じゃあ・・・別府さん推しの映画みましょうか」

ヤモリは暖炉の火を熾す。

別府はハーブティーを四つのカップに注ぐ。

恐ろしくつまらない映画が始る。

「別府くん・・・この映画いつ面白くなるの?」とヤモリ。

「スターシップは・・・」

「ゴーストは・・・」

「だからそういうのを楽しむ映画なんです」と別府。

アキコとすずめは・・・「ビームフラッシュ」や「ステイック・ドミノ」に興ずる。

ヤモリは別府にからむ。

「人生やり直すスイッチがあったら押す人間と押さない人間がいて・・・僕はね・・・もう押さない・・・何故なら・・・みんなと出会ったからね」

「・・・」

別れの夜を堪能して・・・アキコは眠りに誘われた。

朝が来て・・・アキコはすずめと窓辺に佇む。

「曇ってますね」

「曇ってるね」

二人にとってそれはいい天気なのだ。

「ノクターン」で「カルテット」は思い出の曲を奏でる。

「アヴェ・マリア/フランツ・シューベルト」そして「モルダウ/ベドルジハ・スメタナ」・・・。

音楽は始り・・・進み・・・そして終わる。

「明日のパン・・・ないかもしれません」

「帰りにコンビニに寄ろう」

「シャンプーはまだありますね」

「買い置きが戸棚に」

「そんなとこですね・・・」

「やっぱり・・・あの別荘春になるとリスが来るそうです・・・雨が降ると玄関に座って雨宿りするそうです・・・春になったら見ましょうね」

ヤモリはアキコの髪をセットした。

「ありがとう」

「綺麗ですよ」

「家森さん・・・私も人生やり直しスイッチはもう押さないと思います」

「はい」

「別府さん・・・あの日カラオケボックスで会えたのはやっぱり運命だったんじゃないかな?」

「はい」

アキコはすずめにヴァイオリンケースを示す。

「すずめちゃん・・・預かっててくれる?」

「・・・誕生日いつ?」

「六月一日」

「この子と一緒に待ってるね」

「じゃ・・・ちょっとお手洗いに行ってきます」

アキコは警察車両に乗り込んだ。

ラジオから流れる天気予報。

「ラジオ切ってもらっていいですか?」

「富山まで結構ありますよ」

「頭の中に思い出したい音楽がたくさんあるんです」

マキマキ/サオトメマキ/ヤマモトアキコのいない夜。

奏者たちは泣き濡れる。

すずめはご飯を炊いて豆腐とワカメのみそ汁を作り鮭を焼いた。

泣きながらご飯食べたことある人は生きていけるから。

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2017年3月14日 (火)

黙っていると怒っているように見える人(木村拓哉)

人間は苦悩する存在である。

過去を思い出し・・・未来を惧れて・・・現在に震える。

この厄介な「心」というものと付き合わなければほとんどの人は生きていけないのである。

惧れを知らない子供に人が心を癒されるのは・・・その愚かさが羨ましくもあるからだ。

時には何もかも忘れてのんびりしたくてもそうはいかないのが「賢さ」というものなのだ。

しかし・・・何かを得ようとしなければ得ることは難しい。

欲望がなければすべては始らないのである。

その上で欲望をなだめすかし・・・ちょっとした辛抱をしなければならない。

生米をといでたかなければふっくらごはんにはありつけないのだ。

まして・・・御寿司を食べるまでには・・・長い準備期間が必要なのである。

その点・・・焼肉はお手軽だと考える。

・・・何の話だよ。

幸せの話である。

で、『A  LIFE~愛しき人~・第9回』(TBSテレビ20170312PM9~)脚本・橋部敦子、演出・木村ひさしを見た。友人と同じ異性を好きになるのは三角関係の古典中の古典である。魅力的な異性に心を奪われるのは動物の基本だからである。好きになった人が友人と相思相愛になり・・・やるせない気持ちを抱くことは容易に想像がつくわけである。もちろん・・・相思相愛になった方もなんとなく後ろめたい気持ちを抱いたりするわけである。その経験が辛すぎてドラマでも過去を思い出してもやもやするから見たくないという心弱き人もいるだろう。それでも・・・わかりやすいので・・・ドラマの骨格として何度でも使用されるのだった。痛いんだものね。心が痛いってわかるんだもんね・・・なのである。

愛する人の容体が急変・・・ということで病院の廊下を走る医師二人・・・。

ここで・・・壇上深冬(竹内結子)が天に召されてしまえば・・・沖田一光(木村拓哉)と鈴木壮大(浅野忠信)の間には恋の思い出と友情だけが残り・・・それなりにハッピーエンドなのだが・・・最終回ではないのでそうもいかないのである。

深冬は脳内出血に至ったが・・・状態は安定した。

「軽度の新鮮出血だったので・・・腫れが引けば・・・手の痺れなどは納まり・・・日常生活に復帰できる」

「手術はどうなるの・・・」

「経過次第だが・・・三週間後に・・・延期する」

「そう・・・」

「カズ・・・俺はしばらく・・・ここにいる」

「そうか・・・」

「沖田先生・・・御心配かけてすみません」

「いえ・・・」

壮大の握る深冬の手から視線をそらす一光。

十年間・・・目を背けていた嫉妬の炎が・・・一光の心を炙る。

だが・・・何が何でも深冬を手に入れようとしなかったのは・・・自分自身なのだということが一光にはわかっていた。

わかっていたが・・・二人を残して病室を去ることが・・・恐ろしく苦痛なのである。

だが・・・深冬と壮大が子まで生した夫婦であり・・・深冬と一光が患者と主治医に過ぎないことは明らかなのだった。

その上・・・壮大は・・・深冬の執刀医としての一光さえも否定するのだった。

まるで・・・一光と深冬の絆を完全に断ち切らなければ・・・安心できないとでも言うように。

一光は後悔する。

もっと早く・・・パイパス手術という結論に至っていれば・・・。

出血する前に執刀していれば・・・。

父親の手術でミスを犯す前に執刀していれば・・・。

一光は・・・実現しなかった過去の遡上の果てにたどり着く。

あの時・・・深冬と離れ離れにならなければ・・・。

しかし・・・すべては過ぎ去った過去の話である。

過ぎ去った過去を取り戻すことはできないのだった。

人間は・・・どうしようもないことに直面した時・・・怒りを感じる。

自分自身の至らなさを払拭するために。

「もっと・・・早く・・・オペをしておけば・・・」と思わず愚痴を言う一光。

「しかし・・・手術の方法はまだ有効なんでしょう」と井川颯太(松山ケンイチ)は一光を宥める。

「アプローチは可能ですよね」とナース柴田(木村文乃)・・・。

「難易度は高くなってしまったけれど・・・」と失敗に拘泥する一光。

一光は苛立ちの虜となっている。

それでも・・・一光を敬愛する医師と看護師は・・・心乱れるドクターに寄り添うのだった。

一光による手術ミス・・・深冬に対する独占欲・・・様々な状況に心を踊らされ・・・激しく動揺してしまう可能性のある・・・家族に対する執刀に偏執し始めた壮大。

「君がオペするというのか」と深冬の父親でもある院長の虎之助(柄本明)は壮大に厳しい目を向ける。

「皮膜外にも出血したために・・・腫瘍が分断されて正常神経との見極めの難度はあがってしまいました・・・脳実質の温存を見定めるためには・・・キャリアが要求されます・・・こうなってしまった以上・・・専門外の沖田先生よりも・・・私の方が適任です」

「しかし・・・君には家族をオペするというリスクがある・・・沖田先生だって・・・家族のオペとなればミスをする・・・そういうものだ」

「だからこそです・・・僕と沖田先生は違います・・・僕は必ずやり遂げます・・・深冬は僕が救います」

一光が深冬に寄せる特別な気持ちについて言及しかかる壮大である。

もちろん・・・邪推と思われかねないのでギリギリで自重する壮大なのである。

「何が・・・ベストなのか・・・少し考えさせてくれ」

虎之助は病み上がりの老いた父親として俯く。

二人の医師は一人の患者を争って牙を剥くのである。

壇上記念病院に少年と老婆に付き添われた急患が搬送されてくる。

急患は少年の母親である。

少年・・・安井知樹(藤本飛龍)は診察した颯太に要求する。

「この病院の最高のお医者さんにお願いします」

颯太は一光に打診する。

「最高の先生に診てもらいたいと要求されまして」

「え」

「冠動脈バイパスおよび左内頸動脈内膜剥離術になると思います・・・僕にはちょっと難しいですね」

「それを先に言えよ」

出動するドクター沖田・・・しかし・・・母親を失うかもしれない恐怖にとりつかれた知樹は猜疑心の塊となっているのだった。

「ベルギーの王様を手術した先生がいると聞きました。その先生なら失敗しないですよね。その先生はお金持ちじゃないと手術しないんですか」

「これ・・・失礼なことを言うんじゃないよ・・・すみません・・・なにしろ・・・母一人子一人なもので」

知樹の祖母(茅島成美)が・・・孫の無礼を詫びる。

もちろん・・・一光には・・・知樹の姿が・・・幼い頃の自分とオーバーラップしているのだった。

医師から見放され・・・母を失ったあの日の一光・・・。

「僕がしっかり手術するから・・・大丈夫」

しかし・・・知樹の疑いは晴れない。

けれど・・・一光は間違いを訂正する気にはならないのだった。

ベルギーの王様を手術したのではなく・・・ベルギーの王様の家族を手術した一光なのである。

「脳神経外科学会」理事長の草野康浩教授(佐々木勝彦)が難しい患者について壮大に相談する。

「相手は・・・現職の大臣なんだ」

「眼窩内腫瘍ですか・・・」

「どうかね・・・」

「やれます」

壮大の心は目まぐるしく動く。

「百点でなければ意味がない」・・・父親の呪いを宿した少年時代から無理に無理を重ね・・・積み上げた心の塔はゆらりゆらりと揺れながら危ういパランスを維持している。

その素早い精神の動きは他人からは「やり手」とも思われるが・・・いよいよ・・・挙動不審の段階にまで差し掛かっているらしい。

「え・・・桜坂中央病院との提携話を白紙に戻すとおっしゃるのですか」

「あおい銀行」行員の竹中浩一(谷田歩)は耳を疑う。

同席していた外科部長の羽村圭吾(及川光博)も寝耳に水である。

「厚生労働大臣の横井充先生の難しいオペをすることになったのです」

「え」

「これは極秘にお願いします」

「・・・」

「このオペによって壇上記念病院のブランド力が上がる・・・その名を捨てるわけにはいかないでしょう」

「しかし・・・そのように・・・経営方針を替えられたのでは・・・当方としても上への説明に困ります・・・それに手術が成功するとは限らないのでは」

「成功しますよ・・・私が執刀するのだから」

壮大の言動に眉をひそめる外科部長を観察して竹中の危惧は高まる。

深冬は脳内出血の発症によって・・・さらに・・・自分に残された時について考え込む。

出血で高まった脳圧により痺れが出た・・・震える不自由な手で・・・遺書を書き始めるのだった。

(壮大さん・・・お父さんと仲良くしてください・・・莉菜・・・お父さんと仲良くしてね・・・それだけが・・・お母さんの・・・)

虎之助は壮大に対して癇癪を破裂させる。

「深冬のオペを控えているのに・・・なんで・・・今・・・そんなリスクを・・・」

「患者の命を救うためですよ」

「失敗すれば病院の名は地に堕ちる・・・君と心中しろというのか」

「生き延びるためです・・・特別な・・・大臣の命を救うことができれば深冬だって救えます」

「・・・」

虎之助は・・・壮大が追いつめられていることを察知する。

それを・・・自分の娘である・・・深冬の命のためと・・・考える虎之助。

しかし・・・壮大の追いつめられ方は・・・そんなに単純なものではないのだ。

壮大の心は走り続ける。

「大臣のオペがうまくいったら・・・深冬は俺が切るよ」

「あれだけ・・・家族だから・・・オペは無理だと言ってたじゃないか」

壮大の言動に気圧されながら一光は抵抗する。

「家族のオペは簡単じゃないからな・・・現にお前はミスをした・・・」

「だったら・・・」

「だからだよ・・・お前にはまかせられない・・・俺はお前とはちがう・・・どんな困難も自分の力で乗り越えてきたんだ」

「・・・」

「この件は・・・院長も了承済みだ」

「・・・俺も準備だけはしておくから・・・」

「深冬には・・・大臣の手術が終わったら俺から話すよ」

「壮大・・・」

「一光・・・お前はもう・・・シアトルに帰ってくれていいから」

すでに・・・狂気の気配を漂わせる壮大なのである。

一心(田中泯)の退院の日が来る。

病室に顔を出す壮大と一心。

「退院おめでとうございます」

「ソーダイ・・・いい部屋にしてくれてありがとうよ」

「懐かしいな・・・その呼ばれ方・・・」

「お前も一度・・・寿司を食いに来な」

「寿司もいいけど・・・久しぶりに鯛茶が食べたいですね」

「お安い御用だ・・・なあ・・・ソーダイ・・・こいつのことをよろしく頼むぜ」

「・・・」

「この野郎・・・俺の手術で失敗しやがった」

「・・・」

恋敵でもあり、医師として患者をとりあうライバルでもある壮大の前で父親に痛いところを突かれて・・・鬱積していく一光の苛立ち。

父親がわがままを言わなければ・・・深冬の手術はもう・・・終わっていたのかもしれなかったのに・・・。

考えまいとすればするほど・・・落ちつきを失う一光なのである。

だから・・・一光には・・・壮大の異常さがわからないのだった。

一光もまた・・・おかしくなっているのである。

「え・・・オペを頼めない」

「副院長のオペが入っていて・・・三日間・・・他のオペには参加できません」

ナース柴田に・・・知樹の母親のオペを断られ・・・緊張の糸が切れる一光だった。

「しかし・・・あのオペには・・・君が必要なんだ」

「申しわけありません・・・三条さんが」

「三条くんじゃ・・・」

ドクター沖田とナース柴田の会話をナース三条(咲坂実杏)が聞いていた!

沖田が気配に気が付き振り向くとナース三条がいる。

気まずさに耐えきれず退散する一光だった。

一方・・・横井大臣が入院し・・・スタッフを集合させた壮大は自信満々にスピーチを行う。

「このオペは画期的なオペです・・・壇上記念病院の未来がかかったオペです・・・我々はそのオペを行う大事な仲間です」

壮大は高い塔の上で針の先に立ち・・・人々を見下ろすのである。

恐ろしさのあまり・・・壮大はにこやかな表情を浮かべる。

ナース三条とのリハーサルを行う一光。

「遅い・・・それに必要なのは・・・小さい方・・・そこは予測して・・・すでに15秒オーバーしている」

「すみません」

「・・・」

ドクター沖田とナース三条の相性は最悪らしい・・・。

「俺しか言えないことだから言いますけど・・・」と颯太は声を大にする。「三条さんにちょっと冷たいんじゃないですか」

「患者のために・・・準備しているだけだ」

「あれで・・・いいオペできますか・・・三条さんにプレッシャーかけてるだけじゃないですか」

「難しいオペだと・・・自覚してほしいから」

「それがベストだと思いますか・・・」

「・・・」

「今の沖田先生には・・・深冬先生のオペは無理だと思います」

言うだけ言って・・・後悔に苛まれる颯太だった。

颯太は救いを求めて・・・深冬の病室を訪れる。

「まったく・・・沖田先生ときたら」

「どうしたの・・・沖田先生と何か・・・あったの」

「いや・・・ちょっとした意見の相違です」

「沖田先生・・・あなたがいてくれることを・・・喜んでいると思うわよ」

「え」

「ほら・・・なんだかんだ・・・とっつきにくい人だから・・・あなたに構われてうれしがってると思うの」

「そんな風に見えないですよ」

「いいえ・・・きっと二人は相性抜群よ」

「嫌ですよ・・・あんな面倒な人・・・」

まんざらでもない颯太だった。

深冬は微笑むのだった。

死期が迫り天使化しているらしい。

思いつめた知樹が一光を待ち伏せる。

「ベルギーの凄い先生に渡してもらいたいものがあります」

「え」

「これで・・・お母さんの手術をお願いします・・・大人になったら・・・必ず約束を果たしますから」

拙い文字で書かれた「一億円の借用書」だった。

「・・・」

「必ず渡してください」

退院した一心を案じて・・・帰宅する一光。

一光の心身も疲れ果てている。

一心は・・・一心不乱に包丁を研いでいた。

「心配して損したよ」

「いてて・・・」

「ほら・・・今日くらい休めよ」

「・・・半人前のくせに」

「半人前、半人前ってうるせえんだよ・・・どこまでいったら一人前なんだよ・・・こっちだって俺にしかできないオペを色々とやってんだ」

「俺にしかできねえとかぬかしやがるから半人前なんだよ」

「本当だから・・・俺にしかできないオペがあるんだから」

「関係ねえんだよ・・・自分がどうだとか・・・相手がどうだとか・・・どんな時にもただひたすらに準備する・・・心を一点にだけ集中するんだ・・・てめえがやってるなんていう雑念なんか入らねえ・・・一途一心だ・・・それをお客に出す・・・ただそれだけだ・・・それが職人ってえもんだろう」

「・・・」

一心から一光へ・・・職人気質の以心伝心である。

「いてて・・・」

「痛みどめ・・・飲んどけよ」

「べらぼうめ」

「俺・・・病院に戻るから」

手術室では・・・柴田が加わり・・・リハーサルを再開していた。

「三条さん・・・ごめん・・・やりづらくしていたのは・・・僕だった」

「私の方こそ・・・すみませんでした・・・柴田さんに準備不足を指摘されて・・・反省しているところです」

「柴田さん・・・ありがとう」

「いえ・・・患者さんのためですから」

「ですよね」と颯太が微笑む。

チーム沖田は本格的に準備を始めた。

あぶれ者が集うバー。

「うちの顧問弁護士・・・辞めて正解だったかもねえ」と外科部長。

「・・・何かありましたか」と元顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)・・・。

「副院長に振り回されるのはもううんざりだよ・・・壇上記念病院を乗っとるって言う話・・・あれを今度はひっくり返した」

「副院長は心の奥に不安を抱えているから・・・何をしても・・・不安定なんですよ・・・目移りしちゃうんです・・・もっといいことがあるんじゃないかと・・・本人はベストを求めているのかもしれないけれど・・・回りから見れば気まぐれにしか見えない」

「さすがに・・・ベッドを共にした相手の心はお見通しなのか・・・で・・・彼は一体何を抱えているの」

「さあ・・・とにかく・・・土台が不安定なんだから・・・そのうち・・・崩れ落ちますよ・・・自滅しちゃえ・・・いい気味だ・・・ですよ」

「怖いね」

「自業自得です」

「そんな君に・・・頼みたいことがあるのだけど」

「どうぞ・・・伺いますよ」

陰謀とは無縁のチーム沖田の準備は整った。

「冠動脈バイパスおよび左内頸動脈内膜剥離術を行います・・・よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

特訓の成果により・・・ナース三条もそれなりにドクター沖田と呼吸を合わせる。

「脳酸素いくつ」

「脳酸素フォワード85に低下しました」

突発事項にも落ちついて対応する三条である。

「キットの準備できてます」

「ありがとう」

手術は無事に終了した。

一方で・・・ナース柴田を従えた壮大は・・・手術のリハーサルを重ねる。

「ここは・・・どうしよう」

「これで」

「うん・・・いいね」

手術を終えた一光に恐怖のために正気を失った知樹が迫る。

「手術は成功です・・・お母さんは大丈夫だよ」と一光は「一億円の借用書」を取り出す。「こういうことをしなくても・・・僕たちは全力でやっているからね」

しかし・・・正気を失っている知樹は聞く耳を持たない。

「誤魔化さないでください・・・結局・・・ベルギーの先生はやってくれなかったじゃないか」

困惑する一光。

「この人がベルギーの先生ですから」と助け舟を出す颯太。

「え」

「ベルギーの王様の家族を手術したんだけどね」

「マジですか」

「マジです」

「本当にベルギーの先生」

「べルギーの先生って・・・」

「なんだか美味しそうですね」

「チョコレートじゃねえよ」

一時退院することになった深冬のために荷物運びを手伝う一光。

「ご機嫌ね・・・何かいいことあったの」

「え」

「沖田先生は黙っていると怒っているように見えるけど・・・今日はそうでもないから」

「いいオペができたから・・・え・・・俺って黙っていると怒っているように見えるの」

「うふふ・・・私の時も・・・よろしくお願いします」

「はい」

颯太は・・・外科部長にアドバイスを求めるのだった。

「羽村先生は・・・留学しようと思ったことはありますか」

「おやおや・・・沖田先生の影響がそこまで来たか」

「いえ・・・そんなんじゃ」

「武者修行に行ったからって・・・全員が成功するわけじゃないからね・・・成果をあげることなく帰ってきて・・・居場所がなくなっちゃた人の方が多いよ・・・海外に行くってことは日本との関係を断つことになるからね・・・沖田先生みたいに特別なスペックを身につけて凱旋できる人の方が稀なんだ」

「ですよね・・・」

「まあ・・・君はまだまだこれからさ」

「羽村先生は・・・いずれ・・・副院長とご一緒に経営にタッチなさるんですか」

「さあ・・・それはどうかな」

「・・・」

外科部長の謎めいた言葉に戸惑う颯太・・・。

「前方アプローチによる眼窩内腫瘍摘出術を行います・・・よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

前例のない術式と・・・横井大臣というVIP患者によってショーアップされた壮大の手術。

手術室の内外に・・・多数の見学者が集うのだった。

集中した壮大は・・・自信に満ち溢れた態度でセレモニーを主催するのだった。

「凄い・・・本当に凄い」と思わず呟く一光。

「ですよね・・・柴田さんの器具出し・・・完璧ですよね・・・副院長先生・・・一度も持ちかえてないし・・・手渡しの角度までバッチリです」

視点がやや違う颯太だった。

壮大は見事に手術を成功させるのだった。

記者会見が行われ・・・虎之助も壮大に賛辞を贈る。

壮大の中で悪魔が囁く。

(どうしたんだ・・・なにもかもぶちこわすのはやめたのか)

(馬鹿なことを言うな・・・俺には大切なものがある・・・俺は大切なものを自分の力で守るのだ)

(おやおや・・・そうかい・・・)

(そうだとも・・・俺にはできる)

(もう・・・手遅れじゃないのか)

(何がだ)

真田事務長(小林隆)は執刀医を紹介する。

「これは・・・前例のない・・・画期的な手術でした」

壇上記念病院の名声は高まった・・・。

一光は親友を祝福した。

「見事だったよ」

「そんなことないよ」

「あのプレッシャーの中で・・・初めてのオペを成功させるなんて・・・信じられないよ・・・やっぱり凄いな・・・壮大は」

「・・・カズ・・・深冬のオペは・・・俺がやるよ」

「・・・」

打ちのめされ沈黙する一光・・・。

怪気炎を上げながら帰宅する壮大・・・。

「オペは俺がやる」

「どうして・・・バイパスは沖田先生のほうがふさわしいって言ってたじゃない」

「今回の出血で神経の選別は難しくなった・・・腫瘍と正常神経の選別はカズより俺のほうが経験がある・・・バイパスのほうはオペまで二週間で十分な準備ができるし・・・総合的に俺のほうが適してる・・・お父さんも了承してくれた」

「・・・」

正気を取り戻した知樹が一光を訪ねる。

「ベルギーの先生だとは知らずに・・・ごめんなさい」

「いや・・・お母さんが心配だったんだよな」

「お母さんを助けてくれて・・・ありがとう」

「いえ・・・こちらこそ・・・ありがとう」

「僕・・・ベルギーの先生みたいなお医者さんになりたいんです」

「・・・」

「でも・・・勉強が苦手なんです」

「あのさ・・・テストの時とか・・・何点くらい」

「この間の算数のテストは・・・59点」

「へえ・・・いや・・・全然大丈夫でしょう・・・僕なんかもっとひどかったし・・・」

「そうなんですか」

「医者になろうと思ってから・・・死ぬ気で勉強したから・・・それで医者になれてるし」

「マジですか」

「マジです」

「ベルギーの先生・・・ありがとう」

「・・・」

知樹は外科部長にも話を聞くべきだがな。

焼肉屋に集合するチーム沖田・・・。

三条も呼んでやればいいのに・・・。

「野菜も食べてください」

「無理だから・・・」

「仕方ないですね」

「あの子が頑張って医者になったら凄いですよね・・・ベルギー先生物語ですよね」

「どんたけ略すんだよ・・・僕が手術したのはベルギーの王様の家族だよ」

「ニンジンどうですか」

「だからといって・・・患者はあくまで患者なんだよな・・・」

「そうですよ・・・王様の家族も知樹くんのお母さんも同じですよ」

「雑念は置いておいて・・・目の前の準備に集中するってことですよね」

「うん・・・一途一心にオペをする・・・それだけだ・・・まあ・・・親父の受け売りなんだけどね」

「それに気づかれた沖田先生は・・・もうお父さんのオペをした時の沖田先生とは違うってことですよね」

「うん」

「じゃあ・・・もう大丈夫ですよね・・・これでもう大切な人のオペちゃんとできますよね」

「だけど・・・この前・・・ある人に・・・深冬先生のオペは無理だと思いますって言われて・・・」

「ひどいことを言うやつがいるな」

「まあ・・・図星だったんだけどね」

「おやおや・・・」

「あ・・・これ・・・もう焼けてるぞ」

さて・・・焼肉を食べにいくしかない気持ちでいっばいだ。

院長室に外科部長と榊原弁護士が現れる。

「折り入って・・・院長に話があります」

「まさか・・・お二人は結婚を・・・」

「ち、違いますよ」

ニュース番組で紹介される大臣の手術成功の話題・・・。

「パパが二人いる・・・」

幼い愛娘・莉菜(竹野谷咲)の言葉に微笑む深冬・・・。

「莉菜はパパのことが好き?」

「大好き・・・」

深冬は一光と壮大を呼び出すのだった。

「私のオペのことでお願いがあります」

「・・・」

「色々考えたんだけど・・・私のオペは沖田先生にお願いしたいのです」

おそらく深冬は・・・手術に失敗した場合の・・・壮大と・・・残された娘のことを案じての決断なのだろう。

しかし・・・壮大の中の悪魔は哄笑するのだった。

「なんでだよ・・・なんでカズなんだ」と沸き上がる怒りで目が眩む壮大。「カズの方が腕がいいからか・・・それとも・・・カズの方が信用できるって言うのか・・・失敗しても・・・カズになら殺されてもいいってか」

「おい・・・お前・・・いい加減にしろよ」

一光は壮大の言葉に・・・胸に秘めた思いを蹂躙されるのだった。

「え」と錯乱する夫に驚愕する天使の深冬・・・。

そこに・・・外科部長と榊原弁護士を従えて虎之助が登場する。

「お父さん・・・聞いてください・・・深冬が・・・」

「壮大くん・・・君を解任する」

「え・・・」

「どうしたの・・・お父さん」

「この男は・・・この病院を乗っ取ろうとしていたんだ」

「・・・そんなことはしていませんよ」

「じゃあ・・・これはなんだ」

虎之助は・・・融資を引き出すための計画書を壮大に突きつける。

「違います・・・これは・・・違うんです」

「副院長は・・・壇上記念病院を桜坂中央病院に飲み込ませる準備を進めていたんです」

外科部長は・・・共犯者でありながら・・・すべてを暴露するのだった。

とにかく・・・忌々しかったのだろう・・・。

書類にざっと目を通し・・・事情を把握する一光・・・。

深冬という妻と可愛い娘と・・・副院長という地位。名医としての実績・・・すべてを持っている親友の行動が一光には不可解だった。

「お前・・・何やってんだよ・・・」

「いやいや・・・誤解です・・・勘違いですよ」

うろたえる壮大に引導を渡す虎之助・・・。

「今すぐ・・・この病院を出ていきたまえ」

おそらく一光は・・・深冬を救うだけではなく・・・壮大も救わねばならないのだ・・・。

何故なら・・・壇上夫妻はいろいろな意味で絶体絶命であり・・・次は最終回だからである。

可愛い莉菜ちゃんを泣かせるわけにはいかないのだった。

一心不乱にしかも完璧に患者を救うのが医師の使命なのだから。

Alife009ごっこガーデン。愛と宿命の焼肉店セット。

アンナ野菜も食べた方がいいのぴょん。沖田先生の腸内環境が心配ぴょ~ん。 裏番組がWBCオランダ戦で25.2%だったにもかかわらず14.7%をキープしたアライフにホッと胸をなでおろすアンナぴょんなのでしたぴょん。 嫉妬する沖田先生、やるせない沖田先生、空回りする沖田先生、貧乏ゆすりの沖田先生、つっけんどんな沖田先生・・・苛立つ姿もキュートな沖田先生なのでした~。人付き合いが上手いとは言えない沖田先生を支える仲間たちの気持ちも素敵・・・それに対して壮大は自ら・・・孤立していくのが憐れなのぴょん・・・はたして・・・どんな結末がまっているのか・・・とにかく焼肉をダーロイドにあ~んしてもらいながらリピそしてリピなのぴょ~ん

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2017年3月13日 (月)

永禄四年、井伊直政誕生す(柴咲コウ)

時系列は割とシビアに描かれているのだが・・・時の流れの緩急がなんとなくルーズなのでお茶の間に戸惑いが生じているのではないかと思う。

前回の桶狭間の合戦が永禄三年(1560年)五月である。

松平元康が直後に岡崎城を入手し・・・今川勢として防衛体勢を装う。

しかし・・・今川氏真は謀反を疑い・・・元康の室となった瀬名のために井伊直政の娘である母・佐名が・・・兄の南渓瑞聞にもしもの場合の救援を懇願する。

十二月に小野但馬守が奥山朝利を殺害(異説あり)。

つまり・・・桶狭間から半年以上経っている。

明けて永禄四年(1561年)二月、井伊直親の嫡男・虎松が誕生する。

四月に元康が今川方の牧野保成の三河国牛久保城を攻め・・・実質的な今川家臣からの独立姿勢を見せる。

明けて永禄五年(1562年)正月に元康は織田信長と清州同盟を結ぶ。

二月に家康は三河国上ノ郷城を攻め・・・寿桂尼の孫である城主・鵜殿長照は討ち死にする。

虎松誕生から一年・・・桶狭間からは二年近い歳月が経過しているのである。

けして・・・佐名が一夜にして白髪になったわけではないのである。

で、『おんな城主  直虎・第10回』(NHK総合20170312PM8~)脚本・森下佳子、演出・藤並英樹を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。遠江国の国人衆たちのこの時期の動向は謎に満ちており・・・敗者である今川家に属した井伊家の実像も定かならぬものがございます。今川家臣団としては井伊家と松平家はある意味で同格・・・そして織田と今川の対立関係では桶狭間以後は敵対関係にあるわけでございます。ドラマでは家康の嫡男を産む瀬名の母方の実家が井伊家であることを強調しているわけですが・・・その縁で井伊家が徳川家に臣従するにあたり・・・今川方を代表する敵役が必要となり・・・小野家が利用された形跡が濃厚でございますよねえ・・・。特に徳川幕府が成立して以後の歴史では・・・井伊家が徳川家の敵だった過去にはなるべく触れないのが得策だったと言う他はないのでございましょう。そのために・・・家老である小野家に簒奪されかかった井伊家を徳川家が救ってくださったという物語が成立したのではないかと思う今日この頃です。合戦模様は薄目ですが・・・脚本家は・・・その辺りのことはねっとりと描いてくる感じでございますねえ。

Naotora010永禄三年(1560年)八月、上杉謙信は里見義堯からの救援要請を受け北条氏康の討伐のために出陣。十月、謙信は上野国沼田城(城主・北条氏秀)を攻略。謙信は厩橋城で越年した。永禄四年(1561年)二月、井伊直親の嫡男・虎松(井伊直政)が誕生。松平元康が三河国東条城の吉良義昭を攻める。三月、謙信は小田原城の包囲を開始する。武田信玄と今川氏真は北条氏康に援軍を派遣する。氏真は手薄になる三河方面の安全保障のために国人衆に追加の人質を要求。三河衆が難色を示すと氏真は三河国吉田城の小原鎮実に命じ、龍拈寺で三河衆の人質を見せしめとして処刑する。鎮実は三河国野田城の菅沼定盈を攻める。四月、謙信が関東より撤退。松平元康が三河国牛久保城の牧野成定を攻める。九月、義昭の家老・富永忠元が本多広孝に討たれ、義昭が元康に降伏する。永禄五年(1562年)正月、元康が織田信長と同盟を締結。二月、氏真が三河国に出兵。三河国上ノ郷城の城主・鵜殿長照が討死。長照の子・氏長・氏次兄弟は元康の捕虜となる。三月、氏真は元康の舅である関口親永と正室(井伊直平の娘)を自害させる。

「氏真公が出陣なさるそうじゃ」

井伊谷館に国衆たちが集結している。

話しているのは井伊家の筆頭家老の中野越後守直由である。

「兵を出せと言われても・・・どの村も人手が足らんずら」

奥山朝重が吐き捨てるように言う。

奥山一族は桶狭間の合戦で多くの戦死者を出している。

農兵たちの被害も大きく・・・領地に残っているのは女子供ばかりだった。

「しかし・・・手勢を出さねば・・・謀反を疑われる惧れがござる」

未亡人となった祐椿尼の兄で今川の目付である新野親矩が立場上の苦しさで告げる。

「けれど・・・直親様の出陣は避けなければなりませぬ」

直盛の遺言によって次席家老となった小野但馬守が反駁する。

「儂が出るわ」

長老の井伊直平が申し出た。

「御隠居様・・・それはいけませぬ」

中野越後守が口を挟む。

「じゃが・・・他に人がおらぬではないか」

「・・・」

「案ずるな・・・戦は川名と上野のものにまかせるわ」

「私が出てはいかんのか」と直親が辛抱たまらず口に出した。

「虎松様がお生まれになったばかりで・・・直親様にもしものことがあれば・・・井伊の血が絶えまする」と小野但馬守が自重を促す。

「備えもせねばならんぞ」と直平が厳しい目をする。

「備え・・・」

「今度・・・負け戦となれば・・・三河衆が遠江に攻め入るかもしれんずらよ」

「いざとなれば・・・川名に退かねばならん・・・」

「奥山、井伊谷、小野に・・・砦を築かねばなりませぬな」

「とにかく・・・兵糧じゃ・・・百姓たちには泣いてもらわねばならん・・・」

男たちは暗い目を見かわした。

次郎法師の率いる坊主忍びたちは・・・国境沿いの警戒に当たっていた。

領内には・・・今川や織田に雇われた伊賀者や甲賀者が忍び入っている。

主を持たない野伏せりたちも蠢動していた。

桶狭間の敗北以来・・・領内の治安は悪化していた。

浜名湖の湖岸には海賊が出没する有様である。

「海は苦手じゃのう・・・」と次郎法師が呟く。

「賊が船で逃げたなら・・・川名衆にまかせる他はありませぬ」と傑山。

「龍宮小僧もかたなしじゃな」

「川名衆こそが・・・龍宮小僧なのでございます」と昊天。

「そうなのか・・・」

「川名衆は・・・河童なのでございます」

「頭に皿があるのか」

「皿はありませぬが・・・水術の達人ぞろいですぞ」

小坊主が駆けて来た。

「気賀の里に賊が押し入ったそうでございます」

「参る」

次郎法師は愛馬に跨った。

坊主忍びが去った後に・・・伊賀の忍びが姿を見せる。

「なかなかの使い手じゃったの」

半蔵は微笑んだ。

「さようでございますな」

下忍の一人が答えた。

「さて・・・先を急ごう」

伊賀者たちは・・・駿河国を目指して走り去った。

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2017年3月12日 (日)

昇進に何が起こったか(小泉今日子)

雪(小泉今日子)の父と言えば雪彦(風間杜夫)である。

「少女に何が起ったか」(1985年)かよっ。

鴨居欣次郎(堤真一)といえば森野熊虎(風間杜夫)である。

「マッサン」(2015年)かよっ。

元気だなあ・・・。

「壇の浦夜枕合戦記」を見てからもう・・・40年も経つのか・・・。

つい・・・昨日のことのような気がするが・・・。

いやいや・・・四十年前だよっ。

当時二十代だった風間杜夫だってもう六十代だし・・・。

しかし・・・ちっとも変っていない気がする。

いやいやいや・・・さすがにそれは・・・ボケたのか。

風間杜夫と石野真子の夫婦ってなんだか落ち着くなあ。

二人とも丑年で一回り違うけどな。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第9回』(日本テレビ20170311PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。なぜか・・・第6話から↗*10.2%↘*7.9%↘6.3%と急落した視聴率である。どんどん面白くなっているのに不思議なことだなあ・・・いや、よくあることだろう・・・まあ・・・そうなんだけどね。みんなが面白くないことを面白いと思うことは人生の基本だしね。

フジコ建設営業3課からのスタートである。

簑島課長(高橋克実)が人事に呼び出され不在のために・・・憶測する蒲田みちる(早見あかり)と下山えり(富山えり子)・・・。

「昇進かしら」

「それはない・・・降格もしくは解雇」

心ここにあらずの簑島課長が戻ってくる。

「うわあ・・・解雇だ」

「とても聞けない」

「どうでしたか」と係長の左江内氏(堤真一)・・・。

「係長・・・空気読まないわあ」

「解雇ですか」と池杉照士(賀来賢人)・・・。

「ウィケ杉・・・限度なしだわあ」

「私・・・簑島に・・・部長の内示が出ました・・・」

走りだし踊りだす蒲田を筆頭にパニック状態となる課員一同・・・。

「部長になれたということは・・・重役・・・さらには社長の可能性も・・・」

「ないわあ・・・簑島社長になったら・・・禿げるし・・・うちの建てたビル全部禿げるし」

ほぼ意味不明の罵倒をする蒲田。

「重役や社長の線はないでしょうが部長で人生を終えられることは幸運なことです」

かなり微妙な賛辞を呈する下山である。

「課長が部長になったということは・・・空いた課長の椅子には・・・」

左江内氏に注目が集まるのだった。

「え」

「課長・・・左江内英雄・・・」と池杉が妄想空間を展開する。「課長は出張先で何故か・・・モテる・・・地方では方言美女に・・・海外では金髪美女が・・・課長の下半身を直撃・・・」

「ええっ」

ウィケ杉フィールドにとりこまれ・・・下半身を膨らませる左江内氏である。

「残念だが・・・後任の営業三課の課長は・・・営業二課の島係長になります」

「えええ」

颯爽と登場する島・新課長(宅麻伸)・・・。

「新しい・・・課長・島です」

説明しよう・・・「課長島耕作/弘兼憲史」(1983年)は男性サラリーマンの華麗なる出世と色恋沙汰を描く漫画である。フジテレビによるドラマ化では島耕作を宅麻伸が演じている。

「おい・・・久しぶりだなあ」と島は池杉に声をかける。

「お久しぶりです・・・おいって言うのはやめてください」

「二人は旧知の間柄なの」

「かって同じカテゴリーに属していました」

説明しよう・・・宅麻伸は1994年に賀来千香子と結婚し2012年に離婚している。

賀来賢人は賀来千香子の兄の子なのである。

そのために・・・賀来賢人は1994年~2012年の間、宅麻信の義理の甥だったのだ。

「なつかしいなあ・・・おい」

「だから・・・おいって言うのはやめてください」

「君が勇者ヨシヒコと魔王の城の第11話に友情出演した時は叔父と甥だったのになあ」

「ダンジョーさん」

完全なる私生活ネタであるが・・・避けては通れないらしい。

こうして・・・由緒正しい年度末の人事異動ネタが開始されるのである。

左江内氏の夕餉は水炊きである。

「ああ・・・てっちりが食べたい」と円子(小泉今日子)・・・。

「てっちりってなあに?」ともや夫(横山歩)・・・。

「フグ鍋だよ」とはね子(島崎遥香)・・・。

「ああ・・・小学生なのにフグを食べたことがないとは・・・」と円子。

「フグはそんなに食べたくないな」ともや夫。

「ああ・・・小学生なのにフグの美味しさを知らないとは・・・」と円子。

「小学生は・・・フグの美味しさ知らなくても普通だろう」

「まあ・・・係長の子供ならね・・・」

「ひでぶ」

「でも・・・今夜・・・簑島課長の奥様から連絡がありました・・・部長昇進だそうです・・・ということは・・・順番的に・・・」

「パパが課長になるの?」とはね子。

「今夜はお祝ね・・・パパ・・・ケーキ買ってきて」

「コーラも」

「アイスクリームも」

「え・・・」

自分は昇進しないとは言い出せない左江内氏だった。

その時・・・呼び出しがかかる。

行列のできるラーメン店である。

常連客(高橋努)がいつも贔屓にしているからと列に並ばずに他の客と揉めているのだった。

スーパーサラリーマン左江内氏は介入するのである。

「順番は守りましょう」

「こっちは忙しくて並んでいる時間なんてないんだよ・・・出世と縁のない暇な奴だけが並べばいいんだよ」

「出世」と言う言葉に思わず過剰に反応する左江内氏。

「順番を守らない人間が出世するなんておかしいでしょう」

思わず説教相手を突き飛ばし・・・虚空に消す左江内氏。

「えええええ」

「いくらなんでもやりすぎだ」

「ひどい」

我に返った左江内氏はあわてて・・・暴力の被害者を捜しに行くのだった。

被害者を病院に搬送した左江内氏の前に謎の老人(笹野高史)が現れる。

「反省してるの・・・」

「はい」

「心のもやもやを暴力で吐き出すのは・・・正義の味方のすることではないからね」

「はい」

「ちゃんと・・・家族に言った方がいいんじゃない」

「でも・・・うれしそうだったんですよね」

「だけど・・・本当に昇進するわけじゃないんだから・・・」

「ですよねえ」

「リストラ寸前とか・・・すでに解雇されました・・・とかじゃないんだから」

「今季・・・そんなドラマばっかりですよね」

「六年前にスーパーマンじゃなかったことを思えば・・・昇進できなかったことなんて何でもない」

「ああ・・・」

しかし・・・左江内家では最近、出番の少ないママ友の木手夫人(福島マリコ)やはね子の同級生・さやか(金澤美穂)やサブロー(犬飼貴丈)も参加して・・・昇進祝いのサプライズパーティーが準備されていた。

超高校級の実力を持つテニス・プレーヤーの竜崎麗香のコスプレをしている円子。

「課長夫人で~す・・・ってそりゃお蝶夫人だろう・・・っていう小ボケだよ~」

すべてを説明してしまう円子だったが・・・説明しよう。お蝶夫人は「エースをねらえ!/山本鈴美香」(1978年~1980年)の登場人物である。ドラマ版(2004年)では主人公・岡ひろみ(上戸彩)の父親役を高橋克実が演じている。

告白が遅かったために・・・円子に屈辱を与えてしまった左江内氏なのである。

「昇進できませんでした・・・課長になるのは別の人です」

「・・・」

「だから・・・せっかくのサプライズパーティーを台無しにしてしまって・・・すみませんでした」

解散する一同だった。

「冷静に考えたら・・・」とフォローをする円子。「お前が課長になれるわけないよね・・・スーツを十着も新調しちゃって・・・馬鹿みたい。課長になったらさすがにいい嫁にならなくちゃと思ったけど・・・係長程度なんだから・・・明日からも家事をよろしく」

円子の優しさが身に沁みる左江内氏である。

いや・・・お茶の間には伝わっていないかもしれんがな。

世の奥様方は・・・自分は円子ほどひどくないという姿勢で見ているらしいぞ。

小泉今日子でもないのにかっ。・・・おいおいおい。

真夜中の呼び出しである。

「午前三時って・・・」

寝ぼけ眼で出動する左江内氏。

フジコ建設の社長宅である。

ナイフを翳して社長(風間杜夫)を脅す強盗(やべきょうすけ)である。

「大人しく・・・金を出せ」

しかし、柔道の有段者である社長はナイフを叩き落すのだった。

「観念しろ」

「誰がするか」

強盗は拳銃を取り出し・・・形勢逆転である。

寝ぼけた左江内氏は窓ガラスを粉砕して突入してしまう。

「あああ・・・すみません・・・え・・・社長」

「なんだって・・・」

「営業三課で係長をしています・・・左江内と申します・・・ガラスは必ず弁償いたします・・・もし・・・即金が無理ならローンを組みます」

「なんだ・・・てめえは」

「スーパーマンだ」

「ふざけるな」

強盗は発砲するが弾丸は弾き返される。

「え」

一撃で強盗を昏倒させる左江内氏。

社長夫人(石野真子)は警察に通報するのだった。

「それでは・・・私はこれで」

「待ちたまえ・・・まさか・・・我が社にスーパーマンがいたとは・・・ちゃんと礼をさせてくれ」

「いえ・・・お礼なんかとんでもない」と言いつつ・・・忘却光線をオフにする左江内氏だった。

善と悪の境界線は・・・いつだって気分次第なのである。

社長の記憶を残したまま・・・何らかの見返りを期待して左江内氏は去るのだった。

小池警部(ムロツヨシ)と制服警官の刈野(中村倫也)が現場に到着する。

社長夫人はネグリジェから着物に早着替えである。

「え・・・スーパーマンですって・・・」

小池警部の無意識的妄想力は・・・スーパーマンの存在を全否定するのだった。

「慣れないことで・・・混乱しているのでは」

小池刑事をフォローする刈野。

「しかし・・・拳銃の弾丸をはねかえしたんだぞ」

「それは・・・夢ですね・・・」

「弾丸が落ちてるじゃないか」

「それは・・・兆弾です」

「え」

「犯人が撃って・・・思わず社長が身をかわす・・・弾丸はビューンって飛んでガーンってぶつかってヒューッて落ちたのです」

「・・・」

「鑑識っち・・・そんな感じでいいよな」

「・・・」

「そんなこんなで社長さんがエイッて取り押さえて・・・奥様が我々をお呼びになった・・・こういう感じでいいんじゃないでしょうか」

「・・・つまり私は・・・気が動顛していたと・・・」

スーパーマンの存在を世間は信じない・・・社長は常識的判断を下す。

しかし・・・社員名簿は確かめるのだった。

そこに左江内氏は存在した。

社長室に呼ばれる左江内氏・・・。

「やはり・・・君は実在したのだな」

「・・・ガラスの件でしたら・・・早急に弁償を・・・」

「何を言うんだ・・・君は命の恩人じゃないか」

「・・・はい」

「さすがに私も・・・スーパーマンが実在するとは思わないが・・・たまたま通りかかった君は騒動を聞きつけて・・・勇気を出して飛び込んで来たのだろう・・・拳銃は本物そっくりの玩具で・・・君が飛び去ったように見えたのも・・・気のせいなんだろう・・・しかし・・・君が素晴らしい人間であることは確信できた・・・係長にしておくのは・・・我が社の損失だ」

ある意味・・・社長・・・少しアレなのでは・・・。

そして・・・営業部長の席を用意される左江内氏なのだった。

左江内氏は家族に報告した。

「うっそお・・・部長って・・・」と円子。

「社長になれるじゃん」ともや夫。

「それは無理だと思うけど・・・部長でも充分やばいよね」とはね子。

「明日・・・サプライズパーティーをしなくちゃ」

「おいおい・・・本人がいる前でサプライズパーティーの相談はないだろう」

ニヤニヤが止まらない左江内氏である・・・しかし・・・その時、簑島課長からの着信があるのだった。

おでん屋に呼び出される左江内氏。

「え・・・昇進の話が立ち消えに・・・」

「他の人間が部長になるらしい・・・」

「それが誰だか・・・御存じなんですか」

「いや・・・知らん・・・どうしよう・・・家族になんて言えば・・・」

「会社に・・・抗議するべきですよ」

「そんなことできるわけないだろう」

「ですね」

簑島課長の身を案じ・・・尾行する左江内氏。

帰宅した簑島課長は簑島夫人に激しく折檻されるのだった。

透視能力で上司の憐れな姿を確認する左江内氏だった。

揺れる左江内氏の心・・・。

そこに・・・サラリーマンスタイルの米倉(佐藤二朗)が現れる。

「お悩みのようですね・・・」

「あなたはどなたですか」

「こっちはあったことがあるのに・・・相手は知らないという・・・よくあることです」

「・・・」

「あなたは勝ち組ですか」

「いえ・・・」

「私は定年間際まで係長であっても・・・自分が負けたとは思わない」

「そうですか」

「家族には迷惑をかけますがね」

「え・・・結婚されてるんですか」

「おや・・・意外ですか」

「だって・・・そんなに顔が大きいのに」

「なんですと・・・顔が大きいと結婚できないとおっしゃる?・・・失礼な・・・子供だっています」

「やはり顔が・・・大きいお子さんですか」

「ですよ・・・子供としては顔が大きい・・・だから何だと言うんです・・・子供だってオンエア見るんですよ・・・面白ければ何でもいいのか」

「・・・」

「確かに・・・いつも私はそうでしたけれどもおおおおお」

左江内氏は・・・部長への昇進を辞退することを決意する。

社長秘書(清水くるみ)が応対するのだった。

「アポイントメントはございますか」

「いや・・・ないけど・・・」

「面会のお約束がないとお通しできません」

「君・・・二年前にこの枠で高校生やってたよね」

「二年前は・・・二十歳ですよお」

「あ・・・なんちゃってだったのか」

そこへ社長が通りかかる。

「おや・・・左江内くんじゃないか・・・どうした」

「社長・・・」

社長の見せる親しげな態度が少しうれしい左江内氏だった。

「私の昇進を・・・なかったことにしていただきたいのです」

「謙虚な君の気持ちはわかるが・・・私は一度口に出したことは変えないのがポリシーなのだ。男に二言はないのだ」

「けれど・・・私には部長は荷が重すぎます」

「君を部長と決めたのは私だ・・・責任は私がとる」

「・・・」

営業三課に漂う微妙な空気・・・。

「まさか・・・左江内係長の二階級特進によって・・・」

「簑島課長の昇進がとりけされるとは・・・」

「課長・・・かわいそう・・・」

そこで・・・左江内氏は池杉を巻きこんで・・・一芝居打つことにしたのだった。

ブルースブラザースのように見えるが・・・実は「あぶない刑事」(1986年)の大下勇次と鷹山敏樹に扮したらしい左江内氏と池杉。

「タカ・・・」

「トシ・・・」

「いやいや・・・それじゃ・・・タカアンドトシだから・・・欧米か」

「社長じゃないですか・・・大丈夫なんですか」

「いいから・・・社長のピンチを簑島課長が救うというお芝居だから・・・しかし・・・絶対に顔を見られるな・・・顔を見られたら・・・終わりだぞ」

ドラム缶に社長を詰めて拉致して来たらしい。

「お前たち・・・一体なんなんだ」

「もちろん・・・あんたの財産をすべていただくつもりですよ」

「ふざけるな」

そこに颯爽と登場するはずの・・・簑島課長は・・・気付けの一杯で・・・完全に酔ってしまうのだった。

酒に酔うと言いたいことが言えるというサラリーマンの世界のお約束なのである。

「ある時は放送上問題を指摘される運転手・・・しかしてその正体はミノシマだ~」

小林旭の主演映画「多羅尾伴内」(1978年)モードで登場した簑島課長はすべてを台無しにする酒乱ぶりを発揮するのだった。

「俺の昇進を取り消すとはなんだ~バカ社長~くそ社長~」

暴れる簑島課長を制御しようとして・・・左江内氏も池杉も顔を晒してしまうのだった。

「君たちは・・・全員・・・クビだ」

三課で・・・身辺整理をする三人・・・。

「謎だわ・・・」

「簑島課長が部長になったり・・・」

「左江内係長が部長になったり・・・」

「三人が突然解雇されたり・・・」

「なんで・・・」

そこに社長がやってくる。

「社長・・・」

「妻から事情は聞いたよ・・・妻は君がスーパーマンだと信じているからねえ・・・すべては簑島課長の立場を救うためだったんだな・・・仲間を思うことは・・・チームワークの基本だ・・・営業三課の素晴らしい仲間たちを・・・私は誇りに思う」

「それでは・・・」

「昇進の話は白紙とする・・・簑島課長・・・左江内係長・・・そして部下の・・・」

「池杉です・・・」

「これからも社のために尽くしてくれたまえ・・・」

すべては振り出しに戻るのだった。

しかし・・・解雇されるより五億倍マシなのである。

それがサラリーマンというものだ。

円子はそれほど落胆した表情はみせないのである。

「係長と家事全般はセットだからね」

「わかってます」

「課長になったら・・・料理と掃除だけでいいわよ・・・洗濯は私がやってあげる・・・もしも部長になったら料理だけでいいよ・・・掃除と洗濯は業者に発注するから・・・」

「結局・・・君は何もしないのか」

「だ・か・ら・・・子育てしとると言っとるじゃろうが・・・」

「そうでした」

確かに・・・もや夫も・・・はね子もそれなりに良い子に育っているようだ。

円子はけして・・・悪妻ではないのである。

素晴らしい・・・良妻賢母であると言えないこともないのだった。

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2017年3月11日 (土)

なりふりかまわないことはわれをわすれること(深田恭子)

中卒の人々がゴロゴロいた頃には中卒はそれほど恥ずかしいことではなかった。

今だって・・・別に恥ずかしいことではない。

戦後のドサクサにまぎれて・・・たとえば一流企業にも旧制中学の卒業生は結構、就職していたわけである。

しかし・・・平和が続いて世情が安定すれば・・・学歴社会になるのである。

一方で成り上がった人々は金にものを言わせて裏口入学をしたりするのである。

そういう社会で・・・低学歴なことは・・・同時に無能だったり・・・怠惰の象徴になる。

情報化社会になり・・・専門的知識が就職に不可欠になっていくにしても・・・知識を習得するための基礎学力が求められることに変わりはないのである。

そして・・・そういう基礎学力というものは・・・義務教育の期間に最も磨かれるのが普通である。

もちろん・・・それは一部のエリートの話である。

中学受験が身近な大都市の話で・・・その中でも中学受験を選択する一部の人々の話。

さらに・・・受験に成功してトップレベルの中学に進学するものとなれば・・・極めて一部の話である。

そこを目指す話がお茶の間に受け入れられるとは・・・到底・・・思えないが・・・夢物語ではなくて現実を突き付けた第8話の視聴率は↘*5.0%だった。

まあ・・・そうだよな。夢も希望もない話だからな。

その上、サービスを怠ってはな。

で、『克上受験・第9回』(TBSテレビ20170310PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・吉田秋生を見た。・・・というわけで香夏子(深田恭子)と佳織(山田美紅羽)の入浴サービス復活である。だから・・・サービスって言うなよ。今回は「いちじくニンジン山椒 しいたけごぼうむかご七草白菜きゅうりとうがん・・・ムシャムシャムシャムシャ」と可愛い数え唄つきである。和むよねえ。主題が重すぎるんだから・・・愛想よくしないとねえ。

2016年12月・・・。受験まで残り八週間。

桜井信一(阿部サダヲ)は佳織(山田美紅羽)と桜葉学園の入学願書を購入しに行く。

「今日は・・・願書もらいに行くだけだから・・・ききききき緊張しなくていいぞ」

「お父さん・・・深呼吸」

「スーハースーハー」

緊張して挙動不審になり警備員に不審者扱いされる信一だった。

「あちらでご購入ください」

「え・・・お金がいるの」

入学希望者はお客様なのだから当然である。

しかも・・・学校側は・・・選ぶ立場なのである。

学校案内を見た香夏子は制服があまり可愛くないので落胆するのだった。

「そこかよ」

願書に通知表を添付する必要があると知って信一は小山みどり先生(小芝風花)に面会する。

「お願いがあるんです・・・三学期は・・・受験当日まで休ませてください」

「けれど・・・卒業を控えた三学期は学校行事が目白押しで・・・」

「しかし・・・佳織の一生がかかっているんです」

教師として周囲の目を気にする小山みどり先生だった。

「そうですか・・・蓄膿症ですか」

「え」

「治療のためにお休みが必要ということでは仕方ないですね・・・善処いたします」

「・・・ありがとうございます」

「どちらを受験されるんですか」

「桜葉学園です」

「え・・・他には・・・」

「桜葉学園一本です」

「・・・そうですか」

小山みどり先生は・・・馬鹿な親ゆえの純愛に絆されるのだった。

心の中で・・・信一は・・・馬鹿なことだとわかってます・・・皆さんは憐れな奴だと思うことでしょう・・・しかし・・・これは娘のために絶対に譲れないのです・・・と弁解する。

しかし・・・言えば言うほどお茶の間の人々は・・・信一に悪印象を抱くのである。

出る釘は打たれるのだ。

中卒なのに娘に中学受験をさせるなんて・・・下剋上にも程があるのだった。

しかし・・・高卒や大卒の人々には中卒の気持ちなんかわからないのである。

スマイベスト不動産で長谷川部長から新規の顧客(伊達みきお)の担当を命じられる香夏子。

しかし、心ない顧客は難色を示す。

「ええっ・・・女性ですか・・・大丈夫なんですか」

「彼女は・・・優秀なので」

「失礼ですが・・・大学はどちらですか」

「え・・・」

思わず返答に窮する香夏子。

機転をきかした楢崎哲也(風間俊介)は顧客にお茶をぶちまけるのだった。

「不動産屋コントですか・・・すみません・・・僕は東西大学出身なんですが・・・不調法でして」

「東西大学ですか」

香夏子は楢崎に感謝するのだった。

「すみません・・・私のためにわざとお茶をこぼしてくれて・・・」

「あ・・・バレましたか」

「私・・・わかったんです・・・信ちゃんは・・・いつも・・・ああいう蔑みを受けていたんだなって」

「・・・」

「中卒であることは・・・どうしようもないことなのに・・・やるせない気持ちになりますよね」

「そんなことは・・・本当は・・・何の意味もないのに・・・ですね」

居酒屋「ちゅうぼう」に呼び出される楢崎・・・。

香夏子と一緒に入店すると・・・信一の中卒仲間たち・・・松尾(若旦那)、竹井(皆川猿時)、梅本(岡田浩暉)、そして杉山(川村陽介)は二人の不倫を疑うのだった。

「何を馬鹿なこと考えているんですか」

「俺たちは馬鹿なことしか考えねえ」

信一は楢崎に・・・保護者の面談についてのアドバイスを求めるのだった。

模擬面接官として質問する楢崎・・・。

「桜葉学園を受験するのは何故ですか」

「偏差値が一番高いからです」

「ダメですね・・・教育方針に賛同してとか・・・無難な答えをしてください」

「・・・」

「お母様は・・・どうお考えでしょうか」

「私は・・・公立中学にもいいところはあると思うんですけど」

「ダメですね・・・両親の教育方針に食い違いがあるのは好ましいと言えません」

「・・・」

「ところで・・・本当に桜葉学園一本でいいんですか」

「偏差値も62まであがって来たし・・・もう一息なんだ」

「偏差値62では桜葉は受かりません。桜葉以外の学校を視野に入れてもいいのではないでしょうか」

「俺はさ・・・出身大学はどこかって・・・もう何回・・・訊かれたか・・・中卒大学ですって答えても苦笑さえされない時もある・・・そういうのが嫌なんだよ」

「・・・」

「日本で一番高い山は?」

「富士山」

「富士山ですが・・・日本で二番目に高い山は?」

「二番目・・・」

「富士山はな・・・標高3776メートルで・・・二番目は南アルプスの北岳だよ・・・標高3193メートルだ・・・」

「きただけ・・・知らねえ」

「だろう・・・桜庭じゃなきゃ・・・意味ないんだよ」

「・・・」

「佳織には・・・二番目じゃなくて・・・説明不要の一番に入って欲しいんだ」

楢崎は・・・馬鹿を説得する言葉を見つけることができなかった。

しかし・・・信一の自分勝手な「目標」の前に現実の絶壁が立ちはだかる。

桜葉学園の過去問に挑む佳織は・・・なかなか合格ラインに到達しないのである。

偏差値40~59の壁を突破して・・・偏差値60にたどり着いた佳織だったが・・・そこから偏差値72にあげることは・・・さらに厳しい登攀技術を必要とするのである。

ミスを少なくするだけでは到達できない厳しい傾斜が・・・佳織のモチベーションを下げるのだった。

「登れる気がしない」のである。

正解をする喜びに飢えた佳織は・・・偏差値レベルを下げて過去問をやりたがる始末である。

絶対に「芝女子学園」や「星の宮女子学院」では満足できない信一なのである。

この馬鹿さ加減に・・・お茶の間はかなりゲンナリするわけだが・・・元々が無謀なので仕方ないのである。

三学期・・・佳織は零点シスターズの河瀬リナ(丁田凛美)と遠山アユミ(吉岡千波)に別れを告げる。

「もう学校に来ないの」

「まだ勉強しないといけないの」

「うん・・・」

しかし・・・桜葉学園の過去問の頂きは遠いのだった。

佳織は香夏子に弱音を吐いた。

「私、桜葉学園じゃなくてもいいかな・・・もし・・・どこにも受からなくて・・・公立中学だったら・・・恥ずかしいし・・・きっとみんなにバカにされる」

「そんなことないと思うよ・・・これから・・・みんなに会いに行こうか・・・」

「え・・・いいの」

香夏子は小山みどり先生から・・・六年一組の卒業制作への参加を呼びかけられていたのである。

児童たちは手形モニュメントの制作をしていた。

「ちょうど・・・佳織ちゃんの話をしていたのよ」

「え」

「お前だけ・・・まだだからさ」と大森健太郎(藤村真優)・・・。

「私もやってもいいの」

「もちろんよ」

クラスメートに暖かく迎えられ・・・絵具を塗って手形を残す佳織だった。

そこに・・・徳川麻里亜(篠川桃音)の姿はない。

徳川直康(要潤)も小山みどり先生からの呼びかけを受けていたのだが・・・。

「本当に行かなくていいのか」

「あの学校には特に思い入れがないもの」

「でも・・・佳織ちゃんとは仲良くなったじゃないか」

「だから・・・私にはそれだけで充分なの」

「そうか・・・」

信一はアドバイスを求めて・・・直康を訪ねる。

「やはり・・・併願はしないんだよな」

「麻里亜にとっては・・・桜庭でないと意味がないんだ」

「聞いたよ・・・お母さんも・・・桜庭なんだってな」

「・・・」

そこへ・・・徳川の部下が怒鳴りこんできて・・・会話が中断する。

海外における事業で問題が発生したらしく・・・責任を取らされた部下が錯乱したらしい。

「俺一人に責任を負わせる気か」

「しかるべき時に・・・私も責任を取るつもりだ」

「ふざけるな」

「まあまあ・・・」

仲裁に入った信一は殴られてしまうのだった。

仕方なく・・・信一は一夫(小林薫)を訪ねる・・・。

「山登りと一緒だな」

「爺さん・・・覚えているか」

「俺に日本で二番目に高い山を教えてくれたよ」

「お前にとっての爺さん・・・つまり・・・俺の親父は山登りが趣味だったんだ・・・子供の頃・・・付き合わされてさ・・・結構、高い山に登ったもんだ・・・ところが・・・子供だからすぐにへたばってしまう・・・すると親父の奴・・・後五分で頂上だって言うんだ・・・ところが五分立っても頂上なんて着きはしねえ・・・すると親父の奴・・・後五分だって言うんだよ・・・そうやって誤魔化されているうちに気がつくとてっぺんだった」

「なるほど・・・」

ここで・・・併願に傾くのかと・・・思いきや・・・「今年はいつもより簡単な問題が出るらしい」と佳織に嘘をつく信一である。

信一に対するお茶の間の不快感は頂点に達するのだった。

それなのに・・・まんまと騙されてしまう佳織なのである。

「いつもより簡単作戦」でモチベーションがあがる佳織なのだった。

そして・・・ついに桜庭学園に受かるかもしれないレベルに到達するのである。

もちろん・・・確率的には・・・たまたまなのだが・・・運がよければたまたま合格するかもしれないわけである。

長谷川部長は・・・香夏子を呼び出す。

「明日から・・・出社しなくていい」

「クビですか」

「有給休暇をとりたまえ・・・中学受験は家族全員の団結が不可欠だ」

「ありがとうございます」

思わず部長に抱きつく楢崎。

「お前が抱きつくのかよ」

「僕は部長のこと誤解してました」

「誤解ってなんだよ」

試験前日・・・一夫は神社でお百度参りである。

「親父・・・怪我してんだから・・・無理するなよ」

「馬鹿・・・神様が同情してくれるかもしれないだろう」

「・・・」

試験当日・・・。

佳織と麻里亜はライバルとして視線を交える。

信一は佳織に最後の言葉をかける。

「ここからは・・・佳織一人だ・・・お父さんには受けさせてもらう権利がないからだ・・・そして佳織も一回だけしか権利がない・・・だから・・・どんなに難しい問題にぶつかっても・・・けしてあきらめてはいけない・・・あれだけがんばったんだ・・・きっと答えは見つかる・・・お父さんは・・・今日・・・ここにたどり着いた佳織を・・・誇りに思う」

「・・・」

「行って来い」

「はい・・・」

佳織は・・・ただ一度の本番に挑む。

信一は保護者面談に挑んだ。

「この学校を受験された動機は何ですか」

「娘を愛しているからです」

信一は・・・回想する・・・娘と受験勉強にとりくんだ一年半を・・・そして・・・可愛い娘との十二年を・・・さらに・・・娘が生まれたその日を・・・娘を孕ませたあの日を・・・。

どこまで遡上するんだよというギャグである。

父と娘の下剋上受験は終わった。

「佳織・・・どうだった」

「できたかどうかはわからないけど・・・精一杯やった」

二人は家路に着いた。

家で香夏子はご馳走を作って待っている。

そして・・・合格発表の日である。

受験番号によって・・・先に合格を確認する徳川父娘・・・。

「275・・・276・・・」

佳織の受験番号「277」は・・・つづくである。

まあ・・・高尾山にも登ったことのない人がチョモランマに挑んでいるので遭難は確実なんだけどな。

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2017年3月10日 (金)

涙色の桜が花開き桜色の涙が滴り落ちる時(芳根京子)

変態度の基準で言えば「あまちゃん」に迫る勢いの傑作朝ドラマと言える「べっぴんさん」である。

口が重すぎて・・・よくわからないヒロインがすでに充分に変態なのである。

その娘が・・・口が軽すぎて・・・わかりすぎるキャラクターなのである。

そして・・・二人がそろって「お嬢様」であるというお茶の間の庶民を圧倒する変態度だ。

さらに言うならば・・・ヒロインは「お嬢様」でありながら・・・「天才」なのである。

ずば抜けた「商才」と「統率力」を持ち合わせた「奇跡の人」なのである。

「なんか・・・なんかな」という魔法の呪文を唱えれば・・・戦中戦後のドサクサもなんなく乗り越える魔女なのである。

そして・・・わかるやつだけにわかればいいという・・・・今回のヒロインのわらいが止まらないほどのうれしさとなみだがとまらないほどのよろこび・・・。

しあわせになるためには・・・こういう性格でなければいけないという・・・恐ろしい啓示がここにあります。

谷間を乗り越えてレビューしないわけにはいかないのだった。

で、『べっぴんさん・第126回』(NHK総合20160303AM8~)脚本・渡辺千穂、演出・梛川善郎を見た。夏ドラマに「コードブルー3」がエントリーされ心騒ぐわけである。春ドラマもそれなりにそそるラインナップに仕上がりそうだ・・・休眠のタイミングがいろいろと難しいのである。続けることの意義もあるしな。前回、休眠中に結構、とりこぼした名作もあるわけである。それはそれとして・・・「あまちゃん」ほどには語らなかったけれど・・・明日が楽しみなことでは・・・「ぺっぴんさん」も「あまちゃん」クラスだったのだ。

愛の形にはさまざまなものがある。親子の愛の形も様々だ・・・。

基本的に異性の親子間にはマザコンやファザコンなどの淫靡なモードがストレートに存在する。子供の立場から言えば・・・両親がいれば・・・そのどちらも体験することは容易であるが・・・親の立場から言えば少子化の世では・・・必ずしも母親が娘を持てるとは限らないし、父親が息子を持てるとは限らない。

同性同志の親子には・・・まさに自分自身の再生というコクがあるわけである。

坂東すみれ(芳根京子)には口の達者な姉のゆり(蓮佛美沙子)がいる。

すみれは勝気な姉に比べると大人しい。

初恋の人である野上潔(高良健吾)もゆりに奪われてしまうすみれ。

しかし・・・お嬢様であるために・・・紀夫(永山絢斗)に慕われて欠損を補うわけである。

やがて生れて来たさくら(乾沙蘭→河上咲桜→粟野咲莉→井頭愛海)は幼少期には「靴が小さくなったこと」を言い出せない口の重さも見せるが「不味いものは不味い」と大胆さを発揮し始める。

思春期になってすみれの「はっきりしない態度」に苛立ったさくらは「お手本」を求めて家出して伯母のゆりに倣うことになる。

すみれは・・・愛娘もゆりに奪われてしまうのである。

五月(久保田紗友)という恵まれない娘の登場によって・・・持って生れた恩恵の大きさに気がついたさくらは・・・ゆり・すみれの両面性を兼ね備えた戦後民主主義のお嬢様として開花の時を迎えようとしていた。

すみれが三つ葉のクローバーを従えて築きあげた「キアリス」帝国の後継者として・・・さくらは帝王教育の成果を見せなければならないのである。

女王すみれに対して王女さくらは申し出る。

「今度の商品審議会挑戦させて下さい」

「そう・・・」

女王様は・・・傀儡の国王をたてる。

「楽しみにしてるぞ」

紀夫は立場を心得ているのだった。

「ありがとう・・・」

王家でのセレモニー終了である。

虹をかけるのは夫でも父でもなく・・・妻と娘なのだ。

社長室の片隅でこれ見よがしに虹色を塗りたくるすみれ・・・。

頬には偽りの涙として水色がはねている。

流行色を決めるのは繊維業界だが・・・その中で何が売れ筋かを見極めるのは服飾業界なのである。

すみれは神の与えた直感で・・・それを見極めるのである。

「すみれさん・・・何してはるんですか」と中西(森優作)・・・。

「神の啓示を受けとんのや」と紀夫・・・。

そこに・・・巫女であるすみれのイメージする「涙色」を求めてさくらがピンクからブルーへと衣装をチェンジしながら「色見本」を持って登場する。

「涙色にはどの色が近いのでしょうか」

「あの時はなみだ色って言ったけど・・・デザインが変わったらぴったりな色も変わってくるのよね・・・なんか・・・なんかな」

すみれの呪文にかけられて・・・「思い詰める世界」を彷徨うすみれは・・・困った時の伯母夫婦を訪ねる。

おりしも・・・坂東営業部からオライオンまで四十年間を努めげた長谷川(木内義一)が退職するお祝いのセレモニーが開かれている野上家である。

長谷川は結婚して退職したゆりに・・・職場復帰を推奨するのだった。

「そんな・・・もう二十年も前の話です」

さくらは・・・「家庭」に入ったゆりに甘えた時期もあったが・・・今は「仕事」を続けるすみれの「凄み」を感じている。

すみれの座を継ぐためには・・・粘り続ける他に道はないのである。

すみれの娘であるさくらには・・・その才能が潜んでいるのだった。

さくらは・・・二十四時間・・・粘り続けるのである。

さくらは・・・自分のデザインが・・・まだ・・・その域に達していないことを直感している。

枠に納まることが苦手だった小澤龍一(森永悠希)は今では多国籍料理を得意とする料理人である。

龍一の振る舞う得体の知れない料理は庶民の未知の世界への憧れをかきたてるのだった。

「なんだかわからない・・・見たこともないから・・・面白い・・・」

さくらは・・・ヒントを掴むのだった。

昼夜も忘れ・・・寝食も忘れ・・・没頭するさくらに・・・すみれは自分自身の複製を見出す。

後は・・・魂を込めるだけまでに仕上がった・・・すみれのべっぴんさんであるさくら。

「さくら・・・お父さんが柿を買ってきてくれたよお」

「ありがとう」

「さくら・・・覚えてる?・・・小さい頃・・・お手玉をね・・・柿にしたり・・・リンゴにしたり・・・おにぎりにしたりして・・・遊んでたのよお」

「・・・」

「私がおにぎりを握っていると・・・お手玉をニギニギしてね・・・さくらを見ていて・・・子供の想像力ってすごいなあって・・・思ったのよお」

「!」

「どうしたのお」

「ちょっと出て行って・・・今・・・閃いたの」

「・・・」

さくらに部屋を追い出されて笑いが止まらなくなるすみれ・・・。

してやったり・・・ついにさくらがすみれになったのである。

さくらとすみれは一心同体の存在になったのだ。

「うふふ」

「どうした・・・嬉しそうやな」と紀夫。

「うふふ」

「柿がそんなに美味しいのか」

「ふははははは」

商品審議会の日・・・。

「制作意図を説明して下さい」とデザイン・チーフの君枝(土村芳)である。

良子(百田夏菜子)も明美(百田夏菜子)もすでにさくらの作品から立ち上るすみれの気配にときめいている。

「子どもの頃・・・私はよくお手玉で遊んでいました・・・お手玉を柿に見立てたり・・・リンゴやおにぎりに見立てたりして遊んでいたそうです。子どもの頃の事を考えると大事なのはワクワクと・・・想像力を膨らます事のできる余白なのかなと思いました・・・もしかしたら・・・それがキアリスの基本やないのかなと思いました・・・白と青の瑞々しい世界に・・・リスがいて果物があって・・・果物はリスの好きな果物なのか・・・好きな順番に並んでいるのか・・・リスが見てくれている子にくれようとしているのか。子どもたちが想像しただけで・・・楽しくなるような・・・着たくなるようなワンピースになればいいなと思うて作りました」

すみれは・・・さくらの「心」がわかりすぎて泣けてくるのだった。

すみれの娘のさくらが・・・すみれになったことを感知する三つ葉のクローバーたち。

「商品化に向けて・・・検討しましょう」

「ありがとうございます」

こうして・・・世界は・・・穏やかに・・・継承されていくのだった。

それが人間の幸福というものなのである。

他人を妬み嫉み踊らされて大騒ぎしたり・・・変な伝統を無理矢理押し付けようとする人々には無縁の・・・豊かで実りある世界がそこにあるのだった。

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2017年3月 9日 (木)

上には上があり下には下がある幸せ(綾瀬はるか)

行間というものがある。

行間には不確実な何かが含まれている。

そもそも言葉というものは不確実なものだ。

「愛している」と言われてもそれがどういう意味なのかは漠然としている。

そもそも言う方も言われる方も愛をなんだと思っているのかわからない。

そういう言葉を使って「小説」を書いた時に作者と読者の意志疎通が成立しているのかどうかよくわからない。

まして・・・行間となると相当に謎である。

小説を映像化する場合・・・多くの読者が主人公の顔が思っていた感じと違うと思ってもおかしくはない。

コミックをアニメ化すれば作画はともかく・・・声が全然違うと思う人も多いだろう。

とにかく・・・それぞれの思う理想の世界と現実には食い違いが生じるのが前提である。

そういう個人的な違和感を味わう上では・・・理想的なドラマなのかもしれないなあ。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第7回』(NHK総合20170304PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・加藤拓を見た。谷間にするつもりだったが・・・よく考えてみたら繰り上げるところだった・・・先が読めなくなりつつあるのだな。「殺人者」というものを描くことは非常に困難なことだと思う。それを悪と描くことはたやすいが・・・「死刑」や「戦争」の制度を持つ国では・・・それは法的には「悪」とは限らないのである。合法的な「殺人」が公認されている以上・・・それを「悪」と決めつけるのは稚拙だと言えるからである。もちろん・・・稚拙な読者のために・・・それを「悪」と決めつけるのも一種のビジネスなのだが・・・それが面白いとはどうしても思えない一部の人格があります。

「なぜ・・・人を殺してはいけないの」

「その答えは・・・自分で探すしかない」

「なぜ・・・人は人を殺すの」

「殺すことができるからだ」

「人を殺したら・・・どうなるの」

「それは人それぞれ」

「よくわからない」

「そういうものなのだ」

どの程度の人口がいるのかよくわからない世界で・・・大きいのか小さいのかも定かではないロタ王国。

漠然としているが・・・現在のロタ王家の祖先は南部からの侵略者で北部のタルの民を征服した過去を持つのだろう。それは先住民ヤクーを支配した新ヨゴ国の帝の一族と同じである。国家的な弱肉強食は普遍的な出来事なのである。大国の脅威が強まれば小国は廃止した徴兵制を復活させたりするものだ。

それが安全保障というものなのである。

今・・・南の大陸にタルシュ帝国という巨大な国家が出現し・・・北の大陸に脅威が迫っている。

北の大陸の諸国家は・・・団結して闘うか・・・各個撃破されるかの瀬戸際に立たされている。

もちろん・・・戦わずに平和的に降伏する選択も可能である。

しかし・・・敗者は勝者に隷属するのが必然である。

南部ロタ人には北部タル人に対する優越感がある。

支配者は被支配者の間にある対立を統治のために利用するのが一般的である。

王権を脅かすほどに民が団結せず・・・内戦に発展して国を乱すほど民が対立しないこと。

それが生かさず殺さずということである。

少数民族を下位に置くことは大衆の心の安定には有効な方策なのだ。

そして・・・大衆というものはそういうことを好むのである。

信じられないような「フクシマ」関連のニュースがそれを物語るだろう。

絶対的平等の実現が理想に過ぎない以上・・・上には上があり・・・下には下があることでバランスがとれるならば・・・それは善政の一種なのである。

北大陸の諸国家を動揺させるタルシュ帝国の脅威は・・・ロタ王国の王位継承の問題に波及する。

南部ロタ人はロタ王権からの独立を視野にタルシュ帝国との接近を画策する。

ロタ王国の南部を束ねる大領主・スーラン(品川徹)はロタ王国が滅んでもタルシュ帝国での一定の地位を確保しようとする売国奴なのである。

王位継承の儀式でもある「建国ノ儀」を前にヨーサム(橋本さとし)が逝去したことにより・・・王弟のイーハン(ディーン・フジオカ)は遺言に従い・・・王の死を秘して王位継承の儀式に臨む。

ロタ王権の維持のための密偵組織・カシャル(猟犬)で穏健派の長老・スファル(柄本明) の娘・シハナ(真木よう子) は急進派として王権の強化を目指す。

シハナはイーハンの王位継承を確実にするために・・・強力な殺傷力を持つ・・・破壊神サーダ・タルハマヤの復活を計画する。

イーハンはタルの民であるトリーシア(壇蜜) を愛したために階級制度を乱す罪人として一部の貴族たちに蔑まれていた。

シハナは逆にタルの民を利用し・・・タルの巫女であるイアヌ(玄理)を支配下において・・・タルハマヤ(タルの精霊)を宿した少女アスラ(鈴木梨央)を手中に収め・・・催眠術による洗脳を試みた。

トリーシアとイーハンの「愛」と・・・チキサ(福山康平)とアスラの兄妹の狼に殺された父親の存在・・・そして破壊神を召喚することに執着した処刑前のトリーシアの変貌・・・すべてが曖昧で謎に包まれているが・・・最初からシハナの仕組んだ陰謀と考えればそこそこ辻褄が合う。

シハナはイーハンの王位継承後・・・王権を強め・・・独裁体制を作ることでタルシュ帝国に対峙しようとしているのである。

そのために・・・トリーシアを洗脳し・・・古のサーダ・タルハマヤ(佳野)の首なしミイラに宿る精霊をアスラに寄生させ・・・トリーシアを処刑させることで破壊神サーダ・タルハマヤの復活を促したのだった。

シハナの想像を越えた破壊神の殺傷力により・・・一度はアスラを見失い・・・バルサ(綾瀬はるか)の介入で事態は複雑となったが・・・穏健派からカシャル組織の主導権を奪った急進派は・・・アスラを奪還し・・・南部の売国奴に・・・「王の死」を知らせることで反乱の口実を与える。

「建国ノ儀」でイーハンに王位を継承させ・・・同時に南部の反乱分子を破壊神サーダ・タルハマヤによって粛正する・・・神と一体化した国王イーハンの誕生・・・。

シハナの計画は実現の一歩手前に迫っていた。

シハナは軟禁しているチキサの元へアスラを導く。

「アスラ・・・」

「お兄ちゃん・・・」

「バルサさんは・・・どうした」

「バルサは死んでしまった・・・私が助けられたかもしれないのに・・・私が悪い人たちを殺すことをためらったから・・・」

「・・・」

「タンダさんは・・・どうしたの」

「アスラたちを捜しに出かけて・・・それきりだ」

タンダ(東出昌大) はバルサとともに・・・ロタ王国の祭儀場を目指していた。

「タンダ・・・呪術でアスラの居場所を探れないのか」

「バルサ・・・無理なことを言うなよ」

「トロガイなら・・・きっとできるのに」

「トロガイ師は・・・人混みが嫌いなんだよ・・・鬼人を見たような目で見られるから」

「鬼人なんだから・・・仕方ないではないか」

「明日・・・建国ノ儀・・・祭儀場にアスラは姿を見せるだろう」

「スファル・・・私の背後に黙って立たれると・・・串刺しにしちゃうことがあるから・・・気をつけろ」

「恐ろしい奴だな」

翌朝・・・スファルは穏行の術をバルサとタンダに施して・・・三人は祭儀場に潜入する。

祭儀場の石像の内部には空洞があり・・・シハナはアスラ共に潜伏しているのだった。

王宮の兵士と・・・カシャルの衛兵が・・・警備の配置に着く。

護衛兵を伴った南部の領主たちが列席する。

そして・・・王弟イーハンが登場する。

生贄の羊を屠るのが王位の証である。

王の命により屠殺を代理で行うことは王位継承の証となる。

イーハンが羊を屠れば・・・新王が誕生するのである。

「病床の国王の命により・・・私が神に羊を捧げる」

「待たれよ」

大領主スーアンが異議を唱える。

「国王に逆らうのか」

「国王陛下は崩御なされたのであろう」

「・・・」

「これは王弟殿下の反逆でございましょう」

「これは兄の遺言である」

「遺言であることを証明していただこう」

「・・・」

「国王陛下の命を奪った反逆者・・・イーハン殿下」

「馬鹿なことを言うな」

「反逆者イーハン」

武装した領主の一人がイーハンに矢を放つ。

イーハンは矢を斬り払う。

「神聖な儀式を汚す気か」

「反逆者イーハン」

「イーハン殿下をお守りしろ・・・」

殺気立つ場内・・・。

石像は目に見えない世界の精霊の大樹と重なっていた。

姿を見せたアスラは・・・精霊の大樹を昇りはじめる。

「鎮まれ・・・」

シハナが石像の前に立つ。

「あの方こそ・・・サーダ・タルハマヤである」

どよめく・・・場内の人々。

多くのものが祭儀場での虐殺の噂を耳にしていた。

「聴け・・・サーダ・タルハマヤは邪悪な存在ではない・・・ロタの地に豊穣をもたらす神なのだ」

「・・・」

「しかし・・・その力は・・・国を乱すものには容赦なく死の炎となって降り注ぐ」

「タルの邪悪な教えではないか」

「そんなことを我々は信じない」

アスラはすでにあの世の精霊の大樹の洞(うろ)にたどり着いていた。

それはこの世の石像の聖なる玉座と重なっている。

「信じぬものは死ぬがよい・・・サーダ・タルハマヤよ・・・お力をお示しください」

アスラは威嚇射撃のように・・・周囲に精霊の触手を放つ。

この世に介入したあの世の物理力が祭儀場の壁を砕く。

「おお・・・」

「殺せ・・・邪悪な巫女を殺せ」

「やめろ」

バルサが祭壇に飛び乗った。

「邪魔をするな」

「アスラ・・・人を殺してはいけない」

「神様が・・・力を示してくれるの」

「ダメだ・・・自分で考えろ・・・神のせいにするな」

「お母様が・・・殺されても・・・」

「マーサが・・・どう思うと思う?・・・アスラが人を殺したことを喜ぶと思うのか」

「・・・」

「バルサ」とシハナが両手剣を抜く。「余所者が戯言を言うな」

「幼きものを道具にするな」

「笑止」

シハナはバルサに襲いかかる。

二人の激闘に人々は圧倒される。

イアヌはタルの巫女たちを率いて神に捧げる歌を唱和する。

「サーダ・タルハマヤ・・・力をお示しあれ・・・サーダ・タルハマヤ・・・民をお救いあれ」

「アスラ・・・自分の心を誰にも渡すな」

「黙れ・・・バルサ・・・お前のような下賤のものが口出すことではない・・・この国の行く末が懸っているのだ」

「犬が吠えるな」

「・・・」

本気を出したバルサに圧倒されるシハナ。

「バルサを殺してしまいなさい」

「誰も殺してはいけない」

幻影のトリーシアと用心棒バルサの板挟みとなったアスラは空中に身を投げる。

「アスラ」

バルサは宙に跳んだ・・・。

空中でアスラを受けとめると背中から落下する。

衝突の激痛を感じ・・・バルサは意識を喪失する。

「建国ノ儀」は台無しになった。

意識を取り戻したバルサをタンダが見下ろしている。

「ここは・・・」

「まだ動くな・・・あと数分で・・・骨折が治癒する」

「アスラは・・・」

「無事だ・・・眠っている」

「アスラの姿を見たい」

「動けるようになるまで待て」

バルサは気合で起き上がった。

「お前・・・無茶をするなよ」

天幕の中でアスラは眠っていた。

「精霊を呼び出した後はいつもこんな感じだ」

そこにシハナが現れる。

「もう・・・目覚めないだろう」

「なんだって・・・」

「息はしているが・・・魂を感じられぬ」

「・・・」

「アスラは死んだのだ」

「馬鹿を言うな」

「それならば・・・終わったと言ってもよい・・・タルハマヤを宿らせたものは・・・神となるか・・・死ぬかなのだ」

「最初から・・・それを知っていたのか」

「私はアスラを神にしようとした・・・お前が邪魔をしてアスラを殺したのだ・・・野良犬のために何もかもめちゃくちゃになった」

「出て行け」

「出て行くさ・・・役立たずの残骸に用はないからな」

「・・・」

「この国が滅ぶとしたら・・・それはお前のせいだよ・・・バルサ」

シハナは去った。

「タンダ・・・」とバルサは救いを求める。

「できるだけのことはするよ・・・」

「頼む・・・」

「落ちついたら・・・ここから離れた方がいい・・・」

「大丈夫なのか」

「アスラの身体には問題がない・・・問題なのは精神だ・・・ここには邪な気が強い・・・もっと・・・陽気な場所に移さないと・・・」

バルサはアスラを背負い・・・王都を離脱した。

タンダがアスラの療養の地として選んだのは・・・ロタ・新ヨゴの国境の町・・・四路街のマーサの店だった。

昏睡を続けるアスラに薬湯を飲ませ続けるタンダ。

「眠っているのに・・・飲めるんだね」

マーサ(渡辺えり)は感心する。

「アスラの肉体が生きようとしているのです・・・」

その時・・・アスラが咽かえる。

「やはり・・・不味いのか」とバルサ。

「いや・・・意識が戻った」

「え」

アスラは目覚めた。

「あの世に留まっていた魂を・・・この世の肉体が呼びもどしたのだ」

「バルサ・・・」

「アスラ・・・私はここだ」

「バルサ・・・よかった」

「アスラ・・・」

「私・・・長い夢を見ていたわ・・・」

「へえ」

アスラは回復した。

「もうしばらく・・・ここでアスラを預かってもらいたい」

アスラはマーサの息子のトウノ(岩崎う大)に願い出る。

「いつまでいたって・・・構わないさ・・・ただ」

「何だ」

「この辺りも物騒になってきた・・・新ヨゴ国の帝は・・・タルシュ帝国に弔い合戦を挑むとかで」

「弔い合戦」

「サンガル王国に派遣された皇太子が・・・殺されたらしい」

「・・・チャグムが・・・殺されただと」

風雲急を告げる北の大陸なのである。

ロタ王国の王位継承がどうなったのかも気にかかるところだが・・・無国籍者であるバルサには国家の存亡など知ったことではないのだった。

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2017年3月 8日 (水)

氷上の穴釣りと危険なナポリタンと片思いの夢とすり替えられた神意と五艘のたこやきとリストの慰めと誰でもない女(満島ひかり)

カルテットなので四角関係なのだが・・・その中には三角関係が包み込まれている。

一つの点から別の図形が派生することもあり・・・たとえば・・・巻真紀-巻幹夫-巻鏡子の三角形など・・・複雑な人間関係を構成している。

巻幹夫-巻真紀-別府司の三角関係は・・・巻夫妻の離婚によって後退し・・・序盤から展開する世吹すずめ-司-真紀の三角関係がクローズアップされる今回・・・。

この三角関係は・・・すずめの司に対する片思いが軸になるのだが・・・そこは表面なのである。

妄想的には・・・この三角関係は「ダイエット/大島弓子」(1989年)の角松-福子-数子に置換される。

親の愛情に飢えた福子と・・・親戚を盥回しにされて育ったすずめは同質の存在なのである。

「好きな人の好きな人と好きな人の好きな人が結ばれてほしい」というすずめの願望は精神年齢が五歳の女子高校生福子と同じく・・・「両親という名の保護者カップル」への渇望に他ならない。

しかし・・・元地下アイドルのアリスに導かれて「思春期」の扉を開いたすずめは・・・「初恋」へと駒を勧める。

つまり・・・女児のエディプスコンプレックスが発動するのである。

下りのエスカレーターでエスコートしてくれる父親を独占したいのである。

すずめの初恋を・・・寝た子を背負うように見守る家森諭高によって・・・カルテットの疑似家族関係は完成するのだった。

で、『カルテット・第8回』(TBSテレビ20170307PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。カルテット・ドーナツホールの第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)は夫・巻幹生(宮藤官九郎)と離婚し旧姓の早乙女真紀となった。これによってカルテットはすでに離婚している ヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)、そしてチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)と四人全員が独身になったのであった。

氷上でワカサギ釣りを楽しむカルテット。

序盤は大漁である。

「ワカサギってバカですね」

「ですね」

しかし・・・たちまち魚信(あたり)が来なくなるのだった。

「ワカサギを馬鹿にしすぎましたね」

「別府くん・・・ワカサギが日本語を解するとでも」

「この間・・・大きなホールで演奏することになったんだけど突如、カルテットで空中ブランコをすることになる夢を見ました」とサオトメマキ。

「僕も四人の心と身体が入れ替わる夢を見ました」

「真紀さん・・・他人の夢の話を聞いて・・・なんて言いますか」

「へえ」

「へえからは何も生まれませんよ」とヤモリ。

「・・・お腹すきましたね」とすずめ。

「帰って温かいものでも食べましょう」

「皆さんに話があるんですけど・・・」と別府。「別荘・・・春になると・・・リスが集まってくるんです」

「もう・・・帰ろうって時に・・・面白そうな話しないでよ・・・」

「車の中で話せばいいじゃないですか・・・行きましょう」

事実上の家長であるサオトメマキが一同を促す。

お約束で氷上でのコケを披露する三人であった。

別府の別荘ではサオトメマキの元の姑・鏡子(もたいまさこ)が腰痛の養生を続けていた。

回復した鏡子は御礼にご馳走を作って振る舞う。

カルテットにとって疑似・母となる鏡子は・・・奏者たちの生活態度について説教をするが聞く耳をもたない四人組である。

キリギリスたちは・・・アリの作った手料理を貪り食うのだった。

振り返った鏡子は・・・頬を膨らませた疑似子供たちに呆れるのだった。

「どうぞ・・・召し上がれ・・・」

サオトメマキは鏡子を軽井沢駅に送り届ける。

「もう・・・あなたには連絡しないつもりです・・・あなたは自分の人生を生きてください」

「・・・お義母さん・・・野沢菜ふりかけ」

サオトメマキは軽井沢土産を手渡した。

すずめは甘美で淫らな夢を見ている。

夢の中で・・・別府はスパゲッテイ・ナポリタンを作る。

白くて可愛い衣装をつけたすずめに・・・「ナポリタンは白くて可愛いお洋服にとって危険です」とエプロンを着せかけてくれる。

食事の前に着せるのは・・・食後に脱がすことの性的な暗示である。

エプロンの付紐で胴回りを縛られてすずめはうっとりするのだった。

目覚めたすずめは・・・階下で別府が湯切りを持って調理していることにときめく。

夢が現実になるのではないかという期待にみぞみぞするすずめ・・・。

しかし・・・別府がゆでていたのは日本蕎麦だった。

食卓に用意される二人分のそばつゆ・・・。

すずめは落胆を誤魔化すためにワサビをたっぷりとすりおろす。

咽る別府。

「すずめちゃんがここに来てナポリタンを最初に食べたのって・・・ずっと前のような気がするけど・・・実はつい最近なんですよね」

「憶えていたんですか」

「ええ」

「じゃあ・・・あのことも・・・」

「・・・憶えています」

突然、すずめが別府にキスをしたことである。

「でも・・・あれは・・・どういう意味だったのか・・・Wi-Fiって・・・」

「ロックンロールナッツを食べましたよね」

「あ・・・アイスクリームのことですか」

「ラブラブストロベリーと」

「・・・食べましたね」

そこへ・・・ヤモリが現れる。

「別府くん・・・トイレの便座が冷たいんだけど」

別府はトイレに向う。

ヤモリは別府の席に着席して蕎麦をたぐる。

ワサビの効果を確認してほくそ笑むすずめ。

「イエモリさん・・・バイト決まりましたか?」

割烹着姿のアルバイト画像を披露するヤモリ。

事実上の口うるさい主婦としてのヤモリなのである。

「すずめちゃん・・・別府くんとキスしていたよね・・・別府くんて真紀さんの事好きだよね・・・真紀さんお離婚しちゃったし、ピンチじゃない?」

「一緒にバイト探しましょうよ」

「五文字しりとりする・・・かたおもい」

「いいんです」

「そうなんだ」

「いいんです・・・五文字です・・・すですよ・・・す」

そこへサオトメマキが買い物から戻る。

物資を受け取ったすずめは二階に退場する。

すずめの席に着席するサオトメマキ。

わさびに咽つつ蕎麦を貪る。

「真紀さん、晴れてお離婚したし・・・もう、火照りまくりじゃないですか?・・・別府くんとかどうですか?・・・お相手として」

「イエモリさんこそ・・・好きな人いないんですか?」

「僕は女性を好きにならないようにしています・・・向こうが僕を好きになる確率が極めて低いからです」

「イエモリさんて・・・自分の事判ってたんですね」

「だからこそのこの性格です」

別府が戻ってくる。

「トイレ・・・直りました」

「ぬくぬくになった」

「なりました」

そこで別府の弟・圭(森岡龍)からのメールが着信する。

別荘の売却について相談したいという件だった。

カルテットの疑似家庭のタイムリミットが迫っているのである。

カルテットのホーム喪失の危機を・・・メンバーに切りだせないでいる別府は・・・弟の家庭問題について相談に乗るという嘘で・・・サオトメマキとヤモリを外出させる。

不動産屋を伴い別荘にやってきた圭は売却額七千万~八千万円の間という査定に満足し・・・売却話を進める。

「ここなら・・・すぐに買い手がつきますよ」と不動産屋。

「・・・高崎に戻ってくればいいじゃない」と圭は兄に慇懃無礼な態度で促す。「職場も近いんだしさ」

「・・・」

「メンバーのこと?・・・その人たちってどうせダメな人って言われているんでしょう・・・ダメ人間とかクズとか」

「人を査定に来たの」

「兄さんだってゴミ出ししない人たちだって言ってたじゃない」

「それは面白い話として・・・」

「とにかく・・・兄さんが・・・そういう人たちを大切にして面白がっているって・・・父さんには伝えておくよ」

「・・・」

弟の圭はやり手で・・・兄はそうでもないらしい。

そして・・・別府家では・・・ダメな人たちを庇う兄の立場は・・・それほど強くはないわけである。

執行猶予は迫っているのだった。

兄弟の話を・・・すずめが盗み聞きしていた。

ライブレストラン「ノクターン」での営業を終えたカルテット。

「すずめちゃん・・・ごめん・・・今日は・・・曲順間違えちゃって」

別府は「秘密」を抱えて懊悩しているのである。

「別府くん・・・今日、おかしくなかった・・・元気ないみたいだし」

直感の冴え渡るサオトメマキ。

「マキさんが直接聞いてみたらどうですか・・・アイスありますよ」

すずめはサオトメマキを送り出す。

別府の部屋でおしゃべりをする二人を確認したすずめは眠気を装って自分の部屋へ戻る。

そして「宅地建物取引士」の合格証書を取り出すのだった。

別府の負担を軽減するために・・・別荘喪失後のカルテットの存続のために軽井沢での職を確保しようとするすずめなのである。

スーツに身を固めたすずめは老人だらけの根本不動産の面接に挑む。

社長の根本(ミッキー・カーチス)はすずめを一発採用するのだった。

「ジュ・トゥ・ヴ(きみがほしい)/エリック・サティ」にのって踊りだすすずめ・・・。

雑誌に載っていたスイーツをサオトメマキが美味しそうと言えば・・・サオトメマキの携帯で別府に発注するすずめなのである。

すずめはサオトメマキと一体化し・・・別府を共有しようと夢見るのだった。

すべてを把握するイエモリは・・・すずめの恋心に恋して「わしにもくれ」とその他の人の声色を使って叫ぶ。

サボテンに水をやるすずめ・・・。

「サボテンに水やりは必要なんですか」

「サボテンにこそですよ」

サボテンの花が情熱の赤を示す。

サオトメマキがサボテンの花に魅了される。

「別府さん・・・ほら・・・咲いてますよ」

仲のいい夫婦にも見えるサオトメマキと別府の姿にうっとりとするすずめである。

好みの香りの洗剤で別府のシャツを洗濯し・・・サオトメマキに香りを楽しんでもらうすずめなのである。

そんな働き者のすずめのために・・・根本社長は「ピアノ・リサイタル」のチケットをプレゼントする。

「私の好きな人にあげてもいいですか」

「その人と一緒に行くのかい」

「私の好きな人には好きな人がいるんです」

「・・・」

「私の好きな人の好きな人も私の好きな人なんです」

「君の好きはどこに行くのかな・・・置き場所に困らないのかね」

「私の好きはその辺にゴロゴロしているっていうか・・・ちょっとした優しさや・・・ちょっとした気遣いで・・・好きだってことを忘れるくらいの好きなんで・・・」

「・・・まぶしいね」

若者のすべてがまぶしいお年頃らしい。

不安を感じた時に・・・それを宥めてくれる相手を・・・すずめは求め続けているのである。

すずめは架空の若手同僚をでっち上げ・・・鉄板焼きに誘われていると仄めかす。

そして・・・別府とサオトメマキにリサイタルに行くことを勧めるのである。

「すずめちゃんが行けばいいのに」

「私・・・ピアノを聴くと眠ってしまうんで」

「僕がもらってもいいよ」と邪魔をするヤモリ。

すずめはヤモリに胸の内を明かすのだった。

「私・・・独立しようと思ってるんです・・・イエモリさんにもお薦めの物件があります」

「ここがあるじゃないか」

「別府さんの負担になっているんです」

「僕はたとえ別府くんが結婚することになってもここに居候させてもらうつもりだ」

「別府さんと真紀さんに幸せになってもらいたいんです」

「君の片思いは・・・」

「いいんです」

「夢の話でしょう」

「え」

「片思いって一人で見る夢でしょ・・・真紀さんを見ている別府くんを見てるのがつらいからじゃないの?」

「・・・」

「両想いは現実・・・片思いは非現実・・・夢と現実の間には深い河が流れているよ」

「二人がうまく行くように・・・協力してください」

「・・・」

すずめの計画に従って・・・リサイタルで待ち合わせをする別府とサオトメマキ。

不動産屋で残業するすずめは「慰め 第三番/フランツ・リスト」を聴くうちに眠りこんでしまう。

夢の中で白いコートのすずめは別府と待ち合わせをして・・・別府にエスコートされてリサイタルを楽しむ。

目覚めたすずめは自分が泣いていることに気がつく。

別府の幸福を願っているはずなのに・・・サオトメマキではなく自分が別府と愛しあうことを望んでいるすずめ・・・。

混乱したすずめはリサイタル会場に走る。

別府の幸せそうな姿を確認すれば・・・自分の気の迷いが晴れるはずだというように・・・。

しかし・・・別府と黒いコートのサオトメマキの仲睦まじい姿は・・・すずめの心をかき乱すのだった。

ふたりの幸せを願う気持ちと自分の欲望の間で宙吊りになるすずめ。

人混みに流されて・・・すずめは別府とサオトメマキの姿を見失うのだった。

くたびれて帰宅したすずめは・・・別荘の鍵が見つからず・・・座り込む。

そこに・・・ヤモリが帰ってくる。

「たこ焼きあるよ・・・」

別府とサオトメマキは客として「ノクターン」を訪れる。

「いらっしゃいませ」とアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)が二人を迎える。

サオトメマキとアリスは笑わない目の応酬をする。

二人は対の存在なのである。

「こんな風に見えるのね」サオトメマキはステージを眺めて言う。「私・・・ずっとここで演奏していくのもいいかなって思うのよ・・・向上心がなさすぎるかしら」

「人それぞれに目的の場所が違っていいんじゃないですか・・・のしあがりたい人はのしあがればいいし・・・そうでない人はそうでなくていい」

アリスは店の奢りのワインをそそぐ。

「一番安いやつですけどね」

サオトメマキとアリスは笑わない目の応酬をする。

あくまで二人は対の存在なのである。

シェフの大二郎(富澤たけし)は苦笑いをする。

すずめはヤモリの買ってきたたこやきを食べる。

「行った旅行も思い出になるけど行かなかった旅行も思い出になるじゃないですか」

「意味がわからない」

「いいんです」

「好きですと・・・興味のない人からの告白って・・・夢と一緒でしょう・・・へえ・・・でしょう。別府くんから告白されても・・・真紀さん・・・困ると思うんだよね・・・SAJだよ」

「SAJ・・・?」

エチュード(即興劇)・モードに入るヤモリ。

「演じてみて・・・かもめのニーナみたいな感じで」

「好きですねえ」

「告白してみて」

「好きですのS」

「あ・・・・あああ・・・ありがとうのA」

「・・・返事になってません」

「だって・・・興味がないって言ったら気まずいでしょう」

「・・・Jは?」

「ありがとうって言われたら・・・ふふふ、冗談ですよって言うの」

「・・・」

「これで告白したことがなかったことになるから」

「なりますか」

「なるよ・・・大人はみんなそうやって生きて行くの」

営業が終わったノクターンでホール担当責任者の多可美(八木亜希子)で「ギャラの明細書」を渡したいのでしばらく待っていてほしいと頼まれる別府とサオトメマキ。

「御先に失礼します」

サオトメマキとアリスは笑わない目の応酬をする。

しつこいようだが二人は対の存在なのである。

手持無沙汰になったサオトメマキはピアノで「メヌエット/J.S.バッハ」を奏でる。

かわいい装飾譜入りである。

「弦に行ってからは弾いてないから」

「真紀さん・・・好きです」

「またですか」

「またですが・・・好きです」

「ありがとう」

「すきです」

「サンキュー」

「もう一緒にいるのがつらいです・・・このままだったら離れた方が」

「え」

「・・・冗談です」

「このまま・・・みんなと一緒にいたいんです・・・死ぬなら今かなと思うくらい・・・今が好きです」

サオトメマキはタコ焼きを買う。

「ご夫婦ですか」

「片思いです」

「今日は・・・片思いのお客さんの多い夜だね」

「そうなの」

「ええ」

眠りこんだいとし子をおんぶしてベッドに運ぶヤモリ・・・。

「・・・冗談なのさ」

四艘のたこやきを運ぶ別府。

「登り坂・・・ふふん・・・下り坂・・・ふふん・・・人生はまさか」

「その歌・・・好きなんですか」

「・・・」

その頃・・・東京の鏡子の家に・・・間違って娘の可愛い傘を差した富山県警の刑事・大菅直木(大倉孝二)を伴って幹夫の担当弁護士がやってくる。

息子夫婦の結婚式の写真を示す大菅刑事。

「息子は・・・富山県でもなにか・・・事件を・・・」

「こちらの人は・・・」

「先日、息子と離婚した早乙女真紀さんです」

「その人はサオトメマキではありません」

「え」

「サオトメマキとは別人です」

「じゃ・・・誰なんですか」

「誰なのか・・・誰でもない女です」

サオトメマキは・・・いつから・・・サオトメマキになったのか。

少なくともそれは・・・別府が学園祭で目撃する以前の話になる。

小吉と大吉と大吉と大吉は・・・小吉と大吉と大吉と凶だったのである。

まあ・・・資産家のキリギリスがそうでないキリギリスたちに食いつぶされかけてるからな。

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2017年3月 7日 (火)

客も患者も家族も同然という気持ち(木村拓哉)

脚本家には「不毛地帯」という作品がある。

これは原作ありだったために・・・最後まで不毛地帯なのである。

しかし・・・世界が凍てついた不毛地帯であるように見せるのは脚本家の特色でもある。

けれど・・・凍てついた大地に春が訪れて・・・人間性の回復とも言うべき雪解けがあるのが一種のお約束なのである。

「僕と彼女と彼女の生きる道」では機械の歯車のようだった銀行員が妻に去られ残された娘を育むことで・・・自分が血の通った人間であることを発見していく。

「僕の歩く道」では自閉症の主人公を周囲のものたちが人間とは認めないという残酷な状況で始る。しかし・・・主人公はもちろん人間なのである。そして・・・周囲のものたちが主人公を人間として認めて行く過程で・・・自分も人間であったと気がついて行く巧妙な仕掛けになっている。

僕のいた時間」では主人公は難病で・・・進行性で身体の自由を失っていく。ある意味でどんどん不毛地帯へと進んでいくようなものだ。絶望し・・・苦悩する主人公。しかし・・・それでも主人公は最後まで人間であろうとあがき続ける。そして・・・一つの愛にたどり着く。

医師を主人公にした・・・この物語では・・・職人的な外科医の生き様が描かれているが・・・実は彼の心は凍てついているのである。

凍てついた彼の心が融けかかり・・・ミスを犯す。

冷徹に見えるが・・・実は人恋しい外科部長は「彼も人間だもの」とつぶやくのだった。

で、『A   LIFE~愛しき人~・第8回』(TBSテレビ20170305PM9~)脚本・橋部敦子、演出・平川雄一朗を見た。好みの問題もあるだろうが・・・この物語の演出は王道で・・・淡々としたこの演出家によるものが・・・一番馴染むような気がする。過去に縛られた登場人物たちが・・・なんとか呪縛を解こうともがく姿が物語の本質にある以上・・・そこを見せてくれれば充分なのである。

父親に捨てられた怒りをバネとした顧問弁護士の榊原実梨(菜々緒)は副院長の座にある鈴木壮大(浅野忠信)の心に自分と同じような傾斜を見出し愛人となる。

しかし・・・壮大が・・・愛人を作らなければ心の安定を得られないほどに妻の壇上記念病院の院長令嬢である小児科医・壇上深冬(竹内結子)を愛していることを悟り・・・怒りを増幅させるのだった。

だが・・・全体会議で「リスク管理についての見直し」を提言し・・・「病気を抱えた医者が外科的治療を行うことは患者さんに不利益をもたらす危険がある」と勧告し・・・「深冬の脳に腫瘍があること」を暴露し・・・「副院長の責任問題」を追及する榊原弁護士の胸に去来するのは・・・「手に入らぬならつぶしてしまえ」という「復讐心」だけではなかったのだろう。

自分の本心をすべてさらけ出したのではない・・・愛している相手に「訣別」というラブレターを届けているようなものなのである。

そういう風にしか愛を語れない人間なのである。

死地から回復したばかりの健康状態を考慮して・・・一人娘の病状を知らされていなかった院長の虎之助(柄本明)は動揺して・・・壮大を怒鳴りつける。

娘の配偶者にライバル意識を持つ典型的な舅のように描かれる虎之助であるが・・・実は壮大に対しては甘ったれているわけである。婿に無理難題を押し付けるのは・・・甘えん坊の発露なのだった。

当事者である深冬は困惑する。

壮大は言葉に窮する。

深冬の昔の恋人であり壮大の幼馴染である外科医・沖田一光(木村拓哉)は二人を守るために立ちあがるのだった。

「すいません・・・私も副院長に相談されていて・・・深冬先生の脳の腫瘍については知っていました・・・本人への告知前に問題が発生しないように配慮して・・・バックアップしていました」

一光のアシストで息を吹き返す壮大。

「医師が外科的な治療を必要とする場合でも・・・法的に問題はありません。仮に裁判になったとしても負ける直接的な原因になることはありません。そもそも・・・裁判になるような医療ミスは全くないのです。しかし・・・榊原先生の訴訟になる可能性のご指摘には感謝します。すでに深冬先生には告知が行われ・・・外科手術の執刀を行わないことが確認されています」

「・・・」

深冬は立ち上がり頭を下げた。

「お騒がせして申し訳ありません」

医師たちは・・・それぞれの立場で・・・深冬を見つめるのだった。

外科部長であり壮大の友人でもある羽村圭吾(及川光博)は「知らなかったこと」に淋しさを感じるのだった。

虎之介の怒りは収まらない。

「私に隠すとは・・・何事だ」

「私がお願いしたのよ」

「これが・・・患部の画像データです」

壮大の差し出したデータを見て・・・虎之助は事態の深刻さを悟った。

娘の父親から・・・医師へとスイッチが切り替わったのである。

「大丈夫よ・・・ちゃんとオペが可能だから」

「沖田先生に執刀してもらいます」

娘夫婦のコンビネーションに虎之助は矛先を一光に向ける。

「本当に・・・できるのか」

「はい・・・浅側頭動脈と後大脳動脈に対してバイパス手術を行い・・・患部にアプローチします」

「脳内で・・・バイパス手術・・・大丈夫なのか」

「・・・大丈夫です」

虎之助は再び老いた父親に戻る。

「絶対に救ってくれ」

「一週間後に・・・オペをします」

副院長室で壮大は榊原弁護士に対峙する。

「どういうつもりなんだよ」

「あなたと同じことをしただけ・・・手に入らなければ・・・無くなってしまえって」

「一緒にするな」

「深冬先生のオペが失敗して死ねばいいと思っているのに・・・沖田先生が救えば深冬先生の心に一生残る・・・あなたの心の穴はどっちにしてももっと大きくなる・・・一生苦しめばいいのよ・・・今までお世話になりました」

榊原弁護士は・・・深冬を羨んだ。

二人の男に愛される深冬を・・・自分を愛してくれる男は一人もいないのだ。

それでも榊原弁護士は・・・愛する男の幸せを祈っているようにも見える。

呪いの言葉で・・・。

榊原弁護士の傷心を受けとめて・・・壮大は・・・美しい風景画の裏に潜む・・・自身の心の穴の象徴に向き合うのだった。

困難な手術に「絶対」を求められ・・・結紮の修練を重ねる一光。

ナース柴田(木村文乃)がドクター沖田に寄り添うのだった。

「難しいオペになりますね」

「五万回練習しないと・・・安心して執刀できない」

外科部長は井川颯太(松山ケンイチ)に淋しさをぶつけるのだった。

「井川先生は・・・知ってたの」

「・・・たまたまです」

「知っていたんだ・・・」

深冬は入院の準備にとりかかっていた。

「どこかに・・・おでかけしようか」

「本当?」

娘の莉菜(竹野谷咲)は無邪気に喜びを示す。

「どこに行きたい?」

「・・・水族館」

深冬は娘に楽しい思い出を残そうとしている。

喜びが大きいほど悲しみも深まるものだが・・・深冬には他になす術がなかった。

「明日・・・大丈夫かな」

「もちろんさ・・・」

愛人がいなくなった壮大のスケジュールはタイトではなくなったのだ。

壮大は・・・カメラの手入れをした。

妻と娘のために思い出を記録しなければならないのだ。

ナース柴田はドクター沖田を案じていた。

「いかめしを買ってきました」

「おう・・・サンキュ」

「沖田先生ではなくて・・・お父様用ですよ・・・賞味期限は今日までです」

「・・・帰れっていうことか」

「ええ・・・急がば回れですよ」

「・・・」

一光は優秀な看護師のアドバイスに従った。

嘉月寿司に帰った一光は・・・胸を抑えて苦しむ沖田一心(田中泯)を発見する。

「親父・・・」

「大丈夫だ・・・」

しかし・・・意識を喪失する一心なのである。

「呼吸が・・・ある」

一光は救急車を呼んだ。

颯太もかけつけ・・・一心の検査を手伝う。

「心電図は問題ないですね」

「血液検査でトロポニン上昇(心筋梗塞などによる心筋の損傷によって生じる)もなかった・・・」

「冠動脈造影をしましょう」

検査の結果に基づく第一外科のカンファレンス(会議)・・・。

「上室性頻拍(心臓の刺激伝導回路に異常があって心拍数が増加している頻脈の一種)があって・・・冠動脈造影の結果・・・狭心症(冠動脈の異常による虚血性心疾患)で冠動脈3枝に病変があり、僧帽弁閉鎖不全症と診断しました」

「冠動脈バイパス手術と・・・僧帽弁形成術・・・心房細動に対するメイズ法(心房にメイズ=迷路のような複雑な切開を入れ心房細動の原因になる神経を遮断する治療法)が求められます」

「執刀は私が引き受けよう」

外科部長が名乗りをあげた。

外科医たちは基本的にサイコパスである。

なにしろ・・・人体を切り刻むのが仕事なのである。

誤解のないように言っておくが・・・サイコパスとは犯罪者的気質の代名詞ではない。理性と情動の間に一定の隔離がある精神のことである。

つまり・・・血を見て騒いでいるようでは仕事にならないからである。

職業的訓練によってそうなる人もいるが・・・生まれつきの傾向というものもある。

血が怖い人は内科医に怖くない人は外科医になっていると妄想できる。

しかし・・・女性にキスしたがる男性が・・・男性に対してはそれほどでもなかったりするように・・・生理的なメカニズムはまた別種で存在する。

他人にはメスを揮えても家族には揮いにくいという場合があるわけである。

そういう前提で・・・家族に対しての執刀はしないという不文律がある。

遺産相続がからむと・・・あえて手術ミスする場合もあるしな。

それはちょっと違うぞ。

ここまで・・・一光や壮大は・・・一般常識とは違う・・・深冬主体の行動を展開していたわけだが・・・ここからは・・・特別な人に対する平常心が問題になってくるのである。

壮大は・・・一心に対して特別室を用意する。

このドラマでは患者に対する医師の平等精神は基本的に問題外なのである。

一心が一光の父親という「特別な存在」である以上・・・「特別な待遇」が与えられるのである。

意識を取り戻した一心はわがままな患者になる。

「手術を担当する羽村先生です」

「なんでえ・・・お前がやらないのかよ」

「基本的に御身内の方の手術は行わない慣習なんですよ」と外科部長。

「どこぞのお偉い人の手術をしておいて・・・実の親の手術はしないのかよ」

「そういう問題ではなくて」

「だらしのねえ・・・医者も職人じゃなかったのかよ・・・俺がお前に寿司を握らねえって言うか・・・おめえ・・・だいたいなんのために医者になったんだ」

「羽村先生・・・すみません・・・僕がやります」

「え」

外科部長はまたもや寂寥感を感じるのだった。

沖田先生に恩を売りたかったのである。

人間の精神は複雑なものである。

特に肉親に対する感情は一筋縄ではいかない。

近親者の喪失による鬱状態の発生など理解しやすい例だろう。

そのための大前提を崩壊させる沖田父子なのだった。

職人として息子のようにお客様に寿司を握り、医者として父親のように患者を手術するべきという話なのである。

メイズ法は不具合を生じさせる神経伝達を遮断する手術である。

外科医もまた手術中に不具合を生じさせる可能性のある感情を遮断する精神制御を完成するべきだ・・・と寿司職人である父親は外科医の息子に教育的指導をしているわけである。

しかし・・・そこには・・・一心にとっての妻・・・一光にとっての母の病死によって生じたとてつもない感情的な問題も絡んでいるのだった。

「そうか・・・やるか・・・こいつは弔い合戦だな」

「・・・」

颯太はナース柴田に感想を求める。

「身内のオペをやるなんて・・・すごいよね」

「お父さんのオペができないなら・・・深冬先生のオペもできないってことだから」

「そうそう・・・え・・・どういう意味?」

「のりつっこみかい」

虎之助は一光を呼び出した。

「深冬のオペの前に・・・家族のオペをやるなんて・・・大丈夫なのか」

「大丈夫です」

「深冬のオペを・・・最優先にしてもらいたい・・・君をシアトルに行かせたのは腕を磨かせるためだったんだから」

「本当に・・・それだけですか」

「なんだ・・・私を疑うのか・・・私を信じられないのか」

「だったら・・・私の腕も信用してください」

「・・・」

しかし・・・疑心暗鬼に囚われた虎之助は真田事務長(小林隆)を呼び出す。

「深冬の手術を受けてくれる脳外科をリストアップしてくれ」

「え」

「保険だよ・・・身内の手術で何かあったら・・・沖田先生は使い物にならなくなるかもしれん」

その頃・・・深冬は一心の病室に訪れていた。

「沖田先生のお父様ならご挨拶しなくてはならないと思いまして」

「壇上深冬先生です」

「一度・・・店に来てくれましたね」

「憶えていてくださったんですか」

「てっきり・・・嫁に来てくれる人なのかと期待しちまったからね」

「ぎょっ」とする居合わせた颯太だった。

「まあ・・・」

「女の人を連れてきたのは・・・あれっきりだったのか・・・そうか・・・壮大が相手じゃあ・・・仕方ねえな」

「そんな・・・」

「どうか・・・御夫婦そろってあいつの面倒をお願いしますよ」

「親父・・・」

「助けられているのは私たちです・・・父の命も救ってくれたし・・・沖田先生は立派な外科医です」

「へえ・・・お世辞でもうれしいねえ」

親馬鹿である。

壮大は一光を呼び出す。

一光の中で・・・胸に秘めて来た疑惑が・・・院長との会話から膨らみ始めている。

院長は・・・一光と深冬の仲を裂くために・・・シアトル行きを命じたのかもしれない。

そして・・・それに・・・壮大が手を貸しているのかもしれない。

ある意味で失われた十年は・・・一光の影となっている。

「親父さんのオペをやるんだってな・・・俺には到底無理だ・・・お前は俺には越えられない壁を軽々と越えて行く」

「俺に任せてくれた・・・壮大にも後悔はさせない」

「親父さんのオペの成功を祈ってるよ・・・そのあと・・・深冬のオペも控えているしな」

「・・・」

一光は揺らめく影をねじ伏せた。

一光はいつものように手術の内容を紙芝居形式で一心に伝える。

「で・・・ここの弁がバカになっちゃってるんで閉鎖できるように修理して・・・」

「まさか・・・おめえに本当に手術してもらうことになるとはな・・・母ちゃんに感謝だな」

「・・・」

「それにしてもあの人が壮大の嫁さんとはな・・・おめえ・・・壮大には叶わないと思ってアメリカなんぞまで逃げたのか」

「ちげえよ」

「まあいいや・・・母ちゃんの仏壇の花・・・替えておいてくれよ」

「・・・わかってるよ」

深冬と壮大は莉菜と水族館に出かけた。

「お母さんはどの魚が好き」

「う~ん・・・全部好き」

和気藹々の妻と娘を撮影する壮大。

「家族三人の写真を撮ってもらおう」

深冬の提案で・・・三人で並んだ壮大は妻の手を取る。

握った深冬の手を離し難い壮大・・・。

深冬を失うかもしれない期限が迫るに連れ・・・壮大の心はもがきだすのである。

自分は一体・・・何のために存在しているのかという・・・根源的な問いかけが・・・壮大の心に生れている。

心に穴をあけるためか・・・それとも・・・。

壮大は壁に開けた穴に・・・自らの手を重ねてみる。

それは・・・人体を切り刻み・・・命を救うために使われる手なのである。

百点満点でなければ医者失格・・・父にかけられた呪縛に拘泥し・・・家族写真に納まった幸福を見失っている壮大なのだ。

「どうすれば・・・百点満点の家族になれるのかな」・・・そう問いたい壮大なのである。

真田事務長が虎之助に状況を報告する。

「主だった方には打診しましたが・・・手術は困難と断られました」

「そうか・・・他にはいないのか・・・」

虎之助は・・・再び一光を呼び出す。

「沖田先生・・・君なら必ず・・・乗り切れる。誤解をされていては困るので明言しておくが・・・十年前のシアトル行きに・・・他意はない。君と深冬の仲を裂こうなんて野暮な気持ちは一切ないぞ。あれは・・・壮大君が君の将来のことを思って提案してきたことだ・・・日本では君のチャンスは限られると言ってな・・・それが本心かどうかまでは・・・いまとなってはわからんが・・・・実際・・・君は素晴らしい経験を積んで・・・成長したことは間違いないだろう・・・君だから・・・深冬を救えるんだ」

虎之助の言葉は・・・一光の心の影を揺らめかせるが・・・患者の家族に応える言葉はひとつしかないのだった。

「はい・・・安心しておまかせください」

虎之助は一光を伴って入院した娘の元へ赴く。

「何も心配しなくていいからな・・・沖田先生がオペしてくれるんだ・・・お任せすれば大丈夫だ」

「沖田先生・・・よろしくお願いします」

深冬自身の生死を分ける手術への圧倒的な信頼に一光の心は揺れる。

颯太は・・・一光に手を差し出す。

「今なら・・・お父さんのオペ・・・代わってもらえますよ」

「自分で救いたいんだ・・・親父があんなこと言うのも・・・俺の気持ちを読んでのことなんだ・・・」

「・・・」

「うちの母は・・・もうできるオペはないって言われて・・・大きな病院から小さな病院に移されて・・・そこの先生はいい先生で・・・最後まで諦めずに治療してくださった・・・母もこの先生で治らないなら仕方ないねなんて言ってたよ・・・でも・・・俺は正直・・・母には助かってほしかったし・・・全然納得できなかった・・・だけど・・・自分には何もできなくて・・・それで医者になるって決めたんだ・・・俺が医者になるなんて無理だろうってみんな言ったけど・・・親父だけは黙って・・・信じてくれた・・・今なら・・・母を救える技術はあるし・・・自信もある・・・完全に手遅れだけどな・・・でも親父は救うよ」

「お父さんを切るのは・・・怖くありませんか」

「ちょっと・・・」

「怖いなら・・・オペしちゃダメなんじゃ・・・」

「準備はちゃんとできている・・・」

「・・・」

「明日・・・よろしく」

「はい」

颯太はナース柴田を誘った。

ナース柴田はちょっといい感じの枯れ枝を拾った。

「沖田先生が一度だけ結婚を考えた相手って・・・深冬先生だよね」

「かもねえ」

「お父さんが無理なら・・・深冬先生も無理って・・・そういうことだよね」

「かもねえ」

「実の親で・・・お試しって・・・凄すぎる」

「あなたは・・・自分の父親をオペ出来る?」

「絶対無理だよ・・・今だって・・・一生現場の外科医でやっていくか・・・満天橋病院に戻って経営者の道を進むか・・・はっきりしろって言われて・・・」

「ねえ・・・自分の父親のことパパって呼んでる?」

「馬鹿な・・・流石に三十過ぎてからはパパなんて言わないよ」

「うふふ」

「とにかく・・・そんなことで迷ってるんだ・・・沖田先生とは次元が違う」

「でも成長してんじゃないの・・・迷うってことは・・・言われた通りにはまだしてないってことだから」

「それって・・・褒めてるの・・・それとも貶してるの」

「貶してるのに決まってるでしょう」

「げっ」

ナース柴田は枯れ枝で颯太を鞭打った。

「それそれ・・・しっかり考えよ」

「あはん」

イチャイチャである。

一光は・・・深冬の病室で家族写真を見る。

揺らめく心の影・・・。

壮大は・・・深冬の寝顔を見つめる。

それをファインダー越しに覗いた後・・・思いにふけるのだった。

一心の手術前日・・・。

一光に「お手並み拝見だな」と笑う一心。

「麻酔効いてるから・・・無理だよ」

「・・・頼むぞ」

「・・・」

一心の手術当日である。

手術の様子を外科部長と壮大はモニターで見つめるのだった。

「冠動脈3枝バイパス手術、僧帽弁閉鎖形成術およびメイズ法の手術を行います・・・よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

直後に肺動脈損傷を起こす一光だった。

「あ」

一瞬、硬直する一光。

信じられないミスに・・・動揺する執刀医に騒然とする手術室。

「沖田先生」

「どこだ・・・見えない」

「血圧下がってます」

「出血箇所・・・ありました」と颯太・・・。

「そっちから見えるの」

「はい」

「じゃ・・・替わって」

「はい」

モニターを見守る外科医たち。

「沖田先生があんな初歩的なミスを・・・」

「これが・・・身内を切る怖さか・・・」

「持ち直した・・・」

壮大も息を飲む。

最初の危機を乗り越えて・・・一光は平常心を取り戻す。

しかし・・・手術中・・・一光は動揺と戦っていたのだった。

なんとか・・・手術を成功させる一光。

「すみませんでした・・・すみませんでした」

スタッフに謝罪をくりかえしながら・・・逃げるように手術室を出る一光だった。

「しかし・・・沖田先生がミスをするなんて」

外科部長は・・・微笑む。

「いいんじゃない・・・人間だもの」

壮大は一光に声をかけた。

「見てたよ・・・お前でも・・・特別な人のオペだと・・・ああなるのか」

「・・・」

「三日後の・・・深冬のオペ・・・お前にまかせて・・・大丈夫なのか」

「・・・」

一光と壮大の間にこれまでとは違う緊張感が生まれている。

一心は意識を回復した。

「手術は完璧だったんだな」

「まあ」

「なんとか無事に成功しましたよ」と助け舟を出す颯太・・・。

「なんとかってなんだよ」

親に嘘をつけない一光である。

「いや・・・一瞬・・・指が思うように動かなくなって・・・やべえって感じに」

「・・・ったく・・・お前って男はまだまだ半人前だな・・・父親一人満足に切れねえで・・・他人様の命を預かれんのかい」

「自分を刺し身みたいに言うなよ」

「で・・・俺はいつから寿司を握れるんだ」

「順調に行けば・・・十日後には握れるようになります」

「そうか・・・また食いに来な・・・」

「あざあす」

「大穴子楽しみです」とナース柴田。

「干瓢巻も美味かったです」と颯太。

「お・・・結構わかってんな」

「そうですか」

「お坊ちゃまは幼い頃から・・・美味しいものばかり食べてますものね」

「えへへ」

和気藹々である。

深冬の手術のために修練を続ける一光の前に壮大が現れる。

壮大もまた・・・結紮を修練していた。

「あの日のこと・・・覚えているか」

「あの日って・・・」

「お前が俺をリリーフしてさ・・・連続四球で・・・連続押し出しで・・・逆転負け・・・」

「・・・」

「お前にマウンド明け渡した結果だ・・・俺は肩の痛みなんか我慢して・・・監督に続投させてくれって直訴しておけばよかったって・・・何度思ったことか」

「・・・」

「今回は・・・深冬の命がかかったオペだ・・・自滅されたら困るんだよ」

「何が言いたいんだ・・・」

「深冬は・・・俺が切るよ」

一光の中で・・・影の中で息を潜めていた何かが・・・突然、立ち上がるのだった。

「何それ・・・それも・・・親友としての提案なの・・・十年前・・・院長に勧められて・・・俺はシアトルに行った・・・今は・・・もうあの頃の俺じゃないんだ」

「・・・深冬は俺の家族だ」

「・・・深冬は俺の患者だ」

激突である。

しかし・・・深冬の容体が急変し・・・それどころではなくなるのだった。

「深冬先生の意識レベルが低下して・・・脳出血の惧れがあります」

「ええええええええ」

一光と壮大は病院の廊下を疾走するのだった。

医師である前に昔の恋人と夫なのである。

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Alife008ごっこガーデン。大穴子の美味しい寿司店セット。

アンナなにもかも・・・手にいれたのに満たされない壮大・・・大切なものを失ってもあきらめきれないまま・・・ストイックに腕を磨き続けた沖田先生・・・二人ともどんだけ一途なのかぴょ~ん。しかし・・・沖田先生のちょっとおタクなところとか・・・不器用な性格というかちょっと臆病なところとかが・・・さもありなんという感じなのねぴょん。そんな沖田先生の中でついに吹きあがる情熱のマグマ・・・真っ赤な林檎は・・・何かのシンボルなのかなぴょんぴょんぴょん。とにかく・・・大事なところでチョイミスしていたたまれずヘコヘコしながら退場するダーリンが・・・キュートだったぴょんぴょんぴょん。 そして・・・ついに明かされた沖田一家の絆・・・愛しあってるな~沖田家・・・。じいや~もしもの場合に備えてナース柴田の衣装もスタンバイしてね~。ナース柴田にもワンチャンスあるかもだから~・・・榊原弁護士は絶対ないと思うけど・・・でも二人はプラスとマイナスの差はあるけど同じドライバーなんだよね~

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2017年3月 6日 (月)

永禄三年、井伊信濃守直盛死す(春風亭昇太)

ドラマでは多くは語られないが井伊直盛はどちらかといえば猛将であったと思われる。

今川氏の尾張・三河攻略戦では太原雪斎に最前線の安祥城の守備をまかされているし、桶狭間の合戦では今川義元に先鋒を命じられている。

直盛は死の直前には井伊谷を中心に浜名湖岸東北部に広がる一帯の国人領主の党首的地位にあったと思われる。

義元の討ち死にの前後に自刃したとされる直盛だが・・・義元の死後ならば殉死の可能性もある。

自刃後、奥山孫一郎が首を持ち帰ったという伝承もあるが・・・信長が首実検をした中に井伊直盛の首もあったという伝承もある。

織田家から首が井伊家に返却され・・・それを受け取ったのが奥山孫一郎だったとも考えられる。

井伊家の菩提寺にある桶狭間の合戦で死んだ十六将には・・・直盛の勢力の一端が窺われる。

まず・・・直盛の家老の一族である小野玄蕃朝直や、小野源五の名がある。

続いて井伊分家の奥山城主・奥山六郎次郎朝宗、奥山親秀、奥山彦市郎、奥山彦五郎、奥山左近などの一族が戦死している。

さらに井伊谷東南の上野砦を領する上野惣右衛門、上野源右衛門、上野彦五郎などの上野一族。

その周辺の気賀領の気賀庄右衛門、多久郷右衛門、三河牧野氏の流れである牧野市右衛門などがあり、その他に御厨又兵衛、市村信慶、袴田甚八、中井宗兵衛、岩井庄右衛門などもある。

十六人を越えているのは資料によって些少の変動があるからである。

直盛は一族郎党を合わせて三百~五百の兵を率いて出陣しほぼ全滅していると推測されるのである。

兵の半数以上は農民であり・・・周辺は多くの男手を失ったことになる。

今川家にも痛い敗北であったが・・・井伊家もまた織田信長に痛恨の一撃をくらったのだ。

井伊家の凋落の始りである。それは遠江国の動乱の始りでもあった。戦場が尾張・三河から三河・遠江に遷移したのである。

で、『おんな城主  直虎・第9回』(NHK総合20170305PM8~)脚本・森下佳子、演出・福井充広を見た。例によってシナリオに沿ったレビューはikasama4様を推奨します。今回は諸事情により感想待ちですが・・・織田信長のキャスティング発表にも関わらず・・・桶狭間に信長の姿はなく・・・キッドのテンションはかなりアレでしたが・・・あくまでマイペースでお願いします。女城主だったとされる伝説の女主人公のドラマですが・・・戦の最前線で戦った姫武将ではなかったのだから・・・想定内と言えばそれまでですが・・・どうせ実在が曖昧なのだから・・・龍譚寺の僧兵を率いる尼武将でも構わないのに・・・と思わないでもありません。土曜日には赤穂浪士の内縁の妻が月光院だったという奇想天外時代劇をやっているわけでございますからねえ。素直に見れば・・・夫の死の衝撃で涙も出なかった直盛の妻が養子夫婦に子が出来たことで落涙し・・・次郎法師も物影で安堵するという展開ですが・・・養子夫婦が空気を読まない感じで喜びを示し・・・未亡人も苦笑い・・・もはや次郎法師も初恋の人が妻を懐妊させたことで引導渡された感じのブラックな演出だったとも思われます。このドラマは戦場よりも凄惨な・・・武家の暗黒面をこれでもかと描いていくのではないか・・・という予感に震える今日この頃です。

Naotora009永禄三年(1560年)五月十日、井伊直盛は井伊谷を出陣。十二日、今川義元が駿府から出陣。十七日、義元は尾張・三河国境の沓掛城に入城する。十八日、織田信長による兵糧攻めを受ける尾張国大高城の鵜殿長照の元へ松平元康が兵糧搬入作戦を成功させる。十九日、大高城に対する織田方の丸根砦を元康率いる三河衆が鷲津砦を朝比奈泰朝と井伊直盛の遠江衆が陥落させる。続いて今川勢は岡部元信が守る鳴海城を包囲する善照寺砦、丹下砦、中島砦への攻撃を開始。信長は幸若舞「敦盛」を舞って出陣。丹下砦から善照寺砦を経て中島砦へ入り・・・桶狭間へと進出する。沓掛城を出て進軍中の義元本隊は丸根砦と鷲津砦の陥落の報告を受け桶狭間山麓で戦勝祝いを行う。雨上がりの桶狭間に信長の奇襲部隊二千が現れ、義元本隊五千と激突する。混乱した今川勢は戦力を分断され、義元本陣は包囲殲滅される。義元は毛利良勝の指を食いちぎりながら討ち死にした。乱戦の中、今川勢は首級三千を織田勢に与えた。関口越中守氏経、関口刑部少輔氏縁、二俣城主・松井五郎八郎宗信、川入城主・由比美作守正信、長澤城主・松平上野介政忠、篠塚城主・西郷内蔵介俊員、蒲原城主・蒲原宮内少輔氏徳、前備侍大将・藤枝伊賀守氏秋、先陣大将・朝比奈主計頭秀詮、左備侍大将・岡部甲斐守長定、後軍旗奉行・葛山播磨守長嘉、井伊谷城主・井伊信濃守直盛などが尾張国清州城に首を晒す。遠江衆、駿河衆は敗走して戦線を離脱。大高城を脱出した元康は空き城となった岡崎城に入城。六月、鳴海城で徹底抗戦を続ける岡部元信は義元の首級を交換条件に退城。撤退中に刈谷城主の水野信近を成敗する。この頃、井伊直親の室である奥山ひよが懐妊。永禄三年(1561年)十二月、一説によればひよの父・奥山因幡守朝利が小野但馬守政次に暗殺される。

鷲津砦に突撃した本多忠勝は織田家の武将・山崎多十郎に組み打ちを挑み逆に組み伏せられてしまった。

「儂に挑むなど十年早いわ・・・小童」

「鍋之助・・・」

死を覚悟した忠勝に幼名を叫ぶ養父・本多忠真の声が響く。

忠真は槍を繰り出し甥の窮地を救った。

「叔父上・・・かたじけない」

「油断大敵じゃ・・・しかし・・・戦は大勝利じゃな」

すでに・・・砦は陥落していた。

戦の趨勢を見極めた掛川城主・朝比奈泰朝は先陣の大将である井伊直盛に進言する。

「砦の大将・織田玄蕃允の首級を携えて・・・太守様に戦勝を報告申し上げては如何でござろう」

「では・・・ここはお手前にまかせて・・・一端・・・中軍に戻るといたそう」

「丸根の砦を攻めた三河の小童に遅れをとるわけには参りませぬからな」

丸根砦も陥落し・・・元康率いる三河衆の主力は大高城に向っていた。

井伊直盛は手勢を引き連れ・・・鳴海城に向う今川義元の中軍に合流するべく戦場での移動を開始する。

これが・・・朝比奈泰朝や松平元康と・・・井伊直盛の生死を分けることになる。

戦果を持って行軍する井伊谷衆を織田の忍びが追尾していく。

「あれは・・・遠江の軍勢だがや・・・」

「どこに向っておるのかや」

「兜首を持って・・・本陣に戦勝報告をするのだがや」

「追えば・・・今川の大将にたどり着くと願ってちょうでえ・・・戦も首尾良き頃合いだもんで」

今川方の雑兵に扮した藤吉郎と小六は囁きを交わす。

砦を餌に・・・今川本軍を釣りだす奇襲作戦は・・・勝負を分ける仕上げの段階に入っていた。

戦死した井伊谷衆に変装した二人に・・・気付くものはいなかった。

戦勝により士気があがっているとはいえ・・・砦を攻めた疲労が井伊谷衆に色濃い。

前方には暗雲が立ち込めている。

「一雨・・・来る按配ずら」

誰かが呟いた。

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2017年3月 5日 (日)

メンタルヘルスに問題のあるスーパーウーマン桃子の恋(永野芽郁)

メンヘラはあらゆる迫害を許さない人々にとっては立派な差別用語である。

前提としてメンタル・ヘルス(精神の健康)という言葉があり・・・その維持のために通院が必要な精神が不健康な患者をメンヘラーと呼称した・・・一種の俗語であり・・・新語であると思われる。

キッドは精神や身体に問題のある人に対する言葉を狩る人々とは基本的に相容れない人格も保持しているがそういう狩人に同情的な人格も保持している多重人格者なので「キチガイ」「ツンボ」「メクラ」といった言葉の多用はある程度、抑制するが「メンヘラ」は浸透度から言って抑制するには微妙な言葉であると考える。

精神に問題のある人が・・・「私はメンヘラだから」と自嘲するセリフに削除を要求することは一種の「スティグマ」(否定的なレッテル貼り)の疑いがあるからである。

基本的に言葉を狩る人々には独善的で暴力的な体質を感じます。

一方で法的な問題もある・・・そもそも人殺しを為せるのは基本的に精神に問題がある人だとは思うが・・・精神に問題がある人の保護を前提にすると責任能力の問題が派生する。

言語道断な犯罪の実行者に責任能力の有無を問うのはなかなかに煩わしい問題である。

何も感じない人はスルーすればいいと思うが・・・このドラマは「ドタバタ」の中に・・・「善人とはなにか」という非常に哲学的な主題が見え隠れしている。

この構造によってもたらされる生温かいトーンが心地よい人とそうでない人がこの世にはきっといるのだろう。

犯罪を犯したメンヘラの九割が不起訴処分になるという過去の統計もある。

おそらく、いろいろな意味でもてあますからだろう。

おいおいおい。

で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第8回』(日本テレビ20170304PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。今季の冬ドラマは主人公以外の脇役も含めて・・・様々な「夫婦」が描かれているし、レギュラーレビューにも登場する。大河ドラマ「おんな城主直虎」の主人公は「生涯お一人様」だが主人公の親である井伊直盛夫妻や主人公の初恋の人である井伊直親夫妻が重要なポジションを占めている。「A LIFE~愛しき人~」の主人公は独身だが幼馴染の壇上夫妻と三角関係である。「カルテット」はヒロインが夫と離婚する物語だ。「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣~」はヒロインが赤穂浪士の内縁の妻から将軍の側室になる話。「精霊の守り人II 悲しき破壊神」には出番は少ないが帝と二ノ妃の存在は重要である。「下剋上受験」は中学受験の小学生を支える両親夫婦のラブロマンスである。・・・夫婦も様々なんだな。

多くの夫婦の中で馬鹿な亭主を支え続ける「下剋上受験」の深キョン妻と・・・左江内氏の暴力的なキョンキョン妻は・・・対極の存在のようにも見える。

しかし・・・本質的には・・・どちらも・・・幸せな夫婦にも見えるのだった。

仲良きことは美しいからである。

もちろん・・・夫側から見れば・・・深田恭子や小泉今日子が妻であるのなら・・・何の文句もないのである。

草サッカーチームの試合中に負傷者が発生・・・たまたま近くにいたスーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)は救急車よりも早く病院に負傷者を搬送し無事を知らせるために競技場に戻ってくる。

「実は・・・残りの選手が十人しかいないのです・・・スーパーマンさん・・・出場してくれませんか」

「いや・・・そういうのはちょっと・・・」

「敵チームはライバル企業なんです・・・今・・・こっちが連敗中で・・・今日負けると上司に嫌味を言われます」

「それは・・・ひどい・・・わかりました・・・参加しましょう」

ゴールキーパーが命の危険を感じるスーパーシュートの連続で逆転勝ちである。

おそらく・・・脚本・演出家は・・・映画「少林サッカー」(2001年)が好きなんだと思う。

左江内氏の父・茂雄(平泉成)が八十歳(傘寿)の誕生日を迎えるにあたり・・・妹の真紀子(阿南敦子)と実家でお祝いをしようと約束した左江内氏は栃木の実家への家族旅行を妻の円子(小泉今日子)に提案するのであった。

「え~無理だね」

「そこをなんとか頼むよ」

「君だって・・・まだ係長って言われたくないから盆暮れ正月に実家に帰らなかったじゃない」

「今回は・・・妹と約束しちゃったし」

「ジミーチュウの新作バッグを買ってもらっても無理」

「買うよ」

「・・・仕方ないなあ」

「さすがだね」ともや夫(横山歩)・・・。

「ママの交渉術・・・勉強になるわ」とはね子(島崎遥香)・・・。

左江内氏の実家訪問のための激安コーディネイトに身を固める妻と子供たち。

「なんで・・・こんな安売りダウンなの・・・」

「ギリギリの家計で・・・贅沢しないでやってますをプロデュースよ」

栃木へ向かう車内では・・・左江内氏の母・春子(立石涼子)に対する子供たちの演技指導が行われるのだった。

「もや夫はママの作る料理で何が一番好きなんだいとばあばに聞かれたら?」

「どの料理も皆美味しいけれど・・・ラザニアです」

「よし・・・」

「ラザニアなんて家で作ったことないだろう・・・カレーとかじゃダメなのか」

「材料が揃わないことが大切なのよ・・・私が作ることになったら困るだろうが」

「ママのカレー激不味だものね」

「カレーを不味く作れるなんてある意味・・・天才だよな」

「それが・・・私を料理恐怖症にしたのです」

「次・・・いつもどんな朝ごはんを食べているんだい」

「毎朝・・・お味噌汁の匂いで目が覚めると・・・お母さんが大根を切る音が家中に鳴り響いて・・・」

「旅館の朝食」

「旅館の朝食のような朝ごはんがいつも食卓で僕を待っています」

「・・・」

栃木の左江内氏・・・左江内氏の母は笑顔で息子一家を迎える。

「今日はご馳走しますからね」

「いえ・・・お母様・・・私が」

「いつもママのごはんだから・・・今日はばあばのごはんが食べたいな」ともや夫。

「では・・・せめてお手伝いを」

「だめだめ・・・私がするから・・・ママは今日くらいのんびりしてよ」とはね子。

よく躾けられた子供たちだった。

誕生会が始ると・・・助けを求める声が聞こえる左江内氏だった。

金庫破りが大金を奪って逃走中なのである。

犯人の車を追跡する左江内氏。

前方に立ちふさがる人影が手で車を制するのだった。

「え」

逃げ出した犯人を弾丸よりも早く追いかける人影。

「ええっ」

犯人を捕まえた人影は片手で犯人を振りまわす。

「えええ」

左江内氏は声を人影に声をかけた。

「君は・・・スーパーマン・・・いや・・・スーパーウーマンなのか」

「あれま・・・あんたもかい」

スーパーウーマン桃子(永野芽郁)と出会う左江内氏なのである。

「僕以外にもいたとは・・・」

「私も・・・私だけだと思ってた」

「君は・・・どうやってスーパーマンに・・・」

「おばあちゃんが急にやってきて・・・年とって按配よくねえから・・・替わってくれって」

「・・・一緒だ」

「私・・・普通のOLなんで結構大変なんです」

「私もサラリーマンだ・・・トイレが長いって文句ばかり言われている」

「私も便秘だと思われています」

「・・・お互い辛いよね」

「でも・・・なんだか・・・ホッとしました・・・私だけじゃないんだなって・・・なんなら正義の味方同志で結婚しますか」

唐突な申し出に・・・逡巡する左江内氏だった。

しかし・・・酒に溺れていない左江内氏は浮気沙汰とは無縁なのである。

「妻子がいるんで」

「そうですか・・・そりゃ・・・そうですよね」

「じゃあ・・・またね」

飛び去って行く左江内氏の姿を・・・微妙な表情で見送る桃子である。

胸のマークは(モ)で・・・苗字の頭一文字の法則によれば・・・モーガン・桃子なのかもしれない。

桃子のモなんだろう・・・。

翌日は栃木県内の動物園「那須ワールドモンキーパーク」で家族サービスをする左江内氏。

「栃木県・・・ろくなところがないな」

「象が乗れる動物園は日本に五か所しかないんだぞ」

もや夫とはね子はゾウに餌をやってそれなりに楽しそうである。

「寒いんだよ・・・ゾウも灼熱のインドに帰りたがってるだろう」

「ここのゾウはラオスから来たんだ」

「サルだって・・・揃えればいいってもんじゃないだろう」

「ウーリーモンキー、シロクロエリマキキツネザル、コモンリスザル、オマキザル、ダスキーティティ、アビシニアコロブス、ブラッザグェノン、サバンナモンキーなど多種多様です」

「お・・・青い金玉の猿もいるのかよっ」

「います」

しかし・・・「声」に呼び出される左江内氏。

「しまった・・・車にサイフを忘れてきた」

「食事出来ないだろう」

「すぐにとってくるから・・・」

ビルの屋上で自殺しようとする桃子を発見する左江内氏だった。

「君は・・・」

「あ・・・左江内さん・・・」

「そうか・・・私の自殺しようとする気持ちが聞こえたんですね」

「なぜ・・・自殺なんか」

「左江内さんがサラリーマンなのに頑張っているのに・・・いやいややってる私がほとほと嫌になったというか・・・色々考えているうちに・・・自分なんか死んだ方がマシだと思えて・・・」

「え・・・なんだか・・・よくわからない」

「私・・・メンヘラなんです」

「メンヘラって・・・もんじゃに使うメンズヘラみたいな」

「知らないなら・・・いいです」

「私はもんじゃが大好きなんだ」

「自殺の話をしているのにもんじゃの話はちょっと・・・」

「私も・・・責任を負うのは嫌いなんです」

「よく・・・結婚できましたね」

「たまたま・・・好きになった人が・・・すごく強い人で・・・結婚するしかなくて・・・子供もできて・・・責任を負っているのかどうかもわからなくなって・・・いやいやでもやってるうちに慣れてしまって・・・責任が責任と感じられなくなって・・・桃子ちゃんもきっと・・・そのうち・・・責任を負ってない感じになりますよ」

「本当はヒーローとしての使命を自覚すべきなんでしょうけどね」

「使命か・・・責任より華々しい感じですね」

「左江内さんが栃木にいる間は自殺できませんね」

「もう・・・やめてくださいね」

「はい・・・なんだか・・・気持ちが楽になりました」

ラオス語で「満足」を意味する「ポーチャイ」というレストランで左江内氏を待ちかまえる円子。

「遅かったじゃない」

メニューには「ナシミーゴレン」もあるが子供たちはタイラーメンを食べている。

「真紀子さんにお金借りちゃったのよ」

「なかなかサイフがみつからなくて」

「罰ゲームだからね」

みそ田楽を用意している円子。

左江内氏はこんにゃくが苦手なのだった。

「え・・・お兄ちゃん・・・こんにゃく食べられるようになったの」

「最近、大好物になったんですよ」

嫌なものを無理矢理食べさせる調教プレーなのである。

実家に戻った円子に囁く春子。

「こんにゃくを食べるようになったんですってね」

「はい」

「優しいだけが取り柄のあの子だけど・・・もっと厳しく躾けてくださいね」

「はい」

春子の言葉に・・・亭主関白を装う茂雄の実態が窺われるのである。

真紀子の夫や・・・円子には見せない・・・左江内氏の実家の秘密が垣間見えるのだ。

再び・・・呼び出しのかかる左江内氏。

「ちょっと子供たちのドリンクを買ってくる・・・」

透視でアパートの一室を見た左江内氏は練炭自殺者を発見する。

またもや・・・桃子だった。

しかし・・・窓やドアは隙間だらけで・・・自殺に真剣さが感じられないのだった。

「また、死ねなかった」

「死ねるわけないだろう・・・君のしたことは部屋を暖めただけだ」

「まあまあ」

「なんで・・・そんなに死にたいの」

「左江内さんに優しくされて・・・幸せなまま逝きたくなって・・・」

「おいおい・・・」

「でも・・・私とか・・・左江内さんみたいに・・・本業があるのに・・・正義の味方をしているのは・・・凄いのかもしれないと思えてきて」

「そりゃそうだよ」

「バットマンなんて金持ちの道楽だし・・・スパイダーマンは学生だし・・・平成仮面ライダーなんてみんな遊び人みたいなもんだし」

「そうなんだ・・・」

「僕が東京に帰ったら・・・自殺するの」

「しないです・・・二回も自殺を止めてもらえて満足しました」

「・・・」

実家で痛飲した左江内氏は・・・帰りの車で爆睡するのだった。

「パパが家では亭主関白だとか・・・もや夫も嘘が上手になったわね」

「あざあす(ありがとうございます)・・・お姉ちゃんもパパがメシフロネルしか言わないかとかさすがだよね」

「どちらにしろ・・・こいつ・・・家に帰ったらヤキを入れないと」

左江内氏は寝ぼけて「円子・・・愛している」と叫ぶ。

円子は微笑んでアブドーラ・ザ・ブッチャーの必殺技「地獄突き」(四本貫手)で左江内氏を沈黙させるのだった。

こうしてもや夫は夫としての基本姿勢、はね子は妻としての家庭円満技術を会得していくのである。

まさに理想の家族なのだな。

フジコ建設営業3課のターン。

簑島課長(高橋克実)が「社内運動会・・・3課が仕切ることになりそうになんだよ」

「基本・・・持ち回りなのに・・・去年も3課だったじゃないですか」と下山えり(富山えり子)・・・。

「順番では2課でしょう」と池杉照士(賀来賢人)・・・。

「でも・・・大事なプレゼンがあるらしくて」

「うちはなし」と蒲田みちる(早見あかり)・・・。

「やりましょう・・・揉めるのは面倒ですから」

「左江内くん・・・」

「左江内というより・・・もはや仕方ない係長ですね」と池杉。

「去年の資料出して」

「はい」と仕方なく動き出す一同である。

こうして世界は回って行くのだ。

隠密社内交際中の池杉と蒲田のターン。

隠れ蓑として使われる左江内氏だが・・・簡単には離脱しない。

「この店は・・・焼き鳥が美味しいんだ」

居酒屋店員として登場する米倉(佐藤二朗)のコーナーに突入。

「とりあえず生で」

「生はありません・・・瓶で」

「じゃ・・・瓶で」

「喜んで」

「それから焼き鳥ね」

「焼き鳥はありません」

「じゃ・・・焼きとんで」

「焼きとんもありません・・・おでんならあります」

「じゃ・・・おでんで」

「よろこんで」

「後は・・・かきなべ」

「かきはありません・・・おでんなら」

「じゃ・・・おでんで」

「よろこんで」

「よろこぶな・・・」

「おでんしか頼んでいません」

「本当に仕方ないさんだなあ」

「もう・・・この店出ましょう」

かわいい帽子の謎の老人(笹野高史)のターンである。

「最近・・・馴染んできてるね」

「御蔭様で・・・それにしても他にもスーパーマンがいたとは」

「だって・・・君一人で日本全土は無理だろう・・・」

「ですね」

「外国にもいるしね」

「そうなんですか・・・じゃあ・・・僕は東京担当なのかな」

「まあ・・・そんなに厳密じゃあないけれどね」

その時・・・お呼びがかかるのだった。

建築中の高層ビルの巨大クレーンが倒れかかるのである。

左江内氏が支えるがクレーンの重量と力が拮抗し・・・空中で身動きが出来なくなるのであった。

そこに通りかかる小池警部(ムロツヨシ)と制服警官の刈野(中村倫也)・・・。

「おい・・・凄いことになってるぞ」

「大変だ・・・どうしましょう」

「これはきっと・・・映画の撮影だな」

「道路使用許可・・・出てません」

「じゃあ・・・大惨事だ・・・野次馬を避難させろ」

「みんな・・・危ないから・・・逃げて」

左江内氏も限界を感じ・・・巨大構築物の落下が開始する。

「ああ・・・もうだめだ」

そこへ・・・桃子が到着する。

「元気にしているか・・・心配だと思って」

「いや・・・全然心配してなかったよ」

「クソだな・・・とにかく・・・どこかの空き地にコレを降ろしちゃいましょう」

「そうだね・・・助かったよ」

忘却光線発動である。

「あ・・・」

「どうやったんですか」

「俺はね・・・ポッターと同じクラスだったから」

「え・・・ホグワーツ出身なんですか」

「え・・・ああ・・・ホグね」

「ロンとかハーマイオニーも一緒に・・・」

「え・・・ああ・・・ロンハーね」

無意識で嘘をつく小池刑事はハリー・ポッターシリーズもうろ覚えなのである。

「どうやったんですか」

局も曜日も越えて「勇者ヨシヒコ」シリーズのメレブが憑依する小池刑事。

例の効果音もやってくる。

「この呪文を唱えれば目の前のものが全てなくなる・・・私はこの呪文を・・・ナクナ~ル・・・名付けたよ」

「金曜深夜のやつだ~!」

思わずヨシヒコが憑依する刈野・・・。

「私にもかけてください」

「よし・・・勇者ヨシヒコと悪霊の鍵で覚えた呪文・・・シャクレナ・・・」

「ああ・・・顔がアントニオ猪木のようにしゃくれていく・・・」

一部愛好家は涙目である。

空き地にある土管に腰掛ける左江内氏と桃子。

「スーパーマンを仕方なくやっている左江内さん・・・かっこいいです」

「そうかな・・・」

「私も・・・そうしようと思っていたら・・・彼氏ができました」

「え」

メンヘラなのである程度、脈絡がないのである。

「好きな人がいても仕方ないって思って・・・冷たくしたら・・・告白されました」

「そうなんだ・・・じゃあ・・・もう自殺なんかしないね」

「するわけないじゃないですか」

背中を押されて土管からずり落ちる左江内氏だった。

漂う郷愁である。

いつもの朝・・・。

「洗濯してよ~」

「着るものないよ~」

「今日は・・・運動会の準備が・・・ママに頼みなさい」

「寒いから無理~」

「じゃあ・・・はね子・・・」

「洗剤の量とかわかんないし」

「じゃあ・・・もや夫」

「全自動洗濯機じゃないと」

「全自動洗濯機はダメよ・・・セーター縮むから」

「・・・」

日常は仕方なく続いて行く。

それを人は幸福と呼ぶのである。

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2017年3月 4日 (土)

朝に伸び悩み昼に継続し夜に紙一重を越える(深田恭子)

以前も書いたかもしれないが・・・「紙一重」について昔、剣の師に教えられた解釈を述べておきたい。

「紙一重」の意味を知るものとそうでないものとではドラマの解釈が些少違ってくるのではないかと思う。

「紙一重」というとほんのわずかの差というニュアンスがあり・・・「危機一髪」的な感じもするわけだが・・・紙の表と裏では大違いというのが前提である。

たとえば空のコップに一滴ずつ水を注ぐ。

コップが水で満ちるまでには相当な時間が経過する。

しかし・・・必ずコップから水をあふれさせる一滴があるわけである。

紙一重はこの一滴の差を示す言葉なのである。

剣の道は厳しく・・・修練の成果には個人差がある。

心技体というが・・・身体が成長し、力が増せばコントロールはより難しくなる。

最も優れた運動を行うために反復練習は欠かせない修練である。

だからといって・・・突然・・・技術は上達するわけではない。

ある領域に達するまで・・・まったく進歩がないと感じることも多い。

だが・・・それはある日、突然やってくる。

想像を越えた「紙一重」の境地が訪れるのである。

偏差値40から偏差値60にジャンプすることはつまり・・・そこに40~59という「紙一重」があったということである。

で、『克上受験・第8回』(TBSテレビ20170303PM10~)原作・桜井信一、脚本・両沢和幸、演出・吉田秋生を見た。カレンダーで言えばひな祭りの夜に・・・女子小学生の物凄い苦闘が描かれるけである。そしてそれはお茶の間の大多数を占める偏差値40~59の人に喧嘩を売っているのも同然なのだった。格差社会という社会の普遍的な状況に一石を投じているわけである。そして・・・その石には「学問のススメ」が刻まれているのだった。「社会に出たら学問なんて役に立たない」という「嘘」をその石は木っ端微塵に打ち砕くのである。

救急車で緊急搬送され江戸中央総合病院に入院した桜井信一(阿部サダヲ)・・・。

「検査入院してください」

「とんでもない・・・そんな時間はありません・・・痛みもなくなったし」

「それは痛みどめが効いているからです」

医師と押し問答しているところに妻の香夏子(深田恭子)が到着する。

「主人はどうなんでしょう」

「ですから・・・検査をですね」

そこに全国模試の結果を持った娘の佳織(山田美紅羽)が到着する。

信一が救急車の中で・・・徳川直康(要潤)に手を握られて励まされている頃・・・二人の娘である佳織と徳川麻里亜(篠川桃音)は試験結果の書類を受け取っていた。

佳織はこれまでの模試で最低の「偏差値40」という結果に強烈なショックを受けていた。

「私・・・あがったよ・・・見せてあげる」

麻里亜の「偏差値70」に打ちのめされる佳織。

「麻里亜ちゃん・・・すごい」

「桜葉学園が見えてきた・・・私のお母さんも桜葉学園だったんだ・・・私が合格したら・・・お母さん・・・入学式に来てくれると思うの」

「・・・」

「佳織ちゃんのも見せて」

「ごめん・・・見せられない」

「え・・・」

佳織はその場にライバルを置いて逃走したのだった。

佳織の偏差値は42がスタートラインである・・・半年間・・・勉強しまくって・・・50を越えたこともあったのに・・・最初よりさがるって・・・「どういうこと?」とパニック寸前の佳織だった。

そんな佳織に・・・容赦なく迫る家庭教師で父親の信一。

「模試の結果・・・どうだった?」

「・・・」

「偏差値40・・・って」

佳織と同じように・・・ショックを受ける信一。

「どういうことなんだ?」とパニック寸前の信一だった。

結局・・・信一は検査入院することになり・・・母娘は帰宅する。

偏差値40ショックでご飯も喉を通らない佳織だった。

「もう食べないの?」

「勉強の続きをしなくちゃ・・・」

「俺塾」に入室した佳織は・・・父の不在にさらに不安を感じる。

心の支えの「麻里亜のペン」も・・・ライバルの前から逃げ出したことを思い出させるばかりなのである。

信一の中卒仲間たち・・・松尾(若旦那)、竹井(皆川猿時)、梅本(岡田浩暉)、そして杉山(川村陽介)は「俺塾」の教材を病室に搬入する。

香夏子は信一の身を案じる。

「そんなことして・・・また倒れたらどうするの」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ・・・俺にはわかるんだ・・・今・・・佳織は物凄く凹んでいるだよ・・・」

「え」

「だから・・・俺は死ぬ気で頑張らないといけないんだ」

「死ぬって・・・」

「それは間違っています」と楢崎哲也(風間俊介)が言う。「佳織ちゃんが中学受験に成功したからって・・・お父さんが死んだらダメでしょう」

「親はな・・・子供より先に死ぬんだよ・・・問題は俺が死んだ後で・・・娘がどう生きるかなんだ」

「いや・・・せめて成人までは見守らないと親の務めを果たしたことにならないでしょう」

「違う・・・今・・・佳織が受験を諦めたら・・・俺は死んでも死にきれない」

「・・・」

佳織の学力が向上していることは間違いないのだが・・・。

小山みどり先生(小芝風花)の授業中に苦悩する佳織に気がつく。

「桜井さん・・・この問題をやってみて・・・」

佳織はスラスラと解答する。

河瀬リナ(丁田凛美)は「佳織、すごいじゃん」と賞賛する。

「え・・・何が」

「だって、今の算数の問題、サラサラーって解いちゃってさ」

「来年は絶対に有名中学だね」と遠山アユミ(吉岡千波)も憧れの眼差しを注ぐのだった。

しかし・・・今の佳織にはわかっているのだ。

(この程度じゃ・・・有名中学なんて・・・無理だ)ということを。

「ごめんね」

いたたまれずに下校する佳織だった。

そんな佳織を見守る小山みどり先生・・・。

小学校の担任教師に出来ることはそれだけなのである。

受験組だった小山みどり先生にはわかっている・・・佳織が苦境にあることを。

しかし・・・手をさしのべることはできないのだった。

中学受験は家庭の問題なのだ。

佳織を救えるのは家族だけなのである。

佳織は信一の病室にやってきた。

「佳織・・・」

「お父さん・・・どうしてるかと思って・・・」

「今・・・佳織の模試の答案をチェックしていたんだ」

「え」

「お父さん・・・気がついたことがある・・・佳織は考え方は間違っていない・・・だけど・・・ミスが多すぎる」

「・・・」

「佳織は・・・考え方は間違ってないから・・・惜しいって思うだろう」

「うん」

「でもな・・・正解じゃなかったら・・・何もわかっていないのと同じなんだ」

「これから・・・ミスをしないように気をつける」

「お父さん・・・佳織がそう言うの・・・何度も聞いたぞ」

「・・・」

「たとえば・・・お医者さんがさ・・・手術に失敗して患者が死んじゃって・・・ミスしちゃいました・・・これから気をつけますって言ったら・・・どう思う」

「そんなの・・・困る」

「だから・・・絶対にミスしないように・・・努力した人しか・・・お医者さんのような立派な仕事にはつけないんだ」

「・・・」

そこに・・・看護師がやってくる。

「検査の時間ですよ」

「検査って・・・」

「胃カメラを飲んでもらうのよ」

「え・・・カメラを飲むの」

「心配するな・・・凄く小さいカメラだから・・・」と信一。

「ミスは・・・」

「大丈夫ですよ・・・ミスはしません」と看護師。

「・・・」

病院の廊下で塞ぎこむ佳織を発見する香夏子である。

「どうしたの」

「お父さん・・・カメラ飲むんだって・・・大丈夫かな」

「怖くなっちゃったの?」

「もしこのまま成績が上がらなかったらどうしよう」

「そっち・・・」

「中学も受からないかもしれない」

「その時はしょうがないじゃん」

「佳織・・・幸せになれるのかな」

「お母さんはどう?・・・不幸に見える?」

「ううん・・・いつも楽しそうだし」

「いつも楽しいもの・・・お母さんは大好きな佳織と大好きなお父さんといつも一緒にいられて・・・凄く幸せ・・・・大好きな人を見つけるテストがあったら・・・お母さん、絶対一番とれるよ」

「佳織も一番になれるかな?」

「なれるよ・・・私と信ちゃんの子供だもん」

・・・天使である。

信一の退院の日がやってきた。

舅の一夫(小林薫)も病院にやってくる。

「これから・・・居酒屋ちゅうぼうでお前の退院祝いをやるそうだ」

「無理だよ・・・俺は胃潰瘍なんだぜ・・・」

「じゃ・・・香夏子さんだけでも」

「誰の退院祝いなんだよ」

「胃潰瘍って・・・何?」

「根性が足りないから胃に穴があいちゃったんだ」

「根性の問題じゃないだろう・・・それに穴が開くのは胃穿孔だよ」

「穴があいたら食べたものがお腹からこぼれちゃうの?」

「ほら・・・スボンの裾からボロボロと」

「こわい話はやめて!」

しかし・・・桜井一家の恐怖は帰宅後に待っていた。

家賃を滞納していた信一に大家の田畑(村松利史)が無断で玄関の鍵を付け替えるという強行手段を行使したのである。

家に入れないという緊急事態である。

仕方なく大家の残した手紙を手に居酒屋「ちゅうぼう」に向う桜井一家。

中卒の人々は「督促(とくそく)」が読めないのだった。

「家賃を滞納していたんだろう・・・じゃ・・・さいそくじゃねえのか」

「惜しい・・・それは催促」

「督促状が来ていたのはわかっていたけど・・・ほら・・・教材とかなんやかんやで金が足りなくてさ・・・」

いろいろと限界に来ている桜井家なのである。

一夫は問答無用で大家の手紙を破り捨てる。

「要するに金を払えばいいんだろう」

「その金がないんだよ」

「安心しろ・・・香夏子さんには言ってあるが・・・俺が家を売る」

「え・・・」

そこに楢崎が到着。

「ちょうどいいところに来たな・・・家は高く売れそうか」

「それが・・・」

「急ぎの話だ・・・値段のことは・・・ある程度・・・相談に乗るぜ」

「あの物件を売るのは難しいかと・・・なにしろ・・・市街化調整区域なんです」

「なんだって・・・」

「なんだい・・・それは」

建築関係で揃っている登場人物たち・・・。

昔気質の大工である一夫は・・・ピンと来ないが・・・元・スマイベスト不動産勤務の信一にはなんとなくわかる。

それが中卒の限界なのである。

「つまり・・・建物の新築ができない物件なのです」

「え」

「おそらく・・・購入時にも格安だったと思いますけど・・・」

「・・・」

「つまり・・・建てちゃいけない土地に建物を建てちゃってたのか・・・」

「お目こぼしされてたのかよ」

脱力する一同だった。

とりあえず・・・売却の難しい一夫の家に宿泊する桜井一家である。

「親父・・・」

縁側で手酌をする一夫だった。

「俺は情けない・・・かわいい孫のために金も作ってやれないとは」

「そんなことないよ・・・親父の家がなければ・・・俺たちは野宿するしかなかったよ・・・本当に情けないのは俺だ」

「お前も情けない・・・しかし・・・親子だから仕方がねえ・・・」

翌朝・・・香夏子は出勤する。

「グルニエ(納戸)なんて・・・生煮えみたいで・・・野菜がお鍋でグルグルまわってるみたい」などとユーモアあふれる人柄で稲森夫人(青山知可子)を魅了し・・・契約がとれそうなのである。

佳織は登校する。

「でも・・・教科書が・・・」

「事情を話して・・・先生に借りなさい」

一夫は憐れな息子一家の姿を物影が窺う・・・。

信一はとりあえず・・・大家との交渉に向う。

しかし・・・大家はとりあわないのだった。

「忙しいんだ・・・とにかくお金がなければ話にならない」

居酒屋「ちゅうぼう」では中卒仲間たちがお金を出し合うが小銭ばかりで一万円にもならないのだった。

切羽詰まった信一は「トクガワ開発」の社長である直康を訪ねる。

「桜井さん・・・御無事でしたか」

「桜井さんは・・・やめてくれよ」

「桜井・・・」

「徳川・・・実は頼みたいことがあるんだ」

「なんでしょう・・・」

金の無心だとは言い出せない信一なのだった。

「・・・そういえば麻里亜ちゃん・・・模試の結果どうだった」

「御蔭様で・・・偏差値70になりました」

「さすがだね・・・遺伝だよな・・・そういや、この間・・・おかしなこと言ってたよな」

「妻に言われたのです・・・この子は私の子供ではないと・・・」

「奥さんが・・・」

「私は仕事にかまけて・・・家庭を放置していました・・・その結果・・・妻は育児ノイローゼになってしまったのです・・・麻里亜が私の子供ではない・・・と言うよりも・・・私が麻里亜の父親ではない・・・と言うことなのでしょう」

「いいや・・・徳川は立派な父親だよ・・・いい食事をさせて・・・いい服を着せて・・・いい家に住まわせて・・・立派な教育も与えている・・・それにくらべて俺なんか・・・家から追い出される始末だ」

「なんですって・・・」

「いや・・・家賃を滞納してさ・・・入院している間に・・・大家に鍵を付け替えられちゃって・・・家にも入れない状態なんだ」

「それは違法ですね」

「わかってるけどさ・・・金が」

「いいえ・・・大家さんが違法なことをしているのです・・・よろしければうちの顧問弁護士に話をさせましょう」

「え・・・」

中卒が泣き寝入りするところを東大卒の人々はしないのだ。

ただちに・・・顧問弁護士が出動するのだった。

「鍵を持ってきていただけましたか」

「はい・・・」

「電話で申し上げた通り・・・契約解除のためには訴訟をしていただき・・・裁判で判決が出た後にしかるべき執行手続きを経て行われるもので・・・自力執行は違法です」

「はい・・・」

「しかるに・・・桜井一家は住居に入室できないという不利益を被っており賠償請求も可能です」

「どうか穏便に・・・」

「家賃については支払う意志があるということでどうかしばらくの猶予をいただけないでしょうか」

「頭をおあげください・・・先生のような方に頭を下げられては否も応もございません」

「では・・・鍵をお渡しくださいますか」

「もちろんでございます・・・」

一件落着である。

中卒夫婦と小学生の頭上では激しい高学歴の空中戦が展開されるのだった。

我が家に戻り・・・香夏子と佳織の寝顔を見つめる信一の胸に安堵と口惜しさが去来するのだった。

(徳川がうらやましい・・・愛は金で買えないと言うが・・・愛を金で表現することはできる・・・電話一本で・・・他人の家を取り戻すことができる・・・それに比べて・・・俺の愛は三足千円の靴下みたいな・・・)

結局・・・すべては・・・自分が中卒であることに起因すると考える信一。

それを愚かというものは・・・中卒ではない場合が多いのである。

しかし・・・佳織もまた・・・偏差値40のショックを抜けだせない。

大森健太郎(藤村真優)はそれを察し・・・囁く。

「この間・・・俺も最低点だったよ」

小学六年生男子・・・精一杯の愛である。

香夏子はついに契約を獲得する。

その喜びを一夫に報告に行った香夏子は首吊寸前の舅を発見するのだった。

一夫は一命を取り留めるが左足を骨折してしまった。

一夫の病室に駆けつける信一。

「何やってんだよ・・・」

「俺が死ねば生命保険で五千万円入る」

「そんな金もらえるかよ・・・」

「俺はな・・・夢を見たんだ・・・俺たちの前に高い壁があってよ・・・はしごはあるけど・・・壁の天辺までは届かない。俺と香夏子さんがはしごを支えて・・・お前が途中までは佳織を背負ってはしごを昇る・・・最後は佳織が自力で壁をこえなきゃなんねえ・・・そうやってなんとか佳織一人だけは壁の向こうに行ける・・・そういう大変な仕事だ・・・お前だって佳織のために死んだって構わねえって言ってたじゃねえか・・・中卒の親の子供が中学受験をするなんて・・・そんだけの覚悟がいるってことだ・・・俺もな・・・佳織の役にたちてえんだ・・・親が子より先に死ぬのは当たり前のことなんだろう・・・俺がいなくなりゃ・・・年寄りの面倒を見る手間省けて一石二鳥じゃないか」

「いなくなるって・・・どういうこと」とやってきた佳織が問う。

「いや・・・俺もそろそろ・・・雲の上から・・・佳織のことを眺めるってことさ」

「それは無理よ・・・雲は大気中の水滴、もしくは氷の粒だもの・・・マンガみたいに雲の上に立ったりできないよ」

「佳織・・・勉強したんだなあ・・・」

「佳織・・・中学受験やめる・・・だってみんな私のせいなんでしょう・・・お父さんのお腹に穴があいたり・・・おじいちゃんがいなくなるって言ったり・・・」

「いや・・・違うんだ」

「中学受験しなくても・・・幸せになれるって・・・お母さん、言ったじゃん」

「それは・・・そういう意味じゃなくて」

佳織は病室を飛び出した。

香夏子が追いかけて佳織を抱きしめる。

泣きじゃくる佳織。

「わかった・・・もういいよ・・・中学受験・・・やめていい」

しかし・・・信一は佳織が中学受験をあきらめることに同意しない。

「俺は・・・納得できないよ」

「信ちゃん・・・もう無理だよ」

「佳織・・・お前は逃げたいだけだろう・・・俺の病気や・・・親父の怪我のことは言いわけなんだろう。お前は偏差値40をとって・・・ずっと勉強してきたことが無駄になるんじゃないかって・・・こわくなったんだろう。わかるよ・・・俺だってこわいもの。だってお前と一緒に鶴亀算や旅人算・・・昔はやったことのなかった勉強をお父さんはずっとしてきたんだから・・・それが全部無駄だったと思うと・・・怖くて怖くて嫌になるよ・・・あんなに勉強したのに・・・一生懸命勉強して・・・それが全部無駄なのかって」

「やめて・・・これ以上・・・佳織を追い詰めないで」

母親として・・・凶暴な父親を武力で排除することも辞さない香夏子。

病院の廊下で絶叫する信一を・・・警備員が取り押さえる。

年上の女教師に恋をした男子高校生が絶叫告白するアニメのような馬鹿馬鹿しさである。

しかし・・・ここで流れるのは色恋沙汰ではなく・・・格差是正の階級闘争を背景とした親子愛なのである。

「後で絶対に後悔するぞ・・・すべてが無駄になるんだ・・・麻里亜ちゃんは・・・偏差値70だったんだぞ・・・口惜しくないのか・・・佳織のよわむし・・・」

佳織の中で掛金が外れる音がする。

優しさや・・・甘さに覆われた「闘争心」に火がついたのである。

誰にも負けたくない気持ちが佳織の中で燃えあがる。

佳織は父親に向って突進した。

「佳織は弱虫じゃないもん」

佳織は父親にパンチを繰り出した。

信一は娘を抱きしめた。

「わかってるさ・・・佳織はお父さんの子供だ」

佳織を呪縛していた両親揃って中卒の縄は切れた。

父親や母親の屍を越えて行く決意が佳織の中に生れたのである。

次の模試で・・・佳織の偏差値は60に達した。

佳織の精神に自分のミスを断固として許さない執念が形成されたのである。

佳織にとって中学受験はもはや遊びではないのである。

生死を賭けたチャレンジなのだ・・・。

そうなのか・・・。

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2017年3月 3日 (金)

愚帝に死を賜りて民を思い船上より身投げするプリンス一人(中村映里子)

さて・・・気がつけば三月である。

精霊(ナユグ)の世界でも春が近いが・・・この世の春のお彼岸も近い。

予定ではレギュラーレビューの終了とともに本格的な谷間に突入することになっている。

つまり・・・「忠臣蔵の恋」が終わった後は木曜日は谷間にする予定だ。

しかし・・・今朝の「べっぴんさん」のあまりの素晴らしさに・・・来週の木曜日は「べっぴんさん」をレビューするかもしれない。

大傑作だったよね・・・。

今季はどのドラマも再現率が高まりまくり・・・かなりの危険水域に達している。

問題は・・・大河ドラマを四月からどうするかである。

唯一・・・再現率ほとんどなしの妄想レビューなので・・・続く可能性はあるが・・・まあ・・・ある意味、なくなっても困らないとも言える。

さらに言えば・・・このドラマの場合・・・シーズン3があるわけである。

しかし・・・いろいろと微妙なところがあるので・・・まあ・・・コンプリートしなくてもいいかなあ・・・とは思います。

で、『精霊の守り人II 悲しき破壊神・第6回』(NHK総合20170225PM9~)原作・上橋菜穂子、脚本・大森寿美男、演出・中島由貴を見た。基本的におばちゃまの妄想世界である。もちろん・・・本当のおばちゃまでなくてもおばちゃまの魂を潜ませたおばちゃま的な感性の人は多い。おばちゃまの原作をおっさんが脚色していて・・・どことなく不具合な感じが漂うこのシリーズであるが・・・今回は下衆の思うところのおばちゃま感覚が激しく牙を剥いた感じが濃厚だったな。とにかく・・・おばちゃまは基本的に色白のグラマー美人をそれほど賛美しない。そのためにこのドラマでは・・・基本的に美人・美少女キャラは濃い目のドーランでハダツヤを煤けた感じに仕上げられてしまう。唯一の例外は二ノ妃(木村文乃)であるが・・・これは「スターウォーズ」の第二期のナタリー・ポートマンのように珍妙な衣装を着せることによってセクシーさを解消させられている。この世界でありのままで好ましいキャラは太ったおばちゃまだけなのである。マーサとか女漁師とかね。そして・・・少し淫靡な感じのおばちゃまは眉毛を消されて不気味に化粧させられるのが宿命である。そして・・・ねっとりした男たちの妖しい視線や・・・鍛え上げられた肉体の緊縛が最優先なのである。

・・・もういいか。

北の大陸の先住民ヤクーの呪術師トロガイ(高島礼子)は炎通信で得たシュガ(林遣都)の情報からチャグム(板垣瑞生)の近況をバルサ(綾瀬はるか)に伝える。

「チャグムは皇太子の死を願う帝によって敗色に塗られた戦場に送り出されタルシュ帝国の虜囚となった」

「あらすじをありがとう」

「バルサ・・・どうするつもりだ」

「タンダ・・・私にできることはない・・・裸祭りに参加できなくて残念だったな」

「別に構わないよ」とタンダ(東出昌大) は唇を尖らせる。

「守りしものには・・・それぞれの役割がある」とトロガイは思わせぶりに告げる。

「・・・」

精霊を守ったチャグムをバルサが守る・・・この世界は守備の世界なのである。

そして・・・守ることがこの世の正義なのだ。

だから・・・この世界では自分を守ることは・・・それほど悪ではないのである。

逆に自己保身を糾弾することには悪の香が漂うのだ。

タルハマヤ(精霊)を宿したアスラ(鈴木梨央)をタル(被差別民)のイアヌ(玄理)とカシャル(猟犬)のシハナ(真木よう子) に奪われたバルサは愉快な仲間たちとともに・・・約束の日である建国ノ儀を待って・・・潜伏を余儀なくされる。

虜囚となったチャグムをタルシュ帝国の兵士が護送するために現れる。

「これからチャグム殿下を・・・帝都にご案内する」とタルシュ帝国の密偵ヒュウゴ(鈴木亮平)が告げる。

「私が御一緒できるのはここまでよ」と海賊船長のセナ(織田梨沙)・・・。

「そなたと過ごした日々は・・・忘れぬ」と下心めいた好意を示すチャグムであった。

「殿下・・・私は帝都まで御一緒します」とヒュウゴ。

「かたじけない」

「これだけは・・・お忘れなきように・・・私は殿下と同じヨゴの民・・・」

「・・・」

「しかし・・・殿下の臣下ではございません」

この後・・・チャグムは乗馬で帝都に向うが・・・設計上のミスがある。

タルシュ帝国の第二王子・ラウル(高良健吾) の王城で壮大な帝都の全貌を見て威圧されるチャグムは・・・王城に着くまでに・・・どこまでも続く街路を進んだはずである。

それは・・・日本にきた外国人が成田から東京に着くまでに・・・どこまでも続く都市に圧倒される感覚をすでにチャグムにもたらしたことは明らかである。

だから・・・チャグムは密閉された護送車で帝都に侵入するべきだった。

護送車から降りたチャグムの前に姿を見せるタルシュ帝国の宰相・クールズ(小市慢太郎) は恭しく挨拶をする。

「遠路はるばる・・・殿下が帝都にお越しくだされたこと・・・御礼申し上げます」

「・・・」

「明日・・・殿下にはラウル王子殿下に御目通りが叶います」

「ラウル王子・・・タルシュの皇帝陛下ではないのか」

「新ヨゴ国についてはラウル王子が全権を委任されております」

「・・・つまり方面司令官ということか」

「いかにもさよう・・・今宵は旅の疲れを癒してくださりますように」

チャグムは王城のゲスト・ルームに案内される。

そこには繻を纏った侍女(中村映里子)が控えていた。

「このものが殿下のお世話をいたします・・・いかなる申しつけにも応じますのでおくつろぎください」

クールズは去った。

「お食事になさいますか・・・それともご入浴・・・何でもお申し付けくださいませ」

「童貞なので夜のサービスはいらぬ」

「さようでございますか・・・私は殿下の望みをすべて叶えるように申しつけられております」

「しかし・・・童貞なので」

「たとえば・・・殿下がこの城を脱出したいとお望みなら・・・手引きもいたしますよ」

「え・・・そなた・・・ヒュウゴの手のものか・・・」

「・・・」

「だが・・・私は逃げぬ・・・私の逃げ場は・・・黄泉の国だけだ・・・この世にある以上・・・ラウル王子とやらに会ってみるのも・・・一興だ」

「・・・では夜のサービスになさいますか」

「だから・・・童貞なので」

「童貞用のメニューもございますよ」

「え」

夜が更けた。

ヒューゴはラウルに罪を問われる。

「なぜ・・・チャグムとやらにヨゴを見せたのだ」

「そのような命令は与えなかったはず」とクールズ宰相。

「ヨゴの今の姿を見せることが・・・皇太子を屈服させるのに最適と考えました」

「それで・・・皇太子は屈服したのか」

「それは・・・判じかねまする」

「ヒューゴよ・・・何故・・・それほどまでにチャグムに肩入れする」

「皇太子は・・・精霊を見る異能を持っています・・・その力は必ずラウル殿下のお役に立つものと考えます」

「ふふふ・・・迷信深いのお・・・そのようなものに頼らずとも世界を従えることはできるぞ・・・」

「・・・」

「まあ・・・よい・・・チャグムが役に立つものかどうか・・・明日、私がとくと見定めよう」

一夜が明けた。

チャグムはラウルの前に引き出された。

「チャグム皇太子よ・・・よくぞ参られた」

「ラウル殿下・・・お目にかかれ光栄です」

「チャグム皇太子よ・・・そなたの思うところを述べよ」

「ラウル殿下・・・あなたの心を伺わぬうちは・・・私に申し上げる言葉はございません」

「チャグム皇太子よ・・・そなたは己が今・・・どのような立場か御存じか・・・」

「ラウル殿下・・・私はどこに立っていても新ヨゴ国の皇太子であるばかりです」

「なるほど・・・では私から一つだけ尋ねよう」

「なんなりと」

「私に従う気はあるのか」

「ラウル殿下・・・あなたの心を伺っておりませぬ」

「くどい・・・話は終わりだ」

兵士たちは槍を構える。

「宮殿を私の血で汚すおつもりですか」

「血は洗い流せばよい」

「それは・・・無駄なことではないのですか」

「そうか・・・それではもう少し・・・時を与えよう・・・参るがよい」

ラウルはチャグムをバルコニーに案内した。

新ヨゴ国の国土がすっぽり入るかのような・・・帝都の威容。

「いかがかな・・・」

「言葉もございませぬ」

ラウルはチャグムに床に描かれた世界地図を披露する。

「新ヨゴ国にも世界地図はあるだろう」

「はい・・・しかし・・・このように正確なものではございません」

「初めて・・・世界というものを感じた時・・・どう思った?」

「世界はかくも広きものかと」

「私は世界の狭さに苛立った・・・征服するべき版図はこんなにも僅かなのかと」

「なぜ・・・征服をお望みなのですか」

「世界が一つであれば民はより豊かになるとは思わないか」

「しかし・・・民はもう充分に豊かなのではないですか」

「ヨゴ国には飢えて死ぬ民はいないのか」

「・・・」

「ヨゴ国には不作で子を売る親はいないのか」

「・・・」

「ヨゴ国には貧しいがゆえに盗むものはいないのか」

「・・・」

「私の国にはそのようなものはいない・・・」

「しかし・・・税は重く・・・厳しい兵役があると聞きます」

「税を重く感じるのも・・・兵役を厳しいと感じるのも・・・それは非国民だからだ」

「帝国の民であれば・・・すべては誇りに変わる」

「私にどうしろと言うのです」

「帝になるがよい」

「帝に・・・」

「お前はただ・・・帰ればよい・・・すでにヨゴのちっぽけな王宮には我が軍の手のものが入りこんでおる」

「なんですって・・・」

「今の帝は消え・・・お前が帝となり・・・我に従うだけのこと・・・」

「そのようなことはできませぬ・・・」

「なぜだ」

「帝は・・・ただ一人になられても・・・屈せぬお方です」

「ならば・・・我が軍が二十万ほどの兵を率いて進軍するばかり」

「二十万・・・」

「お前の国には兵と言っても一万ほどの人数があるばかりであろう」

「・・・」

「私は自ら軍を率い・・・帝も・・・お前の母親の妃も・・・お前の弟も・・・すべて骸とするだろう・・・帝の首は朽ちるまでしばらく晒しておく」

「なぜ・・・そのような惨い仕業をなさるのですか」

「そうするのに理由が必要なのか」

「・・・」

「では・・・お前に・・・決断というものを教えよう」

「決断・・・」

「為すべき時に為すということだ」

ラウルはチャグムを処刑場に誘う。

そこには全裸で吊るされたヒュウゴがいた。

「これは・・・どういうことです」

「このものは・・・お前に南のヨゴの地をみせ・・・要らぬ入れ知恵をしただろう」

「そんな・・・ヒュウゴは関係ありませぬ」

「では・・・この女はどうだ」

侍女が全裸で引き出される。

「この女は・・・お前に・・・何を申し出た」

「これは・・・罠でございましょう・・・すべてはラウル殿下の仕組んだこと」

「ほう・・・では・・・お前には無関係ということだな」

「・・・」

「処刑せよ・・・」

ヒュウゴに向けて衛兵の槍が繰り出される。

「お待ちくだされませ・・・」

「待つと何かが変わるのか」

「ラウル殿下に・・・私が忠誠を捧げます」

「どのようにそれを示すのか」

チャグムは膝を屈した。

「ラウル殿下の仰せのままに・・・」

「そうか・・・では・・・チャグム皇太子が帝となり・・・わが軍門に下るまで・・・ヒュウゴの命は私が預かるとしよう・・・」

すべてが茶番と知りつつ・・・命の恩人であるヒュウゴを殺すことは・・・チャグムには出来なかった。

バルサの教えが・・・チャグムを呪縛している。

「お前の力は見知らぬ民を守るためにこそ使え」

バルサの言葉は・・・チャグムにとって約束を違えぬことのできぬ師の教えなのである。

新ヨゴ国には・・・カンバル王のログサム(中村獅童) が訪れていた。

「皇太子の姿が見えませぬな」

「外交におでかけです」と帝(藤原竜也)に代わって聖導師(平幹二朗)が答える。

「ほう・・・どちらに」

「サンガル王国へと」

「なるほど・・・」

「手間を省こう・・・いくらほど用立てればよいのか」

「なんと・・・話が早いことだ・・・それでは新ヨゴ国のすべてをいただきたいものです」

「・・・」

「いや・・・戦をしようというのではありません・・・新ヨゴ国とはすなわち帝のこと・・・そのお心のままに差し出されるものを有り難く頂戴いたしたい・・・それだけのことです」

「真心の話ですか・・・」

「もちろんでございます・・・帝がいかほどの真心をお示しくだされるか・・・私はそれが楽しみでなりませぬ・・・」

二人の会話を・・・陸軍大提督のラドウ(斎藤歩)は舞踊家の踊りを眺めつつ盗み聞く。

果たして・・・この中に・・・タルシュ帝国の密偵は潜んでいるのだろうか・・・。

トゥグム(高橋幸之介)の教育係であるガカイ(吹越満)は幼い王子とともに庭にいた。

「立派な皇太子になられませ」

その言葉を二ノ妃が聞き咎める。

「どういう意味ですか・・・」

「いえ・・・チャグム様が帝になれば・・・トゥグム様は・・・皇太子になられますので」

「さようか・・・しかし・・・不謹慎とも言えますからな・・・お言葉には気をつけなされますように」

「肝に銘じまする」

ガカイは・・・恭しく礼をした。

チャグムは・・・サンガル王国の捕虜収容所に戻って来た。

チャグムの無事を喜ぶシュガ・・・。

「タルシュ帝国との交渉を行い・・・帰国の許しを得た」

「なんと・・・」

捕虜たちは全員解放され・・・サンガル王国の船が帰国用にチャグムに与えられる。

喜び勇む新ヨゴ国の海軍兵士たち・・・。

帰国船は出港した。

その後を・・・サンガルの戦闘船が追尾する。

「あの船は・・・送り狼ですか」とシュガは尋ねる。

「今夜・・・秘事を話す・・・ジンとモンを呼んでくれ」

狩人頭のモン(神尾佑)と狩人のジン(松田悟志)が船室に招かれる。

チャグムは経緯を話した。

「なんと・・・王宮に・・・すでにタルシュ帝国の手の者が入りこんでいるのですか」

「どこまでが真実かはわからぬ・・・」

「それで・・・殿下はいかがなされるのですか」

「私は・・・逃げようと思う」

「逃げる・・・」

「私もお供いたします・・・」とモンが申し出る。

「いや・・・モンは戻って・・・帝に報告するのだ・・・命令通りに私を殺したと」

「え」

「そうすれば・・・父は心おきなく・・・タルシュ帝国との戦に挑めよう」

「・・・」

「ジンとモンは・・・帝のお命をお守りせよ」

「殿下・・・」

「今宵・・・チャグム皇太子はモンに殺され・・・死体は海に投げ込まれる・・・」

「そんな・・・」

「私は泳いで・・・サンガル辺境の島になんとしてもたどり着く」

「えええ」

「ラウル王子から軍資金としてもらった財宝がある・・・これを金に換え・・・船を仕立ててロタ王国に向うつもりだ」

「・・・殿下」

「新ヨゴ国単独では・・・タルシュ帝国には到底・・・勝ち目がない・・・私はロタ王国と交渉し・・・なんとか援軍を引き連れて参る」

「ご武運を御祈りいたします」

「皆の者・・・帝をお守りせよ・・・頼んだぞ」

そして・・・チャグムは海に飛び込んだ・・・。

チャグムを守る精霊の力が淡い光を放つ。

精霊たちは南の大陸から北の大陸へと群れをなして移動を続けている。

その流れに導かれ・・・チャグムは夜の海を泳ぎ出す・・・。

裸祭りのフィナーレである。

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2017年3月 2日 (木)

月光院老いとなるまで憂き旅に(武井咲)

月光院は歌集「車玉集」を残している。

「かくばかり老となるまで憂き度に生けらん身とは思わざりしを」(このように老いてまで憂いばかりの人生になるとは思わなかった)という壮絶な歌を読む。

牢人の娘に生れて・・・将軍の生母になるという・・・この上なしの玉の輿に乗った女人としては・・・今なら炎上確実のつぶやきと言える。

しかし・・・将軍の側室となって四年目に未亡人となり・・・将軍の生母となって四年目に子に先立たれる。

夫と子を失ってから・・・三十数年の余命を生きた女の言葉としては・・・それなりに納得できるものがあるだろう。

ドラマでは・・・さらに・・・赤穂義士・磯貝十郎左衛門(福士誠治)の内縁の妻だったという玉の輿前の衝撃の虚構が付加されているわけである。

ここまで来ると・・・世にも奇妙な物語の系列と言っていいだろう。

将軍生母となった月光院はお付の御年寄・江島による「絵島生島事件」の脇役でもある。

そして「絵島生島事件」の後は・・・あまり物語られることはない。

しかし・・・次の将軍の後ろ盾として・・・その末期まで存在し続けるわけである。

ここまで来たら・・・そこまで見たい気分なのである。

まあ・・・そうなると・・・大河ドラマになっちゃうわけだが・・・。

で、、『忠臣蔵の恋〜四十八人目の忠臣〜・最終回(全20話)』(NHK総合201702181810~)原作・諸田玲子、脚本・吉田紀子、演出・伊勢田雅也を見た。きよ(武井咲)の人生の半ばであるが大団円に突入である。五代将軍・綱吉によって将軍世嗣と定められた甲府宰相・徳川綱豊(平山浩行)の側室・お喜世の方となったきよ。宝永六年(1709年)一月に綱吉が逝去して五月に綱豊は六代将軍徳川家宣となる。そして七月に左京局となったきよは家宣の四男・世良田鍋松を出産する。ドラマでは順序が脚色されるが・・・宝永七年(1710年)八月に大典侍(おおすけ)の方ことお須免(野々すみ花)の産んだ三男・大五郎が早世し・・・きよが産んだ子が唯一の将軍世嗣となってしまう。

「そなたの望みを叶えてやろう・・・」

このドラマではきよの願いは・・・亡き磯貝十郎左衛門(福士誠治)が願った「赤穂浅野家の再興」であった。

その願いは・・・内匠頭の実弟である浅野大学が赦免され五百石の旗本に列したことによってついに果たされる。

浅野内匠頭の正室・瑤泉院(田中麗奈)はきよの伯母である仙桂尼(三田佳子)を伴って・・・大奥に参上する。

「奥方さま・・・」

「左京局様・・・惧れ多いことでございます・・・そのように呼びかけられては・・・恥いるばかりでございます・・・どうか瑤泉院とお呼びくださりませ」

「・・・」

「左京局様のお力により・・・ついに悲願成就いたしましたこと・・・御礼申し上げまする」

「私などは・・・何もいたしておりまぬ・・・」

「いいえ・・・左京局様は・・・男たちの誰もが成し遂げられぬことをいたしました」ときよの母親・勝田さえ(大家由祐子)の姉である仙桂尼は言上した。

「・・・」

「公方様のお子をお産みになられた・・・それは女にしかできないことでございしょう」

仙桂尼は微笑んだ。

姉妹の父親は松平伊勢守康員(石見浜田藩主)の家臣・和田治左衛門と言われている。

夫のある身でありながら・・・加賀前田藩士の勝田玄哲(著邑)と駆け落ちした妹の不始末にどれだけ困惑したことか・・・という思いを秘めた仙桂尼なのである。

しかし・・・その妹の娘が大業を成し遂げたのである。

思わず笑ってしまうのだった。

そして・・・身内によるお祝いは続く。

父親で浅草唯念寺の住職となった勝田玄哲(平田満)と・・・念願が叶い士分に列した勝田善左衛門(大東駿介)と妻のつま(宮崎香蓮)、そして堀部安兵衛の従兄弟で、勝田家の縁戚でもある佐藤條右衛門(皆川猿時)が参上するのだった。

ドラマでは明らかにされないが・・・きよが将軍世嗣の側室となった時点で・・・つまり・・・五代将軍・綱吉の存命中に・・・勝田家は武蔵国と相模国に領地を持つ旗本寄合席にとりたてられている。

勝田善左衛門もしくはその兄弟は・・・勝田安芸守と呼ばれる三千石の大身となっているのである。

つまり・・・石高では・・・浅野大学の六倍の身上なのだった。

なにしろ・・・将軍世嗣の懐妊中の側室なのである。

建前としては矢島治太夫の養女であるきよだが・・・本当の実家にもそれなりの身分が必要とされるわけである。

何事もバランスである。

三千石の旗本ともなれば・・・それなりに家臣を持たなければならない。

おそらく・・・浅野家の旧臣も抱えたわけだろう。

妹の玉の輿によって・・・兄も大出世なのである。

とにかく・・・ドラマではその辺りの生々しいところはスルーなのである。

「おめでとうございます」と言上するしかない勝田一族だった。

将軍となった家宣は側用人となった間部詮房(福士誠治2役)と朱子学者の新井白石(滝藤賢一)の両輪によって・・・幕政改革を開始するのだった。

「生類憐れみの令」の廃止は手始めに過ぎない。

新井白石は朝廷との関係を良好にするために新しい宮家を創設し、酒税を減税し、幕府直轄領に増税し、朝鮮通信使の待遇を簡素化し、貨幣を改鋳し・・・と内政・外交ともに次々に新政策を打ち出したが・・・すべてが成功したわけではなかった。

そして・・・きよのつかの間の平穏な日々は・・・家宣の健康状態の悪化により・・・終焉を迎える。

後継者問題に悩む家宣は・・・次期将軍に・・・徳川御三家の一家・尾張徳川家の藩主・徳川吉通を推すことを考える。

しかし・・・白石はこれに反対する。

「血統がすべてです・・・将軍に実子があれば・・・これが後継するのが最上」と家宣を説得する。

御三家が招集され・・吉通も水戸徳川家の綱條、そして紀伊徳川家の吉宗も家宣の嫡子の将軍継承に賛同する。

正徳二年(1712年)十月・・・家宣は病床に・・・左京局を読んだ。

「公方様・・・お顔の色が艶やかでございますね」

「左京・・・そなたは嘘が下手だな」

「・・・」

「我が子の行く末をしかと頼んだぞ」

「公方様・・・私は・・・公方様に会う前に・・・一度死を覚悟した身でございます。そんな私に公方様は・・・お子を授けてくださり・・・母になる喜びを与えてくださいました・・・私にとって公方様は・・・光明そのものでございます。どうか・・・末永く・・・私を照らしてくださいませ」

「左京・・・明日も・・・余はそなたを呼ぼう・・・ゆるりと物語などしようではないか・・・そなたが最初に我が寝屋に参った夜のように・・・」

しかし・・・次の夜・・・左京局が召されることはなかった。

十四日・・・家宣は逝去した。享年五十一だった。

家宣の正室・近衛煕子(川原亜矢子)は大奥の女たちに告げる。

「公方様がお隠れ遊ばされた・・・まことにお優しいお方であらしゃった・・・」

近衛煕子は落飾して天英院となった。

須免(野々すみ花)は蓮浄院となった。

古牟(内藤理沙)は法心院となった。

そして左京局は月光院となった。

正徳三年(1713年)三月、鍋松は数え五歳で元服し・・・四月に将軍宣下を受けて第七代将軍・徳川家継となった。

月光院は・・・将軍生母となったのである。

江島は月光院付の御年寄として・・・大奥女中の一つの頂点にたった。

上には天英院付の上臈御年寄がいるが・・・そこには公家の空気が濃厚である。

武家の女としては江島が大奥のトップになったといっても過言ではない。

しかし・・・権力闘争の渦巻く幕府なのである。

大奥にもその余波は及ぶ。

前将軍正室の天英院と将軍生母の月光院との間には両者が好むとも好まざるとも関係なく軋轢が生じるのだった。

正徳四年(1714年)、江島生島事件により江島は大奥を追放される。

享保元年(1716年)、家継が逝去し・・・第八代将軍を吉宗が継承する。

天英院と月光院は手を携えて吉宗を推奨したという。

しかし・・・それはまだ先の話。

大奥の片隅で琴を爪弾く月光院の元へ・・・幼い将軍が現れる。

「母上」

駆け寄る愛児を抱きしめる・・・きよだった。

きよの人生はまだ半ばなのである。

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2017年3月 1日 (水)

よみがえる不死身の元地下アイドルの復活と夜更けの離婚(松たか子)

隣接する魔術界で古い友人が囁く。

涙売りの少女にはもう会いましたか。

昔の貴方は貴方でしたか。

今、子供たちが見上げた飛行機雲を宇宙飛行士が見下ろしている。

だけどパイロットにはそれが見えない。

気になっているのは計器類。

警告音が鳴り響いたら生と死の重なる時がくる。

青春の入口で胸は高鳴る。

青春の出口で吐息が漏れる。

青春の光と影が交錯する時に身体は揺れる。

人間には正面と背面がある。

それが人間だと言う人もいる。

しかし・・・誰にもわからないことはある。

ゾンビは生きているのか・・・それとも死んでいるのか。

古い友人に問いかけても彼が答えることはない。

で、『カルテット・第7回』(TBSテレビ20170228PM10~)脚本・坂元裕二、演出・坪井敏雄を見た。カルテット・ドーナツホールの第一ヴァイオリン・巻真紀(松たか子)失踪中の夫・巻幹生(宮藤官九郎)はチェロを脅迫の材料として世吹すずめ(満島ひかり)の身体をビニール・テープで拘束していた。コンビニ強盗の件が通報されることを惧れたからである。

その・・・少し前・・・。

第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)はドーナツ販売チェーン「ふくろうドーナツ」の倉庫に閉じ込められてしまった。

その・・・少し前・・・。

暖炉でパンツを燃やされた過去を持つヴィオラ・家森諭高(高橋一生)は元地下アイドルでライブレストラン「ノクターン」のアルバイト店員・来杉有朱(吉岡里帆)と「青い金玉の猿」を求めて雪の林を彷徨っている。

「私が見つけたら十万円もらっていいですか」

「見つからないと思うけど・・・アリスちゃんにはアルバイトがあるし・・・僕は今・・・無職だから」

「お金に困っているなら素晴らしいインターネットの世界のフリマアプリでチェロを売ればいいじゃないでか」

「売れるのかな」

「売れますよ・・・楽器って高いんでしょう」

「僕のチェロはそんなに・・・まきまきさんや別府くんのヴァイオリンは・・・きっと驚くような値段だと思うけど・・・」

「そうなんですか」

アリスの笑わない目に輝きが宿る。

その時・・・お約束でよろめいたヤモリは転倒して斜面を滑落する。

アリスは・・・ヤモリの落した財布をさりげなく拾い上げ・・・コートのポケットに潜ませる。

「ちょっと待ってね・・・今、素早く駆け下りたので素早く駆け上がるから」

「今・・・別荘に誰かいるんですか」

「今は誰もいないと思うけど・・・」

「私・・・向こうの方を捜してみます」

「あ・・・待って・・・アリスちゃん」

もちろん・・・アリスは待たない。

アリスの心は捕獲することが不確実な「十万円の青い金玉の猿」よりも・・・「驚くような値段のヴァイオリン」に向って一直線なのである。

アリスは「ノクターン」の専用車で別府の別荘にやってきた。

リビングルームに置かれたヴァイオリンケースを抱きしめる。

そして・・・もう一本を求めて階上の別府の部屋を目指す。

階段で鉢合わせするミキオとアリスだった。

まきまきのヴァイオリンを死守しようとしたミキオは・・・振り払った弾みでアリスをベランダから落下させてしまう。

「えええええ」

墜落したアリスの生死を確認するために・・・どうしても胸乳に耳を寄せる必要があったらしいミキオである。

アリスの心臓は停止していた。

あわてて携帯電話で119番に通報しようとしたミキオは恐ろしいほどの冷気に端末を取り落とす。

途方に暮れたミキオは別荘の玄関に戻ろうとしてまきまきと再会するのだった。

まきまきは・・・ミキオを心から欲していた自分自身に驚く。

下半身から欲情が迸るのだった。

「まきちゃん・・・」

「おかえりなさい」

「ただいま・・・」

「怪我してるじゃない」

「どうしたの」

「・・・転んだだけだから」

「包帯汚れてる・・・とりかえなくちゃ」

「大丈夫だよ」

「ミキオはいつもそういうけど・・・はぐれ刑事では転んで人が死ぬこともあるんだよ」

「・・・」

室内に戻る夫婦。

お茶の間は・・・今なら助かる可能性があるから救急車を呼んでという悲鳴に満ちるのだった。

もちろん・・・それは杞憂である。

レギュラー陣で唯一のアイドル担当が最終回前に死亡することなんてありえない。

包帯の交換を終えたまきまきはキッチンに立って・・・屋内が荒らされていることに気がつく。

「すずめちゃんに会ったの?」

「うん」

「すずめちゃん・・・二階にいるの?」

「うん」

「ちょっと・・・待ってて・・・様子を見てくるから」

ミキオの母親・巻鏡子(もたいまさこ)の監視要員であることが発覚して気まずくなっているすずめとの仲を修復しなければならないまきまきだった。

しかし・・・ミキオはまきまきを呼びとめる。

「どうしたの」

「すずめちゃんは・・・縛った」

「え」

「通報しようとしたから」

「通報?」

「お金がなくなって・・・浜松でコンビニ強盗をした」

「え・・・まさかスーパーマンが・・・」

「いや・・・スーパーマンは来なかった・・・お金をとって・・・肉まんの機械を倒しただけで・・・店員の人には怪我とかさせなかった」

「警察に出頭しましょう・・・きっと執行猶予がつくよ・・・私・・・家で待ってますから」

「・・・」

「待っていられるのがいやだったら・・・帰る場所だけは確保しておきますから」

「人も殺しちゃった・・・」

「え」

「さっき・・・」

ベランダからアリスの死体を確認するまきまき。

「逃げよう」

「え」

「二人で逃げよう・・・知っている人の誰もいないところで・・・大丈夫・・・私がなんとかするから」

「・・・死体はあのままで」

「だめ・・・ここに残してはおけない」

まきまきは寝袋を取り出した。

アリスは覚醒した。

不死身人間だからである。

少なくとも・・・魔性のものだよな・・・。

なにしろ・・・全身打撲で心臓停止でも・・・数分で復活するわけだからな。

人の気配に気がついたアリスは死んだフリをするのだった。

夫婦は・・・アリスを寝袋に押しこみ・・・「カルテットドーナツホール」の専用車に運び入れる。

「ちょっと待っててね・・・すずめちゃんと話してくるから」

ミキオへの愛の虜となったまきまきは・・・姿見で髪を整え・・・口紅をひく。

「すずめちゃん・・・ごめんね・・・今、解くことはできないの・・・本当は今晩・・・あったかいご飯を用意して待っているつもりだったんだけど・・・ちょっと出かけてくるから」

「ううあん・・・・ううああああああ(ダメ・・・いかないで)」

口にビニールテープを貼られたすずめは呻くことしかできないのだった。

「ごめんなさい」

「ううああん(まきさん)」

まきまきは思いこんだら冷酷で非情で一徹な女だった。

「ボクが運転するよ」

まきまきから車のキーを受け取るミキオ。

「助手席のドアを開けて」

しかし・・・窓だけを半開放するミキオ。

「ごめん・・・まきさんを巻きこむわけにはいかない。ボクはこの人とどこかで一緒に沈む」

「何を言ってるの」

「警察に聞かれたら・・・愛人と逃げたとでも言ってくれ」

状況に酔うミキオだった。

「ミキオ・・・待って」

走り去るカルテット車を・・・下半身に欲情の火がついたまきまきはノクターン車で追いかけるのだった。

必死にもがいて縛めを解き放ったすずめは・・・巻鏡子を電話で呼び出す。

「ミキオさんに会いました・・・すぐにタクシーで別荘に来てください」

軽井沢駅から鏡子はタクシーでかけつける。

「ミキオさん生きてます・・・別荘で待っていてください」

「すずめさん」

タクシーに乗り込んだすずめ。

「とりあえず・・・国道に出てください」

「はい・・・そこから・・・どちらに」

「とにかく・・・出てください」

「はい」

カーチェイスである。

三叉路で追いつきかかるまきまきは・・・横断歩道でイチャイチャする地元の高校生カップルに妨害されるのだった。

その頃・・・「青い金玉の猿」を捜索中のヤモリはオリエンテーリングのコントロール・フラグであるクイズパネルを発掘する。

「他人の介入を嫌うケーキは何でしょう」

「ホットケーキ!」

その頃・・・別府は閉じられたドアの外に「SOS」のメモを排出するが・・・メモは裏返り白紙になってしまう。

それから別府はクロスワードパズルを始めた。

「三人組はトリオですが四人組は?」

「カルテット」

懐中電灯の電池が切れる。

まきまきを振り切ったミキオはカルテット車をダム専用道路に乗り入れる。

車を降りたミキオはガードレールを展開し貯水池の淵に立つ。

「こわい・・・」

そこに死体を投げ込む算段をするミキオだった。

しかし・・・寝袋のチャックは内側から開く。

「痛い・・・」と呻きながらアリスは自分自身を解放し・・・運転席に着く。

作業用テラスから戻ったミキオは驚愕するのだった。

アリスは恐ろしいほどの無表情をキープしながら恐ろしいほどの運転技術で一車線をバックで走り去るのである。

明らかに魔性のものである。

「ダム」の表示を目にしたまきまきは車線を変更する。

前方からアリスを乗せたカルテット車が接近。

まきまきは停車して死んだはずのアリスを見上げる。

二人は同時に謝罪する。

アリスはポーカーフェイスでカルテット車を降りる。

「お返しします」

「はい」

カルテット車とノクターン車の交換のセレモニー。

ノクターン車に乗り込んだアリスは何事もなかったように走り去る。

我に戻ったまきまきは叫んだ・・・。

「夫はああああああああああ?」

まきまきとアリスは・・・シンメトリー・・・中身は同質なのである。

目的達成のために手段は選ばない女たちなのである。

アリスは林を彷徨うヤモリの元へと帰還する。

「アリスちゃん・・・どこへ行っていたの」

「ずっと猿を捜してましたよ」

すずめは周辺をタクシーで彷徨う。

そこへ・・・アリスとヤモリが乗ったノクターン車が通りかかる。

「イエモリさん」と呼びかけるすずめ。

しかし「軽井沢音頭」を熱唱中の二人には届かない。

「春の雪解け朝霧夜霧~ふるさとむすめ軽井沢~何の願いか天主堂~ヨーイサッサノヨイヤサノサ」

カルテット車で前進したまきまきは置き去りにされ自首しかかるミキオを拾う。

「生き返るとはね」

「彼女・・・まきちゃんのヴァイオリンを持ちかえろうとしてた」

「まあ」

「そういう人なの?」

「面白い子ですよ」

「・・・ふうん」

「東京に帰りましょう」

「・・・」

「何か・・・温かいものを作るから」

「じゃ・・・おでんで」

まきまきはコンビニに寄って買い物をした。

網を張って待ちかまえていたすずめ。

「行かないでください」

「ごめんね・・・私・・・まだ夫のことを好きなの」

「カルテットはどうなるんですか」

「私たち・・・まだ夫婦だから」

「私たちだって・・・同じシャンプーの匂いをさせてますよ」

「ごめん・・・私・・・どうしても今夜は夫に抱かれたいの」

「発情期ですか」

年上の女の性欲の前にすずめは屈するのだった。

見捨てられたすずめは別荘に戻る。

「まきさんも・・・別府さんも帰ってこないね」

ヤモリは正座で遅い夕食をとる。

すずめは・・・見捨てられた気持ちを抱きしめるようにチェロを奏でる。

「青春の光と影/ジョニ・ミッチェル」である。

見下ろす雲はアイスクリーム

見上げる雲は雨を降らす

上から下から雲を見ても

私には雲がわからない

何かを本当に理解しようとして・・・視点を変えたからって・・・無駄なのである。

人間が何かを理解できるなんてことはそもそもありえないのだ。

人間は神でも悪魔でもないのだから・・・。

一年ぶりに帰宅した夫のために妻はおでんを作った。

「美味しいね」

「おでんがおかずになるなんて不思議よね」

「二日目も美味しいし」

「カルテットのイエモリさんがね・・・二日目のカレーを食べないなんて一泊旅行に出かけて日帰りするようなもんだって言うのよ」

「面倒くさい人なんだね」

「そしたらすずめちゃんが・・・夜の間に食べてしまって・・・食べたい時に食べるのが一番美味しいって」

「真理だね」

「それから・・・別府さんは・・・子供の頃の仇名が幹事長で」

「なるほど」

「別府さんはヤモリさんに責められると袖をまくりあげすぎてタンクトップになっちゃうの」

「楽しそうだね」

「みんな・・・ダメ人間だけどね・・・ダメ人間同志が寄り添って・・・どうにかこうにかね」

「・・・」

「そうだ・・・柚子胡椒があります」

食卓は白昼の光。

台所は青白い光。

夫婦の光と影が交錯する。

「ワインもあるけど・・・やめておきますか」

「そうだね」

「あなたの冒険の話も聞かせてよ」

「マカロニサラダサービス券の争奪戦とか・・・」

「あ・・・柚子胡椒・・・」

「・・・おでんを食べ終わったら・・・本郷区役所の夜間受け付けに離婚届を提出して・・・それから警察署に出頭するよ」

「・・・」

まきまきは・・・ミキオが自分に性欲を感じないことを心底思い知るのだった。

二人でドアを閉めて・・・二人で離婚届を提出し・・・元夫婦は警察署の前で別れた。

まきまきは別府のことを思い出した。

まきまきは別府の書いたメモをハイヒールで踏みつける。

倉庫の中で別府は袖を肩までまくりあげていた。

カルテットは何事もなかったように「ノクターン」で演奏する。

アリスは何事もなかったようにカルテットに挨拶するのだった。

カルテットは食卓を囲む。

「お好み焼きがおかずになるなんて・・・」

「美味しいですよね」

腰を痛めた鏡子は別荘に留まっていた。

「治ったら・・・帰りますから・・・」

まあ・・・レギュラーメンバーだからな。

暖炉の前で・・・ミキオに贈られた詩集を手に持つ離婚して旧姓の早乙女真紀になった元まきまき。

「彼に奨められたんだけどね」

「そうなんですか」

すずめは早乙女マキを労わる目になる。

「彼の奨める映画も・・・この詩集もすごく退屈で・・・こんなにつまらないものを面白いと思えるなんて・・・面白い人だなあって思ったの」

「・・・逆転の発想ですね」

サオトメマキは詩集を暖炉の火の中にくべた。

暖炉はヤモリのパンツに続いて詩集を燃料として熱を発するのだった。

ロマンチックな男たちは女たちのリアリズムに唖然とするのだった。

そして二人の女は・・・楽器を奏でる。

奏者たちは音楽に身を委ねてひとつに融けるのだ。

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