メンタルヘルスに問題のあるスーパーウーマン桃子の恋(永野芽郁)
メンヘラはあらゆる迫害を許さない人々にとっては立派な差別用語である。
前提としてメンタル・ヘルス(精神の健康)という言葉があり・・・その維持のために通院が必要な精神が不健康な患者をメンヘラーと呼称した・・・一種の俗語であり・・・新語であると思われる。
キッドは精神や身体に問題のある人に対する言葉を狩る人々とは基本的に相容れない人格も保持しているがそういう狩人に同情的な人格も保持している多重人格者なので「キチガイ」「ツンボ」「メクラ」といった言葉の多用はある程度、抑制するが「メンヘラ」は浸透度から言って抑制するには微妙な言葉であると考える。
精神に問題のある人が・・・「私はメンヘラだから」と自嘲するセリフに削除を要求することは一種の「スティグマ」(否定的なレッテル貼り)の疑いがあるからである。
基本的に言葉を狩る人々には独善的で暴力的な体質を感じます。
一方で法的な問題もある・・・そもそも人殺しを為せるのは基本的に精神に問題がある人だとは思うが・・・精神に問題がある人の保護を前提にすると責任能力の問題が派生する。
言語道断な犯罪の実行者に責任能力の有無を問うのはなかなかに煩わしい問題である。
何も感じない人はスルーすればいいと思うが・・・このドラマは「ドタバタ」の中に・・・「善人とはなにか」という非常に哲学的な主題が見え隠れしている。
この構造によってもたらされる生温かいトーンが心地よい人とそうでない人がこの世にはきっといるのだろう。
犯罪を犯したメンヘラの九割が不起訴処分になるという過去の統計もある。
おそらく、いろいろな意味でもてあますからだろう。
おいおいおい。
で、『スーパーサラリーマン左江内氏・第8回』(日本テレビ20170304PM9~)原作・藤子・F・不二雄、脚本・演出・福田雄一を見た。今季の冬ドラマは主人公以外の脇役も含めて・・・様々な「夫婦」が描かれているし、レギュラーレビューにも登場する。大河ドラマ「おんな城主直虎」の主人公は「生涯お一人様」だが主人公の親である井伊直盛夫妻や主人公の初恋の人である井伊直親夫妻が重要なポジションを占めている。「A LIFE~愛しき人~」の主人公は独身だが幼馴染の壇上夫妻と三角関係である。「カルテット」はヒロインが夫と離婚する物語だ。「忠臣蔵の恋~四十八人目の忠臣~」はヒロインが赤穂浪士の内縁の妻から将軍の側室になる話。「精霊の守り人II 悲しき破壊神」には出番は少ないが帝と二ノ妃の存在は重要である。「下剋上受験」は中学受験の小学生を支える両親夫婦のラブロマンスである。・・・夫婦も様々なんだな。
多くの夫婦の中で馬鹿な亭主を支え続ける「下剋上受験」の深キョン妻と・・・左江内氏の暴力的なキョンキョン妻は・・・対極の存在のようにも見える。
しかし・・・本質的には・・・どちらも・・・幸せな夫婦にも見えるのだった。
仲良きことは美しいからである。
もちろん・・・夫側から見れば・・・深田恭子や小泉今日子が妻であるのなら・・・何の文句もないのである。
草サッカーチームの試合中に負傷者が発生・・・たまたま近くにいたスーパーサラリーマン左江内氏(堤真一)は救急車よりも早く病院に負傷者を搬送し無事を知らせるために競技場に戻ってくる。
「実は・・・残りの選手が十人しかいないのです・・・スーパーマンさん・・・出場してくれませんか」
「いや・・・そういうのはちょっと・・・」
「敵チームはライバル企業なんです・・・今・・・こっちが連敗中で・・・今日負けると上司に嫌味を言われます」
「それは・・・ひどい・・・わかりました・・・参加しましょう」
ゴールキーパーが命の危険を感じるスーパーシュートの連続で逆転勝ちである。
おそらく・・・脚本・演出家は・・・映画「少林サッカー」(2001年)が好きなんだと思う。
左江内氏の父・茂雄(平泉成)が八十歳(傘寿)の誕生日を迎えるにあたり・・・妹の真紀子(阿南敦子)と実家でお祝いをしようと約束した左江内氏は栃木の実家への家族旅行を妻の円子(小泉今日子)に提案するのであった。
「え~無理だね」
「そこをなんとか頼むよ」
「君だって・・・まだ係長って言われたくないから盆暮れ正月に実家に帰らなかったじゃない」
「今回は・・・妹と約束しちゃったし」
「ジミーチュウの新作バッグを買ってもらっても無理」
「買うよ」
「・・・仕方ないなあ」
「さすがだね」ともや夫(横山歩)・・・。
「ママの交渉術・・・勉強になるわ」とはね子(島崎遥香)・・・。
左江内氏の実家訪問のための激安コーディネイトに身を固める妻と子供たち。
「なんで・・・こんな安売りダウンなの・・・」
「ギリギリの家計で・・・贅沢しないでやってますをプロデュースよ」
栃木へ向かう車内では・・・左江内氏の母・春子(立石涼子)に対する子供たちの演技指導が行われるのだった。
「もや夫はママの作る料理で何が一番好きなんだいとばあばに聞かれたら?」
「どの料理も皆美味しいけれど・・・ラザニアです」
「よし・・・」
「ラザニアなんて家で作ったことないだろう・・・カレーとかじゃダメなのか」
「材料が揃わないことが大切なのよ・・・私が作ることになったら困るだろうが」
「ママのカレー激不味だものね」
「カレーを不味く作れるなんてある意味・・・天才だよな」
「それが・・・私を料理恐怖症にしたのです」
「次・・・いつもどんな朝ごはんを食べているんだい」
「毎朝・・・お味噌汁の匂いで目が覚めると・・・お母さんが大根を切る音が家中に鳴り響いて・・・」
「旅館の朝食」
「旅館の朝食のような朝ごはんがいつも食卓で僕を待っています」
「・・・」
栃木の左江内氏・・・左江内氏の母は笑顔で息子一家を迎える。
「今日はご馳走しますからね」
「いえ・・・お母様・・・私が」
「いつもママのごはんだから・・・今日はばあばのごはんが食べたいな」ともや夫。
「では・・・せめてお手伝いを」
「だめだめ・・・私がするから・・・ママは今日くらいのんびりしてよ」とはね子。
よく躾けられた子供たちだった。
誕生会が始ると・・・助けを求める声が聞こえる左江内氏だった。
金庫破りが大金を奪って逃走中なのである。
犯人の車を追跡する左江内氏。
前方に立ちふさがる人影が手で車を制するのだった。
「え」
逃げ出した犯人を弾丸よりも早く追いかける人影。
「ええっ」
犯人を捕まえた人影は片手で犯人を振りまわす。
「えええ」
左江内氏は声を人影に声をかけた。
「君は・・・スーパーマン・・・いや・・・スーパーウーマンなのか」
「あれま・・・あんたもかい」
スーパーウーマン桃子(永野芽郁)と出会う左江内氏なのである。
「僕以外にもいたとは・・・」
「私も・・・私だけだと思ってた」
「君は・・・どうやってスーパーマンに・・・」
「おばあちゃんが急にやってきて・・・年とって按配よくねえから・・・替わってくれって」
「・・・一緒だ」
「私・・・普通のOLなんで結構大変なんです」
「私もサラリーマンだ・・・トイレが長いって文句ばかり言われている」
「私も便秘だと思われています」
「・・・お互い辛いよね」
「でも・・・なんだか・・・ホッとしました・・・私だけじゃないんだなって・・・なんなら正義の味方同志で結婚しますか」
唐突な申し出に・・・逡巡する左江内氏だった。
しかし・・・酒に溺れていない左江内氏は浮気沙汰とは無縁なのである。
「妻子がいるんで」
「そうですか・・・そりゃ・・・そうですよね」
「じゃあ・・・またね」
飛び去って行く左江内氏の姿を・・・微妙な表情で見送る桃子である。
胸のマークは(モ)で・・・苗字の頭一文字の法則によれば・・・モーガン・桃子なのかもしれない。
桃子のモなんだろう・・・。
翌日は栃木県内の動物園「那須ワールドモンキーパーク」で家族サービスをする左江内氏。
「栃木県・・・ろくなところがないな」
「象が乗れる動物園は日本に五か所しかないんだぞ」
もや夫とはね子はゾウに餌をやってそれなりに楽しそうである。
「寒いんだよ・・・ゾウも灼熱のインドに帰りたがってるだろう」
「ここのゾウはラオスから来たんだ」
「サルだって・・・揃えればいいってもんじゃないだろう」
「ウーリーモンキー、シロクロエリマキキツネザル、コモンリスザル、オマキザル、ダスキーティティ、アビシニアコロブス、ブラッザグェノン、サバンナモンキーなど多種多様です」
「お・・・青い金玉の猿もいるのかよっ」
「います」
しかし・・・「声」に呼び出される左江内氏。
「しまった・・・車にサイフを忘れてきた」
「食事出来ないだろう」
「すぐにとってくるから・・・」
ビルの屋上で自殺しようとする桃子を発見する左江内氏だった。
「君は・・・」
「あ・・・左江内さん・・・」
「そうか・・・私の自殺しようとする気持ちが聞こえたんですね」
「なぜ・・・自殺なんか」
「左江内さんがサラリーマンなのに頑張っているのに・・・いやいややってる私がほとほと嫌になったというか・・・色々考えているうちに・・・自分なんか死んだ方がマシだと思えて・・・」
「え・・・なんだか・・・よくわからない」
「私・・・メンヘラなんです」
「メンヘラって・・・もんじゃに使うメンズヘラみたいな」
「知らないなら・・・いいです」
「私はもんじゃが大好きなんだ」
「自殺の話をしているのにもんじゃの話はちょっと・・・」
「私も・・・責任を負うのは嫌いなんです」
「よく・・・結婚できましたね」
「たまたま・・・好きになった人が・・・すごく強い人で・・・結婚するしかなくて・・・子供もできて・・・責任を負っているのかどうかもわからなくなって・・・いやいやでもやってるうちに慣れてしまって・・・責任が責任と感じられなくなって・・・桃子ちゃんもきっと・・・そのうち・・・責任を負ってない感じになりますよ」
「本当はヒーローとしての使命を自覚すべきなんでしょうけどね」
「使命か・・・責任より華々しい感じですね」
「左江内さんが栃木にいる間は自殺できませんね」
「もう・・・やめてくださいね」
「はい・・・なんだか・・・気持ちが楽になりました」
ラオス語で「満足」を意味する「ポーチャイ」というレストランで左江内氏を待ちかまえる円子。
「遅かったじゃない」
メニューには「ナシミーゴレン」もあるが子供たちはタイラーメンを食べている。
「真紀子さんにお金借りちゃったのよ」
「なかなかサイフがみつからなくて」
「罰ゲームだからね」
みそ田楽を用意している円子。
左江内氏はこんにゃくが苦手なのだった。
「え・・・お兄ちゃん・・・こんにゃく食べられるようになったの」
「最近、大好物になったんですよ」
嫌なものを無理矢理食べさせる調教プレーなのである。
実家に戻った円子に囁く春子。
「こんにゃくを食べるようになったんですってね」
「はい」
「優しいだけが取り柄のあの子だけど・・・もっと厳しく躾けてくださいね」
「はい」
春子の言葉に・・・亭主関白を装う茂雄の実態が窺われるのである。
真紀子の夫や・・・円子には見せない・・・左江内氏の実家の秘密が垣間見えるのだ。
再び・・・呼び出しのかかる左江内氏。
「ちょっと子供たちのドリンクを買ってくる・・・」
透視でアパートの一室を見た左江内氏は練炭自殺者を発見する。
またもや・・・桃子だった。
しかし・・・窓やドアは隙間だらけで・・・自殺に真剣さが感じられないのだった。
「また、死ねなかった」
「死ねるわけないだろう・・・君のしたことは部屋を暖めただけだ」
「まあまあ」
「なんで・・・そんなに死にたいの」
「左江内さんに優しくされて・・・幸せなまま逝きたくなって・・・」
「おいおい・・・」
「でも・・・私とか・・・左江内さんみたいに・・・本業があるのに・・・正義の味方をしているのは・・・凄いのかもしれないと思えてきて」
「そりゃそうだよ」
「バットマンなんて金持ちの道楽だし・・・スパイダーマンは学生だし・・・平成仮面ライダーなんてみんな遊び人みたいなもんだし」
「そうなんだ・・・」
「僕が東京に帰ったら・・・自殺するの」
「しないです・・・二回も自殺を止めてもらえて満足しました」
「・・・」
実家で痛飲した左江内氏は・・・帰りの車で爆睡するのだった。
「パパが家では亭主関白だとか・・・もや夫も嘘が上手になったわね」
「あざあす(ありがとうございます)・・・お姉ちゃんもパパがメシフロネルしか言わないかとかさすがだよね」
「どちらにしろ・・・こいつ・・・家に帰ったらヤキを入れないと」
左江内氏は寝ぼけて「円子・・・愛している」と叫ぶ。
円子は微笑んでアブドーラ・ザ・ブッチャーの必殺技「地獄突き」(四本貫手)で左江内氏を沈黙させるのだった。
こうしてもや夫は夫としての基本姿勢、はね子は妻としての家庭円満技術を会得していくのである。
まさに理想の家族なのだな。
フジコ建設営業3課のターン。
簑島課長(高橋克実)が「社内運動会・・・3課が仕切ることになりそうになんだよ」
「基本・・・持ち回りなのに・・・去年も3課だったじゃないですか」と下山えり(富山えり子)・・・。
「順番では2課でしょう」と池杉照士(賀来賢人)・・・。
「でも・・・大事なプレゼンがあるらしくて」
「うちはなし」と蒲田みちる(早見あかり)・・・。
「やりましょう・・・揉めるのは面倒ですから」
「左江内くん・・・」
「左江内というより・・・もはや仕方ない係長ですね」と池杉。
「去年の資料出して」
「はい」と仕方なく動き出す一同である。
こうして世界は回って行くのだ。
隠密社内交際中の池杉と蒲田のターン。
隠れ蓑として使われる左江内氏だが・・・簡単には離脱しない。
「この店は・・・焼き鳥が美味しいんだ」
居酒屋店員として登場する米倉(佐藤二朗)のコーナーに突入。
「とりあえず生で」
「生はありません・・・瓶で」
「じゃ・・・瓶で」
「喜んで」
「それから焼き鳥ね」
「焼き鳥はありません」
「じゃ・・・焼きとんで」
「焼きとんもありません・・・おでんならあります」
「じゃ・・・おでんで」
「よろこんで」
「後は・・・かきなべ」
「かきはありません・・・おでんなら」
「じゃ・・・おでんで」
「よろこんで」
「よろこぶな・・・」
「おでんしか頼んでいません」
「本当に仕方ないさんだなあ」
「もう・・・この店出ましょう」
かわいい帽子の謎の老人(笹野高史)のターンである。
「最近・・・馴染んできてるね」
「御蔭様で・・・それにしても他にもスーパーマンがいたとは」
「だって・・・君一人で日本全土は無理だろう・・・」
「ですね」
「外国にもいるしね」
「そうなんですか・・・じゃあ・・・僕は東京担当なのかな」
「まあ・・・そんなに厳密じゃあないけれどね」
その時・・・お呼びがかかるのだった。
建築中の高層ビルの巨大クレーンが倒れかかるのである。
左江内氏が支えるがクレーンの重量と力が拮抗し・・・空中で身動きが出来なくなるのであった。
そこに通りかかる小池警部(ムロツヨシ)と制服警官の刈野(中村倫也)・・・。
「おい・・・凄いことになってるぞ」
「大変だ・・・どうしましょう」
「これはきっと・・・映画の撮影だな」
「道路使用許可・・・出てません」
「じゃあ・・・大惨事だ・・・野次馬を避難させろ」
「みんな・・・危ないから・・・逃げて」
左江内氏も限界を感じ・・・巨大構築物の落下が開始する。
「ああ・・・もうだめだ」
そこへ・・・桃子が到着する。
「元気にしているか・・・心配だと思って」
「いや・・・全然心配してなかったよ」
「クソだな・・・とにかく・・・どこかの空き地にコレを降ろしちゃいましょう」
「そうだね・・・助かったよ」
忘却光線発動である。
「あ・・・」
「どうやったんですか」
「俺はね・・・ポッターと同じクラスだったから」
「え・・・ホグワーツ出身なんですか」
「え・・・ああ・・・ホグね」
「ロンとかハーマイオニーも一緒に・・・」
「え・・・ああ・・・ロンハーね」
無意識で嘘をつく小池刑事はハリー・ポッターシリーズもうろ覚えなのである。
「どうやったんですか」
局も曜日も越えて「勇者ヨシヒコ」シリーズのメレブが憑依する小池刑事。
例の効果音もやってくる。
「この呪文を唱えれば目の前のものが全てなくなる・・・私はこの呪文を・・・ナクナ~ル・・・名付けたよ」
「金曜深夜のやつだ~!」
思わずヨシヒコが憑依する刈野・・・。
「私にもかけてください」
「よし・・・勇者ヨシヒコと悪霊の鍵で覚えた呪文・・・シャクレナ・・・」
「ああ・・・顔がアントニオ猪木のようにしゃくれていく・・・」
一部愛好家は涙目である。
空き地にある土管に腰掛ける左江内氏と桃子。
「スーパーマンを仕方なくやっている左江内さん・・・かっこいいです」
「そうかな・・・」
「私も・・・そうしようと思っていたら・・・彼氏ができました」
「え」
メンヘラなのである程度、脈絡がないのである。
「好きな人がいても仕方ないって思って・・・冷たくしたら・・・告白されました」
「そうなんだ・・・じゃあ・・・もう自殺なんかしないね」
「するわけないじゃないですか」
背中を押されて土管からずり落ちる左江内氏だった。
漂う郷愁である。
いつもの朝・・・。
「洗濯してよ~」
「着るものないよ~」
「今日は・・・運動会の準備が・・・ママに頼みなさい」
「寒いから無理~」
「じゃあ・・・はね子・・・」
「洗剤の量とかわかんないし」
「じゃあ・・・もや夫」
「全自動洗濯機じゃないと」
「全自動洗濯機はダメよ・・・セーター縮むから」
「・・・」
日常は仕方なく続いて行く。
それを人は幸福と呼ぶのである。
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