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2017年3月22日 (水)

アリスとリスとレモンとパセリとコーヒーとミルクと死と乙女と黒と白とグレー(松たか子)

変則的な「精霊の守り人II 悲しき破壊神」と「おんな城主  直虎」を除くと2017年の冬ドラマのレギュラー・レビューもこれで終わりである。

珠玉の名作がラストを飾るのもなかなかに清々しい展開である。

視聴率的には*9.8%↘*9.6%↘*7.8%↘*7.2%↗*8.5%↘*7.3%↗*8.2%↗*9.5%↗11.0%↘*9.8%で平均視聴率が*8.9%という微妙な数字を残しているわけだが・・・まあ・・・そういう時代なんだな。

スポーツ中継延長で深い時間の方が視聴率が高かったり、最初と最後が同じというミラクルも達成している。

脚本・演出・音楽そして出演者が・・・相当なクォリティーであったことは間違いないだろう。

いろいろと含みを残した脚本のために・・・演出上のエラーである「時系列の不一致」が・・・「時系列の作為的な配置転換」という「奇妙な深読み」を始める視聴者も産んだりして・・・それだけ・・・お茶の間の妄想を膨らませる余地があった・・・ということだろう。

送り手側も「ミステリ」と言ったり、「ラブストーリー」と言ったり・・・見出しつけすぎの気配があったりもした。

終わってみれば・・・これは「人生の冒険の物語」であり・・・さらに言えば「心なき人々への警句」だったと思われる。

「ミステリ」で必ず「犯人」が告白するように・・・「ラブストーリー」で必ず「恋人たち」がキスするように・・・「人生」はチョロくないのである。

しかし・・・音楽を武器に冒険者たちは幸せな一時を過ごしていく。

コンサートでステージに空き缶を投げつけるような人でなしには・・・けして味わえない美しさとともに。

で、『カルテット・最終回(全10話)』(TBSテレビ20170321PM10~)脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰を見た。名もなきカルテットが結成された最初の冬の始りから・・・カルテットドーナツホールが活動休止に追い込まれるまでの冬の終わりまでを一つの話と考えれば・・・前回が最終回である。十四年前に早乙女真紀になりすました山本彰子(松たか子)という第一ヴァイオリンが逮捕され・・・公正証書原本不実記載等の罪とともに不審死した養父の毒殺疑惑が表沙汰となり・・・物語はボーナス・ステージに突入するのだった。

「美人バイオリニストはなりすましだった」「戸籍売買の闇~十四年間他人の名前で結婚まで」「夫は強盗犯!犯罪者夫婦の痴情のもつれ」「疑惑の女・・・養父殺しの謎」「賠償金二億円!加害者家族を搾り取った女の転落」「疑惑のバイオリニストと奇妙な共同生活・・・カルテットの色と金」「世界の別府ファミリーの御曹司が食いものにされていた!」「うそつき魔法少女もいた黒いカルテット」「証拠不十分・・・執行猶予で野放しにされる魔女の恐怖」・・・週刊誌やワイドショーを賑わす・・・山本彰子とカルテットドーナツホールである。

裁判を終えた山本彰子は壊れかけた洗濯機とともに・・・人目を忍び・・・ひっそりと暮らしていた。

夏・・・である。

麦茶を飲み干す山本彰子には白髪が目立つ。

担当弁護士が山本彰子のアパートを訪問する。

「執行猶予もついたことだし・・・音楽活動を再開してはいかがですか」

「・・・」

「やはり・・・皆さんの元に戻るのは無理ですか」

「あの人たちは・・・受け入れてくれると思います」

「では・・・なぜ・・・」

「これから・・・私がどんな演奏をしても・・・犯罪者のシューベルトや・・・疑惑の女のベートーベンになってしまうでしょう。・・・それでは聴衆を心から楽しませることはできないと思うのです。私には灰色の音楽しか残されていないのです」

「・・・」

「カルテットドーナツホールは私に・・・最高のひとときをプレゼントしてくました・・・もういつ死んでも構わないと思うほどに・・・だから・・・もう充分なのです」

山本彰子はすでに・・・灰になる覚悟だった。

軽井沢の別荘では・・・第二ヴァイオリン・別府司(松田龍平)とヴィオラ・家森諭高(高橋一生)、そしてチェロ・世吹すずめ(満島ひかり)が第一ヴァイオリンの帰還を待っていた。しかし・・・裁判終了後に山本彰子が消息不明となり・・・気分はグレーなのである。

やがて・・・軽井沢には二年目の冬が迫ってくる。

細々と営業を続けるカルテットドーナツホール・・・。

「お肉の日」のイベントで演奏するために・・・ゲストのヴァイオリニスト・大橋エマ(松本まりか)を迎えるのだった。

「リムジンじゃないんですね」

カルテットのワゴンに違和感を感じるミニストップちゃんである。・・・いつの話だよ。

第一話で道を訊かれた女子大生と路上キスをして存在をアピールしていたヤモリは今回は犬のマリコにじゃれつかれていた。

宇宙の長澤まさみと会話するまでになった高橋一生の爆発ぶりに長年のファンが涙目の最近である。

ヤモリを「ユタカさん」と呼ぶ・・・別府。

別府を「ツカサくん」と呼ぶ・・・ヤモリ。

もはや・・・ユタカとツカサの時代に突入なのである。

ハイテンションのゲスト大橋は・・・眠り姫のすずめに驚く。

そして・・・コスチューム・プレイに激しくテンションを下げるのだった。

ツカサは牛・・・ユタカは鶏・・・すずめはピンクの豚の着ぐるみ・・・そしてゲスト大橋はコックさんの衣装なのである。

「こんなんじゃ・・・演奏できません」

「人間なのに・・・」

「恥ずかしくないんですか・・・皆さん・・・椅子取りゲームに負けたのにイスに座ってるフリをいつまで続けるつもりなんですか」

辛辣な批判の言葉を投げかけて去って行くゲスト大橋・・・。

「くずもちを残していってくれた」

「いい人だったね」

「すみません・・・お肉の日の仕事しかとれなくて・・・」

ツカサはユタカとすずめを練習に誘うが・・・二人は多忙だった。

カルテットドーナツホールの活動拠点だったライプレストラン「ノクターン」は色々あって・・・割烹ダイニング「のくた庵」に模様替えしていた。

シェフの大二郎(富澤たけし)は板前に憧れていたらしい。

ユタカは給仕人として週七日勤務しているのである。

すずめは「不動産屋」が店じまいするために・・・新たなる資格を獲得するべく徹夜で勉強をするのだった。

「すずめちゃんに・・・徹夜は似合いません・・・すずめちゃんに相応しいのは・・・二度寝」

すずめは微笑むが眠らないのだった。

「みんなおかしい・・・狂っている・・・まともなのは僕だけだ」

ツカサはドーナツ販売チェーン「ふくろうドーナツ」を退職して・・・無職になっていた。

ツカサは正しいキリギリス・・・働きまくるユタカや・・・徹夜で勉強するすずめは間違ったキリギリスなのである。

山本彰子という人間を何も知らずに「蔑む商品」として消費する酷い世間が一方にあり・・・そんな山本彰子に関わったすずめやユタカを雇用し続けた優しい人々がいる。

世界の別府ファミリーの恥部となったツカサに対して・・・別府ファミリーは冷たいようにも思われるが・・・冷酷そうな弟も・・・犬に噛まれたツカサに絆創膏を貼ってくれる優しさを持っている。

そして・・・別荘には買い手がつかない。

グレーな軽井沢は・・・白い冬へと向っている。

そして・・・第一ヴァイオリン不在のカルテットは・・・ひっそりと息をひきとろうとしていた。

割烹ダイニング「のくた庵」のランチタイム。

ツカサとすずめは食事をしてユタカは給仕をしている。

「ここが・・・こんな風になっちゃったの・・・僕らのせいですよね」

「マスターは・・・和食に憧れてたみたいよ・・・僕も板場で修業しないかって誘われてるの」

「えええ」

そこにハイエナ雑誌記者が現れる。

「ちょっとお話よろしいですか」

「・・・」

「山本彰子・・・例の件で・・・何か話していませんか」

「何かって何ですか」

「死んだ父親代わりの男のこととかね」

「・・・」

「ほら・・・うっかり口をすべらせるってことあるじゃないですか」

「その件は不起訴になったじゃありませんか」

「あなたたちだって・・・彼女に利用されたわけでしょう」

「そんな人じゃありません」

「これ・・・最新号なんですけど」

雑誌記者は醜聞写真週刊誌「flash」のような「fresh」を見せるのだった。

そこには・・・男性と路上でコロッケを食べながら笑う山本彰子の姿が盗撮されていた。

見出しは「白昼堂々コロッケデート・・・疑惑の女のふしだらな日常」などとスキャンダラスである。

「ねえ・・・どう思います」

カルテットはショックを受けた。

長い春雨を食べながらユタカはつぶやく。

「真紀さん・・・幸せそうだった」

春雨を鋏で切ってもらいながらすずめは反駁する。

「道端でコロッケ食べたら誰だって幸せになりますよ」

「じゃあ・・・僕とコロッケデートする?」

だが・・・一番ショックを受けたのはツカサである。

「解散しましょうか・・・」

「おやおや・・・コロッケデートシンドローム発症か・・・」

「仕事もないし・・・すずめちゃんは勉強ばかりしてるし・・・ユタカさんは毎日働いているし・・・マキさんは名前を変えたって平気で生きていける人で・・・もう次の人生を歩んでいる・・・僕だけが・・・同じ場所でじっとしているんだ・・・僕も・・・もう自分の中のキリギリスを殺すしかないでしょう」

すずめは階段を駆けあがりヴァイオリンケースを抱えて戻ってくる。

「私は・・・預かったんです・・・マキさんが帰ってくるまで・・・この子と一緒に待っているって約束したんです・・・解散するなら・・・このヴァイオリンをマキさんに返さないと」

「じゃあ・・・返しに行こうか」

「場所・・・わかるんですか」

「うん・・・」

ストーカーとしての能力を全開にするツカサだった。

素晴らしいインターネットの世界の風景が目に見える地図で「コロッケデートの場所」を特定するツカサ・・・。

「あ・・・なんか・・・似てる」

「あ・・・郵便ポスト」

「あ・・・ここ」

アリの群れが巣食う団地に到着するカルテット車・・・。

山本彰子は玄関のドアに書かれたへたくそな落書きについて管理人に詫びていた。

「すぐに消しますから」

「最初の字を大きく書き過ぎているよね」

山本彰子は洗濯をしながら・・・弁護士に電話をかける。

「ええ・・・あの記事で・・・住所を特定されたかもしれません・・・はい・・・御面倒をおかけしてすみません」

洗濯ものを干す山本彰子の耳に届く・・・「Music for a Found Harmonium(見つけたハーモニウムのための音楽)」・・・。

山本彰子はおびき出された。

山本彰子は走った。

山本彰子はお約束で転んだ。

団地の広場で・・・トリオは・・・団地の子供たちをウキウキさせていた。

すずめは・・・山本彰子に気がついた。

演奏が止まる。

山本彰子は立ち去ろうとする。

演奏が再開される。

山本彰子は立ち止り振り返り・・・手拍子を打った。

「こんなへたくそなカルテット見たことないわ・・・」

「第一ヴァイオリンがいないから」

「よく・・・人前で演奏できたわね」

「じゃあ・・・あなたが弾いてみせてよ」

「・・・」

すずめは山本彰子の手をとった。

その手は・・・生活のために痛んでいた。

すずめは山本彰子の髪を見た。

白髪が目立った。

すずめは山本彰子を抱きしめた。

「別府さん・・・車をお願いします・・・マキさんを連れて帰るから」

ユタカは山本彰子を背後から抱きかかえた。

後ろから前からハグされて・・・身動きのとれなくなった山本彰子・・・。

ツカサはハグに参加したい気持ちをこらえて車に向う。

捕獲したキリギリスを逃がすわけにはいかないのだった。

別荘にカルテットが帰って来た。

「マキさんのことはなんて呼べばいいですか」とユタカは訊いた。

「マキで・・・」

すずめとツカサとユタカとマキ・・・カルテットは四人になった。

四人はチーズ・フォンデュを食べる。

「マキさん・・・コロッケデートの記事・・・読みました」

「あれは・・・デートではありません・・・あの方はお世話になった弁護士さんです」

「ツカサくん・・・安心してる場合じゃないよ・・・コロッケと弁護士・・・最高の組み合わせだよ」

「・・・」

「ごはん食べた後・・・どうします」

「練習しますか」

ウキウキと食事を終える四人だった。

「イエモリさんはどうしているんですか」

「元のノクターンで給仕をしてます」

「すずめちゃんは」

「資格をとるために勉強中です」

「別府さんは」

「無職です」

「・・・」

「別にマキさんのせいじゃありませんよ・・・一年前にも話したじゃないですか・・・音楽を趣味にするか・・・仕事にするか・・・仕事にすれば・・・泥沼だし・・・趣味にする時期が向こうからやってきたというか」とユタカ。

「仕事のない日に・・・路上で演奏したら・・・楽しいかもしれません」とすずめ。

「でも・・・僕は夢を見ていて・・・損したと思ったことはありません・・・夢を見てずっと楽しかった」とツカサ。

不在の間に死にかかっているトリオの病状に気付くマキ・・・。

「コーン茶飲みますか」とマキ。

「コーン茶もうありません」

「じゃ・・・コンサートしましょうか」

「え」

「軽井沢の大賀ホールで」

「ホールの前で?」

「いいえ・・・ちゃんとステージで」

「いささか・・・キャパが大きすぎるのでは」

「あら・・・私を誰だと思っているの・・・世間を騒がせたニセ早乙女真紀よ・・・疑惑の美人ヴァイオリニストなんだからね」

「でも・・・それで集まるお客さんは・・・僕たちの音楽を聴きに来るわけじゃないですよね」

「だけど・・・伝えることはできるでしょう・・・」

「好奇の目に晒されてもいいんですか」

「そんなの気にならない」

「一人でも・・・二人でも・・・伝えることができるかもしれない」

すずめは最初にマキに共感した。

「私だって・・・うそつき魔法少女だから・・・あの人は今に出られます」

「僕も・・・世界の別府ファミリーの恥ですから」

「僕だって・・・Vシネ俳優だし・・・それなりに」

ユタカはともかく・・・集客力に問題のないメンバーなのである。

「シーズン・オフだし・・・ハコは安く借りられるはず」

「ですね」

こうして・・・カルテットドーナツホールは単独で「mysterious strings night(ミステリアスな弦の夕べ)」コンサート・・・入場料3500円を開催することにしたのだった。

「真紀さんて・・・結局無実だったのよねえ」と和装の女将となった谷村多可美(八木亜希子)が呟く。

「どうですかねえ」ととぼける従業員のユタカ・・・。

別荘の内見中の俗悪な顧客がすずめに問い掛ける。

「この辺にあの女が住んでいた別荘があったんでしょう」

「今でも骨付きカルビ食べながらその辺の電柱を蹴り上げているという噂ですよ」

カルテットは世間を煽った。

カルテットのホームページは炎上した。

そして・・・マキの目論み通り・・・チケットは完売した。

ユタカは・・・客が持ってきた手紙を多可美から預かった。

「これなんですか・・・」

「カルテットドーナツホール宛ての手紙だけど・・・読まなくても損はしないよ」

「でも・・・せっかくだから」と朗読を始めるすずめだった。「私は一年前にあなたたちの演奏を聴いたものです。率直に言って最悪の演奏だったと思います。あなたたちは素晴らしい音楽が生れる過程でできたゴミです。ゴミ焼却場で燃やされた排煙のような存在です。あるいは火葬場の煙突から立ち上る煙と言ってもいいでしょう。自分たちがとっくに死んでいるのに気がつかない。燃やされて煙になっているのにまだ演奏を続けている。なぜ・・・そんな煙の分際で・・・カルテットなんて続けているのでしょう。私は五年前に奏者であることわ辞めました。自分が煙だと自覚したから・・・私は問い質したかった。何故・・・あなたたちは煙のくせに演奏し続けるのか。そこにどんな意味があるのか・・・と」

カルテットはコンサートの演奏曲を決め・・・練習を開始した。

あっという間に当日がやってきた。

慌ただしい別荘の人々・・・。

全員が音楽に囚われた服役者のようにボーダーを選択してしまう。

「かぶってますね」

「着替えますか」

「時間がありません」

「私・・・寝ぐせが」

「楽屋で直せます」

「どうせ誰もみていません」

「誰も・・・」

スズメの乙女心を踏みにじるツカサである。

ハイエナ報道陣が待ち構えるホール通用口。

寝ぐせを気にしながら・・・すずめは駆け込んだ。

盛況のコンサート会場。

「大入り満員ね」と谷村夫妻。

アポロチョコを持っている男は「ふたりの夏物語」を聴いている。

ゆかりの人々が集う夜である。

長身の白人男性にエスコートされてリムジンから降りるのは・・・ゴージャスなドレスに身を包み・・・右手の薬指に綺羅綺羅しいリングを嵌めた来杉有朱(吉岡里帆)だった・・・。

「アリスちゃん」と絶句する谷村夫妻・・・。

アリスは笑わない目で勝ち誇る。

「人生、チョロかった・・・アハハハハハハ」

一部お茶の間は万歳三唱し・・・他人の成功を妬み嫉むことに執着する人は「アリス死ね」と叫ぶのだった。

とにかく・・・「元地下アイドルアリスの不思議な旅」は見てみたいものだな。

「トイレに行ってくる」

「僕も」

ツカサとユタカが出て行った楽屋で・・・すずめはブランクを乗り越えるために痣ができるほど練習したマキに問い掛ける。

「一曲目・・・どうして・・・弦楽四重奏曲第14番にしたんですか」

「弦楽四重奏曲第14番/フランツ・シューベルト」は第二楽章が歌曲「死と乙女」と同じ主題であるために「死と乙女」とも称される。

「好きな曲だからだよ」

「真紀さんのことを疑ってきた人たちは・・・別の意味にとりそう・・・」

「そうかな・・・」

「なんで・・・この曲にしたの」

「・・・こぼれたのかな」

あらゆる言葉にはあらゆる意味がある。

すずめとマキの間でこぼれるのは「好き」なので・・・そのまま・・・「死と乙女」が好きという意味になる。

しかし・・・マキの次のセリフが謎めかせるのである。

「内緒ね」

考えようによっては・・・「殺意」を仄めかしたことになる。

すずめは・・・マキの言葉をしばらく考えてから微笑む。

それが・・・「殺意の告白」に対する「暗黙の了解」かどうかも明らかではない。

なにしろ・・・すずめは・・・マキが人を殺していようがいまいが・・・気持ちが変わるとは思えないほど・・・マキの心に寄り添っているのだ。

四人はステージに立った。

野次を飛ばすものもなく・・・静寂が彼らを迎える。

おそらく・・・客席にはただならぬ空気が立ち込めている。

だが・・・少なくとも何人かは・・・カルテットドーナツホールの奏でる音楽を聴きにきたのである。

その代表が・・・ショッピングモールで「ドラクエのテーマ」を聴いた中学生の二人組と・・・カルテットをこよなく愛したアリスであることは言うまでもない。

そして・・・カルテットに辛辣なファンレターを書いたと思われる帽子の女・・・。

とにかく誰かを蔑みたい人々は・・・思ったより好意的な客層にたじろいでいたのだろう。

そしてステージのカルテットは「死と乙女」を奏でる。

こっちに来るな

お前は情け知らずの魔物

私はお前のものにはならない

私には素晴らしい未来がある

そのおぞましい手で

私に触るな

自分を抑えることのできない悪意の持ち主が空き缶をステージに投げつけるという暴虐を行う。

しかし・・・音楽の神に身を捧げる奏者たちは目もくれない。

あの日からカルテットの冒険は始った。

カラオケ店の通路は出会いの場・・・。

「ずっと奏者を続けるの」

「音楽で食べて行くなんて・・・無理でしょう」

「二十年弦を続けたけど好きになれなかった」

「ずっと一人でチェロを弾いていたのでプロになるのなんて・・・でも・・・弾いていて楽しくなって・・・お客さんが喜んでるとちょっと嬉しくなって」

「届いたなって思うのよね」

「届けましょうよ・・・私たちの音楽を」

私のさしのべた手をとりなさい

美しく可憐な乙女

私はお前を苦しめたりはしない

私はお前を安らぎに導く

怯えることなど何もない

騒々しいこともない

あなたはただ安らかに眠るだけ

誰もが逃れられぬ運命に抱かれ・・・やがて灰になるのである。

拍手がわき上がる。

衝撃の告白を求めてきたもの。

誰かの無様な姿を見たかったもの。

音楽が嫌いなものは・・・憤りに支配されて席を立つ。

自分たちが・・・少数者であることに怯えつつ・・・理解できないものから逃げ出す。

怒りと恐怖は同じ魔物から生じるのだ。

カルテットはドラゴンクエスト「序曲/すぎやまこういち」から「冒険の書」へと道をたどりセーブを行う。

カルテットのユーモアに浮き立つ聴衆たち。

中学生たちはニヤニヤして・・・アリスは受ける。

そして・・・カルテットの必殺技「Music for a Found Harmonium」が繰り出される。

カルテットは乗りに身を任せ・・・帽子の女さえ手拍子をするのだった。

何故、続けるのか・・・楽しいからに決まってる・・・なのである。

奏者たちは夢中になり・・・聴衆たちの心は躍り出すのだった。

空気が揺れ・・・「何か」が届いて心が震えるので。

別荘ですずめが目を醒ます。

不安がよぎる。

もしも・・・夢だったらどうしよう。

キッチンにはツカサとユタカがいて調理をしている。

しかし・・・すずめの不安はおさまらない。

飾られた写真を求めるすずめ。

ホールでの記念写真。

カルテットの雄姿・・・。

間もなく二階からマキが降りてくる。

すずめは安堵して微笑む。

よかった・・・夢ではなかった・・・私たちは大きなホールでコンサートをしたのだ。

カルテットは冬を乗り切ったのである。

「ごはんできたよ」

「は~い」

すずめとマキは唱和する。

おかずは唐揚だった。

小皿にレモンをとるすずめとツカサ。

しかし・・・ユタカは二人のパセリに対する態度を咎めだす。

「見て・・・これは何?」

「パセリ・・・」

「あまり好きではないので」

「・・・好き嫌いの問題じゃないのです」

お父さんの言いたいことを代弁するお母さんのように囁くマキ。

「パセリ・・・いるでしょう・・・彩りを添えているでしょう」

「・・・どうすればよかったんですか」

「サンキュー・・・パセリ」と囁くマキ。

「そうです・・・サンキュー・・・パセリ」

「あ・・・」

「あ・・・」

「パセリいましたね」

「パセリ綺麗ですね」

「センキューパセリ」

「そう・・・それでよろしい」

しかし・・・高圧的な父親に耐えきれずはしゃぎ出す末の娘のように・・・すずめは唐揚にレモンをかけまくるのだった。

「え・・・なにするの・・・謀反なの・・・革命なの・・・テロなの」

「いえーい」

お行儀の悪いのがキリギリスファミリーの嗜みなのである。

軽井沢に春が来た。

「熱海・・・」

「花火大会の演奏なんて・・・どうなの」

「聞こえるのかしら」

「町長が金色夜叉を長々と」

「それは火花」

「とにかく・・・初めての遠征ですから」

「行こう・・・カルテット」

別荘は売りに出ているが買い手はまだつかない。

カルテット車を・・・リスが見送った。

カルテットはドライブを楽しむ。

アリスもリスも可愛いし、レモンとパセリは唐揚にかかせない、コーヒーにミルクも悪くない、乙女もいつか死ぬし乙女でなくなってからでも死ぬ、そして白黒つけないグレーだって楽しめるのが大人というものだ。

しかし・・・ガソリンの切れた車がエンストすることは間違いなし。

たちまち・・・迷い出す冒険者たち。

砂浜をパーティーは右往左往する。

「あっちですね」

「いや・・・こっちでした」

「迷ったね」

「こんな見晴らしのいいところで」

すずめは笑いをこらえきれない。

「すずめちゃん・・・どうして笑っているの」

「急ぎましょう・・・間に合わないかもしれない」

「みぞみぞしてきました」

カルテットを見守るものは・・・寄せては返す波・・・。

関連するキッドのブログ→第9話のレビュー

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コメント

キッド様、いつもステキな記事をありがとうございます。
最初からすべてが明らかで、すべてが謎…というキッド様の言葉が、このドラマを言い表していますね。
「真紀さんは怪しい女だって初めに言ったでしょ」と言われればその通り…あー、してやられました。
最終回はボーナスステージ。納得です~。
最終的には、みぞみぞさえも隠しネタ、という技を使ってきたような…すずめちゃんに「内緒」と言った時の真紀さんの表情、それに、あんな状況でもコロッケ食べて笑顔っていう。
手紙の主がノクターンの客だったのも、けっこう衝撃です。小さいハコでも、賞賛と非難があるんですよね。
一方で、欲しいものが手に入ったアリスはもうカルテットメンバーに興味もなく悪意もなく、拍手してくれる…

長々とすみません。キッド様のブログを読みつつ、すべての表現者は冒険者なのかな、なんて思いました。冬ドラマが終わって、少しノンビリできそうですか?お体にお気を付け下さいcherryblossom

投稿: なつ | 2017年3月23日 (木) 00時28分

yachtカイブツクンノトモダチハ?~なつ様、いらっしゃいませ~ヒロシクンデスyacht

お褒めにあずかり恐悦至極でございます。

様々な謎に満ちた物語でしたが
謎があるということがわかりやすいというところがポイントなのでございますよねえ。

何が謎なのかもわからないというのでは困ります。

唐揚にレモンをかけることが正しいとは限らないという問題に始り・・・パセリがたとえ添え物だとしてもそれなりに慈しむべきという解答で終わる。

ただし・・・キッドはパセリが大好物でございます。

ペペロンチーノなどにたっぷりパセリのみじん切りをふりかけて食べますと最高です。

センキューパセリでございます。

添え物のパセリが大量に残されて・・・そのままゴミとして処理されるのは・・・実に忍びないものです。

売れない演歌歌手の娘に生れて
血の繋がっていない暴力的な男に養われ
ヴァイオリンにすべてを捧げた青春時代を送り
大学卒業と同時に
ヤマモトアキからサオトメマキになった女。
男がなぜ死んだのかは藪の中・・・。

それはちょうどアリスのように笑わない目の女の誕生だったのではないかと妄想できるのでございます。

アリスのうらぶれた家族・・・。
地下アイドルとして
冴えない男たちと握手して
グッズを売りつける日々。
そして・・・炎上の果ての都落ち・・・。

アリスにとって・・・
カルテットは眩しい存在だったことでしょう。

しかし・・・アリスはカルテットの一員にはなれない。

たとえ・・・盗品売買が最終目標だったにせよ・・・
アリスがマキのヴァイオリンケースを抱きしめる姿には
愛があったような気がします。

だから・・・玉の輿にのりかけているにしても
カルテットのコンサートは
やはり眩しかったのでございましょう。

それは「希望」というものだと思われ・・・。

あの人たちに・・・私のことを覚えていてほしい・・・とアリスは心から願っていると思われます。

まもなく花冷えの季節でございます。

ご自愛くださいますように。

春は冒険・・・あけぼのだろう・・・。

玄関にリスが遊びに来たらいいですよねえ。typhoon

投稿: キッド | 2017年3月24日 (金) 01時52分

キッドさま

完走お疲れ様です。
こちらは読むだけなのですが、一緒に三か月を走り抜けたような気持ちで、楽しかったです。ありがとうございます。

死と乙女って初めて聞いたのですが、歌詞があるんですね。
オペラでしょうか。
キッドさんは音楽にも詳しいですねえ。

音楽といえば主題歌もよかったですね。
amazonで検索したら、mp3のダウンロードだけでCDは発売されていないみたいです。
テレビの音楽番組への出演も今のことろないですし、もったいないなあとばかり思います。

松たかこさんが今回なぜ起用されたのかな、と思っていましたが、FNS歌謡祭によれば、松さんのデビュー曲の作詞を坂元さんが担当されていたそうです。ご存知でした? 今日この日のためにずっと温めてきた縁だったんだ、とひとり感激しています。

アリスの人生、ちょろかった・・・!には爆笑しました。
すごいよ、アリスちゃん、すごい、と大笑いです。

楽しい三か月でした。ありがとうございました!

投稿: mi-mi | 2017年3月24日 (金) 12時32分

typhoonthunderaDayinOurLife~ mi-mi様、いらっしゃいませ~アタラシイナニカヲミツケルネェthundertyphoon

ねぎらいのお言葉ありがとうございます。
お茶の間とお茶の間で世界は結ばれておりますからね。
心は共にありですよ。

カルテットは「弦楽四重奏曲第14番ニ短調」を演奏したわけですがシューベルトがこれを発表したのが1824年。

一部に同じ旋律を持つ歌曲「死と乙女」の発表が1817年ですから順序としては「歌曲版」→「弦楽四重奏曲版」ということになります。

シューベルトは「歌曲の王」とも呼ばれるほど優れた歌曲の作り手でした。

「わらべはみたりのなかのばら」でお馴染みの「野ばら」とか・・・ある意味、「死と乙女」と同じ主題の「魔王」とかが有名ですね。

「歌曲」とはクラシック音楽的なジャンルの話で要するに歌謡曲でございます。

シューベルトはヒットソングメーカーだったわけでございますね。

「魔王」では・・・幼い子供の命が魔王によって奪われていくという幻想が描かれます。

「死と乙女」では・・・死神が乙女の命を奪っていく。

詩の中で「死」についての解釈には両論がございます。

「乙女が怯える死の恐怖」・・・つまり恐ろしさとしての死を捉える解釈と・・・苦しみからの解放・・・永遠の安息として死を捉える解釈です。

もし・・・マキが父を毒殺したとしても・・・それは憎しみによる復讐の殺人ではなくて・・・一種の安楽死だったという解釈も可能でございます。

まあ・・・世界はまだまだ安楽死には不寛容なものでございますが。

悪魔は安楽死こそ・・・究極の自由と考えますので。

主題歌を歌うカルテット・ドライブ・ヴァージョン。
素晴らしかったです。

松たか子のデビューシングルで五十万枚売れた「明日、春が来たら」でございますね。1997年の「第48回NHK紅白歌合戦」で歌手松たか子はこの歌を歌っています。あれから・・・20年か・・・。

アリス、かわいいよアリスでございましたねえ。

音楽と冒険の三ヶ月・・・良き冬の旅でした・・・。fuji

投稿: キッド | 2017年3月24日 (金) 22時51分

キッドさま

冬ドラマも終わってしまいましたね
今クールは左江内氏とカルテット
この2作品がとても印象的で
いつもとは違うドラマを見る楽しみを味あわせてくれた
充実したクールになりました
嘘の戦争も最終回が良かったので 一気に満足感が高くなりました

カルテット最終回の前日
1話を見直していたのですが 独特のテイストで頭の中になかなか入って来なかった脚本が最終回にしっかり繋がっていた事がわかりました
どの回を見直しても 新たな気づきがあり
放送が終わっても何度も味わえる珠玉の作品ですね!

ふだんは白黒をしっかりつけてくれないと
中途半端な気がして納得いかないほうなんですが^^;
グレーである事に妙に納得してしまうのは
やはり主題歌とリンクしているせいなのか 私がこのドラマのおかげで
ちょっとだけ大人のドラマの楽しみ方を知ったせいかもしれません

といっても
前回が実質 最終回だったとは感じる事が出来ずに
キッドさんのブログを読んで はじめて泣きながらごはん…
で綺麗に完結していたことに気がつきました
ピーンと張り詰められた最終回 の後

モラトリアムの延長なのかも知れないけれど
夢を追い音楽の世界で生きていこうとするキリギリス達
最高のハッピーエンド☆


自分も夢の世界を彷徨っていられるような
贅沢で極上な時間を過ごす事ができて
番組スタッフ キャストに
そして キッドさんに心からお礼を言いたいです

ありがとうございました(*^o^*)


投稿: chiru | 2017年3月26日 (日) 00時22分

cherryblossomシンザンモノ↘シッソウニン↗・・・chiru様、いらっしゃいませ・・・大ファンheart04

毎度のご愛読に感謝の言葉もございません。

いよいよ・・・冬ドラマのレビューも終了し・・・お彼岸も終わって・・・本日の東京は冷え冷えしておりましたが・・・春の気配が濃厚となってまいりました。

休養明けから・・・五年以上・・・連日更新を続けてこれたのも温かい励ましの言葉のおかげと思っております。

「左江内氏」の演出の人がついに・・・ゴールデンでなんとか通用するようになったというのも感慨深いものでしたな。

「銭の戦争」は・・・まあ・・・こういうわかりやすいエンターティメントもあってしかるべしと思う次第でございます。

いろいろあるからこそ・・・「カルテット」が味わい深い作品という位置になるわけです。

「カルテット」は脚本家が・・・いろいろと試してきたことが・・・一つの完成品になった・・・そう言えるほどの「ピーク」を感じさせるのですねえ。

「かわいそうな少年少女」
「おかしな夫婦」
「心の底から楽しい仕事」
「奇妙な家族の絆」
「悲喜劇のポエム」

そうした要素が見事に絡み合い・・・美しい音楽のように・・・素晴らしい絵画のように・・・胸に迫ってくるのです。

ああなんて・・・素敵なことでしょう。

見終わってしまえば・・・それまでのすべての場面が意味を持ってくる。

どこから見ても楽しめて・・・何度でも楽しめる。

そして・・・冬の軽井沢に誘われるわけです。

まあ・・・行っても・・・ライブハウス「ノクターン」はもうないわけですが・・・最初から実在しておりませんしね。

とにかく・・・夢をあきらめた人・・・夢を燻らせている人・・・これから夢を見る人・・・すべての人がそれなりに優しい気持ちになれる作品だったと言えるのではないでしょうか。

人生は冒険・・・そう考えれば・・・どんな苦難ものりきれる・・・かもしれない。

最後まであきらめなかった人は・・・勝ち負けはともかく・・・ワクワクドキドキできるでしょう・・・cherryblossom

投稿: キッド | 2017年3月26日 (日) 22時20分

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