将棋の女王によるチェスのナイトを用いたチェックメイト(仲間由紀恵)
好敵手である。
窮地に追いやられた敵のクイーンを・・・味方の騎士が・・・救出するという・・・チェスなのに将棋のような話なのである。
チェスも将棋も知らないという人のために念のために言っておくが・・・チェスは敵に殺された駒が盤上をただ去って行くのだが・・・将棋は敵に倒されても捕虜となるだけで・・・洗脳されて敵軍となって盤上に戻ってくるというゲームなのである。
将棋の駒に心があれば・・・敵が味方になり・・・味方が敵になるこの世の定めを・・・なんと思うのだろうか。
裏切り者のくせに・・・とか・・・仲間になれば頼もしい・・・とか。
冷徹非情に謎を解く杉下右京と・・・どんな人間も手駒にしてしまう社美彌子・・・。
二人の知的ダンスに・・・うっとりするしかないのだった。
で、『相棒season15 最終回SP悪魔の証明』(テレビ朝日20170322PM8~)脚本・輿水泰弘、演出・橋本一を見た。長い長い話である。しかも・・・登場人物の過去のエピソードが絡み合っているために・・・話は複雑である。ミステリ好きのための一話と言ってもいいだろう。二人のプレーヤーが一歩も譲らずに・・・最後の一手まで手の内を見せない好ゲームなのである。久しぶりに「相棒」でうっとりできたな・・・。
スパイ(工作員)と言えばジェームズ・ボンドことコードネーム007は英国のMI6所属である。米国にはCIAがあり、ソ連にはKGB(カーゲーベー)があった。日本には内閣府内閣官房内閣情報調査室があるわけである。いわゆる内調に警察庁のキャリアであった社美彌子(仲間由紀恵)は総務部門主幹として出向していた過去がある。つまり・・・日本版のスパイの一員だったわけだ。
「ロシアンタイムス」東京支局長という表向きでスパイ活動を行っていたヤロポロク・アレンスキー(ユーリー・B・ブラーフ)を巡る連続殺人事件で・・・国賊であるスパイの協力者を殺しの連鎖に巻き込んだ内閣情報調査室室長・天野是清(羽場裕一)は杉下右京(水谷豊)の追及で逮捕され収監されたが・・・今も裁判で係争中の被告人となっている。
杉下右京は・・・天野是清がなんらかの事情で・・・社美彌子を庇っているのではないかと疑っている。
ヤロポロク・アレンスキーは結局、米国に亡命した。
自称、ロマンチックな男・冠城亘(反町隆史)はヤロポロク・アレンスキーと恋に落ちた社美彌子がマリア(ピエレット・キャサリン)を出産した事実を胸にしまっているのだった。
つまり・・・かなり・・・複雑な前段があるわけである。
日本にスパイがいるなんて荒唐無稽な話だと思っている能天気な人々には少し難しいかもしれないわけである。
ふざけた顔でつまらないジョークを連発している米国人タレントがCIAのエージェントかもしれないなどとは・・・一般人は妄想しないものだからな。
おいおいおい。
そもそも・・・この局自体が親旧ソ連の牙城じゃ・・・もういいだろう。
心に「覗き屋」として変質的な歪みを抱え・・・杉下右京と冠城亘への偏執的な怨みを抱く警視庁生活安全部サイバーセキュリティ本部専門捜査官・青木年男(浅利陽介)は素晴らしいインターネットの世界のセキュリティーに対する甘さを露呈する冠城亘のパソコンに接触し、ハッキングのためのベースとしてバックドアを仕掛ける。冠城亘のパソコンを経由してピーピングトム青木が侵入したのは警視庁総務部広報課課長となっている社美彌子のパソコンだった。
青木は・・・Mのフォルダーに収められたマリアの画像にうっとりとするのだった。
青木の仕掛けたフォルダーの移動の悪戯に気付いた社美彌子はサイバーセキュリティ本部に相談する。
青木はハッキングの証拠を冠城亘のパソコンに残したまま・・・バックドアを閉じるのだった。
冠城亘は・・・元の上司である社美彌子のパソコンに対するハッカーとして嫌疑をかけられてしまうのである。
「冤罪です・・・第一・・・俺にはそんなハッキング能力はありません」
無罪を主張する冠城亘・・・しかし、部下の失策に・・・右京は「あることを証明するのは簡単ですが・・・ないことを証明するのは困難です・・・いわゆる悪魔の証明という奴ですねえ」と冷静に指摘する。
ここから・・・右京は可愛い部下の冤罪を晴らすために奔走するのだが・・・肝心の冠城亘にさえ・・・そう思われないのが人徳というものである。
やがて・・・未婚の警視庁キャリアに隠し子がいたという下世話な記事が写真週刊誌に掲載される。
冠城亘はますます窮地に追いやられる。
同時に・・・スキャンダラスな記事の主役となった社美彌子は女性キャリアに対して差別的な感情を持つ警視庁幹部に吊るしあげられる。
警視庁副総監・衣笠藤治(大杉漣)や警視庁刑事部長・内村完爾(片桐竜次)は「子供の父親」を追及するが・・・「プライバシー」を盾に口を割らない社美彌子なのである。
社美彌子をヤロポロク・アレンスキーの協力者として疑う法務事務次官・日下部彌彦(榎木孝明)には「よくやったと言いたいところだがやり方が粗雑だ」と叱責される冠城亘だった。
ロマンチックな冠城亘は「やったのは俺ではない」と社美彌子に直訴する。
ある意味・・・ものすごいピエロ・ポジションなのである。
なにしろ・・・謝罪している相手こそが事件の黒幕なのである。
一方・・・杉下右京は・・・「誰かに謎を仕掛けられたら挑まないわけにはいかない」と独自の捜査を開始する。
「マリア」の父親がヤロポロク・アレンスキーであることに言及する杉下右京に・・・ロマンチックな冠城亘は抵抗を感じるのである。
「俺には想像もつかないところから・・・真実を追求しているのでしょうが・・・社美彌子も人間だということを忘れないでください」
「想像もつかないなら・・・黙っていろ」
「・・・何様なんだ」
ここは上司と部下と言うよりは・・・超優秀な父親と不出来な息子の会話である。
「のってきましたね」と微笑む犯罪者出身の「花の里」の女将・月本幸子(鈴木杏樹)はニヤニヤするのだった。
なにしろ・・・今回の冠城亘はものすごくピエロであり・・・お茶の間の冠城亘応援団は・・・結末で苦い思いを味わうことになるわけである。
同性愛者であるために苦しい立場の警視庁警務部首席監察官・大河内春樹(神保悟志)はラムネを貪り食うのだった。
警視庁刑事部の参事官・中園照生警視正(小野了)は特命係に警視庁捜査一課・伊丹刑事(川原和久)と芹沢刑事(山中崇史)を配置する。
「週刊フォトス」の記者・風間楓子(芦名星)に「マリアの父親はヤロポロク・アレンスキーかもしれない」と伝えて反応を確認した杉下右京は捜一コンビに・・・風間記者の周辺調査を依頼するのだった。
やがて・・・風間記者の恋人・・・キング出版編集者の軍司森一(榊英雄)の存在が浮上する。
「警部殿の読み通り・・・軍司は東京大学将棋部で・・・社美彌子と先輩後輩でした」
「王手ですね」
「どういうことですか」と説明を求めるピエロ冠城亘・・・。
「つまり・・・これは・・・社美彌子の自作自演ということです」
「え・・・」
「情報を制するものは・・・世界を制しますからねえ」
やがて・・・「週刊フォトス」は「未婚の母の娘の父親はスパイだった」という衝撃記事を掲載するのだった。
再び・・・警視庁幹部は社美彌子を召喚する。
「もはや・・・プライバシーを盾にはできないよ」と衣笠副総監・・・。
「ヤロポロク・アレンスキーが娘の父親であることは間違いありません」
「由々しきことだ・・・」
「しかし・・・皆さんが想像しているような事情ではありません」
「何・・・」
「私はヤロポロク・アレンスキーに強姦されたのです」
「えええ」
当時の事情を知るものとして警察庁長官官房付の甲斐峯秋(石坂浩二)が現れた!
「私も驚愕した・・・しかも妊娠が分かり・・・出産すると聞いて唖然とした」
「しかし・・・中絶という選択もあったのではないか」
「生れてくる子供に罪はありませんから」
チェックメイトである。
けれど・・・セクハラ大王の内村刑事部長は下衆を極める。
「そんなこと言って・・・本当は和姦なんじゃないの」
だが・・・衣笠副総監は臭いものにふたをするのだった。
「諸般の事情を考慮して・・・この件は不問とする」
すべてはなかったことになったのであった。
「しかし・・・なぜ・・・彼女は秘密の暴露を・・・」とつぶやく
「ハッキングをされた時点で・・・自分の弱点の消滅を計画したのでしょう」
「公然の事実となれば・・・もはや秘密の意味はなくなる・・・」
「彼女は謎の解明へと私を誘い・・・まんまと目的を果たしたのです・・・そして君の罪はうやむやになった」
「・・・」
杉下右京の非情の調査によって自分が救われたこと悟る冠城亘・・・。
「しかし・・・ハッカーは誰なのでしょう・・・冠城くんの・・・パソコンに容易に接近できる人物が・・・結構・・・身近にいる可能性がありますね・・・ねえ・・・青木くん」
青木はじっとりと手に汗をかいた。
「右京さんを猟犬として使い・・・自分を守り切る・・・食えない女だ」
ロマンチックでピエロで負け惜しみの強い冠城亘だった。
社美彌子は愛するマリアのためにプリキュアの最新版ソフトを入手した。
マリアが・・・愛の結晶なのか・・・そうではないのかを証明するのは困難なのである。
愛国者と国賊の区別が曖昧なように・・・。
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